1人当たり街路樹 最多は江戸川区の8.9本 1本当たり維持管理費は1.5万円
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一般社団法人・東京都造園緑化業協会の「平成30年度東京都緑化白書」を基に東京都区市の街路樹の本数・維持管理費などを調べた。
「白書」は、「緑行政に携わる多くの関係者および都民の皆さんとともに東京都の緑行政の取り組みについて情報を共有化し、ともに東京の緑環境づくりを考えていく一助」(白書)とするため、東京都都市緑化基金の助成を得て各自治体に対するアンケート結果をまとめて発行されているものだ。
これによると、平成29年度末現在の都道、区道、市町道(島しょ部は除く)の街路樹総本数は1,115,885本で、内訳は都道等が59%、特別区が30%、市町が11%となっている。街路樹の維持管理費用は、総額で約111億円で、内訳は都道等が約5割、区道が約3割、市町道が約2割となっている。
街路樹本数を区市ごとに見ると、もっとも多いのは江戸川区の約61,000本で、八王子市の約38,000本、世田谷区の約25,000本、足立区の約23,000本、江東区の約18,000本、府中市と町田市の約16,000本、大田区の約11,000本、葛飾区の約11,000本がベスト10。
人口1人当たりの街路樹本数は、トップが約8.9本の江戸川区で、以下、千代田区の約8.1本、八王子市と稲城市の約6.7本、府中市約6.2本、多摩市の約5.3本などが続く。1人あたり最も少ないのは約0.7本の西東京市で、品川区、杉並区、豊島区、練馬区、小金井市、清瀬市が1本以下となっている。
維持管理費がもっとも多いのは江戸川区の約6.7億円で、約3.1億円の江東区、約3.0億円の葛飾区、約2.8億円の大田区、約2.6億円の足立区、約2.5億円の町田市などが続く。
街路樹1本当たりの維持管理費がもっとも多いのは日野市の約4.7万円で、以下、約3.7万円の北区、約3.5万円の武蔵野市、約3.4万円の小金井市、約3.4万円の台東区が続く。もっとも少ないのは1,498円の清瀬市で、3,442円の品川区、4,144円の武蔵村山市、4,085円の港区、5,619円の八王子市、5,185円の東村山市など10区市で1万円を下回っている。
人口1人当たり最多は千代田区の1,884円で、中央区の1,199円、多摩市の1,157円の3区市が1,000円以上。もっとも少ないのは清瀬市の12円で、品川区の32円、東村山市の61円、港区の86円、武蔵村山市の87円の5区市が100円以下。
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このデータからよく分かるのは、江戸川区の街路樹の多いのが突出しており、八王子市、世田谷区、足立区、江東区、府中市、町田市、大田区、葛飾区などが多いのは区。市域面積が大きいのもその要因の一つと思われる。1人当たり本数がもっとも多い江戸川区の約8.9本のほかでは、千代田区が8.1本と2位になっているのが注目される。
江戸川区の街路樹が多いのは、同区が長年にわたって緑化に力を入れてきた成果だ。同区は昭和46年に「環境をよくする10年計画」を策定し、平成16年には新たに「江戸川区みどりの基本計画」を策定。樹木数と公園面積の目標「区民一人あたり10本10㎡」を掲げ、取り組んでいる。
なぜ、江戸川区は緑化事業に力を入れているのか。その理由について、同区に37年間勤務していた千葉大園芸学部卒の海老澤清也氏が共著「街路樹は問いかける」(岩波書店)で、下水整備と一体的に道路整備を進めてきたこと、当時の中里喜一区長の街づくりに対する「決意」とそれを支えた土木技術職の「使命感」が大きいと記している。
そして、街路樹の管理に必要なのは、①行政目標②人員数③予算④技術力⑤使命感⑥発注だとしている。
区内の新小岩駅南口、平井駅、船堀駅、東大島駅、葛西駅などを歩くと公園・緑の多さがよく分かる。千代田区の街路樹の多いのは、区道もさることながら都道などが計画的に整備されてきたからではないか。美しい街並みのエリアが多い。
わが多摩市は平成30年4月1日時点で街路樹7,873本と遊歩道8,612本に区別しているためで、合計では16,485本となっており、実質的には1人当たり本数は約8.9本に達しており、江戸川区(同区が遊歩道を街路樹に含めているかどうかは不明)と肩を並べる。最近は、維持管理費を抑制するため、公園や団地の樹木と競合する街路樹を間引きしているとも聞く。
不思議なのは、区市によって1本当たり維持管理費の差が大きいことだ。最小の清瀬市の4,198円と最多の日野市の約4.7万円とでは10倍以上の開きがある。これほどの差が出るのは、各区市とも計画的に予算を計上しているはずで、単年度ではなく前後1~2年間の推移をみないと実態はつかめないのかもしれない。
例えば港区。港区の平成30年度の維持管理費は約2.2千万円だが、平成24~26年度の決算数字から計算すると1年度当たり約1.0億円となっている。
参考までに平成30年度の全区市の維持管理費約55億円を全街路樹約36万本で割ったら、1本当たり維持管理費は15,355円となった。関係者から街路樹1本の剪定費はおおよそ1万円と聞いている。これに植栽桝や低木などの整備費用を加えると約1.5万円くらいになるはずた。
街路樹にはこれだけの維持管理費がかかっていることをわれわれは知っておいたほうがいい。そして、その街路樹の価値を定量化、見える化する取り組みを関係者には行っていただきたい。
最後に、「これからの樹木の安全管理を考える」をテーマに令和3年3月1日に行われた同協会主催の座談会で語った同協会の山下得男氏の声を紹介する。
「我々造園業が培ってきた技術は世界に誇るもので、それは世界も認めていることですが、それが発揮できなくなっています。これを活用できるようにすることが社会にとっても有用であると考えています。それと、いくら健全育成していても、近接施工で根が切られてしまうことで、不健全になってしまう樹木が本当に多いです。欧米ではそうならないようルール化されています。日本にはそのルールすらないことを皆さんに知っていただき、これからに向けての仕組みづくりをしていかなければならないと思っています」
街路樹に関する記事は、「牧田記者のこだわり記事」(https://www.rbayakyu.jp/rbay-menu-kodawari)にアクセスし、「街路樹」で検索していただくと100本以上はヒットするはずなので、参照していただきたい。
江戸川区 小松川境川親水公園
船堀駅前
新宿、渋谷など都心5区の累計感染率は20%超 都のコロナ感染者
人口は令和4年1月現在。累計感染者は8月12日現在。このほか都外190,859人、調査中1,892人
都心部5区の感染者は5人に1人-東京都の累計コロナ感染者は8月12日現在、2,328,574人となり、総人口13,794,933人(2022年1月1日現在)に占める割合は16.88%で、新宿、渋谷、港区、中央、目黒の5区は20%を超えるなど5人に1人の割合に達している。
23区で累計感染者がもっとも多いのは世田谷区の171,244人で、以下、大田区の133,057人、江戸川区の128,442人の順。累計感染率のもっとも高いのは新宿区の21.85%で、渋谷区21.29%、港区20.96%、中央区20.23%、目黒区20.05%の5区が20%を超えている。もっとも低いのは16.54%の練馬区。23区の感染率は18.42%となっている。
市部の感染率は13.51%で、23区に隣接する調布市(15.42%)、武蔵野市(15.18%)、狛江市(15.10%)の3区が15%超となっている。
全国の感染率がもっとも高いのは沖縄県で、8月13日現在、累計感染者は416,722人となっており、人口416,722人(2022年7月1日現在)に占める割合は28.38%にのぼっている。
千葉大名誉教授・藤井氏など専門家20氏の声 建築ジャーナル特集「木を伐るな2」
一般社団法人 街路樹を守る会の代表で、千代田区議会の神田警察通りの街路樹イチョウ伐採決定に反対する活動を行っている愛みち子氏に月刊誌「建築ジャーナル」2022年6月号(6月1日発行)を頂いた。同氏が企画した特集「木を伐るな2」が約30ページにわたって掲載されており、ルポ記事のほか同氏など約20人の専門家がそれぞれの立場で活動・取り組みを紹介し、論陣を張っている。
特集は「木を伐るな2」であるように、同誌が最初に「木を伐るな」の特集を組んだのは2018年1月号だ。東京オリンピック開催決定を機に、電線地中化、道路拡幅などを理由に街路樹や公園樹木の伐採工事が次々と計画、実行されているときだった。
記者は、この特集の存在を知らなかったのだが、今年7月1日付の記事で「昨年、93歳で亡くなった生態学者の宮脇昭氏は『木を植えることは命を守ることだ』と語った。その伝でいえば、街路樹伐採は人間の命を奪うこと同じではないか。その是非を今回の問題は投げかけている。人を殺していいのかと」書いた。
宮脇氏が「木を植えよ!」(新潮新書)を著したのは2006年だ。それから12年後の2018年1月に「木を伐るな」の特集記事が掲載され、さらにその4年後に「木を伐るな2」が発刊されるということは何を意味するのか。「木を植えよ」と「木を伐るな」は同義語のようではあるが、「伐れ」「伐るな」の人間の二項対立に、物言わぬ街路樹が危機的状況に置かれている現状を反映しているのだろう。
特集記事全体に対する感想としては、筆者一人当たりの記事は写真を含めて1~2ページが多く、制度の概況紹介にとどまっているものも少なくないのでやや消化不良ではあるが、短い文章の中にきらりと光り、肺腑をえぐる言葉がちりばめられている。多くのことを学んだ。
日本庭園学会会長などを歴任した千葉大学名誉教授・藤井英二郎氏の、同行記者の質問に答える形で語る指摘がとくに鋭い。
神宮外苑の再開発計画で1,000本の樹木が伐採されることに対して、「絵画館に向かう芝生の両側にテニスコートをもってくるというのは、まったくだめです。この広がりこそ折下さんが狙っていたポイントで、それを台無しにする。こんな計画があっていいわけがない」「間違った剪定の仕方をおこなっているからお金がかかるんです。枝先を詰めるからよくない」「杜のスタジアム? うそだよ」「息も絶え絶え。今年の夏が越せるかどうか」などと辛らつだ。神田警察通りの街路樹については、「車道側は4.5m以上に枝を張らせればいいのです」という。大丸有の美しい街路樹についても「中国の纏足と同じ。人間として許してはいけない」と手厳しい。
首都圏の街路樹は藤井氏の「車道側は4.5m以上に枝を張らせればいいのです」とは真逆だ。樹高を電柱の高さ(12mが多い)より低く抑えるため、先端をぶった切っている。2階建て(約6m)と同じくらいのもたくさんある。
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樹木医で吉岡緑地の代表取締役・吉岡賢人氏は「所有者の都合によって樹木を植えたり伐ったりすることは自由であるものの、請負者に選択の余地はなく、ただ負け続ける宿命にある」と綴り、「街路樹の剪定管理において最も重要な部分はブラックボックスとなっており、ほとんどの場合において誰にも指摘されることはない。それぞれの樹木に登って作業した人間でしか知りえない情報が山ほどあるからで、遠目に見ただけで樹木の異常に気が付くことができる観察眼の持ち主は稀である」と書く。
皆さんはいかがか。記者はこれを読んで胸が痛くなった。ここ20年間というもの、取材などで街に出るときはいつも街路樹を眺めている。月に20日にして年間で240回、20年間で4,800回だ。電信柱のようにぶった切られているのに我慢がならず、「街路樹が泣いている」というタイトルの記事を書き始めたが、その数は数十本に及ぶ。
また、自ら居住する団地の樹木剪定も仲間らと行っているのだが、ひこ枝、徒長枝、ふところ枝、からみ枝などを伐るのにとどめ、強剪定はしないことにしている(仲間からいつも下手くそといわれるが)。
樹木剪定で学んだことは、樹木はほっといても美しい樹形を描き、よほどのことがない限り、2~3年で自ら修景するということだ。コロナ禍で樹木剪定が中止になったが、わが団地の緑は一層輝きを見せている。強剪定すればするほど、必死で生きようと狂ったように荒れる。人間と同じだ。
なので、多少は樹木や人を見る目はあると思っているのだが、「ただ負け続ける宿命」にある造園・剪定業に携わる人に悪態をついても思いを寄せたことはなく、「遠目に見ただけで樹木の異常に気が付くことができる観察眼」など持ち合わせていない。
ほとんどの人もそうではないだろうか。極端な例だが、二和向台の強剪定されたイチョウは枝葉をそぎ落とされているので、何の木か知らない地元の人がいた。街路樹に名札を付けている自治体も圧倒的に少ない。〝見ざる言わざる聞かざる〟は〝見せず言わせず聞かせず〟という意味に代わった。
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共著「街路樹は問いかける」(岩波書店)の著者・海老澤清也氏は「日本の街路樹は世界にも稀な哀れな姿である」と書き起こし、世界標準は「樹冠拡大」であるのに対し、わが国は「樹冠縮小」が基本であると批判する。また、米国は街路樹の経済的価値を数式化する「i-Tree」を完成させたと述べている。
「i-Tree」については小生も紹介したが、「日本の街路樹は世界にも稀な哀れな姿である」には驚いた。外国は中国・北京とモンゴルしか知らないが、目視した限りでは比較にならないほどわが国のほうが優れていると思った(中国は砂漠化に危機感を抱いており、緑化事業に力を入れているとは聞いたが)。
記者は最近、1991年に設立された日本景観生態学会の存在を知ったのだが、学会ホームページには「生態学、造園学、農村計画学、緑化工学、林学、地理学、応用生態工学、土木工学、建築学など、専門分野の異なる多様な研究者や技術者が『景観』をキーワードとして集まり、互いの視点を活かし合いながら意見交換を行ってきています」「景観は、今までにも増して急速に、また激しく変化し、そして、土地利用上の対立や生態的基盤の劣化が顕在化しています.今、そのような問題の解決に有効な土地利用や地域計画の手法、地域生態系の管理技術を確立し、それが活かされていくしくみを構築しなければなりません」とある。
このほか、1995年12月に設立された環境経済・政策学会もある。同学会の目的には「経済学、政策学および関連諸科学を総合し、環境と経済・政策の関わりについて理論的・実証的な研究活動、ならびに国際的な研究交流を促進する」とある。
これらの学会と行政、民間が連携して「世界にも稀な哀れな姿」を何とか打開してほしい。
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特集にはこのほか、仙台市建設局百年の杜推進部公園管理課施設管理係長・降幡賢太郎氏の「杜の都・仙台の街路樹について」、名古屋市緑政土木部緑地部緑地維持課緑化係長・篠塚泰伸氏の「街路樹再生なごやプラン」の取り組み、2020年に全国初の街路樹に焦点を当てた「埼玉県議会街路樹を考える議員連盟」を立ち上げた発起人・石川忠義氏の活動報告、千代田区議会議員・大串博康氏の街路樹保護と育成に関する取り組み、樹木医・冨田改氏の「日本の街路樹は2㎡足らずの空間に何十年も閉じ込められますが、欧米では12㎡の地中を確保して、街路樹の生育環境に配慮している」などの記事がある。
仙台市の街路樹が素晴らしいのは記者も実感している。来年4月に全国都市緑化仙台フェアが開催されるようだが、機会があったら取材したい。埼玉県内のみじめな街路樹をたくさん見ているので、議連の活動に期待したい。鋭い質問に区役所担当者をたじたじにさせ、街路樹伐採を決めた議会決定に瑕疵があることを認めさせたのも大串氏だ。
樹木医になるには、7年以上の実務経験のほか、日本緑化センターの研修も受けなければならず、樹木に対する知見だけでなくかなり高度な技術も必要と聞く。資格的には任意資格なのだろうが、国家資格に格上げしてはどうか。そうすれば、千代田区のように樹木医の診断を無視などできないはずだ。
気になることを一つ。全国の街路樹は圧倒的に落葉樹が多い。四季によって移り変わる景観をよしとする考え方が背景にあるのだろうが、街路樹は常緑樹がいちばんいいのではないかと思う。わが多摩市の街路樹は約1万本だが、うち2割近くはシラカシ、クスノキ、マテバシイ、ヤマモモなどの常緑樹だ。
街路樹伐採やめて 住民の監査請求棄却 千代田区監査委員 区のアリバイ作り追認(2022/7/1)
イチョウ伐採中止求める国家賠償・住民訴訟 千代田区で3件目/街路樹を原告にしたら
千代田区の神田警察通りⅡ期道路整備計画の議会議決は無効であるとする住民監査請求が先に棄却された千代田区住民は8月8日、道路工事を議決した議会決議は区の職員の虚偽答弁によるものであり、街路樹伐採は区の財産を毀損し、一連の行為は行政の裁量権を逸脱するものであるとして、千代田区を相手取って工事の中止などを求める住民訴訟を東京地裁に提起した。同様の訴訟は今回で3件目。
原告の住民は今年5月16日、千代田区議会が「神田警察通り二期自転車通行環境整備工事」議案を議決し、工事業者と交わした請負契約は地方自治法違反であるから工事を中止し、公金支出を差し止めるよう求めた住民監査請求を行っていた。これに対し、住民監査委員会は7月14日、議決の違法を基礎づけるような瑕疵は存在せず、議決に基づき締結された工事契約は、違法な契約の締結であるとはいえなとして、住民の訴えを棄却した。
今回の提訴について、原告女性は「伐採に反対するのは、自分の故郷を守りたいからです。区は『つなぐまち神田』として、『まち』『緑』『歴史』『文化』『人』のつながりを通して、まちの個性と魅力を価値へとつなげるまちづくりを目指すとガイドラインにも記載しています。しかし、環境まちづくり部は、住民の意に反して神田警察通りのイチョウを伐採することで『まち』『緑』『歴史』『文化』『人』を壊しただけでなく、私たち住民の関係性も心も全てを壊しました。街に『賑わい』があれば、地域の分断はどうでも良いのでしょうか。『人中心のまちづくり』を謳っていながら、なぜ地元住民の反対を押し切ってまでイチョウの生命を奪うのでしょうか。私たちは道路拡張工事に反対しているのではなく、一期区間のようにイチョウを残して道路整備をしてほしいだけです。なぜその方法を模索しないのでしょうか。私たち住民の決意も虚しく2本の伐採が強行され、依然伐採中止の決断がなされず毎夜の木守りを余儀なくされていること、住民間の溝が深まり続けていくこと、住民の意思が反映されないまちづくりが行われること、その全てに終止符を打つべく今回住民訴訟の提訴に踏み切った次第です」とコメントを寄せている。
同様の訴訟は他にもあり、地元住民ら10人は5月6日、街路樹伐採工事は違法として、樋口高顕区長を相手取り、工事代金の支払いの中止などを求める国家賠償請求訴訟を東京地裁に提起している。第1回の公判が7月12日に行われた。
もう一つは、7月11日、区民20人が工事費の支出差し止めなどを区長に求める住民訴訟を東京地裁に起こしている。
今後は、国家賠償請求訴訟については単独で、7月11日の住民訴訟と今回の住民訴訟を一つとして公判される模様だ。
◇ ◆ ◇
今年7月11日に行われた千代田区議会の企画総務委員会の議事録(未定稿)を読んだ。神田警察通り道路整備に関する早期実施、設計変更を求める陳情について論議するのが主なテーマだが、イチョウ並木の伐採に反対する関係者の神経を逆なでし、挑発するかのような区の部課長の発言が目立った。
「本会議でもご答弁申し上げたとおり…道路の附属物である街路樹の存在が『やむを得ない場合』には該当しないものと認識してございます」(須貝基盤整備計画担当課長)「樹木は、街路樹は道路附属物でございますので、先ほど課長から答弁申し上げたとおり、道路附属物として更新することが可能ですので、それをしていくということが基本だというふうに考えています」(印出井環境まちづくり部長)などと、約1時間の論議の中で6回、念仏のように「街路樹は道路の附属物」と語った。
街路樹が「道路の附属物」というのは法律用語ではあるが、伐採してしまえば元に戻らない、代替えができない性格を帯びている。今回、是非が問われているⅡ期工事のイチョウ30本は樹齢60年の成長段階にある樹木だ。これまで何度も書いてきたので繰り返さないが、更新が予定されているヨウコウザクラと比較してその効用・価値は全く異なる。
イチョウを伐採することは、企画総務委員会と本会議で多数決によって議決はされているが、議決に瑕疵があったことは企画総務委員会の委員長自身が認めている。
また、議事録では一方では「原則」を貫き、他方では「原則」を無視し、さらにまた、関係者の「声」をそのまま取り入れ、学識経験者の「声」は聞き置くだけとするなど一貫性・公平性に欠く発言を部課長は繰り返した。
記者は先日、三菱地所などが推進する社会実験「Marunouchi Street Park」(MSP)を取材した。素晴らしい取り組みだ。このオープニングセレモニーに出席した樋口高顕千代田区長は「Marunouchi Street Parkなどの先駆的な事例を参考にさせていただき…わが国だけでなく、世界に誇れるウォーカブルな街づくりを進める」と挨拶した。
国土交通省が令和4年3月1日にまとめた「多様なニーズに応える道路 ガイドライン(案)」でも、合意形成及び事業推進のためには、「『つかう側』の住民・事業者と『つくる側』の行政等が一体となった協働体制を早い段階から構築することが重要である。構想段階では地域住民や関係する事業者等に対し、まちづくりの将来ビジョン又は道路の将来像の実現に向けた基本方針を発信して、取組みへの理解を得ることが重要である」としている。
今回の区の担当部課長の答弁は、大丸有の街づくりと整合しないのは明らかだし、国の方針に背馳する。〝苦渋の判断〟でもって工事着手を決断した区長と議会の多数派の権力におもねる、卑屈で狡猾な小役人根性を露呈したと言ったら失礼か。民主主義は所詮数の暴力か。
戦争は平和なり
自由は隷従なり
無知は力なり
(ジョージ・オーウェル「一九八四年」)
◇ ◆ ◇
今回の一連の住民訴訟に接し、記者は五月雨式に住民が行政を訴えるのもいいが、いっそのこと街路樹を原告にして集団訴訟を起こしてはどうかと思う。
過去にそのような事例がないわけではない。1995年、原告を特別天然記念物の「アマミノクロウサギ」とする訴訟がある。裁判は負けたが、生物多様性を重視する意義は認められた。その後、同様の裁判は各地で提起された。米国では街路樹の様々な価値を定量化するモノサシも一般化しているようだ。
雨にも負けず
風にも負けず
雪にも夏の暑さにも負けぬ
丈夫なからだをもち
慾はなく
決して怒らず
いつも静かに笑っている
…
全国の街路樹と、街路樹をこよなく愛す皆さん、団結せよ!
丸の内仲通り ウォーカブルな街づくり「Marunouchi Street Park 2022 Summer」(2022/8/3)
イチョウ伐採に「精神的苦痛を受けた」 住民訴訟の第1回公判 原告が意見陳述(2022/7/12)
「見事」「素晴らしい」監査員弁護士 女性陳述を絶賛 街路樹伐採 住民監査請求(2022/6/11)
丸の内仲通り ウォーカブルな街づくり「Marunouchi Street Park 2022 Summer」
「Marunouchi Street Park 2022 Summer」イメージパース
大丸有エリアマネジメント協会、大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会、三菱地所の3者は8月2日(火)~9月11日(日)、社会実験「Marunouchi Street Park 2022 Summer」を丸の内仲通りで実施する。8月2日には小池百合子・東京都知事、樋口高顕・千代田区長、小林重敬・大丸有エリアマネジメント協会会長、吉田淳一・三菱地所社長などが参加したオープンセレモニーが行われた。
社会実験「Marunouchi Street Park」(MSP)は、2019年かから実施しているもので、今回は6回目。全長1.2㎞、幅員21m(車道7m+歩行空間各7m)の丸の内仲通りのうち行幸通りから馬場先通りまでの区間を「MSP Refresh Space(丸ビル前ブロック)」「MSP Music Restaurant(丸の内二丁目ビル前ブロック)」「MSP Garden(丸の内パークビル前ブロック)」の3つのブロックに分け、それぞれテーマを設けて社会実験を行う。
「MSP Refresh Space」は軽い運動や読書ができるリフレッシュ空間として、道路と歩道を一体的に活用した「みんなのライブラリーベンチ」を設置。利用者が「丸の内仲通りで読みたい本」を持ち込み、気に入った本と交換もできるようにしている。「こどもライブラリー」では、夏休み期間に子どもたちが楽しめるよう、絵本が子どもの目線に入るよう工夫されている。車椅子利用者も利用できる卓球台も設けられている。
「MSP Music Restaurant」は緑を感じながら、音楽と食事が楽しめる空間がテーマ。誰もが弾くことのできる「みんなのストリートピアノ」を設置。また、丸の内仲通り沿道に店を構える「GARB Tokyo」の特設屋外客席として、飲食を楽しめるようにしている。「みんなのテーブル」は、様々な素材・機能・形の椅子と机によって構成された丸テーブルで、子どもから大人、障害のある人まで、みんなが利用しやすいデザインとなっている。
「MSP Garden」は自然を感じられる丸の内の庭空間として、清涼感ある北海道滝上町産の和ハッカ精油を使用した香り付きドライ型ミストを設置しているほか、芝生でくつろげる休憩所「ごろごろベンチ」や充電スポットを設けたソロワークスペースを設けている。
オープンセレモニーに参加した小林・大丸有エリアマネジメント協会会長は、「ワークスタイルは、これまでの室内のワークに加え、外部空間にグリーンを配置し、まちなかで働くように変化している。Marunouchi Street Parkはウォークすること、ワークすることを促すための恰好の場所。空間的にも機能的にも日本のオフィス街のこれからのあり方を示していくために、さらに本格的なストリートパークの取り組みを実践していく」と語った。
続いて登壇した小池都知事は、「都は、『車から人』への街づくりのPark Street TOKYOの活動を後押ししている。この丸の内仲通りは、道路空間に緑を敷き詰め、ファニチャーも車椅子利用の人も楽しめる卓球台もある。いろいろな工夫を取り入れていることに敬意を示したい。東京を持続可能な都市へと高めるためにも、環境に配慮した取り組みHTP(H=House T=Tree P=Person)を進めていきたい。すぐれた環境での生活は安心、心地よさ、活力を与えてくれる」と述べた。
樋口千代田区長は、「本年6月、千代田区ウォーカブルまちづくりデザインを策定した。Marunouchi Street Parkなどの先駆的な事例を参考にさせていただき、千代田区内の道路を公園に、居心地のよい空間にする取り組みとして今年度は実証実験を展開していく」と話した。
実験では、サステナブル(持続可能)な空間作りを実践するため、都心の広場・公園的空間の在り方と運営管理方法、都市観光としての場づくりについて検証する。酷暑対策として一部にドライ型ミストを設置するほか、気化熱を利用して表面温度が下がるハイテク芝「COOOL TURF(クール ターフ)」を導入し、天然芝と人工芝(ハイテク芝)での表面温度について比較検証も行う。また、企業のプロモーションに使用できるPRスペースを設け、東京會舘などのキッチンカーに加え、「東京ステーションホテル」と「ザ・ペニンシュラ東京」も期間限定で出店する。
左から大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会理事長・矢澤淳一氏、小林氏、小池氏、樋口氏、吉田氏
「みんなのライブラリーベンチ」イメージパース
「GARB Tokyo」特設屋外客席 イメージ
丸の内パークビル前ブロック イメージパース
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このような取り組みが3年前から始まり、今回で6回目を数えることなど全く知らなかった。セレモニー会場となっていた丸ビル前の丸の内仲通りの車は遮断され、ベンチなどで〝占拠〟されていた。70年安保のとき、道路にバリケードを築き、歩道のレンガブロックを砕いて警官に投げる光景は日常茶飯だったし(小生はやっていない。そんな勇気はなかった)、道路占用許可を得て様々なイベントが行われているのは承知しているが、よくぞ警視庁は1か月以上も道路占用を許可したものだ(2019年は100時間限定だったそうだ)。
ここまでできるのは、三菱地所を中心とする「大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会」や「リガーレ(大丸有エリアマネジメント協会)」、三菱地所の活動があったからだろう。
協議会のその前身「大手町・丸の内・有楽町地区再開発計画推進協議会」が設立されたのは1988年。今では正会員66社・団体、準会員10社・団体、賛助会員9社・団体を数える。そして、2002年に設立された「リガーレ」は今年20周年を迎える。
三菱地所もまた、2020年から大手町・丸の内・有楽町エリアの街づくりを「丸の内 NEXT ステージ」として位置づけ、〝人・企業が集まり交わることで新たな「価値」を生み出す舞台〟構築を目指す「丸の内Re デザイン」の取り組みを加速させている。
今回もそうだが、同社はコロナ禍でもメディア向け見学会などを積極的に行っている。数えたわけではないがこの3年間で十数回に上るのではないか。デベロッパーの中で情報発信回数は飛びぬけて多いはずだ。
「みんなのライブラリーベンチ」
オープンセレモニー会場になった丸ビル前の丸の内仲通り
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街路樹について。読売新聞社は1994年、「新・日本街路樹100景」を編纂した。都道府県ごとに10景(計470景)を選び、その中から100景を厳選したものだ。関東圏では以下の17か所が選ばれている。
学園東大通り(茨城県つくば市)、昭和通り(茨城県ひたちなか市)、日光杉並木(栃木県今市市、日光市)、県庁前のトチノキ並木(栃木県宇都宮市)、前橋駅前通りケヤキ並木(群馬県前橋市)、いずみ緑道(群馬県大泉町)、国道463号線(埼玉県浦和市~所沢市)、東京外郭環状道路環境施設帯(埼玉県三郷市~和光市)、あすみ大通り(千葉県千葉市)、常磐平けやき通り(千葉県松戸市)、桜田通り(東京都千代田区)、表参道ケヤキ並木(東京都港区・渋谷区)、絵画館前イチョウ並木(東京都港区)、馬場大門ケヤキ並木(東京都府中市)、山下公園通り(神奈川県横浜市)、国道16号線(神奈川県相模原市)、東海道松並木(神奈川県大磯町)
記者はこのうち国道沿いの街路樹などを除いた12か所を訪ねたことがある。選定に異論はないが、いま選ぶとしたら、ケヤキを中心とする丸の内仲通りを真っ先に挙げる。単に街路樹が美しいだけでなく、周囲の高層ビルの公開空地や店舗などとしっくり溶けあっており、街の潤いと賑わいを演出している点からみれば、極めて稀有な事例だと思う。
もう一つ。ウォーカブルな街づくりについて。国は官民連携街づくりを推進しているが、道路や河川、公園などの占用許可制度を抜本的に見直し、もっと簡便な申請制度にすべきだと思う。そして、何よりも地域住民やワーカーのための街づくりであることを忘れてはならない。
ここでは詳しく書かないが、例えば千代田区の神田警察通り整備計画。樋口区長は、多くの住民の反対を押し切り、「苦渋の決断」として30本のイチョウ並木の伐採工事を強行した。街づくり協議会の原理・原則である公平性、公開性、独立性を無視し、地域のコミュニティを破壊した。
開発に伴う提供公園を含めた都市公園もしかり。コロナ禍で飲酒・飲食、喫煙を禁止し、どんどん利活用が難しくなっている。まったく利用されない都の都市公園は2割くらいあると記者はみている。実態調査を行ったら驚くべき実態が浮き彫りになるはずだ。
街路樹に溶け込むアート 三菱地所&彫刻の森 第43回「丸の内ストリートギャラリー」(2022/6/29)
壮大な街づくりの一環 501㎡の「新国際ビル」路地裏を多目的空間にリノベ 三菱地所(2022/5/27)
イチョウ伐採に「精神的苦痛を受けた」 住民訴訟の第1回公判 原告が意見陳述(2022/7/12)
リスト&リビタ 秋葉原のシェアオフィス「12KANDA」着工
イメージ図
リストグループのリストデベロップメントと京王グループのリビタは7月27日、神田のシェアオフィス「12KANDA」を7月1日に着工したと発表した。
物件は、JR秋葉原駅から徒歩5分、都営新宿線岩本町駅から徒歩4分、神田須田町2丁目に位置する敷地面積約352㎡、地下1階地上10階建て延べ床面積約1,944㎡。竣工予定は2023年11月。「12KANDA」として2024年1月に開業する予定。
2~10階はシェアオフィス、1階には飲食店を誘致し、B1階には小商いキッチン・スペース等を設置する予定。デザインは、新宿駅新南エリア一帯(コンコース・駅前広場・商業施設「NEWoMan」)などで知られるシナト(sinato)を起用する。
リビタの新築でのシェアオフィス開発への参入は今回が初で、「暮らしを自由にする」をコンセプトとしたシェアオフィス「12(ジュウニ)」を導入する。オフィス内にリビング、キッチン、イベントスペースなどの住まいの機能を備える。
最高に素晴らしい! 学生が経営する「アナザー・ジャパン」TOKYO TORCHIに開業
「アナザー・ジャパン」第一号店
三菱地所と中川政七商店は7月27日、全18名の学生が経営から店舗運営、プロモーション、接客販売に至るまで担当する47都道府県地域産品セレクトショップ「アナザー・ジャパン」の第一号店を東京駅日本橋口前のTOKYO TORCHI街区に8月2日開業すると発表した。開業を前にした同日、メディア向けに公開。店舗面積は約40坪。100社150名の報道関係者が集まった。
47都道府県を6つのブロックに分けた初回の企画展は「アナザー・キュウシュウ展」と題し、福岡県・長崎県・沖縄県出身の学生3人が自ら現地に足を運んで仕入れた地域特産品約350点を販売する。
テーマは「宴」で、商品を「乾杯」「宴席」「彩り」「装い」「お祭り」「贈り物」「余韻」のコーナーに分けて趣向を凝らしている。沖縄県出身の中央大学2年生の比嘉さんは、自ら作ったのか手書きの7つの『宴』を掲げながら「九州の楽しい文化を伝えたい」と各ブースを説明した。
アナザー・ジャパンのプロジェクトは、三菱地所がプラットホームを提供し、中川政七商店が小売業のノウハウを教育・メンターとして伴走する。2027年度には約400坪の第2期店舗もTorch Tower内に開業する。第2期には全国出身の学生が勢ぞろいし、アナザー・ジャパンのOB、OGは100名を超える予定。
最大の特徴は、店舗スタッフ18名が各地域の出身者で、学生をセトラー(開拓者)と名付け、ビジョン・競争戦略から仕入れ交渉、ディスプレイ、売上管理、在庫・シフト管理、SNS・サイト運営、プレスリリース、接客などを全て担当する。
それぞれ役割分担はあるようだが、基本的には上司も部下も昇格も降格もない。18人の第1期生は2021年12月に募集開始、約200名の中から選ばれた。2022年3月の顔合わせから、中川政七商店会長の講義の受講や研修・準備にトータルで2,640時間(一人当たり平均約147時間)かけたという。
2か月ごとに特集地域が入れ替わり、キュウシュウ展を皮切りにホッカイドウトウホク展、チュウブ展、カントウ展、キンキ展、チュウゴク展へと来年6月まで展開する。
プロジェクトを実践や資金面で応援する「企業サポーター制度」もあり、これまで46の企業が協賛、個人サポーターを募るクラウドファンディングは120名以上を達成している。
第1期生
床は吉野杉
記者が購入したのは右の芋焼酎
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この種のプロジェクトは多分わが国初だろう。素晴らしい!の一言だ。コロナ禍で、わずか40坪の店舗の内覧会に100社150人を動員できる企業・イベントなどまずないはずだ。上記の記事は、学生さんが作成したと思われるプレスリリースを忠実にコピペした。誤字・脱字は一つもないはずだ(あったら小生のミス)。
メディア対応もよかった。学生さんの写真を撮るのもインタビューするのも自由。何の制約も設けられていなかった。各企業もこれに学ぶべきだ。
そのうちの一人、慶應大学3年生の岡山県倉敷市出身の山本幸歩さん(20)に話を聞いた。山本さんは「もともと自分一人でやってきた〝カエリタイ〟プロジェクトと文脈的につながるものがあり、本気でやりたかったのでエントリーしました。今年4月から半年休学しました。郷土愛とフロンティアスピリットという共通の目標に向かう仲間と経営ノウハウやバランスを学びたい。社長? ありません。全員がエキスパートで、みんフラット。昇格も降格もありません。でも、赤字になったらプロジェクトが続けられるかどうかも分からない。2期生のためにも頑張ります。卒業? そのつもりです」と話した。
右が比嘉さん
山本さん
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顧客とのコミュニケーション対応も申し分なし。小生も少しはプロジェクトを応援しようと、鹿児島県の焼酎(300ml入り1,021円)を買ったのだが、担当の学生さんはどのような酒であるかを試飲などして学び、お客さんにきちんと説明できるようにしているとのことだった。
小生などは経営のことなどちんぷんかんぷんで、147時間の研修を受けたって350点の商品を覚えることなど絶対にできない。東京駅にいったらこの店に立ち寄ってワインなりビールなりを飲むことに決めた。
各大学にお願い。賞味期限がとっくに切れた、カビが生えたドグマにしがみつくだけの先生だって少なくないはずだ。このようなプロジェクトに参加して、現場で様々な社会学を学ぶ学生さんには単位をあげてほしい(そのような大学は多いはずだが)。大学の座学など社会人になったら何の役にも立たない。
各企業の人事担当の皆さんへ。小生が経営者だったら、このプロジェクト参加学生さんを最優先して採用する。
自然と共生するワークスペース「コモレビズ」実装した「ザ・パークレックス天王洲」
「ザ・パークレックス天王洲[the DOCK]」
パソナ・パナソニック ビジネスサービス(PBS)のファシリティマネジメント事業の一つ「COMORE BIZ(コモレビズ)」を実装した三菱地所レジデンスのワークプレース「ザ・パークレックス天王洲[the DOCK]」を取材した。
コモレビズは2017年から展開しているもので、ワークプレース[職場環境]を、科学的なエビデンスに基づきGREEN(緑化)、SOUND(音)、LIGHT(照明・灯り)、AROMA(香り・森林成分)など五感に訴えるバイオフィリックデザインを設計し、その効果を「見える化」するものだ。
「バイオフィリックデザイン」とは、1984年にアメリカの生物学者エドワード.O.ウィルソンによって提唱された「人間には“自然とつながりたい”という本能的欲求がある」という概念を具現化した、より自然な自然環境を取り込んだ空間デザイン手法のこと。
コモレビズは、このバイオフィリックデザインを採用。ストレス軽減につながる最適な「緑視率」10~15%という実証実験結果や独自の植物データベースに基づき、顧客企業のニーズに応じたオフィス空間を提供している。働く人と企業のウェルビーイングに貢献し、生産性の向上を促進するソリューションビジネスだ。
同社COMORE BIZ推進部部長兼事業企画チームマネージャー・和田えり子氏からレクチャーを受けた後、見学した。
これまで緑をふんだんに用いたオフィス・モデルルーム・ロジスティクスなどはたくさん見学している。優れたものを3つ挙げるとすれば、三菱地所ホームのボタニカルモデルハウス、積水ハウスの「SUMUFUMU TERRACE 新宿」、コスモスイニシアの総合マンションギャラリー「イニシアラウンジ三田」だ(三井デザインテック新本社が素晴らしいとは聞いているが見ていない)。
「ザ・パークレックス天王洲[the DOCK]」は、そのどれと比べても勝るとも劣らない。室内に入った途端、素晴らしい〝景観〟が目に飛び込んできた。執務用のデスクにはオリズルラン、アスパラガスナナス、エバーフレッシュが植えられており、水盤も配されていた。そして、スケルトン天井のどこかから小鳥のさえずり、足元からは虫の鳴き声が聞こえてきた。別のコワーキングスペースでは、白い壁に中木の枝が揺れ、チョウが舞う影が映し出された。雨だれの映像もあった。
これらを見学して、パナソニックの音響装置(Technics)・映像の技術が採用されていることがすぐわかった。
スピーカーは、天井部分ではなく床の造作の中にビルトインされており、そこから音をあちらこちらに反響させて、小鳥のさえずりは天井から、虫の音や川のせせらぎは床面から流れるように工夫されている。これは凄い。
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導入事例を十数か所紹介されたのだが、そのうち東京建物本社、ポラスグループ本社、ポラスグループ第一エネルギー設備、ミサワホーム高井戸展示場、大和ハウス工業総合技術研究所、総合地所「ルネ湘南茅ヶ崎」共用施設、総合地所「MID WARD CITY」共用施設、日鉄興和不動産「リビオシティ南砂町」共用施設など半数くらいがデベロッパー、ハウスメーカーだった。そして、コワーキングスペース「ザ・パークレックス 天王洲[the DOCK]」は三菱地所レジデンスだ。
これまでしつこいほどマンションモデルルームなどの観葉植物の〝フェイクを止めよ〟と書いてきた甲斐があったと思った。少しは記者の主張が受け入れられたと理解した。
東京建物本社
ENEOSホールディングス
Suita SST base
パナソニック(大阪本社総務)
ポラスグループ 第一エネルギー設備
ポラスグループ本社
ミサワホーム高井戸展示場
エム・シー・ファシリティーズ
オーク情報システム
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気になっていることもある。同社は全て本物の観葉植物を配置していたが、仮に①本物をフェイクだと思い込んでいた場合②偽物を本物と誤認していた場合③本物と偽物が混在していた場合④本物とフェイクの区別がつかなかった場合-これらのケースによってストレス軽減の効果はどう異なるのか、あるいは変わらないのかということだ。
記者の経験から言えば、明らかにフェイクと分かる植物と本物が混在していた時は、全てがフェイクに見え興ざめする。却ってストレスの種になるのではないか。
この問題については、三井デザインテックと職業能力開発総合大学校・橋本幸博教授によるオフィス空間における植物配置に関する共同研究があり、「人工植物や過剰な植物量、あるいは不具合な配置にすると、心理面以外に作業効率にも好ましくない影響を及ぼすことがある」と指摘している。詳細な研究を期待したい。
これに関連することだが、記者は2010年にサントリーミドリエを取材したことがある。同社はその2年後、中国資本と提携し、上海に合弁会社を設立した。いまホームページを確認したら社名は「トヨタサントリーミドリエ(上海)園芸有限会社」になっていた。トヨタ自動車も資本参加したようだ。
PBSはトヨタ自動車、パナソニックとエビデンスの深化に向けて共同研究を行っている。環境ビジネス市場は現在100兆円を突破しており、年率10%以上の伸びが予想されている。
ボタニカルが最高4つの商品・開発を発表 三菱地所ホーム(2018/5/30)
最高の〝働く場・接遇スペース〟 積水ハウス「SUMUFUMU TERRACE 新宿」(2022/2/17)
木漏れ日、渓流の音…イニシアの世界観を表現 総合ギャラリー「三田」(2021/7/30)
第一園芸 独自に考案したオフィス空間デザイン 三井デザインテック新本社に採用(2021/8/11)
わが意を得たり 人工植物は販売促進に逆効果 三井デザインテック調査研究(2018/9/25)
売上げ倍々増 これはヒットする サントリーミドリエ「パフカル」(2010/6/7)
記者の腕ではない「モデルがいい」 旭化成ホームズ 社内ベンチャーのイベント公開
「アトラス加賀」
旭化成ホームズは7月23日、旭化成グループの社内ベンチャーとして今年4月に設立したコネプラが展開している分譲マンション用の情報交換アプリ「GOKINJO(ゴキンジョ)」の入居者同士の交流イベントをメディアに公開した。
「GOKINJO」は、新会社設立に先駆けてクレヨンと共同開発し、「アトラス加賀」の入居者向けに2020年9月より実証実験として運用を開始しているもの。「GOKINJO」のプロジェクトリーダーであった中村磨樹央氏がコネプラの代表取締役に就任。デジタルとリアルを組み合わせ、コミュニティ形成などの課題解決取り組んでいく。
イベントが開催されたマンションは、2020年7月に竣工した都営地下鉄三田線新板橋駅から徒歩9分、板橋区加賀一丁目に位置する「アトラス加賀」(227戸)。旭化成不動産レジデンスが国有地の払い下げを受け、研究所としても利用されていた、三方が石神井公園・加賀公園・板谷公園という恵まれた立地で、坪単価は290万円だった。
未就学児と思われる子どもたちは、世界一生産・消費量が多いと言われるわが国の傘について説明を聞き、ビニール傘を組み立てる作業に夢中になって取り組んだ。
傘の組み立て作業(「アトラス加賀」の集会室で)
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交流イベントは、この種の入居者向けイベントとどこが違うのかよく分からなかった。参加者の写真撮影が許されたので、ならば徹底してきれいな美しい写真を撮ることに方針を切り替えた。冒頭と前段の写真がそれだ。参加者のお母さんに「いい写真でしょ。カメラは最悪ですが、私の視点はいいでしょ」と同意を求めたら、「モデルがいいわね」と一蹴された。それにしても、何と子どもたちの可愛いことか。お父さん、お母さん、そしてコネプラもこの子どもたちをまっすぐに育てて。
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取材を終え、帰ろうとしたら「牧田さん、何しているの? 鹿島の小林です」と声を掛けられた。RBA野球大会に参加している鹿島建設のエースでも主砲でもないが、フルマラソンを3時間19分で走破した大記録の持ち主で、チームには欠かせないキャラクターの小林選手だった。
「買ってから相当値上がりしている。野球? キャプテンの中原は異動。野球はちょっと難しいかも。エースの遠藤? 分からない。わたし? 子どもが2人。4歳と2歳。子育てに忙しいので…。甲子園を目指す」と、どこに行くのか、電動自転車に子どもを乗せて駅方面に向かっていった。
小林さんよ、いい選択だ。でも、あなたは自社分譲の「加賀レジテンス」を知らないだろうね。2007竣工だから15年前だ。まだ学生か。当時、坪単価250万円だった。
小林さん、業界関係者の皆さん、近く分譲される東急不動産・日鉄興和不動産の十条駅前再開発タワーマンション「ダ・タワー十条」(578戸)の価格をご存じか。記者は卒倒するほど驚いた。城東もそうだが、足立・北・板橋の城北3区はマンション市場をかき回すことになるかもしれない。
〝お父さん、暑いよ、変なおじさんと関わらない方がいいよ、早く行こうよ〟小林選手
鹿島・小林尚平選手 東京マラソン3時間19分の大記録! 日本記録・大迫抜く(2019/3/3)
多様な価値観生かせる多摩ニュータウン 多摩市市制50周年 コンセプトムービー
コンセプトムービー「らしさがうまれる。多摩ニュータウン」トップ
多摩市は7月23日、市制50周年イベントの一環として多摩ニュータウンのコンセプトムービー「らしさがうまれる。多摩ニュータウン」を公開した。
入居開始から50年が経過し、長く住み続けたいと考える人が多い街でありながら、高齢者が多い街というイメージが先行する課題に対応するもので、多様な価値観をもった若い世代が活動する街でもある多摩ニュータウンをアピールするのが狙い。
今後はUR都市機構をはじめ、多摩ニュータウンと関わりのある民間企業の協力を得て発信していくという。動画はYouTube(https://youtu.be/IcfdtyKzSBM)で閲覧できる。
市は、2020年10月に行ったアンケート調査(サンプル数1,300ss)によると、多摩ニュータウンへの関心がある、訪れたいと考える人は20代、30代がほかの世代に比べ高く、「豊富な自然や美しい公園がある」というイメージが全世代に共通して高い結果が出ているとしている。
多摩中央公園(駅から徒歩4~5分でこんな素晴らしい公園など他にない)
落合-鶴牧の富士見通り(歩車分離がよく分かる)
これはURの賃貸か
「プロムナード多摩中央」(1階は多目的に利用できるαルーム付きとして話題となった)
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遅きに失した感はあるが、結構な取り組みだと多摩市民の記者も思う。バブル崩壊後に〝オールドニュータウン〟などと揶揄されたのに対して、事実に基づく反論を怠ったのが今日の事態を招いたと思う。
ここでいくつか問題提起。アンケートの結果では、若い世代ほど多摩ニュータウンへの関心は高いというが、そもそも多摩ニュータウンを知らない若年層がどれくらいいるのか、これを調査しないといけない。かなりいるはずだ。
似たような街、例えば港北ニュータウン、千葉ニュータウン、つくば学園都市、流山おおたかの森、柏の葉キャンパスなどと比べてどうか。港北や千葉、つくばとは互角かもしれないが、流山や柏の葉には圧倒的に負けるのではないか。
流山市は、井崎義治氏が平成元年に市長に就任し、それまでの長老政治を劇的に変えた。平成22年度から発信した「母になるなら、流山市。」のキャッチコピーが話題になったように、子育て世代向けの政策を充実させた。今では人口増加率、地価上昇率などは全国トップクラスだ。
柏の葉も、三井不動産は東大や千葉大、市との官学連携に積極的に取り組み、が次々と新機軸を打ち出している。
多摩市はどうか。阿部裕行市政は、5年前から「健幸都市(スマートウェルネスシティ)」を前面に打ち出した。「健康」と「幸福」を掛け合わせたものだが、〝母になるなら、父になるなら〟のような具体性に欠ける。(この前の第4回目のワクチン接種で帰りのタクシーチケット1,000円を希望者に配るのには驚いたが)
都市間競争、街のポテンシャル低下について。この前、東急の「ドレッセタワー南町田グランベリーパーク」の記事でも書いたが、仮に多摩センター駅前でマンションが分譲されたら坪単価は300万円になるかどうか。聖蹟桜ヶ丘駅近でも坪270万円だから難しい。他の沿線と比べ京王線の地盤沈下は否めない。典型的な例が令和5年1月をもって営業停止する京王プラザホテル多摩だ。誕生してから約30年だ。企業寿命30年説に符合する。これは「健幸都市」にとって大きな打撃だ。今のところ存続を願う動きはないようだ。立派なホテルが撤退するような街に果たして若い人は移住したくなるか。
もう一つ。これは小生の個人的な考えだが、多摩センター駅前のパルテノン大通りには「あなたから受動喫煙から守ります」という大きな横断幕が掲げられている。厚労省の調査では、成人喫煙率は16.7%で、男女別では男性の27.1%、女性の7.6%が喫煙者だ。小生を含めこれらの喫煙者の神経を逆なでする、犯罪者扱いする市政はいかがなものか。タバコを吸う人も吸わない人も健康・幸福追求権は平等ではないか。
官民学連携もまったくといっていいほど行っていない。多摩ニュータウン周辺には5つも6つもの大学が集積しているのにその知的資源を活用していない。各企業の市民企業としての活動も寡聞にして知らない。
これはあまり書きたくないのだが、関連することだから書く。長谷工コーポレーションは今年6月末までに、2018年10月に開設した多摩センター駅近くの「長谷工マンションミュージアム」の来館者が1万人に達したと発表した。
開館当時、記者もこの施設を取材しているが、4年間で1万人ということは1か月間で約208人、1日当たり約7人だ。これはいかにも少ない。先に官学民連携について触れたが、駅周辺には大学のほか、東京海上日動システムズ、ベネッセ、サンリオピューロランド、JUKI、ミツミ電機などの企業・施設が集積する。
ところが、ミツミは2018年以降、CSR活動の報告を行っていない。東京海上日動も目立った活動は周辺のごみ拾い、ベネッセも夏祭りの協賛くらいで、地元でなにか活動した記憶など全くない。
大学もしかり。桜美林大学の多摩アカデミーヒルズ(多摩キャンパス)は、以前は宿泊、温泉、その他各種の市民講座・サークルなどなど市民に開放していたが、現在は市民との交流を完全に断った。
また、多摩センターには素晴らしい多摩市立グリーンライブセンターもあるのだが、ここでの喫煙・飲酒は禁止だ。宴会などする人はいないはずで、ゆっくり緑を鑑賞しながらタバコを吸いワインを飲むことのどこがいけないのか。緑・植物に関する書物はただで読めるのに、閲覧する人はどれだけいるか。
この施設運営には恵泉女学園も関わっているのだが、同学園は駅周辺の多摩市アダプト制度で大変な活躍をさている。いつも感謝している。端っこでいいから、グリーンライブセンターでたばこを吸わせて、ワインも飲ませて。砂糖漬けのジュースなどとどこが違うのか。
これまで何度も多摩市の緑環境や多摩ニュータウンの魅力について書いてきた(ざっと数えたら2013年以降で66件がヒットした)。その豊富な緑や人的資源を市は生かしていない。ここに根本的な問題がある。