中高層木造の普及促進へ「WOODRISE」に内外の関係者結集 矢野氏、深尾氏ら会見
矢野氏(左)と深尾氏
国際建築住宅産業協会(会長:矢野龍氏)は5月23日、「WOODRISE 2021 BUSINESS SESSION(BS会)」開催に関する記者会見を行い、国内外の中高層木造建築に係わる関係団体・企業等の交流を深めることを目的にB to B Meeting、社交行事、テクニカルツアーなどを実施すると発表した。
冒頭、BS大会主催団体の国際建築住宅産業協会会長・矢野龍氏(住友林業最高顧問)は、「WOODRISEは、中高層木造建築物の発展のため、技術面や工学的な観点から最先端の知見を集め、あらゆるニーズや将来性を展望することを目的に業界関係者が一堂に結集するイベント」とし、「世界は政治経済とも不透明感を強めているが、地球温暖化の抑止という人類共通の課題解決に資する木造建築の普及をこの大会を通じてさらに進めたい」と述べた。
深尾精一・BS大会組織委員会会長(首都大学東京名誉教授)は、「わが国の中高層木造建築物の事例は飛躍的に増えている。もともと日本は木造中心の国でしたが、過去に都市災害を何度も経験しており、法規制面でも大規模木造建築に対して大きな障壁となっていました。しかし、科学的にしっかりした対策をしていれば木造だからと言って危険なわけではなく、差のような観点から今世紀に入ってから木造だからといって不利にならないよう建築基準法などの法規制は改善されてきている。例えば、現しで表現しても鉄よりはるかに火災に対して強靭なことが証明されている。今国会でもそのような方向で基準法改正の審議が行われている。今大会でも最新の技術を採用した木造建築物の見学が予定されており、現状での日本の取り組みを見ていただくのは主催者として大変うれしい」とコメントした。
会見には、Christophe Mathieu クリストフ・マチュー氏(FCBACEO、次回WOODRISE 2023主催団体)、PierreHurmicピエール・ユルミック氏(ボルドー市長、次回WOODRISE2023開催地首長)、Frédérique Charpenel フレデリック・シャルプネル氏(ヌーヴェル・アキテーヌ地方議会企画国際化代表)も参加し、それぞれ熱い思いを語った。
「WOODRISE」は、中高層木造建築物の発展のため、関係者が一堂に結集するイベントで、フランス(FCBA森林木材総合技術研究所)とカナダ(FPInnovations 建築科学技術センター)が主導して2017年に活動開始。第1回は2017年ボルドー(フランス)、第2回は2019年ケベックシティ(カナダ)で開催。昨年は、2021年10月15日~17日に京都大会を開催し、オンラインと現地参加をあわせ18か国約800名が参加。
京都大会ではコロナ禍で予定していたB toB Meeting、社交行事、テクニカルツアーなどが実施できなかったことから、今回の大会となった。今回の参加登録者は330名、テクニカルツアー参加者は延べ130名。
5月24日から5月27日のテクニカルツアーでは国立競技場、積水ハウスエコ・ファーストパーク、住友林業筑波研究所、大和ハウス工業みらい価値共創センター、ザ ロイヤルパークキャンパス札幌大通公園なども予定されている。
来年の大会はボルト―市で行われる。
左から橋本公博氏(BS 大会 実行委員会委員長)、能勢秀樹氏(住友林業顧問)、深尾氏、矢野氏、Frédérique Charpenel フレデリック・シャルプネル氏(ヌーヴェル・アキテーヌ地方議会企画国際化代表)、ピエール・ユルミック氏、クリストフ・マチュー氏
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深尾先生におしかりを受けた。木造ファンの記者は「中高層木造建築物を普及させるためには建築基準法の耐火・防火基準を緩和すべきではないか」と質問したら、深尾先生は「緩和はだめ。設計者は実験などで検証できない課題はあるけれども、火事に対してより安全な建築手法を考えないといけない」と話した。
もう一つ、矢野氏は興味深いことを話した。「欧米では(燃えないよう)不燃材で木を覆い隠しても、炭素固定の効用などを考慮すれば、価格がイーブンなら木造のほうがいいという考え方がある」と。
なるほど。この考え方は、三井ホーム技術研究所研究開発グループマネージャー・小松弘昭氏が「現しを求めるのは木造コンプレックス」と言い放ったことと同じだ。(それでも記者は深尾先生や小松氏の考え方に同意はできないが)
外貌の呪縛を解き放つか 「現しを求めるのは木造コンプレックス」三井ホーム小松氏(2021/12/9)
歴史ある樹木・緑環境はどうなるのか 神宮外苑のまちづくり始動 三井不動産ら
イメージパース
三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興センター、伊藤忠商事の4社は5月19日、東京都から2022年3月10日に「神宮外苑地区地区計画」都市計画決定の告示を受けたことにより、プロジェクトサイトを新設し今後の具体的な整備計画を順次公表していくと発表した。
三井不動産らは「スポーツを核とした神宮外苑地区の新たな100年に向け、誰もが気軽に訪れ楽しむことが出来る公園の再編と、広域避難場所としての防災性を高める複合型の公園まちづくり」をビジョンとし、誰もが利用しやすく、安全・安心・快適で魅力的なまちを、各関係機関等との協議を進めながら形成するとしている。
神宮外苑地区地区計画は約66.0haの規模で、大規模スポーツ施設、公園、既存施設等の再編・整備を図る地区(A地区)、明治神宮聖徳記念絵画館、神宮外苑いちょう並木を中心とした緑豊かな風格ある都市景観を保全し、緑と調和した空間整備を図る地区(B地区)、スポーツクラスターへの玄関口として、印象に残る景観形成を図る地区(C地区)からなる。三井不動産などが整備するのはB地区の約28.4ha。
今回のプレス・リリースは、東京都が2018年11月に策定した「東京2020大会後の神宮外苑地区のまちづくり指針」を踏まえ、2020年2月に東京都公園まちづくり制度実施要綱に基づく公園まちづくり計画の提案書を提出し、2021年7月の同制度の適用許可を経て、同年7月14日に都市計画提案を行い、2022年3月10日に「神宮外苑地区地区計画」都市計画決定の告示を受けて行った。着工は2024年で、全体竣工は2036年の予定。
第18回RBA野球大会水曜ブロック準々決勝戦で旭化成ホームズ・今野投手から先制打を放った〝ミスターRBA〟東急リバブル岡住選手(試合は旭化成が勝利し、そのまま総合優勝した)
第30回RBA野球大会(平成30年)水曜ブロック準決勝戦でオープンハウスに快勝した野村不動産アーバンネットナイン(コブシ球場)
この日、台風24号で倒れた球場内の巨木ヒマラヤスギの撤去作業が行われていた(数本倒れた模様)
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記者は、整備計画でテニスコートに変わることになっている神宮外苑軟式野球場にはRBA野球大会の取材で100回は訪れている。全6面あり、それぞれ「日の丸球場」「ヒマラヤ球場」「桜球場」「ケヤキ球場」「大銀杏球場」「コブシ球場」と名付けられているように樹齢100年近くの巨木がたくさん植えられている。
それだけに思い入れが深い。三井不動産らが「新たな100年に向けた多様な緑化を計画」としている緑環境はどうなるのか。同社は「経年優化」「残しながら、蘇らせながら、創っていく」を街づくりのコンセプトに掲げている。歴史ある巨木をぶった切るようなことはしないと思う。
リリースには、樹木について、「神宮外苑創建の成り立ちを踏まえ、計画地における先人の想いや歴史に想いをはせながら1本1本の樹木を大切に扱い、樹木の状態などの詳細な調査を行い極力保存または移植をします。また新たな植栽にあたりましても、計画地周辺に残存する緑地の構成種を中心としつつ、動植物の生息・生育環境にも配慮しながら、例えば市民参加の植樹など、皆様の思いを表すことができるよう、新たな神宮外苑のみどりを作り、守る取組みも検討し、より多くの人々に開かれた良質な公園的空間を実現すべく今後具体的な検討を進めて参ります」と多くのスペースを割いている。
都が平成30年に行った「東京2020 大会後の神宮外苑地区のまちづくり指針(素案)」に対するパブリックコメントには76通の意見が寄せられ、既存樹を残すよう求める声も多数あった。
都もこれらの声を意識したのか、「みどり・交流ゾーン」の建築物の高さは15m以下、いちょう並木沿道の建築物の高さはいちょう並木の高さ以下とするとしている。(記者は建築物の高さを樹木の高さ以下に抑えるのは合理的根拠がないと思うが)
いずれも神宮外苑軟式野球場で行われた第18回大会RBA野球大会
山本の3ランで生還した森を迎える野村アーバンナイン(2018/10/3)
先の台風24号で倒れた球場内の巨木ヒマラヤスギが撤去されていた(数本倒れたとか)
旭化成ホームズ山本が決勝弾 中山は3安打猛打賞の2打点の活躍(2006/10/4)
道玄坂二丁目のホテル棟に「TRUNK(HOTEL) DOGENZAKA(仮称)」 三菱地所
.ルーフトッププール
三菱地所は5月18日、同社が参加組合員として参画している「道玄坂二丁目南地区第一種市街地再開発事業」のホテル棟にテイクアンドギヴ・ニーズ(T&G)が運営する「TRUNK(HOTEL) DOGENZAKA(仮称)」の出店が決定したと発表した。
ホテルは、渋谷・道玄坂にありながらカジュアルに染まらない、遊び慣れた大人をターゲットにしたラグジュアリーブティックホテル。エリア最大級のルーフトッププールをはじめ、ルーフトップレストラン&バーやシアタールーム、最新ウェルネスを体験できるスパや多彩なジャンルのレストランなどを備える。建物は11階建て延べ床面積約13,000㎡。客室は120~130室、客室面積は28〜120㎡。開業予定は2027年3月頃。
再開発事業は、京王井の頭線渋谷駅に直結、渋谷マークシティに隣接する渋谷区道玄坂二丁目に位置する敷地面積約6,720㎡、延床面積約87,100㎡。30階建てオフィス棟と11階建てホテル棟を整備する。設計は三菱地所設計・山下設計。デザイン総合監修は北川原温建築都市研究所、事業コンサルタントは都市企画。施工は未定。竣工予定は2026年度。
歩行者ネットワーク・交通結節点の機能強化 浜松町駅エリア WTCビル、野村不など
世界貿易センタービルディング、野村不動産、東日本旅客鉄道、東京モノレール、鹿島建設の5社は5月18日、浜松町駅西口開発計画と芝浦プロジェクトに合わせ、浜松町駅エリアの整備計画を発表。駅周辺エリアを広域的につなぐ歩行者ネットワークを構築し、浜松町駅の交通結節点としての機能強化を図る。主な整備計画は次の通り。
①浜松町駅北口を中心に竹芝・汐留方面、芝大門方面の各エリアをつなぐ歩行者ネットワークを形成。線路を跨いで東西を繋ぐ自由通路はJR浜松町駅・東京モノレール浜松町駅の北口に新たに整備される改札(3階レベル)からフラットにアクセスできます。2026年度使用開始予定。
②浜松町駅南口には既存の自由通路に加え新たな自由通路を整備し、混雑緩和やバリアフリーへの対応を図る。新たな自由通路は2024年度使用開始予定。2026年度全面使用開始予定。
③竹芝・汐留方面と芝浦方面をつなぐ歩行者空間として、浜松町駅東側には、旧芝離宮庭園に沿って歩行者専用道路を整備。竹芝・汐留方面と芝浦方面を緑豊かな空間でつなぐ。
④浜松町駅中央改札前にひろがる「中央広場」と、「ステーションコア」と呼ばれる歩行者ネットワークを一体整備することで、JR山手線・京浜東北線、東京モノレール、都営地下鉄、バスターミナル、タクシーの各交通機関とのスムーズな乗換を実現する。
「浜松町駅西口開発計画」は、世界貿易センタービルディング、鹿島建設、東京モノレール、東日本旅客鉄道が共同で開発を進めている東京都市計画都市再生特別地区の特定事業。全体竣工予定は2029年度。
「芝浦プロジェクト」は、野村不動産と東日本旅客鉄道が共同で推進する国家戦略特別区域計画の特定事業。全体竣工は2030年度。
住民監査請求の行方 街路樹の価値の可視化必要 千代田区の「街路樹が泣いている」
信濃町駅近くの外苑東通りのイチョウ並木
千代田区監査委員会は5月16日、「神田警察通りⅡ期道路整備計画」でエリアに植えられている街路樹であるイチョウ32本を伐採せずに工事することを求めた住民監査請求に基づく意見陳述の場を設けた。記者は傍聴した。
冒頭、請求人の代理人弁護士・山下幸夫氏が工事請負契約は違法・不当である旨を記載した「意見陳述書」を提出したほか、出席した6名の住民は「神田祭を通じて話せばわかることを学んできた。話し合いの場を設けなかったのは地域にしこりを残す」「工事はⅠ期と同じ工法で行われると信じて疑わなかった」「車椅子利用者は木陰が必要。伐採決定には憤りを覚える」「戦後、祖母に背負われて育った。イチョウは戦後復興のシンボル。それを励みに生きてきた。子どもや孫に残してほしい」などと意見を述べた。
住民監査請求は、住民が監査委員に対し、関係職員が違法若しくは不当な財務会計上の行為又は怠る事実について監査を請求し、是正を請求する制度で、違法とは、法令の規定に違反することをいい、不当とは、違法ではないものの行政上実質的に妥当性を欠き、適当でないことを指す。議会や議員を訴えることはできない。
住民らは今年4月21、街路樹の伐採は違法・不当として監査請求を行った。陳述とは、請求人が監査委員に対し請求の趣旨を補足して説明するもの。監査委員は監査請求があった翌日から60日以内に監査結果を報告することになっている。
総務省の調べによると、平成19年4月1日から平成21年3月31日までの間に請求があった住民監査請求件数は1,798件で、請求に基づき勧告を行ったのは91件となっている。
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今回の「意見陳述書」は次の通り。
1 本件監査請求で対象としているのは、千代田区長が、令和3年10月14日、「神田警察通りⅡ期自転車通行環境整備工事」のために大林道路との間で締結した工事請負契約が違法又は不当な契約の締結であるという点です。
2 この件については、令和3年9月21日の企画総務委員会において審議され、街路樹を伐採して工事を実施することが決まり、その後、同年10月13日の本会議において賛成多数により、本件契約の締結についての議案が可決されています。これを受けて、千代田区長が本件契約を締結しています。
3 しかしながら、イチョウを伐採して道路の整備を行うという本件契約に基づく工事は、本件が都市計画法上の計画そのものではないとしても、土地の合理的な利用が図られるべきであるとする都市計画法の趣旨に反していると考えられます。これは、最低でも歩道幅員2メートルが必要であると説明されている点と、車椅子の障がい者にとって本件街路樹が伐採されることによって新たなバリアが作り出されるおそれがあるという点から、合理性があるとは認められません。
4 また、地方議会における議決には、「住民の利益を保障」し、「住民の代表の意思に基づいて適正に行われる」ことが期待されており、そのための民主的プロセスを経て議決されることが必要です。
ところが、街路樹を伐採して工事を実施することについての千代田区議会における義烈(まま)は、次に述べるように、十分な住民の合意プロセスを経ないで行われています。
5 住民監査請求書で述べたとおり、住民に対する情報公開が極めて不十分かつ不適切であったこと、住民アンケートが極めて不十分かつ不適切であったこと、「既存の街路樹を活用する」と明記していた「神田警察通り沿道賑わいガイドライン」を変更したことが千代田区議会にも報告されず、変更のためのパブリックコメントの手続きが取られていないこと、そして、今回の工事については、千代田区が決めた「附属機関等の設置及び運営並びに会議等の公開に関する基準」、「意見公募手続要綱」そして「参画・協働のガイドライン」に基づく当然になされるべき手続が全くとられていません。
また、令和2年12月25日の企画総務委員会で配布された資料において、保存を優先すべきとした藤井名誉教授の意見が、本人の確認を経ないまま、異なる要約をされて、伐採に賛成する意見のようにして配布されています。
さらに、千代田区議会は令和4年3月17日の陳情審査で、工事を行うに当たって、「沿道住民の想いを大切にし、常民(まま)同士の一致点を見いだせるよう努力する」ことを申し入れると集約しましたが、千代田区は、令和4年4月9日に双方の意見交換の場を1度設けただけで打ち切っており、陳情審査の集約の趣旨に反しています。
6 このように、住民の意向を十分に反映しないだけでなく、千代田区の職員が、千代田区議会に対して事実に反する説明をしたり、正確な情報を伝達せずに結論を誘導しており、その結果なされた千代田区議会の議決には重大な瑕疵があるといわなければなりません。
また、千代田区長と業者との契約にも、本件街路樹は「枯損木」として記載されていますが、樹木医の診断でも健全な樹木であり、「枯損木」と評価されるべきものではなく、契約自体にも瑕疵があります。
以上のように、千代田区議会の議決自体に重大な瑕疵があり、それに基づいて締結された千代田区長の本件契約の締結は違法又は不当であると考えます。
以上
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皆さんは、上段の住民の意見陳述や意見陳述書をどう理解されるか。記者は街路樹伐採に反対する住民の方の敵でも味方でもない。イチヨウの味方だ。今回の問題について6回に分けて記事にしている。それらの記事と共に読んでいただきたい。間違ったことを書いていないはずだ。
傍聴した限りでは、何らかの是正措置を取るよう勧告する可能性はあるようでないとも考えられるというのが率直な感想だ。
上段でも書いたように、監査請求が認められる割合はほんの数パーセントしかないからだ。今回の問題で住民らが指摘している「瑕疵」は、区議会当事者が認めているように確かにある。だからといて、区の手続きに瑕疵があることを証明するのは容易ではない。具体的な法令違反を証明しないといけないからだ。情に訴えても監査委員はまず考慮しない。「意見陳述書」には都市計画法(2条と思われる)についての言及もあるが、同法2条は基本理念を示したものだ。これに逸脱しているからといって、街路樹の伐採の違法性・不当性を証明するのは至難の業だろう。
区の環境まちづくり部地域まちづくり課が令和3年9月15日付の課長決済で、「第17回神田警察通り沿道整備推進協議会(令和2年12月2日)において、神田警察通り沿道賑わいガイドラインの記載との相違についての確認を行い了承された。その後、旧ガイドラインに基づく指摘が多数あったため、内容の一部を修正し、あわせて広報広聴課にホームページの改正の手続きを行う」(主文)とガイドラインの「など」を削除したのは大問題だと思うが、「軽微な修正」という区側の言い分をどう覆すか。(ガイドラインは法律ではないが、区も住民も縛る極めて重大な文書だ。公文書の改ざんとも解釈できる)
区のガイドラインには、「千代田区職員コンプライアンス・ガイドライン」もある。このガイドラインには「法令等を遵守し、適正に職務を行います」などのほか「区民等に信頼感を持ってもらえる応対をします」とある。「区民等」は注釈付きで「区民、区内事業者に限らず、職員が職務において接するすべての人を、『区民等』としています」とあるように、「等」は単なる例示を示す文言ではない。
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記者は以前から、街路樹や緑の価値を可視化できないかとずっと考えてきた。今回の住民監査請求でも、住民側はイチョウが伐採されることでどれほどの価値が棄損されるか具体的な数値を示すべきだと思う。監査委員からも「(伐採による)区の損害額はいくらと想定されているか」という質問に対し、代理弁護士は「計算していない。調べて後ほど報告する」にとどめた。
しかし、その額を算定するのは極めて難しいはずだ。算定する方法がないからだ。ところが、ネットで調べたらそのような研究を行っている人や団体があることが分かった。
真っ先にヒットしたのは、Alexis Ellisの平林聡氏や徳江義宏氏・伊藤綾氏・今村史子氏・森岡千恵氏らによる「川崎市川崎区を事例としたi-Tree Eco による街路樹の生態系サービスおよびその貨幣価値の推定」という論文だ。
論文の冒頭には、次のような記述がある。都市の樹林等の生態系サービス(生物・生態系に由来する、人類の利益になる機能)の定量的・経済的な評価方法について、国外ではEnviroAtlasやInVEST等の評価・可視化ツールが開発され、維持管理や政策決定等の実務面において活用されている。しかし、国内では都市の樹林地の生態系サービスについて事例的な研究は行われているものの、貨幣価値までを含めた総合的な評価を行った事例は少ない。さらには、樹木等データの測定・収集、生態系サービスの算出、政策立案を行うための統一的な方法論や標準的なツール、システムは確立されていないと。
川崎区の街路樹研究は、米国で開発された「i-Tree Eco」(Eco)を用いて1)炭素蓄積・固定、2)冷暖房使用量増減、3)乾性沈着による大気汚染物質除去とそれに伴う4)健康被害軽減、5)雨水流出量削減を数値化し、その結果、「川崎区の全街路樹について,年間約530万円の貨幣価値(炭素蓄積が約84万円、炭素固定が約6万円、冷暖房使用量が約3万円増加、大気浄化による健康被害軽減が約200万円,雨水流出量削減が約243万円)と推定された」としている。
また、「Ecoでは街路樹の主な役割である景観向上の貨幣価値算出機能が実装されていないが、標本調査に基づいた解析では、樹木そのものの貨幣価値が算出可能である。しかし、今回は全数調査であったこと、算出方法が米国内限定であったことを理由に解析を行わなかった」としている。
この論文を読んで、わが国は米国などと比べて緑の価値の可視化の研究が遅れているのを知った。これまで都市計画や緑に関する会合などをかなり取材してきたが、その価値の可視化について触れた学者先生は一人もいなかった。
平林氏らの今回の川崎区の街路樹の貨幣価値が530万円というのは、景観価値が考慮されていないのでこのような額になったと理解した。
みなさんは街路樹の景観価値をお金に換算したらいくらになると考えられるか。記者は、信濃町駅近くの外苑東通りのイチョウ並木は1本当たり最低300万円、神田警察通りⅡ期のイチョウはまだ若いので100万円くらいではないかと思う。(イチョウは〝バカにするな、俺はそんなに安くないぞ〟と怒るかもしれないが)
千代田区 明大通りの歩道空間の整備工事(プラタナスはそのまま残される)
同じ明大通りの歩行空間整備工事で全て街路樹が伐採されたお茶の水駅近くの街並み
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「枯損木」について。意見陳述書には「本件街路樹は『枯損木』として記載されていますが、樹木医の診断でも健全な樹木であり、『枯損木』と評価されるものではなく、契約自体にも瑕疵があります」とある。
記者も目視したので「枯損木」ではないと断言できる。いったい誰が「枯損木」と判断したのか。樹木医がそのような報告を区にするはずがないと思い、区に確認した。
環境まちづくり部は「東京都の工事積算基準には街路樹を伐採する場合は『枯損木』という文言を使用することになっており、区はそれに従った。樹木診断も受けているが、樹木医さんはそのようなことは仰っていない」と答えている。
だとするならば、街路樹を道路の附属物としか見ていない道路行政に問題はあるが、区が「枯損木」として処分することを決めたことを瑕疵として認定するのは難しいような気がする。監査委員はどう判断するか。
住民は必ずしもイチョウ伐採に賛成ではない 千代田区の「街路樹が泣いている」(2022/5/14)
〝建築の魔術師〟青木茂氏と共同の6棟目リファイニング「信濃町」完成 三井不動産
「シャトレ信濃町」
三井不動産と青木茂建築工房は5月17日、両社が共同で取り組む「リファイニング建築」の6物件目となる賃貸マンション「シャトレ信濃町」の竣工見学会を行った。建て替えと比較して建築コストを約3割、CO2削減量を72%それぞれ削減し、工期を3分の1程度に短縮し、さらに市場価格以上の賃料設定を可能にした物件だ。
物件は、JR中央線信濃町駅から徒歩7分、新宿区信濃町3丁目の第一種中高層住宅専用地域に位置する敷地面積約968㎡のSRC造9階建て延べ床面積約2,610㎡の全35戸(うち3戸は自家用、従前は21戸と店舗1戸)。専用面積は41~82㎡。賃料は45㎡で22~23万円(管理費含む)。三井不動産レジデンシャルリースがサブリースを行う。大規模模様替えとして確認申請を行い、検査済証を取得。設計は青木茂建築工房。施工は大末建設。改修竣工は2022年5月16日(従前は1971年)。工期は13か月。
耐震性に問題があり、建て替えた場合は日影規制などの規制を受けるため5階程度しか建てられず、間取りも3LDKが中心だったため十分な事業採算を確保できない課題を抱えていたのを、リファイニング建築を活用して再生した。
既存躯体の耐震性を向上させるため、コンクリートの既存バルコニー手摺をポリカーボネートに変更することで建物の軽量化を図り、耐震補強したうえで84%を再利用しているのが特徴。建物は東京大学との共同研究により建替えの場合と比較して、CO2を72%削減することも実証されている。
また、従前は1フロア3LDKの3戸構成だったのを、周辺の賃貸マーケットニーズに合わせた各階1LDK~2LDKの5戸構成とすることで事業性能の向上と安定稼働の実現を図っている。
共用部の再生にも力を入れており、従前の植栽をそのまま継承するとともに、エントランスにあった御影石の壁・フェンスを取り払い外に開かれた空間にし、御影石は共用部や専用部に用いることでデザイン性を高めている。既存の水盤は既存庭園が写り込むように一新。1階のロビー・応接室は事業性を高めるため87㎡の住戸に変更し、別にエントランスを新設している。
見学会でオーナーのケーズコート代表取締役社長・木村達央氏(72、昨年10月の段階)は、「耐震診断を行ったら南側の窓、駐車場などに×点がつき、建て替えたら5階程度にしかならず大幅に事業採算が悪化することが分かった。リファイニングは費用が7掛け、8掛けになり、工事期間も3年くらいが約1年に短縮できた。間取りもマーケットにふさわしいものになった」などと語った。
青木茂氏は、「18年前に、スクラップ&ビルドよりCO2が83%削減できると発表したときは『あっそう』という反応しかなかった。今回は構造面で苦労したが、かなりやりたいことができた。これからは脱炭素の有力な手法の一つとして普及させたい」と話した。
左端が木村氏、一人置いて青木氏
Before(左)とAfter
Before(左)とAfter
Before(左)とAfter
Before(左)とAfter
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今回の物件については、昨年10月に行われた解体見学会を取材しており、記事にもしているのでそちらも併せて読んでいただきたい。この日は、解体見学会でお会いした服部夏子さんにお会いできるのではないかと楽しみにしていたのだが、作品をロビーに展示するとそのまま帰られたそうだ。残念。
百聞は一見に如かず。物件内にはリファイニング建築サロン(モデルルーム)も7月下旬まで設けられるので、興味のある方にお勧めだ。目からうろこが落ちるのは間違いない。フランク・ロイド・ライトは“空間の魔術師”と呼ばれるそうだが、記者は青木茂氏を〝建築の魔術師〟と呼ぶ。
服部夏子さんのアート
水盤
ポリカーボネートの手摺(サッシは全てLow-Eガラス)
以上、御影石の再利用
家歴書の一部
「建築は愛。母の家と一緒」青木茂氏 りそな銀行「リファイニング」セミナー(2022/3/30)
世界へ 建築業界に新風 青木茂リファイニング×服部夏子アート 「信濃町」見学会(2021/10/8)
住民は必ずしもイチョウ伐採に賛成ではない 千代田区の「街路樹が泣いている」
神田警察通りの学術総合センターの公開空地の樹木(カツラだと思ったが何の木か)
神田警察通りⅡ期道路整備計画について、千代田区環境まちづくり部道路公園課は2019年12月、次の住民アンケートを実施した。対象は整備計画エリアに住む住民ら約4,700通(うち地権者約10%)。回答者は680通で、回答率は14.5%。質問と回答は次の通り。
【問1】『現在の神田警察通りの歩道について、どのように考えますか?』
①通行しやすい 11%
②通行しにくい 60%
③どちらとも言えない 26%
【問2】『神田警察通りを通行の際に、接触などで不安を感じたことはありますか?』
①ある 56%
②ない 29%
③どちらとも言えない 12%
【問3】『神田警察通りの歩道の幅を拡げることについて、どのように考えますか?』
①今のままで良い 10%
②拡げてほしい 75%
③どちらとも言えない 12%
【問4】『神田警察通りを自転車で通行の際に、危険や不便を感じたことはありますか?』
①ある 57%
②ない 15%
③どちらとも言えない 22%
【問5】『神田警察通りに自転車走行空間を整備することについて、どのように考えますか?』
①今のままで良い 8%
②整備してほしい 75%
③どちらとも言えない 13%
【問6】『神田警察通りの路上パーキングについて、どのように考えますか?』
①今のままで良い 29%
②整理して(減らして)ほしい 44%
③どちらとも言えない 24%
【問7】『大型車両が長い時間駐車している状況について、どのように感じていますか?』
①仕方がない 21%
②迷惑している 44%
③どちらとも言えない 31%
【問8】『神田警察通りの街路樹について、どのように考えますか?』
①今のままで良い 29%
②植替えを含め課題解決してほしい 47%
③どちらとも言えない 14%
【問9】『神田警察通りの街路樹の樹種について、どのように考えますか?』<問8で②を選択された方>
①今と同じ樹種が良い 29%
②新たな樹種に替えてほしい 47%
③どちらとも言えない 14%
無回答 1%
【問10】『神田警察通りの街路樹には、どのような樹木が相応しいと考えますか?』【複数回答可】<問9で②または③を選択された方>
①花の咲く樹木 15%
②落ち葉の少ない樹木 21%
③紅葉(落葉)する樹木 9%
④病害虫の少ない樹木 16%
⑤樹冠の大きな樹木 5%
⑥街路空間に適した樹木 25%
⑦その他 8%
無回答 1%
皆さんはこの木の名前をご存じか(神田警察通りの学術総合センターの公開空地の樹木)
◇ ◆ ◇
皆さんは、この質問と回答をどう受け止められるか。記者は、全体として区の意向に沿う回答が得られるように計算された極めて稚拙で恣意的な質問だと思うが、回答率が低いのが気になる。約1割の地権者(法人か)の回答率は高いはずで、住民(住民も地権者だろうが)は10%くらいにとどまっているのではないか。回答率を高める工夫など行っていないことが分かる。
それよりも悲しいのは、地球温暖化やCO2削減、SDGsなど眼中にない行政の道路担当部署のこの種のアンケート実施を認める区の姿勢だし、それを是とする議会だ。設問にイチョウが果たす役割について少しでも触れていたら結果はまったく違ったものになったはずだ。
質問に対する回答では、国道であろうと都道府県道、区市町村道の歩道であろうと通行しやすいと感じる人は少数派のはずで、【問1】で6割の方が「通行しにくい」と回答したのもよく分かる。【問2】以下【問7】までは当然の回答だろう。(記者は、東西に走る神田警察通りⅡ期区間のうち北側は公開空地が整備されており、区道としては優れているほうだと思う)
問題は【問8】以下だ。【問8】でもっとも回答が多かったのは「新たな樹種に替えてほしい」の47%だが、「今のままで良い」(29%)と「どちらとも言えない」(14%)を合わせると43%あり、ほぼ拮抗している。
【問9】は、「新たな樹種に替えてほしい」と回答した人を対象にした質問で、その樹種について「新たな樹種に替えてほしい」と答えた人は47%に上っているが、同時に「今と同じ樹種が良い」の29%と「どちらとも言えない」の14%を合わせると43%に上る。
これらの回答から判断して、地域の人は必ずしもイチョウを伐採することにもろ手を挙げて賛成していないことが分かる。【問10】は至極もっともな回答だ。誰だってイチョウのように花(記者も見たことがない)が咲かない樹木より花が咲くのを選ぶし、病害虫が少なく、紅葉はしても葉を落とさない樹木(あるようだ)かいいと回答するに決まっている。「街路空間に適した樹木」の回答が25%ともっとも多いのも当然だ。
記者は、街路樹にふさわしいのはきれいな花を咲かせるものもいいが、やはり一番いいのは常緑樹だと思う。好きなのはクスノキだ。剪定などしなくても見事な樹形を描くし、好き嫌いはあるだろうが、記者は葉っぱの香りがたまらない。いつもちぎっては香りをかぐ。鎮静剤の役割を果たしてくれる。多摩センターのようにいい街はこのクスノキが多い。(その代用として値段の安いシラカシが最近は増えている)。
イチョウは、本来は剪定など必要ない広い幅員が確保された道路にふさわしいとは思うが、これまでの千代田区の道路整備課はイチョウをよしとして植えたのだろうから、行政の無謬主義を継承するのであれば、何とか残しながら整備すべきだと考える。受忍義務とはこのことだ。
「苦汁」を飲まされたイチョウ 「苦渋の決定」には瑕疵 続「街路樹が泣いている」(2022/5/14)
民主主義は死滅した 千代田区のイチョウ伐採 続またまた「街路樹が泣いている」(2022/5/13)
千代田区の主張は根拠希薄 イチョウの倒木・枯死は少ない 「街路樹が泣いている」(2022/5/12)
ぶった斬らないで 神田警察通りのイチョウの独白 続またまた「街路樹が泣いている」(2022/5/11)
なぜだ 千代田区の街路樹伐採強行 またまたさらにまた「街路樹が泣いている」(2022/5/10)
「苦汁」を飲まされたイチョウ 「苦渋の決定」には瑕疵 続「街路樹が泣いている」
既に伐採された神田警察署通りⅡ期道路整備区域のイチョウ(ブルーシートがかかっている)
前回の記事では、千代田区は神田警察署通りⅡ期道路整備区域に植えられている街路樹のイチョウ32本を全て伐採することを少なくとも2020年12月の段階で決定していたことを明らかにした。
そして、2021年5月28日に行われた書面開催による第18回神田警察通り沿道整備推進協議会(協議会)では、「台風などの倒木の危険性や根上りによる歩道空間の通行障害の問題、新たな歩道や自転車道整備に支障があるのであれば、街路樹の伐採は止むを得ず、全ての更新を望む」「協議会の多数の委員で決めてきたことが、少数の意見で中断されるのかわからない」「II期工事区間の植栽については、色彩も良く、ヨウコウザクラとオタフクナンンテンの組み合わせで問題なし」とし、「既存の街路樹は同位置には置けないため、すべて更新します」と決定している。
その後、令和4年1月28 日の協議会で区のまちづくり担当部長は「これまで十何年話し合いをしてきた当協議会は大切なものであり、最後は皆様の意見を聞いたうえで協議会に諮ることになる。その結果を受け、最終的には区が決める」と語ったのをはじめ第19回、第20回協議会、2019年12月に実施した住民アンケート、区議会企画総務委員会の論議もすべて、既定路線に沿わせるためのアリバイ作りであることが分かる。
令和4年3月17日行われた区議会企画総務委員会での小枝委員と嶋崎委員長のやり取りはそのことを否定していない。
・小枝委員今日出された資料の一番最初、沿道まちづくり検討委員会のときには、街路樹、樹木の専門家が入っていたんですよね。その後は、もうぱんと切ってしまって、いなくなってしまっているという問題に行き当たりました。非常に進め方にやはり瑕疵があったなと。
○嶋崎委員長 そうだね。それは、協議会の合意が必要だよね…そこのところの知恵出しというか、やり方というか…多少瑕疵があったのかもしれないけれども…そういうことでよろしいですよね。
◇ ◆ ◇
不動産業界では、物理的・法律的瑕疵だけでなく隠れた瑕疵、心理的な瑕疵を含めて「瑕疵」に対しては契約解除などかなり重い損害賠償責任が課される。
今回の問題ではその行政の「瑕疵」が問われている。住民らは強行伐採を決めた区に対して損害賠償裁判を起こしたが、結果はどうなるか。死滅しつつある民主主義が復活するかどうかの問題でもある。
記者は今回の問題を通じて、「戦争は平和なり 自由は隷従なり 無知は力なり」-ジョージ・オーウェルの「一九八四年」(ハヤカワ文庫)そのものの世界をみたような気がした。街路樹伐採を決断した樋口高顕区長は「苦渋の決定」としたが、記者は議会(推進派を除く)も住民もイチョウも「苦汁を飲まされた」のだと思う。
◇ ◆ ◇
平成30年度調査による千代田区の区域面積1,166haに占める緑被地面積は約271haで緑被率は23.22%となっている。この数値は23区でもっとも高い練馬区の24.1%、2番目の世田谷区の23.6%に次いで3番目で、もっとも低い中央区の10.7%の倍以上となっている。千代田区の緑被率が高いのは、区域面積の12%を占める皇居(143ha)や日比谷公園(16ha)が数字を引き上げているためだ。
地域別では富士見地域がもっとも高く42.71%、以下、大手町・丸ノ内・有楽町・永田町地域の23.89%、番町地域の22.57%となっており、第2期工事に該当する神田公園地域は3.71%にとどまっている。
民主主義は死滅した 千代田区のイチョウ伐採 続またまた「街路樹が泣いている」(2022/5/13)
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民主主義は死滅した 千代田区のイチョウ伐採 続またまた「街路樹が泣いている」
神田警察署通りⅡ期道路整備区域のイチョウ(左は「テラススクエア」の公開空地の樹木)
千代田区の神田警察署通りⅡ期道路整備では、少なくとも2020年12月の段階で区はイチョウ30本を伐採することを決めており、第17回神田警察通り沿道整備推進協議会でその旨を報告し、了解を得たとしている。2021年9月21日開かれた企画総務委員会の議事録には、事前に住民に諮ることなく、議会で論議もしないで決定したことがはっきりうかがえる。
この問題について、最初の記事で「プーチンのウクライナ侵攻と変わりないと言ったら失礼か」と書いたが、全然失礼に当たらないことが分かった。民主主義は死滅しつつあるのか、既に死んだのか。そもそもが幻想なのか。
以下、企画総務委員会のやり取りを紹介する。
〇大串副委員長 私が不思議だなと思うのは、この根拠としている沿道ガイドラインのゾーン別の将来像が書かれています。そこには街路樹も明確にうたっていますよ。今回のII期工事は、最初のゾーンですよね。既存のイチョウ並木を保全、活用するんだというのが、この沿道ガイドラインには書かれている。この沿道ガイドラインを根拠としてこの工事をやるんだというんだけれども、何でこのイチョウの並木を切ってしまうの、街路樹を。立派な樹冠が形成されているんですよ。どうなんですか。
◯須貝基盤整備計画担当課長 まず、ガイドラインのほうには、大串委員おっしゃるとおり、そのように書かれてございます。我々もそういうことで検討していったんでございますが、やはり当初の目的の自転車走行空間、そして、歩道を拡幅して、歩行者空間を確保していくと。そういうことを達成していくためには、今ある街路樹がその位置にあると整備ができないというところから、そして、このガイドラインにつきましては、この1ページのところに、本ガイドラインは、今後の地域の方との協議やまちづくりの動向を踏まえ、必要に応じて発展、改良していくことを想定していますと、そういう記載がございます。 そして、昨年の12月2日ですね、第17回協議会におきまして、ガイドラインの趣旨については達成できたものと考えて、(伐採を)協議会の中で確認したところでございます。
◯大串副委員長 昨年の12月の協議会で、切ることが決定したと。じゃあ、その時点で、そういう案が出たなら、その出た段階で、まず、ガイドラインを、これ、書き換えてくださいよ。今もこのままホームページに載っている。
◯須貝基盤整備計画担当課長 大串副委員長のおっしゃるとおり、確かにガイドラインを協議会の中で議論を交わして変わったということで、それに関しては、おっしゃるとおり、周知をしていくべきだったと思っております。遅まきながらですが、ホームページのガイドラインにつきましては、先週、実は更新をしたところです。申し訳ございません。
◇ ◆ ◇
ガイドラインとは、区が平成25年3月に制定した「神田警察通り沿道賑わいガイドライン」のことで、当初は「豊かに育った既存の街路樹を活用する(白山通りのプラタナス、共立女子前のイチョウなど)」となっていたのを「豊かに育った既存の街路樹を活用する(白山通りのプラタナス、共立女子前のイチョウ)」と「など」を削除した。
「など」を削除したことについて、区は朝日新聞(2022年1月27日付)の取材に対し「協議検討の結果、ガイドラインと違った形になることがあり、その都度改定はしない。今回はガイドラインと違うという指摘が多々寄せられたため、誤解を招くおそれがあるので『など』を削除した」とある。
「等」は法律やビジネス文書でもよく用いられる。例えば建築基準法。同法には「国の機関の長等」「建築主事等」「避難施設等」「確認審査等に関する指針等」「がけ崩れ等」「「木造建築物等」「防火壁等」「住宅等」「津波、高潮、出水等」「都市計画区域等」「用途地域等」などの「等」は600か所以上登場する。これらは用語の概念をあいまいにするのではなく、むしろ例示しているほかのものにも法律で縛る役割を果たしている。「等」とは何かを省令、施行令で詳細に定めているケースが多い。都合のいい文言ではある。
今回の千代田区のケースはその逆だ。既存樹を活用するのは白山通りのプラタナスと共立女子前のイチョウのみで、神田警察通りⅡ期以降はイチョウなどの巨木を全て伐採する意思を明確に打ち出したと理解できる。
ガイドラインは区も住民も縛る法律とほとんど同じだ。それを区は一方的に放棄した。これまで頻繁に行われてきた過去の歴史を塗り替えることと同じだ。
区の道路公園課は5月11日、記者の「第三期以降も街路樹を伐採されるのか(第三期はケヤキがかなり多い)」との質問に対し「伐採の予定です」と回答した。
◇ ◆ ◇
この問題について、片山善博氏は「世界」(岩波書店)6月号の連載コラム「日本を診る」で、「全国あちこちに見られる、議会本来の役割を果たさない議会の一つ」と切り捨て、「どうして、区議会は予算審議の過程で伐採に反対する住民の意見を聴かなかったのだろうか」と疑問を投げかけている。
議会関係者や千代田区はこの片山氏の声をどう受け止めるかだが、令和4年3月17日行われた区議会企画総務委員会での大串副委員長の発言を紹介する。
○大串副委員長 これは検討というよりも、既に千代田区のこの意見公募、手続要綱にやりなさいともう定められているんだよ。本当はやらなくちゃいけなかったことをやってこなかったんだよ…工事の看板が出て、初めて知るんですよ。こんなかわいそうなことはないよ。だから、僕は、まちづくりを行政から住民に返してくださいと。千代田区のやり方だけが何かちょっとおかしいんだよな。(「そうだ」と呼ぶ者あり)ここに手続要綱を定めながら、それを1回もやってこなかったというのは、まちづくり部だけですか。僕は、それを、あの予算の審議のときに間違った報告というかな、答弁をする。それから、1月8日の住民説明会での資料も頂きましたよ。そのとき、説明会で区側は何と言っていたか。神田警察通り賑わいガイドラインを前段として、区民参画の協議会とパブリックコメントの場を通じてオーソライズしてきたと。これはどうなんですか。うそじゃないんですか。住民に向かってきちんと説明しなくちゃいけない説明会において、うそを言ったらいかんよ。公務員はそんなことをやっちゃいけないんだよ。(「そうだ」と呼ぶ者あり)だからこそ、住民の間で要らないトラブルというかな、対立を生むきっかけは行政側にあるんだよ。十何年間積み上げてきたと言うけれども、その間、1回も議事録を公開せず、説明会も行わない。パブリックコメントも行わない。これで何で十何年積み上げてきたなんてよく言えますよ。(拍手)入っている協議会の人だけしか知らないんだよ。(中略)今のこの神田警察通りII期工事のイチョウ32本の伐採について、伐採しなくてはならないという合理的な理由もなかった。また、ここに至るまでの適正な手続を欠いていた。
Ⅱ期の区域内にはこのような公開空地が2か所ある
千代田区の主張は根拠希薄 イチョウの倒木・枯死は少ない 「街路樹が泣いている」(2022/5/12)
ぶった斬らないで 神田警察通りのイチョウの独白 続またまた「街路樹が泣いている」(2022/5/11)
なぜだ 千代田区の街路樹伐採強行 またまたさらにまた「街路樹が泣いている」(2022/5/10)
千代田区の主張は根拠希薄 イチョウの倒木・枯死は少ない 「街路樹が泣いている」
伐採が予定されている3期の街路樹(ケヤキもかなり多い)
街路樹の倒木・枝の落下による事故について考えてみた。今回の神田通りの道路整備計画だけでなく、すべての道路整備について当てはまる問題であり、街路樹をどう考えるかの本質的な問題がここにあると考えるからだ。
◇ ◆ ◇
令和4年1月31日に行われた千代田区の企画総務委員会で木村委員の「今回のこの計画だけれども、まず沿道住民の声を聞かなかった。これ致命的ですよ」という問いに、小川環境まちづくり部長は「区としての判断は、やはり安全に通行ができるといった歩行環境、道路環境の整備というものが、やはり今回の整備に関しましては優先すべきことであり、その安全性、利便性を犠牲にして木を残すという選択にはなかなかならなかったというのが現状でございます」と答えている。
また、須貝基盤整備計画担当課長は「車道とかは構造的に硬いものがあるので、なかなか根が張れる範囲というのは道路の中では限られてまいります。なので、あくまでも本当に道路の附属物ということで、これを言うとまた怒られてしまうんですけれども、まずは道路というのは本当に安全に通れるということが第一なんですね。木がかわいそうだとか、それももちろんございます。ただ、万が一それが倒れ人の命を痛める、そういうことになったら、そのときは本当に責任を取るのは私たち行政でございますので、その辺は踏まえてご理解いただきたいと存じます」と語っている。
◇ ◆ ◇
皆さんは、このやり取りをどう受け止められるか。道路の安全性、利便性を犠牲にして街路樹を残していいのか、万が一、倒木や枝の落下によって人の命が痛めることになったらだれが責任を取るのかと区側は主張している。管理者責任を問われるからだ。
記者は、ごもっともだと思う。歩道空間は危険に満ちている。車はしょっちゅう突っ込むし、雪や落ち葉に足を取られたり、敷石につまずいたりするのは日常茶飯だし、横からはコンクリの塀が襲うこともある。上からは車や看板、タイルなどだけでなく人が降ってくることもある。
今回の神田警察通りの問題は、街路樹を残すのか、伐採・撤去するのかは、行政の判断一つにゆだねられていることを改めてわれわれに突き付けた。須貝氏が語ったように、道路法と道路交通法には「街路樹」の文言は一つもない。あくまでも「附属物」「物」の一つだ。代替物などいくらでもあると。
これに対し、住民らは伐採せずに整備するよう区に求めた住民監査請求(2022年4月21日)を行っており、また、伐採工事が行われたことに対しては、22万円の損害賠償を区に求める訴えを東京地裁に起こした(2022年5月6日)。
ここでは住民監査請求と損害賠償請求については触れない。街路樹の倒木・枝の落下がどれほど危険かに絞ってみる。
ネットで調べたら、とても興味深いレポートが見つかった。2009年3月発行の「ランドスケープ研究」(日本造園学会)の細野哲央氏・小林明氏による「東京都道における街路樹による落下直撃事故の実態」だ。
レポートは、昭和63年度から平成19年度の都の事故発生報告書をもとに倒木などによる事故と判断できるもののみを抽出したもので、「原因となった樹種が明らかな69件の内訳は、ケヤキが29件(42%)で最も多くを占めていた。ケヤキの発生件数の半数を割ってエンジュ13件(19%) が続き、それにプラタナス6件((9%)、ヤナギ5件(7%)、イチョウ3件(4%)が続いていた」としている。
そして、平成18年4月現在の東京都道の街路樹約16万本の上位樹種は1位のイチョウ約2万8千本((18%)、2位プラタナス約2万2千本(14%)、3位トウカエデ約1万8千本(11%)、4位ハナミズキ約1万5千本(10%)、5位ケヤキ約1万本(6%)などから判断して、「植栽本数が多いほどその樹種が原因となる直撃事故も多いという関係にはないということができる」としている。
両氏は、「突然に樹木の枝が落下したり樹木の幹が倒れかかってくるという事故の性格のため、被害者自身の注意によってこの事故を回避することは極めて難しいといえる。このようなことから、落下直撃事故の発生を防ぐために道路管理者に期待されている役割は非常に大きいと考えられる。特に、ケヤキの枝による事故の発生数上位3路線では、いずれも樹高が高くなり大径木となっていたことから、そのような路線については重点的な安全管理が必要であるといえる」「直撃事故では、ケヤキの枝折れ、エンジュ・プラタナスの倒伏、ヤナギの幹折れなど、樹種によって発生しやすい態様のあることが示唆された」と締めくくっている。
KANDA SQUAREの公開空地
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レポートからケヤキによる事故が多いのはよく分かる。樹高が高く、箒状の見事な樹形を描くからだ(伐採が予定されている神田錦町3丁目のケヤキも見事)。その一方で中木のエンジュやヤナギが多いのは驚いた。
さて、今回問題になっているイチョウ3件(4%)だ。捉え方は様々だろうが、極めて少ないと考えることは可能だ。
区は2期で整備するイチョウ32本のうち2本は移植可能としている。記者も確認した。樹齢にして数年も経っていないはずだ。つまり、この2本はこの数年間の間に何らかの事情で伐採されたと思われる。仮に32本は植えられてから50年とすれば、病死・枯死の確率は極めて低いことが分かる。区の主張はガラガラと音を立てて崩れる。前回書いた記事(イチョウの独白)の正当性を証明できたと思うがいかがか。区の主張は根拠希薄だ。
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