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before(左)とafter

 青木茂建築工房は10月25日、「目黒クリニックビルリファイニング工事」解体見学会を行った。コロナ禍で来場制限を行ったが、定員40人×3回は全て満席となった。

 計画は、昭和44年に建設された築51年の老朽化した4階建て(建基法では地下2階地上2階建て)鉄筋コンクリート造を耐震補強、設備更新、内外装を一新し、建物の長寿命化を図りながら現行の建築基準法に適合したクリニックとするもの。

 建築確認については、従前建物を用途変更するが、特殊建築物に該当しないため第三者機関による法適合調査によって改修後の適法性を確保しているため、確認申請は行っていない。

 構造については、既存不適格建築物であるため、改修後の耐震性を確保するため耐震診断、耐震評定を取得する。改修に伴い既存耐震壁の余分な部分を撤去し、開口部の位置を変更しているが、新たに補強壁を設けるなどして耐震性を担保する。このほか、新たにエレベーターを設置し設備も一新。耐用年数も官公庁ビル並みの50年としている。

 計画コンセプトは、1棟全体を検診センターにするため居室配置が自由に行えるメリットを生かし、光と風を取り込む計画としている。

 計画について説明した同社取締役福岡事務所副所長・佐藤信氏は、「リファイニングは①遵法性②耐震性③耐用年数を明確に把握するのが重要。今回は全体で1,000か所以上の改修ポイント候補を設定し、一つひとつ検証しながら適法性、耐震性などを確保した。開口部の確保なども自由で、下2層では解体作業を行いながら上2層は仕上げ工事ができるなと施工期間も大幅に短縮できる」などと語った。

 青木茂氏は弟子に全て任せているのか、「地震時は当然ながら、躯体の長期健全性、長寿命を確保することに重点を置いた。耐用年数を50年に設定したが、結果が出るころは私は死んでいる。多分大丈夫」などと軽口を叩いた。37歳という佐藤氏に「先生の後継者? 」と尋ねたら「いつも怒られてばっかり」と返ってきた。

 計画地は、JR目黒駅から徒歩7分、品川区上大崎3丁目に位置する敷地面積約608㎡、1969年(昭和44年)竣工の鉄筋コンクリート造(地下2階地上2階建て) 延べ床面積約1,371㎡。従前は礼拝所+事務所だったのを診療所とする。設計は青木茂建築工房(意匠)、金箱構造設計事務所(構造)、ZO設計室(設備)。施工は日本建設。監理は青木茂建築工房。

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青木氏(左)と佐藤氏

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現場 1階部分

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4階部分

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改修候補を示すマーキング

◇       ◆     ◇

 青木茂先生の「リファイニング」は10回以上取材している。今回も説明は極めて明快だったが、何が何だかさっぱり分からないのはいつもの通り。至るところに落書きのような数字やら線が描かれているのは意味があることらしい。

 今のマンションでは当たり前になっているボイドスラブの実際も初めて見た。確かに穴が開いていた。佐藤氏によると「当時の建築物としては珍しい」とのことだった。

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ボイドスラブ

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現場

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藤元氏の大作「Gravities/BW#3」

 先日(10月23日)、「ソノ アイダ#有楽町」の第3弾企画「ARTIST STUDIO ACTIVITIES」の制作現場を見学した。

 藤元明氏の了解を得て作品を写真に収めた。記者の腕とカメラの性能では本物の素晴らしさに迫れないのが残念だが、山水画のような白と黒の塗料を流したような絵画はどこか山水画のようでもあり、海洋ごみを芸術に仕立て上げ、さらにまた作品の制作過程でできた余分な塗料を素焼きの有田焼の壺に張り付ける感性には唖然とするほかなく、「塗料を風で飛ばした」(藤元氏)微細な線描画(と呼べるのかどうか)は人間業とはとても思えない。

 最初に見学したときは〝大工〟さんと一緒ではないかと思った藤崎了一氏だが、ショーウインドウに飾られた「塗料を流した」(藤崎氏)作品がまた素晴らしい。「何でも作品に取り込む」藤崎氏も只者ではない。

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「Gravities/BW#3」部分

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藤元氏の別の作品 部分

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素焼きの壺に塗料を張り付けた藤元氏の作品

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藤崎氏の作品(ショーウインドウの中なのでうまく撮影できなかったのが残念)

◇       ◆     ◇

 小生も油絵をたしなみ、絵画展にはよく足を運ぶので多少の審美眼はあるつもりだ。マンションの坪単価を的中させるのと同じだ。

 藤崎氏の作品には値段が張り出されていた。1点50,000で、3点セットだと150,000円。これは安い!洋室でも和室でもしっくり馴染む。三菱地所に買い上げられる前に購入されることをお勧めする。

 国際ビル1階に展示されていた藤元氏の作品「Gravities/BW#3」は60万円(税別)とあった。1940×1620×40ミリの大作だけに10帖間でも飾るのは難しいかもしれないが、値段は1号当たりに換算すると超割安だ。こちらも三菱地所に買い占められる前に買うべし。海洋ごみをモチーフにした作品は小生のような並みの神経の持ち主は二の足を踏むかもしれないが…。まあ、芸術品とはそのようなものだ。万人受けするものなどそう呼べない。

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小生の油絵6号

3人のアーティストが制作・展示・販売する現場見学 丸の内・国際ビル1階(2020/10/10)

 

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優勝したアキュラ・チーム匠「閃~ヒラメキ~」(左) 右は指定張力団網中組「渡部弦」(東京大学)

 壁-1グランプリ実行委員会が主催する第3回「壁-1グランプリ(カベワンGP)」が10月25日、埼玉県行田市のものつくり大学で開催され、アキュラ・チーム匠「閃~ヒラメキ~」がトーナメントと総合優勝の2冠を獲得した。同社は前身の「木造耐力壁ジャパンカップ」から数えて4年連続、通算7回目の総合優勝で、過去最多優勝記録となった。また2010年以来史上2度目の二冠獲得となった。

 壁-1グランプリ(カベワンGP)は、実物大の木造耐力壁を組立て、2体ずつ足元を固定した状態で桁を互いに引き合わせ、どちらか一方の壁が破壊するまで行う対戦形式のトーナメント大会。

 タイトルは、材料の安価性、加工技術、組立方法、解体方法、デザイン・意匠性、耐震性など総合点の最も高いチームに贈られる「グランプリ優勝(総合優勝)」と、一番強かった壁が受賞する「トーナメント優勝」の2通り。

 トーナメント決勝戦はアキュラ・チーム匠「閃~ヒラメキ~」VS 指定張力団網中組「渡部弦」(東京大学) となり、アキュラ・チーム匠が序盤から終始優勢を保ち、試合開始の10分後の4時13分、40キロニュートンの加重の段階で指定張力団網中組が〝バキッ、バキッ、ギブアップ〟(変形が大きく、試合続行不可能の状態か)。タオルが投入された。

 審査の結果、総合優勝部門もアキュラ・チーム匠が獲得。また、デザイン部門賞、加工施工部門賞、オーディエンス部門賞も受賞するなど、タイトルを総なめしたアキュラ・チーム匠は、この日が61歳の誕生日というチームの構成員でもある東大大学院木質材料学研究室教授・稲山正弘氏にこれ以上ないプレゼントを贈った。

 表彰式でアキュラホーム・宮沢俊哉社長は「紙一重、運だけで勝てた」と喜びを語った。

 決勝戦の前に行われた準決勝第一試合は、アキュラ・チーム匠が日本建築専門学校「多貫ちver1.02」の独立柱柱脚を破壊して勝利。準決勝第二試合は、指定張力団網中組「渡部弦」がリベンジャーズ(前田建設工業)「Le:WaLL」の柱を破壊して勝利。

 参加チームはチーム匠(アキュラ+稲山先生+篠原商店)、前田建設工業、東京大学、滋賀職業能力開発短期大学校、ものつくり大学、日本建築専門学校、東北能開大、沖縄職業能力開発大学校の8チーム。

 主催者を代表して東大大学院 農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 助教・落合陽氏は来年も継続して大会を行うことを約束した。

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アキュラ・チーム匠(前列右から3人目が宮沢氏、4人目が稲山氏)

◇      ◆     ◇

 記者は3時過ぎから事務局が生配信しているyoutubeを視聴した。だしぬけに前田建設工業とともに「指定張力団網中組」なるおどろおどろしい文字が目に飛び込んできた。映像では勝敗は分からなかったが、前田建設の壁は破壊されたとのことで、指定張力団網中組が勝利したという。

 この指定張力団網中組は何者だ。王者アキュラ・チーム匠に差し向けられたヒットマンか。それにしても下馬評では優勝候補の一角と目されていた前田建設は情けない。名前にビビったか。

 しかし、指定-は強そうなのは名前だけだった。準決勝戦の段階でかなりダメージを受けていたようで、アキュラ・チーム匠に赤子の手をひねるように引き倒された。情けない!何者だ!お前は!名を名乗れ!所詮、闇社会でしか生きられない意気地なしか。

 午後4時50分の段階でも指定-の本名は不明。解体にも手間取っており、うち一人は女性の模様。虚勢を張るから負けるんだ。けがだけはしないように、早く解散したほうがいい。事情を知らないパトカーが駆け付けたらどうするのだ。あっ、今解体時間は11分2秒と発表された。これでは総合優勝も危ないのでは。

 午後5時5分。アキュラの壁の解体開始。スタッフ3人は60歳以上とか。寄る年波には勝てないか、金物を抜く音は〝ジジイ、ジジイ〟と聞こえる。壁材はヒノキか。カシノキのようにも見える。表面が美しいのはカンナ社長が削ったからか。

 おっと、速い!解体完了まで4分13秒だ。

 ポラス、三井ホームはどうした。名前がない。敵前逃亡か。これまた情けない。

 6時前に行われた表彰式の段階で、指定-は東京大学チームであることが判明した。〝師弟対決〟とあったので、どうやら稲山先生の弟子のチームのようだ。敗れたとはいえ、審査員などからの評価は高かった。来年は師匠を倒して、恩に報いるべきだ。

 この日は、22年前に開始した「耐力壁ジャパンカップ」以来大会を主導してきたアキュラ・チーム匠のメンバーでもある東大大学院木質材料学研究室教授・稲山正弘氏の誕生日(61歳か)であることも報告された。

 稲山氏は「後継者が育ってきたので道を譲り、これからは出場者に徹して参加していきたい。これまで下支えしていただいた日本建築専門学校、ものつくり大学、東大の学生さんなどに感謝したい。拍手を送りたいのは私のほう」などと語った。

チーム匠がグランプリ 初参加の三井ホームはトーナメント制す 第1回「カベワン」(2019/9/18)


 

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 日本木造住宅産業協会(木住協)は10月24日、第23回「木のあるくらし作文コンクール表彰式」を行った。新型コロナの感染拡大を防ぐため、初めてのオンラインによる表彰式となった。表彰式の模様はメディアなど関係者にも公開された。

◇       ◆     ◇

 記者はこれまでこの表彰式を8回くらい取材している。会場は毎年、水道橋の住宅金融支援機構「すまい・るホール」で行われてきた。

 途中休憩はあるが、午後の1時から5時ころまで、20人くらいの小学生が読み上げる原稿用紙にして2~3枚の作文を必死になってメモする作業は相当疲れる。それでも取材を続けてきたのは、小生は木造のファンであることも理由の一つではあるが、文字を読み、書き、朗読するのは人格形成に欠かせない教育の基本だし、子どもたちの無垢で豊かな感受性に直に触れたいからだ。

 記事も一人でも多くの関係者に読んでもらおうと心を込めて書いてきたつもりだ。その甲斐があったのかどうか、拙い記事であるにもかかわらず、毎回5,000~6,000件のアクセスがあった。

 しかし、昨年は取材を止めることにした。主催者から受賞者へのインタビューや写真撮影、年齢などについて公表を差し控えるようとの要請を受けたためだ。生の声を聞き、それを記事にすることに意味・価値があると信じる小生は、そんな要請はとうてい受け入れられないと判断した。

 そして今回。表彰式はオンライン方式で行われたので視聴することにした。時間は午後2時から3時までの1時間で、午後9時まではアーカイブで何度でも聴けることになっていた。

 いつでも聴ける-これがオンラインのいいところだが、西武ライオンズファン歴60年超の小生は〝後で聴けばいいや〟と野球中継を優先したのがいけなかった。試合はソフトバンクに完ぺきに抑えられ、九分九厘負けを覚悟した。そのとたん、中村選手の逆転満塁本塁打で劇的な勝利を飾った。後は祝宴になだれ込んだ。宴もたけなわのころには表彰式の中継はぷつんと遮断された。中身の半分も聴けなかった。

 皆さん、申し訳ない。なので書くことはないのだが、一つ、二つ言わせていただきたい。

 一つは表彰式の長さだ。コンクールには国土交通省・文部科学省・農林水産省・環境省・外務省・住宅金融支援機構・朝日学生新聞社の各賞を設け、さらには特別賞やら木住協の各ブロック彰など数十作品を表彰するのに、わずか1時間のオンライン表彰式に短縮するのはいかがなものか。作文が読み上げられたのも2作品くらいではなかったか。

 市川晃・同協会会長(住友林業会長)も「甲乙つけがたい優れた作品ばかり」と称えたではないか。審査委員長のイラストレーター・はせがわゆうじ氏も「作文は人が中心。しっかり観察して感性を磨いていただきたい」旨の挨拶をされた。長ければいいというものでもないだろうが、工夫が必要だ。参加者の記憶に残るようなものにしてほしい。

 もう一つは、作文コンクールそのもののあり方だ。プレス・リリースには「国内657校に加え、特別支援学校11校、海外からはニュージーランド・オーストラリア・インドネシアの3ヶ国3校から、合計3,674点の応募をいただきました」とある。記者はこの数字に愕然とした。2017年の22,778点、2018年の10,882点、2019年の8,611点と比べると信じられないような激減ぶりだ。

 今年は新型コロナの影響もあるのだろうが、3年前と比べると約84%も減少している。

 全国にどれほどの作文コンクールが行われているか小生は知る由もないが、作文コンクールの応募件数の激減は全国的な傾向だと聞いた。教職員と子どもの負担を軽くするためのようだ。

 このまま突き進んだらわが国の国語教育はどうなるのか。オンライン授業が加速したら子どもたちはキーボードで文字を叩きだすようになるのか。「醤油」「檸檬」「薔薇」「憂鬱」「魑魅魍魎」-みんなパソコンが瞬時にはじき出す時代になるのか。空恐ろしい。他の団体も含め作文コンクールのあり方を再検討すべきではないか。

中身は最高だが…応募半減 木住協 第21回「木のあるくらし」作文コンクール表彰式(2018/10/27)

木造建築物は不遇・暗黒の50年か、進化の50年か 木住協の懇親会で考えたこと(2018/5/26)

応募作2万点超 木住協 第20回「木の家・こんな家に住みたい」作文コンクール表彰式(2017/10/29)

木住協 第19回「木の家・こんな家に住みたい」作文コンクールに応募2万件超(2016/10/31)

木住協 第17回「木の家・こんな家に住みたい」作文コンクールに最多応募24,000作(2014/10/26)

カテゴリ: 2020年度

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発行:扶桑社
著者名:西口彩乃
判型:四六判 240ページ
定価:1540円(本体1400円+税)
発売日:2020/10/16

 取材源は明かせないが、既報のアキュラホーム広報担当・西口彩乃さんが著した「木のストロー」(扶桑社)を同社・宮沢俊哉社長は事前に読んでいないことが分かった。

 出版初日に手渡され、自宅に帰ってから3時間かけて読んだそうで、その翌日、「みんなの苦労がストレートに伝わってきて、泣けてしょうがなかった。もし、事前にチェックしていたら、カットを要求する部分もあったかもしれない」と関係者に漏らしたそうだ。

◇       ◆     ◇

 小生は、書籍紹介の記事で「読みだしたらもうどうにも止まらない。どうしてこんな内輪話まで〝赤裸々〟に暴露するのだろうと驚きもした。実に面白い。プレス・リリースは嘘ではなかった」と書いたが、よくぞ宮沢社長が出版を認めたものだとも思った。

 宮沢社長がチェックしなかったのは大正解だし、内容に深く関わっていないのもいい。

 宮沢社長が登場する場面は少ない。西口さんと「堀越課長」が呼ばれた酒席で、「夜の食事会は和やかな雰囲気だった。社長お気に入りのローストビーフの店で、社長の大好きな赤ワインで乾杯。とても上機嫌な社長に、木のストローの相談をしたい気持ちが喉元までこみあげた。それをぐっと抑え、仕事やプライベートの話などをして楽しく過ごした」(19ページ)とあるくらいだ。

 出版に関わったスタッフも立派だ。社長の意向を忖度などしていたら読者に感動を与えられない。端から屑箱に捨てられるビジネス本になっていたはずだ。

 ここまで赤裸々に書けたのは、同社が非上場であることも理由に挙げられる。宮沢社長に拍手喝采だ。会社は株主だけのものではないし、社員やその家族、取引先、そして社会全体のものだと思う。このような社風を維持し続けていただきたい。公益資本主義は時代の流れではないか。

◇       ◆     ◇

 宮沢社長が事前検閲しなかったことを伝えるのがこの記事の目的だが、もう一つ、書きたいのは「木のストロー」のテレビドラマ化の可能性についてだ。

 「木のストロー」をテレビドラマ化すれば、視聴率が長期低迷・凋落しているフジテレビの起死回生策、例えていえば今日(10月24日)のCSに夢をつなぐ西武・中村選手の逆転満塁本塁打になるのではないかと思う。あらゆる世代に人気の米倉涼子さんが主演のテレビ朝日「ドクターX~外科医・大門未知子~」(観たことはない)を蹴散らすのではないか。

 いま「労働者」「無産階級」「プロレタリアート」という言葉は流行らないだろうから、「オフィスワーカー」「ワーキングウーマン」「ワーク女子」に置き換えた悲喜劇ドラマは万人に受けるのは間違いない。

 キャストも分かりやすい。立命館大学理工学部卒の30歳前後(未既婚かは不明だが多分独身)、小柄でかわいくて、方向音痴で、一見して運動とは無縁のはずなのにチアリーディングのトップ(一番上に上る人か)を務める広報担当の西口さんにぴったりの女優さんはいるはずだ。

 相手はちょっと悩ましい。さしずめ上司と部下の板挟みに右往左往する優柔不断の「堀越課長」だろうが、ラブロマンス風に仕立てるのは無理がある。実在のお二人に〝愛〟が芽生える雰囲気は露ほどもない。ならば、アイガー北壁のよう立ちはだかる女性の「鈴木役員」はどうか。〝女の闘い〟は永遠のテーマの一つだ。

 脇役にも実力派がそろっている。木のストロー開発のきっかけとなった竹田友里さんは実名で登場するのもいいかもしれない。2人が悩みこどを相談するシーンは絵になる。

 「A記者」の役割も大きい。西口さんを罵倒するシーンは迫力がある。なぜか記者という職業の人はすぐ感情を爆発させる人が多い。この種の記者を小生もたくさん知っている。警察を呼ぼうかと思ったこともあるし、「帰れ!」と一喝された人とは今でも口を利かなない。

 横浜市の高橋知宏氏も重要な配役だ。役者としての素養は不明だが、SDGs推進役としてぴったりだ。西口さんが「スーパーマンみたいな方」と書いているように、とても役人とは思えない魅力的な人だ。熱く語るはずだ。

 「木はふってから掃除するんや!」と怒鳴る指導係、「時代も変わったと」呆れかえる支店長も仕事の現場を伝えるには欠かせない人材だ。

 伊藤圭子顧問と前国土交通省・伊藤明子住宅局長は、ここだけはフィクションとして国土交通省の姉妹局長として登場してもらう。

 宮沢社長をどうするかだ。主役でも脇役でもない影の権力者として描くか、些事には関知しない経営者にするか、人情味あふれるカンナ社長そのままにするか。

「ド素人 女子社員の赤裸々の体験」綴る 西口彩乃さん著「木のストロー」発行(2020/10/17)

知の富者か情の賢者か 「姉妹ではありません。国交省の先輩後輩」アキュラ伊藤氏(2018/5/28)

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 日本政府観光局(JNTO)は10月21日、2020年9月の訪日外客数(推計値)が13,700人(前年同月比99.4%減)となり、12か月連続で前年同月を下回ったものの、6か月ぶりに1 万人を超えたと発表した。

 10月1日から、一部の国とビジネス上必要な人材や留学、家族などの在留資格も対象とした「ビジネストラック」や「レジデンストラック」の運用が開始されており、今後の動向が注目される。

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エアロテック概念図

 三菱地所ホームは10月20日、after&withコロナの新しい生活様式に即応するため、全館空調システム「エアロテック」をグレードアップした「新・エアロテック-UV」、都市部の構造資材搬入の問題を解決するトラス床根太「スペーストラス」、マンションリフォームの新メニュー「STYLE-FORME(スタイル・フォルメ)」の3つの新商品を発売すると発表した。

 「新・エアロテック-UV」は、日機装が開発した空間除菌消臭装置「深紫外線LED」とエキスパンド光触媒フィルターを「エアロテック-UV」に装備することでウイルスの除去、消臭とVOCの除去、アレルゲンの除去を可能にするもの。

 従来品では年1回のランプ交換が必要だったのが、10年間機械交換の必要性がなくなり、年1回のフィルター洗浄も容易になるなどメンテナンス性も向上したのが特徴。価格は253.7万円(41.57坪、税別)。10月20日から受注を開始する。

 「スペーストラス」は、旗竿地や道路幅員が狭い敷地では長尺の構造資材の搬入は難しかった問題の解消を図るもの。根太を2分割し重さを108キロから37キロに軽くし、連結金物を用いて現場で組み立てることで、従来は4トントラックが必要だったのを2トントラックでも搬入可能とした。

 これにより、同社独自の構造部材を用いても7P(6.37m)スパンの空間が限界だったのを、最大8P(7.28m)×8P=約53㎡とRC造に匹敵する大空間を可能にした。無理な搬入に伴う事故リスクを回避し、施工者の負担も軽減する。

 「STYLE-FORME(スタイル・フォルメ)」は、新型コロナにより顧客のニーズが多様化しているのに対応するもの。従来の598万円から498万円に値段を下げ、オプションもプラスもマイナスも価格を明示する。オンライン打ち合わせを行うことで顧客の利便性も高める。

 発表会に臨んだ三菱地所ホーム代表取締役社長・加藤博文氏は「新型コロナによって時代の変化は加速しているなか、わたしどもは三菱地所という大きなブランドを背負っているが、会社としてはスモールプレーヤー。だからこそできる機動的、速さで時代の変化に対応していく。前回の『ROBRA(ロブラ)』もそうだが矢継ぎ早に様々な提案を行っていく」としたうえで、3つの新商品の開発経緯、狙いなどを説明した。

 「新・エアロテック-UV」については、「当社は2014年から『エアロテック-UV』を発売しているが、新型コロナによって換気、除菌の重要性がより一層高まっていることから、日機装さんの技術を採用することにした。日機装さんは早くから深紫外線LEDに着目され、2014年にノーベル物理学賞を受賞された赤崎教授、天野教授とともに技術開発されてきた。新型コロナは十分解明されておらず、新商品は見切り発車的な部分もあるが、現時点で一番有効なウイルス対策、除菌機能が付いた装置と考えている」と説明した。

 「スペーストラス」については、「コロナの影響で戸建てを求める顧客が増えている一方で、条件のいい土地情報が減少しているのに対応するため、従来だと検討しにくかった道路状況が悪い土地とか旗竿地でも資材の搬入を可能にした。職人さんの負担を軽減し生産効率、安全性にも貢献できる。時代の要請に合致している」と語った。

 「STYLE-FORME(スタイル・フォルメ)」については、「従来の定額制の『Re Dia』はフルリフォームを前提にしていたが、コロナ禍で様々なニーズが顕在化している中で、もっと分かりやすく、工期を早く、リーズナブルなものに進化できないかと考え開発した。オプションもプラスもマイナスもすべて明らかにした」と話した。

 日機装社長・甲斐敏彦氏は「当社は日本で50%以上の市場シェアを誇る血液透析装置を扱うメディカル事業を柱の一つとして展開している。深紫外線LEDの新型コロナに対する有効性は宮崎大学医学部との共同研究で実証した。10秒の照射で99.9%以上、1秒でも87.4%減少できることがイギリスの科学誌などで発表されている。今年1月に販売開始した『Aeropuer(エアロピュア)』は新型コロナに対応するために開発したものではないが、一般家庭でも求められる社会に変化したことを実感している。当初想定していた計画の数十倍の引き合いを頂いている状況」と述べた。

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加藤氏(左)と甲斐氏

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深紫外線LED(左)と新・UVクリーンユニットの仕組み

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「スペーストラス」施工例

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「スペーストラス」トラス接合イメージ図

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厳しい敷地条件イメージ図

◇      ◆     ◇

 冒頭、司会役を務めた経営企画部広報戦略グループ・横須賀直人氏は「安心で分かりやすい記者発表と質疑応答を行わせていただきます。先月はきれいな会場で、テレビ局さんにもおいでいただき、当社としては派手目な記者会見でしたが、本日はいつもの手作り風ではありますが、発表内容はなかなかの今風でありまして、私たちスタッフが心を込めて説明させていただきますので、ぜひぜひ大きく取り上げていただきたいと思います…また、皆さんのデスクの上には空間除菌消臭装置の「Aeropuer(エアロピュア)」を置かせていただきまして、確かなことは言えませんが、コロナ禍の今、もっとも安心な記者発表会ではないかと思っております」などと、いつものように軽妙洒脱な語りでもって切り出した。軽佻浮薄そのものの小生はこの言葉の意味するところを探ることで頭がいっぱいになり、前回の「ROBRA(ロブラ)」同様、盛りだくさんな内容に頭が空転するばかりだった。

 「新・エアロテック-UV」は専門用語が多く、トラックは4トンと2トンの区別もつかない小生にとって「スペーストラス」の開発がもたらす意味・価値がよく分からなかった。深紫外線LEDの新型コロナに対する有効性や、トラス床根太がRC造に匹敵する性能を持つことを信じるほかない。これによって世の中がどう変わるのか、読者の皆さんの判断に委ねることにする。

 それでも、マンションリフォームの新メニュー「STYLE-FORME(スタイル・フォルメ)」はよく理解できた。これは分かりやすい。間違いなく他社との価格的競争力がある。

 横須賀さん、リリースは9枚、コピペするのは容易ですが、そんなことしても意味がないのでここまでとしました。御社が意図したことを伝えられたでしょうか。一部分だけ文字を大きくしました。コロナ禍での記者発表・見学会の多さは三菱地所グループが断トツ。感謝します。

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記者発表会場(記者席には8畳用で6.4万円の「Aeropuer(エアロピュア)」が2人に1台、計10台置かれていた(日機装さん、LEDを照射すると右手前の人のようにウイルスが光る装置は開発できないか)

三菱地所ホーム 木造の常識を覆す新構法「FMT」 富裕層・非住宅用途に照準(2020/9/4)

勝負に出た 三菱地所ホーム エアロテック+フルリフォームで1,100万円(2017/10/20)

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「絵画&墨書」絆展 打ち上げ(銀座で)

 銀座アートホール(中央区銀座8丁目)で行われていたOSI (沖縄観光産業) 研究会会長で明治大学名誉教授・百瀬恵夫氏と同研究会代表・篠原勲氏が主催する「絵画&墨書」絆展が10月18日(日)、閉幕した。1週間の入場者はマンションモデルルームをはるかにしのぐ約300人に達した。

 閉幕後の打ち上げで百瀬氏は、「自画自賛するのもなんだが、〝能ある鷹〟の爪を隠していた。能力はあった。篠原さんと一緒に鎌倉の教室に1年間通った。月に2回、年間24回。絵画では篠原さんは先輩だが、学ぶところはなかった。動機づけしていただき、高い会場費を折半していただいたことに感謝申し上げる。それと受付を担当していただいた薬丸さん奥山さんにも感謝申し上げる。二人がいなかったらできなかった。ありがとうございました」などといつもの〝百瀬節〟で締めくくった。

 篠原氏は、「これほど大盛況だったのは人を引き付ける百瀬先生の人徳のたまもの。出品された皆さんにも感謝いたします。「絆」は糸偏に半分の半。これは先生の好きな言葉「道」に通じるもので、中島みゆきさんの〝赤い糸〟は色恋だが、われわれは白と黒…ちょっとこれは具合が悪い…純白の白い糸で結ばれている」などと、酒が入ったせいかどうかは分からないが、絆に勝手な解釈を加え、百瀬氏が作詞し、プロの山本寛之氏が作曲した「武士(もののふ)」を熱唱した。(水彩画も素晴らしいが、歌唱力は百瀬先生をはるかに凌駕し、歌手デビューも果たせるかも=記者注)

 茨城県利根町の敷地が1000坪もある〝豪邸〟から奥さんと車で2時間以上かけて駆け付けたために酒は一滴も飲めなかった玉川憲志氏は、出品者を代表して「大盛会。10人ほどの仲間も驚嘆していた」とあいさつした。

◇       ◆     ◇

 出品者の奥山曄光氏、薬丸順子氏の師匠であり毎日書道会総務・審査会員、創玄書道会常務理事、日展会友を務める渡部會山氏は「普段の墨書展は他流試合のようなもので、弟子を集めてやったことはない。今回は二人に無理やり出品させられた」と語ったが、まんざらでもなさそうだった。(弟子は圧倒的に女性が多いそうだが、苦労も多いようだ)

 記者は、「御酒肴料」と認められた先生ののし袋を半ば強奪(中身ではない、ただの袋)するように頂いた。これはコピー&ペーストすれば何度でも使えそうだ。オークションにかけられるかもしれない。「封じ手」くらいの値はつかないか。

 もう一つ。國分絮虹氏から2020年12月20日(日)~26日(土)まで銀座ギャラリー青羅」で行われる「國分絮虹 個展」の案内状と、正岡子規の高弟として高浜虚子と並び称される俳人・河東碧梧桐(1873~1937)の全集20巻を編んだご主人(昨年亡くなられた)の資料を頂いた。

 資料の一つを紹介する。ご主人は「(碧梧桐)の業績を正しく理解する人はなく、一つの全集さえ編まれなかった。私は自らの使命として、この『河東碧梧桐全集(全20巻)』を提供する。日本詩歌をダメにし、日本人の感性をネムラせた教育者、既成の詩歌俳壇への大いなる警鐘として-。日本人が再び品格を取り戻せるとしたら、ここにこそ鍵があろう。(平20・4記)」(図書新聞2871号)と述べている。

 小生は詩歌をほとんど読まないが、美しい大和言葉にはとても興味がある。20巻は無理だが、挑戦したい。

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渡部會山氏が認めた熨斗袋の表書き

モネ〟百瀬・明大名誉教授と〝マネ〟篠原・OSI代表の絆展 初日大賑わい18日まで(2020/10/13)

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岡本さんお勧めの地ワイン「おっぱまワイン」(2018年2月写す) 

  2018年に取材したNPO法人さくら茶屋の理事長・岡本溢子さんからメールが届いた。

 さくら茶屋は今年10周年を迎え、その活動を一冊の本「さくら茶屋物語」としてまとめ、全国に「つながる居場所」があったらいいなぁと思っている方々に届けるためのプロジェクトを立ち上げ、クラウドファンディングで資金を集めるとのことだった。

 小生も早速、賛同し雀の涙ほどの寄付をすることにしたのだが、クラウドファンディングサイトによると、2021年1月23日までに100万円を集める目標に対して、10月17日現在、支援者は17人で支援額は14万円(達成率14%)だった。

 読者の皆さんもぜひこの活動を広め、支援していただきたい。

 詳細は朝日新聞のA-PORTで。

https://a-port.asahi.com/projects/sakurachaya/

住民主導のもう一つの「奇跡の街」 横浜・金沢文庫 西柴団地「さくら茶屋」見学(2018/2/14)

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発行:扶桑社
著者名:西口彩乃
判型:四六判 240ページ
定価:1540円(本体1400円+税)
発売日:2020/10/16

 最初、西口さんが自ら著者となり「木のストロー」本を出版すると聞いたときは、だれかゴーストライターに依頼したアキュラホームの企業出版(ビジネス本)の類だろうと思った。世にどれほどこの種の本が出版されているか分からないが、売れるのはせいぜい数千冊、出版された端から忘れ去られるものがほとんどのはずだ。そんな無価値なものを出してどうするのだろうと心配もした。

 同社が10月8日に発表したプレス・リリースには「主人公は著者である、広報担当の女子社員。建築やものづくりに縁の遠い、環境問題もド素人の本社勤務女子社員が、間伐材再利用と廃プラ問題解決のため、世界初木のストローの開発に立ち上がりました。社内の反発、失敗続きの試作品、記者会見当日の大トラブルを乗り越え、木のストローが生まれるまでの成功秘話と心の葛藤を綴っています。挫折しそうなときに、助けてくれた仲間や上司、ひどく傷つけられた一言、逆に元気づけられた言葉など、若い女性の視点で赤裸々に体験談を語る全部実話の本格ドキュメンタリー」とあったが、疑ってかかるのが記者の基本、この時点でも話半分に受け取っていた。

 まあ、しかし、同社の宮沢俊哉社長が好きだし、「木のストロー」も応援したいので、本にも登場する「堀越課長」から頂いた本を読みだした。

 読みだしたらもうどうにも止まらない。どうしてこんな内輪話まで〝赤裸々〟に暴露するのだろうと驚きもした。実に面白い。プレス・リリースは嘘ではなかった。

 テーマは「木のストロー」だが、会社は何を目指すべきか、仕事とは何か、広報とメディアの関係、上司と部下、記者の役割などを考えるのに最適だと思う。

◇       ◆     ◇

 西口さんは、同社に入社した2012年のころ、いかに「日報もまともに書けないだめっぷり」だったかを告白しているので紹介する。

 「『本日の課題』は『ぼーとしない』。『気になった新聞記事』は、『明日から見ます!』という記述が数日続いている。同期はみんな、消費税や太陽光、税制など住宅に関する記事について書いていたのに、私ときたら書いた時でも、『アドベンチャーワールドでパンダが誕生』、『今日は夕方から雨が降るみたいです』という体たらくだった。

 漢字もよく間違えた。言葉遣いがなっていないと怒られ、百貨店の店員さんの言葉遣いを勉強してこいと、百貨店に行かされたこともあった。営業なのにマニキュアを塗っていて、あきれた支店長は『時代はこうも変わってしまったのか』と嘆いていたそうだ」(31ページ)

 「入社後早々、車で帰宅する途中、大きな事故を起こしてしまう。自損事故で幸いけが人はなく、私も奇跡的に無傷だったが、新車で買った車は即廃車。頭を打ち、救急車で病院に運ばれる騒動となった」(32ページ)

 ところが、どうしたことか、車なしの営業で「約1年後、営業成績が、全営業の中で三位、私が所属する等級ではトップになった」(34ページ)とあるではないか。

 その後、東京勤務に異動するが、「『ある朝出勤すると』『西口さん、本社の広報に異動してください』唐突にそう告げられた」(36ページ)

 「木のストロー」に取り組むきっかけになったのは、「2018年8月、お盆休みのさなか、環境ジャーナリストの竹田有里さんら一本の電話がかかってきた…『アキュラホームで木のストローをつくれないかな? 』唐突に、世間話もなく、そう聞かれた」(12ページ)

 しかし、そんな話が会社の稟議に通るはずはない。「(上司の堀越課長に)今回は絶対引き下がってほしくなかったのだが、鈴木役員の逆鱗に触れてしまった。

 『何、言ってるの!うちはストローの会社じゃないでしょ!それでもやりたいと言うならストローの事業計画をつくって役員会に出しなさい!でもそんなことしている暇あるの!? 』鈴木役員の大声が聞こえてきた」(18~19ページ)

 その翌日、堀越課長は鈴木役員からつくば支店に異動を命じられる。西口さんはその後、鈴木役員に直談判して許可を得るのだが…。

 「木のストロー」の反響の大きさについては次のように書いている。

 「(2018年)発表当日の取材は計47社。当日や翌日の新聞、ウェブニュース、ニュース番組やバラエティ番組でもたくさん紹介された。2020年9月現在までに、テレビ、ラジオが61回、新聞の一般紙で77回、専門紙は123回、ウェブメディアでは251回取り上げられていただいている」(116ページ)

 そして、西口さんは「2019年は自社製造、G20での採用、横浜市との地産地消モデルなど、私にとっては、大しけの海で荒波に翻弄されるような一年だったが、ここにきて、ようやく港が見えた気がした」(208ページ)と締めくくっている。

◇       ◆     ◇

 泣く場面もしばしば登場する。

 「『約束破り』『考えられない』『信じられない』とすごい剣幕で怒鳴られ、私は言葉を返すこともできなかった。一番言われたくなかった人に言われてしまった…」(128ページ)

 「A記者はずっと怒鳴っていた。私はただ、A記者の話を聞いていた。そうしてかなり長い時間が過ぎ、電話は切れた。私は、入社以来、初めて泣いた」(130~131ページ)

 「控室に戻ると山本さんがいた。私の顔を見るなり、号泣し始める」(214ページ)

 「私が喜びをかみしめている隣で、山本さんはまたウルウルと目を潤ませていた」(220ページ)

 「このときばかりは、涙が出そうなほどうれしくて、ウキウキしながら会場に向かった」(221ページ)

◇       ◆     ◇

 あんな芸当ができるなんて信じられないが、西口さんは趣味のチアガールについても触れている。

 「チアを始めたきっかけは、(立命館)大学で3K(きたない・きつい・きけん)といわれていた土木を専攻したものの勉強には身が入らず、チアリ―ディングの3K(かわいい・きれい・キラキラ)に憧れたことだ。

 チームに入ると、身長が小さい私は、トップというポジションにつくことになった。トップは宙を飛び、技を披露する。一見すると華やかだが、実際は、さまざまな技を習得しなければならず、自分が失敗すれば、チームの責任になった」(46ページ)

◇       ◆     ◇

 実は、この本に小生も登場する。以下に紹介する。

 ◇

 最後に手をあげたのは、いつもお世話になっている住宅系専門紙の年配の記者だった。

 「ワクワクしてうれしくなっちゃいます。このホテルは僕が一番好きなホテルの一つで、デザインがすごく美しいと思っています」

 唐突に話し始めたその記者の方は、ヒノキなどではだめなかのかという質問に続いて、記者から、導入のコストや間伐材のコストなどの質問が多かったことについて、

 「みなさんコストのことばかり話されますけど、有害なものと有益なものを同じ土俵にのせて戦わせること自体、僕は間違っていると思います」

 と、強い口調で語った。さらに、

 「雇用の問題や森林事業の問題をみんなで考えていくべきではないでしょうか。プラスチックをやめてこういうものをどんどん使うべきだと思いますが、いかがでしょうか」

 と問い、マイクを持った伊藤顧問が、一瞬、言葉に詰まった。ほかの記者の方もあっけにとられたようだったが、私はうれしかった。発表の会場で、記者の方がそんなふうに言ってくださることなど、これまでなかった。

 私たちは本当にこの日のためにやってきたんだ……。

 実感がわいてくる。今までの苦労がすべて報われた気がした。

 ◇

 「年配の記者」とは小生のことだ。確かにこの通り質問した。少し補足すると、木造ファンの小生は、性質が異なる鉄やコンクリの土俵に木造を引きずり込んで戦わせるのに辟易している。それぞれがコストでは計れない価値を持っている。その計れない価値を見出し、記事化するのがわれわれの役割だ。

 「木のストロー」が成功したのは、廃プラ・脱プラ、木造の時代、SDGsの流れに合致したからだと思う。西口さんも「ここにきて、ようやく港が見えた気がした」(208ページ)と書いているように、この事業は緒に就いたばかりだ。 

 アキュラホームと西口さん、ストローをつくっているシルバー人材の方々、障がい者施設の皆さん、頑張ってください。廃プラに踏み切れない企業の社長さん、そのうちに世の中から見捨てられますよ。

アキュラホーム「木のストロー」「rooms 41」に出展(2020/10/15)

世界初のカンナ削りの「木のストロー」 アキュラホーム 「Rooms40」に出展(2020/2/23)

〝木を愛する人は美しい〟 アキュラホーム1,000万本の木のストローPJ 始動(2020/1/19)

横浜版「SDGsストロー・ヨコハマ」1本50円で販売開始 麦わらストローはどうか(2019/11/7)

アキュラホーム&キャピトル東急 世界初の「木材ストロー」開発・導入へ(2018/12/11)

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