「デフレ脱却には都市と地方の活力向上が不可欠」 不動産協会・菰田新理事長
不動産協会総会(ホテルオークラ別館で)
不動産協会は5月17日、定時総会を開催した。新理事長に就任した菰田正信氏(三井不動産社長)のあいさつ文を紹介する。
菰田理事長
本日、不動産協会の理事長に就任いたしました菰田でございます。
開会にあたり、一言ご挨拶申し上げます。
本日は、公務ご多忙中にもかかわらず、末松信介国土交通副大臣をはじめ、政務三役の皆様方にご出席賜りますとともに、日頃からご支援、ご協力をいただいております関係省庁や友好団体、報道関係の皆様、多数のご出席をいただき、誠にありがとうございます。
本日の総会で役員の改選が行われ、私、菰田が理事長に就任させていただくこととなりました。
重責ではありますが、不動産業界のさらなる発展に向けて、全力を尽くしてまいりたいと存じますので、どうぞよろしくお願いいたします。
また、木村前理事長には、会長に、岩沙前会長には、相談役にご就任いただきました。お二人には、今後とも高い見地からご指導いただき、引き続き協会の活動にお力添えいただきたいと考えております。
さて、我が国の経済は、緩やかな回復を続けておりますが、世界経済については様々なリスクを抱えており、先行きの見通しは不透明な状態です。そうした中、デフレ脱却を確実なものとしていくためには、都市と地方のさらなる活力向上が不可欠です。
経済の力強い成長を実現するためには、地方創生の推進とともに、それを牽引する大都市の国際競争力を高めていかなければならなりません。
また、良好な住宅ストックを形成するために、建替などによる新規ストックの供給と既存住宅の活用はともに重要で、まさに車の両輪です。
さらに、新技術の進展、働き方や価値観の変化といった時代の動きにもしっかりと対応していく必要があります。
こうした観点から、今年度は次の活動に重点的に取り組んでまいります。
第1に、時代を先取りするまちづくりの推進や、柔軟な都市政策の実現に向けた活動です。
具体的には、用途の複合化への対応や、エリアマネジメント活動の充実、再開発事業の円滑化などに取り組んでまいります。
第2に、豊かな住生活の実現に向けた活動です。
良好な住宅ストックの形成を図るために、マンション建替方策の改善や、新技術の活用などによる質の高い住宅の供給促進に努めてまいります。
また、少子化や高齢化の進展を踏まえ、近居や二地域居住の推進など、多様化する住宅ニーズに対応するために必要な施策について検討いたします。
第3に、税制改正に関する取組みです。
平成30年度税制改正については、土地の固定資産税の負担調整措置や新築住宅の固定資産税の軽減など重要な特例が期限切れを迎えますので、延長の実現に向けて積極的に活動してまいります。
また、地方創生や生産性の向上などの政策推進に必要な税制の検討を行い、要望してまいります。
そのほか、環境への取組みや不動産業の事業環境整備を引き続き進めてまいります。
また、AI、IoT、ビッグデータの活用やそれに伴う経済・社会の変化が見込まれる中で、不動産事業やまちづくりとの関連について研究していきたいと考えています。
不動産協会としては、これらの活動を通じ、魅力的なまちづくりや豊かな住生活の実現、さらには我が国経済の成長に貢献していきたいと思っております。
最後に、本日ご参集の皆様方の当協会へのご支援・ご指導をお願い申し上げまして、ご挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。
野村不HD 中井会長も沓掛社長も買収報道に「ノーコメント」
不動産協会の定時総会が5月17日行われた。同協会相談役の岩沙弘道氏(前会長、三井不動産会長)が今年春の叙勲で旭日大綬章を受賞し、同協会の新しい理事長に菰田正信氏(三井不動産社長)が、前理事長の木村惠司氏(三菱地所取締役)が会長にそれぞれ就任するなど話題が多い総会となったが、先週末、日本郵政が野村不動産ホールディングスの買収を検討するとのニュースが会場内でも大きな話題となった。
記者も〝時の人〟野村不HD会長・中井加明三氏と同社社長・沓掛英二氏にコメントを求めたのだが予想通り空振りに終わった。
中井氏に「わたしは野村不HDにとって千載一遇のチャンス、相思相愛と書いたがどうですか」と尋ねたら「ほう、そういう見方もあるかね。ノーコメント」と断られた。
沓掛氏も「ずいぶんマスコミに追いかけられたが、ホームページに発表した通り(本日、一部の報道機関において、当社の買収に関する報道がありましたが、これは当社が発表したものではございません。現時点において開示すべき事項はございませ)。愚直に未来につなぐ街づくりを進めていく」としか語らなかった。
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記者はニュースを聞いて、野村不HDにとって「郵政の土地は垂涎の的」「千載一遇のチャンス」「(買収は)相思相愛」と書いた。中井氏からも沓掛氏からも何のコメントも引き出せなかったが、記事は間違っていないことを確信した。
一部には、郵政の大規模ビル用地は残っていないのではという声もある。確かにそうかもしれないが、ある業界関係者は「マンション用地は魅力ある。かんぽの宿もある」と話した。あの「かんぽの宿」問題はその後どうなっているのかわからないが、確かにデベロッパーにとってはこれまた垂涎の的だろう。
郵政、野村不の買収検討〟 野村不HD千載一遇チャンス 業界再編の起爆剤に(2017/5/13)
釈然としない国交省の「かんぽの宿」不動産鑑定士に対する処分(2011/8/29)
野村不HD 東証株式市場 ストップ500円高 終値2,528円 大量の買い注文さばけず
日本郵政が野村不動産ホールディングスの買収を検討していることが先週末に報じられたのを受けて5月15日の東証株式市場の野村不HDは買い気配で始まり、結局、大引けは値幅制限いっぱいの前日比500円高の2,528円で比例配分となった。出来高は514,200株。買い注文の8分の1くらいしかさばけなかった。
好決算を発表した三井不動産も前日比109.5円高の2,668.5円で始まり、住友不動産、三菱地所、東京建物、東急不動産、NTT都市開発など不動産株も前日比高でスタートした。
〝郵政、野村不の買収検討〟 野村不HD千載一遇チャンス 業界再編の起爆剤に(2017/5/13)
並以下のチラシでも歩留まり29% 34戸が売れる ポラス「ルピアコート西大宮」
ポラスグループの中央住宅マインドスクェア事業部が5月12日、西大宮駅圏で初の分譲マンション「ルピアコート西大宮」の記者見学会を行った。
モデルルームを4月15日にオープンし、23日に優先分譲として18戸を供給し全て申し込み済み。引き続き29日に44戸を供給し、16戸に申し込みが入ったという。優先分譲と合わせ34戸が成約・申し込み済みだ。来場者は約120件だから、歩留まりは29%に達している。
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この物件については1カ月前に取材して記事にしているのでさちらを参照していただきたい。付け加えるのは販売状況と坪単価くらいだ。
最初に見学したとき「これほど魅力的なマンションであるにも関わらず、チラシは並以下だ。企画意図が全然表現できていない。記者なら『ルンバだけじゃない。働く主婦に嬉しいこれだけの魅力』とでも見出しにつけて、他社にない少なくとも50くらいのアイテムを盛り込んだチラシにする」と書いた。
そんな並以下のチラシでも120組の来場者があり、34戸の成約・申し込みがあるというのだから、来場者にその良さをアピールできたのだろう。来場者の約半数が分譲戸建ても検討しているというから価値がある。分譲戸建ても玉石混交だから、来場者がどのような戸建てと比較検討したかはわからないが、まちがいなくこのマンションは勝てる。何度もいうが、このマンションの価値をわかりやすくチラシに盛り込んで訴求する必要がある。
価格について。最初の記事では「坪180万円くらいが妥当とはじいたが、予定価格からするともっと低くなる。設備仕様レベルからすれば極めて割安感がある」と書いた。170万円という坪単価は納得だ。大宮以遠でどれだけのマンションが分譲されているかわからないが、このマンションのレベルを超える物件はまずないはずだ。他物件との比較をきちんとできるかどうか。販売力にかかっている。
もう一つ、「ピアキッチン」について。これがスグレモノであることは何度も書いた。標準装備のバックカウンター・収納を含めこれほどの機能をリビング・ダイニング・キッチンに収めようとしたらまず100㎡は必要だが、ここは70㎡台で提案できている。
物件名は出せないが、このピアキッチンとよく似た都心の億ションのモデルルームで見たことがある。
これほど働く主婦の目線に立ったマンションはないポラス「ルピアコート西大宮」(2017/4/12)
ポラス中央住宅・金児正治部長の描く「複合開発」 官との連携欠かせない(2017/5/13)
ポラス中央住宅・金児正治部長の描く「複合開発」 官との連携欠かせない
「マンション事業の売り上げは前期77億円だったが、今期は100億円を目指す。向こう3年間分の用地も取得できた。今回の『西大宮』を第一弾に、第二弾の『浦和美園』、第三弾の『西葛西』、第四弾の『市川』など複合開発を進めていく。ブランド戦略の構築も進める」-ポラスグループの中央住宅取締役事業部長・金児正治氏が5月12日行われたJR埼京線・川越線西大宮駅圏初の分譲マンション「ルピアコート西大宮」記者見学会で、マンションと戸建てなどの複合開発を一層進めると語った。
金児氏は4年前、このような複合開発やJV、再開発、リノベーション、建て替えなどに力を入れていくと語った。このうち建て替えだけはまだ着手できていないが、他の事業は着々と進んでいる。
今回改めて金児氏の意気込みを聞いたのだが、記者は考え間違いをしていたことに気がついた。金児氏の考える「複合開発」は記者が考える複合開発とは雲泥の差があることだ。
一つの区画にマンションと一戸建ての複合開発は多くはないが各社も取り組んでいる。記者はそのような複合開発を同社が進めるものだと理解していた。
しかし、どうもそうではないことが分かった。もっとスケールの大きいものだ。西大宮駅圏ではすでに分譲戸建ての実績があり、今後、土地区画整理事業による街づくりが進むのに狙いを定め、街全体をグラウンドとしてマンションや戸建ての開発を進めるのだという。
「浦和美園」「西葛西」「市川」なども同様だ。それぞれの拠点を抑えることで、同社が主導して街づくりを進めようということのようだ。
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金児氏の考えに大賛成だ。同じような面として街づくりを展開しているのはデベロッパーでは三井不動産くらいだ。同社は日本橋を拠点に、これまで舞浜、佃、豊洲、芝浦、新川崎、川崎、新三郷、柏の葉などで商・住などの大規模複合開発を進めてきた。
金児氏が考えている複合開発は三井不のそれとはやや異なるが、記者が欠かせないと思うのは街のポテンシャルを上げる取り組みだ。
西大宮も確かに整然とした区画が整備されつつあるが、街路樹が貧しく、建物の形状がまちまちで外壁の色、道路からのセットバックなども全然統一感がない。これは行政の責任でもあるが、街並みを統一する地区計画やガイドラインを定めないと街の価値は上がらない。
越谷レイクタウンがそうだ。ここは立派な戸建て群と貧しい戸建て群が混在する。官に任せきりだからこうなる。民が積極的に街づくりに関与していかないと成功しない。
〝郵政、野村不の買収検討〟 野村不HD千載一遇チャンス 業界再編の起爆剤に
大変なニュースが飛び込んできた。「雄星」の快投に歓喜し、西武の大勝に酔いしれて床に就いたときだ。かみさんが声を掛けた。「ねえ、ユウセイが野村不動産を買収するってよ」「? …」
「まさか、ありえない。誤報だろう」と思ったが、朝早く起きて確認したら、日経も朝日も読売も3~4段見出しを使って1面トップで報じていた。
日経には「郵政、野村不の買収検討」の見出しで「郵政グループで都市部に持つ商業施設を活用し不動産収入を伸ばすため、野村不動産の開発ノウハウを得て収益基盤を強化する狙い」とあった。
日本郵政側の思惑、狙いについては読売も含め各紙を熟読していただきたい。みんな似たり寄ったりだが。
野村不動産ホールディングス側にとってはどうか。野村不HDはマンションブランド〝プラウド〟こそどこにも負けない開発・商品企画力があるが、ビル・商業事業に注力はしているものの三井不動産、三菱地所、住友不動産には大きな差を付けられており、総合力では太刀打ちできないのが現状だ。
仮に郵政傘下に入れば、財閥系3社と肩を並べることが一挙に可能となる。マンション市場についていえば、今後縮小するのは間違いない。適地の取得を巡って大手を中心とする争奪戦は激化する。勢い用地費は高騰する。それを避けるため、各社は共同戦線を張っているのが現状だ。
一方、郵政が保有する郵便局などの施設は全国に2万数件あるという。このうち3分の1が大都市部としても8千件だ。さらにマンションやオフィス・商業施設用の適地が半分としてもなお4千件くらいはあるはずだ。その用地はデベロッパーにとっては垂涎の的だ。
野村不HDが郵政傘下に入れば随意契約で格安の用地が手に入る。こんなおいしい話はない。〝果報は寝て待て〟仕入部隊は寝ていても適地が手に入る。向こう10年間くらいの用地は手当てできるのではないか。
野村不HDの株式の33%を保有する野村ホールディングスとの「交渉は難航する可能性もある」と報じているところもあるが、野村HDも野村不HDもこれは千載一遇のチャンスだ。逃す手はない。(相思相愛、双方ともすでに乾杯しているのではないか)
今回のニュースは、不動産・マンション業界の再編を促す。三井、三菱、住友の3強はもちろん東京建物、東急不動産、大京、NTT都市開発、伊藤忠都市開発などのデベロッパーや大和ハウス、積水ハウス、旭化成ホームズなどのハウスメーカーも参戦して激しい陣取り合戦が展開されるはずだ。
経営者は寝ていられない。うっかりするとそれこそ寝首をかかれる。大変な時代になってきた。
アキュラホーム 「木望(きぼう)の未来pro」 2016年度は学習机天板1,166枚寄贈
アキュラホームは5月10日、子どもたちに木の素晴らしさを伝える「木望(きぼう)の未来プロジェクト」の間伐材による小学校学習机の天板寄贈が7年間で11,062枚に上ったと発表した。
2016年度は13の小学校で計1,166枚の天板を交換し、10校でふれあい授業を実施した。
「木望(きぼう)の未来プロジェクト」は2010年から同社グループのオカザキホームとともに行っている、
三菱地所 中計発表 2020年代見据え全社横断的な特別投資枠1,000億円設定
三菱地所は5月11日、三菱地所グループ中期経営計画(2018年3月期~2020年3月期)を策定し発表した。
前中期経営計画期間までの収益基盤強化の成果を利益として具現化するとし、具体的には丸の内エリアを中心とする大型プロジェクトの竣工・稼働寄与、海外事業の拡大・進化、「回転型投資」のバリューチェーンの活性化を上げた。
さらに、環境変化の加速をチャンスととらえ、2020年代の更なる成長にむけたビジネスモデル革新を推進するとし、「オープンイノベーション活性化の仕組み」「最先端の働き方の提供」などを通じて企業の生産性向上に貢献するとともに、社会ストックの最有効活用、高度化・多様化する「住む」「食べる」「遊ぶ」「買う」「憩う」のニーズに応え、くらしの豊かさを高めるとしている。
定量目標としては、2020年3月期に営業利益2,200億円(2017年3月期1,925億円)を目指す。セグメント別ではビル事業1,380億円(同1,336億円)、生活産業不動産事業370億円(同258億円)、住宅事業200億円(同192億円)、海外事業290億円(同263億円)など。
また、2020年代の更なる成長に向けたビジネスモデルを革新するための全社横断的な投資枠として期間内に1,000億円を予定。合計で2兆500億円の投資を行う。
◇ ◆ ◇
2017年3月期が2ケタの増収増益と好調だった決算を受けたこの日の吉田淳一社長の説明・質疑応答は極めて明快。吉田社長は「時代の変化を先取りするスピードで、競争力あふれる企業グループに変革する」ことを強調した。一言でいえば中計はコーポレートブランド広告「三菱地所を、見に行こう。」そのものの実践だろう。
◇ ◆ ◇
記者団からは企業横断的な投資枠1,000億円を設定したことに質問が飛んだ。吉田社長は「使途は決めていない」と答えた。売り上げが1兆1,254億円もある会社だ。そのうちの10%(3か年合計)を先行投資するのは当たり前だと思う。激しい時代の変化に対応するためには四方八方にアンテナを張らないと手遅れになる。4月に「新事業創造部」を社長直轄とした。吉田社長の腕の見せ所だろう。
◇ ◆ ◇
1回だけ吉田社長が言葉を慎重に選んだ場面があった。記者団から今後のマンション市場について「値下げ傾向に拍車がかかるのか」という質問に対してだった。
もちろん値下げとはいま分譲されている物件の値段を下げることであり、未供給物件の「値下げ」などあり得ないのだが、吉田社長は「値を下げる流れが一部にはあるが、(建築費の上昇など)高くならざるを得ない状況もあるので、共同事業、随意契約、再開発手法などを駆使して収益性を高める努力を行う必要がある。また、(価格を下げなくても)じっくり時間をかけて売る体力は大手にはあるのではないか」と、価格下げ圧力については慎重な姿勢を見せた。
しかし、すでに最近分譲されるマンションの値段(坪単価・グロス価格)はどんどん下がっている。同社も追随せざるを得ないと記者は見ている。ただ、建築費だけは下がらない。過度のグレードダウンは大手の看板の沽券にかかわる。となると利益率を圧縮する以外方法はない。ここ1~2年、マンション市場から目が離せなくなる。
深刻な事態浮き彫りに 「週刊住宅」の破たんを記事にしない競合紙「住宅新報」なぜ
5月9日付「住宅新報」には「週刊住宅」が破たんしたことが全く掲載されていない。「週刊住宅」が事業を停止し自己破産する意向であることは5月1日に分かった。「住宅新報」もWebで短く報じた。それから1週間近くあったはずなのになぜ掲載されていないか。他の記事には相変わらず日にちの明示がないものや「このほど」などいつのことやらわからない記事もあるのだが、5月1日に行われた会見記事も掲載されているので、書く時間的ゆとりがなかったということでもなさそうだ。
媒体が何を書こうが無視するか、それぞれ社の方針や編集責任者の判断に任される。「週刊住宅」の破たんを報じないのも同社の勝手といえば勝手だ。
しかし、書くに値しない出来事ならともかく、業態がほとんど一緒の競合紙であり、また時には手を携える〝身内〟のような存在の〝死〟に対して無視ではないだろうが1行も触れないという意図が分からない。
この点について別の記者は〝明日は我が身と考えているから〟と話し、また別の記者は〝武士の情け。書けないことがたくさんあるのでしょ〟とかばった。言い得て妙ではあるが、記者は身内の〝死〟を報じない何と非情な媒体であり、書けない事情があるとすればそれほど深刻な事態を抱えているのかと勘繰らざるを得ない。
住宅・不動産業界の日々生起する事象を読者に伝え、業界紙ならではの視点で論評するのが業界紙の役割・使命であるとするならば、今回の「住宅新報」は大きな汚点を残した。追悼、追従の記事でもいいから書いてほしかった。
「週刊住宅」の破たんについて、先の記者は「高度情報化社会がもたらした情報の相対的な価値の低下」が背景にあると語っているが、書く側がその情報の価値判断ができず、独自の視座を持たないとすればそれはジャーナリズムではない。
流れに乗れず逆らえず 記者は病葉か 「週刊住宅」破たんに思う
「週刊住宅」の破たんについて業界関係者にコメントを求めたところ、今から11年前、70歳で亡くなられた住宅評論家の佐藤美紀雄先生に言及された方がいた。佐藤先生には記者も大変お世話になった。自称〝弟子〟を名乗ったほどだ。今あるのも先生のお陰だと思っている。
佐藤先生に「週刊住宅」紙上に「佐藤美紀雄のワンポイント時評」を連載していただくようお願いしたのは昭和57年だった。当時、住宅評論家と呼ばれる方はたくさんいた。ところが、多くの方は「建設省のデータによれば」「〇〇会社の発表によれば」などと、マクロデータや会社発表ニュースをもとに論評されていた。佐藤先生は違った。「私の取材によると」などと自らが情報源となり、舌鋒鋭く批評されていた。
執筆を快諾していただいたのだが、その時、「先生、先生の好きなように書いていただいて結構です」とお願いした。その後、「ワンポイント時評」の連載回数は先生が亡くなる直前まで1,031回に及んだ。週刊住宅紙上でもっとも読まれたコラムだった。デベロッパーはマンションの販売現場に「ワンポイント時評」をコピーして張り出した。もちろん都合のいい部分だけだったが。
とはいえ、業界紙の宿命ともいうべき、営業サイドの圧力もかかった。あまりにも鋭い指摘に記者も編集長もたじろぎ、経営者の意向を忖度し何度も原稿を書き換えていただいた。情けない記者は佐藤先生に書き換えをお願いする勇気などなかった。すべて当時の編集長が〝悪役〟を引き受けて、コラムの変更・書き直しを先生にお願いした。「佐藤さん、これはちょっと営業的(つまりスポンサー)にまずいので…」「わかりました。そうしてください」二人のやり取りを電話口でハラハラしながら聞いていた。
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いまなぜ佐藤先生のことを書くか。佐藤先生が評論活動を始めるとき、「業界ジャーナリズムと同じ原稿など書いていて存在価値はない。現場主義に徹し、自分の目を通じて業界のために働こう」と話されたのをよく覚えている。
先生が生きておられたらいまの事態をどうみられるか。「牧田さんよ、流れに掉さすことも逆らうこともできていない。どこまで流されればいいんだよ。病葉か」と言われるような気がしてならない。
時代や読者ニーズの変化に鈍感になり、ゆでガエルのように気が付いたときはすでに手遅れの状態に陥っているのではないかということだ。「週刊住宅」の破たんの遠因はこんなところにありはしないか。
先生が亡くなられたときの追悼文を添付する。首を垂れるしかない。
「業界の羅針盤」住宅評論家の佐藤美紀雄氏逝く(2005/9/24)