緑の質量に圧倒 エントランスに樹齢100年巨木「江古田の杜」街びらきに千数百人
街びらきテープカット(左から総合東京病院・渡邊貞義氏、横山副区長、子どもたち、田中氏、積水ハウス東日本建築事業本部本部長・篠崎浩士氏)
総合東京病院、積水ハウス、都市再生機構が連携して開発を進めている住宅、医療、保育施設などからなる約3.9haの「江古田の杜プロジェクト」の街びらきが9月23日、行われた。総合東京病院が主催する「江古田のまつり」と合わせ同時開催されたもので、子育て世代から高齢者、障がい者まて〝新しい街づくりのモデルになる〟コンセプトにふさわしい多様な千数百人の人々が集まり、終日にぎわった。
街びらきイベントに出席した中野区・横山克人副区長は、「このプロジェクトは区が10年以上前から取り組んでいるもので、本来は酒井直人区長が出席すべきですが、本日は、棟方志功にゆかりのある自治体の関係者が集う『棟方志功サミット』が富山県で行われており、区長は公務でそちらに出張していますので、わたしが代わりご挨拶させていただきます。棟方志功は昭和の初期、江古田の近く大和町に約10年住み、江古田の里山や緑をたくさんスケッチしたとても縁の深いところです。区は子育て先進国として、この『江古田の杜』を位置づけ〝新しい街づくりのモデル〟になるよう取り組んでおります」と述べた。
平成20年に国家公務員宿舎跡地約4.4haを国から取得し、プロジェクトを主導してきた都市再生機構東日本都市再生本部本部長・田中伸和氏は、「多世代・子育て、防災、緑、健康・スポーツという4つのテーマを設定し、総合東京病院さんと積水ハウスの協力を得て協議会を立ち上げ整備してきました。今後は、管理組合や積水さんを中心とする新たなステージを担うリブインラボ協議会にバトンタッチしますが、立派な街づくりを行っていただきたい」と語った。
公園にシートを敷き子どもと食事をしていた40歳代の女性は、「近所に住んでいます。子どもは3人。専業? いえ、働いたりそうでなかったり。ここはいいわよ。学校も公園も病院も近いから。ちょっと駅まで遠いけど。わたし? 中野までは自転車、新江古田駅を利用するときは歩きます」と話した。
別の30代の夫婦は、「マンション? もうちょっと安くてもいいのでは(坪単価300万円弱)。この環境に価値があると思う人にはいいかも」とイベントに急いだ。
プロジェクトは、積水ハウスの531戸の分譲マンション「グランドメゾン江古田の杜」(A街区、施工:長谷工コーポレーション)、総合東京病院B棟(B街区、施工:熊谷組)、積水ハウスの子育て世帯向け賃貸263戸、サ高住121戸、学生向けマンション85戸、医療従事者向けマンション56戸、介護付き有料老人ホーム94室などからなる「プライムメゾン江古田の森」(施工:積水ハウス)の3街区で構成。認可保育所や学童クラブも誘致予定。
「
植樹祭
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積水ハウスの「5本の樹計画」はたくさん見学しており、マンションは「東京テラス」「玉川上水」「杉並」「伊勢山」「狛江」などの植栽に圧倒されたのを思い出す。
今回の「江古田」も一部は見学しているが、完成した街を歩いて、緑の質と量に言葉を失った。
最初に目に飛びこんできたのは、「グランドメゾン江古田の杜」の900㎡もあるエントランスに植えられているユリノキの巨木だった。メジャーを借りて計ったら胴回りは約3.14m、つまり直径約1mあった。樹齢は100年超と推測した。しかし、ちょっと待てよ、ユリノキは外来種ではないか。同社の「里山」は在来種で構成されているのでは?
その謎はすぐ解けた。メインストリートの街路樹はハナミズキだ。明治45年、わが国がアメリカにサクラを贈ったお礼としてハナミズキがアメリカからもたらされ、江古田の森に植えられたと横山副区長が説明した。記念の植樹もハナミズキだった。
なるほど。ユリノキもまたハナミズキと一緒に輸入されたのだと確信した。明治45年に植えられたとすれば、樹齢100年超は符合するではないか。その巨木をマンションのエントランスに移植する-これが積水だ。
江古田の森公園の前身、東京市療養所(後の国立療養所中野病院)が設けられたのは1919年5月とある。約100年前だ。公園内にはヒマラヤスギの大木がたくさんある。これらは全てアメリカから贈られたものに違いない。
エントランスのユリノキ
計測した胴回り
エントランス
マンションの外周グリーンベルト(幅は13mくらいか)
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同社のサ高住+子育て支援住宅は「古河庭園」を見学しているが、今回は今春竣工した「グランドマスト勝どき」(サ高住62戸+子育て支援住宅44戸)についで3棟目だそうだ。
バルコニーの外にすぐ「杜」が展開するのに驚いたが、62㎡のサ高住のトイレは幅102cm×182cmもあった。同業の100キロの巨漢記者は「おお、俺でも楽に入れる」と歓声をあげた。普通のマンションもこれくらいの広さがあっていい。谷崎潤一郎はエッセー「厠のいろいろ」で、投げ出したくなるような〝蘊蓄〟を披瀝しているが、デベロッパーはもっとトイレの商品企画に力をいれるべきだ。
サ高住の居室とトイレ
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ニチイの介護付き有料老人ホーム「ニチイホーム江古田の杜」も見学した。この種の施設は、特養に体験宿泊もし、オリックスや東急不動産の富裕層向けなどを見ているが、ニチイの施設は全体的にレベルが高いという印象を受けた。食器類も立派なものが使われており、ある〝食〟が売りの施設とは雲泥の差だった。同社は約30年の実績があり、今回で74棟目というのも納得だ。
「ニチイホーム江古田の杜」エントランスホール(左)と食事メニュー例
サニーテーブルの無料サービスに長蛇の列
持続可能な街づくり推進 積水ハウスなど 「江古田の杜プロジェクト」説明会(2017/10/26)
江古田の杜 コミュニティ施設に「Casita(カシータ)」のサニーテーブル(2017/12/12)
積水ハウスUR都市機構と江古田三丁目で「画期的」な複合タウン(2015/3/9)
積水ハウス 住宅メーカーにこだわり医療・介護事業を強化(2013/12/13)
子育て住宅と高齢者住宅の複合賃貸 積水ハウス・積和不動産「古河庭園」(2012/3/1)
里山を見るような見事な植栽 積水ハウス「グランドメゾン狛江」竣工(2013/9/21)
億ションの歴史を変える積水ハウス「グランドメゾン伊勢山」(2011/5/13)
景観美に圧倒される積水ハウス他「グランドメゾン東戸塚」(2008/3/25)
積水ハウス「グランドメゾン杉並」で見た売主の〝良心〟(2006/9/1)
植栽が見事「東京テラス」「玉川上水グランドメゾン」(2006/5/31)
チーム匠がグランプリ 初参加の三井ホームはトーナメント制す 第1回「カベワン」
第1回「壁-1(カベワン)グランプリ」(埼玉・ものつくり大学で)
昨年度の第20回で終了した「木造耐力壁ジャパンカップ」に代わって新たに企画された第1回「壁-1(カベワン)グランプリ」が9月15日~17日、埼玉県・ものつくり大学で行われ、参加した12体の耐力壁が予選を戦い、勝ち残った8体による決勝トーナメント戦の結果、チーム匠(アキュラグループ+東大木質材料学研究室+篠原商店)の「一位の壁」がグランプリを獲得、従来の「ジャパンカップ」を含めて初参加の三井ホームGT「G-WALL HD」が、トーナメント戦を制した。
グランプリは、性能(耐震性+デザイン性)を材料費や環境負荷費で割った数値がもっとも大きかった耐力壁に贈られる。トーナメントは強さのみで競われる。
トーナメント常勝軍団のポラスグループのポラス暮し科学研究所は参加しなかった。
ジャッキで引き合うトーナメントでは敗退したが、グランプリ優勝した「チーム匠」の壁(左)
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耐力(体力)、知力、気力、忍耐力、想像力、生産力…などあらゆる「力」で劣る記者は、だからこそこの種の「力」の差がはっきり出るイベントが大好きで、今回の「カベワン」は「ジャパンカップ」を含め10回目くらいの取材になる。
取材の第一の目的は、「ジャパンカップ」から「カベワン」に衣替えしたのはなぜかを聞き出すことだった。
これまで「ジャパンカップ」を主導してきた東大大学院木質材料学研究室教授・稲山正弘氏は「若い人に交代したほうがいい。わたしは引退。一出場者(チーム匠)として参加していく」と話した。
稲山氏からバトンタッチを受けた「カベワン」代表で東大大学院 農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 助教・落合陽氏(32)は「稲山先生も還暦(60歳)。スタッフの高齢化も進み、マニアックになりすぎていたことを反省し、今後は広く一般の方に木造建築のよさと技術を発信し、人材も育成することに貢献したい」と語った。
従来と大きく変わったのは、耐力壁の大きさだ。これまでは柱は4本で、柱と柱の間は一間(910ミリ=1P)、つまり3Pだったのを、柱を3本に減らし2Pにした。
これによって狭いスペースでも組み立てることができ、コスト的にも抑えることができるようになったという。
落合氏(左)と稲山氏
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準々決勝戦は波乱含みで始まった。過去の「ジャパンカップ」で何度も総合優勝している稲山氏と落合氏もチームの一員として参画しているチーム匠の「一位の壁」がKAMAGIC「ねじと斜材と平成最後の夏」に初戦で敗れた。
稲山氏は「壊れていない。ジャッキを引ききった時点の数値が下回った。あと10センチあったら勝っていたはず」と悔しさをにじませ、落合氏は「それぞれの接合部分に力を分散するつもりだったが、1カ所に集中してしまった」と敗因を分析した。
「一位」が「平成最後の夏」に敗れるという何とも形容しがたい結果に記者は戸惑ったが、結局は、チーム匠がデザイン性やコストなどが評価され逆転勝利した。
驚いたのは、2×4の三井ホームがトーナメント戦で大活躍したことだ。
配布されたパンフレットの触れ込みがすごい。「K-1グランプリに金肉ムキムキの野獣が殴り込み!『ホゾ? ヌキ? ナンダソレハ? 』木造技術を圧倒的な金力で破壊してやる!(『金』は〝metal〟なのか〝money〟なのか…)」と挑発し、「当社オリジナル木ねじによる耐力壁『Gウォール』を壁-1用にアレンジしました。シンプルなツーバイフォー耐力壁で挑戦」とあった。
「金」は金物=金がかかるという意味のようで、その威力をまざまざと見せつけた。耐力を示す数値では65キロニュートンという、かつてポラスがマークした最高値に並んだ。
三井ホームGT「G-WALL HD」のメンバー
解体された壁を前に話し込む稲山氏
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過去数度の優勝を飾っているポラスグループのポラス暮し科学研究所はノミネートしなかった。関係者は「若手中心の大会になると聞かされていたので、ポラス建築技術訓練校だけを参加させた」と〝敵前逃亡〟は否定した。
その訓練校チームは予選を8位で突破、準々決勝戦に勝ちあがったが、予選2位の「ねじと斜材と平成最後の夏」に負荷30キロニュートンの時点で敗れた。
チームを代表してプレゼンした池畑蓮氏(18)は「ノミとかマルノコの扱さえ知らなったわれわれが日本家屋を彷彿とさせる壁を造った。無謀にも金物を使わずチャレンジした。温かい目で見てほしい」と思いのたけを訴えた。
チームは敗退し、みんな落ち込んでいると思いきや、メンバーの一人、奈良雄也氏(18)は「そんなことはありません。闘志がわいてきた」と前を向いた。
壁の前でプレゼンする池畑氏(左端)
解体作業(左)とそのメンバー
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「美しいもののみが機能的である」と語ったのは丹下健三だ。だがしかし、わが国は、美しくて機能的なその壁をイチジクの葉っぱのようにせっこうボードで覆い隠さないと建てられない。
実行委員会には是非ともこの不可思議な問題にも踏み込んでいただきたい。どうせ隠さないとだめなのだから、デザインなどどうでもいいという暴論も正論に聞こえるし、準々決勝戦で敗れるチームがどうしてグランプリを獲得し、圧倒的な力持ちの壁が覇者になれないのか。耐震評価とデザイン評価の配点はどうなっているのか、材料費などのコスト計算はどうなのか-よく分からない。
三井ホームに依頼したら、「G-WALL HD」が送られてきた。材料はベイマツ、カラマツ、スギの集成材。確かに他チームとは全く異なる。これが軸組工法と枠組工法の違いだ。三井ホームは強さで他を圧したが、グランプリを逸した。デザインの評点が低かったのか、コストなどが高かったのか、現段階で詳細なデータは発表されていないので何とも言えないが、〝美は単調にあり〟(瀬戸内晴美は「美は乱調にあり」)も真理だと思う。同社の足立区の老人ホームの工事現場も見たが、とても美しかった。
グランプリに輝いた「チーム匠」の壁は、縦貫にシラカシを用いているのが特徴。関係者は「シラカシはほとんど流通していない。マキにしか利用されない。需要はあるはず」と話していた。
三井ホームGT「G-WALL HD」
ポラス建築技術訓練校の壁(左)と勝利した法大宮田研究室の壁
わが国初 CLT床材を利用した高層建築物 三菱地所 仙台「高森2丁目」現場見学会
「(仮称)泉地区高森2丁目プロジェクト」
三菱地所は9月11日、林野庁と国交省のそれぞれの補助事業に採択されているCLTを床材に用いたわが国初の高層建築物「(仮称)泉地区高森2丁目プロジェクト」の施工現場見学会を行った。
物件は、宮城交通宮城大学線寺岡六丁目・泉アウトレットバス停から徒歩3分、宮城県仙台市泉区高森2丁目に建築中の10階建て延床面積約3,6049㎡の全39戸の賃貸住宅。(専用面積は51.44~89.43㎡。構造は木造(CLT床・耐震壁、燃エンウッド)+鉄骨造のハイブリッド構造。建築主は三菱地所、設計・監理・施工は竹中工務店、監修は三菱地所設計。完成予定は2019年3月。C LT利用箇所は床の一部(約1,000㎡/床全体の約30%)、壁の一部(約110㎡)。材積約230m。
2時間耐火の大臣認定を受けたCLT床、竹中工務店の特許技術「燃エンウッド」を柱に採用。竣工後は賃貸住宅として運営し、継続的に建物性能に関するデータ等を収集する実証建物。
見学会で三菱地所住宅業務企画部CLTユニット主事・海老澤渉氏は、「職人不足による労務費の高騰や工期の長期化など、今後厳しくなる事業背景を打破する社内新規事業提案制度に採択された」と、若手4人からなる同ユニットが2年前に誕生した経緯について語り「今後、木造建築物の設計・施工機能や不動産情報ネットワークを生かし、各地の木造関係プレーヤーと連携することで、当社のアセット開発事業に寄与したい」と抱負を述べた。
室内
室内
CLT搬入(左)と荷下ろし(これほど広いスペースが必要なら一般住宅は難しいか)
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CLTを採用した建築物を見学するのは今回で4回目。ほとんどのCLT構造材はせっこうボードなどで被覆されており、現わしの燃エンウッドも少ししか見えなかったが、スギの表情がやはり美しい。木造は現しにすべきともう百万遍も書いてきたのでもう止めるが、ゴヤの「裸のマハ」と「着衣のマハ」のどちらが美しいか-いうまでもない(美意識は個人によるが)。
海外では簡易な塗料を塗るだけで内装制限をクリアできると海老澤は語ったが、わが国では不可で、不燃処理を施した木材は高価なのでなかなか普及しないそうだ。
2時間耐火のCLT床パネルについて触れておくと、厚さは210ミリ、その上下に振動音対策などのトップコンクリート(厚さ80ミリ)、耐火被覆のせっこうボード(厚さ60ミリ)などを重ねるので全体の厚さは410ミリにもなる。通常の賃貸住宅の床厚は180ミリだそうで、2倍以上だ。そのうえダクトなどを通すから10階建てといっても1層近く高くなる勘定だ。今回の建物の天井高は2100、2300、2500ミリという。
「裸のマハ」(左)と「着衣のマハ」
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多くの報道陣からはいつものようにコスト、工期について質問が飛んだ。「RCと比べどうか」と。
海老澤氏らはその都度、「(RCなどと比較して)工期は14カ月から11カ月」「職人の数は30~40人から数人」「コスト自体は3割高」などと答えた。しかし、もうこんな馬鹿馬鹿しい質疑は止めたほうがいい。そもそも性質、利点弱点が異なるものを同じ土俵、まな板に乗せ論じるのはフェアじゃない。
どちらが森林国、木と紙の住文化にふさわしいか、人と地球環境にやさしいかに比重を置いて論じるべきだ。論を待たないではないか。
近接する仙台ロイヤルパークホテルから(左後方にクレーンが見える。素晴らしいホテルだ)
完成予想図
三重・松阪の豪商のふるさと 町並み保存活動 ハウジング&コミュニティ財団 助成事業
「中万市」
あんたさんら、「松阪(まっさか)」ゆうたら、松阪牛くらいしか思いつきなさらんと思いますんやけど、県外の人からは「ええな、いつでもようけ松阪牛食えるで」と、よお、ゆわれるんですが、グラム何千円もするんやで、そんなことでけへんです。そやけど、松阪の誇りですわ。
わしらの在所はなあ、「中万(ちゅうま)」いう、ほとんどが農家の田舎ですんや。120軒ぐらいやけど、60歳以上47%という高齢化も進んどるところですんや。
あんたさんらも知っといでいるやろと思いますけど、江戸時代に三井高利という松坂出身の人が江戸に出て、越後屋という店を出しました。松坂商人という人らですな。
わたしんとこの中万からも江戸に店を出した家(うち)が何軒かあって、今でもその名残りゆうか、蔵が50軒ぐらい残っとるんですわ。そこで、「この蔵や門が並ぶ町並みを残そやないか」ゆうことで、「中万まちなみ保存委員会」ちゅうもんをつくって、松阪市さんと一緒になって、なっとしたらええか、勉強してきたんやですわ。
わしら、中万を観光地にしょとは思てないんやけど、保存すんのには、やっぱりお金いるんととがうか、そんなら、金儲けせなあかん、とやってや、そや、中万市やろ…中万市は川原で開かれていましたんで、「川原市」というもんですが、そんなわけでやな、60年ぶりに復活ということになったんですわ。
「いせいも」や、江戸に店を出さんした竹口っさんが今も作っといでいる中万の古い地名からとった「乳熊(ちくま)」味噌」や、いろんなものを売ったり、古くからの家を見せてもろたりしましたらな、びっくりするほどのようけの人がおいででなあ、1,000人は超えとったんとちがうんかいな。売り切れの店がようけあって、初めてにしてはまあ儲けさしてもらいました。「今年は出店料もいくらか貰お」て、みんなゆうとんのですわ。
「儲けた」ちゅうとなんかイメージがあんまりええことないみたいやけど、大事なことは「中万市で、お金を稼ごう、稼いだお金で町並みメンテナンス」やでなあ。そのメンテナンスやけどなあ、柿渋で門を洗ろたらなあ、見違えるほどよおなりました。
えっ、わたしの歳かな。いくつやったかいな? あんた、昭和24年生まれの69歳? そや、わしは23年生まれや。ハハハハ
西村氏
◇ ◆ ◇
ハウジングアンドコミュニティ財団(理事長:大栗育夫・長谷工コーポレーション代表取締役会長)が、平成29年度「地域・コミュニティ活動助成事業」の対象となった10団体の活動成果発表会&まちづくりNPO交流の集いを9月1日に行ったことを先に紹介した。
その10団体の一つに、三重県松阪市の「豪商のふるさと中万のまちなみメンテナンス」が選ばれており、代表者の西村篤史氏(70)が団体の設立の経緯、活動の内容や成果、今後の課題などについて約10分にわたって報告した。
西村氏は標準語(東京弁)で話したのだが、同じ三重県出身(伊勢・度会)の記者は西村氏の語る言葉の端々に「故郷」がにじみ出ているのを捉えた。
「ふるさとの 訛なつかし 停車場の 人ごみの中に そを聴きにゆく」(石川啄木)-故郷の言葉はいつ聞いてもいいものだ。西村氏が地元の言葉で語ったらどんな話ぶりになるか、とっくに忘れてしまった「伊勢のなことば」で文章を書き、西村氏に送り、添削していただいたのが冒頭の文章だ。
松阪商人(多くの人は三井高利も伊勢商人と呼ぶ)の強かな商法が見事に語られているではないか。
※松阪市 三重県のほぼ中央に位置する人口約16万人。北は津市に接し、南は多気郡を挟んで伊勢市。気候は温暖。江戸時代、紀州方面と結ぶ和歌山街道と伊勢神宮参拝のための伊勢街道が合流する交通の要衝であったことから宿場町として栄えた。三井家の始祖・三井高利、国学者・本居宣長の出身地
※伊勢のなことば 語尾に「な」を付けるのが特徴であることからそう呼ばれている
※松阪商人 伊勢商人と松坂商人が櫛田川を挟んで張り合ったためか仲が悪いと言われたが、記者は〝目糞鼻糞を笑う〟の類だと思っていた。松坂商人より伊勢商人がメジャーになり、「伊勢は津で持つ津は伊勢で持つ」の伊勢音頭がまるで県歌のように広まったのは松阪には気の毒。県民性を表す「近江泥棒、伊勢乞食」と言う言葉があるが、本来は、近江商人は強引で、伊勢商人は手摺り足すりの商法を妬んだ言葉と言われる
◇ ◆ ◇
同財団評議員・加藤種男氏の著書「芸術文化の投資効果」(本体3,200円)が水曜社から9月25日に発売される。多くの企業メセナが紹介されている。
柿渋塗り
驚嘆!3,000㎡の田んぼを私設公園に 来園者5万人 釜石市「こすもす公園」(2018/9/2)
ナイス 同社国内最大 延べ床5,000㎡の軸組「久喜ことぶき苑」特養見学会に200名
「仮称)特別養護老人ホーム 久喜ことぶき苑」
ナイスは9月7日、同社が施工を担当している「仮称)特別養護老人ホーム 久喜ことぶき苑」1時間耐火・木造建築物・構造現場見学会を行った。国内では同社最大の約5,000㎡の規模であることからも関心が高く、設計事務所、建築・資材会社、金融機関などから約200人が見学した。
物件は、東武伊勢崎線鷲宮駅から徒歩10分の2階建て軸組み工法2階建て延べ床面積約5,000㎡。設計は實徳設計、工事担当は田中工業。
冒頭、すてきナイスグループ副会長・日暮清氏は「現地は地下に下水場施設があったところで、RCだとその処理に1億円かかるということから木造にして軽量化を図ることでコスト的にも競争力があり、地球環境的にも貢献している。当社グループは今後、このような非住宅の木造建築を第四の柱に育てていく。皆さんとチームを組んで取り組んでいきたい」と語った。
また、同社社長・木暮博雄氏は「木造ゼネコンとして設計・施工・物流をワンストップで対応できる。〝何かあったらナイスに相談しよう〟という動きを加速させたい」と話した。
同社は、欧州現地法人ステキヨーロッパ(ベルギー・ブリュッセル)がベルギーで建設に携わった延べ床面積約7,000㎡の大型複合老人ホームの建設実績がある。
外壁見本
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木造の大規模建築はこれまでもいくつか見学したが、いつ見ても美しい。圧倒された。
だがしかし、〝悪法も法なり〟か。いくら書いても詮無いことだが、どうしてこのような美しい木(構造材に用いられているのは主に欧州アカマツ)を石膏ボードで二重三重に覆い隠さないといけないのか、記者は全く理解できない。わが国の住宅文化は木と紙と石でなかったのか。もちろん耐火・防火のハードの取り組み・仕組みを否定はしないが、全国でもっとも火災発生率が低く、その他の生活指標でもトップクラスの富山県のソフトの取り組みを学ぶべきだと思う。
建築基準法の改正により、現行では高さ13mを超える木造建築物は「耐火構造」としなければならないのが、高さ16m以下や、周囲に十分な空地が確保されているものについては適用除外となるほかその他の規制も緩和されるが、果たしてどこまで効果があるのやら。
木造建築物は不遇・暗黒の50年か、進化の50年か 木住協の懇親会(2018/5/26)
三井ホーム わが国初の5階建て2×4工法による特養が完成(2016/5/25)
内装木質化は熟睡長く、知的労働も向上 慶大・伊香賀教授が実証(2016/3/22)
ポラス サステナブル建築物等先導事業の構造見学会(2016/1/14)
ポラスグループのポラテック 国内最大 木質ハイブリッド構造の本社ビル完成(2012/2/22)
デザイン・アートが最高! 三井不動産「三井ガーデンホテル日本橋プレミア」開業
「OVOL(オヴォール)日本橋ビル」
三井不動産と三井不動産ホテルマネジメントは9月6日、「日本橋再生計画」第2ステージにおける重要なプロジェクトであり、「三井ガーデンホテルズ」のプレミアムとして位置づけられている「三井ガーデンホテル日本橋プレミア」のプレス内覧会を行った。日本橋の価値・魅力を五感で愉しむ仕掛けをふんだんに盛り込んだ空間デザインが特徴。9月13日(木)に開業する。
同ホテルは、東京メトロ銀座線・半蔵門線三越前駅直結、中央区日本橋室町3丁目に位置する15階建て複合施設「OVOL(オヴォール)日本橋ビル」の1階・9階~15階部分の全264室。客室面積は20.0~55.9㎡。
開発コンセプトは「つなぐ」、デザインテーマは「オリエンタルモダン」。日本橋の価値・魅力を“NIHONBASHI VALUE”(ニホンバシ バリュー)と位置付け、施工の竹中工務店をはじめ多くのアート、ランドスケープデザイナー、ミュージシャンなどを起用。その価値を五感で愉しんでもらえるよう工夫を凝らしている。
建物外観には「100尺(31m)ライン」を導入し、周囲の建物とデザインの統一を図っている。1階にはレストラン&カフェ・バー、街案内を行う「日本橋インフォメーションカウンター」を設け、1階エントランスには、日本橋川に浮かぶ舟に着想を得たアート作品などを設置し、粋な日本橋の街の雰囲気をホテル内に取り込んでいる。
9階のロビー、ラウンジは隔たりのないシームレスな空間とし、複数のアート作品やデザイン性が高い無垢の家具・調度品などを揃え、同ホテルの象徴的なスペースを演出。同じフロアの宿泊客専用「Japanese Bath(大浴場)」には、壁材の一部や寝湯枕などに無垢の檜を採用。大浴場に向かう回廊の床は洗い出し仕上げで、随所に彫金の蓮のアートが配置されている。
地下1階には全160席の天然木をふんだんに用いたカジュアルレストランや、全150席の卓球サロンバーなどが出店している。
ロビー(左上が「A glowing cloud」)
ラウンジ
「Japanese Bath(大浴場)」
回廊
プレミアツイン
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三井不動産グループのホテルはこれまで10カ所くらい見学したか。最近では最上級ブランド〝ザ セレスティン〟の「京都祇園」「東京芝」もよかったが、今回の「日本橋プレミア」も負けないと思う。
江戸切子、江戸小紋、水、漆などを多用したデザイン・アート、照明計画が最高だ。
何から書いていいやら分からないが、まず1階レストラン。Martinesのサインが入った100号くらいの油絵が目を射た。値段は1,000万円だという。傍には自動演奏のピアノ。天井には大小の提灯。
まずこれに感動したのだが、今村知佐氏による〝雨にも雲にも見える〟9階ロビーのガラスのインスタレーション「A glowing cloud」には言葉を失った。無限に広がる天空を見事に表現している。そんなに高価ではないと思うが、これには金額で測れない価値がある。
東端唯氏によるエレベーターホールやフロアサインの漆塗りアートもいい。さらにまた、9階のフロアには、創業が慶応三年という金沢の料亭「浅田」の「日本橋浅田」が出店しているのだが、壁面には台東区谷中に在住する日本画家アラン・ウエスト氏による縦50cm×8mの「加賀の四季」を描いた屏風絵のような作品が展示されている。見事というほかない。
プレスには朝食ビュッフェメニュー(2,700円)が振舞われた。小鉢料理6種、300カロリーくらいしか食べなかったが、隣の女性記者は「小食家は損するのよね」と少なくとも記者の倍は食べていた。いつも閉口する「あなた糖尿なんだからね、酒代と私の食事代が同じ」嫌味な言葉がせりあがってきた。
もうこのあたりで止めるが、全体で10人くらいのアーティストの作品が随所に飾られている。
対面の三井日本橋タワーのマンダリンホテルにも〝和〟テイストのアートがたくさん用いられているが、それはどちらかと言えばアジアンテイストだ。「日本橋プレミア」は近接する「コレド室町1~3」と同様、江戸の〝粋〟をよく伝えている。
アート「水光の椅子」(エントランス)
「日本橋浅田」(上部が「加賀の四季」)
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アートに触れるだけでも泊る価値があると思ったのだが、55.9㎡のプレミアツインの118,800円のルームチャージはやや高いような気がした。リッツやマンダリンだって同じか少し高いくらいではないか。
設えは確かに立派だ。ドアを開けると江戸切子をモチーフにした鮮やかな光壁が正面に飾られている。ファクトシートを見たら、谷崎潤一郎の「陰影礼賛」が書籍として置かれているとあるではないか。憎いことをする。
代理店を通せばもっと安くなるはずで記者は8万円とはじいたが、どうだろう。他の20㎡台の宿泊料金は2.5万円前後になるようで、これは安いのではないか。
1階レストラン
「SALONE VENDRED(サローネ ウァンドルディ)」
業界初? 都心の眺望風呂付き 西畠氏監修のガーデン付き 三井不「五反田」ホテル開業(2018/6/16)
東急不動産 期間限定の地域交流スペース「subaCO(スバコ)」 神宮前に開設
「subaCO(スバコ)」完成予想図
東急不動産は9月3日、同社が事業参画している神宮前六丁目地区市街地再開発事業着手までの期間限定でエリア内の既存建物を活用し、誰でも気軽に立ち寄れる街の情報発信拠点・地域の交流スペース「subaCO(スバコ)」を9月7日(金)に開設すると発表した。
同社は、これまでも再開発エリア内における建物有効活用とエリアの賑わい創出を目的に、路面リノベーション型期間限定情報発信スペース「Qʼs spot(キューズスポット)」を展開している。
今回の「subaCO(スバコ)」は、街の魅力向上につながる情報発信拠点として、地域の人々や来街者をはじめとする全ての人々に開かれた空間として、誰もが気軽に立ち寄れるコミュニティサロンを目指す。
「subaCO(スバコ)」は東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅から徒歩1分、渋谷区神宮前六丁目31−21オリンピアアネックス1階、延床面積約100㎡。営業日は月、木~日曜日(13:00~18:00)。神宮前六丁目地区市街地再開発事業は敷地約3,000㎡。2022年に竣工予定。
驚嘆!3,000㎡の田んぼを私設公園に 来園者5万人 釜石市「こすもす公園」更新
「子どもたちに希望と笑顔を贈るこすもす公園」(写真提供は藤井氏)
ハウジングアンドコミュニティ財団は9月1日、平成29年度「地域・コミュニティ活動助成事業」の対象となった10団体の活動成果発表会&まちづくりNPO交流の集いを開催し、関係者ら約100名が参加、様々な社会課題を解決するのは経済価値では計れないコミュニティ活動の力であることを確認しあった。
同財団は、住まいとコミュニティづくりに必要な施設の調査研究、技術開発、デザイン開発、政策提言や、これらの諸活動を支援することを目的に平成4年(1992年)に設立。理事長には大栗育夫氏(長谷工コーポレーション代表取締役会長)が就任。これまでNPOや市民活動団体に延べ378件の助成を行っている。平成30年度は全国40都道府県から166件の応募があり、合計20件が助成対象団体に選ばれている。
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集いは、早稲田大学教授・卯月盛夫氏の「コミュニティ活動からの地域づくり-その新しい潮流」と題する基調講話から始まり、各団体が10分間プレゼンを行い、選考委員らがコメントする形で進められ、合計で約4時間にわたって行われた。
ここで一つひとつ紹介するゆとりはない。記者がもっとも驚いたのは、震災後に自らの田んぼ(3,000㎡)を地域住民に開放し、「子どもたちに希望と笑顔を贈る(私設)こすもす公園整備活動」をしている岩手県釜石市の藤井了さん(72)の報告だった。まず、これから紹介する。
藤井さん夫婦はその日、窓口が閉まる午後3時に着けるよう銀行に急いでいた。「グラッグラッと来た。これは大きい、きっと津波が襲ってくる、とっさに判断して逃げた。あと5分逃げ遅れていたら、この場で皆さんにこのような報告はできなかった」と切り出した。
震災後、学校や公園などの広場はことごとく仮設住宅になった。遊び場さえも奪われた子どもたちのストレスが溜まっていることに心を痛めた藤井さんは「生かされた者として何かみんなのために貢献したい」と思い、自分の田んぼを子どもたちに開放することを決断した。震災前、田んぼにコスモスを植え、摘むのを自由にしていた経験がヒントになった。
ボランティアなどのスタッフは5名。公園整備に当たっては、怪我のないよう、また耕作に影響を与えないようクギや石の使用は避け、木造チップを敷き詰め、パートスタッフが遊具の点検や草取りを入念に行った。
様々なイベントや体験学習なども積極的に行った結果、年間の来園者は約5万人にのぼっている。
藤井さんは「公園の維持管理には毎年約200万円かかる。震災後の7年間のうち5年間は民間の助成で運営してきた。わたしは元県の職員。県も(財政的に)大変なのがよくわかっている。だから(助成してとは)頭が下げられない」と話した。
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都市公園に関する、とりわけ利用者側の視点に立ったデータは少ない。国土交通省の「平成26年度都市公園利用実態調査」では、全国53の2,500㎡が標準規模の街区公園の1日当たりの利用者数は約220人(年間約80,000万人)という数字があるが、人口約12万人の小金井市の小長久保公園(2,464㎡)は40人(同約14,600人)、三楽公園(3,473㎡)は144人(同約53,000人)というデータもある。
釜石市の人口は約3.5万人だ。同市都市計画課管理係は「統計を取っていないので分からないが、その規模で年間5万人の来園者というのは他市も含めて極めて稀なケースではないか」と話している。
都内でもっとも都市公園が充実していると言われる多摩市の公園緑地課担当者は「それはすごい。3,000㎡というのは街区公園の広さ。総合公園の多摩中央公園(98,500㎡)でも〝遊ぶ〟でくくったらそんなにないのではないか」と驚いていた。
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記事を書き上げた今、胸にこみあげるものがある。震災は言語に絶する被害をもたらした。九死に一生を得たその被災者が「生かされた者として何か貢献できないか」とすぐに立ち上がり、子どもたちに希望と笑顔を贈る活動を始める-NPOの活動家にはこの種の考えの方をする人が実に多いのだが、「強か」とはこういう生き方を言うのか。絶句するしかない。
平成31年度の国土強靭化のための予算要求は約4.9兆円だ。このうち人材育成にはどれだけ配分されているのか。東北には自然の猛威を「いなす」思想があることを思い出した。
「地域・コミュニティ活動助成事業 活動成果発表会&まちづくりNPO交流の集い」(御茶ノ水ソラシティで)
スムストック・新会長に阿部俊則氏(積水ハウス会長) 「捕捉率20%に拡大したい」
優良ストック住宅推進協議会(スムストック)は8月31日、前会長・和田勇氏(元積水ハウス代表取締役会長兼CEO)に代わって阿部俊則氏(積水ハウス代表取締役会長)が就任したと発表。阿部氏は「当協議会は今年6月で10周年を迎え、11年目に入った。これまでの実績を踏まえ信用、発信力を強化し存在感を示したい。建て替えとリフォームの両輪で既存住宅市場を拡大する一翼を担いたい」と抱負を述べた。
また、①住宅履歴のデータベースを保有②50年以上のメンテナンスプログラム③新耐震以上の耐震性-この3原則を満たす「スムストック」のブランド力向上について、「昨年12月に『安心R住宅』第一号登録を取得したが、この分野でも先頭に立つようチャレンジする。今年度を初年度とする新たな3カ年計画では、年間1万棟の実現もさることながら、捕捉率にこだわりたい。協議会10社の戸建てストックは366万棟あり、このうち年間約1.4万棟が流通しているが、スムストックで仲介した物件は1,740棟で捕捉率は12.4%しかない。ハードルは高く容易なことではないと考えているが、これを何とか20%までに持っていきたい」と話した。
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スムストックの2017年度の成約数は1,740棟(前年度比6.6%増)、累計成約数は8,562棟(同25.5%増)に伸び、同協議会独自の資格制度「スムストック住宅販売士」の登録者は累計6,103名(同9.5%増)になっている。
協議会加盟の10社による戸建てストックは現在366万棟で、このうち市場に流通しているのは約1.4万棟/年で、このうちスムストックで仲介した物件は2017年度で1,740棟となっており、課題とされる捕捉率は12.4%にとどまっている。
捕捉率を20%に拡大するためには新たな連携強化策が必要とし、スムストック住宅販売士制度の改定などを行うとしている。
前代未聞、空前絶後の挑戦 高円寺阿波踊りの音量・盛り上り度を数値化
第三企画・殿様連(第62回高円寺阿波踊り)写真は全てプロカメラマン・中村人士氏撮影
カン カン カン ドドン コ ドン チャチャン チャチャン チャン チャン チャン ドドン ドドン ドン ドン ドン ヤットサー ヤット ヤット ドン ドン ドン…踊る阿呆(あほう)に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らな損々…
本場の徳島とともに日本三大阿波踊りと呼ばれ、すっかり夏の風物詩として定着している「第62回高円寺阿波踊り」と「第34回南越谷阿波踊り」が8月25日(土)~26日(日)同時開催された。参加連は高円寺が119連、南越谷が79連、観客は高円寺が例年より若干少ない97万人、南越谷が過去最多の75万人だった。
鉦と太鼓が地を揺らし、おとこ踊りが阿呆を演じ、おんな踊りが優雅に天を舞う-そんな連と観客が一体となり、何の恨みがあるのかぎらぎらと照り付ける太陽と白々しい冷笑を浴びせかける月に十分すぎるお返しをした。
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記者はこの十数年間、双方の阿波踊りを見学している。高円寺では踊り子や観客の「阿呆」ぶりを虫の目と鳥の目でしっかり観察してきた。南越谷はハウスメーカーの広報担当者と取材記者との懇親会を兼ねたもので、見学する前にかなり酒を飲みすっかり出来上がっており、肝心の有名連による舞台踊りは熟睡していることも多いのだが、芸術の域まで達した踊りを堪能している。
今年は一念発起。考えるより行動するのが記者の真骨頂だ。鳴り物の音量と観客の歓声・盛り上りを何とか数値化できないかと仮説をたてた。早速、デジタル測定器で測ることにした。
25日、高円寺阿波踊りの桃園演舞場近くの店舗の軒下に立ち、開始の午後5時から8時までの3時間、ほとんど一歩も動かず、左手に測定器を右手にボールペンを握り、2秒ごとに更新される数値(dBA)をクリップボードの用紙に書き込んだ。
単純なことだが、これか実に大変、疲れる。タバコも吸えず酒も飲めず、トイレにも行けない。鳴り物や踊りはちらちらと覗くだけで、数字とにらめっこしっぱなしだ。デジタル文字の「8」と「9」が目まぐるしく変わると、実際の数字と残像がごちゃまぜになる。じっとしているだけなのに背中やわきの下、太ももに汗がしたたり落ちる。記者の領土に侵入を企てる狼藉ものも少なくない。押し合いへし合いだ。
50連のMAXの数値を記し終えたときは息も絶え絶え、歩くことすらできなかった。歩かないのに足が痛くなることを初めて知った。(中学生の頃はいつも廊下に立たされていたが、せいぜい45分だ)RBA野球の取材のほうがはるかに楽だ。
その結果が別表だ。測定数字には手心を一切加えていない。かわいい子どもや美しい女踊りの連には数値が上がってほしいと願ったが、測定器がそんな気持ちを忖度して誤作動した可能性は皆無のはずだ。
測定できたのは50連だから、この日の全参加連の3分の2くらいはカバーできた。もっとも音が大きかったのは東京天水連で109。2位は吹鼓・天水連で108、3位は第三企画・殿様連、むさし南連、華純連が同数の107。このあたりの連の音はそれこそ五臓六腑が揺さぶられ、苦痛とも快感ともつかぬ感覚が鼓膜を通じて脳天を貫いた。全ての連が96以上だった。
翌日は、踊りと観客の距離が近いパル演舞場で一部だが計測した。第三企画。殿様連がトップとなった。鳴り物の鉦を叩くのは本場仕込みの久米信廣で、太鼓はふだん重い紙を自由自在に操る川口工場の猛者が中心。日頃の鍛え方が違うのが断トツの結果をもたらしたと思われる。
説明するまでもないが、90デシベルはカラオケの店内や怒鳴り声の大きさで、100デシベルは電車が走るガード下か声楽家の声、110デシベルは車のクラクション並みのようだ。
こんな馬鹿馬鹿しい企みを実行に移すのは記者くらいで、前代未聞、空前絶後の愚行だろうが、数値化する意味はあるはずだ。鳴り物の音と歓声は周波数が異なるだろうから、双方を測れる測定器を使えばもっと詳細なデータが集まるのではないか。美醜を測定するロボットも開発されるのではないか。(来年はそれこそ〝美〟に焦点を当てようかしら)
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以下は記者の独断と偏見による推論だ。正論とはかなりかけ離れているかもしれないが、それほど的は外していないのではないか。
阿波踊りの起源や歴史については諸説があるようだが、江戸時代の百姓や町人の盆踊りだったとする説に賛成だ。武士と町人が一緒に踊ったという説もあるようだが、絶対的な階級社会ではまずありえない。この日だけは豊作祈願にかこつけ、無礼講で日ごろのうっ憤を晴らしたのではないか。
阿波踊りが全国区になったのは、単純なリズムが覚えやすく、どこかお上を批判する意味が込められているような「阿呆」という言葉が共感を呼び、人を食った珍妙な男踊りもさることながら、やはり妖艶な女踊りにみんな魅了されたからではないか。
とにかく衣装デザインがいい。基本のカラーは白、赤、黒、黄、青の五色。五行思想と関連があるのではないか。それぞれの色は補色の関係にあり、ややもすると滑稽な姿になるが、阿波踊りは満艦飾でありながらそれぞれの色が引き立つようにデザインされている。派手な配色も意表をついて面白い。
そして、何よりも美しいのがチラリズムだ。浴衣姿の女性がつま先立ち、脚を上げるごとに覗くふくらはぎが男心をそそる。実にコケティッシュだ。吉田兼好の「徒然草」にある「久米の仙人の、物洗ふ女の脛の白きを見て、通(神通力)を失ひけんは、誠に手足・はだへなどのきよらに、肥えあぶらづきたらんは、外の色ならねば、さもあらんかし」そのものだ。
現在の女踊りは浴衣の下には何もつけず、ショーツにストッキングを穿いて踊るようだが、昔は湯文字(ゆもじ)を着ていたのではなかろうか。ウィキペディアによると、「江戸の湯文字は緋色か白で老女は浅葱色、大阪では遊女が赤で素人は白、三重では黄色が主に用いられた」とある。その名残か。多くの女踊りの浴衣の裏地は緋色のはずだ。
そればかりではない。女性を美しく際立てるのに半月形の編み笠も大きな役割を果たしている。身長を大きく見せる効果と、上部からの光を覆うことでうなじから顎、鼻のラインを浮き立たせる効き目もある。電灯などがなかった昔は篝火をたいたはずで、そのゆらゆらと揺れる光が妖艶な表情をいや増しにしたのではないか。
編み笠の起源は鳥追い笠とあるから、これもまた傀儡(くぐつ)、白拍子(街娼)が身に着けていたものと結びつく。その文化は平安の時代から受け継がれてきたのではないか。
こうしてみると、阿波踊り・盆踊りは「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」という死生観を漂わせながら死者を供養するとともに、庶民の性の解放を高らかに謳った舞でもあったのではないか。古今東西、文化を創るのは「阿呆」=庶民であることが証明されているようでうれしい。
記者は「おわら風の盆」を一度見たいと思っている。高橋治の小説「風の盆恋歌」(新潮文庫)はお勧めだ。