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「幡ケ谷公衆トイレ」(撮影:永禮賢氏、提供:日本財団、クレジットなしは記者撮影)

 全17か所の日本財団の「THE TOKYO TOILET」プロジェクトのうち「幡ケ谷公衆トイレ」と「笹塚緑道公衆トイレ」を3月28日見学した。今回もまた建築家・デザイナーの意図を探ろうと矯めつ眇めつしたのだが、結局はよく分からなかった。

 プロジェクトは、暗い、汚い、臭い、怖いなどのイメージが強い公共トイレを、誰もが快適に利用できるものにしようというと同財団が企画、世界で活躍する建築家・デザイナー16氏がデザインを担当、渋谷区内の17か所に約17億円の費用を掛けて公共トイレを整備、整備後は財団が一定期間運営に関わり、その後区に寄付するもの。2020年から開始され、2023年3月で全てが完成した。トイレの設計施工は大和ハウス工業、設置機器・レイアウトはTOTOが担当している。

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「幡ケ谷公衆トイレ」

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 まず、マイルス・ペニントン(Miles Pennington)&東京大学DLX デザインラボの「幡ケ谷公衆トイレ」。場所は京王線笹塚駅から徒歩13分、中野通りと水道道路が交差している四叉路の角地。

 現地を見学して考え込んでしまった。四角い建屋はトイレには全く見えない。ピクトサインがなければガレージそのものだ。同財団の資料で、その企画意図を理解することができた。次のようにある。

 コンセプト...With Toilet 公共トイレが地域コミュニティの中心であろうとしたことが今まであったでしょうか。しばしば公共トイレは使われなくなり、地域にとっての価値を失い、次第に忘れさられてしまいます。そうさせないために私たちは「...With Toilet」をつくりました。公共トイレに別の機能をもつ空間を組み合わせた建築で、その第二の空間は、年齢や性別にかかわらず全ての人達がさまざまな用途に活用できます。展示スペース、ポップアップストア、情報センター、待合所など、地域コミュニティの中心として役立てられることを期待しています。

 コメント 私たちDLXデザインラボの理念は「協同」「共有」「探索」です。ですから、この素晴らしいプロジェクトに参加する機会をいただいたとき、学生たちがデザイナーや建築家や専門家と協同して、地域のコンテクストに基づいたアイデアを探索し、公衆トイレのあり方を考え直す、この上ないチャンスだと思ったのです。ここはコミュニティスペースです。トイレはたまたまそれに付属しているにすぎません。地域ギャラリーとして、集会所として、あるいは他の用途として、笹塚・幡ヶ谷の人たちに使い倒していただきたいです。

 なるほど。コンセプト、コメントは素晴らしい。今回の17のトイレの中でもっとも意欲的な作品かもしれない。問題は担い手、誰が魂を吹き込むかだ。区には期待しないほうがいい。

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「笹塚緑道公衆トイレ」(撮影:永禮賢氏、提供:日本財団)

 次に、設計事務所ゴンドラ所長・日本トイレ協会会長でもある小林純子氏が担当した「笹塚緑道公衆トイレ」について。

 場所は京王線笹塚駅から徒歩1~2分の高架下。これまたうなってしまった。正面に錆びた煙筒が3本並んでいる光景は、まるで廃墟の街の遺物だ。あちこちに穿たれた小さな窓にはウサギの絵、その建屋の上には赤い太陽でも青白い月でもない黄色い楕円形の大庇…。裏に回ると、四角い橋脚にその部分だけえぐり取られている。

 しばし考えた。同じような〝劣悪〟な立地条件のトイレはもう一つある。田村氏が担当したトイレだ。そこは線路の壁と、左右の非常倉庫と電車の電源分配ボックス、交通量の多い車道に挟まれた、三角形の「隙間」だった。ほかはみんな公園内か人通りの多い歩道に面している。

 なぜ女性二人だけかと考えないわけではないが、だからこそなのか、双方ともハンディを跳ね返す力があるという結論に達した。

 以下のコンセプト、コメントを読むと、その熱意が伝わってくる。

 コンセプト まちあかりのトイレ 高さの異なる円筒形のトイレに、黄色い楕円形の大庇を浮かし、外壁についた丸窓からはうさぎがのぞいています。敷地の特殊事情から軽量化が求められ、耐候性鋼板パネル構造にし、また、京王線高架下の閉鎖感をなくそうと大庇を浮かせて第2の空を造りました。耐候性鋼板パネルは、鉄板を一旦錆びさせているためいつまでも強度と風合いが保てます。まちの頑固おやじのように、存在感がありまちの人々を明るく見守ってくれると同時に、楽しさも感じるトイレにしたいと思いました。開口部は広くとり、重厚ながらオープンで、中は明るく清潔感あふれ、安全性も感じるトイレにしました。
 コメント 今回のTHE TOKYO TOILETのプロジェクトに参加した理由は、今回の企画が過去ずっと抱いていた課題に対する解決への挑戦があり、社会的にも大きな意味を持つと考えたからです。我が国での初めての公共トイレは1879年横浜で現れた洋風な公衆トイレでした。その時は世の人を驚かせたようでしたが、それから約140年余を経て、公衆トイレの今は、利用者の無自覚ないたずらや汚損、それに追随しない(対応できない=記者注)メンテナンスの脆弱さの中で、4K(臭い、暗い、怖い、汚い)の代名詞になっています。女性にヒアリングすると、近寄りたくないとさえ言われるくらいです。私どもはこの37年間、250か所以上の公共のトイレの設計に携わってきましたが、公衆トイレは一番難しく、かつ意味のあるトイレではないかと考えています。今プロジェクトは、「公衆トイレは、市民みんなの財産であること」をもう1度考え直すきっかけを造ろうとされています。こんな企画はわが国でも初めてです。これを機に様々な公衆トイレの議論ができることを期待します。

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「笹塚緑道公衆トイレ」(撮影:永禮賢氏、提供:日本財団)

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「笹塚緑道公衆トイレ」(撮影:永禮賢氏、提供:日本財団)

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 全17か所のうち15か所を見学して、課題も見つかった。それぞれのトイレには建築家・デザイナーの強烈なメッセージが込められている。

 利用していないときは外から丸見え、利用中は中からは見えるが外からは覗かれないという意表をついた坂茂氏のシースルー「代々木深町小公園トイレ」「はるのおがわコミュニティパークトイレ」は話題になった。えも言われぬ白の波打つ外観が美しい槇文彦氏の「恵比寿東公園トイレ」に記者は惚れ込んだ。安藤忠雄氏の「神宮通公園トイレ」は対照的で、威厳に満ちた黒光りするお堂に見える。隈研吾氏の「鍋島松濤公園トイレ」は〝負ける建築〟そのもの、時を経るごとに周囲の景観にすんなりと馴染むのではないか。

 このほか、コンクリに木調デザインを施した片山正通氏の「恵比寿公園トイレ」、鮮やかな赤に圧倒された田村奈穂氏の「東三丁目公衆トイレ」、ピクトサインも控えめで全然トイレに見えない佐藤可士和氏の「恵比寿駅西口公衆トイレ」、童話・近未来の世界を描いているような伊東豊雄氏の「代々木八幡公衆トイレ」、NIGO®「神宮前公衆トイレ」、佐藤カズー氏の「七号通り公園トイレ」、公園トイレはかくあるべしという見本のような坂倉竹之助氏の「西原一丁目公園トイレ」、周りの植栽計画も見事な後智仁氏の「広尾東公園トイレ」などみんな素晴らしいものばかりだ。

 だが、しかし、〝誰も利用しない公園〟は渋谷区でも例外ではないはずで、「使われ活きる公園」にしないと、プロジェクトの目的は達成されないのではないか。

 そして何よりも、著名な建築家・デザイナーの〝作品〟であることを同財団も渋谷区も伝えていないことが気になる。小さな銘板はあるのだが、探さないと分からない。

 今からでも遅くない。入口かブース内にプロジェクトの目的、担当した建築家・デザイナーのメッセージを掲出すべきだ。バーコードでもいい。そうすれば、みんなトイレをきれいに使うはずだ。

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「幡ケ谷公衆トイレ」

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「幡ケ谷公衆トイレ」

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「笹塚緑道公衆トイレ」

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「笹塚緑道公衆トイレ」

日本財団「THE TOKYO TOILET」13か所目 後智仁氏のトイレは植栽にも注目(2022/7/23)

日本初の手をつかわないトイレ「Hi Toilet」誕生 佐藤カズー氏デザイン 日本財団PJ(2021/8/12)

森に溶け込む淡い7色きのこ 伊東豊雄氏担当の日本財団「THE TOKYO TOILET」PJ(2021/7/16)

誰もが使いやすいトイレ「LIXIL PARK」 フジテレビ広場で公開LIXIL 7/21~9/5(2021/7/20)

佐藤可士和氏担当の恵比寿駅西口は「白」の箱 日本財団「THE TOKYO TOILET」PJ(2021/7/15)

隈研吾氏の〝十八番〟外観は吉野杉のルーバー 日本財団「THE TOKYO TOILET」PJ(2021/6/25)

マスク越しに強烈な匂い 平塚駅前公衆トイレ 利用者はほとんど男性 トイレ考Ⅲ-3(2021/4/3)

富士を観ながら…日本トイレ協会「特別奨」受賞 「ダイヤゲート池袋」 トイレ考Ⅲ-2(2021/4/1)

多様化する利用目的 少ない車いす対応 マンホールトイレ 畢生のトイレ考Ⅲ-1(2021/3/31)

トイレ紙1日使用量 男性3.5m 女性12.5m 年間排泄量15t 畢生のトイレ考Ⅱ(2021/3/30)

櫂 糞尿譚 陰翳礼讃 水琴窟 シカの糞…虚々実々 記者畢生のトイレ考(第1回)(2021/3/29)

安否確認イベントに過去最多65%参加 三菱地所レジ・コミュニティ 津田沼「奏の杜」(2021/3/14)

「美しい公衆トイレ発信できた」安藤忠雄氏/世界からオファー 日本財団PJ(2020/9/15)

素晴らしい槇文彦氏、田村奈穂氏、片山正通氏 日本財団 渋谷公園トイレPJ(2020/9/21)

〝駅なのか街なのか〟JR東日本最大規模の「グランスタ東京」8/3開業 トイレに注目!(2020/7/30)

マンション・戸建て トイレはTOTO、LIXIL、パナソニックがデッドヒート(2020/3/24)

デベロッパーも取り組んでほしい 「TOTO商品はすべてがユニバーサルデザイン」(2020/2/3)

女性輝けないトイレ 「利用しない」公園90%、駅38%、職場30% 国交省アンケート(2017/1/21)

労働環境改善活動にエール 全国低住協「じゅうたく小町部会」に参加して(2016/11/26)

「トイレは経営の問題」哲学の一端を垣間見た「ラスカ平塚」 トイレ考Ⅲ-4(2021/4/19)

「使われ活きる公園」 逆読みは〝使われず危機に瀕する公園〟 国交省「公園検討会」(2022/11/1)

 

カテゴリ: 2022年度

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紅葉も許されず手足をもぎ取られたケヤキ(「BRIGE LIFE Platform南栗橋」の街路樹)

 プレハブ建築協会住宅部会は324日、リアル&オンラインの住宅部会活動報告会を開催し、飲食を伴う記者懇親会を4年ぶりに行った。

 2021年度のプラン推進委員会報告では、成果指標に掲げる12項目のうちオーナー満足度は72.7%(2025年度目標は75%)、戸建てZEH比率は66.9%(同80%)、新築戸建ての居住段階における1次エネルギー消費削減率は74.9%(同100%)、低層集合住宅ZEHM供給率は4.3%(同25%)、新築集合住宅の居住段階における1次エネルギー消費削減率は31.89%(同50%)、2013年度比の工場生産CO2排出量は51.3%減(同40%減)工場における再エネ電気の利用率は740.2%(同30%)などとなった。

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プレ協会員会社の戸建てのZHE化は着実に前進しているようだ。しかし、課題も多いことが分かる。

同協会のデータによると、2021年度のプレハブ住宅の総数は123,470戸で、全新設住宅着工戸数に占める割合は14.3%だ。一方で戸建て全体のZEH化は2割強であることを併せ考えると、市場の圧倒的多数を占める賃貸などの集合住宅、建売住宅などのZEH化は遅々として進んでいないことを浮き彫りにしている。国は、2030年までに建売戸建や集合住宅を含む新築住宅のZEHを実現することを目標に掲げているが、このままでは前途が危ぶまれる。

もう一つ、同協会や他の業界団体、デベロッパーに注文したいことがある。戸建て・集合住宅の緑化についてだ。

都市の緑化は、ヒートアイランド対策だけでなく良好な景観形成、健康寿命の増進、ストレス軽減、生物多様性空間の形成など都市環境の改善に大きな役割を果たしている。

世田谷区は平成22101日、都市緑地法に基づく緑化地域制度を導入し、同様の制度を定めている自治体はいくつかある。また、総合設計制度、地区計画などで植栽・緑化基準を定めている事例は少なくない。

しかし、いずれも規制は一定基準以上なので、一般的な住宅地の緑化は事業者、建築主の判断に任されているのが現状だ。欧米などでは費用対効果を定量的に計る指標が開発されているのに対して、わが国にはそのようなモノサシは定着していないのも都市での緑化が進まない要因の一つと思われる。

記者は、プレ協の活動報告会でも質問したのだが、トヨタホーム、東武鉄道、久喜市、イオン、早稲田大学の5者連携による先進的なスマートタウン「BRIGE LIFE Platform南栗橋」を見学した際、その目と鼻の先の信じられない光景に出合わせた。記事にも書いたので以下に紹介する。

「(BRIGE LIFE Platform南栗橋)のメインストリートの道路の街路樹は手足をもぎ取られ、葉っぱを付けることも紅葉することも許されず、墓標のような無残な姿をさらけ出していた。

さらにまた、現地手前の分譲戸建ての敷地はコンクリで固められ、樹木は1本も植えられておらず、緑といえば人工芝のみ。建物も出隅入隅などほとんどない総二階のデザイン性に乏しいものだった。畜舎だってもっとましではないかと思ったほどだ」

世界のトヨタとわが国を代表する鉄道会社、行政、大学が連携して素晴らしい街を整備している一方で、このようなことが平然として行われている-このあまりにも大きな落差をどう理解していいのか。分譲戸建てというのは、調整区域での開発であるため最低敷地面積は100坪と定められているのだが、緑化基準などはないのでこのような建売住宅が供給されているわけだ。このような事例は日常茶飯だ。

行政は、開発行為に関して最低敷地面積だけでなく緑化基準を定めるべきだし、ハスウメーカーもデベロッパーも自主的に緑化基準を設けるべきで、消費者もまた価格の安さに目を奪われず、物件の良否を見極める目を養わなければならない。

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敷地は100坪もあるのに地面はコンクリで固められている建売住宅

敷地100坪 建物30坪の平屋 ミラースHDの戸建て「南栗橋」企画ヒット(2022/11/13

ZEH供給比率70%達成へ プレハブ建築協会 住宅部会 2020年度活動報告(2021/3/23

カテゴリ: 2022年度

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伊勢神宮外宮(2016年写す)

 わが多摩センターからホテルが消え、四季折々の美しい草花をパルテノン大通りに咲かせてくれている恵泉女学院大学の閉学が決まったことにショックを受けているのに、今度はわが故郷・三重県伊勢市の住宅地の地価公示は10年前と比較して24.7%下落しており、人口10万人以上の全国259市の中で最大(ワースト)の下落率であることが分かった。Unbelievable!なぜだ!

 別表を見ていただきたい。 10万人以上地価公示変動率.)、変動率上位50市.)、 変動率ワースト50市)。人口10万人以上の全国市259(東京特別区は除く)のうち10年前の2013年比で住宅地の地価公示がプラスなのは156市で、下落しているのは100市(変動率ゼロは3市)。平均の変動率は9.9%上昇となっている。

 変動率トップは76.2%上昇の札幌市で、以下、大野城市、福岡市、江別市、仙台市、春日市、宜野湾市、筑紫野市、那覇市、浦添市がトップテン。ほぼ50%以上上昇している。

 大野城市、春日市、筑紫野市は福岡市に隣接しており、この4市と札幌市、そして3市の沖縄県がトップテンに入っているのは注目される。マンションの価格上昇も著しい。

 隈研吾氏が設計したことで話題になった札幌市の高級住宅街の低層マンション「プロスタイル札幌 宮の森」は坪単価700万円でも、首都圏中心の富裕層に人気と聞いている。札幌駅周辺の再開発マンションも坪単価は400万円を突破している。東京23区並みだ。

 福岡市の大和ハウス工業「プレミスト大濠二丁目」も坪単価520万円ながら残りはわずか。再開発が進んでいる「天神」エリアでは坪400万円くらいになっているという。

 早期完売したサンフロンティア不動産の分譲ホテル「HIYORIオーシャンリゾート沖縄」(203室)は坪単価350万円くらいだと思われる。

 このほか上昇が目立つのは仙台市、広島市、名古屋市、さいたま市などの中核都市のほか首都圏・首都圏近郊ではいわき市、木更津市、武蔵野市、つくば市、習志野市、浦安市、三鷹市、川口市などの上昇も目立っている。今年の変動率で上位を独占した東広島市は49番目(10年くらい前から上昇していたということか)。

 一方、24.7%下落の三重県伊勢市が変動率ワーストで、以下、桐生市、焼津市、足利市、栃木市、霧島市、那須塩原市、上越市、松阪市、尾道市がワースト10。三重県が2市、栃木県が3市入っている。

 このほか、県庁所在地では甲府市、水戸市、鳥取市、青森市、首都圏では横須賀市、秦野市、取手市、小田原市、野田市、平塚市など都心へのアクセスに難のある市がワースト50に入っている。

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伊勢神宮内宮(同)

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河崎町(同)

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 伊勢市と言えば、年間800万人以上が訪れ、毎年、総理大臣も正月にお参りする皇祖神の女神・天照大神(あまてらすおおみかみ)が鎮座する伊勢神宮があり、お伊勢さんマラソンとしても知られているので、数少ない全国区の市のはずだ。

 その伊勢市が、全国で259ある人口10万人以上の市の中で下落率が最大(ワースト)とはどういうことか。(全国唯一の再生再建団体である人口6,734人の北海道夕張市の下落率38.2%と比べれば上位だが)

 早速、伊勢市駅近くの不動産会社に電話で聞いた。予想したとはいえ、絶望的な返事が返ってきた。「地価公示はわれわれがはじいた数字ではありませんが、やむを得ないですね。市にはおかげ横丁しかありませんから。人口流出も松阪市や津市のほか、福祉サービスで勝る隣接の玉城町、明和町に移る人も少なくありません。全国区の大企業は1社(横浜ゴム)しかありませんし…。活性化? 難しいですね」

 市の公表データからも明るい展望は見えてこない。令和2年3月版の伊勢市人口ビジョンによると、2060年の将来人口は、平成25年基準推計によると約66,000人で、現在の約12.3万人からほぼ半減すると推測している。空き家総数は2013年の8,640戸から2018年の8,990戸に増加(現在は、住宅戸数のほぼ2割と記者はみている)。

 高校生・大学生に対するアンケート結果も深刻だ。高校生・大学生とも伊勢市への愛着は約7~8割と高いにも関わらず、「就職先が豊富である」と回答した高校生は2.3%、大学生は何と0.0%だ。

 市は不動産会社にもヒアリングを行っているが、これまた、手厳しい指摘がほとんどだ。「生産年齢人口の減少に伴って、住宅需要が減少しているように感じる。人口がより多い県内の他市に比べると、物件の見学客数そのものが少ない。事業用物件のニーズも少ない」「仕事を探す目的で伊勢に住むニーズはあるが、安定した仕事が見つかりにくいという理由で転出するケースも少なくないと感じる。定住人口の増加に向けては、雇用対策が急務である」「伊勢神宮中心の観光振興では定住人口を増やす効果には限界がある。神宮に頼ってばかりではなく新しい経済対策が必要で、若者やよそ者の発想を受け入れる体質づくりが必要である」

 就業構造にも問題があるようだ。もっとも就業者数の多い製造業では、市外に通勤している人のほうが、市外から通勤している人より多い。つまり、市内の製造業での働き口が少ないということだ。

 このような事情から、平成28年度の(雇用者報酬+財産所得+企業所得)÷人口=1人あたり市町民所得額は282.7万円で、三重県平均の315.5万円を下回っている。

 同ビジョンでは、「全国と比較した稼ぐ力(地域の特色)をみると、ゴム製品製造業や宗教、水運業…などは独自性が高い産業であり、市外からお金を稼ぐ産業として成長を支援するとともに地域外への移転を防ぐ必要性が高い」としている。

 市の最大の観光資源である伊勢神宮だが、その観光客の圧倒的多数は市内に宿泊せず、素通りして鳥羽・賢島方面に流れていることも見逃せない。市の観光統計によると、令和4年の宿泊客は72.2万人で、ここ数年間は漸増しているが、コロナ前の170~180万人の鳥羽市、約150万人の志摩市と比べると半分以下だ。

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 記者は三重県が誇れるものは伊勢神宮、赤福、的矢の牡蠣だと思っているのだが、もう一つ女性の美しさも追加したい。心が美しいという意味で、容姿とか外貌のことを言っているのではない。気候が温暖で、争いを好まず伊勢を中心に京都の文化を受け継いでいるからではないかというのがその理由だ。〝近江泥棒、伊勢乞食〟というのは県民性をよく表していると思う。

 記者だけでなく、三重県の女性がトップという調査結果があることを初めて知った。女性の体型を表す指標「PI(プロポーションインデックス)」をもとにダイアナが発表している「都道府県別・女性体型メリハリ度調査」だ。これによると三重県の女性は2016年と2017年でトップになっている(2020年は5位)。「健全な精神は健全な肉体に宿る」ということか。

 にもかかわらず、データは逆だ。先の市のビジョンによると、女性未婚者の20代以下の7割弱、30代の5割に結婚願望があると答えているが、未婚率は35.6%と県平均より高く、20代の約8割、30代の約3割が独身で、その主要因は「出会いがない」「理想の相手に出会えていない」とある…男性も頑張れ。

 長谷工不動産は、市内のかつての一等地・伊勢市駅前の「伊勢市駅前C地区第一種市街地再開発事業」(102戸)の権利変換計画認可を受けたと発表した。竣工予定は令和7年度。記者は坪単価150万円くらいに見ているが…。

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伊勢市民も食べないかいづ(記者は、味はともかくこれほど美しい夫婦和合の図はないと思う)

隈研吾氏が設計 坪700万円超でも好調スタート プロポライフ「札幌 宮の森」(2022/9/23)

坪単価520万円でも人気 最終分譲へ 大和ハウス「プレミスト大濠2丁目」(2022/11/1)

サンフロンティア ホテルコンド「沖縄」開業 販売も順調(2021/2/23)

国政の喫緊の課題――地方の再生 観光都市・伊勢の再生はあるか③(2008/1/17)

国政の喫緊の課題――地方の再生 観光都市・伊勢の再生はあるか②(2008/1/16)

国政の喫緊の課題――地方の再生 観光都市・伊勢の再生はあるか①(2008/1/15)

 

 

 

 


 

  10万人以上地価公示変動率 (回復済み).xlsx上位50市.pdf

カテゴリ: 2022年度

 わが国の町内会組織など自主団体研究の第一人者である山梨学院大学法学部特任教授・日高昭夫氏は、詳細な情報を持ち合わせていないと断ったうえで、千代田区番町の地区計画変更に関して次のようなコメントを寄せた。

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 ポイントは、①地区計画決定過程で必要な「地区住民等の意見」にいう「地区住民等」が町会長等の意見で代表できるのか②その町会長の意見がそもそも町会を代表する正当性を有しているのか、といった点かと理解しました。

 このうち、①については、かつて山梨県の旧明野村の産業廃棄物処理場建設問題で、区長(自治会長)の意見を地区住民の意見として建設を進めた山梨県の行政対応が、その後深刻な行政対住民の対立と住民間の分断を生み、長期にわたって混乱と大きな行政コストをもたらしたことを思い出しました。

 千代田区の場合も、地区計画の趣旨に沿って、丁寧な地区住民の意見を聞く最初の手続きを誤れば、同様の結末にならないか懸念されます。

 私個人の見解ですが、行政が地区住民の代表として町会長の意見を日常的に聞くなどの仕組みや慣例そのものは、一概に批判されるものではないと思っていますが、それはあくまで日常的あるいは(暗黙にであれ)広く合意されている事項に限定されると思います。非日常的で合意が形成されていない事項についてまで、町会長に白紙委任されていると考えるべきではないと考えます。

 そこで、②についてですが、地区住民間で十分な合意が形成されていない事案で、しかも地区計画の本質的変更につながるような重要事項について町会長が公式に対外的に意見を表明する場合には、少なくとも町会としての明確な合意形成が前提条件ではないかと思います。

 その意味で、町会のガバナンスを問う今回の訴訟は画期的で、大変興味深いものだと思います。

 ただ、訴状の詳細も分かりませんし、私的自治がどう評価されるか、町会規約がどのようになっているか、メンバーシップや総会の規定など細かい点は不明ですので、どのような展開になるかはなんともいえません。

全国初 町会の民主的運営を問う裁判提起 二番町(日テレ通り)再開発の是非(2023/3/16)

管理協 地域共生セミナー 「管理組合と自治会は車の両輪」(2011/9/20)

 

カテゴリ: 2022年度

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多摩市立グリーンライブセンター

 東京都多摩市にある「恵泉女学園大学」の閉学が3月22日決まった。同日、学校法人恵泉女学園理事長・学園長・学長の3氏は連名で「学校法人恵泉女学園は、2024年度以降の恵泉女学園大学・大学院の学生募集停止を、2023年3月20日開催の理事会において決定した」と発表した。近年の東京都内の4年制大学の閉学は、平成29年の東京女学館大学に次いで2件目。

 同大学は「重要なお知らせ」として、「1988年の開学以来、神と人とに仕え、自然を慈しみ、世界に心を開き、平和の実現のために貢献できる女性を育成する最高学府として、多くの卒業生を輩出してまいりました。しかしながら、18歳人口の減少、とくに近年は共学志向など社会情勢の変化の中で、入学者数の定員割れが続き、大学部門の金融資産を確保・維持することが厳しくなりました。これまで大学存続のためにあらゆる可能性を模索し、将来のありかたについて慎重に検討を重ねてまいりましたが、このたび閉学を前提とした募集停止という苦渋の決断に至りました」と綴っている。

 また、学長・大日向雅美氏は同日の「学長の部屋」で、「自然に恵まれた美しいキャンパスの中、小規模大学の特性を生かした丁寧な教育のもと、学生一人ひとりが自分の大切さに気づき、他者を尊重する心を育みながらしなやかに成長していく姿を間近に見ることができることは、これに勝る喜びはありません」「卒業生にとっていずれ母校がなくなる日が迫っていることを思うとき、言葉もありません」「近年の国内外の情勢をみるとき、河井先生が目指された"『聖書』『国際』『園芸』の学びを礎として世界平和の構築に尽くす自立した女性"を育成する使命は、今、改めて求められているところと考えます」と述べている。

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 多摩市民の記者は、「京王プラザホテル多摩」が今年1月で営業停止となったのにもショックを受けたが、今回の恵泉女学園の閉学決定に同じような衝撃を受けた。

 キャンパスは、多摩センター駅からバスで約10分の多摩市南野2丁目に位置し、一本杉公園に近接。同大学はアダプト制度によるパルテノン通り沿いの植栽枡内の花壇の管理を行っており、年間4万人以上の利用者がいる多摩市立グリーンライブセンターの運営にも関わっている。

 同大学には用もないから数えるほどしか訪れたことはないが、わが国を含め全世界がファシズムへの道をまっしぐらに突き進んでいた1929年、女性キリスト者・河井道によって創立された同学園の建学の精神「神を畏れ 人を愛し いのちを育む」には胸を打たれる。

 バブル崩壊でデパート(そごう-三越)が消え、そして今年、開業33年にしてホテルが営業中止となり、今回の同大学の閉学決定だ。いま分譲されている三菱地所レジデンスなど錚々たるデベロッパーが名を連ねる「THE GRAND CROSS多摩センター(ザ・グランクロス多摩センター)」の坪単価252万円は、埼玉や千葉の郊外でやっと供給できるレベルの安さだ。単価は「橋本」に瞬く間に追いつかれ、坪100~150万円近く引き離されそうだ。多摩センターは地盤沈下する一方だ。

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グリーンライブセンターのボレロ

みどりの価値再認識すべき 三菱地所レジなど6社JV「多摩センター」は坪252万円(2023/3/21)

多摩グリーンボランティア森木会 10周年&「緑の都市賞」受賞記念講演会(2011/11/29)

カテゴリ: 2022年度

 国土交通省は3月22日、令和5年1月1日時点の令和5年地価公示を発表。新型コロナの影響で弱含んでいた地価は、景気が緩やかに持ち直している中、地域や用途などにより差があるものの、2年連続で上昇。都市部を中心に上昇が継続するとともに、地方部においても上昇範囲が広がるなど、コロナ前への回復傾向が顕著となった。

 全国平均では、全用途平均で1.6%(前年は0.6%)、住宅地で1.4%(同0.5%)、商業地で1.8%(同0.4%)といずれも2年連続で上昇し、上昇率が拡大した。

 三大都市圏では、全用途平均で2.1%(同0.7%)、住宅地で1.7%(同0.5%)、商業地で2.9%(同0.7%)上昇。東京圏は全用途で2.4%(同0.8%)、住宅地で2.1%(同0.6%)、商業地で3.0%(同0.7%)上昇となり、大阪圏、名古屋圏も全用途で2年連続上昇し、上昇率が拡大した。

 地方圏では、全用途平均・住宅地・商業地のいずれも2年連続で上昇し、上昇率が拡大。地方四市(札幌市・仙台市・広島市・福岡市)では、全用途平均・住宅地・商業地のいずれも10年連続で上昇し、上昇率が拡大した。

 その他の地域では、全用途平均・商業地は3年ぶり、住宅地は28年ぶりに上昇に転じた。

 都道府県別では、変動率がプラスの住宅地は前年の20から24に増え、変動率がマイナスの都道府県は前年の27から22へ減少。商業地は変動率がプラスの都道府県は15から23に増加、変動率がマイナスの都道府県は29から23へ減少した。

 変動率トップ10では、住宅地は北海道北広島市共栄町1丁目の59,800円/㎡(変動率30.0%)を筆頭に全て北海道。商業地も北広島市栄町1丁目の86,000円/㎡(同38.4%)以下全て北海道。

 三大都市圏の最高価格は、住宅地は東京圏は港区赤坂1丁目の5,120,000円/㎡(変動率2.4%)、大阪圏は大阪市福島区福島3丁目の1,160,000円/㎡(同7.4%)、名古屋圏は名古屋市中区栄2丁目の1,700,000円/㎡(同8.3%)。商業地は東京圏は中央区銀座4丁目(山野楽器本店)の53,800,000円/㎡(変動率1.5%)、大阪圏は大阪市北区大深町(グランフロント大阪)の22,400,000円/㎡(同1.4%)、名古屋圏は名古屋市中村区名駅4丁目(ミッドランドスクエア)の19,000,000円/㎡(同2.7%)。

購入者の4割が道外 日本エスコン 日ハム新球場に隣接マンション118戸完売(2022/9/21)

 

 

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お客様心理の変化に敏感に対応

野村不動産代表取締役社長・松尾大作氏

 今回の地価公示は、コロナ前への回復傾向が顕著となり、全国平均で全用途平均・住宅地・商業地のいずれも、2年連続で上昇し、上昇率が拡大した。住宅地については3 大都市圏・地方圏のいずれも2年連続で上昇し、上昇率が拡大、商業地については大阪圏が3年ぶりに上昇に転じたことで、三大都市圏・地方圏いずれにおいても上昇し、上昇率が拡大した。

 住宅市場に関しては、用地案件の減少などにより供給が限られるなかで需要は引き続き堅調であり、売れ行き好調な状況が続いている。共働き世帯の増加やテレワークの浸透等により、住まいで過ごす時間を豊かにしたいという新たな需要が生まれたことなどを背景に、中古を含めて需要は底堅く、また富裕層の動きも活発である。今後は、多様化するニーズを捉えた商品企画や、CO2排出量実質ゼロ住宅、駐車場へのEV 充電設備設置、国産木材の活用など脱炭素に寄与するサステナブルな商品・サービスがさらに求められる。

 開発手法の面では、通常の土地取得に加え法定再開発や公有地利活用、その他多様な手法を用いるとともに、地方中核都市におけるコンパクトシティ化へのニーズへ対応した中心市街地の再開発への参画など、継続的かつ中長期的な取組みが大切だと考える。
 なお、注視している建築費の上昇や住宅ローン金利の動向などに加えて、昨今のエネルギーコストの高騰やインフレによる家計への影響など、お客様心理の変化についてこれまで以上に敏感になってゆく必要がある。

 オフィス市場に関しては、賃料は緩やかな下落傾向にあり、空室率は一進一退の状況が続く。一方でオフィスへの回帰や、好調な企業業績を背景にオフィスの拡張移転を行う事例も増えている。リアルなコミュニケーションの再評価や採用拡大など、オフィスの意義や価値を重視し、センターオフィスの機能を充実させる動きもみられるようになった。働き方のニーズはさらに多様化しており、当社ではこうした変化に対応すべく、大規模オフィスに加え、中規模ハイグレードオフィスのPMOシリーズ、サービス付き小規模オフィスのH1O、時間貸しシェアオフィスのH1T などを組み合わせた「オフィスポートフォリオ戦略」を提案することにより、企業のフレキシブルな働き方を支援してゆきたい。また、オフィス空間の提供にとどまらず、入居企業をサービス面から支援する取組みもさらに進化させる必要がある。

 商業市場に関しては、コロナ前の状態に完全に戻ることは難しいと考えるが、食料品などの生活必需品を扱う地域密着型施設を中心に着実に回復に向かっており、独自性のある施設運営により差別化を図っていく。
 ホテル市場に関してはコロナの影響から回復しつつある。すでに国内の利用客増により稼働率は上昇しており、今後のインバウンド需要の戻りによる本格的な需要回復に備える。

 物流市場に関しては、eコマースニーズの拡大を背景に旺盛な需要があり、用地取得競争は過熱しているものの、多様な開発手法を用いて順調に用地取得が進んでいる。当社の開発ノウハウを活かすとともにテナント支援の取組み等をさらに進め、引き続き積極投資を行う。

 当社は、社会環境の変化や人々の価値観の多様化を念頭に置きつつ、これまで同様、お客様一人ひとりの生活や時間に寄り添い新たな価値を生み出す新規事業に取り組むなど、まだ見ぬ価値創造に向け挑戦をし続ける。

 地価公示は、不動産の取引動向や中期的な展望を反映したものであり、様々なマクロ指標と合わせて今後も重要指標のひとつとして注視していく。

コロナ前への回復傾向が顕著

三菱地所執行役社長・吉田淳一氏

 令和5年地価公示は、全国平均で全用途平均・住宅地・商業地のいずれも2 年連続上昇し、上昇率が拡大した。地域や用途などにより差があるものの、ウィズコロナの下、景気が緩やかに持ち直している中、都市部を中心に上昇が継続するとともに、地方部においても上昇範囲が広がるなど、コロナ前への回復傾向が顕著となったと見られる。

 住宅は、都心の高額物件の需要が引き続き旺盛であり、直近では「ザ・パークハウス広尾」が早期に完売、また最高水準のグレードを目指したザ・パークハウスのフラッグシップシリーズ「ザ・パークハウス グラン 三番町26」の販売も好調に推移している。政府による水際対策緩和に伴い、インバウンドニーズが徐々に顕在化しており、「ザ・パークハウス京都河原町」ではその引き合いを実感している。

 アウトレットでは、国内需要は引き続き好調に推移し、コロナ前と同水準を維持している。昨年10月には当社グループとして約10年ぶりに「ふかや花園プレミアム・アウトレット」が開業し、単なる買い物の場だけでなく、地元地域と共生し、情報発信・観光拠点の場となっている。

 ホテルは、国内需要が底堅く推移しており、昨年10月の入国制限の緩和を受けインバウンド需要が徐々に回復傾向だ。昨年11月には「ザ ロイヤルパークキャンバス 銀座コリドー」を開業した。お酒や音楽などナイトライフをより充実させるコンテンツを提供し、国内外の観光需要をうまく取り込みながら好調なスタートを切った。

 オフィスは、コロナの収束に伴い、業容が拡大している企業を中心に移転検討が活発化しており、リーシングにおいては、都市中心部への需要の底堅さを実感している。本年2月に竣工した「3rd MINAMI AOYAMA」は、次世代のワークスペースとして、各執務フロアにインナー/アウターバルコニーを整備する等、多様な働き方を可能にするオフィス空間を実現し、順調にリーシングが進んでいる。

足元の国際経済情勢などマクロ要因注視

東急不動産代表取締役社長・岡田正志氏 

 今回の地価公示では全国の全用途平均は2年連続で上昇した。昨年までは新型コロナウイルスの影響で地価は弱含んでいたが、アフターコロナをにらんだ人流の回復やテレワークから出社への移行、そしてインバウンドの回復基調などが影響している。ただ、ロシア・ウクライナ情勢による世界情勢の不安定化や世界経済の先行き不安、物価高騰による国内景気への悪影響などの不安定要素もあり、当面は地価の動向を注視していく必要があるとみている。

 地価の上昇地点をみると北海道、特に札幌市近郊の好調さが目立つ。2030年の北海道新幹線の札幌駅への延伸を見据え、札幌駅周辺を中心に市内で開発が進んでいるほか、グループの東急コミュニティーが管理する北広島市の新しい野球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」の周辺でも地価上昇が続くなど、札幌市近郊部の住宅地、商業地にも地価上昇の流れが波及している。札幌市とその近郊に人口集積が進んでいることも影響している。当社も札幌の中心部「すすきの」の玄関口であるススキノラフィラ跡地で、ホテルや商業施設のほかシネマコンプレックスなどが入る2023 年秋開業予定の大型再開発「(仮称)札幌すすきの駅前複合開発計画」(地上18 階建て)を手掛けているほか、環境先進型の分譲マンション「(仮称)ブランズ新札幌」を開発するなど、注目度が高まる札幌市内でも積極的に開発事業を進めている。

 当社は「環境先進企業」を目指して、環境に配慮した事業展開を全国で進めているが、特に北海道では小樽市や松前町、釧路市などで風力発電や太陽光発電所を開発・運営しているほか、石狩市では再生可能エネルギー100%のデータセンターの開発を計画するなど、北海道を重点地域の1つとして事業を推進している。また、インバウンド需要が回復した国際リゾートのニセコでも「ホテルニセコアルペン」のホテルコンドミニアムへの建て替えを含む大規模開発計画「Value up NISEKO 2030」を進めている。

 全国の住宅地をみると都市中心部の希少性の高い立地や、交通利便性等に優れた周辺地域では地価上昇が継続するなど根強い需要がある。低金利環境の継続など政策面でも需要を下支えしている効果がある。また、商業地では都心部を中心に店舗の需要のほか、オフィス需要なども堅調で、地価上昇につながっている。インバウンド需要で地価が過熱気味だった都心部の地価がコロナ禍による需要喪失で下落する場面もあったが、一時的な現象と捉えており、「アフターコロナ」によるインバウンドの復活などで、都市中心部の地価回復は当面続くとみている。

 当社では今年11月に竣工する「Shibuya Sakura Stage」をはじめとする「広域渋谷圏」の100年に一度ともいわれる再開発を、東急グループで連携して進めている。再開発ビルの開発で渋谷のオフィス床面積の拡大や渋谷駅周辺のバリアフリー化を進め、渋谷の街の魅力向上に努めている。都心5 区ではオフィス賃料の下落、空室率の上昇などがみられる地域もあるが、当社の本拠地である渋谷はITやコンテンツ産業を中心にオフィス需要が旺盛で賃料水準も安定し、空室率も低い状態が続いている。

 中長期的な不動産市場については、足元では国際経済情勢などのマクロ要因などを注視する必要があるが、不動産市況は回復基調が続くだろう。中長期的には少子高齢化による単身世帯の増加や空き家問題、「働き方改革」によるオフィス環境の変化等、不動産市場を取り巻く環境の変化が続くが、国内外で環境への意識が高まるなか、今後の不動産市場では「環境」が大きなテーマになるとみている。

 当社では2月末時点で開発中も含め全国に86事業、発電能力を示す定格容量で1,405メガワット(一般家庭の年間電力使用量ではさいたま市とほぼ同程度の約67.6万世帯分)の再生可能エネルギー発電所を全国に有しており、この再エネ電気を活用して昨年末、保有する全244施設の再エネ化を完了した。すでにオフィス市場では外資系を中心に「再生可能エネルギーではないビルには入居できない」という企業も出てくるなど、世界的な環境意識の高まりが不動産市況にも影響を与えている。当社はハードだけでなく当社グループの持つ幅広い事業領域を生かしたソフトサービスという付加価値を組み合わせて事業展開を進めていくとともに、再生可能エネルギーの活用のほか、ZEBやZEHなど環境に配慮したオフィスビルやマンションの開発を進めるなど、今後も積極的に環境対応を進めていく方針だ。

 

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左から旭化成ホームズくらしノベーション研究所所長・河合慎一郎氏、同社取締役兼常務執行役員・大和久裕二氏、大渕氏、同社執行役員兼シニア・中高層事業本部長・田辺弘之氏、同社シニアライフ研究所所長・伊藤香織氏

 旭化成ホームズは3月20日、自立~フレイル期シニア向け賃貸住宅「へーベルVillage」入居者への追跡調査を実施した結果、新サービス「安心・安全・健康長寿応援メソッド」が入居者の健康寿命延伸に効果を発揮していることを確認したと発表した。

 調査は2022年8月~2023年1月、自立~フレイル期の「へーベルVillage」入居者112名を対象に実施。対象者の性別は男性27.7%、女性68.8%、年代は70代20%、80代45%、90代以上22%(平均83.8歳)、世帯構成は単身57%、夫婦35%など。調査の結果、健康寿命延伸につながる健康行動(活動量・食事・交流)を維持・向上した入居者割合は97%に達し、フレイル該当者数が約5%減少したことが分かった。

 行動していなかった状態から行動に移せた入居者の割合では、食事が25%と最も多い結果となったほか、活動量では外出頻度が毎日1回以上と答えた割合が15%増加し58%、食事では調理頻度が毎日2回以上と答えた割合が15%増加65%となっている。

 新サービス「安心・安全・健康長寿応援メソッド」は、東京都健康長寿医療センター研究所の介護予防研究テーマ・高齢者健康増進事業支援室研究部長・大渕修一氏と連携し、2022年4月から導入を開始。設計(安全な暮らしと活動・交流を促す住環境)×相談員(定期的に入居者を見守りイキイキとした暮らしを後押しする人)×しかけ(設備による見守りと交流のきっかけ)の3つで入居者の暮らしを後押しし、入居者自らが健康長寿の3条件(活動量・食事・交流)の行動を増やし、健康長寿を実現することを目指している。

 大渕氏は、「このプロジェクトでヘーベルVillage は新しい行動を育む場所になったと考えています。今回の私たちのプロジェクトでは、支援ツールを使いながら生活相談員がプロチャツカとデクレメンテにより開発された行動変容理論に敏感になることを業務としました」とコメントした。

 「へーベルVillage」は、「へーベルハウス」(自立期)⇒「へーベルVillage」(自立~フレイル期)へとシームレスなサービスを提供するのを目的に2005年から提供を開始。介護スタッフなどが常駐せず食堂を不要とした事業形態。入居者の平均年齢は79歳で、75歳以上の後期高齢者が8割弱を占め、介護保険認定を受けていない人の割合は82%。2023年2月末時点で東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県で136棟1,746戸を運営。2030年度までに5,000戸に拡大する。

◇        ◆     ◇

 このような結果をもたらしたのは、ある程度は想定できた。2018年に「ヘーベルVillage杉並井草」を見学したとき、介護を必要としない自立派が約8割と圧倒的に多く、入居前の「持家戸建て・マンション」が約7割に達し、約4割の人が自宅を売却して入居を決めていることなどを聞いていたからだ。

 それにしても、平均年齢が83.8歳でも健康行動を維持・向上した入居者割合が97%に達し、フレイル該当者数が約5%減少したというのは凄い。2030年度までに5,000戸という目標にはずみがつくのではないか。

ニッチからコアへ 旭化成ホームズ シニア向け賃貸「ヘーベルVillage」受注加速(2018/8/24)

 


 

 

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大城氏(左)と堀氏(司法記者クラブで)

 グロービス経営大学院学長でもあるグロービス代表取締役・堀義人氏と大城聡氏(原告訴訟代理人)は3月16日、記者会見を行い、千代田区二番町(日テレ通り)の地区計画変更は適切な手続きが行われておらず、原告・堀氏の町会理事への立候補を妨害したしたのは不法行為として、二番町町会と諸亨町会長個人を被告として損害賠償訴訟を提起したと発表した。

 訴訟に至った経緯として、二番町を含む番町地区には、建築物の高さを最高60mに制限する地区計画が定められているにもかかわらず、千代田区は、同地区内の日本テレビだけに対し特別に90mの超高層ビル建設を許すために地区計画を変更しようとしており、その前提となる住民合意が得られていないと主張。

 提訴に踏み切った理由として、堀氏は2019年5月の二番町町会の総会前に二番町町会の理事に同社社員が立候補する意向を諸享町会長に伝えたにもかかわらず、「知らない人なので受けられない」「町会規約に詳しい規定がない」との理由で拒否されたとし、その後も立候補の意思を伝え、再三にわたって町内会のガバナンス問題について訴えているにもかかわらず、改善が見られないことから提訴に至ったとしている。

 請求の趣旨の第1として、二番町町会理事への立候補を妨害したことは不法行為でありとし、第2として、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に関する法律の規定が権利能力なき社団にも類推適用され、町会全員の同意の意思表示が必要であるにもかかわらず、町会員全員の同意を得ずに開催した書面総会は無効であり、前年度及び今年度の定期総会における各決議は不存在(同法265条1項類推適用)であるとしている。

 会見に臨んだ堀氏は「全ての方法が途絶えてしまったので、最後の手段、苦汁の決断として公の場で問うことにした。このような問題は全国で起きているのではないか。住民の声がきちんと町会に反映されることを願う」と語った。

 大城氏は「住民がみんなで話し合い、自分たちで街のことを考える意味で町会は大事な存在。しかし、(二番町会)は一部の人たちで運営されており、異なる意見を持つ人が排除されている実態がある。今回の町会のガバナンスを問うことは、民主主義の基盤をきちんと問い直すことに繋がる」「この種の町会のガバナンス問題に関する訴訟は前例がない」と話した。

 訴訟に合わせ、樋口高顕千代田区長及び都市計画審議会の岸井隆幸座長に対して同町会の意思決定過程に重大な問題があるため、問題の当事者である同町会長を二番町地区計画変更に関する都市計画審議会の審議に参加させないことを求める書面を提出した。

 今回の提訴について諸氏は区役所担当者を通じ「訴状を受け取っていないので何も言えない」とコメントし、(実名報道については)「ご判断に任せます」とのことだった。(本人の意向によっては実名を伏せることを考えていたが、すでにプレス・リリースで報道されており、諸氏は都計審の委員でもあり、公人に準ずると判断し実名とした)

◇        ◆     ◇

 堀氏が、区民の声を届ける手段・方法が途絶えたとし、苦渋の決断として今回の訴訟に訴えたのはよく分かる。全国に波及するのではないか。

 自治会・町内会への強制加入の勧誘は違法であり、マンション管理組合が町内会費を代理徴収するのも違法という判決が出されている。つまり、自治会・町内会は任意団体であり、加入も離脱も本人の自由意志が尊重されるということだ。

 この判決に倣うなら、町会理事への立候補を拒否し、その後も堀氏の提案を無視し続けてきた町会・町会長の言動・行動は極めて重大と言わざるを得ない。また、権利能力なき社団に「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」の規定が類推適用されるとすれば、民法第675条の「(1)組合の債権者は、組合財産についてその権利を行使することができる。(2)組合の債権者は、各組合員に対して等しい割合でその権利を行使することができる」が準用されるはすだ。

 だが、しかし、住民側にも問題がないわけではない。憲法でいう「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」(第12条)ことを考えないといけない。

 今回の二番町もそうだが、神田警察通り道路整備計画問題の取材を通じで、町会は住民代表というよりは、区の上意下達の下請け機関になり下がっているとしか思えない。区もまた都合のいいときは町会(長)を住民の声として利用し、時には町会(長)は住民代表ではなく、つまり、ただ声を聞く置く機関とみなしている。戦前の隣組組織とほとんど変わらないではないか。

 町会だけではない。区民も同様だ。今回の二番町の問題でいえば、日テレの別動隊そのものの「日テレ通りまちづくり委員会」のアドバルーン150m提案に区民は浮足立った。いとも簡単に日テレの情報操作にはまった。神田警察通りの道路整備計画でも、住民らは〝寝耳に水〟〝知らなかった〟というが、行政にはそれは通用しない。先日、石丸俊之社長が話した「由らしむべし知らしむべからず」そのものだ。

 記者は、多摩市のマンション居住者(管理組合員、理事)として活動したことがあるが、町内会の役員、管理組合の理事、PTA役員、交番などの関係者はみんな平等で、自由に意見を言い合い、合意の上でなにごとも決めた。町会長の独断専行などありえない。それを許した千代田区民は反省しなければならない。

異常事態に発展 二番町と外神田再開発、街路樹伐採 反対する区民ら共同声明(2023/3/14)

都市マス、地区計画に背馳していいのか 問われる公平性と企業倫理(2023/2/27)

「地区計画変更には大きな疑義」東洋大・大澤准教授 日テレ本社跡地再開発(2023/2/23)

「約束を反故。許せない」住民怒る 健全木のイチョウ 新たに4本伐採 千代田区(2023/2/7)



 

 

 

 

 

 


 

 

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安否確認

 三菱地所レジデンスと三菱地所コミュニティは3月14日、エリアマネジメント組織「奏の杜パートナーズ」と共同で千葉県習志野市「津田沼奏の杜(かなでのもり)」エリアで3月12日にリアルでは4年ぶりとなる防災訓練を実施したと発表した。コロナ禍ではオンラインでの実施を余儀なされていた。

 参加者は2.2haある谷津奏の杜公園に集合し、家族の安否確認方法・ケガ人を助ける「布担架」・水を運ぶ方法を学んだほか、被災生活で重要となる「情報」の入手・共有・発信の仕方、仮設トイレ・防災井戸・かまどベンチなどの使い方を学んだ。

 防災訓練は2015年3月、「ザ・パークハウス 津田沼奏の杜」(721戸)で始まり、その後、同エリアの三菱地所レジデンス分譲マンションにひろがり、エリアマネジメント組織「奏の杜パートナーズ」の協力を経て、周辺の戸建や他社分譲マンションに広がり、現在は約2,300世帯が対象エリアとなっている。

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習志野市「奏の杜」防災訓練に過去最多1,000名 三菱地所グループ&管理組合(2018/3/11)

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