フレキシブルオフィス 2030年までに1万坪⇒3万坪へ拡大 三菱地所 丸の内エリア
「xLINK(クロスリンク)丸の内永楽ビル」共用ラウンジ
三菱地所は3月27日、「丸の内永楽ビル」に4月1日に開設するフレキシブルオフィス「xLINK(クロスリンク)丸の内永楽ビル」の報道陣向け内覧・体験会を開催。同社執行役常務・荒木治彦氏は、現在同社が所有・転貸する丸の内エリアのオフィス貸付面積約52.4万坪の約2%、1万坪のフレキシブルオフィスを2030年には貸付面積約60万坪のうち約5%、約3万坪に増床し、多様な就業者100万人に最適な空間を提供し、自由でフレキシブルな働き方を実現すると語った。
また、同社フレキシブル・ワークスペース事業部部長・河野安紀氏は、フレキシブル・ワークスペースの事業戦略について「丸の内エリア120haの広域であらゆる形態のオフィスを提供できる強みを発揮し、選択肢の拡大によりワーカーマーケットを育て、サステナブル社会の実現、SDGsにも貢献する」と話した。
同社フレキシブル・ワークスペース事業部 ユニットリーダー・岩本祐介氏は、新設する「xLINK丸の内永楽ビル」の施設概要について説明し、「100坪で賃料は800万円(坪賃料8万円)」などと具体的な賃料も公表した。ラウンジでの酒類の提供は行わない(帰りに寄った丸の内北口ビルでは就業者向けラウンジで酒類の販売を行っていた)。
フレキシブルオフィス「xLINK丸の内永楽ビル」は、「丸の内永楽ビル」の最上階26階約834坪と25階約178坪、合計1,012坪の規模。2名~36名までの什器付サービスオフィス(40個室、約2~42坪)、20名〜40名程度で利用可能な専用エントランス・会議室付オフィス(8区画、約42~84坪)、30名〜70名程度で利用可能な専用エントランス、会議室、コミュニティキッチン、基本什器付ハーフセットアップオフィス(2区画、101坪・143坪)を整備。カフェ、ソロワークブース、フォーカスブース、ミーティングブース、ボックスシート、イベントスペースなど多彩な用途を持つビル共用ラウンジを併設する。
フレキシブルな契約形態、什器・造作付きのハーフセットアップオフィスとすることで、退去時の原状回復工事範囲を限定。成長企業のステージに応じたステップアップオフィスとして利用可能なのが特徴。
同社は2022年4月、フレキシブル・ワークスペース事業部を発足し、それまで新規事業として取り組んできたフレキシブルオフィス事業を統合する形で、本格的にフレキシブルオフィス事業に参入。2023年2月には、国内48都市・185拠点でフレキシブルオフィス事業を展開する日本リージャスホールディングスをグループ会社化。丸の内では、プロジェクトオフィスとして供給していた「xLINK」を3種類のフレキシブルオフィスにリブランド、ビルテナントが利用できる共用ラウンジの新設に合わせて、「xLINK」の併設も進めている。2023年4月に開業した「xLINK丸の内パークビル」「xLINK丸の内パレスフロント」が開業1年未満で稼働率80%以上の安定稼働に移行している。
今後、2024年秋には、「新大手町ビル」3階にビル共用ラウンジを開設すると共に、「xLINK大手町」3期増床を行うほか、2025年春には「丸ビル」に、2028年春には「Torch Tower」への開設を検討している。2030年までに丸の内エリアの貸付有効面積の約5%、3万坪まで拡大する。
セットアップオフィス(コミュニティキッチン)
xLINKスカイラウンジ
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この日配布された資料には、丸の内に本社を構える上場企業は135社で、連結売上高は約155兆円(わが国のGDPの9.12%。ちなみに三井グループ25社の連結売上高は約88兆円)、就業者は約35万人とあった。
坪賃料8万円には驚いたが、共用ラウンジやワーケーション施設、街全体をワークプレイスとして利用できる環境などを考えたら納得もできる。坪賃料で測れない価値がある。
荒木氏はあいさつの中で「コリアーズのアンケート調査でも、丸の内エリアは働きたい場所として圧倒的に高い支持を受けている」と語った。コリアーズは同社の「丸の内二重橋ビル」に入居しており、先日行われたアンケート調査発表会&記者懇親会を取材した。アンケートはZ世代に聞いたもので、「働きたい場所(駅)」は「丸の内」ではなく「東京」だが、ベスト3は「東京」25.0%、「大手町」19.3%、「有楽町」11.6%なので、「大・丸・有」地区が圧倒的支持を得ているのは間違いない。
これほど人気が高いのだから、皇居が一望できる一角にマンションを分譲したら「うめきた」の倍、坪5,000万円でも売れると思うのだが…。
オフィスワーカーの欲しい設備「食堂」/Z世代の働きたい場所「東京」 コリアーズ(2024/3/18)
「彩」「祭」「才」と「愛」をつなぐ 三菱地所「SAAI(サイ)」新東京ビルに移転(2023/11/17)
「水庭」と「ヴィラ」見事な人と自然の共生演出 タカラレーベン「那須 無垢の音」
「那須 無垢の音」(「水庭」)
タカラレーベンは3月27日、「那須 無垢の音」のオープニングセレモニー&メディア向け内覧会を開催した。従前の「アートビオトープ那須」をリニューアルしたもので、同社代表取締役・島田和一氏が開発の経緯、ブランドコンセプト、今後の展開などについて語り、ホテル事業の責任者である同社取締役兼執行役員・岩本大志氏が施設の特徴について説明し、施設の〝売り〟の一つである「水庭(みずにわ)」について、設計を担当した建築家・石上純也氏か設計手法などについて語った。ホテルは4月1日にオープンする。
島田氏は「MIRARTHグループ初となる自社ホテルブランド『HOTEL THE LEBEN』を立ち上げ、2022年に第一弾を大阪・心斎橋でオープンした。今では〝予約が取れないホテル〟として好評をいただいている。2026年12月にはかごしま空港ホテルを開業する。『那須 無垢の音』は、地産の美食と優雅な寛ぎを愉しめる『オーベルジュ』として開業する。ホテル事業は2030年までに2,000室にする目標を掲げている」などと語った。
岩本氏はホテルの特徴について、「石上純也先生が手掛けた『水庭』、フレンチレストラン、『スイートヴィラ』から構成されており、7月には『B&B(ベッド&ブレークファスト)」も開業する。那須の天然水を地下水脈よりくみ上げ客室に提供し、客室の半露天風呂(一部桧風呂)、那須の旬の食材を楽しんでいただける』と説明した。
石上氏は、「約50年前は水田だった土地の歴史と、この場所にある自然の素材を生かせないかと、自然と人とが共存するアート『水庭』を構想した。現在の宿泊施設エリアにあった約三百数十本の樹林を采配しなおし、160の池の水は小川から水をひき、昔の水田を表現した。夏には池の水、陸の草、光と影が交わる環境が作られ、秋には色づいた葉が池の中にたまる景色、冬には雪の白、影の黒のモノトーン景色に変化する。それぞれの景色を愉しんでいただきたい」と述べた。
施設は、JR那須塩原駅から車で30分、栃木県那須郡那須町高久乙道上に位置する敷地面積約35,418㎡、客室数はスイートヴィラ15室(1室82㎡)、カジュアルツイン20室(1室20㎡)、その他施設はレストラン、ワインバー、ショップ、カフェテラスなど。スイートヴィラの宿泊料金は年間平均112,000円~(2名様1室、1泊2日2食付き)。2024年7月にはカジュアルに愉しめるツインタイプの「B&B」をオープンする予定。運営は那須横沢ホテルマネジメント(タカラレーベン100%子会社)。
従前施設は1986年、栄光ゼミナールの文化事業「二期倶楽部」として創業。その後、様々な経緯を経て2007年、MIRARTHと共同事業を開始し、同年、二期倶楽部としては営業終了。2018年に 「水庭」完成。2020年、建築家・坂茂氏設計のスイートヴィラとレストランμ(ミュー)が完成。
「那須 無垢の音」
オープニングセレモニー(左から千葉拓海総料理長、石上氏、島田氏、岩本氏、永山総支配人)
島田氏(左)と石上氏
ヴィラ客室
ヴィラ客室
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この日は他社の取材を優先することに決めていたのだが、前日(26日)夜、「那須 無垢の音」を取材させていただくことに変更した。キャンセル・取材申し込みを受けていただいた両社に感謝申し上げる。
「那須」を取材することを決めたのは、同社のホテル事業がどのようなものかこの目で確かめたかったのと、島田社長が何を話すか、石上氏が設計した「水庭」とはどんなものか、とても興味があったからだ。
結果は大正解。同社が目指すホテル事業はワクワクするほど魅力的で、石上氏の「水庭」は人工ではあるが那須の自然木を見事に調和させている。さらにまた、ヴィラ、レストランμ(ミュー)の設計を建築家の坂茂氏が手掛けたことを初めて知らされたが、全てが本物でそのレベルの高さを確認することができた。
まず、島田氏の挨拶。リリースでは触れられていないが、島田氏は真っ先にこのリゾートに出会ったのは10年昔であることを明らかにした。10年前と言えば、島田氏が社長に就任した年だ。その数年前から同社のマンションが劇的に変わったのを記者は確認している。一言でいえば〝非日常の演出〟だ。その舵取りを行ったのが島田氏だ。
今回、島田氏直々に「水庭」を案内してもらった。島田氏は「現在ある『水庭』の場所は砂利敷の駐車場だった。こんなになるとは夢にも思わなかった」とも語ったが、ひょっとしたら、今日の姿を夢想していたのではないか。10年構想と考えれば腑に落ちる。
〝非日常の演出〟と書いたが、記者はマンションの究極はホテルだと思っている。自腹を切って名だたるラグジュアリーホテルに宿泊したのも、究極のマンションとはどのようなものかイメージするためだった。これ以上は書かないが、皆さん、どこでもいいから同社のマンションを見学していただきたい。「福岡天神」と「上尾」の記事を添付した。
「水庭」とはどんなものか。上段の石上氏のコメント通りだが、驚いたのはその設計手法だ。記者は造園のことはわからないが、樹木の移植はとても難しく、下手をすると多くは枯死するという。枯死させないためには事前の根回し・根巻がとても大事だと聞いている。
ところが、石上氏は根回し・根巻を行わず、自然らしさを演出するために普通の造園では考えられないミリ単位で設計し、日本に3台しかない機械を使って1日1~2本ずつ、2年間(冬場は作業できない)かけて三百数十本の高木(クヌギが中心)を移植したという。そうすることで、生物多様性の宝庫でもある地中のいきものたちへのダメージも軽減できるのだという。移植から6年経過しているが、枯死の事例は十数本にとどまっているという。そしてまた驚いたのは、倒木を防ぐため地中1~2mに支柱を埋め込み、池の水は川から引いたもので、水そのものはただで、循環させているという。写真を見ていただきたい。見事の一語に尽きる。
ヴィラも素晴らしい。何が素晴らしいかと言えば、全てが本物であることだ。樹林-テラス-室内のプランニングが素敵で、2階建てではなくスキップフロアを巧みに利用した平屋建てなのもいい。さすがプリッツカー賞の坂氏だ。(山形の「SUIDEN TERRASSE(スイデンテラス)」も見たいと思っているのだが…お金がない。今年、同賞を日本人として9人目の山本理顕氏が受賞したのもとても嬉しい)
水庭
水庭
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島田社長は、2030年までホテル事業を2,000室にすると語った。那須塩原も競争は激化するはずで、「楽観はしていない」ようだが、「水庭」と「坂茂のヴィラ」の素晴らしさを伝えきれれば、「大阪」のように〝予約の取れないリゾート〟に生まれ変わるかもしれない。
富裕層の心揺さぶるタカラレーベン創業50周年記念「福岡天神」約1年で完売(2023/2/4)
地所レジから専有卸受け分譲タカラレーベン「上尾」1年で全183戸完売の勢い(2019/7/30)
まさに紙わざ ヒントは「6」坂茂氏が設計した芝浦工大のレストラン&カフェ(2022/10/25)
セーフティネット登録住宅90万戸の96%は1社に集中 氷解した疑念と深まった謎
「ROOFLAG」
記者はずっと分譲マンションや分譲戸建てを取材してきたからでもあるのだが、賃貸住宅にはいいイメージを持っていない。入居者がもっとも大切な顧客であるはずなのに、敷金、礼金、原状回復など時代遅れの商習慣を墨守し、大家・投資家の利回りを優先し、コストを下げるために居住面積を圧縮し、遮音・断熱などあらゆる基本性能・設備仕様レベルを落とす(だからこそマンションが売れるのだが)。あろうことか、高齢者を理由に入居を断る。レオパレス21の不祥事で賃貸業界への疑念は頂点に達した(この会社は好きになれず、一度も取材したことがないのは幸いだった)。
その賃貸事業分野で断トツの大東建託も取材したことはこれまでほとんどなかった。発祥は名古屋なので、わが故郷・三重県の三交不動産などと共に応援したい気持ちはあったが、取材の間口を広げようとは思わなかった。
ところが先日行われた、大和ハウス工業と同社との賃貸住宅の「災害における連携及び支援協定」締結発表会を取材して、同社の見方を修正しなければならないと思った。同社代表取締役社長執行役員・竹内啓氏は、有事に備えた防災訓練を日ごろから行っていると語った。その取り組みは半端でなかったからだ。
竹内氏の話を聞きながら、後述する住宅セーフティネット制度のことが頭をよぎった。その場で取材を申し込んだ。この日(3月22日)実現した。場所は、同社の賃貸住宅未来展示場「ROOFLAG」だった。約1時間半、施設を見学し、セーフティネット住宅について大東建託パートナーズ事業戦略企画室メディア戦略課次長・宍戸敏之氏に話をきいた。同社に対する疑念は払しょくされたが、セーフティネット制度に対する疑問、謎はより深まった。
まず、同社に対する見方から。「ROOFLAG」は、東京メトロ豊洲駅から徒歩11分、江東区東雲一丁目に2020年に完成した木造&RCの混構造4階建て本棟と、木造(2×4工法&CLT)モデルハウス2棟から構成されている。
本棟アトリウムの天井には国内最大級という三角形のCLT屋根が張られていたのには圧倒された。枚数は128枚、体積は500㎥という。展示室にはCLTの模型もあった。このほか同社の理念・顧客主義などを紹介するコーポレートゾーン、歴史を紹介するヒストリーゾーン、ラウンジなどを見て回った。
CLTと2×4のモデルハウスは、木の素材をふんだんに用いたオーナーズモデルルームや16×16サイズの浴室も提案するなど分譲仕様の提案も行っている。断熱、遮音など構造に力を入れていることが一目瞭然の仕掛けも施されている。
この時点で、同社に対する疑念は取り払われ、全国に617拠点(2024年4月)を張り巡らせ、賃貸住宅完工が41,238戸/年、賃貸仲介件数236,877件/年、賃貸累計管理戸数1,230,339戸、入居率98.0%(2022年)など圧倒的数字を誇る理由が少しは分かった。
本題のセーフティネット住宅について。宍戸氏は「3月19日現在、全国の登録戸数は895,982戸に対して、当社の戸数は855,483戸、比率は95.5%。当社管理建物情報は、国土交通省の協力のもと、毎月25日前後にシステム通じて各自治体への申請(登録・変更)を行っています。賃貸住宅の仕様や性能は、国が定めた基準に沿って決定していますが、当社は、35年間サブリースで管理・運営を行っているため、35年間入居者様に選ばれ続ける建物にする必要があります。それが空室リスクの低減にも繋がることから、一定水準以上の建物性能は必要であるということを、オーナー様にご説明しています。また、マーケティングデータに基づき、社内基準に則り物件の立地ごとの事業性をきめ細かく見極めてオーナー様にご提案しているので、立地や地域性によって一概にパターン分けされるということでもありません。入居審査においては、当社の社内審査チェックに通れば高齢者や外国人、障がいを理由に差別することはありません。敷金もなく、ハウスクリーニング代金として4~6万円をお預かりしますが、高耐久仕様にしているため、退去時の原状回復はこの範囲内でほとんど収まっています。高齢入居者様のご逝去や、残置物の処理なども相続人の協力を得ながら問題なく対応しております。入居者様の属性の公表については、国からの要請があればご協力させていただきます」などと語った。
同社の登録件数が群を抜くのは、国の依頼があり、国の基準に適合させたのだろうと思ってきたが、事実は違ったようだ。同社が当たり前のように行っていることを同業の他社はやらない-この後進性はいつになったら改められるのかという問題は残った。
「ROOFLAG」内観
「ROOFLAG」モデルハウス(CLT)
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「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)」の一部を改正する法律が施行されたのは平成29年10月。①住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度の創設②登録住宅の改修や入居者への経済的な支援③住宅確保要配慮者に対する居住支援-この3つを柱とするもので、大きな期待が寄せられた制度だ。
ところが、登録住宅は最初から伸び悩み、2度にわたる登録促進策を施したにもかかわらず、令和元年12月末時点の登録戸数は全国で27,056戸にとどまっていた。そこで普及促進策の第3弾として令和2年3月、業界団体連携による一括申請(データ連携型)が導入されてから増え始め、2021年2月末には30.2万戸に増加し、2020年度末までに全国で17万5,000戸登録という政府目標を大幅に上回った。令和6年3月19日現在、登録住宅は895,982戸となっていることは前段で紹介した。
この数値だけ見ると爆発的な増加だが、率直に喜べない事情がある。上段でも紹介したように、この895,982戸の登録住宅のうち大東建託パートナーズを通じた登録住宅の比率は95.5%だ。同社登録を除くと戸数は約4万戸だ。(空き家活用を想定した)住宅確保要配慮者専用住宅は2023年12月末時点で5,778 戸(登録住宅の0.7%)しかない。登録住宅の空室率2.3%は大東建託パートナーズの数値そのものだ。
この現状をどう見るか。昨年7月、厚生労働省、国土交通省、法務省による第1回「住宅確保要配慮者に対する居住支援機能等のあり方に関する検討会」(座長:大月敏雄・東京大学大学院工学系研究科教授)が行われた。
記者は、大東建託パートナーズのみに依存、偏重している現状について各委員から声があがると期待していたのだが、誰一人として声をあげなかった。その時点で検討会の視聴をやめた。肝心要の住宅確保要配慮者とは居住支援とは何かの本質的な議論はされず、山積する様々な課題にどう対応するかに論議が終始すると読んだからだ。
検討会はその後、12月まで5回開かれた。その5回目の会合で「居住支援とは何ぞやという話が第2回目の検討会の最後ぐらいで出てきていました。結局、居住支援ってよく分からないという話になって、それぞれの立場でイメージがずれているという話もそうなのですが…」と発言された委員がいたが、それ以上の論議はされなかった。平山洋介・神戸大学大学院人間発達環境学研究科教授(当時)の著書「マイホームのかなたに」(筑摩書房、2020年3月刊)で平山教授が指摘した「留意すべきは、多彩な『カテゴリー』を『列挙』すればするほど、住宅セーフティネットの対象が『特殊』で、その構築が普遍性を持つ施策ではないことを示唆する効果が生まれる点である。住宅確保要配慮者の長大なリストの作成は、住宅困窮の範囲を拡大するのではなく、むしろ狭め、セーフティネット政策に『ピースミール・アプローチ』を当てはめる意味を持つ」(233ページ)の通りだと思った。
そして今年2月、中間とりまとめが発表された。とりまとめは「国土交通省、厚生労働省及び法務省においては、本中間とりまとめや関連する制度の諸課題を踏まえ、具体的な見直しに向けて必要な検討を進めるべきである。その際、地域における住宅セーフティネットの機能を強化するため、地方公共団体、不動産事業者、居住支援法人、社会福祉法人、社会福祉協議会、地域生活定着支援センター、NPO、更生保護施設等多様な主体が協働して取り組む仕組みの構築にも資するよう、制度、補助、税等幅広い方策について充実や見直しの検討を進め、可能な限り早期に実施するよう、各省が連携して取り組むべきである」と締めくくっている。-この通りなのだろう。しかし、平山教授が指摘するピースミール・アプローチ=対症療法的な手法では住宅困窮者は救われないような気がする。
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セーフティネット住宅情報提供サイトで東京都の物件を検索したら、ある区の駅近の築35年のマンションの1フロア延べ床面積51.38㎡を対象とした共同居住型住宅(シェアハウス)3室がヒットした。専用面積8.29~9.95㎡(2.5~3.0坪)、家賃7.3万~7.6万円(坪賃料2.5万~3.0万円)、敷金3万円、礼金なし。便所、洗面、浴室、台所、収納、洗濯室居室内にはなく、約24㎡のスペースで共有利用する。
入居対象は女性限定で、低額所得者(生活保護者以外)、被災者、外国人、生活困窮者、犯罪被害者等、DV被害者、児童虐待を受けた者、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)、UIJターンによる転入者などで、ほとんどすべての入居者対象要件を満たしているが、家賃の額が近傍同種の住宅の家賃の額と均衡を失しないことの要件との整合性は欠いていないのか。この種のシェアハウスは他にも結構ある。
同じ区内には、豪華な2階建て延床面積105㎡で、家賃21.0万円(坪賃料約7,300円)もあった。
天晴れ 大和ハウス・芳井社長&大東建託・竹内社長の即断即決 賃貸に関する災害協定(2024/3/5)
住宅セーフティネットを考える 「住宅確保要配慮者」は400万世帯でも少ない(2023/7/18)
問題山積 要配慮者の居住支援 大家の安心、安否確認、支援法人などテーマ(2023/7/3)
セーフティネット住宅 登録件数が激増 制度の前進と受け止めていいのか(2023/6/29)
大東建託 セーフティネット住宅の登録住宅は約45万戸 全国の90%超か(2021/7/14)
激増セーフティネット住宅 1年で政府目標の2.8倍 大東建託がけん引/必読の平山論文(2021/7/12)
ZEH供給率、CO2排出量など25年目標を上方修正 プレハブ建築協会
プレハブ建築協会は3月26日、住宅部会・教育委員会のメディア向け活動状況を報告し、懇親会を開催した。
「住生活向上推進プラン2025」では、22年度実績は戸建てZEH供給率の目標である80%に対して79.3%、長期優良住宅認定取得率(戸建)85%に対して85.0%、工場生産のCO2排出量(総量)40%減(2013年度比)に対して63.2削減を実現するなと成果目標12項目のうち多くの項目で成果を上げた一方、長期優良住宅認定取得率(共同住宅)、ZEH-M供給率(低層共同)などは目標、実績とも低い数値にとどまった。
環境分科会部門では、計画2年目の22年度は、居住段階、向上生産段階とも前年を上回る実績をとなり、新築のZEH供給率79.3%、改修一次消費量削減貢献量27.1%増、工場生産におけるCO2排出量63.2%減、再エネ電気利用率67.8%などを達成したことから、2025年目標をZEH供給率85(80%)へ、改修一次消費量削減貢献量30%増(同15%増)へ、CO2排出量を65%減(同40%減)へ、再エネ電気利用率75%(同30%)へそれぞれ上方修正した。
このほか、住宅ストック分科会では積極的なリフォーム推進、教育委員会の住宅コーディネーター資格制度運営など幅広い活動が報告された。
令和6年地価公示 3年連続上昇 上昇幅も拡大 不動産各社コメント
地価はさらに上昇基調 いつの時代もマーケットを重視 東京建物・野村均社長
今回発表された地価公示は、地域や用途により差があるものの、三大都市圏や地方圏でも上昇率が拡大傾向となるなど、地価は全国的に上昇基調を強めている。これは社会経済活動の正常化が一層進むなか、好調な分譲マンション市場に加え、ホテルや店舗需要の回復、オフィス需要の底堅さ、再開発による利便性向上エリアの増加が背景にあると考えられる。
オフィスマーケットは、好調な企業業績などを背景に、オフィス回帰や業容拡大、人材確保を目的とした好立地・ハイグレードオフィスの需要は引き続き底堅く、空室率も低下傾向にある。新規大型ビルの稼働率も高く、特にサステナビリティやウェルビーイングなどに対応した高付加価値のオフィスビルは今後の需要も一層増大すると見ている。当社も八重洲・日本橋・京橋エリアや渋谷エリアで地権者の皆様と進めている再開発事業において、高い環境性能とワーカーのウェルビーイングなどに配慮した快適なオフィスビルづくりを進めている。
ホテルや商業施設は、個人消費の回復やインバウンド需要の拡大などにより、国内の人流も増え、観光地や全国主要都市を中心に、ホテルの稼働率や飲食店舗の売上が増加するなど、この先も回復基調の継続が期待できると思われる。当社は今年、ヒルトンのフラッグシップ・ブランド「ヒルトン・ホテルズ&リゾーツ」として京都初進出となる「ヒルトン京都」をオープンする。同ホテルは京都市中京区の河原町三条に位置し、客室数330を超えるラグジュアリーホテルであり、今後、京都観光の拠点の一つとして重要な役割を担うと同時に京都経済の発展にも貢献するものと考えている。
物流施設は、施設選別の目が厳しくなりつつあるなか、自動化、冷凍冷蔵、環境性能、ウェルビーイングなどの先進性・機能性・快適性を備え、「2024年問題」などの物流課題解決に資する付加価値の高い施設が一段と求められている。
分譲マンションマーケットは、建築費高騰や土地代の上昇などにより価格は上昇したものの、低金利の継続やローン減税等の支援策を受け、共働き世帯の増加等もあいまって、市場は好調を維持している。特に、資産性を重視する富裕層やパワーカップル層を中心に、都心部や駅近物件の販売は好調が続いている。当社等が大阪で開発を推進し、今年竣工を迎える「Brillia Tower 箕面船場TOP OF THE HILL」「BrilliaTower 堂島」は、いずれも将来の資産性を重視した顧客層から高い評価を受け、販売は好調である。具体的には、「Brillia Tower 箕面船場TOP OF THE HILL」は、北大阪急行延伸部の新駅となる「箕面船場阪大前」駅にペデストリアンデッキで直結し、駅前整備進展による将来の利便性向上による資産性に、「BrilliaTower 堂島」は、日本初となるフォーシーズンズホテルと一体となった超高層複合タワーという希少性に高い評価をいただいている。
先日発表された日銀の政策変更による金利上昇はそれほど大幅なものにはならないと見ており、当面不動産市場への影響は少ないと思われる。その他、地政学的リスクや為替変動の影響、国内外の物価動向や人手不足問題等、今後の景気への不安要素もあるが、アフターコロナとなった現在、社会経済活動がさらに活発化し、原材料上昇分の製品価格転嫁、賃金上昇などが進むと、商業地、住宅地、工業地を問わず利便性の高いエリアを中心に、地価はさらに上昇基調を強める可能性がある。
地価動向には引き続き注視するととともに、当社はいつの時代もマーケットを重視し、お客様のニーズを的確に捉え、お客様が満足する商品の提供と人々が安全・安心・快適に過ごせるまちづくりを推進していく。
経済活動の回復の反映 産業競争力強化に貢献 三井不動産・植田俊社長
今般発表された地価公示では、全国の全用途平均・住宅地・商業地のいずれも3 年連続で上昇し、上昇率が拡大しました。また、三大都市圏・地方圏においても、上昇が継続し、上昇基調を強めています。
都市部においては、コロナ禍以降、インバウンドを含め人の流れが活発化し、経済が回復基調にあることが、今回の地価公示上昇に反映されていると考えています。オフィスにおいては出社回帰の動きがみられるほか、ホテルや商業施設における集客がコロナ禍前以上の水準で推移、さらに、住宅については堅調なマーケットに支えられて引き続き好調です。足元もこの動向は継続しており、今後のわが国の経済回復に一層寄与すると考えております。また、都市部以外においても、大手半導体メーカーの工場が進出する地域や、Eコマース事業伸長により、大型物流施設用地周辺での地価上昇も見られ、新たな需要創造により経済が活性化されていくということも、今回の地価公示で注目すべき点と考えています。
先月には日経平均株価が過去最高値を更新し、日銀によるゼロ金利政策も解除されましたが、バブル崩壊後の「失われた30年」にピリオドを打ち、デフレから完全脱却ができるかどうか、2024年はその見極めをする勝負の年だと考えています。デフレのもとでは、付加価値創出のための努力が報われず、中々イノベーションを起こすのは困難でした。しかし、賃金上昇も伴った持続的・安定的なインフレに移行することで、投資の拡大、イノベーションや付加価値の創出、そして、その付加価値をお客様に正当に評価いただく、という好循環が生み出されます。この好循環のもと、日本経済が持続的に成長していくことを期待しています。
当社グループは、これまでも、日本橋におけるライフサイエンスや宇宙領域での「場」と「コミュニティ」の提供などを通じて、集まる人々や企業のイノベーションや付加価値向上のお手伝いを行い、共に成長してきました。また、スポーツ・エンターテイメントの力を活用するなど、コロナ禍が明け再認識された「リアルの価値」を最大限に高めるミクストユースの「行きたくなる街づくり」も推進しております。
今回の地価上昇については、我が国の経済活動の回復が反映された結果ととらえています。この経済活動の回復に伴い需要が創出され、日本の産業競争力強化、そして、国富増大に結び付いているとも言えます。当社グループとしましても、イノベーションや付加価値を創出することで、日本の産業競争力強化に貢献してまいります。
マイナス金利解除の影響は大きくない 野村不動産・松尾大作社長
今回の地価公示は、全国平均で全用途平均・住宅地・商業地のいずれも、3年連続で上昇し、上昇率が拡大した。住宅地については3大都市圏・地方圏のいずれも3 年連続で上昇し、三大都市圏においては上昇率が拡大。地方圏では、地方四市が11 年連続で上昇した。商業地については大阪圏が2年連続で上昇、三大都市圏・地方圏いずれにおいても3年連続で上昇し、上昇率も拡大した。
住宅市場に関しては、引き続き需要が堅調であることに加えて、マンション供給数が減っていることもあり、需要と供給のバランスが取れていることから売れ行き好調な状況が続いている。日銀が「マイナス金利政策」解除などの政策修正を発表したことを受けて、今後の金利上昇も予想されるが、当社のお客様の多くが変動金利の住宅ローンを利用されており、同ローンの過去の変遷を見る限りでは急激な上昇になるとは考えづらいことから、この影響は大きくないと考えている。但し、建築費高騰は今後も継続すると考えられることなどからも価格下落も想定しにくく、価格に見合った付加価値のある商品を企画していく必要がある。お客様のニーズが益々多様化する中、今後は「サステナビリティ」や「激甚化する災害」に対応した設備も一層求められてくる。
オフィス市場に関しては、2025年に東京での新規供給が集中するものの、23 区全体のマーケット規模と過去からの供給量を鑑みると、需給バランスが急激に悪化することは考えづらい。当社主力ブランドのPMOを例に話すと、コロナ禍を経て出社や採用を増加している企業が増えてきており、PMO に加えて、サービス付き小規模オフィスのH1O、時間貸しシェアオフィスのH1Tの組み合わせにより、コロナ後の働き方の多様化にも対応出来ていることから、リーシングも順調に推移している。
2025年にいよいよ竣工予定の「芝浦プロジェクト」S棟では、ワーカーの皆様が多様で新しい働き方を実現できるように、「TOKYO WORKation」をテーマに、都心で空・海・緑を圧倒的に感じられる立地特性を活かした新しい働き方を実現する。ビルの高層階1フロアの約1,500坪全てを「テナント様専用の共用施設」として用意するなど様々な工夫を予定している。
ホテル市場に関しては、単月ではコロナ前の2019年を上回る訪日外国人数の月も出てきており、ホテル稼働率やADR も高い水準で推移している。商業施設についてはコロナ後の人流回復を受けて店舗需要が回復し、売上高が伸長している。
物流市場に関しては、4月からの労働規制強化により、長距離ドライバーが不足する2024年問題を眼前に控えている。一方でEC拡大により、業務荷物量は増加傾向にあり、引き続き、物流オペレーションの自動化導入など、物流・荷主企業の抱える課題への解決策を今後も提供していく。
当社グループでは、「将来自分たちが、どのような価値を社会やお客様に提供している企業グループになりたいのか」の目指す姿を明確にするため、2030年をターゲットとするグループビジョンとして「まだ見ぬ、Life&Time Developerへ」を掲げている。不動産開発や関連サービスの提供を通じて、お客様一人ひとりの様々な生活「Life」や、お客様一人ひとりの過ごす時間「Time」に寄り添うことを大切にしてきた。様々な社会課題に直面し、お客様の生活スタイル・価値観も多様化する中で、当社も変化していく必要がある。自らも変革していくことで、新たな価値を創造し、お客様に多様な付加価値を提供できる不動産関連商品・サービスをこれからも提供していく。
地価公示は、不動産の取引動向や中期的な展望を反映したものであり、様々なマクロ指標と合わせて今後も重要指標のひとつとして注視していく。
不動産業界全体の好機 本質的な価値提供 三菱地所・中島篤社長
令和6年地価公示は、全国平均で全用途平均・住宅地・商業地のいずれも3年連続上昇し、上昇率が拡大した。利便性や生活環境に優れた地点の上昇傾向が継続していることや、インバウンド需要を背景とした上昇が目立つ地価動向であったと認識している。
足元では、日経平均株価の上昇、企業による力強い賃上げ、マイナス金利政策の解除など日本経済が大きく転換しようとしている。この動きを不動産業界全体の好機と捉え、本質的な価値提供を続けていきたい。
分譲住宅は、都心の高額物件の需要が引き続き旺盛であり、都内では「ザ・パークハウス千代田六番町」の販売が好調に推移している。大阪では、梅田駅前の再開発事業「グラングリーン大阪」至近に計画中の「ザ・パークハウス 大阪梅田タワー」の反響が大きい。賃貸住宅では、フレキシブルな働き方が社会に根付いたことに伴い、居住者が24時間使用出来るコワーキングスペースを併設した「The Parkhabio SOHO」シリーズの引き合いが強い。
順調なインバウンドの回復を背景に、ホテルやアウトレットも好調に推移している。ホテルでは、インバウンド比率がコロナ前を上回る水準になっており、市況を牽引している。今年2月に開業した「ザ ロイヤルパークホテル アイコニック 名古屋」や、今年5月に開業予定の「ザ ロイヤルパークホテル 銀座6丁目」などでもこの旺盛な需要を取り込んでいきたい。アウトレットにおいても、インバウンド比率が高まっており、「御殿場プレミアム・アウトレット」などが好調。昨年12月は御殿場を含む複数施設にて過去最高の月商を記録した。
オフィスは、経済活動の正常化が一段と進んだことで、出社率が上昇傾向にあり、丸の内エリアへの集約移転や業容拡大による増床の動きが活発化している。同エリアの空室率は昨年12月時点で2.88%と低水準を維持しており需要は底堅い。今期は東京駅前の「TorchTower」の他、渋谷や赤坂でも新たに大型複合ビルを着工した。オフィス、商業、ホテル、エンタメなど多様な機能をハード・ソフト両面から整備し、人・企業を呼び込み、巻き込みながら、新しい価値を生み出し続けるまちづくりを実現したい。
建築物の高さ56m規制貫く 地価日本一の銀座 サンフロンティアのセミナー
左から松澤氏、井野氏、齋藤氏(東宝日比谷プロムナードビル6階 セミナールーム「FRONTIER HALL」で)
サンフロンティア不動産は3月25日、各界の有識者と環境保護・地域創生・人財育成をともに考えるライブ型セミナー「FRONTIER JOURNEY Live!」第1回目を開催。ゲストに1696年(元禄9年)から300年以上にわたって不動産業を営む銀座丸八代表取締役・松澤芳邦氏と、スイス発のラグジュアリーブランド「Akris(アクリス)」日本代表・井野智恵子氏を招き、同社代表取締役社長・齋藤清一氏の3者による「東京を世界一愛されるグローバル都市へ! 『銀座』流の街づくり」をテーマにトークセッションを行った。セミナーは年に4回程度開催する予定。
松澤氏は冒頭、銀座の江戸-明治-大正―昭和の時代を紹介。関東大震災、第二次世界大戦によって壊滅的な被害を受けながらその都度再生し、建築物の絶対高さ56m規制を中心とする「銀座ルール」によって〝地価日本一〟を維持し続けていることなどを紹介した。
トークセッションでは、ほとんどの敷地が1,500坪以下という銀座の弱点を逆手にとった街づくり、駐車場付置義務の緩和、古いものと新しいものの調和、〝ルールのないのがルール〟などの独自の街づくりなどが語られた。
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昨日(3月24日)は、再開発の名のもとにいとも簡単に地区計画が変更され、風致地区が緩和されることに反対する千代田区や新宿区住民のセミナーを取材した。民主主義は死滅し、住民間のコミュニティはずたずたに切り裂かれ、疑心暗鬼が跳梁跋扈する現実社会を見た。
そしてこの日(3月25日)は、何でもありの商業地域しかない中央区銀座の建築物の絶対高さが地区計画によって56mに規制されていることを初めて知った。1998年に決定したという。エリア最大の商業施設「GINZA SIX」の計画段階では特例として高さ200mに緩和する案も浮上したが、地元の反対で従来通りの56m抑えられ、特例は認めない方針が再確認された。エリア内に50棟のビルを所有するヒューリックも異を唱えなかったという。
56mと言えば、オフィスビルなら12~14階建てしか建てられない。敷地は広くても1,500坪しかなく、細分化されていることが大規模ビルなどの進出を阻んでいる。
地区計画の見直しは20年ごとに行われるのが慣行となっているが、松澤氏によるとその可能性があるのは50年後くらいという。
デザイン協議会がまたユニークだ。新築の場合は、奇抜なデザインはまず確認申請が下りないそうで、既存のビルなどはその都度協議して決定するという。つまり、ルールがないのがルールなのだそうだ。ルールを定めないほうが柔軟な対応ができるという強かな計算だ(どこかで聞いたような気がした。前ソニー社長、会長の平井一夫氏の基本姿勢だ)。
東京駅では高さ日本一の385mの「トーチタワー」、日本橋では高さ283mの「日本橋一丁目中地区」が進行しているというのに、銀座の地権者は自らの手足を縛り、歴史と文化を守ろうとしている。
他に例をみない「銀座ルール」に、齋藤社長は「みんなで決めたルールは尊重しないといけない。持続可能性な街とは人が幸せになること。地域密着が基本」などと語った。
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令和5年の商業地の地価公示価格日本一は、17年連続の東京都中央区銀座4-5-6(山野楽器銀座本店)の5,380万円/㎡(1億7,754万円/坪)だ。容積率は800%なので1種当たり単価は2,219万円。
もうすぐ発表される令和6年のこの地点はいくらになるのか。銀座の実勢地価が坪1億円を突破したのは確か昭和61年だった。すっぱ抜いたのを思い出す。
神宮内外苑問題・石川幹子氏 外神田再開発・大城聡氏 東京1区市民連合フォーラム
石川氏(左)と大城氏
東京1区市民連合は3月24日、第8回憲法フォーラムを開催し、石川幹子・中央大学研究開発機構教授が「都市の再開発と身近な緑Quality of Life(生活の質)」と題する、大城聡・弁護士が「千代田区・外神田の再開発を考える3つの視点」と題する講演をそれぞれ行った。リアル81人、オンライン36人の合計117人が参加した。
石川氏は、「詰め込み」と断ったうえで、神宮外苑再開発について「わたしたちプロもよく分からない『公園まちづくり制度』『再開発等促進区』『市街地再開発事業』によって巨額の利益を生み出す構図ができあがった」とし、「この問題は神宮内苑と一緒にして考えないといけない」と強調した。また、「神宮外苑地区第一種市街地再開発事業」に対する3月14日付の日弁連会長声明について、「適切な指摘に感動した」と称賛。さらに、神宮内外苑や新宿御苑エリアは世界遺産となる可能性を有しているとし、市民が申請に手を挙げることに期待を寄せた。
大城氏は、外神田一丁目南部地区第一種市街地再開発事業(約7.800㎡)は、エリアの3分の1を区、都、国が所有しており、行政主導によるまちづくりは市民の声が反映されていないと批判。「話し合いが不十分なのは、持続可能な街づくりのチャンスでもある。若い世代が参加できるプラットフォームを構築し、世界のアキバとして誇れるようなモデルにすべき」と語った。
市民連合は、憲法違反の安保法制の廃止と立憲主義の回復を求め、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」「安全保障関連法に反対する学者の会」「安保関連法に反対するママの会」「立憲デモクラシーの会」「SEALDs」の5つの団体の有志の呼びかけによって2015年12月に発足。東京1区市民連合は、東京1区で立憲野党と市民連合の希望を託す統一候補として海江田万里氏を候補に決めている。
フォーラム会場(千代田区・エデュカス東京)
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記者は、この種の政治的な団体・会合は好きではない。敬愛する百瀬恵夫・明治大学名誉教授は「政治家は大馬鹿野郎か詐欺師のどちらか」と語った。記者は馬鹿を自認するが、「大」が付くほどではないし、多少の嘘はつくが詐欺事件に発展するような悪事を働いたことはない。大馬鹿野郎か詐欺師を応援する気にはなれないので、もう何十年も選挙に行ったことはない。選挙権を放棄しているので、政治について語る資格もない。何年か前、投票ハガキを持って投票会場に行き、「投票しません」と言ったら投票用紙は没収された。これは投票者にカウントされないのか、無効票なのか聞くべきだった。
しかし、政治には関与したくないが、住民自治はとても大事なことだし、フォーラムには石川氏と大城氏が講演するというので、参加費500円を払ってリアルで参加した。会場となった千代田区・エデュカス東京は、記者のような高齢者を中心に立ち見もでるほどの大盛況で、事務局からは会場参加81人、オンライン参加36人と報告された。過去最多クラスのようだ。
ここでは石川氏と大城氏の講演内容について詳しくは触れないが、石川氏が資料として配布したコピー「危機に瀕する外苑いちょう並木」(岩波書店「世界」2024年3月号)はとても参考になる。神宮外苑だけでなく、神宮内苑の400年昔の史料を渉猟し、自らのフィールドワークによる科学的データを提示する。ぐうの音も出ない。反証できる人は一人もいないのではないか。
惜しむらくはページ数が少ないことだ。石川氏も「詰め込み」と話したように、ページ数は10ページ、図版などを含めても400字原稿用紙にして25枚くらいではないか。素人に読ませるにはこの数倍は必要だし、〝持って歩く〟のがわれわれ世代のステータスだった「世界」はどれほどの若者に読まれているのか。どこの出版社・メディアでもいい、「悠久のときを共有できるこころ豊かな日々の暮らし」を願う石川先生の思いのたけを書籍化すべきだ。
もう一つの秋葉原の再開発は、手続き的な瑕疵はないはずで、大城氏もそのように話した。驚いたのは、大城氏が区の都市計画審議会関係者の利益相反に言及したことだ。「混迷する行政を象徴している。行政マンの矜持が問われる。行政システムは機能していない」と語った。区では今年1月、元区議会議員と元職員が官製談合防止法違反の容疑で逮捕された。
神宮外苑再開発 全エリア全樹木データ 保存・移植・伐採と移植難易度の関係は不明(2024/1/19)
最多はカイヅカイブキ 外来種のヒマラヤシダー、フウなど目立つ神宮外苑の既存樹木(2024/1/9)
氷の微笑、根回し、考え方更新、都市公園とは…神宮外苑を考えるシンポ千葉商大(2023/12/19)
実勢は公示地価の3~5倍が日常化 建築費も上昇 物流は調整局面 大和ハウス説明会
角田氏(同社東京本社で)
大和ハウス工業は3月19日、記者レクチャー会<2024年公示地価>を開催。分譲マンション、分譲戸建て、ホテル・オフィス、物流施設市場の現状と同社の取り組みなどについて説明した。レクチャー会は、近く発表される公示地価の記事を書く際に参考になるよう同社がセットしているもの。
分譲マンションについては、同社マンション事業本部事業統括部部長・角田卓也氏は、全国的に地価、建築費、仕入れ価格が上昇しているとし、首都圏では坪単価1,000万円超の物件でも富裕層の投資、セカンド、相続対策や円安によるインバウンド需要が引き続き旺盛と語った。しかし、入札物件は高値落札が目立ち、応札者は少なくなっているとした。郊外部も堅調な市場が続いているものの、ファミリー層が簡単に取得できる価格を越えてきており、今後は23区の状況に左右されるため注視が必要としている。
近畿圏は、東京建物「堂島」をきっかけに坪単価400万円の壁が取り払われ、坪500~600万円が供給されるようになり、都心部は首都圏と同様に販売進捗は安定。建築費上昇を吸収できる可能性があり、用地取得環境はさらに厳しくなるとみている。京都は供給過多で、立地のいいものとそうでない物件との格差が拡大すると推測している。
地方圏は、一部エリア(札幌、仙台、福岡、沖縄)は、本州からの富裕層やシニア層のセカンド、投資・移住ニーズの高まりから用地価格の上昇が続いているとした。名古屋、金沢は価格の高騰、在庫物件が増加していると説明した。
投資需要は、金利の先高観、リート指数の低下などを受け、投資家の買収意欲は中立的とし、エリアや築年数による案件の選別化が進んでいるとした。
同社の物件では、東武鉄道とのJV「ソライエ新柏プレミスト」(114戸)は坪250万円で、第1期1次60戸は完売のめどが立ち、昨年7月から販売開始した同社初の沖縄で400万円超の「プレミスト那覇新都心」(16戸)も残り3戸と好調。
「販売のネックになるものがない」全241戸竣工完売へ大和ハウス他「大倉山」(2024/3/16)
〝どう見ても美しい〟大阪の市場を変える東京建物「堂島」は坪単価650万円(2021/11/25)
中岡氏
分譲戸建てについては、同社住宅事業本部事業統括分譲住宅グループ次長・中岡敬典氏は、注文住宅の着工戸数は26か月、分譲戸建ては15カ月(2024年1月現在)連続でそれぞれ減少しており、建築費の高騰、消費者の実質賃金の低下などにより、市場を取り巻く環境は厳しいと語った。
一方で、同社の事業は堅調で、2023年10月~2024年2月累計では金額比で前年比25%増で、東京、埼玉などで大幅に増加しているとしている。
戸建て7,000戸体制については、注文住宅と分譲住宅の「ちょうといいとこどり」を全国に展開し、「ReadyMade Housing」を掲げ、「設計力+基本性能+アフター&長期保証により〝価格以上の価値〟を提供していくと語った。用地取得については、10戸以上の入札案件よりも数戸~10戸未満の用地取得に力を入れ、大型案件ではグループ内での複合開発も検討していく。来期販売目標2,650戸のうち木造は3割で、差来期の木造化を50%に引き上げたいとした。「ZZEHは100%、既存の戸建てビルダーとは一線を画す」と明言した。
和田氏
ホテル・オフィス事業については、同社流通店舗事業本部事業統括部開発事業部グループ長・和田康紀市は、商業分野は、コロナ禍に伴う自粛モードが解除され、パンデミック以前の社会に戻りつつあるとしながらも、既存の商業施設の建て替えや再生がポイントとなり、もの消費からコト消費に変わり、新しいアイデアが求められていると話した。オフィス分野は、引き続き潜在的なニーズが高い地方に注力していく。
ホテル分野は、インバウンド需要が回復しているとはいえ、観光需要の高いエリアでは競争が激化、宿泊単価の上昇は見られるものの稼働率の上昇につながっているとはいいがたく、従業員の雇用問題が深刻化していると話した。
地価公示については、取引価格との乖離が目立っており、都心部(東京、大阪、名古屋)では公示地価の3倍から5倍の取引価格が日常化しており、地方でも人気の高いエリアは同じ傾向がみられるとしている。
廣渡氏
物流施設については、同社建築事業本部 営業統括部Dプロジェクト推進室担当次長・廣渡政和氏は、テナント入居地域の傾向として都心好立地案件と地方メーカー向け立地に大きく二分化され、リーシングに時間がかかる状況から調整局面に突入しつつあると指摘した。
首都圏の需給バランスでは、2024年4Qの新規供給は前年同期比半減し、空室率は2023年4Qの9.3%からやや改善はされているもの8%台の半ばに達しており、2%台で推移していると思われる築1年以上の施設との差が目立っている。廣瀬氏は「物流施設は建築費のウエイトが高く、ゼネコンが見つからない例や賃料に転嫁できない環境が続いている」と語った。
「昭島」1期は262戸/建築費5割アップへ2024年問題からみ深刻化 大和ハウス(2023/9/15)
三井グループ25社売上88兆円「三井みらいチャレンジャーズオーディション」発表
「三井みらいチャレンジャーズオーディション」(日本橋三井ホールで)
三井グループ350周年記念事業実行委員会(委員長:菰田正信・三井不動産会長)は3月19日、三井グループ350周年記念事業の最大イベントである「三井みらいチャレンジャーズオーディション」最終通過者30人を発表した。イベントには130人が参加した。
プロジェクトは、三井グループの元祖「三井高利」が日本橋に越後屋を出店した1673年から350年の節目の年に当たり、様々な社会課題を解決し、未来を切り開く若者を発掘・支援するもの。「事業・社会活動」「研究・留学」「カルチャー創造」の 3分野722人の応募者の中から各分野10人が選ばれた。
応募条件は2024年3月31日時点で16歳以上31歳未満の個人で、昨年8月から10月まで募集された。募集部門は①研究・留学部門(応募:241人)②事業・社会活動部門(応募:319人)③カルチャー創造部門(応募:162人)。総勢10名の審査員による「みらい履歴書・計画書の審査」「動画審査」「対面審査」の3段階の審査を経て決定された。最終通過者30人は 2027年度まで三井グループ25社が継続的に支援していく。支援金として一律500万円のほか、追加の支援金(2年目からの最長3 年間)が提供される。
菰田氏はイベントの冒頭、「オーディションは、三井高利のイノベーション精神を継承し、夢や目標を持ちチャレンジをする次の時代を担う若者を発掘・応援しようというプロジェクトです。昨年8月に応募受付を開始しましたが、締め切りまでの3か月間に722名のチャレンジャーが名乗りを上げてくださいました。『熱い想い』と『高い志』で『これからの世の中に大きな影響を与えたい』という強い決意を感じる方ばかりでした。自らの意思で一歩を踏み出し、このオーディションに参加をしてくれた若いチャレンジャ―たちは、みな未来を担う有望な人材です。応募をしてくださった全てのチャレンジャ―に敬意を表します。そして最終通過者を含めたチャレンジャ―達全員のこれからの飛躍・活躍を、心より祈念いたします」と述べ、閉会の挨拶では「1昨年やろうと考えたときは不安でいっぱいだったが、本当に素晴らしい結果となった。大激戦の末30人が選ばれたのもよく分かる。委員長としてもほっとしている。ただ、このプロジェクトの成功は、選ばれた皆さんの夢が実現し、日本を世界を変えること。そのために三井グループはしっかり支えていきます」と締めくくった。
菰田氏
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記者は昨年10月、スタートアップ企業と大企業をマッチングさせるイベント「住友不動産ベンチャーサミット」を見学・取材した。「新宿住友ビル」三角広場に約2,100人が集まったのにびっくりした。
今回、「日本橋三井ホール」に集まったのは約130人だが、内容は全然負けていないと思った。グランプリやら大賞やら○○賞を設けていないのもとてもいい。菰田氏をはじめ審査員の方々も〝素晴らしい〟を連発した。プレゼンターを務めた三井物産社長CEO・堀健一氏は「全員をわが社に迎えたいくらい」とまで述べた。
記者も、最初の受賞者・王方成さんの「宇宙に住む」に圧倒され、最後の方まで必死にメモを取った。約1時間30分。くたくたに疲れたが、これほど楽しい取材を行ったのは久々だ。
一つひとつ紹介したいのだが、そんな余裕はない。事業・社会活動部門で選ばれた小樽商科大3年生の大砂百恵さん一人だけ紹介する。事業タイトルは「e-kombu」-廃棄される昆布を牛に食べさせ、げっぷを減らしてCO2削減に貢献するというものだ。
大砂さんは「2年前、大学1年生のときです。ひいおじいちゃんがコンブ漁をやっていて、大量に捨てられる昆布がめっちゃくちゃもったいない、何とかできないかと。牛に食べさせることを思いつきました。賞金? 牛の購入費に充てたいです」と語った。(小生は牛肉をほとんど食べない。牛の体重は人間の10倍近くあり、大量のCO2を吐き出すし、輸入飼料によって大量の水(バーチャルウォーター)を消費する。そもそも牛は昆布を食べるのか。ネットで調べたら、昆布を飼料にしたブランド牛もあるそうだ。本当にげっぷは減るのか)
審査委員の講評も一人紹介する。カルチャー創造部門審査員で、プロダクトデザイナー・グラフィックデザイナー・建築家の肩書を持つ太刀川英輔氏だ。太刀川氏は次のように話した。
「おめでとうございます。何か…なんていうかなあ、すごくね…胸がいっぱいで、不思議な気分なんですよね…今。こういう皆さんを応援できる時間をいただいた委員会の皆さんにお礼を言いたい。みなさんになにを伝えようかと考えたとき、真っ先に出てきたのは、まず、すぐにヒーローになろうとするなって思ったんです。馬鹿に発見されると大変なんで、まずは没頭したほうがいいと。徹底的にいま目の前にある道を、皆さんはその先に何かの光が見えているはずですが、だけどその道はジャングルだけだと思う。進んでいると痛いこともあるし、出る杭を打つ人もいる。(そんなことを気にしないで)没頭することが大事。僕はね没頭することは幸せだと思う。それ以外にない。僕もデザインしているが、没頭することを心掛けている。結果出そうと考えないこと。結果はね、うしろについてくるもの。
そう思うと、今日貰った500万円、凄いね。だけど、お金だと思うと大した額じゃないんですよ。僕らおじさんにとってはね。ただ、こう考えてほしいんです。皆さん、3,000時間あったら何ができますか。3,000時間、これは皆さんが時給2,000円の高収入バイトをし、積み上げてできる…それが500万円なんです。大事なのは額じゃない。時間とつながりなんです。これは得難い。4年後、この3,000時間のあとに、皆さんが成し遂げてくれる景色を、ちょっと痛かったなどといいながら一緒に振り返られたらいいなと思います」
実をいうと、記者は最初から最後まで金の計算をしていた。30人のうち4年後に花を咲かせる人は何人いるか、三井グループはいくら投資するのかと。初年度500万円はともかく、成否のかぎを握るのは徹底して支援できるかどうかだと考えた。額は一人(1プロジェクト)1億円いや10億円はどうかと。10×30=300億円だ。
そして、三井グループ25社の総売上高を計算した。トヨタ自動車も入っているから100兆円くらいではないかと見当をつけた。300億円は巨額だが、比率にしたら0.03%だ。うちに帰って三井グループの直近の総売上高を調べた。売上高は87兆8,615億円、連結従業員数は817,123人だった。売上高はわが国のGDP591兆円の14.9%を占める。一人当たり売上高は約1億円。国民1人当たりDGPの約2倍だ。
大企業のこの種の支援事業が増えるのに期待したい。
太刀川氏
オフィスワーカーの欲しい設備「食堂」/Z世代の働きたい場所「東京」 コリアーズ
左から横山氏、毛利氏、小笠原氏、川井氏(同社本社:丸の内二重橋ビル18階で)
コリアーズ・インターナショナル・ジャパンは3月14日、「コロナ禍前後のオフィス・職場環境の変化」のアンケート調査発表会&記者懇親会を実施。テレワーク(リモートワーク)は確実に定着している一方で、企業側はオフィス回帰に舵を切っており、テレワークを全くしないオフィスワーカーが過半を占めたと発表した。
調査は、首都圏、関西圏に勤務する事務系・技術系のデスクワーク中心のオフィスワーカー448人に焦点をあて実施した。
調査の結果、首都圏では40代以下の年代のフル出社割合は50%を切っているが、年齢の高い層ほどフル出社の割合が高く、関西圏はすべての年代でフル出社が過半を占めている。
現在のテレワーク日数と理想では、首都圏では現状維持派が大多数を占め、現状フル出社の継続を望む層と、現状フルリモートでフルリモートの継続を望む層が目立ち、二極化傾向がうかがえるとしている。
コロナ禍前後で職場環境はどんなところが変わったかの問いでは、テレワークが導入された、出社頻度が下がった、最小限のコミュニケーションになった、ペーパーレスになった、フレキシブルな働き方になったなどの回答が寄せられた。
変わらない点では、オフィスに出社することを求められる、ペーパーレスが進まない、テレワークができていないなどの回答が目立っている。
これからのオフィスのあり方については、オフィスに欲しい設備として首都圏ではほとんどの年代で「食堂」「コンビニ」「仮眠室」「WEB会議のための個室」「リフレッシュルーム/カフェスペース」などを望んでいることが分かった。
発表会では、住友不動産に約25年間勤務していたマネージングディレクター兼会長・小笠原行洋氏が挨拶したあと、ディレクター&ヘッド・川井康平氏がプレゼンを行い、川井氏とシニアディレクター&ヘッド・毛利郁氏、シニアディレクター・横山貴明氏によるパネルディスカッションが行われた。
コリアーズは、ナスダックおよびトロント証券取引所に上場する大手総合不動産プロフェッショナルサービス・投資運用会社。世界66か国で事業を展開し、従業員は約19,000人。年間売上高は45億ドル、運用資産は980億ドル。
左から小笠原氏、川井氏、毛利氏、横山氏
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調査結果はある程度予想された内容だった。テレワークが浸透するかどうかは、職種にもよるだろうが、会社の方針が左右することをうかがわせた。ペーパーレスが遅れているのは問題だ。
興味深かったのは希望するオフィス設備で、多くの人が「食堂」「コンビニ」「リフレッシュルーム/カフェスペース」を求めていることだ。「食堂」とはどのような食堂かよく分からないが、一般的な社員食堂・職員食堂や施設食堂とは異なるような気もする。これらは基本的には食事が目的のはずだが、コンビニやカフェを希望する人も多いことから、単なる食堂ではなく多目的でいつでも利用できる自宅のリビングのような空間を望んでいるのではないか。
そのような機能を備えていた施設では、三菱地所本社を2度見学したが、酒も飲めた。TSUTAYAのSHARE LOUNGEはいい。もちろん仕事ができるのがいいのだが、本も読めるし酒も飲め、喫煙室もある。多目的に利用できるコンビニは増えているようだが、独立店舗は平屋建てが多いのはなぜか。借地が多いのだろうが、容積率の半分も消化していないはずだ。
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同社は2023年10月、「東京23区内に正社員として勤務するZ世代(18歳〜27歳)」の男女825名を対象に、働き方に関する意識調査を実施している。この結果が面白い。
テレワークをしている人は49.8%、していない人は50.2%で、テレワークをしている人にその理由を聞いたところ「通勤時間がもったいないから」が56.0%、「会社の方針」が28.5%となった。テレワークをしない理由の1位は「会社の方針」で66.9%、2位は「コミュニケーションが取りやすいから」が10.6%となった。
現在勤務するオフィスの立地に「満足している」人は25.0%、「どちらかというと満足している」人は43.6%と双方で約7割。満足している人、していない人にそれぞれその理由を聞いたところ、交通利便性、街の雰囲気、静か(満足)、騒がしい(不満)、飲食店、ブランド力などが上位にあがっている。
理想的な通勤時間を聞いたところ、「16分以上30分以下」が37.2%でもっともも多く、次いで「31分以上45分以下」が24.7%、「15分以下」が18.7%となっている。
理想通勤時間の選択理由を自由回答で聞いたところ、「時間がもったいない」「通勤でストレスを感じたくない」という声が多く寄せられた一方で、「家から近すぎるとプライバシーが怖い」「30分以内だと家賃が高い」「近すぎると仕事とのスイッチが切り替えにくい」などの声もあった。
働きたいと思うオフィス街の駅を聞いたところ、「東京」25.0%、「大手町」19.3%、「有楽町」11.6%、「新宿」8.8%、「日比谷」7.0%、「池袋」5.0%、「銀座」4.8%、「品川」4.6%、「日本橋」4.2%、「表参道」3.9%、「渋谷」3.4%の順でベスト11。
これらの結果からでは、どこに住んでおり、どこに勤務先があり、どのような職種かなどは不明だが、テレワークは会社の方針が左右していると考えられる。
望ましいオフィス立地、通勤時間、働きたい勤務地(駅)から読み取れるのは、一言でいえば理想と現実の大きな隔たりだ。勤務地を東京駅とし、静かで、通勤時間が30分以下の駅は山手線・山手線内、北は川口、北千住、東は船橋、南は川崎あたりか。徒歩時間を含んだドア・ツー・ドアで30分だと、マンションなら坪単価500万円以下は皆無、10坪でも5,000万円以上だ。買える人はほんの一握りだろう。前段でも書いた三菱地所の社員もどれだけいるか。