要諦は「名前」を覚えること 「推しの木図鑑」と「5本の樹」計画に期待
野村不動産と埼玉大学の共同研究・開発の成果でもある「推しの木図鑑」に関連することだが、記者は積水ハウスの「5本の樹」計画を以前から注目している。2001年に始まったもので、〝3本は鳥のため、2本は蝶のために、地域の在来樹種を〟という思いを込め、地域の気候風土・鳥や蝶などと相性の良い在来樹種を中心とした植栽にこだわった庭づくり・まちづくりの提案だ。
この「5本の樹」計画は、同社と琉球大学理学部久保田研究室・シンクネイチャーが2021年に発表した「ネイチャー・ポジティブ方法論」に結実した。同社が20年間に植栽した樹木本数・樹種・位置情報の蓄積データを分析し、定量的な実効性評価を可能にしたもので、生物多様性の劣化が著しい三大都市圏の在来種は約10倍に、鳥の種類は約2倍に、蝶の種類は約5倍に増加したことが確認できたというものだ。そして、1977年の三大都市圏の樹木・鳥・蝶の種数、多様度指数、個体数を100%とし、今後日本で新築される物件の30%に「5本の樹」計画が採用された場合、その回復効果は84.6%まで上昇すると予測している。
同社に問い合わせたら「5本の樹」計画による植樹本数は2022年度(2023年1月31日現在)、累計1,900.3万本、植栽プレートは672,700枚(約67万枚)とのことだ。
植樹本数の多さは、わが国の街路樹本数が約670万本(高木)ということと比較してもいかに多いかが分かる。植栽プレートの植樹樹木に対する設置比率3.5%をどう評価するかだが、国内で唯一「植物名称の基準書」に準拠したラベルメーカー・アボック社のホームページには「植物名ラベル納品実績 全国500万枚」とあるように、積水ハウスの実績は少なくないといえるのではないか。
野村不動産・埼玉大学の「推しの木図鑑」も積水ハウスの「5本の樹」計画も〝全国区〟になることを期待したい。その要諦・肝は涌井史郎氏が言った「木の名前と虫の名前と鳥の名前を覚えると、一歩、歩くごとに人生3倍楽しくなる」-つまり名前を覚えることにあるような気がしてならない。
読みだすと止まらない あらゆる関係者にお勧め 野村不&埼大「推しの木図鑑」(2023/6/24)
ネガティブにならざるをえない 無残な街路樹 ネイチャー・ポジティブを考える(2021/11/27)
田舎の原風景を見た 積水ハウス「新・里山」(2010/4/8)
読みだすと止まらない あらゆる関係者にお勧め 野村不&埼大「推しの木図鑑」
授業風景(流山市立北小学校6年生)
野村不動産と埼玉大学が、持続可能な街づくりの取り組みとして共同開発した、小学生向け授業プログラムとそれをもとに行った授業の成果を1冊の本にまとめた「推しの木図鑑」のデータを同社から送ってもらって読んだ。子どもの想像力、発想力の豊かさが溢れており、読みだしたら止まらない。下手な小説よりずっと面白い。お父さんやお母さん、地域の人たちだけでなく、文科省、都市公園や道路などの行政担当者も読んでいただきたい。
授業プログラムは、同大学教育学部生活創造講座技術分野・浅田茂裕教授の指導のもと、同大学の教育学部1年生が開発したもので、流山市立北小学校6年生3クラス122名を対象にプログラムに基づき授業を実施した。同社は2022年7月から約半年間支援してきた。
「推しの木図鑑」は、A4判150ページにわたるもので、それぞれ生徒の「推しの木」を1ページに収め、写真付きの「推しの木Profile」として紹介している。
「推しの木Profile」には「名称」のほか「レア度」、「発見者」、「出現場所」、「年齢(推定)」、「性格(推定)」、「5角形の特徴レーダーチャート(評価項目は自由記載)」、「3つの推しポイント」、「10年後への期待、「推しの木からのひと言」が手書き文字で掲載されている。いくつかを紹介する。( )は記者の感想。
まず、名称「弱そうで強い、ウッディくん」。発見者は「バズ・ライトイヤー」、出現場所は「庭」、年齢は19才、性格は「おだやか」。3つの推しポイントは「①弱そうで強いところ②葉がチクチクする③色がきれい」、10年後への期待は「この木1本で地球を支えられるくらい酸素を出してほしい。身長8m、体重660㎏」、推しの木のひと言は「大きくなっても切らないでね。木登りOK。早くお酒を飲みたい」だ。
(写真を見ても木の名前は分からないが、庭木としてよく植えられる木だ。年齢は19才とあるが、発見者は生まれていないはずなので、築後19年が経過しているのかもしれない。推しの木は「早く酒を飲みたい」と言っているが、ひょっとしたら、酒を飲みたいのは木ではなく発見者自身ではないか。記者は小学生のころから酒を飲んでいた。お父さん、飲ませてやって)
発見者「すぎやなんぼー」の名称「イケメンな、伝説の神樹ザ broly」。出現場所は「公園」、性格は「残虐無慈悲」。推しの木のひと言は「キハハハハハ…。お前たちが戦う意思を見せなければ、オレはこの星を破壊し尽くすだけだ!」と警告を発している。(日和見の記者の胸にぐさりと突き刺さった)
発見者「自身」の名称「木木樹木木」。出現場所は「この広い世界の中」、年齢は60才前後、性格は「コミュカおばけ」。3つのポイントは「①夏にさくきれいな花②子犬のようにもふもふ③あふれる包容力」とある。10年後への期待は「死ぬときも病めるときもずっと、ずーっと、愛し続けてね☆」、推しの木からのひと言は「オレの愛は重いぜ★」だ。
(6年生と言えば恋が芽生えるころだ。「自身」は女の子か、推しの木はお父さんか、それとも未来の夫か。「愛は重いぜ」が肺腑をえぐる)
発見者「ミカン」の名称「家族のように並ぶポン次郎」。年齢は17才、性格は「母性がある」。推しの木のひと言は「来年大学受験(木のみ)なのでがんばります。ちなみに、家族の長男は停太朗。バス停のところに立っています」とある。
(「ポン」は、記者のような愚か者の意味を持つ〝アンポンタン〟を思い出させ、「ミカン」は「未完」を連想させる。木に「母性」を見いだす感受性が鋭い。「停太朗」と「バス停」も何かを暗示させる)
名称「長樹」(長寿にかけているのだろう)の推しポイントは「①いつも葉がある②デカイ③いつでも見れる」とあり、10年後への期待では「記おく回ふく薬が発明されるかも? 」とあり、推しの木からのひと言は「長生きの秘決(訣)? 『それは動かないことじゃ』」。
(写真から判断してクスノキであるのは間違いない。記者の大好きな木で、この木を見ると条件反射のように葉っぱをちぎって臭いをかぐ。鎮静剤だ)
発見者「うしろの人」の名称「教科書」(理科)。出現場所は「家or学校」、年齢は2才、性格は「きらわれ者」。レーダーチャートは「きらわれ度」と「先生による好まれ度」が最大の5点、「厚さ」は4点、「好かれ度」と「使用ひんど」は最低の1~2点。3つのポイントは「①テストのはん囲がわかる②ノートをとらなくても分かる③ふく習ができる」、10年後への期待は「多分もう新しくなっている。捨てる」、推しの木からのひと言は「もっと使って」だ。
(教育関係者が読んだら驚愕するのではないか。痛烈な皮肉が込められている。花の命と同様、教科書は2年で捨てられ、好かれるのは先生だけか…先生もかわいそうではないか)
もっと書きたいのだが、きりがないのでこのあたりでやめる。
巻末で野村不動産は、「街に新しい環境をつくる仕事をしています。私たちがつくる環境が、多くの人から大切に慕われそれぞれの『私の風景』になっていくためにどんなことをすればいいかを考え続けています。
「今回の授業では、街の未来を担う小学生の目に映る、街の風景を切り取って集めてきてもいました。
推しの木を通して、小学生だからみえる街の姿、小学生だから聞こえる街の声、それぞれが大切にしている『私の街の風景』を、教えてもらうことができました」とし、浅田氏は「今度、推しの木の近くを通り過ぎるときは、ちょっと声をかけてみてください。もっと木や森が、そして街が、身近に、そして誇れるものに感じられるかもしれません」と結んでいる。
授業対象が埼玉県でなく千葉県の流山市の小学校というのも興味深い。記者は、井崎義治氏が市長に当選したとき、井崎氏がデベロッパーに興味を示されたので、街づくりに熱心なデベロッパーとして野村不動産を紹介したことがある。
その流山市にある江戸川大学の講師として環境倫理学を教えていた法政大学教授・吉永明弘氏はその著「歳の環境倫理」(勁草書房、2014年刊)で、学生に大学周辺を歩いてもらってアメニティとディスアメニティを地図上に書き込んでもらい、アメニティマップを作製することが、地域の歴史や文化、地形や生態系の情報を得るのに有効であると著している。
右が「推しの木図鑑」1ページ分
◇ ◆ ◇
「推しの木Profile」を読んでいて、気になったことが一つある。全122の「推しの木」には、具体的な木の名前はゆず、夏みかんなど数えるほどしかないことだ。写真も添付されているので、専門家ならすぐ木の名前を当てられるだろうが、記者はほとんど分からなかった。
例えば、発見者「サンタさん」のコピーライターが付けそうな、デベロッパー顔負けの名称「ザ・ツリー・マンションズ」。レア度は★三つのうち1つ、出現場所は「マンションの裏の公園」、年齢は43(?)才、性格は「少し気が荒れている」、3つの推しポイントは「①マンションの人は有名でだれもが知っている②木のぼりで遊べる③なにげなし木がきれい」、10年後への期待は「マンションの公園にもっとふえてくれ!」、推しの木のひと言は「やぁ、こんにちは!ぼくは、ふつうの木」だ。
(写真は夜間に撮ったようで、名称、発見者などからモミノキかと思ったが、樹形からしてそうではなく、ケヤキ類かと思ったが、ケヤキは登れないし、真冬でも葉っぱが茂っていることから常緑樹のカシ類か)
ことほど左様に木の名前は杳としてしれないものばかりだ。
そこで、なぜなのかを考えた。小学生の理科の教科書には動植物はたくさん出てくるが、樹木に関しては光合成の仕組みや年輪、板目・正目などの材の特徴は掲載されていても、木の名前などは習った覚えがない。このことと関連があるのではないかと。
そこで、学習指導要領を読んだ。理科については、「人の生活が環境に及ぼす影響を少なくする工夫や、環境から人の生活へ及ぼす影響を少なくする工夫、よりよい関係をつくりだす工夫など、人と環境との関わり方の工夫について考えるようにする」(この日本語はおかしい。人と環境は双方が影響を及ぼしあうものだ)などとあるが、森林の果たす役割などは一言も触れられていない。
文科省にも問い合わせた。けんもほろろ。教科書に盛り込まなければならない木の名前などはなく、教科書を発行している出版社に聞いてほしいということだった。
仕方がない。小学生向け理科の教科書を発行している大日本図書と一般社団信州教育出版社に問い合わせた。大日本図書は3年生:ウルシ、ツツジ、4年生:サクラ、ハナミズキ、5年生:サザンカ、6年生:掲載なし。信州教育出版社は4年生の教科書にアカマツ、イチョウ、カエデ、クヌギ、クス、サクラ、サンショウ、シラカシ、ツタ、ヌルデなどを掲載しているとのことだった。
これで、「推しの木Profile」に具体的な樹木の名前が出てこない理由がわかった。学校では教えていないのだ。理科などの理数系の教科書を発行しているのは両社を含めて6社で、母語の「国語」や「社会」は3社のみということも分かった。
記者小学生のころ、「松風騒ぐ丘の上…」(1954年、三橋美智也「古城」)、「一本杉の石の地蔵さん…」(1955年、春日八郎「別れの一本杉」)、「柿の木坂は駅まで三里…」(1957年、青木光一「柿の木坂の家」)などを歌って木と親しくなったものだ。
図書館も同じだ。ある区立図書館の本棚に並んでいる子ども向け図書を調べた。文学、伝記、昔話、地球、科学、恐竜、魚、鳥、昆虫、環境、料理、乗り物、スポーツ、哲学、宗教…などは豊富で、SDGsやユニバーサルデザイン、プログラマーに関する書籍もあるのに、森林・林業は一番目立たない、探すのが容易でない最下段に収められていた。冊数も10冊くらいしかなかった。
そのうち記者が名著だと思ったのは、七尾純著「森といのち 生命をはぐくむ森」(あかね書房 2004年刊)だ。字を小さくし、ルビを振らず情報量を増やしたら大人向けにもなる。
物の序で。小学校で学ぶ漢字を調べた。文科省の学年別漢字配当表の漢字は1,026字あり、うち木篇漢字は34字だ。学年別(木篇)に見ると1年生80字(木、本、林、森、校、村)、2年生160字(ゼロ)、3年生200字(横、植、根、橋、相、柱、板、様)、4年生202字(機、械、極、材、札、松、標、栃)、5年生193字(桜、格、検、構、枝)、6年生191字(株、机、権、樹、棒、枚、模)だ。
この良し悪しはともかく、どうして「栃」(トチノキ)が「松」とおなじ4年生なのか。これには大した理由はない。都道府県名の漢字を小学4年生までに教えることにしたためで、「栃木県」の「栃」が木篇であるからに過ぎない。国樹として親しまれている「桜」はなぜ5年生なのか、学名が「Cryptomeria japonica」=隠された日本の財産を意味する「杉」や「桧」「梅」「桃」「柿」「桐」はどうして対象外なのか、理由は明確ではない。みんなご都合主義によるものだ。ここに人文系と理数系の分断・断絶をみた。
◇ ◆ ◇
以下は、同社を通じてお願いした今回の取り組みについてのコメント。
■同社担当:野村不動産 エリアマネジメント部横川大悟氏 街づくりに携わる事業者として、ただマンションを作って終わりということではなく、シビックプライドの醸成や街の魅力向上が大事だと考え、今回の授業実施に至りました。
今回の授業を通じて、子どもたちには、木への関心や街への関心を持ってもらい、この機会をきっかけに自分の住む町にもっと誇りをもって貰えればと考えています。
子どもたちが、色々な場所で自分の住む街について話す機会が増えることで、住民や来街者を巻き込んで街への愛着を育んでいってもらえるよう願っております。
■授業を実施した先生(大学生) 子どもたちがとても真剣に取り組んでくれて、沢山の時間をかけて準備をしてきて良かったと思いました。
近くの友達と色々話し合って楽しそうにプロフィールを完成させている生徒の皆さんの姿がとても印象的でした。
私たちに積極的に話しかけてくれたり、質問してくれたりする生徒さんもいて嬉しかったです。
今回の授業が、街の木に興味をもつきっかけになればと思います。
実際に授業をするまで、真剣に取り組んでくれるだろうか? と心配だったのですが、全員が一生懸命推しのプロフィールを書いてくれてとても嬉しくなりました。
完成したプロフィールを友達同士で見たり、どこにあるの? と話している姿も見かけたりして、この時間を楽しんでいるのだなと感じ、実施できてよかったです。
それぞれのシートには個性や見どころが詰まっていると思います。
■小学校の先生のコメント 推しの木探し、そして、プロフィール作りを通して、子ども達が楽しそうに取り組んでいる姿を見ることができ、とても嬉しくなりました。
また、それだけでなく推しを選んできただけに、「自分の選んだ木や木材が1番」と、自信満々に言う児童の様子から、身近なものに愛情をもてるというのは、とても素敵なことだと感じました。
この経験を通して、木や木材だけでなく、地域にある様々なものにも「愛」をもち、愛情溢れる地域を作っていってほしいと思いました。
今回の授業をきっかけに改めて木材の良さに気付き木材の良さを生かした卒業制作を行うことができました。
子どもたちが今後も木材に触れ親しむとともに、保護者の方にもこの取組みを直で見ていただけると今後さらに内容が発展していくと思いました。
「推しの木図鑑」巻末
野村不&埼玉大学 持続可能な街づくりへ 小学生向け授業プログラム開発・授業(2023/6/1)
「大変厳しい」会長・副会長が連発…悲観することはない 2×4協会 会見・懇親会
池田氏(都市センターホテルで)
日本ツーバイフォー建築協会(会長:池田明・三井ホーム代表取締役社長)は6月15日、2023年度定時総会を開催し、2022年度事業報告と収支決算、2023年度事業計画と収支予算を可決し、総会後に記者会見・懇親会を行った。
池田会長は懇親会で、「昨年度のツーバイフォー住宅の着工戸数は92,000戸、シェアは10.7%。全体ではシェアは低下したが、利用関係別では、持家のシェアが上昇しこれまでの最高値を更新し11.7%となった。また、施設系のツーバイフォーは年々増加傾向にあり、会員向け調査によると、昨年度の着工件数は前年度比で約1割増加した。耐震性、耐火性を始めとするツーバイフォーの優れた性能面や、環境に優しい木の建築に対するユーザーの評価が一定の成果に繋がっていると感じている。
カーボンニュートラルの実現を目指すわが国においては、最終エネルギー消費量の約3割を占める住宅・建築分野における省エネルギー化、脱炭素化に向けた取り組みの更なる強化が必要。CO2を吸収・固定化し、炭素を蓄える働きを持つ木材を構造材とし、建築時や建物利用時のCO2排出量の少ないツーバイフォー建築の供給を通じてカーボンニュートラルの実現、脱炭素社会の構築に貢献することを重要な使命と認識し、引き続き普及、発展に努めていく」と語った。
懇親会
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記者会見では、メディアから住宅着工、とくに持家の減少について質問が飛んだ。以下、その回答を紹介する。
池田会長 持家は17か月連続の前年比マイナスで大変厳しいマーケットが続いている。当社は非住宅の施設系や賃貸の受注増がかさ上げしたことにより、受注量は若干増加した。ただ、専用住宅は大変厳しく受注量は約7%減少した。内訳で見ると4,000万円以上は何とか踏ん張っているが、2,000万円台から3,000万円台のむボリュームゾーンが大きく落ち込んでいる。今後も厳しい状況が続くのではないか
副会長・細谷惣一郎氏(三菱地所ホーム代表取締役社長) 今年度に入って受注の足は鈍っている。ゴールデンウィークの住宅展示場への客足はかなり落ち込んだ。WEBなとの新たな集客手法に期待している
副会長 蓮井美津夫氏(イワクラホーム代表取締役社長/北海道支部長) 総じて厳しい。2割、3割落ちている。建売住宅は在庫の山。他の地域より厳しい
副会長・倉田俊行氏(ウイング代表取締役社長)マンション向けの出荷は増えているが、世界マーケット的には赤字を垂れ流し、生産調整に入る意向を示すところが増えている
こどもエコ住まい支援事業についても質問が飛んだ。同事業は、令和4年度補正予算で1,500億円が計上された、2050年カーボンニュートラル実現に向けた施策の一つ。ZEH住宅の新築と一定のリフォームが対象で、子育て世帯・若者夫婦が新築する場合氏は100万円/戸、住宅の省エネ、バリアフリーなどのリフォーム工事には最大45万円/戸(子育て・若者夫婦以外は30万円/戸)の補助金を給付するもの。5月現在、予算額に対して42.9%の進捗。
これに対して、細谷氏は「継続してやって頂かないと厳しい」と時限立法では効果は限定的と語った。
左から細谷氏、蓮井氏、倉田氏
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記者は、高が1割くらい受注が減ったくらいで、慌てふためくことなどないと思うが、4氏からは「厳しい」「非常に厳しい「「鈍い」「落ちている」のフレーズが連発された(経営者とはそういうものか)。肝心の苦境脱出策については、改正省エネ法やこどもエコ支援事業のほか、として新たな集客手法としてWebに期待する声が聞かれた。
記者はもちろんカーボンニュートラル実現は喫緊の課題であり、ZEH住宅などに対する支援は欠かせないと考えているが、前途は厳しいとみている。
注文住宅は大手ハウスメーカーを中心に進んではいるが、分譲戸建て、共同住宅は遅々として進んでいない。年間約4万戸を販売する分譲戸建て最大手の飯田グループHDの2023年3月期の平均価格は土地代を含めて約3,000万円だ。100万円の補助金を受けても、その倍以上のコストをどうするのか。コスト増を吸収する余力はないはずで、価格にオンしたら売れるのか。極めて難しい問題だ。悲観的にならざるを得ない。
まあ、しかし、「大変厳しい」とか「落ちている」というのは2~3年前の数値と比較するからそうなるのであって、現在の市況が〝当たり前〟だと考えれば、そんなに悲観することはないと思うがどうだろう。いまが「ゼロ=スタート」だ。「木の時代」の追い風もあるではないか。経営者のかじ取りが試される。
左から三菱地所執行役常務・加藤博文氏、細谷氏(「木質化に向けた先行投資をかなり行った。今後5年間が勝負の年。全館空調の外販を進め、三菱地所レジデンスの物件への搭載を増やす」加藤氏)
左が理事の新昭和取締役・神﨑智氏(右の方は同社の方だが、名刺交換を忘れたのでどなたか分からない)お二人は「(今後のパワービルダーは)お互い首を絞めることになる可能性もある」と話した。同社の2022年3月期決算は売上高457億円で、粗利益率は23.1%と高い。
左から倉田氏、カナダ林産業審議会 市場開発部本部長・ケビン j・ビューズ氏、加藤氏(ケビンj・ビューズ氏の奥さんは日本人とか。懇親会の冒頭、来賓のカナダ大使館の方は、100年前の関東大震災で被害を受けたわが国に木材を供給したのが貿易の始まりと語った)
住宅選好の変化捉えた「ラナイ」の提案がいい 三井ホーム「IZM(イズム)」モデル (2023/6/8)
「持家は回復途上 建売りへの参入・拡大も可能に」堀内会長 プレ協が総会・会見(2023/6/1)
コロナで減った住宅選好の幅 オーダー志向層を蚕食する〝建売り御三家〟(2023/5/28)
星の数より件数 2年後の適正管理評価1万件目指す マンション管理協 総会・懇親会
高松氏(第一ホテル東京で)
マンション管理業協会(理事長:高松茂・三井不動産レジデンシャルサービス取締役会長)は6月13日、第44回定時総会後に懇親会を開催し、総会で令和4年度の事業報告・決算を承認し、総会後の理事会で新たに3名の副理事長を選任したと発表した。懇親会には300名弱が参加した。
懇親会の冒頭、高松理事長は、昨年度1年間を振り返り、エポックメーキングとしてマンション管理適正評価制度がスタートしたことを紹介し、今年度からスタートする「中期事業計画2023-2025」では、マンション管理業の社会的役割として①適正管理の重要性を広く社会へ浸透させていく②管理組合に適正な業務を提供するための労働環境改善と管理会社内での人材確保・育成③円滑な計画的修繕の推進④区分所有者の高齢化や複雑化する管理組合運営に資するための施策-の4つを挙げた。
そのための具体的な3つの基本施策として①マンション管理適正評価制度の社会的定着②マンション管理業界の働き方改革とDX推進③管理組合運営円滑化のための提言推進を掲げたとし、管理適正評価制度では令和6年度末で協会が受託している102,569組合の約1割、10,000組合超の登録を目指すと語った。
マンション管理業界の信頼構築のためには、働き方改革やカスタマーハラスメントへの対応、DX推進、予定されている区分所有法改正への臨機応変の対応、書面の電子化などDX推進、居住者&建物の2つの老い、管理業務の範囲の明確化などが重要とし、「『中期事業計画2023-2025』で示した山積する諸課題の解決へ向けた取り組みを精力的に推し進め、良好な社会資産としてマンションストックの形成に寄与していく」と語った。
新しい副理事長に就任したのは鉃谷守男氏(近鉄住宅管理代表取締役社長)、谷信弘氏(長谷工コミュニティ代表取締役会長兼社長)、大井田篤彦氏(三菱地所コミュニティ代表取締役社長執行役員)。
小佐野氏
◇ ◆ ◇
各氏の挨拶の時間を測った。高松理事長は約8分、来賓の国土交通大臣・斉藤鉄夫氏は約5分、自民党マンション対策議員連盟事務局長・本田太郎氏(山本有二会長の代読)は約3分、公明党マンション問題議員懇話会会長・大口善徳氏(井上義久副代表から交代されたようだ)は約6分、そしてもっとも会場が盛り上がったのは乾杯の音頭を取った副理事長・小佐野台氏(日本ハウズイング代表取締役社長CEO)の約2分だった。
小佐野氏は「一言だけ皆さんにお願いしたい。2年後のマンション適正管理評価件数を1万戸にするには、会員354社の管理件数の1割で達成できます。ちょうど1割、たった1割(爆笑、拍手喝采)で達成できます」と呼び掛けた。「たった1割」「ちょうど1割」を4度連発したように、登録件数1万件は同協会の大きな目標の一つだ。
同制度は、★の数(最大は★5つ、最小はゼロの6段階)で管理状況を可視化するもので、記者は同協会のサイトから3月31日現在の★5つの232件を管理会社別に見て記事化した。トップは伊藤忠アーバンコミュニティ(UC)の43件で、2位は三井不動産レジデンシャルサービスの35件、3位は野村不動産パートナーズの33件だった。(協会は各社の登録件数を把握しているが、公表はしていない)
絶好の機会を逃してなるかと、協会理事でもある伊藤忠アーバンコミュニティ代表取締役社長・深城浩二氏にトップの座の座り心地について聞いた。深城社長は「星の数が多いことのみが高い評価を得ているとは考えていない。星が2つでも3つでも進んで登録しようとする管理組合を増やすようにしなければならない。そこに価値がある。当社のスタッフもそのために頑張っている」と話した。
呵々大笑すると思いきや、意に反する答えが返ってきた。考えてみればその通りだ。小生のように星の数で管理会社を測ろうとするのは間違いではないにしろ、制度の目的から外れている。星が2つでも3つでも、増やそうとする取り組みのほうが大事かもしれない。小佐野氏が「たった1割」と強調したのは、〝優等生〟だけが登録されることの危険性を指摘したものだと受け止めた。
だが、しかし、「たった1割」の道のりは平たんではないようだ。小佐野氏は「1万戸達成のカギを握るのは、市場の約5割を占める大手管理会社10社の取り組みで、『マンションみらいネット』にしてはいけない」と語った。同社の登録件数は現在、9,000組合のうち4%の約380件で、年々5%ずつ増やせば1割に達すると自信を見せた。(1万件の★の分布が興味深い。★の数が多いマンションが適正に評価されるのは当然だが、★の数が少ない物件が登録されなければ、市場を反映したものとはならない。各社には登録件数と全管理件数に占める割合を自主的に公表してほしい)
深城氏
「当社の管理棟数は業界トップの約18,000棟」副理事長・雜賀克英氏(東急コミュニティー 特別顧問)
副理事長に就任した三菱地所コミュニティ代表取締役社長執行役員・大井田篤彦氏(左)と前社長の駒田久氏(同社顧問)
副理事長に就任した 近鉄住宅管理代表取締役社長・鉃谷守男氏
副理事長に就任した長谷工コミュニティ 代表取締役会長兼社長・ 谷信弘氏
懇親会場
1住専の敷地約9ha 最大級シニア向け 野村不「オウカス世田谷仙川」186戸開業
「オウカス世田谷仙川」
野村不動産と野村不動産ウェルネスは6月6日、健康増進型・賃貸シニア向けマンションシリーズ「OUKAS(オウカス)」の第6弾で、同社最大級の「オウカス世田谷仙川」(全186戸)を2023年8月20日に開業すると発表した。
「オウカス世田谷仙川」は、1954年に開園した第一生命保険の福利厚生施設・第一生命グラウンドなどで構成される敷地約9ha内に立地。健康増進、高齢者支援、地域活性化、子ども・教育、スポーツ振興、安全・防災、環境配慮など地域住民のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)向上を目指す、第一生命保険、丸紅都市開発、相互住宅、NTT都市開発、野村不動産の5社共創まちづくりプロジェクト「SETAGAYA Qs-GARDEN」の一つ。
物件は、京王線仙川駅から徒歩14分、千歳烏山駅から徒歩15分、世田谷区給田1丁目の第一種低層住居専用地域に位置する敷地面積約9,064㎡、4階建て延床面積約11,521㎡186戸。専用面積は20~21㎡(3戸)、25~35㎡(62戸)、36~60㎡(121戸)。開業は2023年8月20日。事業主は野村不動産、運営は野村不動産ウェルネス。基本設計・デザイン監修は日建ハウジングシステム、実施設計・施工は熊谷組。テナントは看護小規模多機能型事業所(やさしい手)。
共用部にはダイニング、ゲストダイニング、大浴場(人工温泉)、フィットネススタジオ、コミュニティカフェ、ゲストルーム、カラオケ&シアタールーム、ライブラリー&ラウンジ、コンシェルジュデスク、美容室などを備える。
農水省・経産省・国交省・環境省と「建築物木材利用促進協定」 ウッドデザイン協会
前列左から国土交通省住宅局官房審議官(住宅)・石坂聡氏、藤木氏、経済産業省製造産業局生活製品課長・田上博道氏、環境省大臣官房政策立案統括審議官・角倉一郎氏、後列左から吉田氏、奥氏、市川氏、松崎裕之氏(竹中工務店参与・佐々木取締役社長代理出席)
日本ウッドデザイン協会(会長:隈研吾氏)は6月5日、農林水産省・経済産業省・国土交通省・環境省の4省庁と「建築物木材利用促進協定」を締結し、記念式典&ウッドデザインフォーラムを開催した。協定により幅広い業種・分野をカバーし、木材利用促進を図るのが目的。期限は令和8年3月末。
協定の主な内容は、①ウッドデザイン賞を通じた木材利用の認知拡大、ノウハウの提供、事業者間マッチングの推進②異業種・産官学民で構成される協会会員及び地域が連携・協働する部会・分科会・ワーキンググループなどの企画・運営を通じて、木材利用の新たな技術開発・マーケティング手法などを開発する③地方公共団体、研究機関、関係団体との連携・協働により、各種セミナー、イベント、研修などを開催し、木材利用の分野拡大、クオリティの向上に取り組む④オフィスや商業施設などでの積極的な木材利用促進により、健康や安全、生産性向上などのメリットを享受しながら脱炭素化のシフトを支援し、環境保全にかかる行動変容を後押しする-など。
隈会長はビデオメッセージを通じ、「木を使った新たなデザインの力で、社会課題の解決をめざすウッドデザインは持続可能な社会づくりを考えるときに欠かせないもの。大きな変化を経験した暮らしや環境のなかで、私たちは改めて木の魅力や、日本の持つ木の文化的価値に目覚めた。今求められていることは、木をテーマにつながった多様な産業、専門家、地域がより深く連携し、新たな価値をつくりだしていくこと。産官学民の連携をより強固にし、皆さんにはこれまで以上のご参加、ご協力を期待したい」と語った。
ウッドデザインフォーラムでは、農学者で造園家の涌井史郎氏が「持続可能な未来を拓く、日本の木と森の文化」をテーマに講演を行った。涌井氏は中世のペストの流行が封建制から資本主義社会への転換を促し、19世紀のコロナは公共衛生と都市計画を生んだとし、今回の新型コロナのパンデミックは生物界からの現代文明への警告・警鐘と捉え、自然との共生・バランスを図るきっかけにしなければならないなどと語った。
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記者は、同協会からの取材案内に隈氏がビデオメッセージを寄せ、副会長の奥和登氏(農林中央金庫 代表理事理事長兼執行役員)、市川晃氏(住友林業代表取締役会長)、佐々木正人氏(竹中工務店取締役社長)または代理の方、吉田淳一氏(三菱地所取締役会長)が出席されるとあったので、楽しみにしていた。
記念式典では、隈会長をはじめ来賓の藤木眞也・農林水産大臣政務官、経済産業省・国土交通省・環境省の代表の方6名全てが「大変嬉しい」と語った。木造ファンの記者も嬉しかった。
一方で、ウッドデザインフォーラムで約45分間にわたって講演した涌井氏は前半の10分くらいの間に、少なくとも「残念」を6度発言した。自然・森林の果たしている価値が正当に評価されていない現状について語ったものだ。
つまり「嬉しい」「残念」は表裏一体。4省庁との協定締結は嬉しいけれども手放しで喜べない。カーボンニュートラル実現への道のりは容易でないことを現実は示している。
取材会では、各社の取り組みについて聞こうと思っていた。吉田氏には住宅・ビルなどの木質化の具体的な取り組みについて(同社はデベロッパーの先頭を切っていると思う)、市川氏には1,000億円の森林ファンドの意味するものや〝現し〟の重要性について、竹中工務店の方には施工上の課題についてなどだ。しかし、出席されたのはセレモニーのみで、一言も発しないで会場を後にされた。これはとても「残念」だった。
同協会と各省庁には、アメリカなどで普及しているという景観価値を含めた樹木・緑の定量的評価制度「i-Tree Eco」を開発していただきたい。戦争に耐え、戦後の激動期を乗り切った街路樹が伐採・強剪定され、公園再生の名の下で大量の樹木が伐採されようとしている。開発か保護か、小生は人間中心主義にも非-人間中心主義にも違和感を抱いているが、歴史的に貴重な巨木は残すべきと考えている。
「木育」にも力を入れていただきたい。先日、野村不動産と埼玉大学は子ども向けの授業向けプログラムを開発し、授業も行ったと発表した。資料を送ってもらったが、実に素晴らしい。同社は会員に入っていないようだ。
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涌井氏の講演がとても面白かった。数回分の大学の講義をぎゅっと圧縮して話された。必死でメモを取ったが、ここで紹介する余裕はない。同協会はホームページなどで公開していただきたい。
ただ一つだけ、先生の話に同意できなかったことがある。子どものタワーマンションからの転落事故が増えていることに関し、「高所平気症」がその原因ではないかと話されたが、そもそも超高層マンションが供給されるようになって40年そこそこだ。子どもの転落事故と関連付けるのは短絡的に過ぎる。もう少し科学的な分析・研究が必要ではないか。高齢者を中心とする大人を含めた住宅内事故は増えてはいるが、こどもの不慮の事故はこのところ激減している。
涌井氏(ロイヤルパークホテルで)
「一般社団法人 日本ウッドデザイン協会」設立 会長に隈研吾氏(2021/12/9)
コスモスイニシア 「MIMARU SUITES」シリーズ第4弾 全室85㎡の「京都」開業
「MIMARU SUITES 京都CENTRAL」
コスモスイニシア、コスモスホテルマネジメントは6月1日、全室ベッドルームを2つ以上備えた「MIMARU SUITES」シリーズ第4弾の「MIMARU SUITES 京都CENTRAL」を同日開業したと発表した。
ホテルは、京都市市営地下鉄東西線・烏丸線烏丸御池駅から徒歩3分、京都市中京区衣棚通り御池下る長浜町に位置する10階建て延床面積1,944.60㎡の全19室。
全室85㎡の客室にリビング、キッチン&ダイニング、畳スペース、2つのバスルームを備える。新しいサービスのトライアルとして、「MIMARU SUITES 京都CENTRAL」と「MIMARU SUITES 東京2施設」との間を手ぶらで移動できるサービス、タクシー無料送迎サービス(京都駅 ⇔「MIMARU SUITES 京都CENTRAL」間)、TaxFreeOnline.jp提携サービス」を用意した。
野村不&埼玉大学 持続可能な街づくりへ 小学生向け授業プログラム開発・授業
野村不動産と埼玉大学は5月31日、持続可能な街づくりに向けた取り組みとして、昨年7月から約半年間にわたって共同で進めてきた小学生向け授業プログラムを開発し、プログラムに基づいた授業を行った結果を公表した。
授業プログラムは、同社の支援と同大学教育学部生活創造講座技術分野・浅田茂裕教授の指導のもと、同大学の教育学部1年生が開発したもので、授業は小学校6年生3クラスで実施された。
授業の流れは、①街の中で自分だけの「推しの木※」を見つけて写真を撮ってきてもらう②“推しポイント”や名前などをプロフィールシートに書き込んで、みんなに紹介する③「推しの木」をクラスみんなで共有。多様な視点を知る④街の「推しの木図鑑」としてまとめ地域に公開するというもの。
今後は、同授業が住民の街への向き合い方に与える効果を継続的に検証するほか、授業プログラム内容や対象小学校の拡充を図り、“持続的に成長する街づくり”“支える人づくり”への貢献を果たしていくとしている。同社が開発中のエリアに位置する小学校でも同様の授業を今年6・7月ごろに行うことが決まっている。
※「推し」とは、人に薦めたいと思うほどに好感を持っている対象のことを指す言葉
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素晴らしい取り組みではないか。「推し」なる言葉は〝イチオシ〟と同義なのだろうが、これまで20年以上にわたり街路樹や都市公園の取材を続けてきた甲斐があるというものだ。
浅田先生と大学生の皆さんにお願いがある。埼玉県は、東京都と比べ住居系エリアは少なく、緑被率も高くなく、街路樹の強剪定が平気で行われている。小学生だけでなく、市民講座などを開いて緑の価値を可視化できるような取り組みを行っていただきたい。
もう一つ。「推しの木」のリストを教えていただきたい。埼玉県の県木が「ケヤキ」であることを知っている人はいったいどれくらいあるのかも知りたい。東京都のイチョウも埼玉のケヤキもひどい仕打ちを受けている。茨城県つくば市の五十嵐市長は「街路樹は街の成熟度の象徴」と語った。小生は「街路樹は人間の成熟度の象徴」と受け止めた。
「持家は回復途上 建売りへの参入・拡大も可能に」堀内会長 プレ協が総会・会見
堀内会長(如水会館で)
プレハブ建築協会は5月31日、定時総会後の記者会見を行い、堀内容介会長(積水ハウス副会長)がこの1年間を振り返るとともに、今年度の活動について説明、記者団の質問に答えた。
堀内会長はこの1年間について、昨年6月に改正された省エネ法によりカーボンニュートラル実現の道筋が示され、長期優良住宅の普及のための環境整備が進んだ一方で、昨年(2022年)の住宅着工戸数は、前年に引き続き持ち直し傾向がみられるものの、依然として回復途上にあり、厳しい環境が続いているとし、今年度は住宅市場の回復に向けたZEH化などの取り組みを強化すると語った。
また、今年1月には協会設立60周年を迎え、新たに設けた協会行動憲章に基づくカーボンニュートラル・循環型社会・自然との共生を目指す取り組みを積極的に推進すると話した。
さらに、今年は関東大震災の発生から100年目を迎え、頻発化・激甚化する自然災害に対応する体制の強化を図ると語った。
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質疑応答では、記者団から注文住宅(持家)の減少や、その回復策などについて質問が飛んだ。
これらの質問に対し堀内氏は、注文住宅市場は厳しいが、積水ハウスは分譲や賃貸でカバーしているとし、改正省エネ法が今年6月に交付され、省エネ基準の適合義務を住宅にも拡大し、100万円/戸の補助が受けられるZEH+などの政府の支援策により、協会会員の建売住宅事業への参入・拡大も可能になると語った。(国土交通省のデータでは2021年の注文戸建住宅のZEH普及率は26.7%、建売戸建住宅は2.6%)
小生は再質問をしようとも思った。堀内氏が属する積水ハウスなど大手のハウスメーカーは、ZEH化コストを価格に転嫁するのは比較的容易で、政府の支援策の恩恵を受けられるだろうが、持家、分譲戸建て市場の圧倒的シェアを占める、第一次取得層をターゲットにする建売住宅専業、地場工務店はZEH化に対応するのは容易ではない。年間4万戸を販売する飯田グループの戸建ての平均価格は土地代を含め3,000万円を切る。大手ハウスメーカーの半分以下ではないか。
さらにまた、消費者もZEH化することで住宅取得希望価格(3,000万円)の3~6%の100万~200万円も負担が増えるのにためらうのは当然だ。初期費用がゼロになる仕組みもあるが、いま一つ、これら圧倒的多数派の層への具体的なZEH普及策・支援策が見えてこない。
しかし、質疑応答時間(15分くらいか)は限られており、プレ協としては答えづらいだろうと判断し、質問することを止めた。この種の会見では、参加するメディア全てが質問できるくらいの時間を取るべきだと思うが…。
この日(31日)発表された令和5年4月の新設新規住宅着工戸数は、総数も持家も分譲住宅も2ケタの減少で、持家は実に17か月連続して減少している。プレ協がいう「回復途上」ではなく、中長期にわたって減少が加速するそのとば口に差し掛かっているような気がしてならない。誰か小生のこの悲観論を一蹴してくれないか。
コロナで減った住宅選好の幅 オーダー志向層を蚕食する〝建売り御三家〟(2023/5/28)
4月の住宅着工 前年比2ケタ減 貸家も26か月ぶり減少 首都圏マンションは32%減
国土交通省は5月31日、令和5年4月の新設住宅着工動向をまとめ発表。総戸数は67,250戸(前年同月比11.9%減)で3か月連続の減少。利用関係別の内訳は持家が18,597戸(同11.6%減)で17か月連続の減少、貸家が28,685戸(同2.8%減)で26か月ぶりの減少、分譲住宅が19,701戸(同21.8%減)で3か月連続の減少。分譲住宅の内訳はマンションが7,233戸(同43.0%減)で5か月ぶりの減少、一戸建住宅が12,362戸(同0.8%減)で6か月連続の減少となった。
首都圏マンションは3,759戸(同32.7%減)で、都県別では東京都が2,196戸(同26.6%減)、神奈川県が1,230戸(同24.4%減)、埼玉県が263戸(同60.6%減)、千葉県が70戸(同76.4%減)となった。
このほか、近畿圏、中部圏、地方のマンションも大幅に減少した。
大幅減少について国交省住宅局は、関係者へのヒアリングを行った結果、持家は物価高・資材高から消費マインドが低下しており、受注も減少していることの反映とみている。分譲マンションは前年4月は約1.2万戸の着工があり、今年1~3月も多くの着工があったことの反動減であり、絶対数がそれほど大きくないことから大規模マンションの着工によって波が大きくなる傾向にあるとし、分譲戸建ても減少幅は小幅にとどまっており、市場が劇的に変わったとは見ていないようだ。
小生も同感だ。各社とも前期の業績が好調で、この先の市場を見極めるための小休止ではないかとみている。