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南棟「d_ll(ディール)つくば」完成予想図

 大和ハウス工業は5月30日、つくばエクスプレス「つくば駅」直結の複合施設「(仮称)つくば市吾妻20街区プロジェクト」の地鎮祭を行い、五十嵐立青・つくば市長も出席して施設概要に関する記者会見を行った。

 施設は、つくばエクスプレス「つくば駅」直結、つくば市吾妻2丁目に位置する敷地面積約7,639㎡(2,310坪)で、建物は5階建て鉄骨造延床面積約10,188㎡(3,081㎡)のオフィス・商業からなる南棟「d_ll(ディール)つくば」、4階建て鉄骨造延べ床面積約3,337㎡(1,009坪)の北棟、5階建て鉄骨造延床面積約7,403㎡(2,23坪)の立体駐車場(353台)による3棟構成。設計・施工は村本建設。着工は2023年4月3日~2023年6月1日、竣工は2023年11月30日~2024年9月30日、オープンは2024年10月の予定。

 南棟の「d_llつくば」は、1階と2階は飲食店、クリニック、フィットネスクラブなど16店舗が入居。3~5階はオフィスフロアで、3階にはスタートアップ企業の交流拠点となるようシェアオフィススペースとして提供する予定。「d_ll」は同社の中規模オフィスビルブランドで、「d_ll四日市」に続く2棟目。

 北棟は同社茨城支店とグループ5社(大和リビング、大和ハウスリアルティマネジメント、大和ハウスリフォーム、大和ハウス賃貸リフォーム、大和ランテック)が入居予定で、2024年10月から約240名のグループ従業員が勤務する拠点となる。

 記者会見で五十嵐市長は「駅直結の一等地の中の一等地。長い間、駐車場として活用されてきたが、この一等地が高層マンションになったら駅前としては厳しいものになるので、長期的な街の発展に資するものにしていただきたいと、土地所有者の筑波都市整備さんに要望してきた。今回、それが了承され、大和ハウスさんの計画によって実現した。利益は少し下がってでも長期的な街の発展に資する判断をしてくださったことは大変ありがたい。これからの新しい街づくりの形が示された。大きな意義を持つ駅のリスタートになる。このほかの駅周辺の様々なプロジェクトとあわせ、大きく花開き、つくばの顔として発展していくプロジェクトになることを期待している」と語った。

 大和ハウス工業執行役員東関東支社長・髙吉忠弘氏は、「当社グループは2055年に創業100周年を迎えるにあたって、その羅針盤となる“将来の夢”(パーパス)を作成、公表した。『生きる歓びを分かち合える世界の実現に向けて、再生と循環の社会インフラと生活文化を創造する』という趣旨で、これはその趣旨に副うもの。〝賑わいと緑が溢れだすエキウエ施設が、マチの様々な交流の拠点となる〟をコンセプトに、魅力ある都市拠点となることを目指す」と話した。

 用地は2017年、土地所有者の筑波都市整備からプロポーザル方式により同社が取得している。

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配置イメージ

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北棟

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左から五十嵐氏、高吉氏、八友氏

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 記者会見場で配布された資料をみて驚いた。容積率を単純にはじいたら274%しかなかった。容積不算入もあるはずだから、実質的には200~250%にしかならないはずだ。「駅直結の一等地の中の一等地」(五十嵐市長)ではありえない数値だ。

 どうしてこんなに低いのか質問したら、同社茨城支店長・八友明彦氏は「法定容積率は400%だが、北側敷地に隣接する吾妻小学校への日影に配慮するよう市から求められていた条件に沿ったもの」と語った。

 このような街づくりもあるのか。駅の南側は商業施設など高層建築物だが、北側は公園、中層のオフィス・商業、小学校だ。日テレの番町再開発と真逆だ。「これからの新しい街づくり」(五十嵐市長)のモデルケースになるのか。

 後で知ったのだが、用地はプロポーザル方式によって取得したのでこのような結果になったということだ。

◇        ◆     ◇

 今回のプロジェクトとは直接関係ないが、五十嵐市長にどうしても聞きたいことがあったので質問した。街路樹と街づくりについてだ。質問はおおよそ次の通り。

 「わたしは街路樹や都市公園、緑についてかなり取材しています。最近、神宮外苑や日比谷公園などで樹木がどんどん伐採されようとしています。市長さんは街路樹を伐採しないと宣言された。公園利用では、維持・管理に関与することを条件に隣接するマンションとの垣根を取り払い、マンション内のカフェの利用を可能にするなど全国的にみて珍しい決断もされた。街路樹を含め、街づくりはどうあるべきかお聞きしたい」

 五十嵐市長は、「わたしが市長に就任したとき(7年前か)、このあたりの街路樹は伐採されることに決まっていたが中止した。街路樹は街の成熟度の象徴であり、単に緑を提供している以上の価値がある。車椅子利用者に日陰を与えたり、生物多様性にも貢献している。やむを得ず強剪定をしないといけないものもあるが、しつかり維持・管理していくのが基本。今回のプロジェクトでも大和ハウスさんはきちんと緑化も図られている」と語った。

 本当は、市内の県道沿いの街路樹が大量に伐採されていることも聞きたかったのだが、さすがに今回の記者会見にはふさわしくないと思いとどまったのだが、「街路樹は街の成熟度の象徴」は「街路樹は人間の成熟度の象徴」と同義と受け取った。街路樹の見方が変わるかもしれない。

 参考までに。同市の緑被率は63.2%、わが多摩市のみどり率は53.9%だ。圧倒的に緑が多いことはよく似ている。東京駅へ1時間剣で、マンションの坪単価250万円も同じくらいか。(今回の事業地を競争入札に掛けたら坪300万円もあるかもしれないが…)

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現地(左後方は駅南側の同社のホテル)

坪235万円でも7割近い144戸成約100㎡超58戸も人気 日本エスコン「つくば」(2021/4/24)

「街のシンボルになる」来場者 公園との垣根なくしたフージャース「つくば」に感動(2021/4/23)

 

カテゴリ: 2023年度

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木住協の懇親パーティー(明治記念館で)

日本木造住宅産業協会(木住協)は525日、令和5年度定時総会を行い、令和4年度の事業報告・収支決算、役員の選任、令和5年度の事業計画などを審議し決議・承認した。

総会後、記者会見した市川晃会長(住友林業会長)は、「令和4年度の住宅市場は、新設住宅着工戸数は860,828戸(対前年比0.6%減)となり、特に持家においては248,132戸(同11.8%減)となり、厳しい環境が続いている。今年度予算で、住宅分野では『子どもエコすまい支援事業』『先進的窓リノベ事業』『給湯省エネ事業』により構成される『住宅省エネ2023キャンペーン』が順調に開始され、これが住宅業界への追い風となるよう期待している」と述べ、「今年度『こども家庭庁』が発足した。家族に見守られて子どもたちが健やかに育つ場が住宅であり、木育の観点も加味すれば、安心安全の質の高い住宅や住環境を木造で実現していくニーズがますます高まる。子どもの目線からも、住宅産業の果たすべき役割を再認識して臨みたいと考えている」と語った。

令和5年度事業では、各支部、地方自治体との連携を強化し、木材利用促進協定・災害協定など地域貢献活動を強化し、脱炭素・循環型社会の実現に向けた環境に優しい木材利用や木造建築の普及を図り、重点事項として①良質な住宅ストックの形成とリフォームの推進②木造住宅・建築物の普及促進③広報活動の推進④人材育成の推進⑤良質な資材の普及と木造化・木質化の推進などを推進する。

記者発表会後には、コロナ禍で中止していた懇親パーティーを開催、参加者は通常の約7割に絞ったが、会場は満席の約400名が参加した。

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市川氏

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 うっかりしてテープを取ることを忘れたので正確ではないが、市川会長は懇親会の冒頭、202313月の第一四半期の実質GDPが前期比年率+0.5%(前期比+0.1%)となり、インバウンドも増加していることなど直近の経済の動きに触れたあと、エンボディード・カーボン(建設時から運搬、維持管理など総体としてのCO2排出量)の取り組みが不十分とし、「昨日は、当社が施工した木造とRCのハイブリッド施設を見学したが、木造の部分は明らかに暖かく、子どもは床を飛び跳ねたり寝転んだりして遊んでいる。このような木の持つ特性と、ライフスタイル面でのCO2削減の取り組みを合わせ技として表すことはできないか」などと話した。

 木造ファンの記者は〝表す〟を〝現し〟に置き換えて理解した。国土交通省は「建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度に関する検討会」のとりまとめを踏まえ、消費者が建築物の省エネ性能の知識を持っていなくとも、省エネ性能を★印で表示するガイドラインを近く示す予定だが、市川会長は木材・木造の人への効果も分かりやすく伝えるべきと話したのではないか。

カテゴリ: 2023年度

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神宮外苑のいちょう並木

 三井不動産など事業者4者は5月18日、「(仮称)神宮外苑地区市街地再開発事業」の環境影響評価書について日本イコモス国内委員会(ICOMOS/ International Council on Monuments and Sites)」(イコモス)から誤り・虚偽と指摘されていた全58項目に対する回答を、同日開催された令和5年第2回審議会総会で行ったと発表した。

 全58項目のうち「指摘自体に事実と異なる内容が含まれるもの」が約半数、「考え方や解釈の違いに基づく指摘」が約半数であり、評価・予測内容としては正当なものであり、評価書には誤り・虚偽はないとし、今後も審議会総会および各関係機関への報告・協議をしながら、適切に本計画を進めていくとしている。

 一方、イコモスは5月16日、「緊急要請」として、事業者の説明は「自然環境アセスメント技術マニュアル」に記載された科学的方法論を遵守しておられず、数多くの誤りと虚偽の内容を、事業者自らが立証されたものとし、東京都環境影響評価書としては著しくレベルの低いものであり、世界に誇る「環境都市・東京」の実現に向けて、再審を要請すると発表した。

 「(事業者の)粗悪なデータの集積は誤った群落分類を招き、調査対象範囲植生の本質を大きく見誤る可能性をもたらすため十分注意を要する」「生態系のネットワークは、既存樹木の53%、1018本が伐採・移植されるため、破壊される。特に、建国記念文庫の森、及び絵画館前広場の樹林地における樹齢100年を超える多数の樹木の伐採・移植は、取り返しのつかない行為である」と指摘している。

 また、イコモスは同日、中央大学研究開発機構グリーンインフラ研究室・石川幹子氏が作成した2023年調査の明治神宮外苑現存植生図を公表。植生図には、凡例として樹林帯の22項目のほか、例えば軟式野球場にはスダジイ、シラカシ、エノキ、ケヤキ、トチノキ、ヒマラヤスギ、トウカエデ、ウバメガシ、イチョウ、サクラなどの巨樹がどこに植わっているか詳細に記載されている。

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軟式野球場

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野球場のユリノキ

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屋内練習場(手前のグラウンド内野は人工芝)

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ヒマラヤスギ

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建国記念文庫エリア

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 記者は平成の時代に入ってから約30年間、RBA野球大会の取材のため〝草野球の聖地〟神宮外苑軟式野球場に通った。トータルすれば300~400日、試合数にしたら数千試合になるだろうか。

 再開発計画では、野球場は広場とテニス場、駐車場に変更されることになっている。工事はずっと先だろうが、野球場の最期を見届けようと、イチョウ並木なども含めて約2時間かけて見て回った。

 グランドに入ろうとしたら「ご利用者以外立入禁止」のスタンド看板が目に入った。以前にはなかったものだし、グラウンドを見て回るくらい何のお咎めもないだろうと、全6面のグラウンド(日の丸・ヒマラヤ・桜・ケヤキ・大銀杏・コブシ)の外周部の樹木を見て回った。(あとで野球場事務所に確認したら「一般の方が入り込み、キャッチボールなどをするケースが目につくようになったので10年くらい前から看板を設置するようになった」とのことだった)。

 グラウンドの外周に植えられている巨木は、双方の論争などどこ吹く風、小生のように加齢による醜い外貌を晒しながらも、しっかりと根を張り若葉を茂らせ、イコモスが形容したように「威風堂々」と屹立していた。写真で示した通りだ。主だった高木だけでも100本以上あるはずだ。

 4列配置の神宮外苑のシンボルでもあるいちょう並木も確認しようと向かう途中、小生と同年配と思われる杖を突いた男性と、男性を支えるように歩いていた女性に出会い、外苑の緑が伐採されることについてしばし話しあった。

 男性の方は、小生より1歳年上(75)の同じ多摩市民で「わたしは青山高校の出身。外苑の緑がどうなるか心配で見に来た。イチョウはかなり弱っているものもある」と話した。女性の方は奥さんで「ひどいわね。小池さん(都知事)は何を考えているのかしら」と首を傾げた。

 建国記念文庫エリアには工事用の囲いが設けられており、中に入ることはできなかった。計画ではエリア内の3,028本が伐採対象になっており、うち約9割は群生低木で、高木は23本とされている。

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野球場の「ご利用者以外立入禁止」スタンド看板

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御観兵榎(明治天皇がこのエノキの傍に居室を設けたとされる。現在は2代目とか)

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御観兵榎近くのドクダミの群生

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 イコモスの指摘と事業者の回答は膨大な量に及び、かなり専門的な文言もあるので、小生などの素人が読みこなすのは困難だが、以下、気掛かりなことを紹介する。

 事業者の説明資料18ページには、審議会委員の「一部のみ樹木を残した神宮外苑広場北側の保全エリアで『再生・復元』することは不可能です。本数としての残置量ではなく、質としての劣化を予測する必要があります。質を高める措置がない限り、一方向的な劣化であり、『保全エリア』とは言えません。そのための措置はどのように考えており、どの程度の効果を予測されているのでしょうか。」という問いに対して、回答では「改変する神宮外苑広場(建国記念文庫)の樹林地については、ラグビー場棟の建設によって樹林面積が縮小するため質の劣化は免れませんが、現況と同様に階層構造を有する樹林や(この「や」は明らかに誤字)を保全するとともに、改変によって開けた部分には林縁植物を移植し、林内の湿潤環境を保全して生態系を維持する計画としており、影響は限定的と考えます」となっている。(赤字は小生)

 委員は質の劣化を質しているのに対して、回答は「樹林面積が縮小するため質の劣化は免れません」と「質の劣化」を認めている。ここは「量の減少」ではないのか。また、「改変によって開けた部分には林縁植物を移植し、林内の湿潤環境を保全して生態系を維持する計画としており、影響は限定的」としているが、これは説明不足。「量は減少するが、質の劣化は限定的」とどうして言えないのか。

 また、41ページにはイコモスの「事業者がサイトで発表している緑の割合は、現状が約25%、開発後が約30%となっており、開発後、緑が増えるような錯覚をもたらす図面となっている。しかし、航空写真を判読し、精査を行い、草野球のエリアも追加すると、現況は32%、開発後は27%となる」「事業者がサイトで発表しているオープンスペースの割合は、現状が約21%、開発後が約44%となっており、開発後、オープンスペースが増えるような錯覚をもたらす図面となっている。しかし、軟式野球場は、災害時に極めて重要な役割を果たすオープンスペースであり、また、現在の秩父宮ラグビー場前の広場も貴重なオープンスペースである。このことから見直しを行った結果、現況は41%、開発後は43%となり、ほぼ変わらないことが明らかとなった」との指摘について、事業者は次のように回答している。

 「草野球のエリアも追加すると緑の割合が変化するとの指摘について、絵画館前は環境影響評価の範囲対象外ですが、現況の緑地における絵画館前の軟式野球場の緑については2018年の航空写真(google earth)を参照し、野球場の内野エリア等が土系舗装等であることを確認しております。『日本イコモス国内委員会』による算定では、土系舗装等の緑で被覆されていない部分も含んでいるため、現況の緑の割合に違いが生じておりますが、土系舗装等を含まない算定が正しいものと考えます」「オープンスペースの割合に絵画館前の軟式野球場や秩父宮ラグビー場前の広場を計上すべきとの指摘については、絵画館前は環境影響評価の範囲対象外ですが、公開空地とは東京都総合設計許可要綱においては、『計画建築物の敷地内の空地又は開放空間のうち、日常一般に公開される部分』とされており、当該記載を参考といたしております。オープンスペースの割合の算定では、道路を除く部分をその対象としているところですが、絵画館前の軟式野球場は、スポーツ施設として利用がされており、日常的に一般の人が広場等のオープンスペースとして利用する事ができないため、計上しておりません」

 みなさん、いかがか。これは、イコモスと事業者との「考え方や解釈の違い」ということになるのだろう。例えば軟式野球場。イコモスは「緑」「オーブスペース」として算出しており、前出の現存植生図でもグラウンドは土の部分以外は「芝生・草地」とされている(コブシ球場の内野は人工芝)。事業者はグラウンドは公開空地でもオープンスペースでもないとしてカウントしていない。

 これ以上立ち入らないが、地球温暖化防止や鳥や虫の視点からすれば算出手法やエリアを区切ることなどはどうでもいいことだ。緑の量と質が変わることで生態系にどのような影響を及ぼすのか、さらにまた開発後どうなるか注視する必要がありそうだ。

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いちょう並木

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「母」の枕詞のイチョウの「垂乳根」(通りがかりの若い女性グループに「皆さんはまだ若いから大丈夫でしょうし、わたしのかみさんは小さいので垂れていませんが、イチョウは成長するとこのようにおっぱいが垂れてくるんです」と声を掛けた。双方ギャハハハハ。垂乳根は雄株にもできるそうだ)

日比谷公園の樹木1,000本伐採は本当か 「日比谷公園整備計画」勉強会に参加して(2023/5/22)

「神宮外苑街づくりに都民の共感と参画を」都が再要請 事業者「真摯に受け止める」(2023/4/15)

神宮外苑に総力を注いだ「つば九郎ハウ巣」公開 オープンハウス(2022/10/10)

 

カテゴリ: 2023年度

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「日比谷公園再生整備計画」(都のホームページから) 

 都議会議員会派「グリーンな東京」(代表:漢人あきこ氏)は5月17日、「日比谷公園再生整備計画」勉強会を開催し、日比谷公園の管理所長を務めた髙橋裕一氏、日本庭園協会会長の高橋康夫氏、街路樹を守る会代表・愛みち子氏、神田警察通りのイチョウの伐採をめぐる住民訴訟で住民側の代理人を務める弁護士の山下幸夫氏がそれぞれの立場から、今秋に開始される公園整備工事で大量の樹木が伐採されることに異議を唱え、広く都民に訴えることを参加者に呼びかけた。勉強会場には定員いっぱいの30名が対面参加したほか、ZOOM参加者も多数いた。

 勉強会で髙橋裕一氏は、「『日比谷公園再生整備計画』によると、少なくとも450本以上~1000本の樹木が伐採される可能性が高い。2021年2~3月には『にれのき広場』のケヤキなど23本が伐採された。都は再生整備計画の実施は手順を踏んだとしているが、多くの一般市民には知らされていない。一般市民からは現在の日比谷公園の景観に不満だという声を聴かない。逆にこのままにしてほしいという声が強い」と訴えた。

 愛みち子氏は「街路樹・公園木・私有地の樹木、全て伐採の危機にある。公園審議会の審議委員は樹木を守れるのか。公開空地の樹木も設置時はチェックが入るが、その後多くはノーチェックで管理が悪く、不健全な樹木が多い」とみる。都市公園法11条では、①都市公園を損傷し、又は汚損すること②竹木を伐採し、または植物を採取することなどを禁止しているのに、「管理者(都)による伐採や破壊は許されるのか」と問題提起した。

 高橋康夫氏は、日比谷公園を設計し、日本庭園協会初代会長である本多静六の「首賭けイチョウ」のエピソードを交えながら、「山手公園、平和記念公園、哲学堂公園などのように日比谷公園を国指定の名勝にすべき。明治神宮外苑、京都府立大学敷地&植物園アリーナ計画など、最近の開発はまるで同時多発テロのようだ、目に余るものがある」と訴えた。

 弁護士の山下幸夫氏は、3つの樹木の保護に関わる裁判に、住民の立場で係わっている。千代田区・神田警察通りの案件では、イチョウの街路樹を伐採するのは、街づくりに参加する住民の権利・利益を損なうものだとし、一般論として認定されている「景観利益」を個別案件で立証するのは困難が伴うものの、行政側と対等の立場で争うことや、問題提起することに意義があると話した。他に、相模原の相原高校にあったクスノキの大木を守る裁判、神宮外苑の多数の樹木を守る裁判に取り組んでいる。現状、樹木を守る法律がなく、環境上の権利を主張しても決して強力ではないが、こうして繰り返し訴えることで変わっていくことを期待すると話した。

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左から髙橋裕一氏、愛氏、山下氏、漢人氏、高橋康夫氏

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日比谷公園(有楽門付近を望む)

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このあたりの樹木は保存されるのか(雲形池周辺)

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このあたりの樹木は保存されるのか(つつじ山周辺)

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 日比谷公園の再生整備計画の経緯について少し振り返ってみよう。

 東京都は2017年10月、学識経験者などで構成する「日比谷公園グランドデザイン検討会(委員長:進士五十八福井県立大学長)を設置し、翌年の2018年12月、「日比谷公園グランドデザイン〜5つの提言〜」をまとめ公表した。

 5つの提言とは①誰もが迎え入れられ、心地よく過ごせる上質な公園②まちと連携し、相乗的に新たな魅力を生み出す公園③歴史的、文化的価値を顕在化させた特別な公園④緑とオープンスペースのネットワーク形成の核となる公園⑤多様な主体と連携し、利用者の視点で運営する公園-というものだ。

 この提言を受け都は令和元年10月8日、東京都公園審議会(会長:髙梨雅明公園財団副理事長、日本公園緑地協会副会長)に諮問。令和3年3月25日の答申を経て、同年7月、都は「都立日比谷公園再生整備計画」を策定し、開園130周年を迎える令和15年(2033年)を目標に公園全体の再生に取り組んでいくとしている。

 整備計画では、日比谷公園の主な課題として①利便性が高い立地条件にあるが、広幅員道路や地下道からの階段等のバリアが存在し、まちと公園のアクセシビリティが良くない②皇居外苑等との回遊性や景観のつながりが弱い。樹木や施設が視線を遮って園内外の視認性が低い③日比谷公会堂から小音楽堂までのビスタ景観などを活かした空間利用(イベント利用等)ができていない④日比谷にまつわる文化・歴史資源の分類や整理がなされてこなかったことなどを上げ、再生整備では「のこす」「かえる」「つくる」3つの取り組みを進めていくとしている。

 計画の策定に当たっては令和2年12月8日~令和3年1月7日にかけて都民から意見を募集。テニスコートの存続を求める声62件など175件(うち1通は181名の署名付き、91件はHIROBAsに関するもの)の意見が寄せられている。主なものを以下に紹介する。

 「再生整備計画の考え方に大きく賛同。特に『時』『人』『空間』をつなぐ新たな公園の将来像は、周辺のまちと公園がオープンな空間の創出と、ワーカブルなネットワークにより、相乗的な魅力や賑わいの創出、Well-beingなどの新たな価値観をも具現化していくことに強く共感する」

 「歴史の風雪に耐えた老木の保護をお願いしたい。明るくして防犯のためにも見通しを良くすることは理解できるが、伐採は急がず、慎重な検討と都民に意見を聞くような進め方を希望する」

 「意欲的な整備計画の方針で、賑わいの創出は必要だが、特別な公園として現在の環境を維持、拡大することこそ第一であり、整備は慎重、最低限、漸進的を基本としてもらいたい」

 樹木の保存について都は「既存の樹木については、樹勢や樹形などの健全度を把握し、計画内容の実現に向けた植栽計画を策定し、整備や維持管理を行います。その際、樹木の現状や計画内容に応じ、移植や剪定、不健全木などの更新や落葉樹の植栽など適切に対応してまいります」としている。

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心字池

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心字池付近から「東京ミッドタウン日比谷」を望む

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第一花壇(ここも広場になるとか)

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日比谷茶廊(左)と旧日比谷公園事所(小生は被害にあっていないが、この辺りは「のぞき魔」の名所だった)

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このマーキングは何を意味するのか(小生は都民に知らせるべきだと思う)

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 「日比谷公園の歴史と文化をこよなく愛する会」の髙橋裕一氏が都の公表資料を基に独自に作成したチラシによると、伐採される樹木は、日比谷通りに面している163本(街路樹含む)、にれのき広場の23本(伐採済み)、芝庭広場(第二花壇)に面している園路の72本、大芝生広場の177本など435本にのぼり、このほか大音楽堂の建て替え、第一花壇の広場化などによりトータルで1,000本近くが伐採される可能性を指摘している。

 小生はこの伐採本数の多さにびっくりした。日比谷公園内には3,000本を超える中高木が植えられていると言われている。明治36年の公園開設当初から植えられているものも少なくないはずだから樹齢は120年超だ。そのうちの3分の1近くが伐採されるとなると一大事だ。都はまずこの部分を都民に公表すべきだ。

 都にも確認した。都は、工期を分けて行うので伐採する本数は分からないとし、今秋に工事を着工する第二花壇については近々伐採する樹木の本数を公表するとしている。

 愛氏の「公園審議会の審議委員は樹木を守れるのか」「管理者(都)による伐採や破壊は許されるのか」との問いかけは正鵠を射ていると小生も思う。

 都市公園法17条の2には「協議会において協議が調つた事項については、協議会の構成員(都)は、その協議の結果を尊重しなければならない」と明記されている。

 「尊重」とは結果として「聞き置く」「聞き流す」こととなっても違法性は問われないのか。そうであるならば、全国にどれほどの協議会が存在するか知らないが(多分数百)、その存在理由が問われるし、審議委員の声はどうなるのだろう。

 令和2年度の公園審議会の議事録を読んだ。「ニューヨークのセントラルパークとかにも劣らない公園にしたいと思います」という声があったが、具体的に樹木をどれほど伐採するかという重要な部分については一言も触れられていない。

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日比谷公会堂近くから第二花壇方面を望む(右は「東京ミッドタウン日比谷」)

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日比谷公会堂もなくなるのか(小生が11歳の1960年(昭和35年)、日比谷公会堂で演説中の当時の社会党委員長・浅沼稲次郎が17歳の少年・山口二矢に刺殺された事件はよく覚えている。60年安保もこの年で、何だか世の中が変わるような気がした)

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松本楼

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「首賭けイチョウ」(首吊りじゃないですよ)

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連絡協が設けられるのはこのあたりか(日比谷通りを挟んだ左側手前は帝国ホテル)

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髙橋氏によるとこの日比谷通り沿いの巨木も伐採されるとか

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 前段で紹介した進士氏は、2012年12月、「第59回NSRI都市・環境フォーラム」で「日比谷公園―110 年の公園生活史とパーク・マネジメント」と題する講演を行っており、次のように述べている。いくつか紹介する。

 「私は時々思うんです。審議会というのは意外と役に立っているのではないか。原案にない公園ができるんです。審議会メンバーはそれを意識しないとダメなんです。私は事務局のシナリオを読むだけということはしませんよ」

 「公園とは何か。『Parks for People』公園は人間のための空間です」

 「私は、歴史も研究を基調にしてきましたので、日比谷公園の歴史性の重さを強調しています。だからといって決してすべてにアンタッチャブルという考えではないんです。現代都市の中で生きている重要な経済空間、都民共有の財産としてそれが適切に生かされなければならないとも思っています。重要なことは、一方的に建築や開発に侵されていくのではなくて、むしろ堂々と日比谷公園の歴史的公園都市開発で強さを総合することで新しい環境を創造すべきだと思っています」

 「先ほど、(日比谷公園は)幕の内弁当だと申しました。さまざまなニーズに応える空間が要る。オープンな空間、クローズな空間。明るい空間、暗い空間。ハードあり、ソフトあり。水のある場所もあれば、歴史のある場所もある。それが揃っているのが日比谷公園です」

 「日比谷公園のオーセンティシティ。日比谷の構造、例えば大園路による地割りや、それぞれの空間の持つ特質、あるいは樹木そのものが110年たって立派に成長している。これは1本でも切らないようにしなければいけません」

 進士氏は以上のように、公園の歴史、樹木の重要性、開発優位の否定、をはっきりと発言している。日比谷公園の現計画との整合性はあるのか。

 進士氏は7月8日10:00~12:00に日比谷公園で行われる東京都公園協会主催の「緑と水のカレッジ講座」で本多静六について講義されるようだ。公園内の樹木が大量に伐採されることについてどのように話されるのだろうか。

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現況図(髙橋氏提供資料より)

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梶本銘木店「世界の優良銘木展示場」

昼過ぎだった。三井不動産の「三井リンクラボ新木場2」の取材の帰りだ。すぐそばに「世界の優良銘木展示場」と大書きされた建物があった。「展示場」なら、通りがかりの者でも見学させてもらえるかもしれないと思い、声を掛けたら快く応じてくれた。創業が昭和10年(1935年)という梶本銘木店だ。主任・伊部貴行氏に約1時間にわたって13階の展示場を見せていただき、説明してもらった。同社と伊部氏に感謝申し上げる。

これまで「銘木」はいくつか見学したことがあるが、これほど大規模なのは初めてだった。その規模に驚き、木の美しさを引き出す人知を超える匠の技に絶句した。展示されているものは無垢材から一枚板テーブル、無垢板、カウンター、犬矢来、名栗、床柱、茶室、端材にいたるまで〝ないものはない〟ほど揃っていた。同社の本業は、料亭、旅館、木材業者、設計事務所など向けの卸し専門だそうだが、一般の人も見学し、購入できるように展示しているとのことだった。

伊部氏がまた凄い。わが国の樹木でもっとも大きく成長するのはクスノキ(小生はスギ、イチョウだと思っていたが)、世界でもっとも硬くて比重が重いのは、水にも沈む南米産のリグナムバイタ、もっとも軽いのは模型などで使われるバルサ。

外国産材のことを「唐木(カラキ)」と呼びますが、これは中国が「唐」と呼ばれていた遣唐使の時代に中国を経由して諸外国から渡ってきたため総称して「唐木」と呼びます。唐木の三大銘木は紫檀、黒檀、鉄刀木(タガヤサン)で世界の三大銘木はマホガニー、チーク、ウォルナットと言われています。花梨はわれわれの知っているのど飴で有名な実の生るカリンはバラ科で、床柱などに用いられるものはマメ科で別の樹種です。「神様の時代の〇〇」というくらいに永い年月(1000年~2000)土中に埋もれていて掘り出された(ダムの工事など偶発的に発見されることがあります)杉やケヤキなどを総称して「神代○○(神代杉・神代欅)」と呼びます。屋久島産の杉で樹齢が1,000年以上の杉のみが屋久杉と呼ばれますが、土中に埋まっていたものと水中に沈んでいたものとでは表情が異なると言われています。欅の中で特に珍しい杢目を有した「玉杢」、さらにその玉杢が全体に出ている「如鱗杢(ジョリンモク)」が現れた農林水産大臣賞を受賞した欅の盤は必見ですetc伊部氏はまた、記者が尋ねる銘木の名前、特徴、価格などを瞬時に答えた。

無垢板・床柱などは値段が1,000万円を超えるものもあったが、人工乾燥ではなく5年、10年かけて自然乾燥させて製品にすると聞いて納得もした。賃料は都心と比べて破格の安さだろうが、都心のマンション単価は1,000万円をはるかに超えることを考えると、銘木1本が数百万、数千万円するのもよく分かる。〝キズモノ〟の人間は忌み嫌われた時代もあったが、木材は削れば新品になる。これも大きな価値だ。瘤も好まれる。白檀は値段が付けられない高価なものもある。

写真をかなり撮ったし、同社の了解を得てホームページに掲載されている画像を紹介する。とにかく見ていただきたい。人が住まない「新木場」にこんな素晴らしい施設があるとは夢にも思わなかった。

梶本銘木店は住所:江東区新木場11772、問い合わせは電話:03-3522-0766、またはメール:このメールアドレスはスパムボットから保護されています。閲覧するにはJavaScriptを有効にする必要があります。へ。

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左からカリン、シタン、シタン、ブビンガ、イチイ、コクタン、カリン、エンジュ…

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リグナムバイタ

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神代杉 

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土中にあったもの(左)と水中にあったものと推定される屋久杉

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「如鱗杢(ジョリンモク)」(右)

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カリン瘤

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「杮(こけら)」(左)と「柿(かき)」(記者は同じ字「柿」に見えた)

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茶室

目の前は海 賃貸ラボ&オフィス最大規模 三井不「リンクラボ新木場2」竣工(2023/5/19

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「にじいろ保育園高野台」

 三井ホームは5月19日、同社が施工し、同社として初めて「ZEB Ready」を取得した木造保育園「にじいろ保育園高野台」が竣工、4月に開園されたと発表した。

 物件は、練馬区高野台三丁目に位置。敷地面積は約529㎡、延床面積は約513㎡。運営事業者はライクキッズ。スケルトン工事(設計・施工)は三井ホーム。内装工事の設計監理は岩本建築デザイン事務所、施工は三井ホーム。構造は2階建て木造枠組壁工法。工期は2022年9月~2023年2月。

 「ZEB(Net Zero Energy Building)」は、消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した非住宅の建物で、「ZEB Ready」は基準一次エネルギー消費量を50%削減することでBELS評価により認証されるもの。

 スギの木(35年生)に換算すると約600本分に相当する炭素約150t-CO2を貯蔵し、約80帖の大空間や外観の丸い窓・カラフルな階段などで保育環境に配慮し、内装にはふんだんにヒノキを使用し、木質感により保育園児やスタッフへのリラックス効果を演出している。

 

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「三井リンクラボ新木場2」

 三井不動産は5月18日、「都心近接型」賃貸ラボ&オフィス事業施設「三井リンクラボ新木場2」が竣工したのに伴うメディア向け内覧会を行い、同時に「(仮称)三井リンクラボ新木場3」の開発を決定し、オフィス需要に応える拠点「ライフサイエンスハブ新木場」を駅前ビルに開設したと発表した。

 「新木場2」は、2021年に開設した「新木場1」に次ぐエリア2施設目で、延床面積はラボ&オフィス最大規模の約18,232㎡。様々な実験が可能なウェットラボ仕様としており、天井高は3000ミリ。初期費用を抑えて直ぐに入居できる70~100㎡を中心に、最大約4,000㎡まで対応する。高価な実験機器を共同利用できる共通機器室のほか研究用品、試薬などを購入できる無人コンビニ付きの「LINK-Stock」、ラウンジ、カフェ、会議室、外構・屋上テラスを備える。宿泊機能はないが、24時間利用も可能だ。

 物件は、東京メトロ有楽町線・東京臨海高速鉄道りんかい線・JR京葉線新木場駅から徒歩7、江東区新木場1丁目に位置する敷地面積約9,002㎡、延床面積約18,232㎡、総貸付面積約14,588㎡。デザイン監修はQuality Innovation United Ltd.、基本計画は日建設計、設計・監理・施工は竹中工務店。竣工は2023年4月28日。

 開発を決定した「(仮称)三井リンクラボ新木場3」は、新木場駅から徒歩6分、江東区新木場二丁目に位置する敷地面積約6,931㎡。2023年夏に着工し、2024年秋に竣工する予定。

 また、新木場駅近くの新木場センタービル7階に25㎡から対応可能なコンパクトオフィス・会議室「ライフサイエンスハブ新木場」を開設。「新木場3」と合わせエリア4施設体制となる。

 三井のラボ&オフィスは、一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)との協働や、入居企業を支援する三井のラボ&オフィスの新サービス「三井リンクラボ オープンイノベーション支援プログラム」などを推進することで、「コミュニティ」の構築、「場」の整備、「資金」の提供によりライフサイエンス領域のエコシステムの構築を加速させようという事業。

 「都心近接型」と「シーズ近接型」の2つのコンセプトで展開しており、「都心近接型」は都心に集積する大学や医療機関などライフサイエンス領域のキープレイヤーとの共同研究、シーズの事業化、異業種企業とのコラボレーションを通じて、オープンイノベーションの創出を図るとともに、職住近接を可能にすることで、ワーカーの研究環境を整えているのが特徴。今回の施設は2020年竣工の「葛西」、2021年竣工の「新木場1」に続いて3施設目。2024年夏には大阪市の「中之島」、秋には「新木場3」が竣工する予定。

 一方の「シーズ近接型」は、アカデミアや研究施設・先端医療施設などに近接するもので、2021年11月に第1弾「柏の葉1」が竣工している。今後も順次開設する予定。

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「三井リンクラボ新木場2」(海側から)

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目の前は海

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共通機器室

◇        ◆     ◇

 面積約151ha。皇居をはるかに上回る広大な広さでありながら、平成11年11月にそれまでの用途地域・工業専用地域を準工業地域に改め、なおかつ地区計画で「木材関連をはじめとする多様な生産・流通機能と商業・業務機能などが共存できる複合地区の形成を図る」目的以外の住宅や風俗系建築物、廃棄物処理場の建築を不可とした。駅周辺にはホテルや飲食店はあるが、遊興施設はなく、コンビニすらもほとんどない。それが「新木場」だ。

 そんなエリアに、ライフサイエンス施設を設ける三井不動産の発想力の凄さに舌を巻くほかない。内覧会では、入居テナントの一つ、未来医療子どもボランティアネットワーク「キッズウェル・バイオ(ChiVoNet)」が紹介されたのだが、研究テーマは「再生医療」というからこれまた凄い。尻尾を斬られてもまた生えてくるトカゲなどの「再生する力」は人間にもあり、それを「再生医療」に生かそうと、乳歯の提供を受けて培養増殖を行っているとのことだった。

 施設担当者は入居を決断した決め手について「第一は都心に近い立地。当社の本社は茅場町だが、ここは20分の距離圏。もう一つは人材の確保。共通の機器を安価で借りることができる」などと話した。

 都心の喧騒から逃れ、様々な誘惑にも惑わされることなく、時には目の前の海を眺め仕事に打ち込める環境は、研究者にとって最高なのだろう。購入すればマンション1戸分もする機器が共通機器室にはいくつも備えられていた。

 真逆の世界に生きる小生などは理解できないのだが…。 

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「(仮称)三井リンクラボ新木場3」    

様々な目線でかつてない試み実現 東大・藤田誠卓越教授 「三井リンクラボ柏の葉1」(2022/6/22)

第6のアセットクラス「三井のラボ&オフィス」 住宅不可の新木場に開業(2021/7/8)

住宅不可の151ha〝処女地〟新木場にライフサイエンス拠点 三井不の新事業(2019/6/1)

 

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吉田氏(ザ・オークラ東京で)

 不動産協会は5月17日、定時総会後に「設立60周年祝賀会」を開催し、冒頭、新しい理事長に就任した吉田淳一氏(三菱地所会長)が次のように挨拶した。同協会のこの種のリアルでのイベントは4年ぶりで、約450名が参加した。

◇        ◆     ◇

 本日(17日)、不動産協会理事長に就任しました三菱地所の吉田でございます。

 不動産協会設立60周年祝賀会の開会にあたり、一言ご挨拶申し上げます。

 本日は、公務ご多忙中にもかかわらず、斉藤鉄夫国土交通大臣をはじめ関係省庁の幹部の皆様、また日頃からご支援、ご協力をいただいております友好団体や報道関係の皆様、多数のご出席をいただき、まことにありがとうございます。

 不動産協会は、この度設立60周年を迎えることができ、関係する皆様方のご支援に感謝申し上げます。不動産協会は、昭和38年3月に社団法人として発足しました。当時のわが国は、高度経済成長がスタートし、人口や産業の都市への集中に伴い、都市が大きく拡大し、不動産開発が活発になった時代でした。会員会社が行う事業の環境整備に資する活動をより効果的に展開するために、それまで任意団体として活動してきた不動産協会を社団法人化し、不動産事業に係る法制度や税制についての調査・研究や政策提言等の取組みを本格化させました。

 その後、昭和50年代の安定成長期を経て、昭和の終わりから平成にかけてのバブル期とその崩壊により、右肩上がりの時代は終焉しました。平成に入ってからは「失われた20年」といわれる経済の低迷期を経て、アベノミクスによる経済回復がなされました。次には、コロナ禍により経済が落ち込みましたが、今はコロナとの共存により経済活動が正常化し、新たな飛躍に向けてのスタートを迎えています。そうした中で、不動産業は時代のニーズに応じ、魅力的なまちづくりや良質な住宅の供給により、都市再生の推進や優れた住環境の創出などを通じて、日本経済の発展に寄与してきました。

 ロシアによるウクライナ侵攻は、いまだ終結の兆しがなく長期化しており、エネルギーや原材料をはじめ、インフレの進行に拍車がかかっています。金利の見通し、海外経済の下振れ懸念など、経済の先行きについては不透明な状況にあります。こうした中で、わが国の経済を力強い成長に導くためには、住宅・都市分野における事業推進を強力に図っていくことが不可欠です。

 国際的な脱炭素化の動きが加速し、わが国でも2050年カーボンニュートラルの実現に向けたGXを促進する様々な施策が進められており、まちづくりにおいても炭素中立型の経済社会の実現に向けた取組みをしっかりと行うことが求められています。

 環境政策においては、経済合理性・社会課題解決の同時実現が不可欠であり、GX推進に向けた加速を後押しする環境整備に取り組むことが大切です。

 都市政策については、国際競争力強化を牽引する新たな都市再生を推進し、都市と地方のリンケージや好循環を生み出すために、質の高い都市緑地創出の推進、面的エネルギーネットワークの支援促進等が求められます。

 ダイバーシティ・インクルージョンなまちづくりを推進するために、ウォーカブルな空間形成を図り、多様な空間の一体的な利活用、DX等の活用による持続可能なエリアマネジメントの着実な進展、少子化・子育てへの対応等に向けた諸課題への取組みが必要です。

 住宅政策については、安心安全でサステナブルな暮らしの実現に向け、良質な住宅ストックの形成・循環のために、ZEHなど環境性能の高い住宅の供給支援が重要です。

 併せて、区分所有法改正による合意形成の円滑化など、老朽化したマンションの建替えの促進、適正な管理の実現を図る取組みの促進も求められます。

 また、防災性能の向上に向けた対応を行うほか、子育て世帯などへの支援措置の充実を図るとともに、在宅勤務等の新しい働き方への対応に関する支援が必要です。

 不動産協会としては、これを機にさらなる活動の充実を目指し、わが国の経済・社会の発展に向けて貢献できるよう、全力を尽くしてまいります。

◇        ◆     ◇

 総会では、前理事長の菰田正信氏(三井不動産会長)は会長に、新たな副理事長に松尾大作氏(野村不動産社長)が、副理事長の沓掛英二氏(野村不動産取締役)が顧問にそれぞれ就任した。

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新たなスタートへカンパーイ!

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 大手デベロッパーの2023年3月期の決算が出そろったので、各社の不動産流通事業の売上高、営業利益、取扱件数、取扱高、単価を別表にまとめてみた。各社が公表している数字をそのまま集計したもので間違っていないと思うが、なにしろ記者は不動産仲介事業をほとんど取材したことがない。間違っていたら謝るほかないことを最初に断っておく。

 まず、売上高。トップは東急リバブルで1,642億円。前期より11.9%伸ばした。以下、三井不動産リアルティ、住友不動産販売の順。営業利益も東急リバブルがトップで、前期より29.1%増の337億円。ただ、東急リバブルは自社開発マンションも手掛けているので、単純に売上高=手数料収入ではないはずだ。

 取扱件数トップは39,106件の三井不動産リアルティ。前期より5.0%減らしたが、これで37年間トップの座を占めたことになるのか。2位は住友不動産販売で、前期の38,114件から8.5%減の34,906件。もし前期より3%増やしていたら、首位に躍り出たのに…。3位は29,577件の東急リバブル。前期より2.9%増やした。4位の野村不動産​ソリューションズは9,985件。上位3社にはかなり差を付けられている。三菱地所グループの仲介会社は三菱地所ハウスネットもあるが、データは三菱地所リアルエステートサービスのみ。

 取扱高は三井不動産リアルティがトップで、前期比1.4%増の19,184億円。2位は東急リバブルで、前期比15.4%増の18,213億円。このままの勢いなら、今期は三井不動産リアルティを抜く可能性がありそうだ。3位の住友不動産販売は13,961億円で、大手5社のなかで唯一前期より減らした。件数では上位3社に大きく引き離されている野村不動産​ソリューションズは18.7%増の10,603億円で、住友不動産販売を追っている。

 取扱高を取扱件数で割った1件当たりの単価が興味深い。取扱件数や取扱高と全く逆だ。もっとも単価が高いのは三菱地所リアルエステートサービスで、前期より5,233万円伸ばして29,732万円となり、他社を大きく引き離している。2位の野村不動産​ソリューションズも前期比1,757万円増の10,619万円。3位は前期比669万円増の東急リバブルで6,158万円。3位は4,906万円の三井不動産リアルティ、4位が4,000万円の住友不動産販売。

 どうしてこのような結果になるのか記者はよく分からないのだが、仲介戦略の違いか。三井と住友は全国展開し、東急と野村は大都市圏に絞り、三菱はリテールよりホールセールに力をいれているためか。三井も住友もホールセールに注力すればできないはずはないと思うのだが…。仲介ではなく直接取引を行っているからなのか。

 仲介実績については、業界紙が毎年5月末に数十社を対象にしたアンケート調査によるランキングを発表している。どのような結果になるか注目したい。


 

 

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「体感すまいパーク柏」事務所棟

 ポラスグループのポラテックは4月28日、千葉県柏市の「体感すまいパーク柏」内に完成した常磐事業支店の事務所をメディアに公開した。木造軸組み工法2階建て延べ床面積約876㎡で、住宅用の一般流通材と同社のプレカット工場で生産した構造部材のみで建設した、工期5か月、建築費110万円/坪の現し内装仕上げが特徴。

 事務所は、東武アーバンパークライン豊四季駅から車で約7分、柏市旭町8丁目に位置する敷地面積約1.544㎡、木造軸組み工法2階建て延べ床面積876.94㎡。1階は商談用ブース7室など、2階は同社グループのアフターメンテナンスなどを手掛ける住宅品質保証の事務所。天井高は基本3m、最大4.5m。木造現し仕上げ。着工は昨年11月、竣工は今年4月。

 ポラテック取締役・橋本裕一氏は「『体感すまいパーク柏』は2018年にオープンしたが、敷地が1,000㎡を超えると開発行為となり、許可が下りるまで時間がかかるので、事務所などを除いた4棟でスタートした。今回の事務所は開発行為に基づいて建設したもので、当社プレカット工場生産した構造部材と、一般に住宅用として流通しているものを使用して完成させた。これまではお客さんとの商談スペースが十分とれなかった難点を解消し、2階に新築とアフターを担当する住宅品質保証が入居するので、柏・松戸の事業エリアをフォローする拠点となる。他のエリアでも同様の事業を展開していく」と語った。

 「体感すまいパーク柏」は2018年10月、「体感すまいパーク船橋」とともに開設。当初は4棟だったが、今年1月には新たなモデルハウス「和美庵(わびあん)」を完成させており全5棟体制となる。

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橋本氏

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エントランス部分

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2階事務所

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2階天井

◇        ◆     ◇

 内覧会では、橋本氏のほか3名の方が設計、構造、非住宅木造施設などについて説明した。「有限要素法による基礎構造の計算で基礎梁・地中梁を削減した」など専門的なフレーズも飛び出し、素人の記者などはちんぷんかんだったが、現しの快適性は言うまでもなく、同社の木造建築力の凄さを少しは理解した。

 第一は、工期の短さと建築費の安さだ。事務所は間口約37m×奥行き約13mだ。単純比較はできないにしろ、同社の30坪(100㎡)の分譲住宅の工期は100日弱というから、その8倍以上もある事務所の工期の短さに驚いた。

 S造との単価差は分からないが、国土交通省の令和4年度の建築着工統計によると、事務所の工事予定額は木造が64.2万円/坪、S造が121.9万円/坪だ。いかに単価も安いかが分かる。木造はCO2削減、SDGs対応のほか、快適性、固定資産税、減価償却費などの節税効果も大きい。

 二つ目は、2階の床仕上げだ。通常の事務所フロアはタイルやカーペット敷きだが、パナソニックの置敷きタイプOAフロア(フリーアクセスフロア)を採用、突板フローリング仕上げとなっている。施工がらくで着脱、配線、歩行性に優れているという。歩くと、マンションの直床よりは固いが、二重床仕上げより柔らかく感じる。(マンションには採用できないのか)

 三つ目は、特注のYKK APのビル用サッシを採用し、敷地北側に走る東武線の線路の音を遮断するため、旭硝子の遮音・遮熱性能が高い額縁ガラスを採用していることだ。2階の事務所内では音はほとんど聞こえなかった。この額縁ガラスはマンションでも見学したことがある。意匠性にも優れている。

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パナソニックの置敷きタイプOAフロア(中空部分は配線スペース)

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1階の商談ブース(デスクトップはイチョウ、ヒノキ、カバザクラ、タブ、エノキ、スギ、モミノキなどの銘板で、床、壁、天井も本物の木が採用されている)

〝家に帰りたくない〟宿泊体験した社員 ポラス「体感すまいパーク越谷」出足上々(2022/1/8)

〝総合展示場からの脱却〟に拍手喝さい ポラスが宿泊可能な単独展示場 開設(2018/10/5)
 

 

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