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積水ハウスのブース

 大学生とエコ・ファースト企業との対話イベント「エコ・ファースト サステナブルカフェ2017」が10月14日行われた。学生にとって企業と直接ディスカッションする絶好の機会となり、企業は自社の環境活動が学生の視点でどのように評価されるのかを知る貴重な場であることから企画されたもの。今回が3回目。

 参加した企業は、「エコ・ファースト推進協議会」に加入する40社のうち12社、学生は17大学32名。「日本の美しい環境を残すためには?」をテーマに4時間以上、6~7人のグループに分かれラウンドテーブルディスカッションが行なわれ、2050年のわが国の近未来像を描いた。

 今回は大学生が主体となって活動するNPO法人エコ・リーグと共催で開催された。大阪でも12月2日に行われる。

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戸田建設(左)とアジア航測のブース

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 参加した企業はライオン、積水ハウス、電通、戸田建設、アジア航測、大成建設、ワタミ、クボタ、LIXIL、全日空、キリンビール、ブリヂストン(順不同)で、環境省もオブザーバーとして参加した。

 企業が学生に環境活動などを説明する懇談会が始まり、記者は緊張した。各企業・環境省の13のブースに用意された椅子は各3脚。1回につき10分、全6回行われた。学生が企業を自由に選べるもので、学生が集まらない企業も出てくるのではないかと不安になった。

 嬉しいことにそれは杞憂に終わった。さすが学生さん。閑古鳥が鳴かないよう忖度したのかまんべんなく各企業を訪ねていた。

 話の内容を聞こうと各ブースを回った。しかし、総勢70名近くが一度に話すので声が共鳴して、耳が遠くなった記者はほとんど聞き取れなかった。

 1つだけ、環境省のブースはよく聞こえた。理由は簡単。年寄りは高音が聞き取りづらくなるので、バリトンの同省担当者の声はよく聞こえたということに過ぎない。同省の活動を完ぺきに伝えたのではないか。

 何とか苦労して聞き取れたものを紹介すると、学生の鋭い質問が飛んだのが戸田建設のブース。同社は国内初となる浮体式洋上風力発電設備を実用化、運転を開始し、今後も力を入れることが報じられている。

 同社担当者は「風力発電には漁業権などの問題もあるが、設備が漁礁になることも期待したい」と話した。すかさず男子学生は「設備が発する低周波は魚(=人間)への影響はないのか」と質問した。これには記者も絶句した。風力発電は結構だが、情報開示が圧倒的に少ないのも事実だ。

 積水ハウスに対しては、「里山や空き家はビジネスになっているのか」の質問があったという。「里山」はともかく、「空き家ビジネス」については同社担当者も返答できなかったのではないか。業界関係者みんな頭を悩ませている。

 これら学生さんの鋭い指摘に驚き、安心もした。〝疑ってかかれ〟これが基本だ。この考えを基本にすればわが国の将来は明るい。彼らに未来を託せる。

 面白かったのはアジア航測。担当者は「(絶滅危惧種の)サシバはマンション(巣)とレストラン(餌)の近いところを好む」と説明した。なるほど、サシバも人間と一緒〝食住近接〟を好むようだ。

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 企業と学生が情報を共有するためのコミュニケーションタイムが最高に面白かった。最初に主催者から提案されたのは「日本の残したい環境」「よくしたい環境」を参加者全員がカードに記すことだった。

 出るわ出るわ。ゴミのない街、治安がいい街、美しい里山、歴史的建造物、森林公園、田園風景、観光資源・景観、生物環境、商店街、門前町、井戸端、あぜ道、農作物の自給、離島、竹林、蛍、海岸林、エアコンいらず、光熱費ゼロ、農業・林業の再生、コンパクトシティ、温泉、清流、鎌倉、食品ロス、保育シェア、紅葉、花火…中にはわが業界に痛烈な皮肉を込めた「庭のある家に住みたい」や「日本酒」まであった。

 もっとも多かったのは「里山」で10数枚の支持を集めた。これは積水ハウスが事前運動をし、参加者に鼻薬をかがせたのではないかと思ったが、同社広報マンは「いえいえ、そんなことは一切やっておりません」と完全否定した。

 これらのキーワードを整理し、最終課題である2050年のわが国の近未来像を描くことが最終課題として示された。

 ここで参加者の手が止まり、口が閉じられた。自らが書き出した「エアコンいらず」「農業・林業の再生」「農作物の自給」など困難な課題にどのような解決策を示すかが問われるわけだから、ハタと困るのは当然だ。

 豊かさの中に浸りきっているおじさんが多数派のチームは自家撞着に陥り、「このまま進めばマルクス、レーニン、トロツキーの共産主義ではないか」と自嘲気味につぶやいた。

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 この難問に果敢に挑戦したチームが2つあった。一つは「不要なものを減らし、循環型社会を目指す分かち合い社会」の実現を導き出した。〝過剰包装が多い〟〝不要なものを減らす(罰則を設ける)〟〝多少の不便は我慢する〟などと具体的な提案を行った。

 もう一つのチームは、〝分かち合いの社会〟を実現するために都市計画、日々の暮らし、コミュニティの観点から様々な解決策、提案を行った。〝モノが少なくても満足できるミニマリスト〟〝Fun to Share〟を呼び掛けた。都市計画まで踏み込んだのはさすがだ。

 双方に共通していたのは、具体的な問題に言及しており、女性が多数派を占めるか主導権を握っていたことだ。生き方や心の問題まで踏み込んでいた。観念的な言辞が目立った、どちらかといえば男性が中心のチームと対照的だった。

 各チームとも目立ったのは、「市民」を中心に据えていることだった。何事につけ〝産官学連携〟は必須要件だと考えるが、ここに市民を加えることもこれからの社会には重要なのだろうと実感させられた。

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会場となったキリンビール本社会議室(参加者には飲料水が提供された)

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 参加者の「残したい環境」一番人気になった里山について指摘しておきたい。

 里山は、積水ハウスが20年近くも前から「5本の樹計画」に力を注ぎ、藻谷浩介・NHK広島取材班「里山資本主義」(角川書店)が2年前、爆発的にヒットした。関心を呼んでいるのは結構なことだ。

 記者も里山の再生は喫緊の課題だと思う。しかし、言うは易く行うは難し。全国の里山は危機的な状況にある。電気柵に触れて人間が死亡した事故が報じられたが、里山はサル、イノシシ、シカなどの棲家・楽園と化し、まるで人間が電気柵に保護されているような錯覚に陥る。

 彼らが運んでくる山ヒルの恐ろしさは経験しないとわからない。ここでは書かないが、ぜひ古山高麗雄「フーコン戦記」を読んでいただきたい。東南アジアとわが国のヒルは種類が違うだろうが、読むと卒倒しそうな恐怖に襲われる。ついでに丸山健二「田舎暮らしに殺されない法」もどうぞ。

 山ヒルだけでない。いま問題になっているマダニ、スズメバチ、マムシなども里山を徘徊している。山頂の風力発電は生態系を狂わせ、低周波は人体への影響も取りざたされている。彼らと共生するのは絵空事と記者は考えている。

 さらに言えば、われわれは物質的な豊かさを手に入れるのと引き換えに、生態系を破壊し、都市と農村の格差を増大させ、文化も破壊し、人間性すら狂わそうとしている。そうした一面を考えないといけない。

 「不要なものは捨てる」のも結構(記者のような老人は〝不要な〟存在に判定される時代が来ないことを祈るばかりだ)だが、かつての薪炭時代に逆戻りはできない。

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カテゴリ: 2017年度

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「平成29年度 住生活月間シンポジウム」(埼玉コルソで)

 埼玉県住まいづくり協議会は10月13日、「平成29年度 住生活月間シンポジウム」を開催。第一部として東洋大学教授・野澤千絵氏が「老いる家 崩れる街~住宅過剰社会から脱却に向けて~」と題し、第二部として慶應義塾大学教授・伊香賀俊治氏が「幼児から高齢者まで健康に過ごせる暖かな木の住まいの調査速報」をテーマにそれぞれ講演した。約250名の関係者・市民が参加した。

 埼玉県住まいづくり協議会は、「埼玉を創る!埼玉で頑張る!」をスローガンに、県内の民間住宅産業関連企業と行政・公共団体とが一体となり、優良な住宅供給を行うことで、県民の生活基盤の安定とその住環境の向上を図ることを目的に平成8年10月に設立された。毎年、この種のシンポジウムを行っている。

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 参加者に感想を聞いた。「マイクの音が聞きづらく、耳が痛かった。内容も難しい」「3411条例は個人的にもテーマ」「空き家問題に関心がある。ビジネスモデルができるといい」「自治体の都市計画担当なので参考になった。私どもも調整区域の規制強化に切り替えられない問題を抱えている」「うちの近くにも空き家があり、壊されているが、その後どうなるのか気になる」「私は50歳。82歳の父親の実家を相続することになったらどうするか心配」などの声が聞かれた。

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 こんなことは書きたくないが、主催者も講演者も考えてほしいから書く。いったい誰向けのシンポジウムなのかということだ。参加者は協議会メンバーが中心だろうが、一般にも開放している。ならば、一般の人でも理解できるような内容にすべきだ。

 最初に話された野澤氏のテーマは一般の人でも興味があるはずだ。しかし、その内容はかなり専門的で、「市街化調整区域」「都市計画法第34条11号」「線引き」「空き家トリアージュ」などの文言が入ったパワーポイント・画像が約1時間の間に30点くらい示された。1点につき約2分だ。これらを野澤氏独特の副詞の語尾を上げる話し方で機関銃のようにまくしたてられると理解不能、消化不良になる。都市計画法を一般の人にわかってもらうためには1時間あっても足らないはずだ。

 記者は埼玉県の調整区域開発について取材したことがあるが、首都圏では間違いなくもっとも規制が緩やかな県だと思う。なぜそうなのか、深く追究し市民に知らせることも学者の役割ではないか。

 野澤氏のフィールドワークを基にした川越市や羽生市などの都市計画、規制緩和に関する問題提起はすごく鋭く参考になったが、リップサービスが過ぎた。遅れた県の都市計画を徹底して掘り下げ、協議会や県や市に遠慮せず話してほしかった。

 メディアにも一言。以前は弁当付きの協議会会長との会見に10人を超える記者が集まっていた。この日は片手に余る、参加するのが恥ずかしくなるほどの少数。これは何だ。埼玉県を応援するためにもちゃんと出席して、言うべきことをいうべきだ。

 伊香賀氏の講演は、あるいは一般の人向けに話されたのかもしれないが分かりやすかった(記者は取材の関係で途中退席)。参考までに他のイベントで講演されたときの記事を添付する。

内装木質化は熟睡長く、知的労働も向上 慶大・伊香賀教授が実証(2016/3/22)

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「ツーバイフォー6階建て実験棟プロジェクト報告会」(発明会館ホールで)

 日本ツーバイフォー建築協会は10月12日、「ツーバイフォー6階建て実験棟プロジェクト報告会」を行った。昨年3月、「ツーバイフォー6階建て実験棟」を建設し、その後国立研究開発法人・建築研究所と共同で耐震・耐火構造、施工性などの検証を進めてきており、今回はその成果、課題などを報告するもの。定員200名の会場は関係者らであふれ、関心の高さをうかがわせた。

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 行儀が悪い記者などメディア関係者をくぎ付けにする意図はなかったのだろうが、案内された席は最前列だった。横見、居眠りしたら失礼だと思い、辛抱して話を聞いた。

 テーマは、「環境振動」「施工検証」「耐力壁の開発」などそれぞれ魅力的なものだった。しかし、これが実に難解。建築に素人の記者などちんぷんかんぷん。

 例えばこうだ。「せっこうボードは3,208枚」「積載重量は1回あたり30枚540キロ」「総施工人工の30%、建物の総重量119トンのうち実に43%がボード」「6階床では、基礎近傍地盤と比べて12.8倍から14.7倍の増幅が発生している」「常時微動記録には数十メートル離れた位置にある道路交通による振動も記録された」「構造的に問題となるレベルとは考えられないが、環境振動レベルでは注意が必要」

 つまり、木造建築物でも外壁は「耐火・防火」基準を満たすために大量のせっこうボードが必要で、職人確保に大変であり、道路交通や家電製品などが発する微音・微震は共振するから注意が必要とのことらしい。

 参加者にも感想を聞いた。ある戸建ての研究開発を行っている人は「内容は言えない。(環境振動はとても興味深いが)実はそれを研究している」と興味を示した。

 別の大手不動産流通会社の方は「欧米と比べ我が国は木造の中層化の流れに大きく立ち遅れている。今後中層化の流れは加速するはず」と木造中層化の進展に注目していた。

 また戸建てメーカーの商品開発担当者は「われわれも耐火・防火エリアでの住宅・非住宅の拡大を狙っている。せっこうボードの問題は考えないといけない。報告会は、構造担当の建築士でもよくわからない人が多いのではないか」と話した。

 記者の持論である「木造は現しが美しい。耐火・防火の基準を緩和すべき」と質問したが、参加者は「現しはいいが、法律は守らないといけない」と規制緩和には同意しなかった。

CLTとツーバイフォー6階建て実験棟が完成(2016/4/7)

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「ジョンソンタウン」(ジョンソンタウン提供)

 約80年の歴史がある街、埼玉県入間市東町の「ジョンソンタウン」が今年の日本建築学会賞(業績)、第11回キッズデザイン賞優秀賞(少子化対策担当大臣賞)をそれぞれ受賞した。一昨年の平成27年には国土交通省の都市景観大賞で「都市空間部門」大賞(国土交通大臣賞)も受賞している。西武池袋線入間市駅から徒歩18分、敷地面積は約25,000㎡(約7,500坪)。平屋が中心の賃貸・店舗併用住宅79棟が建ち、130世帯210人が暮らす。稼働率が95%にも達する〝奇跡の街〟だ。

 この街のどこが素晴らしいのか、どうして80年も生き延びられたのか、大規模ニュータウンの再生・活性化やコミュニティ形成、空き家対策のヒントになるか-これらを自分の目で確かめるのが取材の目的だった。キッズデザイン賞の授賞式で「ジョンソンタウン」を経営する磯野商会の常務・磯野章雄氏(41、以下章雄氏)に取材を申し込み、今回実現した。

 「私は昭和51年生まれ。53年に創業者である祖父が82歳で亡くなったので、祖父の記憶はまったくありません。祖父の三男で私の父がいまの社長。父は平成8年、ある大手電機メーカーを58歳で退職し、祖父の長男(伯父)から事業を引き継ぎました。79歳の現在も元気で『お前(章雄氏)にはまだ任せられない。死ぬまで現役だ』と頑張っています。現役で仕事をしていることが元気の源だと思います。私は平成13年入社。この街の繁栄と発展に引き続き取り組んでいきたい」章雄氏はこう話す。

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「ジョンソンタウン」イメージ(ジョンソンタウン提供)

 少し長くなり繰り返しになるが、この街の歴史をたどる。

 創業は昭和11年。製紙会社の農園20万坪を磯野義雄氏(以下義雄氏)が競落し、「磯野農園」を開業したのに始まる。その翌年、日中戦争が勃発。義雄氏の夢であった農園経営は戦争の波に飲み込まれる。昭和13年、陸軍航空士官学校の将校住宅「磯野住宅」50戸を建設して賃貸。

 終戦後の農地解放で20万坪あった土地は約7,500坪に縮小。米軍の駐留-朝鮮戦争をきっかけに「磯野住宅」のほかに「米軍ハウス」24棟を建設、日本人と米国軍人が同じ敷地内で暮らす街となる。昭和53年、米軍基地は日本に返還、自衛隊入間基地となり、「米軍ハウス」は日本人向けに賃貸されるようになる。

 その後、義雄氏の死去に伴い、その長男が事業を引き継いだが、街は荒廃・スラム化が進行する。平成8年、義雄氏の三男で現社長の磯野達雄氏(79、以下達雄氏)が事業を引き継ぎ、街の復興・活性化に着手。約15年かけて米軍ハウスを改修、「平成ハウス」35棟を建設するなどして現在に至る。平成21年、街の名称もかつての米軍基地の名称にちなみ「磯野住宅」から「ジョンソンタウン」へ変更した。

 用途地域は第一種中高層住居専用地域と第二種住居地域。いずれも建蔽率・容積率は60%・200%。

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上空からの街なみ(ジョンソンタウン提供)

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街並み(ジョンソンタウン提供)

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 街並みは確かにわれわれが日常目にするそれとは異なっている。住宅・店舗のほとんどがトラス構造の平屋の木造で、しかも下見板張り、ペンキ塗り仕上げ、西部劇に出てくるようなウッドデッキ、カラフルな英語表記の看板…このような風景はまずないはずだ。

 なぜこのような異質な環境が保持されてきたのか。最大の理由は分譲ではなく賃貸であることだと考えた。章雄氏も否定しなかった。「売ってくださいという方がたくさんいらしたが、全て断ってきた。1区画40数坪から50坪くらいで、不動産活用としての効率は悪いですが、祖父が残してくれた土地。売り払ったらこの環境は守れない。今後も売却するつもりはありません」ときっぱり。

 住宅の面積は20~30坪だが、章雄氏が話したように1区画の面積が大きいのも、豊かな緑と環境を保持し続けてきた要因の一つだろう。ミニ区画だったらこうはならない。

 低層住宅と店舗が混在する街は他にない。店舗は全部で55店。内訳は飲食が20、物販が20、その他サービスが15。章雄氏は「現在の店舗数は少し過剰ではないか?と考えている。住まいと店舗のバランスを見て、今後調整していきたい」と将来の算盤をはじく。

 入居者の属性については、「30~40代が多く、職業はサラリーマンよりも、インターネットがあれば仕事ができるデザイナー、カメラマン、ライターなどが多い」という。「最寄駅からのバス路線がないので、バスの誘致を検討している」だそうだ。

 樹木が多く樹種が豊富なのも大きな特徴だ。章雄氏が「父は木を大事にしていて、タウンに生えているどんな木でも『切るな』と言われている」と話したが、それを裏付けるかのように、テラスの真ん中にでんと座り、屋根を突き抜けている大きなヒノキもあった。樹種はスギ、ヒノキ、ヒバ、クリ、シュロ、キリ、ツバキ、マツ、サクラ、モクレン、キンモクセイ、カキ、オリーブ…樹齢は間違いなく数十年から百年以上だ。圧巻というほかない。

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飲食店「カフェ&ダイニング ボンボンウェポン」

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 「3年前に都内から引っ越してきたのですが、人工的でない景観が気に入りました。都内ではどこに行っても車などの音がしますが、ここは音が消える。これもいいですね」飲食店「east village OTHER」のオーナー・吉田政憲氏(43)がこう語った。

 タバコを吸いたくて、コーヒーを飲みたくてこの店に入ったのは午後3時過ぎ。店内には壁時計が掛かっていたが、時間は9時20分で止っていた。吉田氏は「アメリカ製で電池が動かないんです」と笑ったが、ひょっとしたら時間がゆったり流れる雰囲気を表現する演出かもしれない。

 この店をよく利用するという大学生3人組も「(木の)テラスがあって雰囲気がいい」「駅に遠いという不便さより、ほかにない価値がここにはある」「女の子に好かれるんです。犬の散歩もできるしショッピングもできる」と話した。

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飲食店「イーストレッジ アザー」(高さ数メートルのキンモクセイが印象的。右の写真の左から3人目が吉田氏、他は利用客)

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テラスの屋根を突き抜けるヒノキ

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 章雄氏から祖父や父の話を聞きながら、記者は親-子-孫の3世代を描いた小説を考えた。真っ先に浮かんだのはマルケス「百年の孤独」だ。ケン・フォレット「永遠の始まり」、佐々木譲「警官の血」、さらには歴史的名著パール・バック「大地」、ロマン・ローラン「ジャン・クリストフ」など…。

 「ジョンソンタウン」は戦争に翻弄される祖父、その資産を引き継ぐ子、孫の思い入れ、葛藤がお世辞にもきれいと言えない街並みに反映されている。農地解放で20万坪の土地のほとんどを買収されたとき義雄氏は何を考えたのか、同じ敷地で米国軍人と一緒に住んだ日本人は何を考えたのか、「木を切るな」「土地を売るな」という達雄氏の〝家訓〟を章雄氏はどう守っていくのか、入居者のコミュニティは今後どのような方向に向かうのか。興味は尽きない。

 今年の春に発刊した16ページ建ての季刊誌「JOHNSON TOWN Style」は実に面白い。数人のライターが入居者をインタビューし、歴史をたどり、当時の建築技術や裏話を引き出し、コミュニティなどについて丹念な取材を行っている。写真がまたきれいだ。これからも80年の歴史の悲喜交々を追いかけてほしい。そして未来につなげてほしい。

 一つの街ですべてが完結する-これが理想だ。現在の用途地域規制の限界も感じた。

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住民同士のバーベキュー(ジョンソンタウン提供)

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冬のOne Dayマーケット(ジョンソンタウン提供)

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交差点(車のスピードを出させないための工夫か)

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路地が網の目のように走っている(ネコはまるで大家の代理人のよう)

限りなく限界集落に近い首都圏の郊外団地 人口4割減55歳以上の人口比率48.7%(2012/7/27)

カテゴリ: 2017年度

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協定を結んだ左から矢野氏、服部市長、由利氏(八千代市役所で)

 千葉県八千代市、UR都市機構、PIAZZAの3者は9月29日、全国初の官民連携によるオンラインとオフラインをクロスさせたプラットホームを構築した「次世代のコミュニティ形成」に関する協定を結んだ。市はオンラインコミュニティ向けに行政サービスの情報を発信し、UR都市機構は市内の団地をコミュニティ活動の場としてオフラインで提供、PIAZZAはエリア単位でのSNS(オンライン)コミュニティ形成を行う。

 市は行政サービス情報を積極的に発信し、UR都市機構は市内の賃貸住宅団地をコミュニティ形成の場として積極的に提供していく。URは現在、市内に昭和40~50年代に入居が始まった「村上団地」(2,489戸)「米本団地」(3,020戸)「高津団地」(3,013戸)などの管理を行っているが、建物の老朽化、入居者の高齢化、エレベータがないことなどによる空き家の増加などの課題を抱えている。

 コミュニティアプリ「PIAZZA」は、勝どき、豊洲、流山などで展開している地域密着型プラットホームで、街のイベントや店舗・病院情報の共有、モノの譲り合いなどの情報を提供しており、子育てファミリー層を中心に人気になっている。

 取り組みの一環として、10月15日(日)には村上団地でストリートペイントを行う。

 また、市とUR都市機構は同日、UR賃貸住宅を活用して地域医療福祉拠点づくりやコミュニティ形成に連携・協力する協定を締結。両者は、団地内に介護用駐車場を整備するほか、団地集会所を活用した子育て支援事業などを実施していく。

 協定締結式で服部友則市長は、「市はベッドタウンとしてURとともに発展してきた。一方で、昭和40年代~50年代の団地は入居者の高齢化が進み、(間取りの陳腐化など)ニーズに合わなくなってきており活性化が急務。〝子育てなら八千代〟といわれるよう環境整備に力を入れる」と述べた。

 UR都市機構東日本賃貸住宅本部 東京東・千葉地域本部長・由利義宏氏は「ハード・ソフト両面でミクストコミュニティの形成を図り、新しいモデルとなるようにしたい」と語った。

 PIAZZA社長・矢野晃平氏は「オンラインとオフラインを駆使してシームレスの取り組みを行い、街を盛り上げたい」と話した。

〝無斬〟丸裸 八千代市「ゆりのき通り」の街路樹341本 847万円でバッサリ(2017/9/30)

 

 

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強剪定されたユリノキ(葉が落ちれば〝丸裸〟になる)

 八千代市役所で9月28日行われた市・UR都市機構・PIAZZAによる街づくりに関する協定締結を取材するため、京葉高速鉄道八千代中央駅から市役所に向かった。すぐ異様な光景に気が付いた。住居表示にも「ゆりのき台」が採用され、その名の通り「ゆりのき通り」の街路樹ユリノキが高さ10mくらいで強剪定されていた。

 市役所によると、昨年度にゆりのき通りの街路樹341本とその他の街路樹24本、合計365本を847万円の費用で剪定した。1本当たりに換算すると2.3万円だ。理由は落ち葉などに対する住民の苦情だという。

 ゆりのき通りに面する住宅に住む70歳代と思われる女性に話を聞いた。「ここに30年以上住んでいますが、ユリノキが植えられたのは20年くらい前かしら。もう落ち葉の掃除が大変で、やっと伐ってもらいました。腰が曲がらないから、ほら、(屈んで)こんなにして集めるしかないの。葉っぱは大きくて、地面にへばりつくから大変なのよ」と剪定を歓迎した。

 今年5月の市長選で初当選した服部友則市長は「わたしは素人だが、伐ってしまったものは伸びないのではないか」と述べるにとどめた。市の土木管理担当者は「ユリノキは丸裸になったが、剪定費は根拠がない数字ではない」と話している。

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 ユリノキの街路樹が伐採されることになっているのは先月、横浜市緑区青葉台のたまプラーザ駅でも経験した。

 双方に共通するのは、それぞれの市・区で人気・地価が高い住宅地で、〝伐るな〟という声はほとんどなく、樹齢が数十年、樹高は15~20mくらいあることだ。

 落葉は、葉に含まれる栄養を幹に取り込み、気たるべき爛漫の春に備える自己防衛であり自然の摂理だ。落ち葉舞う風景はまた風情がある。産廃や汚染土壌ではない。

 強剪定は舌きりばあさんと一緒。素敵な名前が付いた街とその街に住む人の品格をけがす自傷行為のようなものではないか。

 千代田区では明大通りのプラタナスの伐採をめぐり住民らが反対の運動を起こしているが、区は伐採を強行するようだ。

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都市計画の母が泣く たまプラーザの「ユリノキ通り」が消える!? 市が伐採計画(2017/8/22)

またまた「街路樹が泣いている」 千代田区 街路樹伐採で賛否両論(2016/9/8)

樹齢30年以上 戸建てより低く〝伐採〟された「白岡ニュータウン」のケヤキの街路樹(2016/4/27)

 

 

 

 

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「まちのこども園 代々木公園」(撮影:淺川敏氏)

 ブルースタジオは9月29日、同社が設計監理を担当し、ナチュラルスマイルジャパンが運営する国家戦略特区制度を活用した「まちのこども園 代々木公園」が竣工したのに伴う竣工内覧会を行った。建築や保育関係の人など見学を待つ約500名が列をなし賑わった。

 物件は、都市公園法により開発規制が厳しい公園内に国家戦略特区制度を活用して建設された128名定員の「民設民営」保育所型認定こども園施設で、JR原宿駅徒歩4分、渋谷区代々木神園町に位置する敷地面積873.80㎡、延床面積871.23㎡の木造2階建て(在来工法、1時間準耐火構造)。竣工は2017年8月。施工は大和工務店。設計監理はブルースタジオ。

 柱などの構造材は米松だが、建具・家具・仕上げにヒノキ、カラマツ、ヒバなどの国産材を採用。壁には漆喰、1階土間には昔の三和土や大谷石の囲炉裏を設置。木製サッシを多用しているのも特徴。

 メディア向け内覧会で、ナチュラルスマイルジャパン代表取締役・松本理寿輝氏は「今回の施設は5カ所目。地域資源を生かし全体を学びの環境にする思いと、街づくりの拠点になるようコミュニケーションを活発化させ、若い世代とつながりネットワークを構築したいという思いから、渋谷区の公募に応募した」と、プロジェクトの経緯などについて語った。

 ブルースタジオ専務取締役・大島芳彦氏は、「松本さんとは12~13年のお付き合いだが、具体的な案件を担当するのは初めて。昨年5月、設計監修の依頼があった。スケジュールがタイトなので迷ったが、エース級2人のスタッフを投入して決断した。建築と社会、人間関係の接点をどう設けるか、それをやらないと社会的価値の向上につながらない。代々木は、私の祖父が千駄ヶ谷に住んでいた関係でしょっちゅう遊びに来たことがあり、私を育ててくれた街でもあり、建物は昔の大屋根があり土間がある「明治以前の原宿村の原風景を想起させる農家屋をイメージしモチーフにした。施工も木造建築の老舗。本物に触れていただきたい」と話した。

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松本氏(左)と大島氏

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(撮影:淺川敏氏)

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 木造の保育・教育施設では、三井ホームの林野庁補助事業の「学校法人富津学園 明澄幼稚園」を見学し感動したことがあるが、今回の施設もまた負けず劣らず素晴らしい-作家の筒井康隆氏が「創作の極意と掟」(講談社)で「いかなる小説であっても絶対に使ってはならぬ形容がひとつ。それは『筆舌に尽しがたい』という形容だ」と仰っている。記者もそんな陳腐な形容をしたくない。「素晴らしい」としか言いようがない。

 1階部分の床から2階吹き抜けの頂点までの高さは約10メートル、仕上げはほとんど本物の無垢材や大谷石、漆喰、サッシも木製だ。

 大和工務店専務取締役・初谷仁氏は「300×770×11メートルの棟木、224×500×12メートルの登り梁は究極のコスト&ビーム」と自賛した。

 内覧会に参加した保育所の建設を計画している経営者は、「スケールと開放感が素晴らしい。明治以前の農家をイメージし、自然とマッチさせたデザインもいい」と絶賛した。

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(撮影:淺川敏氏)

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三井ホーム林野庁の補助事業による2×4工法の幼稚園完成(2014/8/25)

カテゴリ: 2017年度

 大京グループは9月27日、健康経営の一環として喫煙を10月1日から終日全面禁止すると発表した。対象はグループの全400拠点の事業所で、対象者は1万人を突破するとみられる。全社員の健康維持・増進と受動喫煙の抑制が目的。

 喫煙全面禁止措置について、同社プレス・リリースでは「たばこに含まれる有害物質は、がん・脳卒中・心筋梗塞や呼吸器疾患などにかかるリスクを高めます。 また、受動喫煙による年間死亡者数は推定約1万5,000人(厚労省の報告書)とされ、健康被害は喫煙者同様に深刻な状況にあります。

 2020年にオリンピック・パラリンピックを控える日本は、世界保健機関(WHO)と国際オリンピック委員会(IOC)が共同で推進する『たばこのないオリンピック』に向け、受動喫煙防止対策の強化が求められています」とその背景について記している。

 同社は2014年から「予防」をテーマとした大京健康プログラム「Daikyo Health Program (DHP)」を導入しており、そのプログラムの一つとして「禁煙対策」に取り組んできた。

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 記者は喫煙者(1日15本くらい。昔は3箱)だ。1時間に1本くらい吸う。事務所で書いた原稿をコピーし、喫煙室に下りて行ってタバコを吸いながら校閲などを行う。喫煙は記事を書くリズムだし、歌唱・水泳でいえば息継ぎだ。何よりも文化、基本的人権の問題だ。

 なので、こうした規制(言い過ぎか、措置が適当か)には反対だ。とはいえ、喫煙・受動喫煙の発がんリスクは否定しない。厚労省が「受動喫煙は『迷惑』や『気配り、思いやり』の問題ではなく、『健康被害』『他者危害』の問題である」「(受動喫煙防止は)事業者の努力義務ではなく、義務とすべきである」というのも理解はする。

 しかし、発がんリスクは主に疫学的な研究から問題視されており、そもそも閾値など存在しない。百歩譲って、国がそこまでわれわれの健康を心配してくれるのなら、食品添加物、糖類・塩分の摂取に対する規制、メタボ対策などを強化すべきだろうし、劣悪な労働環境の改善に強権を発動すべきだ。

カテゴリ: 2017年度

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影絵メイン装飾設置イメージ(北面)

 近鉄不動産は10月5日(木)~11月19日(木)、「あべのハルカス美術館」の「大英博物館国際共同プロジェクト北斎–富士を超えてー」展との連動企画「天空の影絵~北斎の世界~」をあべのハルカス展望台「ハルカス300」で実施する。

 影絵作家河野里美氏が北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」をモチーフに制作した巨大影絵を設置するほか、同氏によるハロウィンの要素も組み込んだ「行燈」の設置、北斎の「赤富士」をイメージした「赤富士の淡路牛すき鍋」などの飲食を提供する。

 「すき鍋」セットは、飲み放題で料金は大人5,500円(消費税込、展望台入場料金含む)。予約はWeb予約(https://yoyaku.toreta.in/skygarden300/)。予約受付は10月1日から、30日後まで予約可能。利用時間は平日15:00~、土日祝は11:30~22:00分まで(2時間制)。

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「赤富士の淡路牛すき鍋」

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 さすが大阪のデベロッパー。北斎と食を結びつけるアイデアがすごい。いい企画だ。影絵は写真から判断して高さは3mくらいありそうだ。大英博物館に所蔵されている実際の「赤富士」も美術館で鑑賞できる。牛すき鍋も飲み放題で税込みで5,500円というから安い。

 実は、同社から4日に行う報道関係者向け事前体験取材(日本酒も飲めそう)の案内が届いている。食い意地が張る記者はいっぱいいそうだから殺到するかも。記者はそんな厚かましい取材はできない。

 いま東京国立博物館で「運慶展」が行われており、大変な人気だそうだ。運慶を拝み、飲み放題の食事ができるイベントを行ったら、申し込みが殺到しさばけなくなる事態になるはずだ。首都圏のデベロッパーはそんな企画をしないか。

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「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」(同社プレスリリースから)

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「富嶽三十六景 凱風快晴」(赤富士)

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「赤坂インターシティAIR」

 新日鉄興和不動産は9月26日、事業協力者及び参加組合員として建設を進めていた複合大規模施設「赤坂インターシティAIR」(赤坂一丁目地区第一種市街地再開発事業、施行者:赤坂一丁目地区市街地再開発組合)が竣工したのに伴いプレス説明会・内覧会を行った。

 施設は、東京メトロ銀座線・南北線溜池山王駅直結(14番出口)、港区赤坂一丁目に位置する敷地面積16,088㎡、制振構造の地下3階地上38階建て延べ床面積178,328㎡。用途はオフィスのほか共同住宅、会議施設、店舗、託児施設など。設計・監理は日本設計。施工は大林組。グランドオープンは9月29日(金)。

 緑化率50%以上に当たる5,000㎡超の緑地を整備。建物を六本木通り沿いに寄せることで、敷地中央に大規模な緑地空間を生み出し、環状二号線に続く約850mの緑道を整備する「赤坂・虎ノ門緑道構想」に基づき、西側の拠点として約200mの街路樹空間を整備。虎ノ門に続く緑豊かな歩行者ネットワークを形成する。

 オフィスはほぼ満室で稼働。入居検討テナントの43%はアメリカを中心とする外資系で、業種ではIT・通信が41%を占め、金融・保険、化学・製薬などが続く。

 5階から12階に併設される住宅「赤坂AIRレジデンス」52戸は主に地権者用住居に充てられ、第三者に分譲することは禁止されている。

 説明会で同社代表取締役社長は「赤坂・虎ノ門エリアの新たなランドマークとして、世界から選ばれる国際都市東京の顔にする」と語った。2018年春には当ビルに本社を移転することも明かした。

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永井社長

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水景

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ベンチ

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2012年(左)と現在の空撮

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 取材のため施設に着いたのが午後12時30分過ぎ。プレス説明会・内覧会の開始時間1時にまだ少し時間があったので、地下1階の店舗をのぞくことにした。すぐ目に飛び込んできたのは、「鶏の西川 創業1949年」の看板が掛かった店だった。見事な組子が施されていたからだ。てっきりこけおどしのケミカル製品だと思ったが本物だった。創業1949年といえば記者と〝同級生〟だし、「宮川」は四万十川よりきれいなわが故郷三重に流れる川だ。

 これだけで感動したのだが、これは序章に過ぎなかった。説明会場の天井高4.8mのコンファレンスホール「the AIR」に入ったとき、大好きなヘンデル「水上の音楽」などをアレンジした「Handel Collection」がBGMに流れていた。この演出に舞い上がった。これが第2楽章か。

 そして第3楽章は、同社社長・永井幹人氏の挨拶だ。「事業規模は一挙に倍増した」と永井社長は5年前の新日鉄都市開発と興和不動産の経営統合から語り始め、その後の事業展開や今後の方針などを宮川のようによどみなく語った。

 この地が、霞が関-六本木-新橋のトライアングルの結節点であり、再開発計画が目白押しの国際性、多様性に富んだ港区の「大街区」(75ha)の北側玄関口に位置し、また同社ビル事業発祥の地「赤坂一丁目」であることから「思い入れの強い土地」であることを強調。非常時には200時間の電力供給が可能であるBCPをはじめ、国内トップクラスのエネルギー・環境への取り組み、1フロア800坪のオフィス、隣接する虎ノ門病院と連携した人間ドックとクリニックの併設、5,000㎡の緑空間の創出などについて説明し、「厳しい外資系の目にかなうものにした結果、極めて高い評価を得てほぼ満室稼働でスタートすることができた。今後も関係者と連携して赤坂を国際都市東京の顔にしていく」と力を込めた。

 ここまでの取材でもう満腹だったのだが、第4楽章は何と2時から4時までの内覧フルコース。4階のプレゼンルームからスタートし、3階の「ロウリーズ・ザ・プライムリブ&フランクバー」、2階・1階の緑地、10か所以上のレストラン・カフェ・ビアパブなどを回った。一つひとつ紹介すると日が暮れるので省略する。

 取材を終え事務所に帰ったのが5時。この日は午前10時から三井不動産の「ホテル ザ セレスティン銀座」の取材があり、7時間も動き放しだった。この間、三井のホテルで「GINZA CASITA」の山田志樹社長から直々にアイスコーヒーを頂き、「赤坂インターシティ」では160年の歴史があるローマの「ボンドルフィボンカフェ」で250円のエスプレッソを飲ませてもらい、「THE ARTISAN TABLE・DEAN&DELUCA」ではほんのひと切れのシイタケのコンフィを試食させていただき、「COURTESY」でアイスティのもてなしを受けた以外なにも口にしなかった。万歩計は1万歩を超えていた。(RBA野球の取材のときは食事抜きで2万歩歩くが)一挙に疲れと空腹感が襲ってきた。

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PARIYA

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「ロウリーズ・ザ・プライムリブ&フランクバー」

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「COURTESY」

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「鶏の宮川」(写真は三代目社長・星英次氏)

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 最近では皇居に隣接する三菱地所「大手町パークビル」、日比谷公園が目の前の東急不動産「日比谷パークフロント」にも驚いたが、「赤坂インターシティAIR」はいろいろな切り口で〝料理〟(記事化)できる、それこそ十人十色に映るわくわくする複合施設だ。記憶にとどめるためにも強い印象を受けたことを改めて書く。

 第一は圧倒的な緑の量と質だ。量的には「新梅田シティ」の約8,000㎡の「里山」にかなわないが、約3,500㎡の「大手町の森」(オーテモリ)、約3,000㎡の「大手町パークビル」と「大手門タワー・JX ビル」のコミュニティ広場より広い。

 その質がまたすごい。約200mの街路樹空間を創り出し、水景も配置。樹木は極力自然に近い形で植樹している。これを虎ノ門方面に続く850mの緑のネットワークとして構築するという。

 第二は、オフィスもさることながら店舗の内装・デザインが桁外れの本物志向(味はしらない)であることだ。「鶏の西川」の軒先に組子が用いられていることは先に書いたが、同じ地階にある「もつ鍋やまや」もまた内装材はすべて本物のスギ材だったし、内覧で回った10以上のレストランのカウンターなどはほとんどすべて大理石。壁などにも無垢材が多用されていた。

 「ロウリーズ・ザ・プライムリブ&フランクバー」は天井高が5m。ホテルの宴会場かレストランに似ているが、少人数掛けのテーブルのほか20人くらいが座れる大テーブルがどんと据えられていたのには度肝を抜かされた。アートや個室の設え、照明計画もまた印象的だ。日本人が利用するにはかなり勇気がいりそうで、お金もそうだが気が小さい記者などは足がすくむ。

 第三は、BCPやエネルギー・環境の取り組みだ。非常時200時間の電源確保など聞いたことがない。環境性能評価「CASBEE」、東京都エネルギー性能評価制度、DBJ GREEN Building認証などはすべて最高ランクを取得し、約35%の省エネ効果、CO2約35%削減を実現している。

 永井社長が「赤坂を国際都市東京の顔にしていく」と語ったが、このビルが今後の街づくりのベンチマークになるのではないか。20・21階には同社が入居するが、眼下に首相官邸、国会議事堂、米国大使館が眺望できる。社長室はそれらを眺められる位置には設置しないとも聞いたが、社員の生産性はどれだけアップするのか、これにも期待したい。

 住宅は将来にわたって分譲されることはなさそうだが、記者は借りに分譲されれば坪単価は1,500~2,000万円とはじいた。

 かつて記者は、デベロッパーを超えるのはデベロッパーではなく、異業種だろうと思ったことがある。日鉄ライフが新日鉄の社宅跡地で優れたマンションを分譲したときだった。恐るべし新日鉄興和不動産。

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同社が本社を移す21階(窓の左が虎ノ門ヒルズ、右のクレーンはホテルオークラの建て替え、その右は坪単価500万円で分譲された鹿島の最高峰マンション)

皇居に隣接 三菱地所 最高級Sクラスの「大手町パークビルディング」竣工(2017/2/14)

日比谷公園の緑取り込む 東急不「日比谷パークフロント」竣工 同社の勢いまざまざ(2017/5/26)

 

 

 

 

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