坪3.5万円!億ション以上 現地見ずに家賃判断 審査は適正か セーフティネット住宅
賑やかに人が行き交う表通りから一歩入ったT字型道路の奥に件の建物はあった。道路幅は4mギリギリか。周囲は戸建てあり、モルタル造りの店舗併用住宅あり、マンションあり…典型的な下町の街並みだ。用途地域は〝何でもあり〟の準工か、コンクリで覆えば敷地一杯に建てられる商業地域か、その両方か。
建物は木造モルタル2階建て。敷地は20坪あるかどうか。南向きだが、南側には空き家の戸建てを挟んで高い建物が建っており、日照は確保できそうもない。西側道路に背を向けた外壁はグレー。外壁と対照的な南側の入り口にある赤の玄関扉には人の出入りを拒絶する頑丈なチェーンが掛かっており、小さな全ての窓は閉まっている。人の気配は全くない。
敷地の南側には猫の額ほどの自転車置き場がある。値段は高くはなさそうな錆も出ている一部は倒れたままの自転車数台が隣家との境界線に並行ではなく斜めに置かれていた。斜めなのは出入りスペースを確保するたか。
隣家との境の砂利敷きの部分には、日陰に棲む花も咲かない隠花植物か、それとも劣悪環境をもろともせず悪の大輪を咲かせる顕花植物か、名も知らない雑草が車輪の隙間から勢いよく伸びていた。
しばらく様子をうかがったが、野良猫にでも誰何されるのも怖く立ち去った。
空振りは十分予想していた。しかし、ただでは起きないのが記者だ。駅から目的地までの数分の距離に、全国区の誰もが知っている店を含め4軒の賃貸物件を主に扱う不動産会社があることを確認していた。街からどんどん本屋、電気屋、八百屋などが消えていくのにわが不動産業界は元気だ。片っ端から聞くことを決めた。
1軒目。店舗内には若い女性が一人、指にはアート。客はいない。「すいません、そこに建っているセーフティネット住宅を見に来たのですが、話を伺える方はいらっしゃいませんか」
-アプローチがまずかった。女性のプライドを著しく傷つけたようだ。「わたしは受付もしますが、営業もします。セーフティネットは存じ上げておりません」言葉は慇懃だが、顔はすぐ立ち去れと語っていた。
2軒目はRBA野球大会にも参戦しているメジャー。同じように質問したが、「セーフティネット住宅? 分かりません」2球目も空振り。
そこで反省。三球三振は避けたい。記者は投手であり打者だ。投手としては単刀直入に聞きすぎた。ここは搦め手から攻めるべき。第一、アポもなしに、白髪交じりの老人斑とも死斑とも区別がつかないシミを顔中に浮かばせ、くたびれたスーツを着ている記者に関りを持とうとしないのは当然だ。
3軒目は、下手に徹した。打ちやすい球をなげた。「わたしのような高齢者とか貧乏人とか、肌の色が違う人の入居を拒否しないようにと国が定めたセーフティネット制度があります。まあ、居室内にトイレも浴室も炊事場がないシェアハウスと似たり寄ったりのものですが…」と切り出した。
店の青年はお客と勘違いしたのか、「シェアハウス? うちも取り扱っています」とファイルを見せてくれた。すぐメモした。「3.9万円、10㎡」「4万円、12㎡」。ともに電気、ガス、水道料金含む。
そして聞いた。「これって坪にするといくらですかね」と。「坪? 坪じゃわかんない。㎡か畳数じゃないと」「えっ、お宅はいくつ? わたしは69。坪に換算しないと不動産や住宅の価格を計れないもんですから」「26歳ですが、…えっと坪1万くらいですよ」「では、わたしがいま見てきた物件を検索してみてください。ホームページですぐ分かりますから」
営業マンは物件のホームページに掲載されている物件の写真などをチェックした。記者は一転、ここぞとばかり畳み込んだ。「ほら、坪3.5万円ですよね。これって、とんでもない価格じゃありませんか」「…でも、洗濯機などみんな新しいし…高すぎるとは言い切れない。値段を決めるのは大家さんですからね」
ダメだ。お礼を言って飛び出した。坪1万円と3.5万円の比較もできないのかと。腹が立った。
4軒目は、いかにも歴史を感じさせる一間もない間口の小さな店だった。机は1つ。記者よりは若いが高齢者の仲間入りをしていそうな男性が暇を持て余しているのか新聞を読んでいた。
「何? 入居拒否。セーフティネットなんか知らないよ。誰を断ろうとそれは大家が決めること。われわれ仲介の仕事は大家のために働くこと。35年間やっているんだから。仕事は信用だ。えっ、坪3.5万円のシェアハウス? そりゃべらぼうだ。かぼちゃ(へちまではなかった)と一緒だよ」
収穫十分。シェアハウスは立派な事業として浸透しており、セーフティネット住宅はまったく認知されていないことが分かった。記者はカボチャをよく食べる。
◇ ◆ ◇
冒頭の表は、東京都のセーフティネット住宅の全268戸の登録住戸のうち主なものを抽出したものだ。バスもトイレもないわずか7㎡(2.1坪、4.2畳)の部屋を1戸とみなすことの是非はともかく、268戸を棟に置き換えると二十数棟にとどまる。20例を示した表は都のセーフティネット住宅をほとんど網羅しているはずだ。
表から分かることは、居室内にトイレ、洗面、浴室、台所、洗濯室などがないものの家賃はおおむね4~6万円、居室面積は7~12㎡、坪(3.3㎡)単価は2~3万円だ。
居室面積が7㎡しかないものがどうして多いか。少し説明しよう。
省令では、登録住宅の要件を定めており、必須要件の耐震性のほか、面積については25㎡(共用部分に水回り設備を備えているものは18㎡)以上としている。これとは別に、共同居住型住宅(シェアハウス)では、①住宅全体では40㎡以上②居室面積は9㎡以上③共用部分に居間、食堂、台所、便所、洗面、浴室またはシャワー室などを設け、便所、洗面、浴室は居住人数概ね5人に1カ所以上を基準としている。
ただし、地方公共団体が供給促進計画を定めれば、耐震性の要件を除き緩和することができることになっており、都は今年3月、「多様なニーズを満たす」という理由から面積を省令の9㎡から7㎡に引き下げた。だから7㎡が多い。
ここで指摘したいのは、水回り設備が整っている住宅は相場並みの価格だが、シェアハウス型は全て賃貸住宅の相場を大きく上回り、中には〝法外〟な家賃もあるのではないかということだ。
具体的に事例を見てみよう。日暮里駅から徒歩5分で、家賃が7.5万円、面積は7㎡だから、坪単価は3.5万円。居室内に水回りがないから明らかにシェアハウス型だ。記者は法外な値段だと思う。あり得ない。全ての設備が整っている〝億ション〟の代名詞「広尾ガーデンヒルズ」だって坪単価は2万円くらいではないか。坪3.5万円は都心の一等地のビルの賃料単価だ。
登録住宅の規則には、「家賃が近傍同種の住宅の均衡を失しないこと」と定められている。住宅と呼べない(と記者は思う)シェアハウスを賃貸住宅と同等に扱い、その基準で家賃が適正かどうかを測るモノサシが果たして適当か。
そこで、家賃が適正かどうかを判断する東京都民間住宅課に問い合わせた。担当者は「当該物件の現地調査は行っていないが、ネットで検索した近傍同種の住宅(シェアハウス)と比較して適正と判断した。審査は国交省の基準に沿って適正に行っている」と語った。こうも付け加えた。「問題があるなら指摘してほしい」と。現場を見ないで審査するのは問題ではないのか。
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読者の皆さん、品が悪い記者を許していただきたい。〝味噌くそ一緒〟とはこのことを言うのではないか。現場を見ないで、ネットで検索して出てきた物件の質を調べるのでもなく、家賃の額だけで判断して「適正」とする横着が役所では通用する-これは許せない。
生活困窮者や高齢者、子育て世帯などの入居を拒まず、居住安定を図るセーフティネット住宅制度は、このままでは目的とは真逆の最低の居住水準を固定化、下支えすることになるような気がしてならない。さらに言えば、セーフティネット住宅は改修費補助、家賃補助の対象となるだけに、シェアハウスがそのモデルとして定着すれば、もっとも救われるべき住宅確保要配慮者の賃貸住宅の質の向上が後回しになる危険性をはらんでいると思う。
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記者はシェアハウスそのものを否定するわけではない。一定のニーズは確かにあるはずだ。以下に示した事例のように〝単価では計れない〟価値がある物件も少なくないのだろう。
しかし、シェアハウスなる言葉がなかった20年前以上昔に見た走りともいえるそれは〝たこ部屋〟だと思った。
国交省も都の職員も、そしてシェアハウスをもてはやした学者先生方にもぜひ市場に流通しているシェアハウスを見学していただきたい。手放しでほめちぎっていいのか。
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住宅セーフティネット法の改正法が昨年10月25日に施行され、高齢者、低額所得者、子育て世帯などの住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録情報を公開する「セーフティネット住宅情報提供システム」の運用が始まってから1年以上経過する。
同システムのホームページによると、現段階で総登録件数は302件、総登録戸数は 4,448戸。政府は2020年度末までに全国で17万5,000戸にする目標を掲げている。達成率は現段階で約2.5%だ。
浸透度がいま一つと判断したのか、国土交通省と厚生労働省は今年10月から全国10都市で説明会を開催中だ。国交省は登録申請書類や審査の簡素化、面積要件の緩和などをアピールし、厚労省は住宅と福祉の連携を強化するなど普及促進に乗り出している。
〝駒込駅圏ナンバーワン〟 三菱地所レジ 第2号シェアハウス「駒込」完成(2018/6/21)
壁面にアートがいっぱい 三菱地所レジ 初のシェアハウス「永福町」完成(2018/4/27)
ブルースタジオ 築85年のシェアハウス 国交省「寄宿舎」に該当せず(2014/5/23)
音楽好きにはたまらない 日土地がシェアハウス「シェアリーフ西船橋グレイスノート」公開(2014/2/19)
イヌイ倉庫 「企業寮をシェアする」新発想の「月島荘」が竣工(2013/9/29)
〝住まい〟切り口 スタートアップ育成プログラム組成・始動 デジタルガレージ
登壇者
デジタルガレージ(DG)は11月8日、不動産関連スタートアップを対象としたグローバルな育成プログラム「Open Network Lab Resi-Tech(https://resitech.onlab.jp/)」を始動し、同日からプログラムに参加するチームの募集を開始すると発表した。プログラムにはパートナーとしてコスモスイニシア、竹中工務店、東急グループ、東京建物、野村不動産ホールディングス、阪急阪神不動産、三井不動産が、協力パートナーとしてカカクコム、KDDIがそれぞれ参画するほか、DGのグローバルネットワークも活用する。
「Resi-Tech」が支援するのは、プログラム中の活動資金の提供、メンタリング・レクチャー、オフィススペースの提供、 国内外のネットワークの提供など。
今回募集するのは、住宅・暮らしや街とITが交差する領域での技術またはビジネスプランを持つ人が対象で、応募は2018年11月8日(木)〜2019年1月末。採択チーム決定は2019年3月中旬。
記者発表会に臨んだDG代表取締役兼社長執行役員グループCEO・カカクコム取締役会長 林郁氏は、「5G(第5世代移動通信)時代を迎えた中で課題も見えてきた。従来のスコープを通じてスタートアップを支援すると、見えないものを排除するというねじれ、矛盾が生じかねない。そのような縦と横の制約を取り除き、ユーザー目線から広義のレジデンシャルを切り口にスコープに入れ込んで、オールジャパンで世界に打って出る」と、プログラムを立ち上げた背景・狙いについて話した。
パートナーとして登壇した各氏のコメントは次の通り。
コスモスイニシア執行役員R&D本部副部長・藤岡英樹氏 当社はアパートメントホテル事業をスタートさせたが、今後も新規事業を拡大していく。スタートアップとユーザーニーズを掛け合わせれば何ができるか、面白い展開ができるのではないか
竹中工務店執行役員技術本部長・村上陸太氏 当社は歴史のある会社だが、だからこそ新しいことに二の足を踏みがちだ。今回の新しいことに挑戦し、社内にも新しい風を吹き込みたい
東急グループ 東京急行電鉄取締役常務執行役員事業開発室長・市来利之氏 ワクワクしている。ここにいられるだけで幸せ。当社も独自のアクセラレータープログラムがあり、双方の協調が期待できる
東京建物代表取締役専務執行役員住宅事業本部長・柴山久雄氏 ネット情報などはわれわれよりエンドユーザーのほうがはるかに進んでいる。新たなサービスを発見することにチャレンジしたい
野村不動産ホールディングス経営企画部長・田辺邦彦氏 当社もCVCの取り組みを行っているが、DGさんの先駆者としての知見、認識を吸収し、また協力したい
阪急阪神不動産常務執行役員・松田富行氏 プログラムは当社の新しい事業創出とシナジー効果が期待でき、当社のスタートアップ支援オフィス「GVH#5」と協働することでネットワークの拡大につながる
三井不動産ベンチャー共創事業部統括・光村圭一郎氏 当社は街づくりを中心に事業展開しているが、本質はビルでもマンションでもない人ではないかと。リソースにつなげ、デザインしたい
カカクコム代表取締役社長・畑彰之介氏 衣食住の中で、人の暮らしを豊かにする住まいはとても重要。参加できてとても嬉しい。コンテクストをつくっていくいいスタートになる
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この日集まった記者の数は約50名、関係者と合わせ約100名とか。記者の数は先の「HARUMI FLAG」の半分で、記念写真登壇者でも「晴海」より一人少ない10人だったが、市来氏が「嬉しい」「ワクワク」「楽しみ」を連発したのと同様、ワクワクして聞いていた。
もちろん、スマホすら満足に扱えない記者は「5Gの時代」などと言われてもちんぷんかんぷん。しかし、この前の三井不動産&プロロジスの物流竣工の記事でも書いたように「物流を制する者が市場を制する」と思うし、信じられないようなスピードでIoT、AIが世の中を席巻するであろうことは容易に想像できる。記者発表会で協力パートナーKDDIライフデザイン事業本部ビジネスインキュベーション推進部部長・中馬和彦氏が「これまで通信はあらゆる分野に溶け込んできたが、5Gの時代では逆にIoT、AIが人間に対抗してチャレンジしてくる」と話したのも理解できる。AIが勝つか人間が勝つか、生きている間に決着を見たいものだ。そのいみで「ワクワク」と書いた。
そして、何よりうれしかったのは登壇者全員が1分間だったがコメントを寄せたことだった。
だが、しかし、〝オールジャパンで世界に打って出る〟というのはやや言い過ぎではないか。パートナーは面白い組み合わせだとは思うが、全てではない。入っていない企業が対抗するために同じようなプログラムを立ち上げるような気がしてならない。共食い・共倒れだけは避けてほしい。
さらに言えば、いま世界を支配しているAGFA(Apple、Google、Facebook、Amazon)とMicrosoftを加えた5強の一つくらいと提携してほしかった。そんなことしたら全部乗っ取られるか。
スタートアップには、パートナーを蹴散らし、5強を震撼させるような技術・ビジネスプランを提示してほしい。「Soy sauce」のような日本発の横文字も編み出していただきたい。
防火サッシが炎上!? 火元は防火サッシ?「R.E.port」が報道
ギャハハハハハ…この前褒めたばっかりの不動産流通研究所「R.E.port」が本日(11月7日)、やってくれました。「国土交通省は7日、(株)エクセルシャノンから、同社が戸建住宅等に出火した防火サッシが国土交通大臣認定に適合しない仕様となっているとの報告を受けた、と公表」と記事にした。
読者の皆さんはお分かりか。記者は、自分の記事はろくに校閲もせずにとにかく他社より早く書くことをモットーにしているので、誤字脱字のオンパレード、目を覆いたくなるほどのひどさだが、他人の書いた記事の誤字はすぐ見つけることができる。誤字が〝わたしを見つけて〟と呼び掛けてくる-そうした感覚だ。この日の「R.E.port」も瞬時にその文字が読むより先にうろんな目に飛び込んできた。
わたしではない、パソコンを覚えたての記者が新社長就任の記事で「社長? 〇〇氏」と書いて(キーボード一番下の右から2番目は「? ・ / め」が同じボードにあるためのミス。当然「社長・〇〇氏」)、広告がストップしたことがあるが、今回は大した影響も与えず、ただ笑えるという意味では類を見ない大傑作だ。炎上ものだ。座布団3枚! ひょっとしたら書いた記者の炎上を意図した確信犯か。
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日本漢字能力検定協会は「広辞苑」に採用されている同音異義語でもっとも多いのは48個の「こうしょう」としているようだが、漢字一文字ではもっと多いのがあるように思う。調べていただきたい。たとえば「き」。この前、中国の人と話していて、日本語は語彙が少ないということで意見の一致を見た。
※記事は7日18:00に発信され、4時間後の22:00には〝鎮火〟したのか、訂正されています
〝タカラの奇跡〟 関係者も驚く売れ行き 残りわずか30戸 「レーベン川越南台」
「SMILINKの森PROJECT/レーベン川越南台The Arena」完成予想図
〝タカラの奇跡〟-タカラレーベンが分譲中のマンション「SMILINKの森PROJECT/レーベン川越南台The Arena」を見学した。西武新宿線南大塚駅から徒歩3分の全154戸で、今年3月から分譲しており残りは30戸。驚異的な売れ行きを見せている。
物件は、西武新宿線南大塚駅から徒歩3分、埼玉県川越市南台二丁目に位置する11階建て全155戸(非分譲住戸1戸含む)。11月下旬に分譲予定の第5期(戸数未定)の予定価格は1,900万円台~4,700万円台(最多価格帯3,200万円台、3,400万円台、3,600万円台)、坪単価155万円。竣工予定は2019年3月中旬。設計・監理・施工は長谷工コーポレーション。ランドスケープデザインはウイ・アンド・エフ ヴィジョン石倉雅俊氏。
現地は、低中層の建築物が建ち並ぶ住商の混在エリア。建物は全戸南東向き、敷地内100%無料駐車場、多彩な共用施設、太陽光発電による災害時対策などが特徴。
住戸プラン・設備仕様は、ワイドスパン、ディスポーザー、浄活水装置「たからの水」、洗浄力がすぐれた「たからのミックスセーバー」、温浴効果が高い「たからのマイクロバブルトルネードO2」など。
今年3月から分譲しており、残りは30戸。同社第1営業グループ第3営業部2課課長・熊野太一氏は、「南大塚駅圏では10年ぶりの供給。当初は苦戦も予想していましたが、想定外の売れ行き。企画段階でファミリー層にターゲットを絞り込み、広告展開でも商品企画を鮮明に打ち出したのが効果的だった。購入者は地元中心ですが、最近は都内からの来場が増えています。竣工まで完売? 当然です。つい先日も業界関係者から〝奇跡〟と言われました」と、表情も明るかった。
リビング
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種を明かすと、マンションの見学は予定していなかった。この日(6日の火曜日)は三井不動産の物流施設「MFLPプロロジスパーク川越」の記者見学会があり、モデルルームが開いていたらついでに見せてもらおうと。どうせ売れていないだろうから記事にはならないだろうとも考えていた。
ところが、あにはからんや。残り30戸という売れ行きにわが耳を疑った。信じられない。
あれやこれやとその理由を考えた。エリアでは10年振りという空白があったからだろうとか、所沢の再開発では坪300万円を突破し、川越の駅近でも坪200万円をはるかに超えてきており、同社の物件の割安感が顕在化してきたのも大きな要因だろうと…などと。しかし、理由はあとからならいくらでも付けられる。このエリアで月に十数戸が売れるとは…〝たからの水〟がいいのはよく知っているが、これは〝タカラの奇跡〟だ。
熊野氏は「取得した土地の一部をコンビニに売却したことも一因」と、低めに単価設定できた理由を明かしたが、設備仕様は悪くなかった。モデルルームも多目的に利用できるDENなどの提案がよかった。76㎡の3LDKでは「おはなしバスルーム」「ふれあいキッチン」「へんしんドア」「あつまリビング」「みはらしバルコニー」などのネーミングも分かりやすい。
この前見学した大和地所レジデンスの「千葉ニュータウン中央」もそうだが、商品企画と価格次第では郊外部でも売れることを証明したマンションだ。
画期的、大成功、渦を巻く〝三木&御酒〟雄たけび 三井不・プロロジス「川越」竣工
「MFLPプロロジスパーク川越」
三井不動産は11月6日、プロロジスと共同で開発を進めていた大型賃貸用物流施設「MFLPプロロジスパーク川越」の竣工式を行った。竣工時点で賃貸面積の約25%の入居が決まっており、来年の夏までには満床にする予定。
竣工式の前に行われた記者発表会で、三井不動産常務執行役員 ロジスティクス本部長・ 三木孝行氏は「世界最大のプロロジスさんと共同事業を行うことは、業界では画期的な出来事で、1+1は2ではなく、双方が競合するというのでもなく、相乗効果を期待できる。業界13社による協議会を立ち上げ国を動かすすごい渦を巻き起こしつつある」と話した。
プロロジス代表取締役社長・山田御酒(みき)氏は、「我々は物流のプロとしての自負はあるが、三井さんの街づくりのノウハウを生かした外構、デザインなどを学ばせてもらった」と語った。
施設は、西武新宿線南大塚駅から徒歩6分の敷地面積約60,000㎡、鉄骨造4階建て延べ床面積延床面積約130,000㎡。圏央道以南の関越自動車道沿いでは最大の物流施設。テナントはプラスロジスティクス、多摩運送、日本郵便が決まっている。
三井不動産は2012年に物流事業に参画。これまで稼働施設は19棟、今後14棟の開発・計画を進めている。プロロジスは物流不動産のリーディング・グローバル企業。世界で3,718棟、総所有・運営資産額は90,000百万ドル(約9兆9,000億円)。
三木氏(左)と山田氏
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物流施設を見学するのは2度目か。全くの素人なので見学するかどうか迷ったが、三木氏に元気をもらいたくて取材した。
「大成功」「画期的」「渦を巻いている」-三木氏の話はいつ聞いても気持ちがいい。言葉に迫力があり勢いもストレートに伝わってくる。メディアに何を話せば受けるかしっかり計算しているのだろうし、口説き上手なのは間違いない。山田社長も会食の席で飲みながら共同事業を提案したのだそうだ。
三木氏は「(プロロジスに)買収されないようにして、IoTやAIなど投資事業で手を携える機会はあるかもしれない」と、今後の展開もほのめかした。
山田氏の名前がまた「御酒(神酒と意味は同じ)」。〝三木&御酒〟。満床になったら盛大なパーティもやるのだそうだ。
◇ ◆ ◇
素人ではあるが、「物流を制する者が市場を制する」というのだけは分かる。これだけグローバル化が進むと、物流コストはもちろんだが、物流戦略が雌雄を決することになるのだろう。三木&御酒氏はすでに有力なアジア市場で手を組むことを考えているのではないか。わが国は圧倒的に負けているからだ。
その資料の一つを示す。国土交通省が作成した「世界の港湾取扱貨物量ランキング」がある。2001年と2016年を比較したもので、2001年のランキングはトップがロッテルダム(オランダ)で313,764千トン、以下、シンガポール313,487千トン、サウスルイジアナ(米国)252,819千トンがベスト3。ベスト10は上海(中国)、香港(同)、ヒューストン(米国)、千葉、名古屋、ウルサン(韓国)、クァンヤン(同)の順。ちなみに横浜18位、大阪26位、北九州27位、東京29位、神戸30位とベスト50にわが国の港湾は7つ入っている。
ところが、2016年になると、上海が2001年比2.9倍の647,446千トンに増やしトップに踊り出ており、3位広州、5位寧波、7位青島、8位天津、10位大連と中国勢がベスト10のうち6港湾を占めている。ロッテルダムは47.0%増の461,177千トンながら7位に後退。シンガポールは2001年比2倍近く伸ばし2位を確保している。
わが国は、18位の名古屋が最高で、2001年比26.9%増の193,257千トンながら世界には大きく水をあけられ、24位千葉、40位北九州、41位神戸、47位東京、50位大阪と大幅に順位を下げている。
このまま地盤沈下が進むのか、巻き返しがなるのか。
「カフェテリア」
内覧会で説明担当者は「カフェテリアに緑を配した」と話した。写真ではよく分からないが、本物の観葉植物ではなく、フェイクそのものだった。流行らない飲食店のトイレに置いてあるものとほとんど変わらない。
〝三木&御酒〟さん、これはない。働く人をコストとしか考えていないとわたしは受け取った。本物を置けばお金がかかると思えばなくしたほうがいいし、気持ちよく働けて、その癒し効果を考えればこれは絶対本物にすべき。わたしは、オフィスのポトスを定期的に剪定しに来る業者の方から枝葉を貰い、自宅と会社のデスクに置いている。ただ水をやるだけでどんどん増殖している。10年だって20年だって持つはずだ。
週刊住宅も住宅新報も〝中身なし〟 選手村「HARUMI FLAG」の記事に失望
先週の10月31日に発表があった2020年東京オリンピック・パラリンピックの選手村になる「晴海五丁目西地区第一種市街地再開発事業」のタウンネーム「HARUMI FLAG」を業界専門紙がどのように伝えているか興味深く読んだが、収穫はゼロだった。それより失望のほうが大きかった。
11月5日付「週刊住宅」は、ほぼ1面を割いてトップで報じた。もっとも興味がある価格については、「『(分譲は)4,000戸を超える大量供給となるため、販売は数期に分けることになるだろう。市場を攪乱しないよう価格設定する』(三井不動産レジデンシャル)と、周辺相場並みの価格設定を示唆する」としている。
この「市場を攪乱しない価格設定」とはどう意味か、その価格がどうして「周辺相場並みの価格設定」につながるのか、同紙は全く説明していない。意味不明だ。百歩譲って言わんとすることを補足すれば、仕入れ土地がただ同然の一種8万円からして、市場価格より格安で分譲することも可能だが、そのような価格で分譲したら「市場を攪乱する」ことにもつながりかねないので、「周辺相場を考慮して高くもなく安くもない値段にする」ということだ。(一種8万円は記者の推定)
つまり、周辺で分譲している当事者のマンション販売に影響を与えないよう配慮するということだ。
やはり専門紙として、土地の仕入れ価格に触れるべきだったし、果たしてレガシーマンションが「周辺相場並み」のただ戸数が多いマンションでいいのかどうかも書くべきだった。肝心のユーザー視点も欠落している。
そもそも、〝陸の孤島〟のこのエリアに相場などない。あるとすれば、9年前に分譲された「ザ・晴海レジテンス」と「晴海テラス」だ。ともに圧倒的な人気を呼んだ。坪単価は220万円しなかった。〝ない相場〟を創意工夫をこらし創るのがデベロッパーだ。「相場並み」で分譲して売れるのなら世話はない。
この問題については、ある一般紙が「坪単価は270~280万円の声もある」と書いているが、これもまた何の検証、裏付けも取らないで伝えているに過ぎない。書いた記者自身がどう思うかを書くべきだ。影響度を考えるとその罪は大きい。
11月6日付「住宅新報」は、5段見出しで、過不足なく伝えてはいるが、発表から土曜・日曜は挟んでいるが5日遅れの記事にしては独自の視点による記事ではなく、発表内容をトレースしただけの内容だ。記事量としては、11月2日に大京が発表した「ザ・レジデンス金沢」のマンションの即日完売記事と大差ないどころか、「選手村」の完成予想図より「金沢」の建設現場の写真のほうが大きく掲載されている。
不動産流通研究所の「R.E.poot」はどうか。このWebは日々生起する、あるいは住宅・不動産会社が発表するニュース・リリースをそのまま紹介することに重点を置いており、評論記事などはほとんどないの論評は期待していなかったが、それでも週刊住宅や住宅新報より要領よく概要をまとめていると思った。
記者はどうかというと、情けないかな「聞きたいこと(知りたいこと、伝えたいこと)は不明」「記者が馬鹿だった」という見出しの記事を書かざるを得なかった。完敗。
恥ずかしいことだが、そもそも東京都と組織委員会が全費用を負担するスケルトン「仮使用」などまったく想定していなかった。天井高は2500ミリになりそうなのにも、内装も最低レベルになりそうなのに失望した(解体費用を含めて1戸当たり1,000万円という価格が妥当かどうかは現段階でわからない)。購入者は、その住戸にどのような選手が一時使用したのか知らされないのは不幸だし…購入申し込み予定した住戸がどのように「仮使用」されたのか知る権利はないのか…不正利用されたら解約できる特約はないのか…。スケルトン賃貸だから、レガシーの痕跡は全く残さないと見た。
聞きたいことは不明 オリ・パラ選手村の街の名称「HARUMI FLAG」来春分譲(2018/10/31)
記者が馬鹿だった…選手村はスケルトンで都と組織委が賃借し、解体費を含め全額負担(2018/11/1)
「ザ・晴海レジデンス」に続き圧倒的人気 コスモスイニシア「晴海テラス」(2009/9/11)
旭化成ホームズ 米国木造戸建てプレハブ サプライヤーを買収
旭化成ホームズは11月5日、同社米国子会社を通じ、木造戸建住宅ビルダーへのプレハブ建築部材の提供を行うErickson Framing Operations LLC(本社:米国アリゾナ州)を買収することを決定したと発表した。
同社は中期経営で、2018年度売上高6,000億円を2025年度までに1兆円に拡大する目標を掲げており、海外事業を新規事業の柱の1つに位置付けている。昨年は豪州の住宅会社McDonald Jones Homes Pty Ltdと資本提携している。
今回の買収によって、Erickson社が米国の木造戸建住宅の壁や屋根をパネル化し製造・販売・施工する部材サプライヤーで、戸建ビルダーへの供給を年間3,000棟相当以上行う企業であることから、同社の「工業化」ノウハウがErickson社の製造・施工のさらなる合理化を実現し、米国住宅市場での新たな価値の創出を目指す。
Erickson社は1975年設立。本店は米国アリゾナ州チャンドラー市。従業員数は1074名(2018年10月末時点)。
ヒートショック予備軍 最多は千葉・宮崎 最少は長野 リンナイが都道府県ランキング
リンナイが11月1日、全国47都道府県の20~60代の男女計2,350名を対象にした「入浴」に関する同社初の「全国47都道府県別徹底調査」結果を公表した。調査で分かったことは次の通り。
①ヒートショック予備軍がもっとも多い県は千葉県・宮崎県、もっとも少ないのは長野県②ヒートショックの内容・対策法を知っている人はわずか2割未満③日本人の平均入浴時間は12.6分、日本一の長風呂県は千葉県④ヒートショック危険度の高い「41°C」以上の温度で入浴している人は半数以上、日本一の熱風呂県は愛媛県⑤深夜の1人風呂がもっとも多かったのは茨城県⑥母親より父親が子どもをお風呂に入れる「パパ風呂家庭」がもっとも多いのは青森県⑦風呂の掃除を担当するのは「父(夫)」がもっとも多い県は三重県⑧浴室暖房機の設置率は関西地方が一番高い—など。
入浴科学者の東京都市大学人間科学部教授・早坂信哉氏は早坂教授は結果について、「ヒートショック危険度の高い県は意外にも暖かい と考えられる千葉県、宮崎県、沖縄県などでした。西日本でヒートショックの危険度が高いのは、暖かいからと油断をしているせいかもしれません。逆に危険度の低いのが長寿で有名な長野県、埼玉県、寒いと思われる北海道などでした。温かい地方だからと言っても冬は脱衣室の室温は下がりますので油断せず、備えをしてもらいたいものです。ヒートショックの認知度が高いにも関わらず、危険度が高い県もあり、認知と対策の実行に差があるのは意外な結果でした」とコメントしている。
ニュースリリースには早坂教授による「ヒートショック危険度チェックシート」やコメント、ヒートショックから身を守る「入浴前準備呼吸」も紹介されている。
「ヒートショック危険度チェックシート」は10項目あり、チェック数が5個以上ある人は「ヒートショック予備軍」だそうだ。シートは次の通り。
①メタボ、肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症、心臓・肺や気管が悪いなどと言われたことがある②自宅の浴室に暖房設備がない③自宅の脱衣室に暖房設備がない④一番風呂に入ることが多いほうだ⑤42度以上の熱い風呂が大好きだ⑥飲酒後に入浴することがある⑦浴槽に入る前のかけ湯をしない、または簡単にすませる⑧シャワーやかけ湯は肩や体の中心からかける⑨入浴前に水やお茶など水分をとらない⑩1人暮らしである、または家族に何も言わずにお風呂に入る
「入浴前準備呼吸」は①脱衣室で下着になる②両手をへその上に置いて、お腹を膨らませながら鼻から3秒で息を吸う③口から5秒で息を吐く。②-③を5回繰り返す。④浴室にはいって下着を脱ぐ
詳細は次の同社ホームページへ。
PDF
https://www.rinnai.co.jp/releases/2018/1101/images2/releases20181101.pdf
Web
https://www.rinnai.co.jp/releases/2018/1101/index_2.html
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興味深い結果だ。記者も予備軍は寒冷地のほうが圧倒的に多いのではと思っていたが、そうではないのが意外だった。
予備軍の割合がもっとも多いワーストワンは千葉県(宮崎県も同じ値)なのに、隣接の埼玉県はベスト2位なのはどうしてか解せないが、こんなデータが公表されたら、千葉県のポテンシャルがまた下がるのではないかと心配だ。
サイトで調べた。千葉県がランキング上位なのは、読売新聞、日経新聞の販売部数、15歳以上買い物時間、自動車盗認知件数、女性の家事労働時間、非正規労働者数など。逆に下位にあるのはホテル軒数、名勝数、睡眠時間、1世帯あたり負債額に占める住宅ローン比率(首都圏マンションの価格は一番低いのになぜか)などだ。
長野県はどうか。長野県は死亡率が低い県でソープやギャンブルがないことは記者も知っているが、相対的貧困世帯率、生活保護受給世帯数も全国トップレベルで少なく、2017年衆議院比例代表:自由民主党得票率がもっとも低く(一番高いのは安倍総理の地元山口県)、インスタントラーメン消費量、労働時間、プロ野球選手出身地、殺人事件被害者数、待機児童数、殺人事件被害者数なども少ない。
まだある。これは最近知ったのだが、長野県民のほとんどが歌えるという県歌「信濃の国」について。明治時代につくられたもので、「海こそなけれ 物さわに 万足らわぬ 事ぞなき」「山と聳えて 世に仰ぎ 川と流れて 名は尽きず」などと韻を踏んだ七五調で、気候風土が豊か、学問、武芸でも秀でた人を輩出しているという「県民意識」を高揚させる歌詞になっている。6番まである。みんなが歌えるというのが信じられない。
そこで、生まれてから離れるまで18年間、一度も聞いたことがないわが故郷三重県歌を調べてみた。1番は「明けゆく朝の陽に映(は)えて むらさき匂う吉田山 展(ひ)らける街に 野に山に みんな明るく 呼び交わす ああ三重県は 躍進の 希望にもえる ふるさとよ」だ。3番まで同じ調子だ。
伊勢出身の記者は「むらさき匂う吉田山」が理解できない。「吉田山」は聞いたことがあるような気がするが、津市の県庁が所在する高台一帯のことのようだ。しかし、このことを知っているのは地元の人だけだろう。「むらさき」はムラサキツユクサかムラサキシキブか。しかし、この花は匂わないし、におい立つような花ではない。ひょっとしたら醤油のことかもしれないが、醤油は伊勢醤油のほうが有名だ。「躍進の 希望にもえる ふるさとよ」などと言われると赤面するしかない。これはもう完全に長野県にかなわない。
参考までに。記者もチェックシートに添って数えたら6~7つあった。糖尿だし脱衣場、浴室に暖房設備はないし、風呂は嫌いだから冬以外は浴槽に入らないし、浴槽に入ると寝入ってしまい、たたき起こされることもしばしば。だいいち毎日酒を飲む。飲む前に風呂に入るのは温泉旅館くらいだ>
三井不・菰田社長17分の独演会 岩沙会長 デフレ脱却宣言 藤林社長は孤軍奮闘 懇親会
菰田社長
三井不動産グループは11月2日、恒例の記者懇親会を開いた。冒頭、三井不動産・菰田正信社長は、6期連続増収増益、4期連続最高益の一点の曇りもない快晴の業績を背景に、普段より2分長い17分を掛けて事業全般について説明。岩沙弘道会長は、SDGsを引き合いに出し、〝非財務〟のCSR活動を強調するなどバランスを取った。2020東京オリンピック・パラリンピック選手村の会場になる「HARUMI FRAG」の幹事会社である〝時の人〟三井不動産レジデンシャル・藤林清隆社長は菰田社長、岩沙会長を上回る蟻のように群がった報道陣に対し「決まっていないことは答えようがない」と煙に巻き逃げ切った。
岩沙会長
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菰田社長は約17分間、「ミッドタウン日比谷の来街者は半年で年間目標を達成した」「木更津は日本一」「街づくりの膨大なデータを活用してイノベーションを加速させる」「グローバルカンパニーとして海外事業比率を30%にする」「ホテル一万室達成は確実」などと、いつものハスキーな声でよどみなく話した。不祥事などもなく〝一人勝ち〟を印象付けた。
よほど気分がよかったのか、女性記者にはリップサービスも披露。「これからは環境にやさしい、人にやさしい木造がいいかも」と。三井ホームを完全子会社化したことと関連があるのか。同社が本格的に木造事業に乗り出したらどうなるのか。同社は住友林業には負けるが、デベロッパーでは断トツの山持ち企業だ。三井物産と合わせれば第4位。
いつもよりスピーチが長かったことについては、「中長期計画2025もありますから約17分。来年からはまた15分に戻ります」(同社広報担当)とのことだ。
続いて登壇した岩沙会長のスピーチは約10分。「社長が全て話しましたので」と切り出し、SDGsなどCSR活動についても触れ、懇親の席では「話が素敵」という女性記者に取り囲まれ、「わたしは少なくとも資産デフレは脱却したと思う」と、デフレ脱却を宣言。「日本橋川の高速を取り払うのにあと30年? そんなことはない。わたしが生きているうちに実現できる」と自信たっぷりに話した。(冷酒が熱燗になり、ビールの泡が消えた江戸・坪井時代は挨拶だけで1時間はあったことを思えばものすごく短い。〝スピード〟を強調したのは岩沙氏だ)
〝孤軍奮闘〟したのが三井レジ・藤林社長。住宅関連の三井ホーム、三井不動産リアルティなどは幹部が3~4人出席していたのに、同社は藤林社長のみ。男女の別なくもっとも多くの記者に取り囲まれながら、言質を与えるようなコメントは一切しなかった。(記者の「板状は免震ですか」という質問には即座に「そうではない」と答えた。全て知り尽くしているはず)
メディアも策がない。野党議員のように伝聞を頼りに攻め立てたって社長がぼろを出すわけがない。搦め手から攻めれば何か引き出せたかも。
藤林社長はさすがにうんざりしたのか、最後のほうは顔が青ざめていたように映った。「社長、何人の人と名刺交換されましたか? 」「数えてなんかいない。名刺切れちゃったよ」-ぶ然なのか安堵なのか、表情からは読み取れなかった。
書き忘れた。元ヤクルト投手で、オール三井の野球大会でチームを優勝に導きRBAの優勝候補にもなっている三井不動産レジデンシャルリースの土肥選手がわずか数カ月しか勉強していないのに宅建試験で44点の高得点を挙げたことを同社・長谷裕社長に話したたら、「わたしは48点だった。設問が40問から50問に変わった最初の昭和56年。土肥の44点どうして知ってるの? 」 長谷社長、RBAの記事も読んでください。
会話ができ、音も香りも風も吹く 日本橋「未来ののれん展」11/11まで開催
会話ができる・通ると音がし、香りも嗅げる・動きに合わせて風が吹く暖簾-こんなユニークなイベント「未来ののれん展」が11月1日(木)~11月11日(日)、日本橋・中央通りの「コレド室町」周辺で行われる。
2018年7月、日本橋の企業と若手クリエイターが立ち上げた「nihonbashi β」(代表:朴正義氏)が主催するもので、日本橋の伝統と文化を象徴する「暖簾」と新しい感性と共創させ、未来につなげようという企画。
学生2人を含めた4チーム16名(平均年齢28歳)が、3カ月にわたりセミナーやワークショップを重ね、様々なソフトウェア、人感センサー、バイオメタル、超指向性スピーカーなどの最新の技術を駆使して作り上げた。
「β」の文字には、前例のないチャレンジを歓迎する開かれた街でありたいという想いと、日本橋から世界に羽ばたくクリエイターを生み出したいという希望が込められているという。掲出されるのは次の4種類。
「のれんさま/コレド室町」(クリエイター:髙橋紗登美、成田敬、深谷泰士、 藤木良祐)は幅4.5m ×高さ2m。人感センサー・加速度センサーを使用し、暖簾をくぐる人に話しかけるのが特徴。220種のことばを喋れるという。
「のれんさま/コレド室町」
「響きあう、今と昔/三井ガーデンホテル日本橋プレミア」(同:石川貴之、佐藤哲朗、鈴木和真、水野直子)は幅2.3m×高さ2.5m。バイオメタル(形状記憶合金)を使用し、静音性の高いのれんの上下運動を実現することによって、暖簾のモアレ現象を増幅させる。
「響きあう、今と昔/三井ガーデンホテル日本橋プレミア」
「日本橋 音ノ場/にんべん日本橋本店」(同:小田部剛、馬場隆介、水野諒大、森幸浩)は幅3.5m ×高さ1.5m。max/msp(ソフトウェア)を使用し、調理音を音楽として再構築し、超指向性スピーカーで耳元から音が聞こえるようなシステムを構築。出汁が煮える音、鰹節を削る音のほか、香りも漂う(暖簾自体から香りが出るわけではないが)というのが〝味噌〟。
「日本橋 音ノ場/にんべん日本橋本店」
「マンダリン オリエンタル 東京の風/マンダリン オリエンタル 東京」(同:五十嵐優作、斧涼之介、佐藤達哉、水村真理子)は幅7m ×高さ2.7m ×奥行き2m。ファンと音を制御し、測域センサーを使用し、人の動きに合わせて暖簾が美しくなびき、移ろいゆく森の音を体験することができる。
「マンダリン オリエンタル 東京の風/マンダリン オリエンタル 東京」
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記者は、開催に先立って10月31日に行われたオープニングセレモニーを取材した。4チームがそれぞれプレゼンを行い、7名のアーテイスト、デザイナーなどによる審査委員のトークセッションが行われた。
一つひとつ紹介する余裕はないが、審査委員からは「清々しいテーマ」「可能性を感じた」「すごい」「面白い」「のれんなくてもよかった」「話せる暖簾なんて世界初じゃないか」「精度高い」「感動した」「パチンコ屋のような電飾がつくられるのではないかと心配したが、杞憂に終わった」「何を置いても似合う」「みんな頑張った」「想像を超えた」「(商品を)買いたくなる」「音が香りを引き出した」「大きな一歩」「プロセスが大事」「(企業の代表などと)フラットで話し合える」「経験は次に生きる」「街とつながる」などと感嘆・絶賛の声が上がった。
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「暖簾」と言えば、記者などは木綿か麻でできているものしか浮かばないが、マンダリンホテルのそれは「レーヨン」(化繊)で出来ていて、白いカーテンのようだった。しかも5層の奥行きもあり、足元には既設の水盤もあった。日本橋に本社を構える東レが制作に協力していると聞き、なるほどと思った。「暖簾」の既成概念を根本的に変えた作品だ。
にんべんの出汁が煮える音とか鰹節を削る音も流れるという暖簾にもびっくりした。審査員の方も「すぐ買いたくなる」と話したのも大げさではない。これはすごい。だが、しかし、出汁(煮込みか)が煮える音は、窯ゆでにされたような恐怖を覚えないか。入る客も逃げ出さないか、少し心配になった。記者はかつて鰹節を削り、最上の昆布で味噌汁をつくっていたが、だし汁が沸騰する音は聞こえない。
それにしても、奇想天外な発想に呆れかえりもし、無限の可能性も感じた。あらゆる商品が〝五感に訴える〟時代がやってくるのではないか。〝シズル〟は広告業界の永遠のテーマなのだろう。
オープンセレモニー 参加者と審査員など