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「那由他(なゆた)」

 ナイスグループの菊池建設は69日、京町家などの伝統的な日本建築のデザインを踏襲しつつ、ZEH仕様の注文住宅新商品「那由他(なゆた)」を開発し、首都圏と静岡県の1都4県で本格的な受注を開始したと発表した。

従来商品「檜の家」と同様、土台や柱だけでなく羽柄材にも檜を用い、横架材である梁・桁は杉と唐松を採用するなど国産材使用率100%。町家の通り土間を想起させる、玄関から続く土間空間、古民家の雰囲気を醸す、ろくろ丸太の通し柱を配置した吹き抜け空間、段差を生かし、調理する人と食事をする人が一体となる食空間「和厨」などを提案。また、断熱等性能等級の最上位等級である等級7を確保しているほか、太陽光発電システムをはじめ、省エネ・創エネ設備の導入によりZEHを可能にし、伝統と最先端技術とを融合した快適な現代の「和」の住まいを実現する。

52.5坪の場合、税別の建物本体価格は 7,090万円(坪単価135万円)。

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土間空間

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吹抜け空間

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「和厨」

◇      ◆     ◇

昨日は、文豪・志賀直哉の居宅跡地を見学した。床板にアオギリ、柱にサルスベリ、縁側の板には船材と同じ木、壁は杉皮貼り、天井は網代組…。

 菊池建設といえば、歩くと床が鳴く「鴬張り」、値段が付けられない「神代欅」のモデルハウスが忘れなれない。「現代数寄屋『檜の家』」も見学している。今回の商品は坪単価135万円。安くはないが、高くもないような気がする。木が好きな人はたくさんいるはず。

 同社の松本敏社長、取締役営業本部本部長・二瓶正裕氏には絶滅危惧種にならないうちに「和風住宅の伝道師」になっていただきたい。一級建築士の肩書を持つ上場会社・グループの社長・役員はどれほどいるのか。

「士」の矜持を見た 添え物のヒノキも本物 菊池建設のモデルハウス「檜の家」(2021/9/11

人が歩くと床が鳴く「鴬張り」体験 匠の技と現代技術を融合 菊池建設のモデルハウス(1017/1/19

カテゴリ: 2023年度

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ifロゴ入り「リーズン我孫子 綴(つづり)のまち」

 ポラスグループの中央住宅は6月8日、世界3大デザイン賞の一つ「iF デザインアワード2023」(iF)の建築分野(住宅建築カテゴリー)で受賞した分譲戸建て「リーズン我孫子 綴(つづり)のまち」(全4棟)の街並みをメディアに公開した。iFを受賞するのはポラスグループもわが国の戸建て分譲も初の受賞。高いデザイン性(商品企画)が評価された。

 「iF デザインアワード(iF DESIGN AWARD)」は、1953年にドイツ・ハノーファーで誕生した世界で最も歴史の長いデザインアワードで、IDEA賞(アメリカ)、レッドドット・デザイン賞(ドイツ)と並び「世界3大デザイン賞」と呼ばれている。世界60か国から1万点を超える応募があり、iFロゴは優れたデザインの証として世界で広く認知されている。

 今年は1万件超の応募があり、約3,500件、うち建築分野では59件が受賞(わが国は27件)。住宅分野では、同社グループのほか永山祐子+永山祐子建築設計が受賞。昨年は隈研吾氏が受賞している。

 「リーズン我孫子 綴(つづり)のまち」は、JR我孫子駅から徒歩13分、千葉県我孫子市緑二丁目に位置する総開発面積約671㎡の全4戸。敷地面積140.31~196.90㎡、建物面積96.26~106.81㎡、価格は4,480万~4,980万円。販売開始は2021年7月で、同年10月に完売。竣工は2022年1月。地役権は、幅員6.1mの公道に面している1号棟は1.2㎡、敷地延長部分の2号棟は40.69㎡、3号棟は54.47㎡、4号棟は50.98㎡の合計147.34㎡。

 受賞した同社戸建分譲設計本部設計一部営業企画設計課参事・山下隆史氏、設計監理課主任・安川晃生氏、営業企画設計課係長・山﨑正吾氏はプレス・リリースで「我孫子市手賀沼周辺は、かつて『北の鎌倉』とも呼ばれる風光明媚な土地で、志賀直哉や武者小路実篤など数多くの文人が別荘を構えていました。この土地を取得した時、私たちが考えたのは、豊かな景観と文化性に富んだ土地の記憶を蘇らせ、この場所ならではの地域文化との関係に配慮した分譲地ができないかということです。区割りは、開発道路を囲んだ従来の区割りではなく、地役権を設定したうえで路地状部分の敷地を中央に集め、幅6mのコモン(庭小路)を創出しました。庭小路は、単なる車道ではなく住まい手の憩いの場所となる緑道空間であり、それを楽しむための縁側テラス・庭も設計し、それらが連なることで統一された我孫子の景観と一体となり、新しい風景を創り出しました」と語っている。

 山下氏は「以前から応募したいと思っていました。自信作ではありましたが、初の応募で受賞するとは思っていませんでした。Ifは差別性、デザイン性、影響力、アイデア、機能性の5角形のチャートで評価が数値化され、受賞・落選の理由が分かりやすくなっています。わが国のグッドデザイン賞のようなブラックボックスではないのがいい」と語った。

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ifロゴ入り「リーズン我孫子 綴(つづり)のまち」

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敷地境界を示す境界杭

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山下氏(左)と山崎氏

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 地役権を設定した分譲戸建てを同社グループはかなり供給している。先月見学した「NOEN KASHIWA SAKASAI-ノエン柏 逆井-」は素晴らしく、記者は「わが国の○○賞を総なめにする」と書いたほどだ。

 建築基準法第43条「建築物の敷地は、道路に2m以上接しなければならない」規定に適合させるためのコモンは珍しいことではないが、今回の「我孫子」のようにわずか4戸の規模で、公道に面していない3戸を接道させるため幅2m×3戸=6m×奥行き24.5m=約147㎡の公開空地が確保されているのに驚いた。地型など敷地条件に問題のある土地でも宅地化を可能にし、付加価値を創出できることを証明したといえる。

 山下氏が語ったわが国の「賞はブラックボックス」は改めないといけないと思う。ウッドデザイン協会は、今年度から落選作品についてもその理由を知らせ、プレゼンなどについてアドバイスするという。また、キッズデザイン協議会は昨年からifと連携することを決定している。

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 現地の裏山、徒歩で2分くらいのところに、「小説の神様」と称された文豪・志賀直哉が大正4~13年(1915~1924)に住み、「城の崎にて」「小僧の神様」「暗夜行路」などを著した居宅跡地があるというので見学した。

 道路幅員4mくらい、どこにでもある住宅街の一角にそれはあった。敷地面積は約3,700㎡(当時は約5,000㎡)、今は公園として公開されている。

 入口にはクスノキ、イチョウの巨木があり、敷地全体は樹齢100年超の樹木で覆われていた。道路から1~2m上がったところに母屋があったことを示す案内があり、端っこに書斎・茶室として使われた「離れ」が移築されていた。

 自らが設計し、地元の宮大工が建てたのだそうだ。大きさは6畳間のほかにトイレなどもあるので4坪くらいか。屋根や壁は杉皮葺き・貼り、柱はサルスベリ、垂木は虫食いの杉材、床柱はアオギリ(河東碧梧桐はこれから俳号をとったのか)、天井は舟形の網代組…志賀直哉は相当の風流人だったようだ。

 母屋の正面に名前の知らない年寄りのように幹が曲がった大木があった。丁度、地元の「長寿大学」の講師で我孫子市史研究センター副会長・荒井茂男氏が大勢の受講者を相手に説明されていたので聞いた。樹木は「エノキ」だそうで、志賀直哉はよく登ったのだそうだ。(登ったから腰が曲がったのではないだろう)。

 グリコのように2度おいしい取材ができた。

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志賀直哉が書斎・茶室として利用した「離れ」

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6畳間(床柱はアオギリ)

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虫食いの杉の垂木とこだわりのサルスベリの柱(と呼ぶのか、単なる意匠か)

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杉皮貼の壁

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志賀直哉が登ったエノキの巨木

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志賀直哉居宅跡地を観察する「長寿大学」の皆さん

初めて見た30%・50%×200㎡の分譲戸建て まるで別荘 ポラス「柏 逆井」(2023/5/2)

一石三鳥、四鳥 ビルトインガレージ採用 狭小地の課題解消 ポラス「BASE88」(2022/11/19)

日本一の街」完成祝う 中央住宅・高砂建設・アキュラ「浦和美園E-フォレスト」(2022/4/17)

邸宅跡地の樹齢100年 モミジの借景取り込む 歴史を紡ぐ企画奏功 ポラス「光が丘」(2020/12/4)

 

カテゴリ: 2023年度

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「IZM(イズム)」モデルハウス

 三井ホームは6月7日、35歳~45歳の子育て世代をメインターゲットにした新商品「IZM(イズム)」のモデルハウスを「レジデンスサイト横浜町田」内にオープンしたのに伴うメディア向け見学会を行った。住宅の内と外を緩やかにつなぐ半戸外空間「ラナイ」の提案や、内外観に木をふんだんに用いた仕様、白を基調にしたアースカラーのデザインが素晴らしい。

 「IZM(イズム)」は、コロナ禍による消費者の住宅選好の変化に対応する新商品で、〝仕事も遊びも自分らしく〟をテーマに昨年4月に販売開始。シャープな切妻屋根の「ウィングルーフ」、外からの視線をさえぎる「プライバシーウォール」、建物の家と外を緩やかにつなげる半戸外空間「ラナイ」、信楽焼のオリジナルタイル壁「モダンブリック」などを装備し、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)基準を満たし、住宅性能表示制度の最高等級「断熱等性能等級5」「一次エネルギー消費量等級6」に標準対応しているのが特徴。

 モデルハウスは4月29日オープン。3月26日に大阪箕面にオープンしたのに続く2棟目。敷地面積約241.92㎡(73.18坪)、建築面積約144.84㎡(43.81坪)、2階建て延床面積約187.64㎡(56.76坪)。価格は100万円/坪からで、提案段階では120万円/坪~150万円/坪が中心。

 昨年4月から今年3月末までの受注棟数は127棟で、50坪以上が33%、エリアは首都圏中心の関東が65%、関西が20%。顧客の年代は45歳以下が54%。

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1階LDK

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軒裏のレッドシダー

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「ダイニングラナイ」

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塚八幡宮の神木「ヒマラヤスギ」を採用したダイニングテーブル

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 見学会会場で配布された、マクロミル会員を対象にしたインターネット調査結果に注目した(有効回答1,317名)。調査は商品企画段階の2021年10月に実施されたもので、メインターゲット(以下、ターゲット層)の35歳~45歳の子育て世代が「環境問題や社会問題に配慮した商品を購入したい」という意向を示したのは75.8%(もっとも低いのは50~59歳の63.7%)、所有希望を含めた車所有が83.3%(同30~34歳の77.5%)、バーベキューが日常化しているのは44.7%(同50~59歳の27.1%)、多様な働き方が日常となっているのは75.8%(同50~59歳の52.9%)などの数値はなんとなく理解できる。

 家族で楽しめる中庭のニーズは26.9%で、「眺める庭」11.5%、「広めのバルコニー」15.2%、「屋外空間」10.6%、「庭は必要ない」8.6%などの回答は時代の変化か。

 驚いたのは、戸建てを購入すると想定した場合に購入したいデザインは「エレガント」「オーセンティック」「シンプル&スクエア」「ウッディ」のうちどれかという問いに対し、ターゲット層の52.8%は「シンプル&スクエア」を選んだことだ。他の年代の30%近くは「エレガント」+「オーセンティック」を選択したのに、ターゲット層は「エレガント」の9.4%、「オーセンティック」の11.3%を合わせ20.7%しかない。

 これをどのように解すべきか。小生などは三井ホームといえば「エレガント」+「オーセンティック」=吉永小百合さんで、「シンプル&スクエア」はパワービルダーの分譲戸建てしか思い描けないのだが、同社はコロナによる消費者の住宅選好の変化を取り込み、新たな顧客層の開拓に成功したとも受け止められる。

 とはいえ、前段の受注状況からして、「シンプル&スクエア」=低価格とみるのは早計だ。同業の記者の方が「ターゲットは富裕層が中心か」と質問したように、富裕層のニーズに十分応えられるものであり、ターゲット層のアッパーミドル、今風に言えばパワーカップルの潜在的なニーズを掘り起こし、受注単価増につなげた結果だと思う。

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「リフレッシュスタジオ」(天井には熊野ヒノキの木製ピーリング)

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 モデルハウスの「ダイニングラナイ」「オープンラナイ」「ガレージラナイ」などの容積不参入の「ラナイ」の提案が文句なしにいい。受注した127棟のうち50坪以上が33%で、同社の他の商品の受注棟数のうち50坪以上は22%であることからも「ラナイ」の提案がヒットしたことをうかがわせる。

 それと木の多用。1階の軒裏はレッドシダー、長さ約4m×幅約1mのダイニングテーブルは、2019年の台風19号で倒れた平塚八幡宮の神木「ヒマラヤスギ」、2階の「リフレッシュスタジオ」には、高級材とされているわが故郷・三重県の熊野産材のヒノキの木製ピーリングがそれぞれ採用されている。

 皆さんは熊野ヒノキをご存じか。年輪が密で強度が高いのが特徴で、急峻な山、土壌・地質、密植とも深い関係があるという。

 多雨地域で気候が温暖なことから木はよく育つと考えがちだが、肌理細やかで強かな建材にするには適度なストレスを与えることが必要だそうだ。(人間も同様だ)

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手前が2階の「リフレッシュスタジオ」、その奥がフラット床の裏ッと床の「スカイラナイ」

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左の壁が「プライバシーウォール」

 

カテゴリ: 2023年度

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「ルナつくば陣場 クルムフィールド」モデルハウス

 創建が分譲中の総区画195区画の土地・戸建て分譲地「ルナつくば陣場 クルムフィールド」を見学した。最寄り駅のつくばエクスプレス「みどりの」駅から徒歩26~29分の立地だが、1区画180㎡以上、戸建ては建物面積含めて3,500万~4,000万円台が中心。プラン&デザインのよさに感嘆した。

 物件は、つくばエクスプレス「みどりの」駅から徒歩26~29分・万博記念公園」駅から徒歩23分~26分、茨城県つくば市島名・福田坪一体型特定区画整理事業地内に位置する開発総面積約42,969㎡の全195区画。現在分譲中の停止条件付土地分譲(10区画)の土地面積は180.01~180.07㎡、価格は890万~1,590万円(最多価格帯1,500万円台)。分譲戸建て(3戸)は土地面積180.44~180.76㎡、建物面積119.20~142.79㎡、価格2,980万~3,670万円。建物は木造軸組み工法2階建て(外断熱工法)。施工は創建地所。

 区画整理事業の施行者は茨城県で、施行期間は平成12年度から令和11年度、施行面積は約242.9ha、総事業費は約481億円、減歩率は40.3%(うち公共減歩率は22.7%)、計画人口は約15,000人。同社のほかハウスメーカーなどの土地分譲・戸建て分譲が行われている。

 モデルハウスは、敷地面積約180㎡、建物面積約119㎡の2階建てと、敷地面積約181㎡、建物面積約140㎡の3階建て、敷地面積約180㎡、建物面積約142㎡の3階建ての3棟。建物面積が広く、設備仕様レベルも高いので価格は5,000万円超だが、一般住宅でも建物は全棟同社の外断熱工法「Kurumu」を採用するほか、51区画は次世代エネルギー基準値を上回るC値平均0.35㎠/㎡としたZEH対応とし、国産材を用いた高耐震・高耐久のハイブリッド工法・柱、窓は樹脂サッシのほか、床はウォールナット、チェリー、メイプル、オークなどの銘木単板、ガス乾燥機「乾太くん」を標準装備。

 事業地内には、敷地面積約241㎡、建物面積約129㎡の木造2階建てコミュニティハウス「人場テラス(ジンバテラス)」も設置。宅配ボックス、交流エリア、集会室、テレワークエリアなどを備える。

 今年2月から販売を開始しており、これまで約30区画を販売済み。順調な売れ行きとなっている。

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モデルハウス

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モデルハウス

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スカイバルコニー

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吹抜け空間と2階ホール

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 敷地が広く、建物も大きいからできることだが、プランがいい。2階建てモデルハウスは、1階は広いテラス付きでLDKは21.0帖、スキップフロアのスタディフロアは4.4帖、2階のセカンドリビングとしても利用が可能なホールと隣接する主寝室7.6帖を合わせると10帖以上だ。3階建てはさらに19帖分~24.7帖分のスカイバルコニーが付く。

 同社の取材は2020年2月の「災害被災神社再建・地域復興プロジェクト記者発表会&フォーラム」以来で、戸建て見学は2019年12月の「ルナ印西牧の原 クルム ザ クロス」以来実に3年半ぶりだが、カラーリングはさらに磨きがかかったという印象を強く受けた。好みはあるだろうが、今回のモデルハウスは内装は白と黒、グレーを中心にアースカラーを基調に、明るくて落ち着いた雰囲気をよく表現している。

 資料には、茨城エリアでは今回の物件を除き6物件645戸、千葉エリアは6物件1,630戸、埼玉エリアは4物件184戸、東京エリアは8物件176戸などを供給したとある。トータルすると24物件2,635戸だ。1物件平均約110戸。これほどまとまった規模を手掛けている首都圏ハウスメーカー・デベロッパーはまず他にない。郊外リスクを承知の上で郊外居住を希望する消費者のニーズをしっかり捉えているからできるのだろう。

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販売ギャラリー

千葉NT 印西牧の原の創建「INOCHI」(命)モデルハウス見学(2019/12/12)

「深く感謝」声詰まらせた閖上湊神社宮司 神社再建プロジェクト 第三弾発表 創建(2020/2/28)

 

カテゴリ: 2023年度

住宅・不動産企業の20233月期決算では過去最高の売上高、利益を計上する企業が続出し、株価は実に33年ぶりに最高値を更新した。新型コロナ感染症は、58日からインフルエンザ、淋病、梅毒と同じ「5類感染症」に移行し、マスクを外す人が増えているなど、街は明るさを取り戻しつつある(淋病、梅毒は死語かと思っていたら爆発的に増加しているという)。そんな中で、のどに魚の小骨が刺さったように気になるのは、住宅着工の持家が15か月連続して前年同月比で減少していることだ。復活するのか減り続けるのか、考えてみた。

        ◆     ◇

2022年の住宅着工総数は859,529戸で、構造別では木造が477,883戸(55.6%)、鉄骨鉄筋・鉄筋・鉄骨造が380,453戸(44.3%)。利用関係別では持家が253,287戸(29.5%)、貸家が345,080戸(40.1%)、分譲住宅が255,487戸(29.7%)。前年比では貸家が7.4%、分譲住宅が4.7%増加した一方で、持家は11.3%の2ケタ減少となり、16年ぶりに分譲住宅に抜かれた。ツーバイフォー工法による着工戸数は89,562戸(前年比5.1%減)、坪当たりの工事予定額は59.4万円(同増減なし)。プレハブ工法は106,680戸(同0.8%減)で、工事予定額は89.1万円(同3.8%増)となっている。

それぞれの木造戸数(比率)をみると、持家は221,324戸(87.4%)、貸家は112,260戸(32.5%)、分譲住宅が142,294戸(55.7%)となっている。

これを工事予定額(坪単価)でみると、全体では69.3万円で、前年の66.0万円から5.0%増加している。利用関係別の単価は、持家が69.3万円(前年比5.0%増)、貸家が75.9万円(同4.5%増)、分譲住宅が62.7万円(同増減なし)となっている。

分譲住宅を構造別・建て方別でみると、一戸建は52.8万円(同6.7%増)で、うち木造は49.5万円(同増減なし)、鉄骨造は92.4万円(同7.7%増)となっており、鉄筋コンクリート造共同住宅は89.1万円(同増減なし)だ。

分譲一戸建の単価を都道府県に見ると、もっとも高いのは島根県の59.4万円で、長野県、鳥取県、長崎県の56.1万円が続く。もっとも安いのは福島県の42.9万円で、他は46.2万円から52.8万円に収まっている。

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 これらの数値を眺めるといろいろなことが分かってくる。

 持家は前年比2ケタ減で、今年に入っても減少に歯止めがきかず3月まで15か月連続で減少となると、コロナ禍と関連づけざるを得ない。

 分譲戸建て市場はコロナ禍で意想外に沸き立ち、いまはその反動で勢いは減速気味だが、新築マンションや中古住宅市場動向からも、持家志向に大きな変化が起きているとは考えづらい。

 持家志向に変化はないものの、いまの経済社会状況を反映して住宅選好が多様化しているということは間違いない。持家か賃貸か、新築か中古か、マンションか一戸建てか、その選択の幅は広がっている-というよりは、富める者と貧しき者の格差が拡大し、二極化がどんどん進行しているとも読める。貧しき者はむしろ選択の余地が狭まっているのではないかと思わざるを得ない。

 富める者はどうか。分譲事業が絶好調の三井不動産の20233月期のマンション計上戸数3,196戸の平均価格は7,373万円(前期比931万円増)で、分譲戸建て420戸の平均価格は8,308万円(同717万円増)だ。完成在庫は戸建てはゼロで、マンションの55戸のみ。積水ハウスの20231月期の戸建(請負)の売上棟数は7,842戸(前期比6.1%減)となったが、1棟単価は4,619万円(前期比8.3%増)、坪単価は111万円(同6.4%増)で、戸建事業売上高は前期とほぼ同じ3,524億円を維持した。

 一方、全国491か所に営業拠点を置く〝分譲戸建ての雄〟飯田グループホールディングスはどうか。20233月期の売上高は14,397億円(前期比3.8%増)で、主力の戸建分譲住宅の計上戸数は40,826戸(同1.7%減)、1戸当たり単価は土地価格を含めて2,967万円(同2.7%増)だ。計上戸数は住宅着工戸数に換算するとシェアは27.9%を占め、沖縄県の55.4%を筆頭に東北は44.8%、北関東は34.9%、東海は32.2%、首都圏は30.5%に達するなど独走している。

 飯田グループの全国展開と関係があるかどうかは不明だが、分譲戸建ての単価がもっとも高い島根県には同社の営業所はなく、単価が次位の鳥取県と長崎県にはそれぞれ1か所、長野県は4か所だ。

 このほか、売上高1兆円超を目指すオープンハウスの20229月期の建売住宅計上戸数は5,907戸で、ケイアイスター不動産の20233月期の戸建ての計上戸数は6,226棟(土地販売含む)だ。この3社だけで戸数は約5.3万戸、市場の約4割を占める。

 前段で紹介したように、このところの用地の上昇、建築費・資材高で坪単価は全体で5.0%上昇しているにもかかわらず、分譲戸建てのみは前年と変わらない。圧倒的な市場占有率と価格競争力を持つ3社に対抗するには、アッパーミドル・富裕層にターゲットを絞るか、さらに価格を下げるほかなく、価格下げ圧力が強まっているからだと読める。記者は持家志向の相当数は価格が安い分譲戸建てに流れているのではないかと考えている。木造と鉄骨の単価差は倍近い。オーダーメイドかレディメイドか、選択できる人はどれだけいるのか。

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 上記のように、あれやこれや消費者の価値観・住宅取得意向について考えていたら、カーディフ生命が昨年12月に実施した「第4回 生活価値観・住まいに関する意識調査」がネットでヒットした。全国2,000人を対象に経済・社会活動の回復と、円安や物価上昇による将来不安の高まりが混在する中での人々の意識、行動、価値観の変化に焦点を当てたものだ。

 これによると、「老後資金が不安」は8割超で、主な理由として「年金額の減少」、「将来の物価上昇」、「医療費負担の増大」などを挙げている。

 住みたい家は「戸建て(持ち家)」が6割で、希望購入価格は平均2,846万円となった。「都心派」は49%、「郊外派」は51%と拮抗している。30代と40代では「郊外派」がそれぞれ55%、57%と優勢で、30代は「安価で広い住宅を購入できるから」(37%)、40代は「時間に縛られず、のんびりした生活を送りたいから」(31%)が郊外を選ぶ最大の理由としている。

 購入希望価格は飯田グループの分譲価格とほぼ一致する。これは偶然か。マンションなら土地代がただでも坪150万円以下はありえず、20坪で3,000万円だ。価格競争力のある〝建売り御三家〟はまだまだ伸びるということか。蚕食という言葉がぴったりだ。

カテゴリ: 2023年度

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九州八重洲「大野城市プロジェクト(ジョイナス大野城駅前)」

 ポラスグループの「NOEN KASHIWA SAKASAI-ノエン柏 逆井-」の記事で、似たようなものとして、HIRAMEKI・重松剛氏が設計を担当した「レーベンプラッツ大泉学園」を紹介した。重松氏に「ほかにこのような事例はありませんか」と聞いたら、重松氏は「他にもこのようなプロジェクトはあったと記憶していますが、どこの何という詳細までは把握しておりません」ということだった。ただ、建ぺい率30%、容積率50%の事例は「別荘ならともかく、戸建て分譲ではないのではないか」と話した。

 重松氏にHIRAMEKIが担当したプロジェクトについても聞いた。「都内では数少なく、小規模プロジェクトばかりがメインです」との回答で、次の4つのプロジェクトを紹介してもらった。素晴らしい物件ばかりだ。写真も添付してもらったので、以下に紹介する。

 セット「大鋸(だいぎり)プロジェクト」(2020年)

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 室町時代から大鋸引(おがびき)という職人たちが多く住んでいたことから名づけられた藤沢市大鋸」の荒れた山を再生する全4戸のプロジェクト。道路側から見て階段をジグザクにして出来るだけ階段を見せないように、樹木で覆いかぶさるようにしてもともとあった山のように再生しつつ住宅地化したもの。売主・セット社自慢の「作品」とか。

九州八重洲「春日原(かすがばる)プロジェクト」(2015年)

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 九州福岡の4戸のプロジェクト。庭を中央に集約し、緑を中心に暮らすような住宅地。

九州八重洲「大野城市プロジェクト(ジョイナス大野城駅前)」(2020年)

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 福岡県大野城市中央2丁目に位置する全6戸。土地面積は128㎡、延べ床面積110㎡の木造2階建て。「未来のオトナへ繋ぐ住宅群」をコンセプトに、駐車場+門扉は共有、全体敷地の中央に幅13m、奥行き7.5m、R7.5mの「園庭」を設置、建物は園庭が眺められるよう扇状に配置。南側に走る鉄道線路の騒音対策として「反射角」を利用して建物配置・形状を変え、シンボルツリー、外観ライトアップ、木材の多用、維持管理が楽な常緑低木の選定、駐車スペースの一部歩道空間化なども図っている。

日本エスコン「杉並プロジェクト(Park JADE 杉並和泉)(2015年)

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 方南町駅から徒歩8分、杉並区和泉四丁目に位置する全18区画。敷地及び延床が30坪程度の典型的な都市型戸建開発だが、緑で境界線を曖昧化し連続感のある空間を生みだす「路庭」、4戸1組の外部空間を作りだす配棟計画とし、神田川へ繋がるパスを設け、住民同士のコミュニケーションが発生する仕掛けを施しているのが特徴。太陽光発電により神田川の地下水を汲み上げ、路庭に沿って水のせせらぎも設けている。この年のグッドデザイン賞、キッズデザイン賞を受賞。

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 重松氏には、ランドスケープデザインが最高に素晴らしかった2016年分譲の総合地所「ルネテラス船橋」の見学取材で話を聞いている。敷地の緑化や外構にも力を入れており、芝生より安価でメンテフリーの「ダイカンドラ」を建物の際まで敷き詰めた住戸に驚愕したのを今でも思い出す。

 デベロッパー、ハウスメーカーの担当者の皆さん、「都内では数少ない」という重松氏に注文が殺到し、業界の〝レストランひらまつ〟になってもらおうではないか。いい加減、ぺんぺん草も生えない分譲戸建てをやめようではないか。

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重松氏(2016年撮影)

初めて見た30%・50%×200㎡の分譲戸建て まるで別荘 ポラス「柏 逆井」(2023/5/2)

敷地延長の難点を解消したプラン光る 総合地所「ルネテラス船橋」(2016/10/1)

タカラレーベン フェンス排除した驚嘆の戸建て「大泉学園」(2013/6/7)

カテゴリ: 2023年度

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「NOEN KASHIWA SAKASAI-ノエン柏 逆井-」(緑は地役権設定エリア)

 ポラスグループのポラスガーデンヒルズは5月1日、千葉県柏市の分譲戸建て「NOEN KASHIWA SAKASAI-ノエン柏 逆井-」のメディア向け現場見学会を行った。建ぺい率30%、容積率50%の第一種低層住居専用地域(以下30・50%)に位置する全8棟。敷地内に数十種、約200本の中高木を植樹し、全戸とも敷地面積を200㎡とし、住戸間のフェンスを最低限に抑え、歩道空間に地役権を設定することで回遊性を高めたランドスケープデザインが抜群。これまで45年以上分譲戸建てを見学・取材してきたが、このような物件は見たことがない。

 物件は、東武アーバンパークライン逆井駅から徒歩7分、柏市逆井5丁目の第一種低層住居専用地域(建ぺい率30%、容積率50%)に位置する全8棟。土地面積は200.05~230.14㎡、建物面積は94.14~100.19㎡、価格は4,080万~4,480万円。建物は在来工法2階建て。全棟完成済み。引き渡し予定は5月15日。昨年9月に分譲開始し、今年3月までに完売している。

 YKK APとパートナーを組み、地役権を設定することで共用の緑地空間をつくり出し、木々に囲まれた居場所や住民同士の交流の場を提供しているのが特徴。当初計画では、前面道路幅(幅員5m)が狭く、車の入れ替えが大変で、敷地延長部分の有効活用が難しく、住民同士のコミュニケーションがとりにくいなどの難点を抱えていたのを、駐車スペースを道路側に寄せることで2台並列駐車を可能にし、建物を敷地から1m以上セットバックさせ、境界ブロック、フェンスを最小限に抑え、「くつろぎの縁」「広縁」を設けることで住民同士のコミュニケーションの醸成を図ったプランに変更した。

 敷地内には数十種、約200本の中高木を植樹し、保水性の高いインタロッキング・敷石、ベンチ、散策の道などを設置。各住戸には土間、ウッドデッキ、DEN、ガビオン、立水栓、雨水タンクなどを設けることで、家の内と外のつながりを演出している。

 見学会に出席した各氏は次のように語った。(発言順)

 同社設計部部長・松井孝治氏 YKK APさんとは5年以上前から事業パートナーに加わっていただいており、今回はグリーンクリエイターの小西範揚さんにも企画に参画していただき、当社スタッフと一緒になって建物とエクステリア・外構を一体としたランドスケープストーリーを描いた。購入者は地元と都内の方が半々。青田売りでも早期完売できたのは、立地特性にあった企画が奏功したからだと考えている

 同社ガーデンヒルズ事業部ウッドガーデン事業所用地開発課課長・高島彰氏 用地は6年前、地元の不動産会社から地主さんの相続がらみで取得の打診があったが、建ぺい率30%、容積率50%では事業的に難しいと判断し取得を断念した。コロナ禍で市場が盛り上がったので〝今なら買える〟と取得を決意した。当初は5区画だったが、その後、2人の地主さんからなる隣接土地も取得できたので、当初5区画から全8区画となった

 同社ガーデンヒルズ事業部設計部企画設計課課長・工藤政希氏 建物の内と外、表と裏の空間を設計に取り込み、歩車分離、地役権の設定、南ひな壇設計、白が基調の外観、2.4mサッシ高などを採用したことで、緑豊かな空間でのんびり暮らせるイメージを表現できた。上司から〝面白いではないか〟と背中を押してもらったのも励みになった。樹木の維持・管理は、当社の供給事例からして負担は重くないことが分かっているが、ワークショップを行ってさらに居住者の負担を軽くしていきたい

 YKK APエクステリア本部クリエイティブデザインLAB統括部長・粟井琢美氏 〝モノからコト〟へ領域を広げるのがわれわれのミッション。建物が完成してからでなく、最初の段階から(ポラスさんと)一緒に考えたのがプロジェクトを成功に導いた大きな要因。無駄な空間など一つもない。余分な空間をみつけて指摘していただきたい(問いかけに答えるのが礼儀だと考え、粗探しをしようと思ったが、時間が足りなかった)

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電線は一部地中化している

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回遊歩道空間(右の建物は一部平屋としている)

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舗装は保水性の高いインターロッキング

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ガビオン(じゃかご)

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左から工藤氏、松井氏、高島氏、粟井氏(4人とも今年の○○賞を総なめすることを確信しているようだった)

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 同社から取材の案内が届いたのは2週間前だ。取材日は記事にもした豊四季の「体感すまいパーク柏」は3月28日、今回の逆井の「ノエン柏 逆井」は5月1日とあった。それぞれ往復の交通時間だけでも4時間、2日で8時間だ。なにも生産しない、お金だけがかかる休憩・食事時間を含めたら10時間以上だ。そんな時間とお金をかける価値がある施設・物件なのか、消費時間・金額に見合う記事が書けるのかと疑問に思い、スルーすることも考えた。

 しかし、パスしたら現場主義を貫く記者の沽券にかかわる。新しい発見もあるかもしれないと応じることにした。

 「体感すまいパーク柏」は素晴らしい施設で、それにふさわしい記事も書けた。目的の半分は達成された。無駄足ではなかった。(記事参照)

 そして今回。逆井駅に着いて、一服しようと喫茶店を探したが1軒もない。豊四季と同じだった。仕方なく、道々タバコを吸い、草花を摘みながら価格を予想した。現地までは立派な戸建ても建ってはいたが、畑・荒地などもかなりあり、田舎の調整区域そのものだ。並みの敷地30坪、建物30坪だったら3,000万円で売れるかどうかだろうとはじいた。

 ところが、あにはからんや。現地を見て、飛び上がらんばかりの衝撃を受けた。記者は45年以上分譲戸建てを見学している。バブルがはじける前までは素晴らしい分譲戸建てを見学しているが、バブル崩壊後は、一部のデベロッパー、ハウスメーカーを除き、価格ありきの土地が30坪程度の都市型戸建てが主流を占め、敷地にはぺんぺん草も生えないコンクリで固めた狭小住宅が市場を席巻している。

 「ノエン柏 逆井」はそれらの分譲戸建てとは似て非なるものだった。例えていえば別荘、林間住宅だ。こんな分譲戸建てを過去に見たことがあるか、記憶を総動員させた。真っ先に思い出したのは宮脇檀が設計した「高幡鹿島台ガーデン54」で、それに近いものでは積水ハウス「コモアしおつ」「コモンシティ伊奈学園都市」、タカラレーベン「レーベンプラッツ大泉学園」…などだが、それらとはまた異なるという結論に達した。

 何が凄いかといえば、圧倒的な緑の量と質だ。積水ハウスの「5本の樹計画」も素晴らしいが、「ノエン柏 逆井」は1戸当たりに換算すると約25本だ。かつて敷地はブルーベリーの農園だったそうで、その記憶をとどめるようにブルーベリーも植えられていた。(配布された資料にはどこにどのような樹木が植えられているか図示されているのだが、字が小さくて一つも読めない。主だった樹木には名札を付けるべきだ)

 もう一つは、地役権を設定し、全8棟の庭・歩道空間を回遊できるよう、コストダウンにもつながる住戸間のフェンス、土留めブロックなどを最小限に抑えていることだ。地役権を設定したこの種の戸建てを同社グループは結構分譲しているが、何しろ今回は敷地が200㎡だ。スケールが異なる。先に別荘、林間住宅と書いたのは大げさな表現ではない。8棟のうち敷地延長住宅は5棟あるが、それが販売面で難点になりそうな住宅は1戸もない。回遊空間は風通しを良くするための建物の形状(平屋)を変え、それぞれの住戸間の〝お見合い〟を避けるため配置を変え、室内から樹木や子どもが遊んでいる様子が分かるように窓にも工夫を凝らしている。心憎い気づかいだ。

 細かいことだが、ガビオン(じゃかご)が多用されているのもいい。土が紛れ込むことで草花が生え、いろいろな生物が生息するようになるはずだ。生物多様性にも配慮しているのがとてもいい。

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右の花瓶の花は記者が摘んだもの

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 冒頭に「このような物件は見たことがない」と書いたが、同社を始めどこのデベロッパーもハウスメーカーもこのような戸建てを手掛けていないのではないか。

 根拠は示せないのだが、そもそも30・50%の用途地域を指定している自治体などあるのだろうかというのがその理由だ。記者の知る限り、隈研吾氏の設計による建ぺい率40%、容積率60%の「プロスタイル札幌 宮の森」が分譲住宅としてはもっとも厳しいエリアに立地しており、用途指定では田園調布、横浜山手町、芦屋市・六麓荘は建ぺい率40%、容積率80%だ。

 国土交通省に30・50%の用途地域を定めているところは全国にあるか聞いたが、「把握していない。各自治体に聞いてもらうしかない」という回答だった。

 そこで、柏市に聞いた。市内で唯一30・50%となっているのが、今回の物件が位置する逆井5丁目エリアだ。市の担当者によると、昭和48年、区画整理事業を予定していた逆井5丁目の調整区域を30・50%と暫定指定したが、地権者の同意が得られず区画整理事業はとん挫、そのまま30・50%の指定のみが残ったという。近隣の区画整理事業地は建ぺい率50%、容積率100%に指定されている。

 ポラスにも30・50%地域で分譲した事例はあるか聞いた。広報は「調べてみないと分からない」とのことだった。同社の調整区域開発の「ハナミズキ春日部・藤塚」(22戸)は建ぺい率60%、容積率200%だ。30・50%開発は今回が初めてのはずだ。同社が本拠とする埼玉県は、第1・2種住居専用地域は全用途の18.1%しかない(東京都は37.4%、千葉県は31.4%、神奈川県は31.0%)。

 後日、工藤氏からメールが届いた。同社はかつて、同じ逆井エリアと千葉県鎌ケ谷市の30・50%地域で分譲事例があるという。また、東京都羽村市にも30・50%地域があると教えられた。確認した。その通りだった。工藤氏はただものではない。どうして調べたのか。

 それにしても、2日間で往復10時間(取材時間を含めれば15時間)かけた甲斐があったということだ。企画によっては、見向きもされない土地に光を当て活性化させるヒントがここにある。価値のある記事かどうかは読者の皆さんが評価することだ。

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外の借景を取り込む窓(サッシはYKK APの樹脂サッシ)

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ドアはドアノブを含めて白で統一(デザインが美しい)

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工藤氏から送られてきた鎌ヶ谷市の都計図

延床876㎡の木造事務所 工期5か月、建築費坪110万円 ポラス「体感すまいパーク柏」(2023/4/29)

調整区域の市民農園付き200㎡邸宅 ポラス「ハナミズキ春日部・藤塚」企画秀逸(2020/7/3)

敷地100坪 建物30坪の平屋 ミラースHDの戸建て「南栗橋」企画ヒット(2022/11/13)

隈研吾氏が設計 坪700万円超でも好調スタート プロポライフ「札幌 宮の森」(2022/9/23)

あきる野市、江東区、神川町、台東区、三芳町…これは何か 首都圏 用途地域全調査(2022/10/31)

タカラレーベン フェンス排除した驚嘆の戸建て「大泉学園」(2013/6/7)

 

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「北浦和みのりプロジェクト」

 ポラスグループ中央住宅は4月22日、既分譲の戸建て住宅地「北浦和みのりプロジェクト」(全51棟)に設置したポタジェ(家庭菜園)を活用したワークショップを開催し、その模様をメディアに公開した。

 同プロジェクトは、最寄り駅の武蔵野線東浦和駅、京浜東北線の北浦和駅からそれぞれ徒歩時間を含めてバス利用で20分前後かかる難点を逆手に取った「居・食・住」のコンセプトが奏功し、昨年3月に分譲した第1期分譲の34戸を即日完売するなど早期完売した。

 今回のワークショップは、近くにある見沼田んぼの「こばやし農園」とコラボしたもので、春・夏・秋の3回予定されているうちの1回目で、午前・午後の2部構成で参加は任意。午前の部には、前日とは打って変わった寒さだったにもかかわらず、対象25世帯のうち11世帯が参加。それぞれ自己紹介を行い、配布されたミニトマト、シシトウ、レタスの夏野菜の特徴、植え方などをこばやし農園の小林弘治社長からレクチャーを受け、それぞれ持ち帰って自宅のポタジェなどに苗木を植えた。欠席した家庭にも苗と植え方、育て方などが書かれたこばやし農園作成の資料が配布された。

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会場になった提供公園

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配布された左からシシトウ、ミニトマト、レタス(このほかこばやし農園自家製の米ぬか、鶏糞が原料のボカシ肥料も配布された)

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 昨年7月に行われた同プロジェクトの見学会でも記事にしたが、マンションも戸建ても、その地域特性にマッチしたコンセプト、ターゲットを明確にすれば、アクセスなど多少の難点があっても売れることを証明した物件だ。

 ワークショップに集まった全世帯とも、小さな子ども1~3人の子育て世代だった。通学区の小学校まで遠い家でも2分とかからないのではないか。交通事故などの心配もいらないはずだ。周りには畑などもあり遊ぶには事欠かない。育児・教育環境は抜群なのをこの日も確認することができた。

 記者自身も学ぶことが多かった。ミニトマトは育てたことがあるので知っているが、水遣りなどはあまりやらず、ストレスを与えたほうが美味しい。確か多年草のはずで、そのことを小林氏に聞いたらその通りで、わが国では冬の寒さに耐えられず枯れてしまうということだった。

 シシトウもよく食べるが、辛いのが好きなのにスーパーで買うシシトウはどうして辛くないのか、また小林氏に聞いたら、シシトウもストレスを与えたほうが辛いものができるということだった。辛いか辛くないかは食べてみないと分からないという(記者は黄色味を帯びているのが辛いと思っていたが…)。1つの苗で、収穫期には毎日食べても食べきれないほど実がなるそうだ。

 なるほど。野菜はストレスを与えたほうが美味しいものができる…人間はどうなのだろう。

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「ポタジェの土壌を分析しました。pHは6.13。うちの農園と同じくらい非常にいい。トマトの水遣りは天気に任せて大丈夫。ほっとくと2mくらいに育ちますので、適当なところで切り、支柱で支えてください。わき芽は取ってください。かなり楽しめるはずです」小林氏

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「シシトウは山のように育ちますので、本当は50cmくらい離して植えたほうがいいのですが…7月から11月ころまで収穫できます」小林氏

奇跡の「見沼たんぼ」に着想 立地難逆手に取った商品企画光る ポラス「北浦和」(2022/7/10)

 

 

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東日本不動産流通機構(東日本レインズ)は410日、20233月の首都圏不動産流通市場動向をまとめ発表。中古マンションの取引件数は前年同月比1.1%増の3,442件、成約㎡単価は同6.8%上昇の69.83万円、価格は同6.8%上昇の4,441万円、専有面積は同0.02%増加の63.59㎡となった。

成約件数は2月に続いて前年同月を上回り、成約㎡単価は205月から35か月連続、成約価格は206月から34か月連続でそれぞれ前年同月を上回った。専有面積はほぼ横ばいながら215月以来22か月ぶりに前年同月を上回った。

中古戸建の成約件数は前年同月比1.2%減の1,186件、価格は同4.6%上昇の3,914万円となった。成約件数は221月から15か月連続で前年同月を下回り、成約価格は2011月から29か月連続で前年同月を上回った。

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「ノキテラス−2階建て−」(左)と「ハコテラス−3階建て」

 大成建設ハウジングは3月16日、建築家・隈研吾氏とのコラボレーションによる壁式鉄筋コンクリート住宅「パルコン」の新たな戸建住宅「モクコンの家」を同日から発売すると発表した。「パルコン」の強さと、木のやさしさとぬくもりのある外観とテラスを併設するのが特徴。発売地域は関東、東海、関西、九州(一部地域を除く)。

 以下、同社のプレス・リリースで紹介されているインタビュー記事全文を紹介する。

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-パルコンについて、どういった印象をお持ちでしょうか。

 隈氏「パルコンには、コンクリート住宅の総合的な強さを感じます。」

 住まいは人間の生活を守る、そして人間自身を守る非常に大事な器だと思います。そこでは何よりも安心感が求められます。
 大成建設ハウジングが手掛けるパルコンは、コンクリート住宅ならではの耐震性が安心感につながり、安らぎという家の基本的な条件を満たしていると考えます。また、よく知られているように耐火性、防音・遮音、断熱・気密など、他にも優れたポイントがたくさんあり、さらに劣化に強く耐久性がある点はまさにサステナビリティという時代の要請にも応えていると思います。
 いま、コロナ禍を経て住宅の役割が増えたと感じています。これまで家は社会とは切り離された場、という位置づけでしたが、社会と個人の接点として住宅が意識されるようになりました。仕事をする場所、人と集う場所、クリエイティブな場としての機能が求められます。そうした社会的な役割を果たすためにも、コンクリートという災害に強い素材こそ大切なのではないかと考えています。

 -デザインのこだわりについてお聞かせください。

 隈氏「木のぬくもりと、半屋外スペースです。」 

 私が携わる建築では、木のぬくもりが大きなテーマです。人類にとっていちばん古くからの友人として「木」がそばにありました。手触りのあたたかさ、やわらかさをいつも感じられることが大切なのです。
 今回のパルコンでも木材をふんだんに使い、見た目にも手触りとしても、自然のやさしさが感じられることを重視しました。「ノキテラス」の大屋根とファザード、「ハコテラス」の木製テラスなど、ぬくもりある木の質感が特色です。
 また、屋上の庭園スペースや、室内と屋外をつなぐテラスなど、これまでの一般的なテラスやバルコニーを超えた、空間の豊かさを持った半屋外スペースを設けました。どちらもコンクリートならではの堅牢性によって、半屋外を生活の場として使用することが可能になっています。屋外でも人がゆったりと過ごせることを前提で考え、いろいろなシーンの演出を想定してみました。外気の心地よさを、広がりのあるスペースで感じることができます。特に「ハコテラス」はバルコニー上部の開放感に注目していただきたいと思います。

 -玄関から続くミュージアムは、何を目的に作られましたか。

 隈氏「住宅と社会をつなげたい、と考えました。」

 今回のプランは、アプローチから玄関を入り、そのままミュージアムスペースが連なっているのが大きな特徴です。アフターコロナを見据えてそこにいろいろな人々が集うシーンを思い描きました。仕事をする場、クリエイティブな発想が生まれる場として機能することはもちろん、住宅と社会がつながる際のひとつの形を体験していただけるでしょう。
 ミュージアムは住む人の創造性の拠点となると同時に人を招き入れて打ち合わせや交流するスペースにもなる。またその場にいる人がリラックスできることも大切。多目的でフレキシブルに活用できるスペースです。

 -ZEHへの対応についてはいかがでしょうか。

 隈氏「サステナブルなデザインと技術があります。」

 これからの住宅を考える上で、持続可能性は大きなテーマです。ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)に対応しているかどうか、住む人もそこに集う人も、省エネルギーに関心が集まる部分だと思います。
 今回の家はZEH対応設備だけでなく、木材を多用した住み心地の向上、充分な植栽スペースの想定などトータルにサステナブルであることが特徴です。
 素材や構造といったエンジニアリングだけでなく、デザインとエンジニアリングが一致している部分をぜひ体験していただきたい。そうした点で、サステナブル住宅のひとつのモデルになるだろうと考えています。

 -この新しい邸宅は、一言で表すならどんな家でしょうか。

 隈氏「住む人が、自分の創造性を発見する場所です。」

 この家は住む人の「自由」を信頼している部分があります。空間はなるべくシンプルに作り、住む人がどんな風にその空間を使いこなしていくのか。住む人の自由、住む人の創造性を活かす場所がたくさんあります。
 ぜひクリエイティブに住んでいただければと思います。
 半屋外の空間にいろいろな家具を持ち込んで、いかに日常的な場として使いこなすか。屋外を生活空間に組み入れるのは新しいトレンドでもあり、そのトレンドをご自分のセンスで実現できるのです。
 そしてミュージアム。自分のコレクション、蔵書などで満たしたクリエイティブなスペースとして、ぜひ自由に使いこなして欲しいと思います。この家がキャンパスだとすると、皆さんがいままで見たことのない絵を描くだろうと期待します。家が、自分自身の新しい創造性を発見する場所になるのです。
 新しい創造力がコンクリート住宅という安心感の土台の上で開花し、サステナブルに社会と繋がるでしょう。

◇        ◆     ◇

 隈氏が「プレファブ」とコラボするのに驚いた。しかし、隈氏は20年も昔から、「木」と「コンクリ」の〝融合〟を考えていたと思われるふしがある。著書「負ける建築」(岩波書店、2004年)の「Ⅲ-3 コンクリートの時間」の中に次のような記述がある。

 「建築という『形』を持つものを用いて、移り行く不確かな状態を固定化し、確実なものにしようという欲求がこの時代(20世紀)を支配した。その意味でこの時代は『形』の時代でもあり、『建築』の時代でもあったのである」
 「その欲求に対して、コンクリートほど見事に応えてくれる材料はほかに移り行く流動的なものが、コンクリートにおいては、一瞬にして形を持ち、固定化されるのである」
 「しかし、今や、そのような固定化こそ、人々の嫌悪の対象になりつつある。自由を自由のままに楽しみ、移りゆくものを移りゆくままに享受する生活態度を、人々は獲得しつつある。そのような時代には、永遠に固定化されることのない材料、工法が求められるようになるであろう。例えば木造の時間」
 「木造はコンクリートのように液体状態の自由を持つこともなければ突然に強くなることもない。いつもそこそこに不自由で、そこそこ弱いのである」
 「時間とは永遠にだらだらと続くものだということが木造の本質である。…それは二〇世紀の『工業化』『プレファブ』の時間とも全く異質のものである」
 「いかなる形にも固定化されようのないもの。中心も境界もなく、だらしなく、曖昧なもの…あえてそれを建築と呼ぶ必要は、もはやないだろう。形からアプローチするのではなく具体的な工法や材料からアプローチして、その『だらしない』境地に到達できないものかと、今、だらだらと夢想している」

 今回の「モクコンの家」は、この夢想を具現化しようという試みのように記者は感じるのだが、みなさんはいかがか。

 

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