マンション管理適正評価制度にインセンティブを 国土交通省へ要望 マンション管理協
写真左は国土交通省 住宅局・下村参事官(左)と同協会 小佐野 業務・法制委員長、写真右は同省不動産・建設経済局・宮本参事官(左)小佐野氏
マンション管理業協会(理事長:高松茂・三井不動産レジデンシャルサービス会長)は8月25日、「マンションの適正な管理を確保するための方策に関する要望」を国土交通省に8月23日に提出したと発表した。要望は以下の通り。
【Ⅰ】マンションの適正な管理を実現するための方策
(1)管理計画認定マンションで長寿命化に資する大規模修繕工事が実施された場合の固定資産税額を減額する特例措置が創設されたが、同協会で行う評価制度において、一定の評価を受けたマンションのインセンティブとして、制度の対象の拡充を検討いただきたい
(2)住宅金融支援機構によるマンション共用部分リフォーム融資(高齢者向け返済特例)の金利について、マンションすまい・る債積立管理組合に適用される金利と同程度に優遇していただきたい。同融資の保証料についても、減免もしくは免除を検討いただきたい。また、住宅金融支援機構によるマンションの専有部分において部分的バリアフリー工事やヒートショック対策工事を行う際のリフォーム融資(高齢者向け返済特例)の金利優遇や保証料の減免もしくは免除を検討いただきたい
【Ⅱ】適正な管理組合運営を担保するための法関連の見直しに関する要望
(1)マンション標準管理規約の改訂を検討いただきたい
(2)分譲マンションにおける管理員配置義務の緩和について、東京都23区では各区毎にマンションに対する条例(規定)が設けられているが、管理員の駐在体制について、廃止もしくは緩和に関する国土交通省の力添えを頂きたい
全て流通材、組子格子耐力壁を現しで表現 AQ Group「8階建て純木造ビル」見学会
建築中の「8階建て純木造ビル」
AQ Groupは8月25日(金)、さいたま市で建築中の新社屋「8階建て純木造ビル」の構造現場見学会を開催した。今年9月10日予定されている上棟式を前に、純木造のよさを理解してもらうのが目的で、1階と6階部分がメディアに公開された。また、建築中のビルをメイン会場にした総勢15,000人の「夏休みの木育課外授業 つくろう!木育フェス」も同日実施した。
「8階建て純木造ビル」は 市場に流通している住宅用のプレカット材を採用し、特殊金物を用いないで地場の工務店が在来工法で建築するわが国初の試み。木材使用量は約3,655㎥(木造住宅300~400棟相当分)、国産材はヒノキ、カラマツなど全体延床面積の7.7%、CO2排出量は非木造の2分の1以下、炭素貯蔵量は約2,578t-co2(スギ約5,104本相当)、11mスパン、階高3800ミリ、天井高3000ミリなどが特徴。耐用年数はRC造と同様の47年の評価を取得する予定。
見学会で宮沢俊哉社長は、「今から100年前に関東大地震が起こり、わたしが生まれた1949年には伊勢湾台風に見舞われ、以来、木造禁止令のごとく、わが国の建築物は鉄やコンクリが中心になった。現在は、木造は世界的に注目を浴びている。大工の一人として、わが国の伝統的な在来工法を広めるのが天職・使命として新社屋の建設を決意した。経営者としては不安だらけ、大きな挑戦だが、トライ&エラーを繰り返しながら、コストの壁、工法の壁、偏見の壁を乗り越え、木造建築物を普及させていく。コストは一般的な鉄骨造と比較すると同じか、やや高くなる程度」と語った。
わが国の木造建築研究の第一人者で、同社の木造建築技術向上に大きな役割を果たしてきた東京大学大学院教授・稲山正弘氏は、「大規模木造ビルとしては昨年4月に完成した免震工法の大林組のビル(11階建て延床面積約3,502㎡の「Port Plus大林組横浜研修所」)があるが、木造軸組工法による耐震構造のビルとしては今回が日本初。阪神・淡路大震災クラスの震度7を想定した5階建て実大実験でも完全性が確認できた。特殊金物を使わず、在来技術と流通材を使用した8階建て6,000㎡超のビルというのが最大のポイント。4階までは2時間耐火、4階以上は1時間耐火で、組子格子耐力壁を室内現しデザインとして採用している。耐力壁は一見してきゃしゃで細いものに映るが、20トンの重量に耐えられる」と話した。
ビルの基本設計・実施設計を担当している野沢建築工房担当者は建築概要を説明し、コストのかかる特殊金物を用いず、大臣認定が少ないサッシ・外壁・区画貫通部材の少なさ、スプリンクラーを設置せず法令の範囲内で現わしを実現した苦労などを紹介した。
施設は、JR大宮駅からバス約15分、さいたま市西区三橋5丁目に位置する敷地面積約9,000㎡(約2,700坪)。本社ビルは敷地面積約5,424.46㎡、木造軸組工法による耐震構造の延床面積約6,076㎡。基本・実施設計は野沢正光建築工房。構造設計はホルツストラ。施工は田中工務店、伊佐建設。このほかショールーム、実験棟、宿泊体験棟6棟合計の総延床面積は約11,200㎡。着工は昨年9月。完成予定は2024年春。
左から宮沢氏、稲山氏、野沢建築工房担当者
見学会会場となった1階部分
完成予想図
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いま、木造による集合住宅、ビル建築が脚光を浴びており、大手ゼネコンやデベロッパーが〝覇権〟を争っている。一方で、AQ Groupは非上場、施工の田中工務店は埼玉を本拠とする地場建設業者だ。耐力壁に使用している木は埼玉県産材や国産材だ。これが嬉しいではないか。
宮沢氏は、今回のビルには「耐力壁ジャパンカップ」「カベワンGP」などで培った技術の一部を注ぎ込んだと語ったが、それは「組子格子耐力壁」に表れていた。稲山氏は「きゃしゃで細い」とも話したが、どうしてどうして、これが強い。特殊金物をたくさん用いた耐力壁と互角の争いをしたのを記者は何度も見ている。写真を見ていただきたい。何かに似ていないか。六角形、ハチの巣、ハニカム構造だ。(坂茂氏が設計した芝浦工大のレストランにもこのハニカム構造が採用されていた)
コストについて。この種の見学会では、必ず鉄やコンクリとの価格が話題に上る。誰もが知りたいことではあるが、記者はもうそんな論議はなしにしたほうがいいと思う。
木造メーカーは鉄やコンクリと比べて安いことを全面に掲げてきた。しかし、考えてみれば、あらゆる商品は価格が安ければいいかということではない。価格に見合う価値があるかどうかで判断するのが普通だし、そもそも木造と鉄、コンクリはそれぞれ特徴があり、単純比較などできないはずだ。例えていえば、ペットは犬か猫か、ナイフとフォークを使って食べる肉と手づかみで食べるウルメイワシのどっちが美味いか、ワインか日本酒かを論じるようなものだ。文化と趣向の違いだ。
もうそんな不毛な論議はやめて、木造であれば、燃やしてもCO2を空気中に増やすことにならず、炭素を固定する脱炭素社会・カーボンニュートラル社会の実現に欠かせない資源であり、国産材の利用はわが国の森林・林業の再生・活性化に貢献しており、さらにまた外観・内観が人にもたらす心理的効果などを定性的かつ定量的にきちんと図るモノサシを確立すべきだと思う。
国産材を採用したハニカム構造の「組子格子耐力壁」
工事中の6階部分
6階部分の天井
接合部分
わが国初の「5階建て純木造ビル」/「カベワンGP」7度目V アキュラホーム(2022/11/15)
木造の英知結集 日本初 現し8階建て 特殊金物用いず低コストで建設 アキュラ本社ビル(2021/10/28)
ミサワホーム 「いつも」「もしも」ZEH対応 トレーラーハウス「MOVE CORE」発売
トレーラーハウス「MISAWA UNIT MOBILITY『MOVE CORE』」
ミサワホームは8月24日、工業化技術を生かした「いつも」「もしも」の両面で社会課題解決に貢献するフェーズフリーのトレーラーハウス「MISAWA UNIT MOBILITY『MOVE CORE』」(以下、「ムーブコア」)を9月1日から全国販売を開始すると発表。発売を前にした8月23日、同社高井戸本館に設けた実売モデル2台をメディアに公開した。
「ムーブコア」は、半世紀以上も南極昭和基地の建設実績や、「南極移動基地ユニット」を開発し、JAXAなどとの共同研究成果をもとに商品化したもの。
仕様は、同社の工業化住宅とほぼ同じで、車検対応のトレーラーシャーシを利用するため自由に移動が可能。車検、道交法の適用は受けるが、建築基準法による建築物でないため、容積率、建ぺい率など様々な規制の適用を受けず、固定資産税、都市計画税などの課税も課せられないのが特徴。
設備は、可変性を可能にするため糊や釘を使わず容易に施工できる乾式内装とし、重量規制に適合させるため、天井は700g/㎡の超軽量のボード(通常は6.6㎏/㎡)にしたり、着脱可能な設備にしたりしている。
エクステリアは、設置・取り外しを容易にするため乾式外構を提案しており、蛇篭、100%リサイクル素材「M-WOOD2」のウッドデッキを採用。また、災害時の停電や断水に対応することを想定し、太陽光発電システム、蓄電池、電気自動車から電気の供給を受ける「クルマde給電」、雨水・海水などを生活用水として利用できる水循環利用システム、災害時でも通信可能な衛星通信の設置も可能。
用途は、宿泊施設、オープンカフェ、リゾートオフィス、応急仮設住宅、医療施設、個人住宅の離れなどを想定している。
発表会に臨んだ同社執行役員 商品・技術開発本部長 桜沢雅樹氏は「防災の日でもあり関東大震災から100年目の節目である9月1日に販売開始する。当社のこれまでの工業化技術をそのまま利用したもので、住宅と同様、ZEHレベルを満たしている。多様な用途に対応が可能なので、無限の可能性を秘める商品。BtoB、BtoCを中心に事業化を図っていく」と語った。
構造は「耐震等級3相当」(建築物と想定した場合)、防火は「不燃」、断熱性能は「Ua値0.59W/㎡・K」、遮音等級「Dr-35」など。寸法は全長約6,140ミリ×全幅約2,490ミリ×全高約3,780ミリ。重量は約3.5トン。価格は800~1,000万円。
宿泊施設内観
応急仮設内観
モジュールファニチャー
宿泊施設のシャワーブース(左)とトイレ
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この種の取材・見学は3度目だ。最初は、三菱地所が2020年にオープンした新宿三丁目の「バスあいのり3丁目テラス」で、2度目は一昨年の三井不動産「HUBHUB(ハブハブ)プロジェクト」だ。
建築物ではないから、建築基準法の規制を受けず、固定資産税などの課税も受けないのが味噌だ。桜沢氏は「無限の可能性を秘める」と語ったが、記者もそう思う。外周から計算するとトレーラーの広さは15.3㎡(4.6坪)。サッシは樹脂サッシで、天井高は2500ミリ、トイレはパナソニック「アラウーノ」。用途によってリビングベンチ下収納、スライドベッド、「蔵」収納などを設けることができるようにしている提案もいい。
水循環利用システム
エクステリア
蛇篭
「柳屋」に勝てるか 旅館業&トレーラーがミソ 三井不「HUBHUB 日本橋人形町」(2021/11/18)
三菱地所 生産者-産地-消費者つなげる屋外空間「バスあいのり3丁目テラス」開業(2020/9/5)
三菱地所 インドに初進出 350億円(同社持分50%)のビル事業に参画
アトリウム
三菱地所は8月22日、同社グループとして初のインド投資事業となる、チェンナイでのビジネスパーク開発「International Tech Park Chennai, Radial Road」に事業参画したと発表した。
事業は、シンガポールの大手デベロッパーCapitaLandグループの投資運用会社CapitaLand Investment Limitedが推進するプロジェクトに参画するもの。チェンナイは、ベンガル湾を望む南インドの玄関口に位置するインド第4の都市で、今後10年超にわたってアジア全域でも有数の成長が見込まれるという。事業地は「New IT Corridor」と呼ばれるIT企業等が集積するRadial Road沿いに立地。敷地面積約5.25ha、11階建て2棟、延床面積約240,000㎡。総事業費は約200億インドルピー(約350億円)、同社事業持ち分は50%。既に着工済みで、竣工予定は2024年末~2025年初。インドのビジネスパーク開発としては、初のネット・ゼロビル認証を取得する予定。
同社は、引き続きマーケットの特性を総合的に勘案しながら、チェンナイに限らず、インドでの事業機会を模索していくとしている。
外観
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わが国の不動産投資事業のことすら分からないので、海外事業のことなどさっぱりわからないのだが、国連人口基金(UNFPA)の「世界人口白書2023」によると、これまで人口が世界最多とされてきた中国は14億2,570万人なのに対し、インドは14億2,860万人だ。いつの間にか抜き去った。出生率からしてこの差は拡大するのは間違いない。
カントリー・リスクが高い中国を始め東南アジアにどんどん進出しながら、どうして有望市場であるはずのインドにデベロッパーは進出しないのか、記者はずっと不思議に思っていた。
現状はどうか。在インド日本大使館がジェトロと共同で作成した2021年10月時点での「インド進出日系企業リスト」によると、進出日系企業は1,439社で、拠点数は4,790か所(2020年4,948か所)。業種別では「製造業」が全体の48.7%を占めており、不動産業は大和ハウス工業のほか10社くらいしかない。
三菱地所の進出で後続するデベロッパーが続出することになるのか。
東京建物不販 「マンション管理適正評価制度」サイトに掲載
東京建物不動産販売は8月22日、東京建物住みかえサイト「マンションデータベース(https://sumikae.ttfuhan.co.jp/database/)」にマンション管理業協会が運営する「マンション管理適正評価制度」で評価された物件を同日から開始したと発表した。
同制度の紹介サイトは東急リバブル、三井不動産リアルティ、野村不動産ソリューションズ、アットホーム、大京穴吹不動産に次いで6社目となる。
★5つは21% 会員間の競争を促すべき マンション管理協 マンション適正評価制度
マンション管理業協会理事長:高松茂・三井不動産レジデンシャルサービス会長)は8月18日、2023年度第1四半期のマンション管理適正評価制度の登録状況をまとめ発表した。
登録件数は1,359件(2022年3月末1,195件)で、★の数別では★2つが167(登録件数に占める割合12.3%)、★3つが457件(33.6%)、★4つが444件(32.7%)、★5つが291件(21.4%)。竣工年別では最多竣工年帯が2001年~2010年が全体の27%を占め、戸数が多くなるほど★5の割合が高くなり、築浅になるほど★5の割合が高くなっている。
今後の加点ポイントとして、管理規約の改正、認定基準の要件に準拠した「長期修繕計画」の作成、国の基準額を上回る修繕積立金の設定、防訓練の実施などをあげている。
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記者は、中古マンション購入検討者だけでなく、新築マンション購入検討者もまた、この適正評価制度は参考になると期待している。
なので、2023年3月末時点での★5つのマンション232件を管理会社別にまとめたのが添付した記事だ。
ベスト5は①伊藤忠アーバンコミュニティ(UC)43件②三井不動産レジデンシャルサービス35件③野村不動産パートナーズ33件④長谷工コミュニティ24件⑤東急コミュニティー18件だった。
伊藤忠都市開発のマンション商品企画は高いレベルにあるのは取材を通じて分かってはいるが、累計供給戸数では上位10社にも入らないはずだ。なのに、どうして★5の管理戸数が多いのか。今年9月に行われた同協会の総会で、伊藤忠アーバンコミュニティ代表取締役社長・深城浩二氏に聞いた。
深城社長は「星の数が多いことのみが高い評価を得ているとは考えていない。星が2つでも3つでも進んで登録しようとする管理組合を増やすようにしなければならない。そこに価値がある。当社のスタッフもそのために頑張っている」と話した。
★の数より登録件数という優等生的な回答に驚き、納得もしたのだが、ならば、同協会副理事長・小佐野台氏(日本ハウズイング代表取締役社長CEO)が「2年後のマンション適正管理評価件数を1万戸にするには、会員354社の管理件数の1割で達成できます。ちょうど1割、たった1割で達成できます」と呼び掛けたように、同協会は管理会社別の登録件数や管理戸数に占める登録件数比率を公表し、会員会社間の競争を促すべきだと思っている。そうしないと2年後の登録件数1万件達成は難しいのではないか。
星の数より件数2年後の適正管理評価1万件目指す マンション管理協 総会・懇親会(2023/6/14)
登録件数1000件突破 ★5つ最多は伊藤忠アーバン マンション管理適正評価(2023/4/2)
オープンH 三栄建築設計を完全子会社化へ/「コンプライアンス意識欠如」第三者委
オープンハウスグループ(オープンH)は8月16日、東証プライム市場に上場している分譲住宅大手の三栄建築設計をTOB(株式公開買い付け)により完全子会社化すると発表した。三栄建築設計の全株式の64.21%((13,623,000株)を所有する創業者で元社長の小池信三氏らと買い付けに関する合意に達し、三栄建築設計も賛同する考えを表明した。買い付け期間は8月17日から9月28日までの30営業日で、買い付け価格は1株2,025円で、買い付け予定株数は21,217,079株、買い付け予定代金は約430億円。TOBを受け、三栄建築設計は上場廃止となる。
三栄建築設計は昨年9月、同社が発注した工事代金の一部が反社会的勢力に流れたとして警察当局から会社法違反(特別背任)容疑で捜索を受けて以降、金融機関からの新規融資が見送られる状況に陥り、同年11月に小池氏は社長、取締役を辞任。今年6月20日に東京都公安委員会から東京都暴力団排除条例に基づく勧告を受けていた。
勧告を受け、同社は6月22日付で5名の弁護士からなる第三者委員会を設置。第三委員会は8月14日付で調査報告書を作成。
調査報告書は187ページにわたるもので、小池氏が反社勢力に経済的な利益を供与したものと認定。「(小池氏は)少なくとも20年以上の長期にわたって、当社の特定の元従業員を介して(反社)の便宜を図ったり、(反社)にトラブルの交渉を委ねたり、(反社)から紹介された業者を当社の取引に関与させて(反社)に経済的利益を供与したりといった事実」を、「(反社)の担当となった3名の元従業員を除き、当社及びそのグループ会社の役職員の中に(反社)と直接関わりを持った者は認めらない」と、会社ぐるみの事案ではないともしている。
小池氏に対するヒアリング調査では、再三にわたって日時などが変更され、結果として2回にとどまったこと、「よく考えてから後日回答する」「簡潔な書面での回答」など不誠実な対応を批判し、「コンプライアンス意識が決定的に欠如している」と断罪している。
また、役職員などへのヒアリングの結果として、ごく一部を除き、反社との関係を是正するよう進言した者は認められなかったとし、小池氏の意向に反した意見を述べることなどできない社内風土がワンマンな経営体制を許し、小池氏に対する牽制や統制環境に不備があったと指摘。
再発防止策として、小池氏による影響の排除、取締役会などの監視機能の強化、社外役員に対する情報連携ルートの構築、エビデンスの添付を要するシステムの構築などを挙げている。
報告書の結語は、「当社は、1993年に有限会社三栄コーポレーションとして設立されたのち…その後30年間で連結ベースの売上高は約1,390億円、役職員は1,200名超の東京証券取引所プライム上場企業に成長したものであり、かかる成長を推進したのは(小池氏)の手腕によるところが多いと車内から評価されていた面もあるだけに、本報告書を読み、衝撃を受けるとともに残念に感じるステークホルダーが多いのではないかと推察する。今後、当社及びそのグループ会社の役職員は、かかるステークホルダーからの信頼を取り戻すべく行動しなければならない」と締めくくっている。
長谷工総研「CRI」2023年下期のマンション市場見通し/カバー率、工期を考える
国土交通省 住宅着工統計から
住宅着工統計、CRI、レインズデータから作成
長谷工総合研究所の「CRI」最新号540号(8月号)は、「首都圏 近畿圏 分譲マンション市場動向」を特集し、2023年上半期と下半期の見通しを紹介している。総括として、首都圏の上半期の販売初月販売率は70%を上回り、購入者の多くが選択する変動型住宅ローン金利は低位で推移していること、賃上げの動きも購入マインドに好影響を与えていることなどから、販売状況の見通しでは下半期も販売は堅調に推移し、首都圏の通年供給戸数は31,000戸と予測している。
詳細はCRIを読んでいただきたいが、注目点は大幅な価格(単価)上昇だ。首都圏上半期の供給戸数は10,502戸で、分譲坪単価は前年比38.9%アップの436万円、平均価格は同41.1%アップの8,873万円となり、ともに過去最高値となった。主な要因として、都心部で大規模物件の供給があり、都内23区の供給比率を46.7%(前年36.5%)に高め、坪単価も同49.4%アップの635万円となったことをあげている。
ここでは、マンションの基本性能・設備仕様の退行はさておき、CRIで触れられていないことを中心に記者なりの考えをまとめてみた。
着工統計、CRIから記者作成
まず、先行指標であるマンション着工戸数と供給戸数の乖離(記者はカバー率と呼ぶ。以下同じ)について。CRIは、総戸数200戸以上の大規模物件は、着工から分譲までの期間が延びる傾向にあるとし、1年超の物件比率は2012年が31.1%だったのに対し、2022年は60.7%に上昇していると指摘している。着工=供給ではなく、タイムラグを考慮に入れないといけないということだ。しかし、着工された物件が途中で工事中止になり、供給されないことはまずありえない。
その着工と供給の関係を図示した。2009年から2022年のマンション着工戸数は首都圏が823,304戸、近畿圏が325,652戸、合計1,148,956戸で、首都圏:近畿圏は71.7:29.9となっている。一方、供給戸数は首都圏が543,325戸、近畿圏が276,660戸、合計819,985戸で、首都圏:近畿圏は66.3:33.7となっている。着工戸数に占める供給戸数割合(カバー率)は首都圏が66.0%、近畿圏が85.0%となっている。
なぜこのような結果になっているか。関係者はご存じのはずだが、首都圏の調査対象には専有面積が30㎡未満は除外されており、近畿圏は含まれているからだ。着工比率は首都圏71.7%:近畿圏29.9%なのに、供給比率は首都圏66.3%:近畿圏33.7%になっているのはこのためだ。
問題は、着工戸数から供給戸数を引いた首都圏279,979戸、近畿圏48,992戸はどうなったかだ。記者は、着工戸数の2割近くが30㎡未満で、約15%が地権者向け・優先住戸とみている。カバー率は好況期で着工が増加したときは下がり、不況期で着工が減少したときは上昇する傾向にある。景況感を判断するにはこのカバー率や価格(単価)動向、在庫数をチェックする必要がある。好例は2008年と2009年だ。カバー率がもっとも高かったのは2009年の90.8%で、もっとも低かったのはその前年の2008年の43.4%だ。リーマン・ショックの影響により中堅デベロッパーが相次いで破綻し、市場が混乱したことを数値は示している。
次に、市場規模について。マンション着工戸数、供給戸数、平均価格、カバー率などから推計すると、金額ベースでは、過去もっとも供給が多かった2000年(95,635戸)は約4.7兆円で、2022年は約3.2兆円だ。着工・供給が激減しているものの、金額ベースではそれほど落ち込んでいないことが分かる。
中古マンション市場はどうか。東日本レインズのデータによると、2022年の成約件数は35,429件で、過去最多だった2021年の39,812件を下回ったものの、11年連続して3万戸台を維持した。1戸当たり平均価格は前年比10.5%上昇の4,276万円となり、過去30年間で最も高く、坪単価は前年比12.4%上昇の221.9万円となり、こちらも過去30年間で最高価格になっている。金額ベースでみると、2000年は約5,200億円だったのが、2022年は1.5兆円と2.9倍に拡大している。
これらの数値から、新築と中古を合わせた市場規模は、2000年が約5.2兆円であるのに対し、2022年は4.7兆円と推測される。リーマン・ショック前に戻りつつあると見ることができる。
問題はこの先どうなるかだ。新築マンション着工・供給戸数は社会経済動向のほか、高値圏にある価格水準、住宅ローン金利動向などから判断して漸減するのは間違いない。
中古マンション市場はいま一つよく分からないのだが、在庫件数は成約件数のほぼ同数で、在庫の1戸当たり平均価格も過去30年間で最高の4,064万円になっており、市場では高値警戒感も浮上している。新築と連動しているので注視したい。
建設物価調査会「建設物価 建築費指数」
とはいえ、新築価格が下がる要因はほとんどない。日本建設業連合会(日建連)の「建設資材高騰・労務費の上昇等の現状」パンフレット(2023年7月版)によると、全建設コストに占める割合が50~60%を占める建設資材物価は2021年1月と比較して26%上昇し、全建設コストを13~15%引き上げている。全建設コストの3割を占める労務費も上昇しており、全建設コストは3%上昇。この29か月間で全建設コストは16~18%上昇しているとしている。現在も躯体、仕上げ、設備など幅広い分野で納期遅延が発生し、職人不足による工期への影響が出ており、ウクライナ情勢次第では、さら幅広い資材の納期遅延や逼迫が発生する恐れがあるとしている。
また、建設物価調査会の2023年7月の「建設物価 建築費指数」では、集合住宅(鉄筋コンクリート造)の工事原価指数は2015年を100とした場合、123.1(木造住宅は131.3)となっており、2020年比で20ポイント近く上昇。日建連のパンフレットを裏付けている。
◇ ◆ ◇
以上述べたように、建築費の上昇は顕著だが、消費者の住宅取得意欲は旺盛で、今後も堅調な市場が続くと記者も見ている。
いまひとつ分からないのは工期だ。国土交通省は「適正な工期」を徹底させることを求めており、他業種と比べて圧倒的に高い中小企業比率、常態化している長時間労働、生産性・営業利益率の低さ、人材不足、低賃金など建設業の働き方改革は喫緊の課題とされており、その一環として2024年4月からは「時間外労働の上限規制」の適用も実施される。
これらはコスト上昇の要因になるはずなので、実態はどうなっているか調べようと思ったが、そのようなデータはない。(かつて長谷工コーポレーションは、工期を最大約40%短縮する「マンションEC工法」を開発した)
データがないどころか、「適正な工期」を徹底させるためには大きな壁があることを、国土交通省の「適正な工期設定等による働き方改革の推進に関する調査」(2023年5月31日発表)結果は示している。
注文者から提案された工期について、「妥当な工期の工事が多かった」と回答した建設企業は66.6%であったものの、「短い工期の工事が多かった」は29.2%を占めた。休日の取得状況については、「4週6休程度」が44.1%でもっとも多く、「4週8休以上」は8.6%にとどまっている。
適正工期を確保するための有効な方法として、発注者の81.0%は「受注者が、発注者に施工に必要な工期を説明すること」をあげたのに対し、建設企業を対象とした調査では76.0%が「注文者の理解が重要」と回答した。
ここに〝同床異夢〟であり、発注者と受注者の綱引きの構図が読み取れるのだが、ことは容易でない。監視役の国交省の手加減次第で揺れ動く。その背後には消費者の価格下げ圧力もある。
同省は、全建設プロセスにICTを導入するプロジェクト「i-Construction」により、これまでより少ない人数、少ない工事日数で同じ工事量の実現を図り、2025年までに建設現場の生産性2割向上を目指しているが、どうなるか…。
7月の中古マンション成約件数 前月に続いて前年比増加 東日本レインズ
東日本不動産流通機構(東日本レインズ)は8月10日、首都圏の7月の不動産流通市場動向をまとめ発表。成約件数は、マンションは前月に続いて前年同月比で増加し、戸建ては19か月連続で減少した。
マンションは、成約件数3,236件(前年同月比4.3%増)、坪単価は237.3万円(同5.0%増)、価格は4,563万円(同4.9%増)、専有面積は63.44㎡(同0.03%減)となった。坪単価は39か月、価格は38か月連続の上昇。地域別では、成約件数は埼玉県以外の地域は前年比で増加したが、埼玉県は19か月連続して減少した。坪単価は全ての地域で上昇した。
中古戸建ては、成約件数1,155件(同1.8%減)、成約価格3,848万円(同1.5%増)、土地面積140.98㎡(同0.6%増)、建物面積103.47㎡(同0.05%増)。地域別では、成約件数は東京都区部と横浜・川崎市以外の地域が前年比で減少し、埼玉県は19か月連続で前年同月を下回った。
旭化成ホームズ・松本吉彦氏「一緒に登山…」 故・小林秀樹千葉大名誉教授を語る
松本氏
既報の通り、千葉大学名誉教授・小林秀樹氏(享年68歳)が昨年(令和4年)10月11日、癌のため亡くなったが、小林氏の後輩で旭化成ホームズくらしノベーション研究所・二世帯住宅研究所所長・松本吉彦氏(64)に小林氏のエピソードをお願いし、快諾していただいた。以下に全文を紹介します。
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小林先生とは私が卒論を書いている際に東京大学工学部建築学科の建築計画研究室(鈴木成文・高橋鷹志研)博士課程でご一緒したのが出会いとなります。当時は集合住宅の住まい方調査を基にした居住者の行動や心理の考察など、建築学に心理学や社会学、動物の生態学などの本を参照しながら研究室内では研究を進めていたと思います。今回の追悼する会のコメントで小林先生の研究の特徴としてこうした分野を導入した研究が高く評価されていたのですが、これは当時の研究室内全体のトレンドでした。私が未だに仕事で居住者調査を基に研究しているのはこの時の原体験が効いていると思います。
その頃の小林先生の研究の多くは1992年刊行の名著「集住のなわばり学」に記されています。集合住宅の共有領域に住人の「日常的支配」が及び、それが防犯の観点からオスカー・ニューマンの「まもりやすい住空間」などで指摘された「自然監視性」を生んでいること(P81-83)、LDKの窓は共有領域に面しているほうが日常的な関わりを生じやすいこと(P82)、コミュニティ形成には10戸前後のクラスターに分割することが有効であること(P153)など、実際の設計に役立つノウハウにまとめられています。
「集住のなわばり学」は、中古価格が1万円前後の高値となっていることについて、生前小林先生ご本人が、もっとたくさん持っておけばもうかったのに、みたいなことをおっしゃっていました。
ナワバリ学を家族関係に発展させたものが2013年刊行の「居場所としての住まい」です。住戸内の室配置の構成原理を家族関係から読み解き、二世帯住宅のような親子同居、シェアハウスのような他人同士の集住にも応用した点がユニークで、nLDK型など実際の間取りと家族関係を対照しながら考察しています。この著作を題材として、2014/1/21に第12回のくらしノベーションフォーラム「ナワバリ学で家族と住まいを読み解く」を開催し講演していただきました。
小林先生の業績では、資産や投資としての建築、といった経済的、実務的な取り組みを扱うことに特徴があるかと思います。学術研究に留まらず、実際に社会で使われるノウハウの開発では、共同研究で大変お世話になりました。二世帯住宅の居住者インタビューや空き世帯の活用を模索した二世帯住宅シェアハウスプロジェクトhttps://www.kobayashi-lab.net/project/2010/nisetai.pdf (最終講義記念冊子プロジェクトNo17)や子育て共感賃貸住宅「BORIKI」の居住者調査(同No19)など、いくつかの共同研究をさせていただきました。
学生時代より長きにわたってお世話になってきた先輩を失うことが残念でならないのと、近年登山にご夫婦ではまっておられたので百名山全山登頂達成者である私としては、一緒に登山する機会がなかったことが悔やまれるところです。
千葉大学名誉教授「小林秀樹先生を追悼する会」に約210名(2023/8/5)