リスト&ロイヤルHD 日本初進出の高級リゾート「Anantara軽井沢」開発
「Anantara Karuizawa Retreat (アナンタラ軽井沢リトリート)」開発調印式(東京アメリカンクラブで)
リストグループのリストデベロップメントとロイヤルホールディングスグループのロイヤルマイナーホテルズは7月10日、日本初進出となるラグジュアリーホテルブランド「Anantara(アナンタラ)」を冠した「Anantara Karuizawa Retreat (アナンタラ軽井沢リトリート)」に関するマネジメント契約を締結し、浅間山を望む長野県軽井沢町の約4万㎡の高級リゾートを開発すると発表した。
施設は、北陸新幹線軽井沢駅から車で約15分、長野県北佐久郡軽井沢町に位置する開発面積約41,933㎡。客室数は:スイート23室(60~120㎡予定)、ヴィラ18棟28室(70~270㎡予定)。開業予定は2030年。館内にはオールデイダイニング、スペシャリティレストラン、バーを含む3つの飲食施設を備える予定。一部のヴィラは、ブランデッドレジデンスとして分譲することも検討している。
この日の調印式に臨んだMinor International Public Company Limited(マイナー・インターナショナル)創業者兼会長・William Ellwood Heinecke(ウィリアム・エルウッド・ハイネッケ)氏は、「当社は世界60か国、650ホテルを運営している。今回、リスト社とロイヤルホールディング社とパートナーシップを組めたことは本当にうれしく光栄に思う。Anantaraの日本進出は素晴らしいこと」と、また、リスト代表取締役社長・北見尚之氏は、「2010年にサザビーズ インターナショナル リアルティの国内独占営業権を取得してから国内のほか、5か国で事業展開しているが、今回は新たな挑戦。最高級のホテルにする」とそれぞれ挨拶した。
ロイヤルマイナーホテルズ代表取締役社長・本山浩平氏は、「2025年3月に設立したロイヤルマイナーホテルズとしてホテルマネジメント契約の第一号となるAnantara Karuizawa Retreatでパートナーシップを結べることを大変誇りに思う。同社は、ラグジュアリー施設の創造における卓越した専門性があり、独自のデザインと上質な滞在を追求するAnantaraブランドの理念と調和している」と、リストデベロップメント代表取締役社長・木内寛之氏は、「当社はこれまで、高品質な住まいと街づくりを通して、お客様に豊かなライフスタイルを提供することを目指してきた。近年では、ホテルコンドミニアムやラグジュアリー邸宅にも積極的に取り組んでいる。そのような中で、アジアを代表するホテルチェーンである同社と、当社のビジョンが合致し、今回のホテルマネジメント契約締結に至った」と、それぞれコメントした。
マイナー・ホテルズは、AsPAC最大級のホスピタリティ及びレジャー企業であるMinor InternationalPCL(マイナー・インターナショナル)の中核企業。57か国で560 棟以上のホテル、リゾート、レジデンスを運営している。2027年度末までに280軒以上のホテルを新たに加えることを目標に掲げており、世界規模の成長を加速させる。
Anantara(アナンタラ)の発祥はタイで、アジア全域、中東、インド洋、アフリカ、ヨーロッパなど25か国、59軒のホテルを展開している。
イメージパース
1戸25億円の分譲戸建て「元麻布」 リストが分譲、契約済み
わが国の分譲戸建てとしては過去最高額と思われる25億円の「元麻布」(一棟現場)をリストグループのリストデベロップメント分譲したことが分かった。同社代表取締役社長・木内寛之氏が明らかにしたもので、土地面積70坪、建物面積150坪、3階建てRC造。竣工は来年。これまでの分譲戸建ての最高額は、諸戸の家「代々木上原の邸宅」の10億円といわれている。
同社は、ラグジュアリー不動産開発に今後力を入れるとしており、今回の分譲戸建てはその第一号。
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この額に記者は全然驚かない。エルメスの高級ハンドバッグ「バーキン」の初代モデルがサザビーズのオークションで過去最高額となる858万ユーロ(約14億7000万円)で落札されたというではないか。分譲マンションでは、2016年分譲の三井不動産レジデンシャル「パークマンション檜町公園」で1戸55億円の住戸が分譲されたのを記事にしているし(同社はノーコメント)、森ビル「麻布台ヒルズレジデンス」では200億円の住戸が分譲されたと巷間いわれている。
分譲戸建てもこれくらいの価格で分譲されるのが当たり前になると思っている。「元麻布」がある東京都港区の令和5年度の課税標準額が1億円超の納税者は、納税義務者の0.9%に当たる1,392人(前年度比11.4%増)となっている。25億円は年間所得分に過ぎない人はたくさんいるはずだ。
価格10億円超分譲戸建ての歴史を変えた諸戸の家「代々木上原」完売(2025/3/6)
米国の別荘1億$(133億円)三井リアル「REALTY-news」/わが国はどうなるか(2022/8/19)
改正マンション関連法に関する説明会に約480人 国土交通省&法務省
「令和7年度 改正マンション関連法に関する説明会」(ビジョンセンター東京八重洲で)
国土交通省と法務省民事局は7月8日、「令和7年度 改正マンション関連法に関する説明会」を開催した。午前の部と午後の部あわせて約480人が参加し、関心の高さをうかがわせた。
関連法は一部を除き令和8年4月1日付で施行が予定されていることから、国交省は全国での説明会、専門家による検討会、パブコメの実施などを経てマンション標準管理規約は今年9月下旬を、管理業者管理者方式に関する委託契約書は今年11月1日をめどにそれぞれ公表することにしている。以下、配布資料をもとに要点を紹介する。
マンションの管理・再生の円滑化のための法改正
資料は法改正の背景・必要性について、現在のマンションストック総数は約704万戸(2023年末)で、令和2年の国勢調査による1世帯当たり平均人員2.2人をかけると約1,500万人になり、国民の1割超が居住していることになり、現在137万戸の築40年以上のマンションストック数は20年後には464万戸に増加し、令和5年度のマンション総合調査によると、世帯主が70歳以上の住戸の割合は築40年以上のマンションでは55%に達しているなど「2つの老い」が進行していることを指摘。
また、長期修繕計画を定めて修繕積立金を積み立てているマンションのうち「現在の修繕積立額の残高が、長期修繕計画の予定積立残高に対して不足していない」マンションは約40%に留まっている現状があるとしている。
一方、マンションの建て替え実績は2023年度末で累計297件(約24,000戸)で、建て替えに伴う余剰容積率が縮小傾向にあり、2020年代では保留床は40%を割っており、区分所有者の平均負担額は2012~2016年の約1,106万円から2017~2021年は約1,941万円へ激増している。
こうした背景・課題の解決を図るため、改正法では①適正な管理を促す仕組みの充実、集会出席者の多数決議決による管理の円滑化②建物・敷地の一括売却、一棟リノベーション、建物の取り壊しなどを多数決で可能とする再生の円滑化③地方自治体の取り組みの強化-による三本柱で取り組むとこととしている。
区分所有法・被災区分所有法の改正内容
区分所有法・被災区分所有法の改正内容では、集会の議決の円滑化のため、現行では普通決議は区分所有者の多数決(欠席者もカウントする)が必要なのを、出席者の多数決でいいことに変更され、所在等不明の区分所有者はすべての議決の母数から除外する制度が設けられたのが大きなポイント。
また、区分所有者が専有・共用部分を管理せず、他の区分所有者の権利を侵害するのを防ぐため裁判所が管理人を選定して管理させる財産管理制度や、区分所有者が国内に住所を有しない場合は、国内管理人を選任できる制度が創設される。
さらに、共用部分の変更決議の多数決要件(3/4)を、権利侵害の恐れがある場合は2/3に引き下げられる。
建て替え決議の要件緩和では、現行多数決要件(4/5)を、一定の要件を満たせば3/4に引き下げることが可能になり、建物・敷地の一部売却、建物の取り壊し、一棟リノベーション工事なども建て替えと同等の多数決議決を可能とする制度が創設される。
一括建て替え決議の要件緩和では、現行は各棟ごとの2/3以上、団地全体の4/5以上の賛成が必要なのを、改正後はいずれかの棟で反対者が1/3を超えない場合は団地全体で3/4に引き下げ、一部建て替えも現行の団地全体の3/4から団地全体の2/3に引き下げる。団地内の建物・敷地の一括売却要件も、現行では区分所有者全員の同意が必要だったのを多数決議決で可能にする制度を創設する。
マンション管理法・再生法等の改正内容
マンション管理法・再生法等の改正内容では、令和2年改正時に創設された管理計画認定制度は現在2,379件の実績があるが、制度の拡充を図るため、現行では既存マンションが対象になっているのを新築時に分譲事業者(デベロッパー)が管理計画を作成し、管理組合に引き継ぐ仕組みを導入し、認定に係る表示制度を創設する。
管理組合役員の担い手不足の課題解消のため期待されている管理業者管理者方式の改正では、管理業者と管理者の利益相反を防止するため、管理者受託契約に係る重要事項を区分所有者に説明し、書面を交付すること、自社または関連会社との取引を行う場合は、取引の前に区分所有者に説明することを義務化する。
区分所有法の改正により創設された新たな再生手法(一棟リノベ、建物・敷地の一括売却、建物の取り壊しなど)について、新たな決議に対応した事業手法(組合設立、権利変換計画、分配金取得計画など)を整備するため、マンション再生法の合意要件を緩和、引き下げを行う。また、マンション再生に関するガイドラインやマニュアルを整備し、独立行政法人住宅金融支援機構法(JHF法)の改正により、マンション再生の取り組みを金融面でサポートする。
隣接地の所有権や借地権、底地権を建て替え・再建後のマンションの区分所有権に権利変換できるようにし、特定行政庁の許可による容積率特例制度に高さ規制要件を緩和する特例を追加する。
地方公共団体の取り組みの充実を図るため、地方公共団体がマンションの管理に関して助言・指導・韓国でできるよう権限を強化するため、地方公共団体の内部情報の収集や、財産管理制度の申し立てなどが行えるようにする。また、NPO法人など民間団体をマンション管理適正化法人として登録する制度を創設する。
医療、福祉、教育、研究を網羅 三菱地所レジ×東京大学「Tonowa Garden目白台」
「Tonowa Garden(トノワ ガーデン) 目白台」
三菱地所レジデンスと東京大学は7月7日、国立大学法人東京大学の土地有効活用事業の第一号となる東京大学目白台キャンパス内のヘルスケア複合施設「Tonowa Garden(トノワ ガーデン) 目白台」が竣工したのに伴う「まちびらき&完成内覧会」を開催した。
同事業は2020年5月、東京大学目白台キャンパスの土地有効活用に係る事業協力者募集に対し、三菱地所レジデンスが事業主、三菱地所が総合企画として選ばれたもの。2023年8月に着工し、2025年1月に竣工した。施設は期間65年の定期借地権付きで、名称は「〇〇との輪」と「Garden」を組み合わせたもの。
研究施設として、「暮らしの保健室」「みんなのケアをする力をサポート」「看護・ケア専門職のサポート」の3つの取り組みを推進する、東大看護系教員、大学院生、学部生で構成される「東大GNRCオープンラボ」(東京大学大学院医学系研究科附属グローバルナーシングリサーチセンター)が入居している。
「医療・ヘルスケア施設」としては、「東大看護ステーション目白台」(一般社団法人東大看護学実装普及研究所)があり、従来の介護保険・医療保険制度による訪問看護のほか、保険外看護サービスとして世帯単位での月額制看護サービス[GNRCつながるケア]も行っている。
この他、小児から高齢者まで全年齢層を診療の対象とするクリニック「ふくろうクリニック目白台」(医療法人社団創福会)、調剤薬局「目白台薬局」(メディシステム)、サービス付き高齢者向け住宅「クイーンヒル目白台」(コミュニティネット)、介護付き有料老人ホーム「アリア護国寺」(ベネッセスタイルケア)、リハビリ特化型デイサービス「元氣ジム目白台」(ルネサンス)、学童保育施設「ベネッセ学童クラブ護国寺」(ベネッセスタイルケア)、コミュニティラウンジ「目白台の間」(PIAZZA)が入居。防災備蓄倉庫も備えている。
まちびらきイベントに出席した三菱地所レジデンス執行役員投資アセット企画開発部長・渡辺昌之氏は、「隣接地には国際的な交流拠点『目白台インターナショナルビレッジ』があり、多様な機能が融合した施設が完成した。施設名称には地域との輪、東大と隣人との輪、入居者との輪など様々な方々の輪が形成されて広がっていくという願いを込めた。三菱地所グループが長年取り組んできた防災の知見も取り入れ、防災コミュニティの形成にも取り組んでいく。地域の癒しの場であり、出会いの場、研究と学びの場でありたいと願っている」とあいさつした。
東京大学理事・菅野暁氏は、「この土地は、東大附属病院分院として明治41年の開院から平成13年の閉院まで104年の長きにわたり教育、研究の発展にかかわってきた歴史を持つ。閉院後の令和元年度に『目白台インターナショナルビレッジ』が竣工した。今回の施設は、平成16年の国立大学法の改正によって大学が所有する土地の第三者への貸付けが可能になった制度を活用するもので、大学の財務基盤強化の一環として初めて取り組むもの。医療、福祉、教育、研究すべての分野を網羅する素晴らしい施設になった」と語った。
東京大学グローバルナーシングリサーチセンター長・山本則子氏は、「わが国は高齢者が増える一方で、人口が急速に減少してきており、従来型の専門職と家族によるケア体制は限界に近い。私たちが提案しているのは、専門職だけでもなく家族だけでもなく、街の誰もがケアの担い手になろうということ。各種のプログラムには期待をはるかに超える応募があり、ニーズが大きいことを実感している。街ぐるみで支え合い、ともに幸せを追求できる社会の実現を目指したい。この新しい街づくりの試みが広く発展し、日本全国や世界のモデルになるよう微力ながら貢献したい」と話した。
物件は、東京メトロ有楽町線護国寺駅から徒歩6分、文京区目白台3丁目に位置する敷地面積約5,290㎡、5階建て延床面積約9,608㎡。設計は設計工房イー・ディー。施工は東亜建設工業。竣工は2025年1月。
国立大学の土地活用事業は、国立大学法人法が平成16年(2004年)施行され、同28年(2015年)5月の改正により、文部科学大臣の認可を受ければ、国立大学法人は当面使用が予定されていない土地などを第三者に貸し付けることが可能になった。
同大学の土地有効活用事業としては、東京大学西千葉キャンパス跡地利用事業(約75,299㎡)の事業者として野村不動産を代表とする三井不動産、三菱地所、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、大和ハウス工業が選ばれている。
この他、NTT都市開発が代表企業の東京工業大学田町キャンパス土地活用事業(約23,222㎡)、阪急阪神不動産によるお茶の水女子大学大山学生寮跡地(約8,046㎡)のマンション「ジオ板橋大山」、住友商事を代表企業とする九州大学箱崎キャンパス跡地地区(約28.500㎡)、野村不動産の東京医科歯科大学越中島地区土地活用事業(約17.967㎡)などかある。
左から渡辺氏、菅野氏、山本氏
3氏によるまちびらきテープカット
外観(北西側)
介護付き有料老人ホーム「アリア護国寺」ラウンジ(全53室のうち8割が入居済み)
サービス付き高齢者向け住宅「クイーンヒル目白台」ラウンジ(全80室のうち11室が契約済み)
「東大GNRCオープンラボ」
コミュニティラウンジ「目白台の間」(この日は七夕で、勝どきから参加した30代の女性は短冊に「毎日 楽しく過ごせますように」と、学校が休校という8歳の女の子のお子さんは「家ぞくが しあわせに くらせますように」と認めていた)
お茶の水女子大学国際学生宿舎跡地定借「大山」好調首都圏事業強化へ阪急阪神不(2024/3/21)
分譲戸建てシェア拡大 この先に見えてくるのは何か ポラスの決算説明資料
ポラスグループの「決算説明資料」について。同社コミュニケーション部がまとめているもので、今年の資料はA4判全47ページ。全事業の業績・トピックス、戸建て市場、契約・受注動向などが紹介されている。同業他社の決算説明資料と比較しても見劣らないどころか、とても親切でわかりやすい。
中でも興味深いのは、分譲戸建て住宅に関するデータだ。ポラス商圏の着工動向、人口動態などをほぼ完ぺきに網羅し、同社のシェア、価格動向などを報告している。
ポラス商圏とは、本拠の埼玉県越谷市を中心とする草加市、八潮市、三郷市、吉川市、春日部市の「越谷エリア」、さいたま市を中心とする上尾市、富士見市、志木市、三芳町、朝霞市、和光市、戸田市、蕨市、川口市、新座市と東京都の北区、板橋区、練馬区の「さいたまエリア」、千葉県松戸市を中心とする鎌ヶ谷市、船橋市、市川市、我孫子市、流山市、柏市、野田市と東京都足立区、葛飾区、江戸川区の「松戸エリア」のことを指す。
同社グループは、50年前の創業時から「地域密着型経営」を掲げ、万が一問題が発生した場合でも車で1時間程度で駆け付けられる範囲に限定して事業を展開している〝稀有〟な会社だ。商圏拡大はあるかもしれないが、おそらく今後もこの方針に変更はないはずだ。
説明資料によるとポラス商圏の2024年度の持家と分譲住宅の着工戸数は30,598戸(前年度比1,873戸減)、世帯数は約531万世帯(約7.6万世帯増)、総人口は約1,033万人(同約2万人増)、一次取得人口(25~44歳)は約263万人(同3,083人増)だ。このうち分譲戸建て市場は、着工戸数は18,904戸(同10.1%減)、同社の売上戸数は2,545戸(同9.0%増)、シェアは13.5%(同2.4ポイント増)となっている。同社はこの分譲戸建てと注文住宅のシェア4.3%は過去最高水準としている。
この13.5%は高い水準ではあるが、マンション同様。それほど大きな意味をなさないと思う。戸数で競う時代はとっくに過ぎた。商品企画が勝敗を分ける。そもそもどこもがっぷり四つに組んで消耗戦などしていない。例えば飯田グループ。同社の2025年3月期の分譲戸建て計上戸数は38,627戸で全国シェア約30%(首都圏は約31%)を誇るが、戸当り単価は3,130万円だ。同社は首都圏の分譲戸建ての平均価格は公表していないが、記者は4,000万円くらいではないかと推測している。
では、ポラスはどうか。同社の2025年3月期の戸当たり単価は4,958万円(契約ベース)だ。飯田グループに次ぐ分譲戸建て大手のオープンハウスも戸当り単価はポラスとほとんど同じだが、商品はまるで異なる。
もっとすごい会社がある。三井不動産だ。同社の2025年3月期の分譲戸建ての売上高は3,598百万円、計上戸数は417戸、戸当り単価は8,629万円だ。同社は首都圏の都心・準都心部に供給を絞っているからだが、単価は飯田グループのほぼ倍だ。これだけでも、同じ俎上に載せることの無意味さが分かるはずだ。
話を元に戻す。ポラスの資料を読むと、このところ価格が大幅に上昇していることが分かる。平均価格は4,958万円なのは先に紹介したが、5年前の2020年3月期の4,073万円から21.7%上昇している。また、平均土地面積、平均建物面積は2020年3月期の119㎡、97㎡から2025年3月期は121㎡、98㎡になっている。価格帯も2020年3月期は3,000万円未満が183戸、6,000万円以上が78戸だったのが2025年3月期は3,000万円未満は37戸に激減し、6,000万円以上は411戸へ激増している。同社はこの理由を「維持防衛エリアのさいたま・越谷を抑えて、強化育成・積極展開すべき埼玉西部や南部を増強」したためとしている。
このことと関連するかどうかは分からないが、同社は最近、高額価格帯へ果敢に挑戦しているように思う。「アバナイズ市川菅野」(5戸)「Sumi-Ka+GYOTOKU(すみかプラス行徳)」(18戸)「アイムス東久留米 ピー・ティー・サイト」(6戸)などだ。これらは全て価格は6,000万円以上だ。
決算説明資料は遅行指標ではあるが、同社が何を考えているか、少しは先が読めてくる。
ポラスグループ 2025年3月期決算プレカット振るわず減収減益分譲は増収増益(2025/6/30)増益
UA値0.46 ポラス初「東京ゼロエミ住宅」最上位認証(旧基準)の「東久留米」(2024/12/26)
コアなニーズ引き出した商品企画ヒットポラス「すみかプラス行徳」(2024/12/7)
建ぺい率40%、容積率80%の風致地区の規制逆手にポラス「アバナイズ市川菅野」(2023/12/15)
14年も前から断熱窓の提案に驚愕 インテリックス「青山リノベーションスタジオ」
「青山リノベーションスタジオ」
インテリックスグループのインテリックス空間設計の個人向けショールーム「青山リノベーションスタジオ」を7月3日見学した。14年も前から断熱窓(二重サッシ)の提案を行っているのに驚愕した。
リニューアルでは、「生活課題の解決」と「多様化する高品質ニーズへの対応」をコンセプトに、最新設備を展示するだけではなく「どんな暮らしが実現できるのか」を提案できるショールームとなっている。
スタジオでは、断熱窓(Low-E樹脂サッシ)の施工例や、飛騨高山の家具を採用し、床は突板仕上げのヘリンボーン、電動カーテンとブラインド、キッチン動線、限られた収納スペースを有効に活用する提案などが体験できるようになっている。
同社リノベーションデザイン部部長・阿部貴氏は、「コロナ以降、資材の高騰、職人工賃の上昇が続いており、フルリノベの単価は2~3割はアップしている。今後も工事単価は上昇すると思われ、なるべく早めに決断されるのをお勧めしたい」とアドバイスしている。
同社は1998年2月設立。年間販売1000件を超えるインテリックスの「リノヴェックスマンション」の設計・施工のほか、同業他社のリノベ請負、個人向けリノベ施工を三本柱として事業展開しており、同スタジオは個人向けショールームで2015年に開設している。
「青山リノベーションスタジオ」リビング
洗面
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同社のリノベマンションを初めて見学したのは20数年前だ。物件そのものは〝好立地〟のいいマンションだったが、共用部分のサッシは手付かずだったのを思い出す。その後、同社が中心となって自主規制団体・リノベーション協議会(理事長:インテリックス会長・山本卓也氏、設立時はリノベーション住宅推進協議会で山本氏は同社社長)が平成21年5月20日に設立された。現在の会員数は736者にも及ぶ。〝リノベ〟は〝リフォーム〟に取って変わった。
しかし、記者はこのリノベにいい印象を持っていない。玉石混交の世界だ。ほんの200~300万円の工事を施しただけで、数百万円から1,000万円くらい価格にオンして暴利をむさぼる業者が続出した。
この日、「青山リノベーションスタジオ」を見学して、同業他社も一般の方も同社の「品質にこだわるまじめな『施工力』」(同社パンフレット「RENOVATION STYLE BOOK」)に学ぶべきだと思った。
その典型例が省エネ提案だ。写真のように、PLASTとトステム2社の二重樹脂サッシ(内窓)の提案を行っている。窓下は断熱壁にしている。これは、2011年3月11日、つまり東日本大震災が起きたその日から行っているそうだ。なぜその日だったかは、同社広報担当のTさんは「山本(当時社長の卓也氏)が提案することを決めた、その翌日に震災が起きたのでよく覚えています」と話した。
今から14年前だ。今でこそLow-Eガラスは当たり前になっているが、当時、二重サッシを採用するのは防音対策としてで、断熱性能を高めるものなどなかった。
マンション標準管理規約で、窓ガラスなどの防犯、防音、断熱性能の向上について管理組合がその責任と負担において実施すべき(実施できない場合は区分所有者の責任と負担)と定めたのはそれから5年後のことだ。それより前に、同社が既存マンションの断熱化に取り組んでいたのを聞いてびっくりした。今でもリノベマンションの窓の断熱工事を行っているのは少数ではないか。
断熱窓(二重サッシ)の提案(左がPLAST、右がリクシル)
へリーンボーンの床
元町仲通りの中心地販売好調インテリックス「リシャール横濱元町」(2016/2/8)
成田駅徒歩圏で12年ぶり イオンタウンに隣接 総合地所「ルネ成田サングランデ」
「ルネ成田サングランデ」(合成写真)
総合地所は7月3日、JR・京成成田駅徒歩圏で12年ぶりのマンション供給という「ルネ成田サングランデ」のメディア向け見学会を行った。道路を挟んだ対面に大規模商業施設「イオンタウン成田富里」が隣接しているのが特徴。
物件は、京成本線京成成田駅から徒歩10分、JR成田線成田駅から徒歩12分、成田市東町の第一種住居地域・準工業地域に位置する10階建て全119戸。専有面積は専有面積は60.50~85.03㎡、価格は未定で、3LDKで5,000万円台、2LDKで4,000万円台中心を予定。竣工予定は2027年1月末。売主は同社のほか京成電鉄。設計・施工は長谷工コーポレーション。販売は長谷工アーベスト、京成不動産。販売開始は9月の予定。
敷地の従前はバッティングセンター・ゲームセンター。用地は2023年9月に取得。道路・京成本線鉄道線を挟んだ敷地南側の大規模商業施設「イオンタウン成田富里」に隣接。建物はT字型で、標準階の南東向きは11戸、南西向きは4戸。全31タイプで平均面積は71㎡。全住戸の約90%に可動収納「ウゴクロ」を採用。
主な基本性能・設備仕様は、ZEH-M oriented、低炭素認定、直床、リビング天井高2500ミリ、食洗機、フィオレストーンキッチン天板(オプション)など。京成線に面した妻側住戸の5階以上は二重サッシを採用。コンセプトは、バイオフィリックデザイン。
今年3月から物件ホームページを公開しており、これまでの反響は370件。うち地元居住者は約6割。7月12日にオープンするモデルルーム見学申し込みは80件。
同社は、駅前の中古マンションは坪単価200万円台の中盤に上昇しており、反響も良好なことから竣工までの完売を目指す。
左側がイオン
外観
フレタスキッチン
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いつもは、微に入り細を穿つ、見学会はかくありきの説明会を開き、分譲単価を公表する同社だが、この日は分譲開始が9月とまだ先だからか、同社販売担当者は「3LDKで5,000万円台の前半から後半、2LDKで4,000万円台を予定」と含みを持たせた。
記者は見学前に、駅前の「日高屋」(駅前に日高屋とドトール、マクドナルドがあるかどうかは街のポテンシャルを測る重要ポイント)でビールと半ラーメンを食べた。税込み630円で、半ラーメンは240円。マンション単価はこれと同じ240(万)円だったらいいのになあと考えたが、甘かった。そんなに安くはならないようだ。仕方ない。
マンション購入検討者は、どんな郊外でも坪単価250万円以下はほとんどありえないことを覚悟すべきだ(日高屋は銀座の一等地でも半ラーメンは240円だか)。ただ、単価が安いか高いかは、みんな都心を中心に考える。これは改めたほうがいい。成田駅圏には大量の戸建て住宅街がある。〝都心回帰〟を志向するこれら戸建て居住者の需要を取り込むか、そういう需要は枯渇したか。
模型(わかりづらいが、左側に突き出ているのが横断歩道、マンションとイオンを直接つなげはほんの数秒。横断歩道を付け替えることはしないだろう)
現地(クレーンが建っているのが建設現場)
約1000区画の「成田はなのき台」細田工分譲開始8年で約9割完売(2014/4/21)
大和ハウス 戸建住宅の木造化率 24年度11.0%から25年度は15.3%へ
和田氏
大和ハウス工業は7月2日、戸建住宅事業計画説明会を開催し、同社上席執行役員 住宅事業本部長・和田哲郎氏が、経営数値と事業環境、重点取り組みテーマについて説明。国内販売戦略では請負事業は付加価値のある商品提案を行い、売り上げ単価の上昇を目指し、AI活用とGX対応の推進により規格住宅・セミオーダー住宅の拡大を図り、分譲住宅は木造住宅へのシフトを強化し、既存住宅の買取再販事業を強化すると話した。
経営数値について和田氏は、2025年3月期の売上高は11,445億円(うち海外6,363億円)、営業利益698億円(うち海外592億円)、営業利益率6.1%となり、売上高は米国戸建住宅が堅調に推移し、国内も販売状況の改善、生産性向上が進んだことから増収増益となり、2025年度計画は売上高12,300億円(うち海外6,845億円、営業利益760億円(うち海外600億円)、営業利益率6.2%%と説明。
戸建住宅を取り巻く環境としては、建築費の高止まり、実質賃金のマイナス、着工戸数は持ち家も分譲も減少傾向が継続しており、金利も上昇傾向にあることなどから厳しい市場が続いていると話した。明るい材料として、既存住宅市場が拡大していることを指摘した。
こうした事業環境の中、同社は2025年度の販売棟数を5,500戸(2024年度5,067戸)とし、2025年7月からは全注文住宅商品でZEH水準を上回る「断熱等級6」を標準化すると語った。
国内の販売戦略として請負事業は、断熱等級6を標準化し、Housing Meisterの活用などで付加価値のある提案を行い、売り上げ単価を増加させる。規格住宅・セミオーダー住宅では、AI活用とGX対応の推進により多様な顧客ニーズに適切に対応する。
分譲住宅は、注文住宅と同等のライフスタイル提案や高い断熱性能などで価格以上の価値を持つ住宅を供給し、木造比率を高める。
米国戸建事業は、バージニア州、カルフォルニア州、テキサス州の3拠点の子会社事業が好調で、2017年以降、供給戸数は10.3倍の8,502戸(2025年度計画)まで伸長していることから、2026年度には10,000戸超を目指す。
カーボンニュートラルの取り組みでは、従来の鉄骨造から木造へのシフトを強化し、木造比率は2024年度の11.0%(分譲住宅16.3%、請負7.6%)から2025年度は15.3%(分譲住宅24.3%、請負9.6%)に引き上げる。
既存住宅の買取再販事業(Livness)は、請負・規格住宅・分譲住宅事業と連携しワンストプで対応できる販売体制を整備し、売上高は2024年度の19,403百万円から2025年度は19,860百万円に伸ばす。
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記者は分譲住宅について新しい方針が打ち出されるのではないかと注目していたが、和田氏は第7次中期計画が25年度に終了し、第8次中期計画を策定中で、発表時には数値目標などを公表すると話し、具体的な数値は示さなかった。これまで公表していた2027年度目標の請負3,000棟、分譲住宅7,000棟、合計10,000棟は軌道修正されるのか。
駅5分の1低層 新ブランドタグ具現化 コスモスイニシア「祖師ヶ谷大蔵」
「イニシア祖師ヶ谷大蔵」
コスモスイニシアが創業50年を迎えたのを機に新たに策定したブランドタグライン「人生を変える、心地よさ。」を具現化した第一号マンション「イニシア祖師ヶ谷大蔵」のコンセプトルームを見学した。祖師ヶ谷大蔵駅から徒歩5分の1低層に位置する従前が〝銭湯〟の物件。記者が先に取材した桜新町駅から徒歩5分の1低層が人気になっている、「クリオ」シリーズ〝1,000棟〟記念の明和地所「クリオ桜新町ザ・クラシック」(30戸)と極めてよく似ている物件だ。
物件は、小田急線祖師ヶ谷大蔵駅北口から徒歩5分、世田谷区祖師谷三丁目の第一種低層住居専用地域(建ぺい率70%、容積率150%)に位置する4階建て34戸。専有面積は49.67~119.12㎡、近く分譲する第1期2次(戸数未定)の価格は未定。坪単価は630万円くらいになる模様。竣工予定は2026年3月上旬。施工はライト工業。
現地は、祖師ヶ谷大蔵駅北口の「ウルトラマン商店街」から一歩入った低層住宅地。従前は老舗の銭湯。敷地は東西軸が長い長方形で、道路は敷地北側(建物セットバック含め幅9.2m)と西側(同13m)に接道。
住戸プランは、建物中央の中廊下を挟んだ南向き(18戸)と北向き14戸)、西向き2戸。主な基本性能・設備仕様は、二重床・二重天井、リビング天井高2400ミリ、フィオレストーンキッチン天板(プレミアム住戸はシーザーストーン)、食洗機、グローエ水栓、突板フローリング、親子リビングドア(一部)、ワイドスパンなど。
1月からエントリーを開始。4月から一部地元中心にインナーで販売を開始しており、14戸に対して9戸に申し込みが入っている。これまでの問い合わせ件数は500件超、コンセプトルーム来場者は67件。
新ブランドタグライン「人生を変える、心地よさ。」は、同社の創業50年(2024年2月)を機に策定されたもので、住宅は資産性や利便性だけでなく、家族と過ごす時間や自分と向き合うひとときに本質的な価値があるという意味が込められている。「祖師ヶ谷大蔵」の分譲開始に合わせて発表する予定だったようだが、設計に時間がかかったため、物件の一般公開に合わせて発表された。
ラウンジ
コンセプトルーム(LDK)
コンセプトルーム(玄関・ホール)
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コンセプトルームはよくできている。全体的な仕様レベルは高い。新ブランドタグラインを具現化していると思う。119㎡のメゾネットタイプのコンセプトルーム(うち玄関・廊下・LDK部分)の玄関・ホールは白が基調で、広さは約2.8帖大。リビングドアは幅115cmの親子ドア。突板フローリング、ワイドスパンなのもいい。北向きの70㎡台でも12.9mある。採光に配慮したコーナーサッシ付きも多い。
冒頭に、明和地所の「桜新町」と「極めてよく似ている」と書いたが、いずれも記念物件として位置づけられており、人気沿線(田園都市線と小田急線)の駅から5分の1低層、建ぺい率70%・容積率150%、敷地面積(「桜新町」)は1,886㎡、「祖師ヶ谷大蔵」は1,846㎡)、〝銭湯〟と〝1000棟〟も同じだ。異なるのは価格で、「桜新町」を紹介できないのは残念だが、「祖師ヶ谷大蔵」も人気必至と見た。
コンセプトルームがある同社のマンション総合ギャラリー「イニシアラウンジ三田」(緑は全て本物)
勝負分けた ロジックの力 言葉と造形の力 ポラス 第12回 学生・建築デザインコンペ
受賞者と審査員で記念写真(ポラテック本社「ウッドスクエア」で)
ポラスは6月30日、「第12回POLUS-ポラス-学生・建築デザインコンペティション」公開審査会を開催し、応募599点のうち一次選考を通過した5作品の中から最優秀賞(賞金50万円)に「暮らしは街にこぼれ」(武蔵野大学・小林由芽さん、野澤沙帆さん)、優秀賞(賞金30万円)に「編まれる時間の住まい」(慶應義塾大学大学院・所新太郎さん、井口雄貴さん、鈴木理紗さん)を選んだ。
コンペのテーマは「“t軸”の家/家々」で、サステナブルな未来に向かって、喜びを持って向き合える家やその集合のあり方を、具体的かつ実際的に提案してもらうもの。
最優秀賞の「暮らしは街にこぼれる」は、道をただの通行空間ではなく、「暮らしの一部」として捉えた全7戸の集合住宅。不定形の建物をアトランダムに配し〝森の抜け道〟〝秘密の密会所〟〝ポケット中庭〟など6つの庭がそれぞれの住宅を緩やかにつないでいるのが特徴。
受賞した小林さんと野澤さんは「模型を仕上げるのに今朝(30日)までかかった。この2日間の睡眠時間は2~3時間。とても嬉しい」と喜びを語った。
優秀賞の「編まれる時間の住まい」は、現代住宅は機能分節が招く思考の単一化であるとし、直線上に並べた機能を壁ではなく段差によって空間を分節し、直線住戸をランダムに交差させることで、生活に思考の余白と密度のある時間を作り出す提案となっている。
このほか、入選作品(賞金15万円)に「はみ出す境界、つながるのりしろ」(広島工業大学・村上寛明さん、中村日香さん)、「月と太陽の降る里」(九州大学大学院・矢野泉和さん、九州大学・菊池慎太郎さん、山之口涼霞さん)、「レジリエントな土壁」(デルフルト工科大学大学院・儲立人さん、中国美術学院・宋雨軒さん)の3作品が選ばれた。
各審査委員の講評は以下の通り。(発言順)
審査委員・中川エリカ氏(中川エリカ建築設計事務所) 今年のテーマは難しいと思っていたが、個性的な提案が多く、それだけ議論も多岐にわたった。すごく熱気帯びたコンペになった
審査委員・原田真宏氏(芝浦工業大学教授) 気になっているテーマだったが、皆さん果敢にチャレンジされた。有意義なコンペだった。欲を言えば、もう少しサステナブルな世界を見せてほしかった
審査委員・今井公太郎氏(東京大学生産技術研究所所長) とにかく応募の多いのがすごい。受賞作は完成度が高い。議論に応えるロジックと造形がいい。これが勝負の分かれ目となった
審査委員・野村壮一郎氏(POLUS社内審査委員) 今回の受賞作品は、図面も模型も、自分が住みたいと思わせる意欲が伝わるような提案が多かった
審査委員長・西沢立衛氏(横浜国立大学大学院Y-GSA教授) 言葉の力と造形の力に対する信頼が我々の中にある。受賞作品にはそれがあった。結果については、違った視点で考えれば違った結果になった。入賞を逸した方、順番が低かった方々もあまり気にしないで、よりよい建築を目指していただきたい
最優秀賞を受賞した小林さん(左)と野澤さん
最優秀賞の「暮らしは街にこぼれる」
優秀賞の「編まれる時間の住まい」
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テーマである「“t軸”の家/家々」に提示されている条件は単純だ。幅員10mの南西道路に接道する縦軸が40m、横軸が30m=1200㎡に7戸程度の木造住宅を建設するというものだ。用途地域も建ぺい率、容積率などの条件はない。
条件提示がない分、難しいと思った。自ら考えるほかないからだ。時間軸も難しい問題だ。過去から現在、未来へと悠久の流れを空間との関連でどう表現するのか、あるいはまた時間と空間の一点に照準を合わせればなにが生まれるのか。
記者は自分なりに、ごく単純にデザインが美しいもの、現法規で実現が可能と思われる作品を選んだ。それが「編まれる時間の住まい」だった。1階部分が「HARUMI FLAG」のように共用部分で、外にも開かれた空間になっており、2~3層の屋根の波打つ横ラインが美しい。
そのほかの作品では、「月と太陽の降る里」は5層分くらいあり、公共施設にすればランドマークになると思った。隈研吾さんも驚くのではないか。「はみ出す境界、つながるのりしろ」は出口がない迷路、解けない知恵の輪だ。どこかの国にこんな住宅はなかったか。「レジリエントな土壁」は審査委員から高い評価を得ていたが、図面が分かりづらかった。
大学院生・大学学部4年生を除く応募者の中で特に優秀な10作品に贈られるUJ賞(Under Junior award)に受賞した東京電機大学・佐久間勇次さん、阿部奏大さん、柿沼瑞幸さんともしばし歓談したが、その作品「絡まる」のデザインが素晴らしいと思った。どこか「麻布台ヒルズ」に似ており、同大学の教授でもあったプリツカー賞を受賞した山本理顕氏もこのような作品があったような気がする。これがナンバーワンか。
要するに、作品は愛と憎しみと同じだ。みんな紙一重。西沢氏も話したではないか。選ばれなくても落胆などしないことだ。
一つ残念だったのは、耳が遠くなったせいかプレゼンから質疑応答、自由論議、講評まで約4時間、話が聞きづらかったことだ。審査員の方々がこのように話したか自信がない。間違っていたら謝るほかない。