「木造の建築物を建てれば最後は森になる」三井ホーム野島秀敏社長 記者懇親会

野島氏(新木場センタービル9階)
三井ホームグループは11月4日、記者懇親会を開催し、同社代表取締役社長・野島秀敏氏は今年4月に社長に就任して以降の所感について次のように語り、「木はCO2を固定化する。木造の建築物を建てれば、最後は森になる」と締めくくった。
現在の注文住宅市場は、徐々に縮小し、建築費の上昇を背景に一棟当たり単価は高くなっている。このような市場の中で、今後どのようにして成長していくかが大きな課題となっており、当社グループは「注文住宅の会社から住宅事業+木造施設建築の会社へ」を掲げ、様々な取り組みを開始した。
一つは、木造建築の可能性を拡げるための挑戦である「MOCXION(モクシオン)」。当社初の木造マンション「MOCXION INAGI」をはじめ教育施設、ロードサイド施設、建築物の一部木造化や建材事業など幅広い建物を木造化していく。
もう一つは、「MOCXION」で培った技術を最適化した「MOCX WALL工法」。これにより下がり壁をなくしたフラット天井、またぎを解消したバルコニー、柱の制約を受けない独立支持柱、壁面を少なくした大空間を実現した。
三つめは「MOCXCOM(モスクコム)」。創業50周年を機に本社機能を今年5月、「木の街」でもある新木場に集約した。「COM」には新たなオープンイノベーションの創出を目指すコンパス、羅針盤となる意味を込めた。コミュニティを醸成するコンセプトが評価され「第38回日経ニューオフィス推進賞」を受賞した。
住宅事業については、当社はオリジナルデザインを含めて長年お客さまに高い評価を頂いてきた。このブランド価値を生かし、富裕層向けを再強化する。もう一つは、分譲マンションや分譲戸建てに流れている顧客をターゲットに「三井のセレクト」というブランドで、今まで注文住宅に見向きもしなかった若年層のニーズを取り込んでいく。
社長に就任して精力的に取り組んできたのが「全国巡訪」。この半年間で全国の支社など16か所を訪ね、直に社員の声を聴いた。社員一人ひとりと向き合い、意見を吸い上げ経営に生かしていく。

懇親会会場
高額注文住宅と規格住宅を車の両輪へ 野島秀敏・三井ホーム社長(2025/4/17)
リスト 分譲開始から7か月で完売「THE TOWER 湘南辻堂」完成 坪400万円台半ばか

「THE TOWER 湘南辻堂」
リストは11月4日、分譲開始からわずか7か月で完売した辻堂駅直結のタワーマンション「THE TOWER 湘南辻堂」(196戸)が完成したのに伴う関係者向け見学会を行った。引き渡しは11月15日。
物件は、JR辻堂駅南口から徒歩2分、藤沢市辻堂三丁目の商業地域に位置する29階建て全196戸(一般販売対象外住戸24戸含む)。専有面積は34.90~92.83㎡、価格は非公表だが、坪単価は400万円半ばの模様。竣工は2025年12月中旬。外観、住宅エントランスなどのデザイン監修はグラマラス(森田恭通氏)。設計監修は久米設計。設計は久米開発プロデュース、フィールド・デザイン・アーキテクツ一級建築士事務所。施工は鴻池組。販売開始は5月。販売終了は2024年12月。
これまでの総エントリー数は約8,100件、モデルルーム来場者数は約1,100件。エントリー者の属性は30代、40代が中心、神奈川県内が約60%、東京都23 区が約25%。

1階エントランスロビー

1~2階の螺旋階段(踏板は突板仕上げ)

波をイメージした2階ラウンジの壁は左官仕上げ

2階ラウンジ(床の一部は突板仕上げ)

2階ワークスペース
◇ ◆ ◇
この物件については、販売開始前の2024年2月のメデイア向け見学会の記事を参照していただきたい。同社は価格を公表していないが、「坪単価は400万円を突破か」と書いた予想は当たっているはずだ。400万台半ばの情報もある。隣接のマンションも同社が分譲して人気になったマンションだ。同社は、今回の物件を〝辻堂の第2期〟として位置づけている。

現地から駅へと続くペディストリアンデッキ(左側は同社が10年くらい前に分譲したマンション)

地権者が所有する商業棟

駅北口から望む現地
坪単価400万円突破か森田恭通氏の白の外観デザインがいいリスト「湘南辻堂」(2024/2/23)
コロナ禍で人気急浮上「辻堂」の住宅街の一角反響も広域リスト「湘南辻堂」(2021/8/24)
「高尾」の再現なるか湘南の流れ呼ぶか大和ハウス「(仮称)プレミスト湘南辻堂」(20217/1/25)
〝唯一無二のデザイナーズホテル〟幽玄の世界演出 オープンハウス「箱根強羅」開業

「KÚON 箱根強羅」
オープンハウスは11月8日、同社初の直営ホテル「KÚON 箱根強羅」を開業するが、開業に先立つ10月31日、メディア向け内覧会を行った。〝お茶と和菓子〟がコンセプトになっているように、得も言われぬ「玉露」などのおもてなしを演出、共用部や客室に石、土器、アンティーク家具、麻、布クロスなど自然素材を多用しているなど〝唯一無二のデザイナーズホテル〟に嘘はない。
建物は2008年に竣工したホテルをリノベーションしたもので、中庭にあったドッグランはふんだんに緑を配し、客室は中庭を囲むように配置、かつてあった大浴場は共用施設に変更している。
共用部、客室に自然素材を多用しているのも特徴。1階ラウンジのカウンターには、真鶴町産の横3m×楯2m×高さ1m、重さ20tの小松石を採用。演奏者が叩く鏧(きん)の音曲が流れる中、カウンターで淹れたかぶせ茶「ふゆひかり」で宿泊客を迎える。
2階のレストラン入り口には江戸時代の常滑土器が置かれ、レストラン内には弥生土器と江戸時代の薬箱をさりげなく設置。和モダンのティーラウンジではスタッフが氷だしの玉露茶や淹れ方に工夫を凝らした煎茶、ほうじ茶と和菓子作家・坂本紫穂氏監修の和菓子が供される。
客室は、わが国の伝統的な生活様式であった床座スタイルを採用。床は全面に麻が敷かれ、寝室には麻の天蓋、壁は布クロス、照明はスタンドタイプ…額縁風の窓と天井高3,500ミリの空間に広がりを見せる工夫が施されている。
内覧会で、運営を担当するオープンハウス・ホテルズ&リゾーツ代表取締役・渡部達也氏は「ホテル事業は、オープンハウスグループのブランド価値を向上させるのと新しい収益源の柱に育てるのが目的。箱根強羅のブランドイメージにふさわしいデザイナーズホテルに仕上げた。リノベによりコストダウン、工期短縮も図られており、新しい事業モデルの創出にもつながる。客室料金には朝・夕食、ティータイム、酒類の提供などインクルーシブで提供しており、リーズナブルな価格だと思う」と話した。
設計を担当した建築家・永井健太氏は「空間は全てオリジナルなもので、素材にはこだわった。日本文化を継承する床座スタイルを採用し、居心地のいい空間に仕上げた」と語り、この日メディアに提供された焼き鳥風の鹿肉について統括料理長・瀧田英伸氏は「限りなく生に近い鹿料理を研究する」と語った。
施設は、東京駅から電車で1時間30分、都内から車で1時間30分、神奈川県足柄下郡箱根町強羅に位置する敷地面積約2,286㎡、地下1階地上2階建て延床面積約906㎡(このほか駐車場約198㎡)。2009年竣工のホテルをリノベーションしたもので全14室。客室面積は32㎡と42㎡の2タイプ。源泉かけ流し温泉付き(42㎡は露天風呂)。チェックイン・チェックアウトは13:00・10:00。宿泊料金は42,000円~/人。運営はオープンハウス・ホテルズ&リゾーツ。開業は2025年11月8日。

ラウンジ

ティーラウンジ

客室

露天風呂

客室

鏧(きん)
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ラウンジの生け花

料理
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料理

お茶のおもてなし

ティーラウンジ
◇ ◆ ◇
同社が8月に行った開業説明会の印象からは、ターゲットはインバウンド客で、デザインはアジアンテイスト、悪く言えば無国籍ではないかと懸念したのだが、そうではなかった。どちらかといえば、ターゲットは麻の感触を理解できる、二人ゆっくり非日常を楽しむ夫婦かカップルではないかと思う。外国人や子どもにはこの幽玄の世界は理解されないかもしれない。タレントを起用した〝便利地、好立地〟の同社のイメージとは真逆なのもとても面白い。
出身が三重県尾鷲だという瀧田氏とは田舎のサンマの干物、さめのたれなどについて歓談し、鹿肉の調理方法についても意見を交わした。記者は田舎に帰ると、隣家の方が用意してくれる鹿の刺身で酒を飲んだ。凍らせたものをルイベにしてワサビ醤油で食べるもので、酒のつまみに最適だ。おかずにはならない。「モミジ」と呼ばれるように赤肉で、高タンパクで低脂肪、癖もない(「さくら」と呼ばれる馬刺しは、競馬をやっていた記者はかわいそうで食べない)。
ただ、鹿肉は寄生性原生生物・肉胞子虫が食中毒を起こすリスクがあることから、厚労省のガイドラインには「野生鳥獣は、家畜とは異なり、飼料や健康状態等の衛生管理がなされていないことを踏まえれば、安全に喫食するためには十分な加熱を行うことが必須である」として、飲食店で生肉が提供されることはまずないはずだ。(寄生性原生生物・肉胞子虫は冷凍すれば死滅するともある。記者はそれを食べていたはずだ)
瀧田さん、その他の関係者の皆さん、鹿肉はヨーロッパでは高級料理と言われているではないか。鹿肉を刺身で食べられるよう研究開発を進めていただきたい。獣害に悩んでいる山林・農業従事者のためにもなる。
参考までに。記者が大好きな食材は(ほとんど酒のつまみだが)〝野草の女王〟コシアブラをはじめフキノトウ、カラスミ、豆腐よう、アオサ、ホヤ、カニ味噌、アユ…大量のバーチャルウォータを消費する牛肉・豚肉などとはみんな無縁だ。

外観

小松石のカウンター

小松石

鏧(きん)の生演奏

中庭

客室 床

客室 手洗い

内風呂

ティーラウンジ

ティーラウンジ窓から(まるで額縁絵)

焼き鳥風鹿肉料理

江戸時代という薬箱(その上は弥生土器)

江戸時代という常滑土器
オープンハウス初のリノベ直営ホテル「強羅」開業〝お茶と和菓子〟コンセプト(2025/8/2)
令和7年9月の住宅着工 持家、貸家、分譲とも6か月連続減
国土交通省は10月31日、令和7年9月の住宅着工戸数をまとめ発表。持家は 18,273戸(前年同月比 5.6%減)で6か月連続の減少、貸家は28,494戸(同8.2%減)で6か月連続の減少、分譲住宅は16,428戸(同8.3%減)で6か月連続の減少となった。分譲住宅の内訳はマンション6,121戸(同20.0%減)、一戸建住宅10,070戸(同0.4%減)で、ともに6か月連続の減少となった。
首都圏は、総戸数は23,009 戸(同8.1%減)、持家は4,008戸(同0.9%減)、貸家は11,764戸(同8.1%減)、分譲住宅は7,164戸(同11.9%減)。
首都圏マンションは2,498戸(同31.7%減)で、内訳は東京都1,929戸(同20.4%増)、神奈川県400戸(同71.8%減)、埼玉県169戸(同41.9%減)、千葉県0(同100.0%減)。首都圏分譲戸建ては4,469戸(同3.1%増)で、内訳は東京都1,310 戸(同4.7%減)、神奈川県1,226戸(同0.2%増)埼玉県1,024戸(同1.2%減)、千葉県909戸(同 29.5%増)。
エリアマネジメント4団体が「芝東京ベイ協議会」設立 水辺と豊かな地域資源アピール

左から鈴木氏、平地氏、青栁氏
浜松町芝大門・竹芝・芝浦の3地区でエリアマネジメント活動を行う一般社団法人浜松町芝大門エリアマネジメント、一般社団法人竹芝エリアマネジメント、一般社団法人竹芝タウンデザイン、一般社団法人芝浦エリアマネジメントの4者は10月30日、各々のエリアマネジメント組織が抱える共通の地域課題を解決し、地域の価値向上を目指す共創型のまちづくり組織「芝東京ベイ協議会」を設立。緑に恵まれた浜松町芝大門地区での歴史的な文化財活用や、東京湾岸部のひらけた水辺を有する竹芝・芝浦地区での賑わい創出や舟運活性化を積極的に進め、地域の価値向上を図り、活動していく。
同日、実施した設立式典では、芝東京ベイ協議会理事長・青栁彰浩氏は、「本協議会は各地区の特性やエリアマネジメント組織の強みを活かし、地域の活性化や共通する地域課題の解決に取り組む『共創型まちづくり組織』です。エリアの完成時の建築物の総延べ床面積は面積は約115ha。歴史と未来、陸と海が交わる、東京でも魅力あふれる『芝東京ベイ』を舞台に、生活する方や働く方、訪れる方に対してより魅力的で便利な体験にあふれるまちづくりを進めていきます」と挨拶した。
また、協議会の会員のメンバーが、回遊施策やスマートシティなどの地域課題解決に向けた重要施策や、地区が一体となった共創の重要性についてパネルディスカッションを行った。モデレーターを務めた野村不動産芝浦プロジェクト 企画部長・四居淳氏は「協議会は4つの団体の上部組織ではない。共創を目指すもので、競争でも、独占でも囲い込みでもない」と強調した。
11月1日からは、各事業者やその他事業者による様々なイベントが行われる。
浜松町芝大門エリアマネジメント(代表理事:鈴木達人氏)は2023年4月設立、事業者は世界貿易センタービルディング、貿易ビルサービス。竹芝エリアマネジメント(代表理事・平地稔氏)は2017年3月設立、事業者は東急不動産、アルベログランデ。竹芝タウンデザイン(代表理事:表輝幸氏)は2019年8月設立、事業者は東日本旅客鉄道。芝浦エリアマネジメント(代表理事:青栁彰浩氏)は2022年4月設立、事業者は野村不動産、東日本旅客鉄道。
◇ ◆ ◇
エリアマネジメント組織は2000年代の初頭から普及し始めたもので、国土交通省のデータによると官民合わせて2,000団体くらいある。記者が真っ先に浮かぶのは大丸有エリアマネジメント協会(リガーレ)だ。2002年に設立されたNPO法人だ。丸ビルの竣工に合わせて設立されたと思われる。その後の活動は目を見張るものがある。ホームページには、エリア面積は約120ha、就業者は約35万人、事業所数は約5,000、上場企業本社は約135社などとある。
「芝東京ベイ協議会」の設立式典で青栁氏は街づくりの完成時の延床面積は約115haと話した。これがどのような意味を持つか記者は分からないが、大丸有のエリア面積とほとんど同じだ。大丸有にはない海にも近いのが最大の特徴で、大小の公園もたくさんあり(大丸有は極端に少ない)、緑被率も大丸有よりは高いはずだ。公共の喫煙所もどこよりも豊富だ(大丸有は公園が少なく、緑地率が高いのは仲通の一角のみで、喫煙スペースも極端に少ない)。
この利点を生かせば、回遊率は高まり、地域資源も生かせると思う。100年以上の歴史を持つ企業や老舗飲食店も30あると聞いた。東京建物の八重洲・日本橋・京橋(YNK)エリアの12をはるかに上回る。野村不動産の「BLUE FLONT SHIBAURA」のNタワーが完成するのは2030年だ。芝東京ベイ協議会が何を打ち出すか楽しみだ。
大和ハウス 住友電設株1,694億円で公開買い付け 完全子会社化へ
大和ハウス工業は10月30日、住友電気工業と業務締結契約を締結し、住友電気が所有する子会社・住友電設株17,828,151株(所有割合50.66%)を1株9,760 円、総額1,694億円で公開買い付け(TOB)により取得すると発表した。公開買付けは2025年10月31日~12月15日。
高齢者、障がい者でも「バリアフリーでない」住宅は約6割 LIFULL 産学連携&調査

LIFULLは10月29日、日建設計、日建設計総合研究所、CULUMU、東京大学と暮らし・まちづくりのインクルーシブデザインに関する産学連携、共同研究を開始すると同時に、不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME’S」が高齢者、障がい者など多様なユーザーや当事者と共創するインクルーシブデザインスタジオCULUMU(クルム)と共同して「住まい・まちづくりのインクルーシブデザインに関する実態調査」をまとめ発表した。
調査は、全国20歳以上の630名(うち、本人もしくは家族に障害のある人99名)と、全国20歳以上の本人もしくは家族に障害をある人61名を対象に、インターネットにより今年8月27日から9月にかけて行ったもの。障害者などと一般の人双方に聞くことで、従来のデザインプロセスから抜け落ちている課題を発見することを目的としている。
調査結果によると、「バリアフリー住宅への住み替え・購入、または改修を検討したことがあるか? 」との問いについては、一般層の約90%の人は「検討したことがない」と回答。年代別では、60歳代では「ある(改修済み・計画中)」と回答し、60歳以上のニーズが高まっていることがわかった。当事者層は「ある(改修済み・計画中)」が約2 割(20.6%)、「検討したが見送った」(17.9%) とあわせ約4割が検討経験があると回答したが、当事者層でも約6割(58.2%)の人は検討したことがないことがわかった。
バリアフリー住宅を検討した人(「検討したことがある」「検討したが見送った」と回答した)に理由をたずねたところ、「家族または自身の高齢化に備えるため」(61.0%)で、「障害のある家族がいる/将来的に生じる可能性があるため」(41.0%)が続いている。
一方、バリアフリー住宅を検討したことがない人の理由は一般層では「本人・家族ともに元気で必要性を感じない」(22.8%)、「現在の住まいに不便を感じていない」(20.6%)という回答が多く、当事者層は「費用が高そう」(21.4%)、「賃貸住宅のため自由に改修できない」(19.0%)など。
「現在の住まいがバリアフリー住宅か」たずねたところ、一般層は「バリアフリー仕様ではない」という回答が70.6%で、「バリアフリー仕様である」は15.7%、「一部バリアフリー改修済み」は10.8%だった。当事者層では、「バリアフリー仕様ではない」が約6割(58.8%)、「バリアフリー仕様である」は15.9%だった。
「現在の住まいにおいて、あなたまたはご家族にとってバリアフリーの必要性を感じるか? 」との問いに対しては、一般層では「必要だと感じる」と回答した割合は28.3%に留まり、当事者層の57.1%が「必要だと感じる」(「非常に必要だと感じる」「ある程度必要だと感じる」の合計)と回答した。
障害のある当事者層に「現在の住まいのバリアフリー化の希望箇所」をたずねたところ、13項目のうち当事者全体の回答が多かった上位5 項目は「浴室の安全性・使い勝手」「玄関・屋内の段差」「トイレの使い勝手」「建物外アプローチ(玄関階段・スロープなど)」「キッチンの高さ・使い勝手」だった。
当事者の声としては「日本家屋は元々バリアフリーの考え方から遠く、大きな段差がたくさんあります。狭い土地面積を活用するためにどうしても高いところに収納を付けることも多いです。これらをいかに障害に合わせた空間に変えていけるかが課題と考えています」(40代・肢体不自由、 精神障害、一人暮らし)「毎日何回も行き来するので、バリアがあるとその都度ストレスを感じてしまいます。よく使う動線はできるだけフラットにし、移動する際のストレスのないように設計をしています」(40代・肢体不自由)「両親の足腰、腕の力が衰えてきており、それを補助してくれる設備を必要性を感じているため」(30代・発達障害)「子供がかなり走るので、転倒時などを想定しなるべく段差などをなくしたい」(30代・発達障害、自閉スペクトラム症など)
◇ ◆ ◇
予想された結果だろうが、いかにわが国の住宅はバリアが多いかが浮き彫りになった。記者は30年以上も前から、バリアフリーはもちろん、ユニバーサルデザインを採用すべきだとずっと主張してきた。廊下・階段はメーターモジュールを採用するとか、トイレは車いす利用になったときに改修できる位置に設けるとか、ドア幅は90cmにする、引き戸を多用し、ソフトクローズ機能付きにする、開き戸のドアは壁面までセットバックさせ、ドアノブは先を丸める、ベランダなど掃きだし窓はフラットサッシにする…などだ。
ユニバーサルデザインを基本にしているデベロッパー、ハウスメーカーは10社に1社あるかないかだ。残念でならない。
既存の物差しは通用しない時代へ 東京建物「リジェネレーション」サミット

「RegenerAction Japan 2025(リジェネアクションジャパン2025)」左から沢氏、Butterfly Lab代表/システミックデザイナー・松村大貴氏、Future Food Institute/クルックフィールズ・中村圭氏、小澤氏、内藤氏、友廣氏、PLUM KNOT代表取締役/Innovative Kitchen 8goディレクター・料理人・野田達也氏、リバネス執行役員CHO 長谷川和宏氏(東京コンベンションホールで)

小澤氏
東京建物は10月28日・29日、世界的な潮流となりつつある「リジェネレーション」をテーマにした国際カンファレンス「RegenerAction Japan 2025(リジェネアクションジャパン2025)」を東京コンベンションホール(東京都中央区京橋、東京スクエアガーデン5階)で開催する。カンファレンスは、2023年以来3回目の開催で、「政治」「環境」「人間性」「社会」「文化」「経済」の6つの分野を横断し、社会のあらゆる側面からリジェネレーションの道筋を探る。
開催直前の28日に行われた記者発表会で、同社代表取締役社長執行役員・小澤克人氏は、「Regeneration(リジェネレーション)」とは自然・社会を再構築する概念で、世界的にこの概念が広がっている社会背景として①産業革命以降の経済成長優先から、環境保全と経済成長の両立へ転換への機運の高まり②SDGsなど国際協調の枠組みが設立されたが、「それだけでは不十分」との認識の広がり③GDP成長だけでは生活満足度向上に不十分-などとし、「サステナビリティ」の先に「リジェネレーション」があると話した。
その取り組みを加速させるため同社は昨年「Regenerative City Tokyo」を発表し、その実現のため「教育」「共創・オープンイノベーション」「社会実装」「情報発信」「物理的な場づくり」の5つの領域での具体的アクションを実施しており、企業の枠を超えたグローバルな規模・連携を加速させるためClimate Week NYC 2025で「Regenerative Cities Manifesto」を発表した。
Regeneration(リジェネレーション)にどうして同社が取り組むのかについて、1896年の創業以来、八重洲に本社を構え、八重洲・日本橋・京橋(YNK)エリアで連綿として継承されてきた街の歴史や文化、社会課題、経済とのつながりを考えたとき、エリアに創業100年超の老舗飲食店が12店舗も存在することから「食」をテーマに選んだと説明した。
不動産会社が「食」に関わることについては、100年先の未来を考えたとき、「建物をつくる」「運営する」だけでは不十分で、従来の物理的価値(フィジカルバリュー)と社会的価値(ソーシャルバリュー)を掛け合わせ、FOODを通じた社会課題解決につながる街づくりに取り組むとした。
同社はまた、Regenerative Action(共創プロジェクト)の一環として、神奈川県湯河原町と合同会社シーベジタブルと三者で「湯河原モデルとRegenerativeCity(リジェネラティブ シティ)の実現に向けた包括連携協定」を締結し、湯河原町の地域資源を活用した海藻の生産および海藻由来の商品の製造に関する実証実験を行うと発表。内藤喜文湯河原町長、友廣裕一シーベジタブル共同代表も登壇しそれぞれ協定締結を喜んだ。
このほか、Regenerative Action(共創プロジェクト)として「木庭MOKUTEI」「First Step (Community Beer)」「Innovative kitchen 8go」「TOFRO」を発表し、それぞれの代表者が登壇しあいさつした。

左から沢氏、内藤氏、友廣氏
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記者発表会は約1時間で、フォトセッションを含めた登壇者は小澤社長をはじめ10人超で盛りだくさんな内容だった。ただ、小生も含め不動産関係の記者は、「食」がテーマの取り組みは取材機会が少ないためか、質疑応答で質問したのは1人のみだった。消化不良の記者の方は少なくなかったはずだ。
小生もそのうちの一人だが、話を聞きながらずっと考えていたのは、1か月前に取材した「LIFULL HOME'S総研」の「Sensuous City(センシュアス・シティ)[官能都市] 2025」であり、ほぼ同時期に発表された森記念財団都市戦略研究所「日本の都市特性評価DATABOOK 2025」だった。モノサシが異なれば、モノは全く違って見えるということであり、既存の都市の魅力を測るモノサシはもはや通用しないのではないかと。
同社都市開発事業第一部 八重洲プロジェクト推進室長・沢俊和氏沢氏も配布資料「Regenerative City Totyo VISION BOOK」の中で「2025年9月、ニューヨークで開かれたClimate Weekで目の当たりにしたのは、世界中の企業が直面している現実でした。過去16年で最大規模となった2025年は、1,000近くのイベントに10万人以上が参加し…気候変動への危機感と価値観の変容、この2つが重なり合い、消費者の選択基準は大きく変わりつつあります。もはやGDP成長という単一の物差しでは測れない時代です」と、そして「環境を回復させながら、経済的価値も、社会的なつながりも、文化的な豊かさも、同時に生み出していく。一見矛盾するような複数の価値を、どうすれば両立できるのか。その答えを、システム全体の再設計の中に見出そうとしています」と述べている。
いま不動産市場は、かつて誰も経験したことがないバブル経済を上回る状況下にある。その一方で、実質賃金はマイナスが続いている。インフレかデフレかの尺度も見直す必要があるのかもしれない。

展示コーナー

展示コーナー

アオモジの香りがするクラフトビール(800円くらいになる模様)

沢氏(左)と同社まちづくり推進部FOOD&イノベーションシティ推進室兼まちづくり推進室課長代理・谷口元祐氏
誰のための調査か森記念財団「日本の都市評価特性」とLIFULL「官能都市」比較(2025/10/11)
「Sensuous City(センシュアス・シティ)[官能都市] 2025」発刊 LIFULL HOME'S(2025/9/25)
プレ協「住生活向上推進プラン2025」 4年目の2024年度実績は順調に進捗
プレハブ建築協会は10月28日、国が掲げる「2050 カーボンニュートラル」への対応を志向した5か年計画「住生活向上推進プラン2025」(2021年~2025年)の2024年度実績報告会を開催し、2025年度の定量的・定性的目標が順調に進捗していると発表した。
同プランの4年目となる2024年度実績は、住宅性能表示取得率(戸建)の「設計」は85.8%、「建設」は83.0%(2025年目標は設計・建設85%)、「住まい実態アンケート調査」によるCS満足度は68.6%(同75%)、長期優良住宅認定取得率(戸建)は84.9%(同85%)、ZEH供給率(NearlyZEH以上)は88.1%(同87%←2024年度目標85%)、新築戸建ての居住段階の一次消費エネルギー消費削減量(再エネ含む)は95.4%(同100%)、ストック住宅断熱・省エネリフォームによる一次エネルギー消費削減率は50.5%(同50%←同30%)、工場生産のCO2排出量(総量)は73.7%減(同70%←2024年目標65%)、工場における再エネ電気の利用率は87.8%(同90%←同75%)となり、ZEH供給率、工場生産CO2削減量、工場における再エネ電気利用率など4項目は2024年目標を前倒しして達成した。
◇ ◆ ◇
上段に見たように、「住生活向上推進プラン2025」の2024年度実績は、低層共同住宅の長期優良住宅認定取得率(7.6%)や、低層共同のZEH供給率(41.3%)に課題はあるものの、他の数値は〝優等生〟そのものだ。
しかし、優等生であるがゆえに、同協会には更なる高みを目指してほしいので、2、3注文も付けたい。
一つは、CS満足度だ。築6~10年の同協会会員が建設した住宅に対するオーナーの「非常に満足」(20.3%)と「満足」(48.3%)を合わせた満足度(68.6%)は、平均住宅市場の推計57.3%よりは高いが、同協会会員のブランド力からして高いといえないのではないか。
記者はもう20年も前に、同協会会員会社の営業担当から「我々はオーナーと契約を結んでからかがおつきあいの始まり」と聞いたことがある。さもありなんと思ったものだ。当時のデベロッパーのマンションや戸建て担当はどうかというと、〝事業離れ〟〝売り逃げ〟という言葉がまかり通っていたように、分譲し終わったら契約者との関係は絶たれた(今は各社とも囲い込みに必死で取り組んでおり、マンション管理満足度は概ね70%以上だ)。
その会社はその後もどんどん業績を伸ばしているが、同協会全体のCS満足度は現在もそれほど向上していない。2020年度の数は「とても満足」(33%)と「満足」(44%)合わせると77%だった。NPS-23.7%(住宅市場平均推計-45.2%)も、依頼・相談意向-14.0%(同-41.1%)も褒められる数値ではない。
もう一つは、戸建ての緑環境(緑被率)だ。記者は住宅の質を図る指標として、建物の品質と同じくらい敷地内の緑被率を重視すべきだと思っているが、同協会会員を含めた分譲戸建ての緑被率は10%あるかどうかではないか。同協会が果たしている役割を考えたら少なくとも緑被率は20%以上確保すべきだと思う。
さらに、もう一つ、ZEHと居住水準はひょっとしたらトレード・オフの関係にあるのではないかという懸念だ。これはあくまでも推測だが、政府のZEH水準の戸建てに対する補助金に対応するため、建物面積を狭くし、熱の出入りが激しい窓面積を建基法ぎりぎりの面積まで小さくしている業者が増えているのではないか。そのようなことがないよう、同協会が先頭に立って業界をリードしてほしい。
ZEH供給比率70%達成へ プレハブ建築協会 住宅部会 2020年度活動報告(2021/3/23)
駅近で公園近接 東側の抜け感も価値あり 三信住建「フォレア(多摩センター)」

「フォレア(多摩センター)」メゾネットタイプ
三信住建が分譲中のフラッグシップマンション「フォレア(多摩センター)」を見学した。分譲開始は2025年4月で、これまで約半数が成約済みだから順調に進捗しているのだろう。坪単価は分譲前に予想した通りだ。
物件は、京王・小田急線多摩センター駅から徒歩5分、多摩市落合一丁目の商業地域に位置する敷地面積約1,604㎡の13階建て全99戸。10月下旬に分譲予定の第1期11次(戸数未定)の専有面積は35.79~109.13㎡、価格は未定。建物完成予定は2027年2月中旬。設計・監理はIAO竹田設計。施工はオープンハウス・アーキテクト。
現地は、「多摩美術大学美術館」跡地で、多摩センター駅圏の一等地。「多摩中央公園」はほんの数分。敷地南側には13階建てサンウッド「ガーデンコート多摩センター」(93戸)、南西側はベネッセの超高層ビルが建っており、眺望・日影の影響を受けるが、東側はサンリオピューロランドの低層棟で開けている。北側はイチョウ並木が美しい空間が広がっている。
主な基本性能・設備仕様は、二重床・二重天井、リビング天井高2,500ミリ、グースネック仕様の浄水器一体型水栓、フィオレストーンキッチン天板、ディスポーザ、食洗器、ユーティリティシンクのほか、共用施設はラウンジ、ゲストルーム、ランドリールーム、マルチスタジオ、ワーキングスペースなど。
◇ ◆ ◇
同社がプレス・リリースを発表した時点では、立地条件がどうかと思ったが、その後、プランなどを確認したら、住戸のほとんどは眺望が開けている東向きか西向きだ。
南側の日照・眺望を希望する検討者には物足りないだろうが、東向き・西向きになっている分だけ価格は抑制されている。コンパクトタイプも多いので、同社はグロスを重視するユーザーや単身者をターゲットの一つに設定しているはずだ。駅に近いだけでなく、商業地域立地だが意外と閑静で、大規模公園も近接、東側の抜け感は希少だ。
そんなことより、一般の方も含めて読者の皆さんに伝えたいのは、わが多摩センターの住環境のよさで、この住環境の価値を適正に評価していただきたいということだ。
皆さんは、LIFULL HOME'S総研の「Sensuous City(センシュアス・シティ)[官能都市] 2025」報告書をご存じか。記者の記事も参照していただきたいのだが、全国167都市を調査対象にしたこの報告書には「都市のリトリートに関する4項目については、他のジャンルとは様相が大きく異なる。トップは『東京都日野市、多摩市、稲城市』であり、『東京都江東区』、『長野県松本市』…」(96ページ)とあり、評価ポイントが高いのは「木陰で気持ちよい風に吹かれた」「公園で水辺で緑や水に直接ふれた」「小鳥のさえずりや虫の音に耳を澄ました」という体験(リトリート)だ。
いかがか。官製の報告書や〝住みたい街ランキング〟の類で、これまで日野市、多摩市、稲城市が1位になったことなど一度もないはずだ。記者は、日野市、多摩市、稲城市をひと括りにするのは如何と思うが、センシュアス(五感)、ナラティブ(物語)など緑環境を重視する視点からすれば、都市ランキングは一変するということだ。
RBAホームページから「多摩センター」で検索すると120件ヒットする(2013年以降)。記事は多摩センター礼賛のオンパレードだ。
こんなことを書くとどこかから袖の下でも貰っているのではないかと嫌疑を抱かれるかもしれないが、記者はどこからもびた一文もらっていない。記者自身のモノサシでモノを見て記事を書いている。肝心なのはこの私自身(あなた自身)のモノサシだ。行政やデベロッパーの匂いが芬々する調査やアンケートに騙されてはいけない。

仮囲いがある現地(今年2月撮影)
「Sensuous City(センシュアス・シティ)[官能都市] 2025」発刊LIFULL HOME'S(2025/9/25)
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