三井不動産 2023年3月期決算 売上高・利益とも過去最高更新
三井不動産は5月10日、2023年3月期決算を発表。売上高は2兆2,691億円(前期比8.0増)、営業利益は3,054億円(同24.7%増)、経常利益は2,653億円(同18.0%増)、純利益は1,969億円(同11.3%増)となり、売上高、営業利益、経常利益、純利益とも過去最高を更新した。
セグメント別では、賃貸は売上高7,543億円(前期比12.9%増)、営業利益1,491億円(同14.7%増)。「50ハドソンヤード(米国・オフィス)」の収益・利益の拡大、既存商業施設の回復、「ららぽーと福岡」「ららぽーと堺」の開業効果などにより売上高・営業利益とも過去最高。首都圏オフィス空室率(単体)は3.8%で、前期末から2.6ポイント改善した。
分譲事業は、売上高6,406億円(同0.5%減)、営業利益は6,406億円(同5.3%増)。投資家向け・海外住宅分譲は減収減益となったが、国内分譲は2,705億円(同10.3%増)、営業利益は393億円(同63.8%増)で、営業利益は過去最高となった。完成在庫はマンションが55戸(前期末82戸)、戸建てがゼロ(同7戸)。今期の国内新築マンション計上予定戸数3,350戸に対する契約達成率は77.5%。
プロパティマネジメントは、売上高4,459億円(同3.9%増)、営業利益633億円(同10.8%増)。リパーク(貸し駐車場)の稼働向上や費用削減、プロジェクトマネジメントフィーが増加したことなどから売上高・営業利益ともに過去最高を更新した。三井不動産リアルティのリハウス事業の取扱高は増加したが、取扱件数は39,106件(前期41,183件)減少したため微減益となった。
ホテル・リゾートなどその他は売上高4,282億円(同19.1%増)、営業損失42億円(前期は296億円の営業損失)。RevPARが大幅に改善し、売上高は過去最高。東京ドームの売上高は731億円で、前期より137億円の増収。三井ホームの新築請負売上高は1,378億円で、前期比19億円の減収。
2024年3月期は売上高2兆3,000億円(前期比1.4%増)、営業利益3,300億円(同8.1%増)、経常利益2,450億円(同7.7%減)、純利益2,100億円(同6.6%増)を見込む。
また、期末配当は2円増配の32円(年62円)とし、次期配当も年68円に増配する予定。
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分譲事業が絶好調だ。国内分譲住宅と投資家向け・海外住宅分譲を合わせた売上高は6,406億円(前期比31億円減)、営業利益は1,457億円(同73億円増)。内訳は国内分譲住宅の売上高は2,705億円(同253億円増)、計上戸数は3,616戸(同99戸減)、営業利益は393億円(同153億円増)、営業利益率は14.6%(同4.8ポイント増)。
分譲住宅の内訳は、マンションの売上高2,356億円(同288億円増)、戸数3,196戸(同12戸減)、戸当たり単価7,373万円(同931万円増)で、戸建ての売上高348億円(同35億円減)、戸数420戸(同87戸減)、戸当たり単価8,308万円(同717万円増)。戸数減を戸当たり単価上昇でカバーした。完成在庫はマンションの55戸のみ。
投資家向け・海外住宅分譲の売上高は3,701億円(同285億円減)、営業利益は1,063億円(同79億円減)、営業利益率は28.7%(同0.7ポイント減)。
東急不HD 2023年3月期 売上高1兆円超だが 気になる住宅事業の利益率の低さ
東急不動産ホールディングスは5月10日、2023年3月期決算を発表。売上高は1兆58億円(前期比1.7%増)、営業利益は1,104億円(同31.7%増)、経常利益は995億円(同36.7%増)、純利益は482億円(同37.3%増)と増収増益。売上高が1兆円超となったのをはじめ営業利益、経常利益、純利益ともホールディングス体制への移行前も含めて過去最高となった。
セグメント別では、都市開発事業の売上高は3,461億円(前期比6.2%増)、営業利益は586億円(同12.9%増)。渋谷を中心とするオフィス・商業施設の空室率は1.1%(前期末1.3%)と堅調に推移し、「九段会館テラス」の開業も業績向上に寄与した。住宅分譲は計上戸数減少により減収となったが、在庫整理が進み、マンションの今期売上予想1,218戸に対する契約済みは82%(同24ポイントアップ)と改善した。
管理運営事業の売上高は3,371億円(同12.1%減)、営業利益は123億円(黒字転換)。「ハンズ」の株式譲渡により567億円の減収になったが、セグメント全体では減収増益となった。
不動産流通事業の売上高は2,630億円(同12.1%増)、営業利益は337億円(同28.9%増)。売買仲介、不動産販売とも好調で増収増益となった。
戦略投資事業の売上高は788億円(同17.6%%増)、営業利益は152億円(同3.4%増)。物流施設の売却や再生可能エネルギー事業の稼働施設の増加などが押し上げた。
2024年3月期は売上高1兆1,200億円(前期比11.4%増)、営業利益1,120億円(同1.4%増)、経常利益1,005億円(同0.95増)、純利益620億円(同28.6%増)を見込む。
また、純利益が直近予想の390億円から92億円増の482億円になったことから、期末配当は直近の配当予想から1株4円50銭増配し、14円50銭、年間配当金は23円50銭(前期実績17円00銭)とする予定と発表した。
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売上高が初めて1兆円超となったのは、2000年以降は主たる収益源だった住宅事業からオフィス・商業施設など賃貸事業へシフトし、2014年には再生可能エネルギー事業に参入するなどポートフォリオの改善を進めてきた結果だ。
しかし、同社の分譲事業を取材して記者にとっては、分譲戸建ての供給がほとんどなくなり、課題だったマンションの利益率改善もそれほど進んでいないのは残念でならない。
同じような事業規模の東京建物(2022年12月期)と比較してみよう。マンションの計上戸数は東急が1,369戸、東建が859戸、売上高は東急が1,453億円、東建は859億円、営業利益は東急が111億円、東建が233億円、売上高営業利益率は東急が7.6%、東建が27.1%だ。完成在庫は東急が200戸、東建が175戸。営業利益は東建の約半分で、利益率は10ポイントもの差がある。他のデベロッパーと比較しても同様の結果となるはずだ。何かが欠けている。
マンションの計上戸数が減少するのは「供給を抑えているためか」というメディアの質問に対して、同社執行役員・宇杉真一郎氏は「マンションの供給を抑えているというのは正確ではない。資材高騰などを価格に転化しづらい郊外から、利益率が高い都内・再開発物件にシフトしていくということだ。今期が底。来期以降は改善する」と説明した。この言葉を信じよう。とりあえず「ブランズ渋谷桜丘」155戸に期待しよう。
全3棟850戸超の「(仮称)昭島プロジェクト」始動 大和ハウス

「(仮称)昭島プロジェクト」
大和ハウス工業は5月10日、東京都昭島市の3棟で850戸超の大型分譲マンションプロジェクト「(仮称)昭島プロジェクト」本格始動すると発表した。
プロジェクトは、JR昭島駅から徒歩5分、映画館や飲食店が出店する大型複合商業施設「MORITOWN(モリタウン)」をはじめ、アウトドアをテーマとした体験型商業施設「MORIPARK OutdoorVillage(モリパーク アウトドアヴィレッジ)」やプール・テニスコートなどのスポーツ施設を備えている昭島駅北口の都市型リゾートエリア「東京・昭島 モリパーク」内に位置。
2021年4月に昭和飛行機都市開発から取得した用地約32,000㎡をA・B・Cに分け、うちA敷地の13階建て「プレミスト昭島 モリパークレジデンス」481戸を2023年1月に着工した。
このほかB敷地は9階建て約100戸、C敷地は14階建て約270戸をそれぞれ予定している。工期は2023年1月~2028 年度の予定。総事業費は約400億円。
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取得した用地はおおよその察しがつく。2021年に分譲開始された三井不動産レジデンシャルの「パークホームズ昭島中神」(313戸)のモデルルームが設けられたエリアの一角だ。ゴルフ場、ホテルもあり、住環境は素晴らしい。問題は戸数の多さだ。工期は5年。年間に換算すると年間170戸。
常識的には、竣工までに売るのはかなり厳しい数字だが、設備仕様レベルを上げ、アウトドア派に訴求すれば人気を呼ぶ可能性もあると見た。価格がいくらになるかだが、坪単価はアッパーで240万円でどうだろう。
サンウッド旋風巻き起こすか 2023年3月期業績好調 京王と初のJV「浜田山」分譲へ

「サンウッド浜田山」(物件ホームページから)
サンウッドは5月9日、2023年3月期決算説明会を行い、同社代表取締役社長・森毅氏が決算概要、2023年3月期業績予想、新規取り組みなどについて説明した。
2023年3月期決算は、売上高19,376百万円(前期比46.6%増)、営業利益1,959百万円(同256.7%増)、経常利益1,655百万円(同413.7%増)、純利益1,155百万円(同405.1%増)となり、営業利益、経常利益は創業来2番目、純利益は創業来最高益を達成した。
坪単価650万円超の「サンウッド瀬田1丁目」(22戸)など分譲マンション2物件が早期完売し、一棟収益物件「WHARF(ワーフ)」シリーズ6物件を計上した不動産開発事業が13,606百万円(前期比93.5%増)となり、増収増益に寄与した。完成在庫はゼロ。不動産再生事業は前期の反動減で減収となった。
2028年3月期の売上高300億円を目標とする中期経営計画を見据えた仕入れが順調に進んだ結果、棚卸資産は前期末18.7%増の22,972百万円となり、2026年3月期までの仕入れ目標をほぼクリアした。
2024年3月期は売上高19,531百万円(前期比0.8%増)、営業利益1,298百万円(同33.8%減)、経常利益1,010百万円(同39.0%減)、純利益696百万円(同39.8%減)を見込む。森社長は「前期は想定を上回る数値。今期は通常の利益率に戻る」と説明した。引き渡し予定のマンション3物件の契約が順調に進み、「WHARF」も5物件のうち4物件を契約完了している。
今期の新規取り組みとして、7月に合同モデルルーム「SUNWOOD LOUNGE新宿」を新宿アイランドに開業し、京王電鉄と初の共同事業マンション「サンウッド浜田山」(47戸)のモデルルームを設置する。また、高級賃貸マンションニーズの高まりを受け、都心5区を中心とする東京23区に特化した不動産ファンド事業を立ち上げる予定。森氏は「ファンド事業は中期経営計画に盛り込んでいないが、京王電鉄、グループの京王不動産、リビタとのシナジー効果を発揮し、マンション事業、WHARF事業に続く新しい事業の柱に育てていく」と語った。
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2021年11月に新たに京王電鉄グループと資本提携(京王電鉄の持株比率は21.19%)した同社の今後に注目している。
同社は1997年の創業から2012年まで森ビルと資本提携し、渋谷区や港区などで高額マンションを供給してきた。2012年に資本提携を解消し、2013年にタカラレーベンと資本提携したとき、都心部の高額マンションを得意とする同社と、郊外・地方が中心のタカラレーベンとの企業理念・社風は異なり、シナジー効果を発揮するのは容易ではないと記者は見ていた。
一方、京王電鉄は京王不動産、リビタの不動産会社を擁するが、自社開発マンションはほとんど行っていない。2022年3月期の不動産事業売上高は472億円で、グループ全体売上高の15.8%を占めるが、他の首都圏電鉄会社7社と比較すると、売上高、売上比率は下位からそれぞれ3番目だ。沿線のポテンシャルの高さを考えると圧倒的に負けていると記者は考えている。
そして今回、マンションなど不動産事業の強化が急務の京王電鉄と京王沿線での供給事例も多いサンウッドの提携は、双方に大きなメリットがあるはずで、決算説明会に出席したのも、森社長が何を話すか聞きたかったからだ。
その成果はあった。京王との共同事業第一弾となる「サンウッド浜田山」の現地は見ていないが、おおよその見当はつく。立地条件は申し分ない。同社は「価格は未定」としているが、記者は坪600万円超もありうるとみている。森社長は「井の頭沿線のナンバーワンを目指す。飛躍的に高まった資金調達能力を生かし、今後も積極的に京王さんとの共同事業を進めていく」と語った。
決算説明会で驚いたことがある。一つは、6月の株主総会で京王電鉄取締役常務執行役員開発事業本部長・南佳孝氏と、近鉄不動産元副社長で現顧問の田中孝昭氏が社外取締役にそれぞれ就任する予定であることだ。南氏は京王電鉄との関係強化が目的だから当然として、森社長は田中氏を「業界の重鎮。大手デベロッパーとの共同事業に欠かせない方」と紹介した。
田中氏の名前をどこかで聞いたような気がしたので調べてみたら、近鉄不動産が主導した「王子飛鳥山ザ・ファーストタワー&レジデンス」と「BLUE HARBOR TOWER みなとみらい」の記事がヒットした。田中氏が関西弁でまくし立てたのを思い出す。記者は樋口武男氏、矢野龍氏、和田勇氏を関西弁の〝雄弁御三家〟と呼ぶが、お三方はそれぞれ第一線を退かれた。田中氏はその後継者だ。絶滅危惧にある関西弁を東京で復活させてくれることを期待したい。
もう一つは、今後の物件サマリだ。分譲マンションは「浜田山W2」「信濃町W6」「西荻窪W5」「尾久W7」「吉祥寺W3」「東府中W6」「反町W8」「荻窪W7」「大森W4」「横浜・中華街W5」「六本木W5」「府中W6」「国立W5」とある。いずれも10~30億円の中規模だが、このままの市況が続けば、ほっといても売れるようなものばかりだ。
「浜田山」のモデルルーム次第ではサンウッド旋風を巻き起こす可能性があると見た。参考までに2017年分譲の「サンウッド青山」の記事を添付する。
サンウッド 創業20周年の集大成 「青山」の全面ヘリンボーン床に驚愕(2017/12/8)
近鉄不・三井レジ 商・ホテル・住の複合「みなとみらい」 坪単価は400万円前後(2015/6/9)
近鉄不・京阪電鉄不・長谷工コーポ 実利を取る戦法か「王子飛鳥山」(2014/4/23)
〝予約の取れない重松〟にしようではないか HIRAMEKIの最近のプロジェクト

九州八重洲「大野城市プロジェクト(ジョイナス大野城駅前)」
ポラスグループの「NOEN KASHIWA SAKASAI-ノエン柏 逆井-」の記事で、似たようなものとして、HIRAMEKI・重松剛氏が設計を担当した「レーベンプラッツ大泉学園」を紹介した。重松氏に「ほかにこのような事例はありませんか」と聞いたら、重松氏は「他にもこのようなプロジェクトはあったと記憶していますが、どこの何という詳細までは把握しておりません」ということだった。ただ、建ぺい率30%、容積率50%の事例は「別荘ならともかく、戸建て分譲ではないのではないか」と話した。
重松氏にHIRAMEKIが担当したプロジェクトについても聞いた。「都内では数少なく、小規模プロジェクトばかりがメインです」との回答で、次の4つのプロジェクトを紹介してもらった。素晴らしい物件ばかりだ。写真も添付してもらったので、以下に紹介する。
セット「大鋸(だいぎり)プロジェクト」(2020年)



室町時代から大鋸引(おがびき)という職人たちが多く住んでいたことから名づけられた藤沢市大鋸」の荒れた山を再生する全4戸のプロジェクト。道路側から見て階段をジグザクにして出来るだけ階段を見せないように、樹木で覆いかぶさるようにしてもともとあった山のように再生しつつ住宅地化したもの。売主・セット社自慢の「作品」とか。
九州八重洲「春日原(かすがばる)プロジェクト」(2015年)


九州福岡の4戸のプロジェクト。庭を中央に集約し、緑を中心に暮らすような住宅地。
九州八重洲「大野城市プロジェクト(ジョイナス大野城駅前)」(2020年)


福岡県大野城市中央2丁目に位置する全6戸。土地面積は128㎡、延べ床面積110㎡の木造2階建て。「未来のオトナへ繋ぐ住宅群」をコンセプトに、駐車場+門扉は共有、全体敷地の中央に幅13m、奥行き7.5m、R7.5mの「園庭」を設置、建物は園庭が眺められるよう扇状に配置。南側に走る鉄道線路の騒音対策として「反射角」を利用して建物配置・形状を変え、シンボルツリー、外観ライトアップ、木材の多用、維持管理が楽な常緑低木の選定、駐車スペースの一部歩道空間化なども図っている。
日本エスコン「杉並プロジェクト(Park JADE 杉並和泉)(2015年)


方南町駅から徒歩8分、杉並区和泉四丁目に位置する全18区画。敷地及び延床が30坪程度の典型的な都市型戸建開発だが、緑で境界線を曖昧化し連続感のある空間を生みだす「路庭」、4戸1組の外部空間を作りだす配棟計画とし、神田川へ繋がるパスを設け、住民同士のコミュニケーションが発生する仕掛けを施しているのが特徴。太陽光発電により神田川の地下水を汲み上げ、路庭に沿って水のせせらぎも設けている。この年のグッドデザイン賞、キッズデザイン賞を受賞。
◇ ◆ ◇
重松氏には、ランドスケープデザインが最高に素晴らしかった2016年分譲の総合地所「ルネテラス船橋」の見学取材で話を聞いている。敷地の緑化や外構にも力を入れており、芝生より安価でメンテフリーの「ダイカンドラ」を建物の際まで敷き詰めた住戸に驚愕したのを今でも思い出す。
デベロッパー、ハウスメーカーの担当者の皆さん、「都内では数少ない」という重松氏に注文が殺到し、業界の〝レストランひらまつ〟になってもらおうではないか。いい加減、ぺんぺん草も生えない分譲戸建てをやめようではないか。

重松氏(2016年撮影)
初めて見た30%・50%×200㎡の分譲戸建て まるで別荘 ポラス「柏 逆井」(2023/5/2)
初めて見た30%・50%×200㎡の分譲戸建て まるで別荘 ポラス「柏 逆井」

「NOEN KASHIWA SAKASAI-ノエン柏 逆井-」(緑は地役権設定エリア)
ポラスグループのポラスガーデンヒルズは5月1日、千葉県柏市の分譲戸建て「NOEN KASHIWA SAKASAI-ノエン柏 逆井-」のメディア向け現場見学会を行った。建ぺい率30%、容積率50%の第一種低層住居専用地域(以下30・50%)に位置する全8棟。敷地内に数十種、約200本の中高木を植樹し、全戸とも敷地面積を200㎡とし、住戸間のフェンスを最低限に抑え、歩道空間に地役権を設定することで回遊性を高めたランドスケープデザインが抜群。これまで45年以上分譲戸建てを見学・取材してきたが、このような物件は見たことがない。
物件は、東武アーバンパークライン逆井駅から徒歩7分、柏市逆井5丁目の第一種低層住居専用地域(建ぺい率30%、容積率50%)に位置する全8棟。土地面積は200.05~230.14㎡、建物面積は94.14~100.19㎡、価格は4,080万~4,480万円。建物は在来工法2階建て。全棟完成済み。引き渡し予定は5月15日。昨年9月に分譲開始し、今年3月までに完売している。
YKK APとパートナーを組み、地役権を設定することで共用の緑地空間をつくり出し、木々に囲まれた居場所や住民同士の交流の場を提供しているのが特徴。当初計画では、前面道路幅(幅員5m)が狭く、車の入れ替えが大変で、敷地延長部分の有効活用が難しく、住民同士のコミュニケーションがとりにくいなどの難点を抱えていたのを、駐車スペースを道路側に寄せることで2台並列駐車を可能にし、建物を敷地から1m以上セットバックさせ、境界ブロック、フェンスを最小限に抑え、「くつろぎの縁」「広縁」を設けることで住民同士のコミュニケーションの醸成を図ったプランに変更した。
敷地内には数十種、約200本の中高木を植樹し、保水性の高いインタロッキング・敷石、ベンチ、散策の道などを設置。各住戸には土間、ウッドデッキ、DEN、ガビオン、立水栓、雨水タンクなどを設けることで、家の内と外のつながりを演出している。
見学会に出席した各氏は次のように語った。(発言順)
同社設計部部長・松井孝治氏 YKK APさんとは5年以上前から事業パートナーに加わっていただいており、今回はグリーンクリエイターの小西範揚さんにも企画に参画していただき、当社スタッフと一緒になって建物とエクステリア・外構を一体としたランドスケープストーリーを描いた。購入者は地元と都内の方が半々。青田売りでも早期完売できたのは、立地特性にあった企画が奏功したからだと考えている
同社ガーデンヒルズ事業部ウッドガーデン事業所用地開発課課長・高島彰氏 用地は6年前、地元の不動産会社から地主さんの相続がらみで取得の打診があったが、建ぺい率30%、容積率50%では事業的に難しいと判断し取得を断念した。コロナ禍で市場が盛り上がったので〝今なら買える〟と取得を決意した。当初は5区画だったが、その後、2人の地主さんからなる隣接土地も取得できたので、当初5区画から全8区画となった
同社ガーデンヒルズ事業部設計部企画設計課課長・工藤政希氏 建物の内と外、表と裏の空間を設計に取り込み、歩車分離、地役権の設定、南ひな壇設計、白が基調の外観、2.4mサッシ高などを採用したことで、緑豊かな空間でのんびり暮らせるイメージを表現できた。上司から〝面白いではないか〟と背中を押してもらったのも励みになった。樹木の維持・管理は、当社の供給事例からして負担は重くないことが分かっているが、ワークショップを行ってさらに居住者の負担を軽くしていきたい
YKK APエクステリア本部クリエイティブデザインLAB統括部長・粟井琢美氏 〝モノからコト〟へ領域を広げるのがわれわれのミッション。建物が完成してからでなく、最初の段階から(ポラスさんと)一緒に考えたのがプロジェクトを成功に導いた大きな要因。無駄な空間など一つもない。余分な空間をみつけて指摘していただきたい(問いかけに答えるのが礼儀だと考え、粗探しをしようと思ったが、時間が足りなかった)

電線は一部地中化している

回遊歩道空間(右の建物は一部平屋としている)

舗装は保水性の高いインターロッキング

ガビオン(じゃかご)

左から工藤氏、松井氏、高島氏、粟井氏(4人とも今年の○○賞を総なめすることを確信しているようだった)
◇ ◆ ◇
同社から取材の案内が届いたのは2週間前だ。取材日は記事にもした豊四季の「体感すまいパーク柏」は3月28日、今回の逆井の「ノエン柏 逆井」は5月1日とあった。それぞれ往復の交通時間だけでも4時間、2日で8時間だ。なにも生産しない、お金だけがかかる休憩・食事時間を含めたら10時間以上だ。そんな時間とお金をかける価値がある施設・物件なのか、消費時間・金額に見合う記事が書けるのかと疑問に思い、スルーすることも考えた。
しかし、パスしたら現場主義を貫く記者の沽券にかかわる。新しい発見もあるかもしれないと応じることにした。
「体感すまいパーク柏」は素晴らしい施設で、それにふさわしい記事も書けた。目的の半分は達成された。無駄足ではなかった。(記事参照)
そして今回。逆井駅に着いて、一服しようと喫茶店を探したが1軒もない。豊四季と同じだった。仕方なく、道々タバコを吸い、草花を摘みながら価格を予想した。現地までは立派な戸建ても建ってはいたが、畑・荒地などもかなりあり、田舎の調整区域そのものだ。並みの敷地30坪、建物30坪だったら3,000万円で売れるかどうかだろうとはじいた。
ところが、あにはからんや。現地を見て、飛び上がらんばかりの衝撃を受けた。記者は45年以上分譲戸建てを見学している。バブルがはじける前までは素晴らしい分譲戸建てを見学しているが、バブル崩壊後は、一部のデベロッパー、ハウスメーカーを除き、価格ありきの土地が30坪程度の都市型戸建てが主流を占め、敷地にはぺんぺん草も生えないコンクリで固めた狭小住宅が市場を席巻している。
「ノエン柏 逆井」はそれらの分譲戸建てとは似て非なるものだった。例えていえば別荘、林間住宅だ。こんな分譲戸建てを過去に見たことがあるか、記憶を総動員させた。真っ先に思い出したのは宮脇檀が設計した「高幡鹿島台ガーデン54」で、それに近いものでは積水ハウス「コモアしおつ」「コモンシティ伊奈学園都市」、タカラレーベン「レーベンプラッツ大泉学園」…などだが、それらとはまた異なるという結論に達した。
何が凄いかといえば、圧倒的な緑の量と質だ。積水ハウスの「5本の樹計画」も素晴らしいが、「ノエン柏 逆井」は1戸当たりに換算すると約25本だ。かつて敷地はブルーベリーの農園だったそうで、その記憶をとどめるようにブルーベリーも植えられていた。(配布された資料にはどこにどのような樹木が植えられているか図示されているのだが、字が小さくて一つも読めない。主だった樹木には名札を付けるべきだ)
もう一つは、地役権を設定し、全8棟の庭・歩道空間を回遊できるよう、コストダウンにもつながる住戸間のフェンス、土留めブロックなどを最小限に抑えていることだ。地役権を設定したこの種の戸建てを同社グループは結構分譲しているが、何しろ今回は敷地が200㎡だ。スケールが異なる。先に別荘、林間住宅と書いたのは大げさな表現ではない。8棟のうち敷地延長住宅は5棟あるが、それが販売面で難点になりそうな住宅は1戸もない。回遊空間は風通しを良くするための建物の形状(平屋)を変え、それぞれの住戸間の〝お見合い〟を避けるため配置を変え、室内から樹木や子どもが遊んでいる様子が分かるように窓にも工夫を凝らしている。心憎い気づかいだ。
細かいことだが、ガビオン(じゃかご)が多用されているのもいい。土が紛れ込むことで草花が生え、いろいろな生物が生息するようになるはずだ。生物多様性にも配慮しているのがとてもいい。

右の花瓶の花は記者が摘んだもの
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冒頭に「このような物件は見たことがない」と書いたが、同社を始めどこのデベロッパーもハウスメーカーもこのような戸建てを手掛けていないのではないか。
根拠は示せないのだが、そもそも30・50%の用途地域を指定している自治体などあるのだろうかというのがその理由だ。記者の知る限り、隈研吾氏の設計による建ぺい率40%、容積率60%の「プロスタイル札幌 宮の森」が分譲住宅としてはもっとも厳しいエリアに立地しており、用途指定では田園調布、横浜山手町、芦屋市・六麓荘は建ぺい率40%、容積率80%だ。
国土交通省に30・50%の用途地域を定めているところは全国にあるか聞いたが、「把握していない。各自治体に聞いてもらうしかない」という回答だった。
そこで、柏市に聞いた。市内で唯一30・50%となっているのが、今回の物件が位置する逆井5丁目エリアだ。市の担当者によると、昭和48年、区画整理事業を予定していた逆井5丁目の調整区域を30・50%と暫定指定したが、地権者の同意が得られず区画整理事業はとん挫、そのまま30・50%の指定のみが残ったという。近隣の区画整理事業地は建ぺい率50%、容積率100%に指定されている。
ポラスにも30・50%地域で分譲した事例はあるか聞いた。広報は「調べてみないと分からない」とのことだった。同社の調整区域開発の「ハナミズキ春日部・藤塚」(22戸)は建ぺい率60%、容積率200%だ。30・50%開発は今回が初めてのはずだ。同社が本拠とする埼玉県は、第1・2種住居専用地域は全用途の18.1%しかない(東京都は37.4%、千葉県は31.4%、神奈川県は31.0%)。
後日、工藤氏からメールが届いた。同社はかつて、同じ逆井エリアと千葉県鎌ケ谷市の30・50%地域で分譲事例があるという。また、東京都羽村市にも30・50%地域があると教えられた。確認した。その通りだった。工藤氏はただものではない。どうして調べたのか。
それにしても、2日間で往復10時間(取材時間を含めれば15時間)かけた甲斐があったということだ。企画によっては、見向きもされない土地に光を当て活性化させるヒントがここにある。価値のある記事かどうかは読者の皆さんが評価することだ。

外の借景を取り込む窓(サッシはYKK APの樹脂サッシ)

ドアはドアノブを含めて白で統一(デザインが美しい)

工藤氏から送られてきた鎌ヶ谷市の都計図
延床876㎡の木造事務所 工期5か月、建築費坪110万円 ポラス「体感すまいパーク柏」(2023/4/29)
調整区域の市民農園付き200㎡邸宅 ポラス「ハナミズキ春日部・藤塚」企画秀逸(2020/7/3)
敷地100坪 建物30坪の平屋 ミラースHDの戸建て「南栗橋」企画ヒット(2022/11/13)
隈研吾氏が設計 坪700万円超でも好調スタート プロポライフ「札幌 宮の森」(2022/9/23)
あきる野市、江東区、神川町、台東区、三芳町…これは何か 首都圏 用途地域全調査(2022/10/31)
タカラレーベン フェンス排除した驚嘆の戸建て「大泉学園」(2013/6/7)
延床876㎡の木造事務所 工期5か月、建築費坪110万円 ポラス「体感すまいパーク柏」

「体感すまいパーク柏」事務所棟
ポラスグループのポラテックは4月28日、千葉県柏市の「体感すまいパーク柏」内に完成した常磐事業支店の事務所をメディアに公開した。木造軸組み工法2階建て延べ床面積約876㎡で、住宅用の一般流通材と同社のプレカット工場で生産した構造部材のみで建設した、工期5か月、建築費110万円/坪の現し内装仕上げが特徴。
事務所は、東武アーバンパークライン豊四季駅から車で約7分、柏市旭町8丁目に位置する敷地面積約1.544㎡、木造軸組み工法2階建て延べ床面積876.94㎡。1階は商談用ブース7室など、2階は同社グループのアフターメンテナンスなどを手掛ける住宅品質保証の事務所。天井高は基本3m、最大4.5m。木造現し仕上げ。着工は昨年11月、竣工は今年4月。
ポラテック取締役・橋本裕一氏は「『体感すまいパーク柏』は2018年にオープンしたが、敷地が1,000㎡を超えると開発行為となり、許可が下りるまで時間がかかるので、事務所などを除いた4棟でスタートした。今回の事務所は開発行為に基づいて建設したもので、当社プレカット工場生産した構造部材と、一般に住宅用として流通しているものを使用して完成させた。これまではお客さんとの商談スペースが十分とれなかった難点を解消し、2階に新築とアフターを担当する住宅品質保証が入居するので、柏・松戸の事業エリアをフォローする拠点となる。他のエリアでも同様の事業を展開していく」と語った。
「体感すまいパーク柏」は2018年10月、「体感すまいパーク船橋」とともに開設。当初は4棟だったが、今年1月には新たなモデルハウス「和美庵(わびあん)」を完成させており全5棟体制となる。

橋本氏

エントランス部分

2階事務所

2階天井
◇ ◆ ◇
内覧会では、橋本氏のほか3名の方が設計、構造、非住宅木造施設などについて説明した。「有限要素法による基礎構造の計算で基礎梁・地中梁を削減した」など専門的なフレーズも飛び出し、素人の記者などはちんぷんかんだったが、現しの快適性は言うまでもなく、同社の木造建築力の凄さを少しは理解した。
第一は、工期の短さと建築費の安さだ。事務所は間口約37m×奥行き約13mだ。単純比較はできないにしろ、同社の30坪(100㎡)の分譲住宅の工期は100日弱というから、その8倍以上もある事務所の工期の短さに驚いた。
S造との単価差は分からないが、国土交通省の令和4年度の建築着工統計によると、事務所の工事予定額は木造が64.2万円/坪、S造が121.9万円/坪だ。いかに単価も安いかが分かる。木造はCO2削減、SDGs対応のほか、快適性、固定資産税、減価償却費などの節税効果も大きい。
二つ目は、2階の床仕上げだ。通常の事務所フロアはタイルやカーペット敷きだが、パナソニックの置敷きタイプOAフロア(フリーアクセスフロア)を採用、突板フローリング仕上げとなっている。施工がらくで着脱、配線、歩行性に優れているという。歩くと、マンションの直床よりは固いが、二重床仕上げより柔らかく感じる。(マンションには採用できないのか)
三つ目は、特注のYKK APのビル用サッシを採用し、敷地北側に走る東武線の線路の音を遮断するため、旭硝子の遮音・遮熱性能が高い額縁ガラスを採用していることだ。2階の事務所内では音はほとんど聞こえなかった。この額縁ガラスはマンションでも見学したことがある。意匠性にも優れている。

パナソニックの置敷きタイプOAフロア(中空部分は配線スペース)

1階の商談ブース(デスクトップはイチョウ、ヒノキ、カバザクラ、タブ、エノキ、スギ、モミノキなどの銘板で、床、壁、天井も本物の木が採用されている)
〝家に帰りたくない〟宿泊体験した社員 ポラス「体感すまいパーク越谷」出足上々(2022/1/8)
〝総合展示場からの脱却〟に拍手喝さい ポラスが宿泊可能な単独展示場 開設(2018/10/5)
16年ぶり分譲住宅が持家上回る 首都圏マンションは15.4%増 令和4年度住宅着工
国土交通省は4月28日、令和4年度の住宅着工戸数をまとめ発表。総戸数は860,828戸で、前年度比 0.6%減となった。利用関係別では持家248,132戸(前年度比11.8%減、昨年の増加から再びの減少)、貸家347,427戸(同5.0%増、2年連続の増加)、分譲住宅259,549戸(同4.5%増、2年連続の増加)。分譲住宅の内訳はマンション113,900戸(同10.8%増、4年ぶりの増加)、一戸建住宅 144,321戸(同 0.1%増、2年連続の増加)。分譲住宅が持家を16年ぶりに上回った。
首都圏の総戸数は302,403戸(同1.8%増)、持家は53,138戸(同13.3%減)、貸家は131,419戸(同3.8%増)、分譲住宅は116,676戸(同8.2%増)。
首都圏マンションは総数が56,337戸(同15.4%増)、都県別は埼玉県5,158戸(同6.9%増)、千葉県6,481戸(同61.1%増)、東京都32,036戸(同9.7%増)、神奈川県12,662戸(同17.7%増)。
このほか、地方のマンションは24,346戸(同5.5%増)となり、平成20年の32,570戸に次ぐ多さとなるとともに、近畿圏の24,657戸(同13.2%増)に肩を並べた。
「Stay in the Garden」具現 木目デザイン壁に感動 三井不 横浜MMにホテル開業

sky pool LA MAGNOLIA内観
三井不動産&三井不動産ホテルマネジメントは4月26日、「三井ガーデンホテル横浜みなとみらいプレミア」を5月16日(火)に開業すると発表。同日、ホテルをメディアに公開した。「三井ガーデンホテルズ」を宿泊特化型から多様な滞在目的を満たす「Stay in the Garden」へリブランディングしてから初の施設で、アール状のデザインを多用し、レストラン&バー、プール、ジェットバス、フィットネスジムなどを備え、多様なニーズに応えられるようにしているのが特徴。内覧会後にはレストランの朝食ビュッフェ試食会も行われた。
施設は、横浜高速鉄道みなとみらい線みなとみらい駅から徒歩5分、JR根岸線桜木町駅から徒歩約10分、横浜市西区みなとみらい3丁目に位置する敷地面積約10,082㎡、延床面積121,726㎡(ホテル部分約17,700㎡)のパナソニックホームズ、鹿島建設、ケネディクスの3社が開発した27階建て「横浜コネクトスクエア」の1~2階、20~27階部分の全364室。客室面積は25.4~46.1㎡(平均30㎡)。設計は鹿島建設。施工は鹿島・フジタ・馬淵・大洋共同企業体。開業は5月16日。
デザインコンセプトを「YOKOHAMA SKY CRUISING」とし、1階エントランスを“深海”に見立て、20階のロビー&ラウンジ、サロン、テラスエリアは“船舶デッキ”として設計。ロビー&ラウンジは天井高4m超、長手方向40m超で、波・帆をイメージした壁面、ピアノ演奏が流れるサロン&テラスを演出。ガーデンホテルとしては初のスカイプールのほかレストラン・バー、フィットネスジムなどを配置している。
客室は平均30㎡で、電子レンジ・洗濯機付き、トリプルベッド付きなど多様なニーズに応えるようにしており、全ての客室に「ReFa(リファ)」の最新ドライヤーを設置している。
20階のレストラン「RISTORANTE E’VOLTA-Unico Polo-(リストランテ エボルタ-ウニコ ポーロ-)」は、“世界を旅するリストランテ”をコンセプトに、唯一無二(UNICO)の食との出会いや粋(VOLTA)な時間を提供する。朝食ビュッフェにはレストランの〝売り〟の一つ「至福のプレミアムフレンチトースト」を用意する。

sky pool LA MAGNOLIA屋外

1階エントランス

20階ロビー

レストラン

朝食イメージ

46㎡のエグゼクティブコーナーキングツイン(1泊6万円くらいか)
◇ ◆ ◇
大丈夫かと思ったことが二つある。一つは、みなとみらいエリアにこんなにたくさんホテルができて大丈夫かということだ。いったいいくつのホテルがあるのか、ざっと調べてみた。
記者が最高峰とみている「横浜ロイヤルパークホテル」(603室)を筆頭に「横浜ベイホテル東急」(480室)、「横浜東急REIホテル」(234室)、「ヨコハマグランド インターコンチネンタルホテル」(594室)、「ザ・スクエアホテル横浜みなとみらい」(232室)、「ウェスティンホテル横浜」(373室)、「ザ・カハラ・ホテル&リゾート横浜」(146室)、「ニューオータニイン横浜プレミアム」(181室)、「横浜桜木町ワシントンホテル」(553室)など、今回のホテルを含めて10か所、客室数は3,760室だ。それぞれコンセプト、ターゲットは異なるのだろうが、客の奪い合いにはならないのか。
もう一つは、レストランの朝食ビュッフェで提供される「至福のプレミアムフレンチトースト」だ。記者はかつて子どもに食べさせるためによく作ったが、ここのレストランのそれはとてもパンとは思えない柔らかさだ。同席した記者の方も「ケーキそのもの」と感嘆の声をあげた。
フレンチトーストを食べる目的の女性が殺到し、朝からこんな甘いものを食べて大丈夫かと余計な心配も頭をよぎった。
フレンチトーストと言えば、昨年、三菱地所の丸ビル1階にオープンしたHUGEのカフェ「THE FRONT ROOM」の〝売り〟の一つである「SHIBUichi BAKERY(シブイチ ベーカリー)」のパンを用いたフレンチトーストもとても柔らかく美味しかった。どちらに軍配が上がるか。

試食会で提供された朝食ブュッフェメニュー(左下がフレンチトースト)
◇ ◆ ◇
フレンチトーストもそうだが、女性客を取り込もうという狙いか。今回見学したホテルの特徴は、海や船などをイメージし、アール形状を多用したデザインと、「Stay in the Garden」を具現化したプール&ジェットバスなど多様な付帯設備を装備していることだ。
記者はエレベーターホール・客室ドア回りの壁の木目調デザイン壁にほれ込んだ。昔の掘っ立て小屋や番屋に用いられた素朴な木の壁(記者は本物の集成材に見えたが、シート張り)の演出は意表をつくもので、この壁が長手方向80m超の廊下に張り巡らされている。素晴らしいと思った。同業の記者の方に同意を求めたが、だれからも無視されたのだが…。
驚いたのは客室の床が直床だったことだ。洗面、トイレ、浴室などは分譲マンションのそれとよく似ているのは最近の傾向だろうと思ったが、ホテルの直床というのもトレンドなのか。

アール形状の家具など

記者が感動したエレベーターホール(壁は本物の木に見えたが、シート張り)

廊下

ルームサイン

総延長80m超の廊下
尾根幹線沿線23か所66haの再生・活性化へプラットフォーム創設 多摩市

「多摩ニュータウン尾根幹線沿道まちづくりプラットフォーム2023」
多摩市は4月25日、「多摩ニュータウン尾根幹線沿道まちづくりプラットフォーム2023」を開催した。八王子・日野市のイノベーションの取り組み、橋本駅のリニア新幹線の開業、宅地開発が進む稲城市に囲まれているポテンシャルの高さを生かし、団地再生・活性化、雇用の創出を生みだそうというのが狙いだ。土地利用変換を予定している対象エリアは約66haにも及ぶ。
冒頭、多摩市都市整備部長・佐藤稔氏は「平成25年に多摩ニュータウン再生の取り組みに着手し、今年1月には『南多摩尾根幹線沿道土地利用方針』を策定した。方針は、現在整備中の尾根幹線の4車線化と公的賃貸住宅の団地再生の動きを契機に、尾根幹線沿道の新たな賑わい、雇用の場を創出するべく、住宅用地から他の用途変更を含めた土地利用変換を図るのが目的。今後の人口減少や歳入確保の面からも市として重要な政策の一つとして考えている。プラットフォームで頂いたご意見・ご提案は現在進めている都市計画マスタープランの改定に参考にさせていただく」と挨拶した。
プラットフォーム創設は、令和5年1月に策定した「南多摩尾根幹線沿道土地利用方針」に基づき、多摩NTを東西に横断し、町田街道に接続する延長約16.5㎞の暫定2車線の南多摩尾根幹線道路が令和11年度に全線4車線となるのを契機に、土地利用変換を行い、多摩NTの再生・活性化を図ろうというのが目的。
土地利用転換を検討する対象エリアは都営諏訪団地(2.8ha)、UR永山団地(3.9ha)、都営貝取団地(1.3ha)、UR豊ヶ丘団地(4.1ha)、都営落合団地)2.12ha)、公社落合団地(3.4ha)の賃貸住宅のほか都立永山高校(4.6ha)、諏訪小学校(2.4ha)、旧南永山小学校(2.6ha)、旧南豊ヶ丘小学校(2.8ha)、鶴牧中学校(3.4ha)の教育機関と多摩東公園(7.1ha)、諏訪南公園(2.7ha)、一本杉公園(10.1ha)の公園など23か所約66.53ha。これらを「諏訪・永山沿道エリア」「貝取・豊ヶ丘・南野沿道エリア」「落合沿道エリア」「唐木田・鶴牧沿道エリア」の4つのエリアに分けている。
事務局は市に置き、沿道の土地・建物所有者である東京都、UR都市機構、JKK東京からの支援を受け、コーディネートの役割を果たす多摩市ニュータウン再生推進会議と大学、事業者(登録が必要)、地域団体などが参加し、プラットフォームに寄せられた意見・提案を論議する。意見は令和6年度に予定している「多摩市都市計画マスタープラン」改定の参考にする。
今年度は先行モデルとして「諏訪・永山沿道エリア」を選定し、先行モデルのうち「旧南永山小学校」(2.6ha)「UR永山団地」(3.9ha)「都営諏訪団地」(2.8ha)を対象とした令和4年度の1000社民間事業者アンケート結果を報告。回答は56票あり、商業施設(27票)、物流産業施設・運輸施設(15票)、スポーツ施設(14票)、キャンプ場・グランピング施設(9票)、情報通信産業施設(9票)、大学・教育施設(7票)、製造・工場(6票)、研究施設(5票)、病院・医療施設(4票)などが施設立地ポテンシャルとして高い評価を受けたと説明した。
土地活用に当たり興味のある街づくりテーマとしては、「新たな雇用の創出」「職住近接」「安心安全の防災拠点」などの地域貢献への関心が高く、不動産業・小売業、スポーツ・レジャーを中心とした多様なテーマへの関心があるとしている。
◇ ◆ ◇
遅きに失した感は免れないが、「雇用の創出」「ニュータウンの再生」が実現するのであれば、市民の記者もそうだが、だれも反対する人はいないはずだ。事業者アンケート結果は、多様な用途利用が可能で、ニュータウンのポテンシャルの高さを証明している。
実現には課題がないわけではない。前段で紹介した土地利用変換を予定しているエリアの尾根幹線道路北側(駅側)の用途地域はほとんどが建ぺい率60%、容積率200%の第1・2種住居地域、準住居地域などだ。〝なんでも可〟の商業系地域はひとつもなく、唐木田駅に近い一部の地域が準工業地域になっているのみだ。
他の用途の利用を可能にするには用途地域・地区計画を変更し、建ぺい率、容積率の緩和も必要になる。その際、課題となるのは近隣住民などの同意を得られるかどうかだ。
とくに都市公園の廃止・変更については、都市公園法の高いハードルがある。同法16条では「公園管理者は…みだりに都市公園の区域の全部又は一部について都市公園を廃止してはならない」とし、例外的に認めているのは①都市公園の区域内において都市計画法の規定により公園及び緑地以外の施設に係る都市計画事業が施行される場合その他公益上特別の必要がある場合②廃止される都市公園に代わるべき都市公園が設置される場合などとしている。
この条文に照らし合わせれば、一本杉公園などを他の用途に転換するのは容易ではない。ただ、市は多摩中央公園内に公設・公営の図書館を建設し、近くオープンするように、公園機能を残しながら民設・民営の施設を設けるのは可能のはずで、市内の他の公園にもこれは適用できるのではないか。
また、物流施設に対しては「嫌悪施設」のイメージが強く、近隣住民の反発も予想される。これについては、三井不動産常務執行役員ロジスティクス本部長・三木孝行氏(当時、現在専務)が「物流施設はもはや嫌悪施設ではない」と語ったように、丁寧に説明すれば市民の理解は得られるはずだ。
これは課題ではないが、市の担当者が現状認識について「多摩ニュータウンは現在も発展している」と語ったのには、異議を唱えざるを得ない。
何をもって「発展」と捉えるかだが、多摩市エリアに限ると多摩NTの人口は減少に転じているではないか。高齢化率も3割を超え、今後加速度的に進行する。
かつて「金妻」の撮影舞台になった多摩NTは、バブル崩壊で暗転した。多摩そごうが2010年に撤退し、その後、三越が規模を縮小し入居したが、その三越も撤退した。温泉・宿泊も可能だった「ウェルサンピア多摩」も2010年に閉鎖された。京王プラザホテル多摩も今年1月、33年の歴史に幕を閉じ、恵泉女学園大学も2024年度以降の新規学生募集を終了すると発表した。多摩NTの地盤沈下は否めない。多摩NT居住者の誰一人として「街は発展している」などと思っていないはずだ。
市場の評価も同様だ。都心へのアクセスはほとんど同じの、〝健幸都市〟をスローガンに掲げる多摩市と〝母になるなら・父になるなら流山〟の流山市の地価公示を見てみよう。
民間のデータによると、「多摩センター駅」圏の平均地価公示は平成元年の236万円/坪をピークに下落・横ばいを続けており、令和5年度はピーク時の3分の1の82万円/坪まで下落している(小生のマンションも同様)。一方の「流山おおたかの森駅」圏はどうか。この10年間上昇を続けており、令和5年度は110万円/坪となり、これまでピークだった平成3年の106万円/坪を上回った。多摩センターより4割以上高い。(つくはEXの開業は平成17年だが)
信じられない現象だ。井崎市長と流山市民の方には失礼だが、緑の絶対量、歩車分離の街、生活利便施設の充実度などを総合的に評価すると、多摩センターのポテンシャルは流山おおたかの森よりはるかに高いと思う。見比べていただきたい。
なぜ、逆転現象が起きたか。その一つの理由として、多摩市は市の魅力を伝える情報発信力が弱いからだと考えている。令和3年度の多摩市政世論調査では、住まい環境について「緑の豊かさ」(70.9%)「空気がきれい」(47.1%)「日当たり・風通し」(57.5%)などが極めて高い数値を示している。これを徹底してアピールすべきだ。
〝健幸都市〟も結構だと思う。市民の評価も高く、前述の世論調査では67.6%の人が「よい取り組み」と答えている。また、不幸1~幸福10の10段階で1つを選ばせる設問では、1と2を選んだ人は2.9%、9と10を選んだ人は26.2%だ。一方で、議会(議員)に「期待していない」人は24.0%にも達している(記者は選挙に行っていない)。
これらの結果から判断すると、わが多摩市民は〝幸福〟で〝而立〟している人が多く、楽観的に物事を考える人が多いことが分かるのだが、小生などは〝健幸都市〟のスローガンを目にするたびに「健康でない、幸せでない」自分と社会のことを自覚させられる。他国を侵略し、人と人が殺しあい、軍事力の強さでもって国力を競い合い、小生のように選挙に行かない人が増え、議員に期待しない人が4人に1人の割合もあるというのに、どこが幸せなのか。そもそも何が幸か不幸かの前提条件を示さない設問は意味がないではないか。個人的なことだが、〝あなたを受動喫煙から守ります〟とし、駅周辺での喫煙をほとんど禁止したのにも小生は我慢がならない。われわれ喫煙者を駆逐するのか(市のアンケートによると喫煙者は7.7%とか。結構なことだ)。港区は公園や舗道に喫煙所をたくさん設け、分煙を推進している。
流山市はどうか。子育て世代向けに極めて明確なメッセージを発信している。一定規模以上のマンションには保育施設の併設を義務付けるなどの施策も行っている。多摩市と流山市の差は、前向きか後ろ向きかにあるような気がする。多摩市も若年層を呼び込みたいなら、分かりやすい施策を打ち出すべきだ。
明星大学・西浦定継教授は10年も昔に、「何もしなければ多摩ニュータウンの人口は50年後(2060年)の人口は半減する。座して死を待つしかない」と警告を発した。市は危機感を持って多摩NTの再生・活性化に取り組んでいたら、もっと違った結果になったのではないか。
まあしかし、佐藤氏は「多摩市は変わったといわれるようにしたい」と語った。あと何年かかるのか、小生はそれまで生きていられるのか…。
ショック!ホテルに続き恵泉女学園大学も閉学へ 地盤沈下する多摩センター(2023/3/23)
〝生きた実験場〟〝やるしかない〟 多摩NT再生 第6回シンポ 藤村氏もエール(2019/2/8)
「最早、後発でない」「嫌悪施設でもない」 三井不 ロジスティクス本部長・三木氏(2018/5/21)
「リニア、圏央道は広域連携を進める絶好の機会」明星大・西浦教授(2013/10/23)
「何もしなければ多摩NTの人口は50年後に半減」西浦・明星大教授(2014/1/29)

