億万長者100人減少 人口も25年ぶり減 日本一裕福な港区財政 コロナが直撃
新型コロナが直撃、億万長者が100人減少-東京都港区の令和3年度の課税標準額が1億円を超える高額納税者は1,009人と前年度の1,108人より99人、8.9%減少した。納税者も納税額も減少し、人口も実に25年ぶりに減少に転じるなど、新型コロナが日本一裕福な港区の財政を直撃した。
別表は、港区の納税者数の推移をみたものだ。これによると、令和3年度の所得割額納税者は143,852人と前年度比で2.5%減少し、所得割額は令和2年度の約755億円から約743億円へ1.6%減少した。均等割のみ納める納税者は5,292人(同2.8%減)となった。所得割とは、所得から様々な控除額を除いた課税標準額に税率10%(特別区民税6%、都民税4%)を掛けた地方税だ。
所得割額納税者を課税標準額段階別にみると、700万円超~1,000万円未満が令和2年度の11,075人から11,407人へ332人、3.0%増加しているほかは、すべての層で減少。減少率がもっとも大きいのは1,108人から1,009人へ8.9%減少した1億円を超える層で、10万円以下の層の7.6%減、400万円を超える層の5.8減などとなっている。
課税標準額が1,000万円を超える層は、令和2年度の24,413人から13,620人へ3.2%減少。この層の所得割額も令和2年度の約516億円(全体に占める割合68.4%)から約501億円(同67.5%)へ2.9%減少した。
外国人の納税義務者は、令和2年度の10,530人から9,205人へ12.6%減少し、所得割額も令和2年度の約92億円(構成比12.2%)から約88億円(同11.9%)へ4.6%減少した。
また、同区の人口は令和3年1月1日現在、約25.9万人で前年の約26.0万人より約1,000人、0.5%減少した。人口減少は実に25年ぶりで、納税者の減少とともに新型コロナの影響と思われる。
外国人居住者もコロナ前のもっとも多かった令和年11月の20,613人から令和3年9月には17,394 人へ約3,200人、15.6%減少している。
港区・武井雅昭区長は、令和3年2月17日の令和3年第1回港区議会定例会本会議で「令和3年度は、特別区民税収入が、前年度と比較して74億円、率としては9.7%減収すると見込んでいます。厳しい財政状況ではありますが、これまで計画的に積み立ててきた基金を効果的に活用し、区民サービスの質を維持するとともに、感染症対策として区民生活の支援や地域経済の回復を最優先とし、併せて、新たな時代に対応した区民サービスへの転換などを積極的に進めてまいります」と所信を語っている。
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課税標準額1億円超の高額納税者(億万長者)が100人も減少したのは、所得や役員報酬、株の売却・配当などが減少したというより、やはりコロナの影響で飲食を中心に所得が減少した事業主が多かったと見るのが妥当だろう。区の担当者も「コロナの影響」と語った。
それにしても凄い数字だ。比較するデータはないのだが、国税庁の2017年度のデータでは、総所得が1億円以上の納税者は全国で23,250人となっており、都道府県別では東京都の8,891人がトップで、27位の石川県は111人だ。つまり、石川県以下の20県それぞれの億万長者が1年間で消えることに匹敵する。
港区は、それでも億万長者の減少率は8.9%にとどまっているのはさすがというべきか。それとも狡猾で冷酷無比ではあるが、老弱男女、富者も貧者も賢者も愚者も北も南も右も左も一切区別しない新型コロナの公平性が証明されたと解すべきか。
興味深いのはほかにもある。コロナ禍でも納税義務者1人当たりの所得割額は令和2年度の51.2万円 51.6万円へ増加していることだ。増加に貢献しているのは外国人だ。外国人の1人当たり所得割額は令和2年の87.8万円から95.6万円へ増加している。区平均より44.0万円も多い。
もう一つは、課税標準額が700万円1,000万円未満の層が332人増えていることだ。いわゆるアッパーミドルと呼べる層で、これは所得が増加したというよりは、他のエリアからの転入者が多かったと解すのが正解ではないか。
特別区民税が74億円減るというのは、地方町村の年間予算規模だ。それでもびくともしないのだろう。お金持ちが住みたくなるのも分かる。
港区 課税標準額1億円以上は1,113人 都民のお金持ち8人に1人が港区民?(2019/10/19)
リスト 中国大手ECサイト「JD.com」と業務提携 わが国の不動産情報を独占的に提供
リストは10月11日、グループ会社のリストインターナショナルリアルティ(LIR)が中国大手ECサイト「JD.com」のグローバル不動産プロジェクトの専属パートナーであるListingCo(本社:香港)と業務提携を締結し、10月11日から「JD.com」に日本国内不動産企業で唯一、物件情報を提供すると発表した。
ListingCo は、アリババグループが運営するEC サイト「天猫」に次ぐ中国国内EC市場シェア第2位の「JD.com」とグローバル不動産プロジェクトの専属パートナー契約を締結している中国最大級の電子商取引会社。
「JD.com」内でLIRが取り扱う日本国内の不動産情報を提供する。日本国内の不動産情報は今後LIRのみが掲載可能という。
サイト利用者は希望する物件を選択すると「JD.com」のコンシェルジュがリアルタイムで対応を行い、その後各国の担当エージェントに連携するため、購入時は言語の問題なく取引ができる。
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先ほど首都圏の中古マンションの〝バブル〟の記事を書いたばかりだ。黄砂がかかると街全体がどんよりと曇り埃っぽくなる北京とは比べものにならないほどわが国は美しくてきれいだ。ヴィンテージマンションは坪3,000万円まで買い進まれても記者は驚かない。
バブルだすさまじい中古マンションの値上がりレインズの9月のレポート(2021/10/12)
バブルだ すさまじい中古マンションの値上がり レインズの9月のレポート
東日本不動産流通機構(東日本レインズ)は10月11日、月例速報Market Watchサマリーレポート(2021年9月度)を発表した。
首都圏の9月の中古マンションの成約件数は3,176件で前年同月比4.6%減少し、3か月連続で前年同月を下回った。成約価格は3,985万円で前年同月比7.9%上昇、専有面積は64.13㎡で前年同月比2.8%減少した。
新規登録件数は13,637件(前年同月比7.0%減)で、2019年9月から25か月連続で前年同月を下回った。在庫件数は34,742件(同15.5%減)となり、22か月連続で前年同月を下回った。
成約坪単価は205.0万円(同11.0%増)となり、20年5月から17か月連続で前年同月を上回った。新規登録坪単価は220.0万円(同15.4%増)。在庫坪単価は226.4万円(同13.9%増)と44か月連続で前年同月を上回った。
中古戸建ての成約件数は1,225件(同5.0%減)、新規登録件数は4,025件(同20.1%減)、在庫件数13,389件(同29.8%減)となった。成約価格は3,487万円(同9.8%増)となり、11か月連続で前年同月を上回った。
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記者は中古市場のことはよく分からないが、成約件数、新規登録件数、在庫が減る一方で、坪単価は成約、新規登録、在庫のいずれの段階でも上昇しているのは市況が低迷しているというよりは、先高観を反映している結果だ。かつてのバブル時と同じように、実需のほかに買い取り業者の介在が見え隠れする。〝中古マンションにバブル発生〟という見方はそんなに的外れでないと思うがどうだろうか。
レインズの地域別成約単価にそれは見て取れる。東京都区部は306.4万円(前年同月比12.4%増)で17か月連続、多摩は148.3万円(同4.5%増)で7か月連続、神奈川県の横浜・川崎市は184.5万円(同13.9%増)で16か月連続、神奈川県他は123.1万円(同12.7%増)で10か月連続でそれぞれ前年同月を上回った。
また、埼玉県は124.1万円(同11.6%増)で16か月連続、千葉県は113.1万円(同10.7%増)で14か月連続でそれぞれ前年同月を上回った。
これらを新築と比較すると、都区部は7掛け、多摩は6掛け、横浜・川崎は6.5掛け、神奈川県他、埼玉、千葉などは半値から5.5掛けくらいだ。
これをどう見るかだが、上昇率はすさまじい。都区部は都心と準都心、城東・城北エリアで単価水準はかなり差があるので、もう少しエリア別に分析しないと何とも言えない。都心3区は坪400万円をはるかに上回っているようだ。
多摩や横浜・川崎はいい水準だと思う。このほかの神奈川県他、埼玉、千葉は新築なら土地代がただでも建たない単価水準だ。かなり割り負けしていると思えるが、これももう少しエリア別にみる必要がありそうだ。
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かつてバブルの発生時は、中古マンションが市場をリードした。マンション転がしという言葉が流行ったころだ。買い取り業者が中古マンションを買い漁り、2転3転どころか5転6転したのち最初に転売した業者に戻ってくると最初の価格より2倍以上に値上がりしているのは日常茶飯だった。億ションの代名詞の「広尾ガーデンヒルズ」の坪単価はバブルが弾ける直前には3,000万円まで跳ね上がった。
新築はどうかというと、国土法の監視区域指定により一定面積以上の取引は届け出制になっており、価格上昇にブレーキが掛けられていたが、それほど効果を発揮しなかった。抽選が義務付けられていたいわゆる公庫融資付きマンションは、当選する確率を上げるため路上生活者を雇って販売事務所に並ばせるところもあった。競争倍率は軒並み数十倍に達した。公庫付きでない物件は、分譲開始とともに業者が買い占め、一般の手に渡らない事例が続出した。
現在の中古マンションはどうか。いわゆる〝ヴィンテージ〟マンションの売り出し価格をいくつか調べてみた。
記者が億ションの最高峰とみている「麻布霞町パークマンション」は最高値で坪1,543万円の値が付いている。2016年分譲の三井不動産「パークマンション檜町公園」の1戸55億円に抜かれるまで、わが国の最高値マンションだった1戸44億円の「ドムス南麻布」は坪945万円となっている。記憶は確かでないが、この物件は国土法違反で告発されたのではなかったか。売主の大建ドムスは届け出しなかったはずだ。パンフレットを当時の社長からこっそり見せてもらった。当時の坪単価で3,000万円を突破していたような気がする。
このほか、さすがというべきか「広尾ガーデンヒルズ」は坪904万円だ。「虎ノ門ヒルズ」は坪1,607万円、「パークコート千代田富士見」は坪1,199万円、「ワテラス」は坪949万円、「パークマンション三田綱町」は955万円、「パークタワー浜離宮」は坪832万円、「ウェリス代官山」は1,031万円、「パークコート青山」は坪1,177万円、「プラウド白金台」は坪905万円などとなっている。
1991年(平成2年)竣工の「有栖川ヒルズ」の坪2,947万円に抜かれるまで、わが国の新築高単価マンションナンバーワンだった1988年(昭和63年)竣工の坪2,913万円だった「ドムス南青山」は最高値で坪621万円だ。
記者は、そんなにいい物件だと思わなかった「有栖川ヒルズ」を除きみんな納得の価格だ。(「虎ノ門ヒルズ」は見ていないが、まだ安いのではないか)
港区「景観街づくり賞」受賞 総合地所「ルネ麻布十番ビル」
「ルネ麻布十番ビル」
総合地所は10月11日、ホテルと店舗の複合商業施設「ルネ麻布十番ビル」が「2020年度グッドデザイン賞」受賞に続き、令和3年度港区景観表彰「景観街づくり賞」を受賞したと発表した。
「ルネ麻布十番ビル」は、東京メトロ南北線・都営地下鉄大江戸線麻布十番駅ら徒歩3分、港区麻布十番1丁目に位置する敷地面積740㎡、9階建て延床面積3,365㎡。2019年8月竣工。設計・施工は長谷工コーポレーション。基本設計・デザイン監修はA.A.E.一級建築士事務所。
同社は、麻布十番温泉跡地に建つホテル・店舗の複合商業施設。敷地が面する交差点部は、元麻布から鳥居坂を結ぶ道路と商店街が交わる地域一帯の重要な都市ノード(結節点)として地元の憩いの場所でもあった 地に、活力溢れる商店街の界隈性と地域のランドマーク性を兼ね備えた公共性の高い空間をデザインしました。地域特性を読み解きながら、敷地に接する交差点部を広場のようなオープン空間として創出したとしている。
港区「景観街づくり賞」は平成23年度に創設されたもので、審査委員は次のように評価している。
「暗闇坂に続く通りと麻布十番通りとの交差部に隣接させた低層部の扱い方が、この街への対応として秀逸である。この低層部をテナントスペースとして街に開き、屋上部はテラスラウンジとしてホテル2階のレストランと連絡させている。このテラスラウンジは、オアシスのようにこの街に新たな眺望点と居場所を創出した。テラスラウンジのスラブ線をホテル1階の軒線と意匠的に一貫させているのも小気味良い」
「港区に長く住んでいると、商店街から店舗が消え、賑わいが失われていく様子を幾度となく目の当たりにする。航空写真で見ると建てづまった印象もあるが、グランドレベルからはそれを全く感じさせない清々しさがある。敷地の可能性と建物のデザインが調和し、相乗効果により街の魅力を高めている」
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このホテルは記者も見学している。「素晴らしい」と書いた。「グッドデザイン賞」「景観街づくり賞」を受賞するのもよく分かる。
「素敵な外観見てすぐ決断」入居者 ケイアイスター「キッズデザイン賞」優秀作品
「おおきいおうちとちいさいおうちがあるおうち」 (写真は全て同社提供)
第15回「キッズデザイン賞」優秀作品に選ばれたケイアイスター不動産の分譲住宅「おおきいおうちとちいさいおうちがあるおうち」を見学し、入居者に購入動機、住み心地などを聞いた。
キッズデザイン賞は、子どもや子どもの産み育てに配慮したすべての製品・サービス・空間・活動・研究を対象とするキッズデザイン協議会の顕彰制度。今回の第15回では応募があった409点のうち234点が受賞し、さらに優秀作品として36点が選ばれた。
「おおきいおうちとちいさいおうちがあるおうち」は、「キッズデザイン協議会会長賞 子どもたちを産み育てやすいデザイン部門奨励賞」を受賞。受賞理由は「子どもと一緒に遊ぶ、時にはプライベート空間を楽しむなど、別棟としての離れの機能を再評価することに、多様化するライフスタイルに適応する空間提案としての新規性がある。離れと庭を囲む縁側は特徴的で、造形も美しい。家で過ごす時間が増え、働き方も変化する時代において、住宅供給の視点から暮し方を促進している点」となっている。
現地は、西武新宿線花小金井駅から徒歩10分ほどの閑静な住宅街で、二方道路の角地。建物はともにオープン外構の2棟構成。「おおきいおうち」(母屋)と「ちいさいおうち」(離れ)に分けられており、2台駐車場を敷地南側に配置することで開放的な空間を演出し、ゆるやかに地域とつながっているのが特徴。
母屋の外観デザインは、切妻とシャープな片流れの対比が目を引き、カラーリングは黒と淡いグレーが基調。1号棟の離れの木調縦ルーバーがアクセントとなり、全体をきりりと引き締めている。
1号棟縁側(サッシ高は2.2mくらいあった)
1号棟回廊と坪庭
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インタビューしたのは、クリエイターのご主人(35)と会社員の奥さん(36)と2歳の女の子の3人家族(ほかに6歳という猫ともう1匹猫がいたが、記者を一瞥しただけで全然関心を示さなかった)。
購入動機について奥さんは、「以前は二人とも新宿区に住んでいたのですが、うるさくてここに4年前引っ越し、60㎡くらいの賃貸マンションに住んでいました。結婚することになって子どもも生まれるのでずっとマンションや戸建てを探していました。当初は駅の反対側で予定されていた戸建てを購入しようと待っていたのですが、ここの現場を見たとき外観が素敵なので待つ必要もないと購入を決断しました。入居は今年の7月です。夫は2年前からテレワーク・在宅勤務なので、離れを仕事部屋にするのにぴったりです」と話した。
ご主人は「営業じゃないですから会社に出勤する必要もなく、会議もズームなどで行えます。もうずっと電車に乗っていません。妻が都心の会社まで1時間かかりますので、わたしが保育園の送迎や掃除、洗濯など家事をこなしています。コロナが収束してもテレワークを続けることが決まっています」と語った。
住み心地について奥さんは、「近所の人たちは『こんな家見たことない』とほめてくれます。隣の方も私たちと同年代で、とてもいい方です。ここは星も見えるし、学校も近い。私たち二人とも韓国出身で、日本に来てから11年になりますが、永住権を取得しました。ここにずっと住み続けたい」と話した。
難点はトイレの使い勝手がよくないとのことなので、案内してもらった。きちんと掃除されていたが、確かに廊下、ドアも含めて狭かった。(ケイアイスターさん、もう尺モジュールの時代ではない。ずっと住み続けられるよう廊下はメーターモジュールを目指してほしい)
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まず、作品を優秀作品に選んだ同協議会と、入居者インタビューまでセットしてくれた同社に感謝したい。同協議会がプレスリリースとして発表しなければ見学する機会はなかったはずだ。
同社に取材を申し込んだのは、離れの提案が面白く、その離れを中心に回廊-坪庭-縁側を互い違いに並べるテレコ型とし、駐車場を確保している商品企画が素晴らしいと思ったからだ。ただ、建物は引き渡しが終わっているので、外観や外構のデザイン、仕上がりを確認できれば十分と考えていた。入居者に話が聞けるとは夢にも思わなかった。
そして何よりも取材に応じていただいた入居者の方にお礼申し上げる。コロナ禍でテレワークを実践し、家事・育児をこなすご主人に話を聞けたのは望外の喜びだった。
この前書いた記事にも関連するので、愚問であることを承知の上でご主人に「幸福度」を聞いたら「幸せ」とすぐ返ってきた。奥さんも「わたしも満足」と答えた。
帰り道の公園には樹齢数十年のケヤキの巨木が美しい樹形を描き、菜園には茎が茶色と緑の2種の立派な里芋が大きな葉っぱを広げていた。
積水、旭化成、ケイアイスターが受賞/記者にも見る機会を 第15回キッズデザイン賞(2021/9/30)
三重と福岡 同じ育児時間で幸福度は47位と1位 積水ハウス「男性育休白書」(2021/10/1)
20歳未満の比率17% ワクチン接種率89%の70歳以上は8.7% 都のコロナ感染者
このところ東京都の新型コロナ感染者が激減している。直近の10月3日から9日の1週間の感染者は904人で、1日当たり129人まで減少した。
これは第2波の波が小さくなったことを受けて行われた、昨年9月中旬から10月上旬に行われた23区営業時間短縮解除(9月15日)、プロ野球観客50%へ緩和(9月19日)、外国人入国緩和、東京都民・東京発着のGoToトラベルキャンペーン追加(10月1日)のころとほぼ同じだ。
そこで、昨年9月20日から26日の1週間(以下、昨年)の感染者1,062人と、直近の1週間(以下、直近)の年代別・性別感染者数を比較してみた。
昨年は、年代別では20代が最も多く、全体の24.4%を占め、以下、30代の20.0%、40代の19.4%の順で、70歳以上は10.3%、20歳未満は7.4%だった。
直近は、20代がもっとも多く、比率的には昨年より1.2ポイント増加の25.6%となっており、20歳未満も17.3%(昨年比9.9ポイント増)と大幅に増加している。
他の年代は全て減少傾向を示しており、30代は19.5%(昨年比0.5ポイント減)、40代は13.5%(同5.9ポイント減)、50代は10.1%(同2.0ポイント減)、60代は5.4%(同1.0ポイント減)。
10月7日現在のワクチン接種率が89.2%(都平均は61.3%)に達している70歳以上は8.7%(同1.6ポイント減)。70歳以上の人口比は17.7%の約246万人であることからして少ない数値ではあるが、気になる材料だ。
男女別では、男性の割合は昨年の54.0%から直近は57.5%と上昇。10歳未満と10代の男女が昨年より増加しており、他は全て減少。40代の女性は昨年の88人から44人へ半減している。
「心理的瑕疵」「嫌悪施設」とは何か 釈然としない国交省「死の告知ガイドライン」
国土交通省は10月8日、「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を発表した。これまで人の死に関する案件の判断基準がなく、取引現場の判断が難しいことから、宅建業者が負うべき義務を示したもの。ガイドラインは次のように定めている。
①宅地建物取引業者が媒介を行う場合、売主・貸主に対し、過去に生じた人の死について、告知書等に記載を求めることで、通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとする
②取引の対象不動産で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥など)については、原則として告げなくてもよい
③賃貸借取引の対象不動産・日常生活において通常使用する必要がある集合住宅の共用部分で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死以外の死が発生し、事案発生から概ね3年が経過した後は、原則として告げなくてもよい
④人の死の発生から経過した期間や死因に関わらず、買主・借主から事案の有無について問われた場合や、社会的影響の大きさから買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合等は告げる必要がある
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厚生労働省の直近のデータによると、不慮の事故死は38 069件、自殺者は21,081人、殺人は950件などとなっており、死に至らなくともこれらの「事故」件数は少なくとも数倍はあるはずだ。
これらのうち、不慮の事故死については、宅建業者が重要事項説明書で一つひとつ告知しなければならないのはさすがに酷だと判断したのだろう。除外したのは当然だ。
今回のガイドラインの根拠とされるのは次の民法の規定だ。
(買主の追完請求権)
第五百六十二条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
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不動産業界用語でもある「心理的瑕疵」は、アットホームによると次のように定義されている。
「心理的瑕疵とされているのは、不動産物件の取引に当たって、借主・買主に心理的な抵抗が生じる恐れのあることがらをいう。自殺・他殺・事故死・孤独死などがあったこと、近くに墓地や嫌悪・迷惑施設が立地していること、近隣に指定暴力団構成員等が居住していることなどである。
物件の物理的、機能的な瑕疵ではないが、物件の評価に影響することがあるため、知っていながらその事実を説明しない場合には契約不適合責任を問われることがある。もっとも、何が心理的瑕疵に当たるかについての明確な基準はない」
また、不動産流通促進センターは嫌悪施設として、騒音や振動の発生源となる高速道路等の主要道路、飛行場、鉄道、地下軌道、航空基地、大型車両出入りの物流施設等、煤煙や臭気(悪臭)の発生源となる工場、下水道処理場、ごみ焼却場、養豚・養鶏場、火葬場等、危険を感じさせるものとしてガスタンク、ガソリンスタンド、高圧線鉄塔、危険物取扱工場、危険物貯蔵施設、暴力団組事務所等、心理的に忌避されるものとして墓地、刑務所、風俗店、葬儀場等を例示している。(「等」も曲者)
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これらについてコメントする立場にないが、ガイドラインにも「心理的瑕疵」「嫌悪施設」にも釈然としないものを感じる。
われわれ人間は一つ間違えれば、自死、孤独死、あるいは殺人も含め当事者になる可能性もある脆さ、危うさを抱えている動物だ。その意味では、猛禽類より危険な存在だ。
例示されている嫌悪施設は、われわれ危険な動物が生活するために必要なものだし、そこで働く人はいわゆるエッセンシャルワーカーだ。三井不動産常務執行役員ロジスティクス本部長・三木孝行氏は「われわれは街を造っている。もはや嫌悪施設ではない」と言い切ったのを思い出す。
「心理的に忌避されるものとして墓地、刑務所、風俗店、葬儀場等」と「等」があるように、コロナ禍では「夜の街」がやり玉に挙げられた。われわれは平気で差別的な決めつけを行う。
かといって、騒音・CO2を撒き散らす車の製造責任は問われないし(問われているか)、乗る人も嫌悪・忌避されるわけではない(これも最近問題になっているか)。実に勝手な解釈を行う。こういうのをご都合主義という。最近人気の都心マンションの多くは嫌悪施設と隣り合わせの商業系・工業系立地ではないか。
このように、よくよく考えてみると、われわれ人間そのものが嫌悪・忌避される存在であり、「瑕疵」「心理的」「嫌悪施設」の概念もあいまいであることに全て起因するのではないか。釈然としないのはそのためだ。
「瑕疵」はキズ、欠点、落ち度などと同義語で、法律の概念でもあるが、なにをもって瑕疵とするのかは難しい。住宅で言えば「経年美化」(積水ハウス)の言葉や「経年優化」(三井不動産)の造語もあるように、年と共に価値が向上するものがある半面、賃貸借契約で原状回復をめぐってトラブルが絶えないのは「経年劣化」の定め・考え方があいまいだからだ。
「心理的」という語彙もまた難しい。人の心理、あるいは精神は常に揺れ動き不動ではなく歴史や文化、時代と共に絶えず変化する。これと「瑕疵」を結びつけ、法律などで規制(民法には「隠れた瑕疵」はあっても「心理的瑕疵」の文言は一つもないが)するのは極めて危険なことだと思う。
例えば喫煙。チャーチル、マッカーサー、吉田茂、松本清張、石原裕次郎などみんなそうだ。かつて喫煙は〝かっこいい姿〟としてもてはやされた。記者の小さいころは、学校の先生はタバコを吸いながら教壇に立っていた。
いまはどうか。わが多摩市は「あなたをタバコの煙から守ります」などと横断幕を掲げる。吸う前からきちんと高い税金を払っているというのに、われわれ喫煙者はまるで犯罪者扱いだ。狭い喫煙室に押し込まれるたびにアウシュビッツの「ガス室」を連想するのは記者だけではないはずだ。
公園ですら「飲酒・喫煙禁止」「キャッチボールなど禁止」「大声禁止」「楽器演奏禁止」「火気厳禁」「早朝・夜間の静粛」…とあるように、嫌悪施設に転落しかねない要素をはらむ。保育園の設置に反対する住民行動も多い。
マンション管理規約にも最近はバルコニーでの喫煙を含む「火気厳禁」が盛り込まれており、「新聞配達の音がうるさい」「ハイヒールの音がうるさい」「窓を開けるとうるさい」などの苦情例もある。管理規約に「ペット禁止」が盛り込まれている、今では〝瑕疵〟とも取れる物件も少なくないはずだ。
生き死には人間の尊厳にかかわる問題だ。「心」の問題に国が土足で踏み込んでくる。それに迎合する不動産会社・団体もある。何だか窒息しそうな嫌な世の中になってきた。
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国土交通省は「心理的瑕疵」について、次のような判例を示している。
①「売買の目的物に瑕疵があるというのは、その物が通常保有する性質を欠いていることをいうのであつて、右目的物が家屋である場合、家屋として通常有すべき『住み心地の良さ』を欠くときもまた、家屋の有体的欠陥の一種としての瑕疵と解するに妨げない。」(大阪高判昭37.6.21)
②「売買の目的物に民法570条の瑕疵があるというのは、…目的物に物理的欠陥がある場合だけではなく、目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥がある場合も含まれる」(大阪高判平18.12.19)
③「建物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景など客観的事情に属しない事由を持って瑕疵といいうるためには、単に買主において右事由の存する家屋の居住を好まぬというだけでは足らず、さらに進んで、それが、通常一般人において右事由があれば『住み心地の良さ』を欠くと感ずることに合理性があると判断される程度にいたつものであることを必要とする」(大阪高判昭37.6.21)
これも難しい。いったい「住み心地の良さ」とは何か。一応、国が定めた健康で文化的な住生活を営むための「都市型誘導居住面積」である3人家族で75㎡(未就学の子の世帯は65㎡)、4人家族で95㎡(同85㎡)はあるが、23区内で取得するのは絶望的になっている。それどころか、郊外部でも最近は66㎡(20坪)の3LDKが堂々とまかり通っているのが現状だ。
世界へ 建築業界に新風 青木茂リファイニング×服部夏子アート 「信濃町」見学会
「Forever」
一昨日(10月6日)のことだ。三井不動産と青木茂建築工房の「(仮称)シャトレ信濃町リファイニング工事」の解体見学会の取材を終え帰ろうとしたとき、解体途中の2階の壁面いっぱいに冒頭の映像が映し出された。
一瞬、草間彌生さんの水玉芸術かと思ったが、そうではないこともすぐわかった。油絵が趣味で、多少は美醜を分けることができると自負している記者はこのアートに魅了された。今まで観たこともないものだった。
アートは、主にアメリカで活躍されている世界に一人しかいない布再生アーティスト・服部夏子さん(34)の「Forever」と題した縦横約3.5mの作品だ。
布をお手玉のように丸め、それをキャンパスに縫い合わせて仕上げたもので、布は服部さんのおばあさんが着ていた和服や洋服を用いており、おばあさんが好んだ藤をイメージしたそうだ。作品にはおばあさんに対する服部さんの思いのたけが込められている。完成させるのに半年くらいかけたという。
会場でもらった資料には、服部さんは福岡県北九州市出身で、2006年の18歳のとき、第15回青木繁記念大賞公募展に最年少で入選。2010年、筑波大学芸術専門学群洋画専攻を卒業後渡米。これまでメトリポリタン美術館、ウォール・ストリート・ジャーナル本社ビル、ニューヨーク日本総領事館令和記帳会場などで展示・個展を開いたなどとあり、作品概要には次のようにある。
「『布』という素材は人にとって、最も身近な素材である。この素材によって伝わる人の暖かさや人間味、繊細な感情や自然な美しさなど、布の持つ無限の可能性を追求しながら、作品を制作している。
例えば、亡くなった人の洋服を見ただけで、沢山の思い出が蘇ってくるように、布は、多くの記憶と思い出を留めることが出来る。
制作過程は、まず、お手玉のような布のボールを作り、それぞれを縫い合わせることによって、完成する。どの作品も、布で『包む』という行程が重要である。『包む』という行為には、様々な苦痛や悲しみ、挫折や憎しみ、愛や希望、そして人の暖かさをも包み、肯定的なエネルギーに換えるパワーがあると感じている。そして、この『包む』という行為を、上述したように、私たちにとって一番身近な素材である布で行うことによって、作品は表現されている。
また、記憶を留める衣類も巡りゆく年月の中、やむをえず処分されることがある。しかし、その布を使って作り直し、作品として生まれ変わることで、新しい命が生まれる。
記憶、環境の視点から見てもその布を使いアートを作ることにより、新たな日々の中にその布と共に生きることが出来る。このように身近な布を使って、作品を作ることによって、アートを通じて想い出を共有し、身近に感じることは豊かな生活に繋がる。
上記からも取れるように私の作品は、環境に配慮されたリファイニング建築と通ずるものである」
皆さん、いかがか。これで服部さんと青木氏の接点が分かる。布再生アートもリファイニングも〝世界に一つ〟〝唯一無二〟だ。
これだけではない。「青木繁」は福岡県出身で、28歳にして早逝した明治時代の著名な画家だ。「青木茂」氏は大分県出身で、現場見学会などを開くと大賑わいになる〝売れっ子〟建築家だ。つまり服部さんは「青木繁」「青木茂」「九州出身」とも連なっている。
服部さんは記者の問いに「『青木繁』の賞は、歴代最年少入選だったこともあり、私にとって特別なスタートをきった存在です。10年以上経って、『青木茂』先生との出会いは、自分でも驚きでした。『九州&青木&再生&世界』は確かにその通りですね」と答えた。
建物は来年3月に完成し、「Forever」はエントランスロビーに飾られる。三井不動産が日本橋再生のコンセプトに掲げる「残しながら、蘇らせながら、創っていく」にもぴったりではないか。
◇ ◆ ◇
青木茂建築工房の作品は20件くらい見学しただろうか。素人の記者は何度見てもさっぱり分からないのだが、アルファベッドや記号や線でむき出しのコンクリ壁にマーキングしている図はアートに見えなくはない。
だがしかし、今回だけは服部さんの作品にはかなわない。真っ先に紹介したのはそのためだ。
青木氏は「どうして俺の作品が刺身のつまにされるのか」と怒り狂うタイプではないはずだし、むしろその逆で、してやったりとほくそ笑んでいるのではないか。仕掛け人は青木氏に違いない。
リファイニングと布再生アートの融合は、建設業界に新しい風を巻き起こすのではないか。
◇ ◆ ◇
以下が、解体見学会で紹介された概要だ。物件は、JR中央線信濃町駅から徒歩7分、新宿区信濃町3丁目の第一種中高層住宅専用地域に位置する敷地面積968㎡のSRC造10階建て・RC造2階建て延べ床面積2,605㎡。建設年は昭和46年。従前用途は賃貸住宅20戸と店舗。リファイニング後は賃貸住宅32戸と店舗1戸。設計は青木茂建築工房。施工は大末建設。竣工予定は2022年3月。サブリースは三井不動産レッツ資産活用部、三井不動産レジデンシャルリース。
施工にあたって、耐震性能を向上させるため構造耐力に影響のない壁を撤去し、建物全体の軽量化を図り、袖壁補強と炭素繊維補強で耐震補強を行っている。工事に際しては高いせん断耐力と剛性を発揮するアンカー「ディスクシアキー」を使用しているのも特徴の一つという。コンクリートの耐久性を確保するために1フロア約300か所、全体で約3,000か所の補強を行っている。
居住性能では、既存のコンクリートスラブ厚120ミリでは遮音性が不足するため、二重床のほか、新開発の施工がしやすいサイレントドロップを天井に使用することで、遮音等級LH60からLH55へワンランク上げる効果が実証されている。建物全体にサイレントドロップを採用するのはわが国初の事例という。
見学会でオーナーのケーズコート代表取締役社長・木村達央氏(72)は、「マンションは父が50年前に建てた。地震時に大丈夫かと調査してもらったら、あらゆるところに×(ぺけ)が付いた。このままでは貸せないと考え建て替えを検討したら5階建てにしかならず、大幅に採算が悪化することが分かった。困り果てていたところで青木先生のセミナーを聴いて、これはいいと工事を決断した。環境にもやさしくいいことづくし。成功事例として広がってほしい」と語った。
リファイニング建築は、耐震性能上問題のない壁や設備を撤去し、建物全体を軽量化し、独自の補強で現行の建基法基準などを満たし、建て替えと比べ約70%のコストで設備、内外装を一新し工期短縮を実現し、新築並みの価値を生み出すのが特徴。これまで100棟以上の調査、計画、設計を行っており、今回の物件は完成時で93棟目となる。三井不動産との連携は6棟目。
今回のプロジェクトでは、三井不動産と東京大学新領域創成科学研究科清家剛教授との共同研究により、建て替えと比べCO2排出量は全体で約72%削減できることが実証されている。
「ディスクシアキー」
サイレントドロップ
説明する青木氏
補修のためのマーキング
建設現場
デザイン一新 藤沢翔陵高/不可解 防衛省補助金 青木茂建築工房リファイニングPJ(2021/4/3)
I'm fine 桜もハナニラも満開 青木茂建築工房「目黒」リファイニング完成(2021/3/22)
築84年 都内に現存する唯一の木造見番建築物見学会 青木茂建築工房が設計監理(2020/12/15)
築51年の礼拝堂⇒診療所 青木茂氏「リファイニング」解体見学会に満席120人超(2020/10/26)
安藤忠雄氏を超えた? 青木茂氏×三井不 「氷川台」リファイニング見学会に200人超(2020/9/16)
美しい公衆トイレ 発信できた 安藤忠雄氏/世界からオファー 日本財団プロジェクト(2020/9/15)
大和ハウス工業「平和台」 同社初の「ZEH-M Ready」 申し込み殺到 早期完売へ(2020/9/15)
三井不動産×青木茂建築工房 リファイニング「初台」で見学会 過去記事も紹介(2019//12/8)
駅4分の1低層 息をのむほど美しいサペリの建具 三菱地所レジ「代々木上原」(2018/12/14)
省エネ対策に感服 三井不動産+青木茂建築工房 「林マンション」リファイニング完成(2018/3/30)
青木茂建築工房×ミサワホーム 「千代田富士見」のリファイニング見学会に450名(2018/3/1)
リファイニング建築の考案者 首都大学東京特任教授・青木茂氏が退官へ 記念講演会(2018/2/13)
ミサワホーム&青木茂建築工房 千代田区富士見のリファイニング建築見学会に250名(2017/11/9)
三井不&青木茂建築工房 築52年の市場性ない共同住宅をリファイニングで再生(2017/10/16)
三井不動産&青木茂建築工房 練馬区のリファイニング見学会に200名(2017/3/27)
築44年の寄宿舎をリファイニング手法で賃貸に一新 見学者100名超 青木茂建築工房(2016/12/21)
建築の魔術師・青木リファイニングの真髄を見た 「竹本邸」完成見学会(2015/11/17)
「リファイニング」に熱い視線60坪の建物見学に250人殺到 青木茂建築工房(2015/3/11)
リファイニング建築のすごさを見た 「千駄ヶ谷 緑苑ハウス」完成(2014/3/24)
全てが腑に落ちる 首都大学東京「リーディングプロジェクト最終成果報告会」(20143/19)
再生建築学の設置を 青木茂氏が三井不動産のセミナーで語る(2013/12/10)
千駄ヶ谷のリファイニング建築に見学者300人(2013/11/12)
出来すぎだ!焼杉! 見どころ多い小田急バス×ブルースタジオ「hocco(ホッコ)」
「hocco(ホッコ)」
小田急バスとブルースタジオは10月5日、なりわい賃貸住宅「hocco(ホッコ)」の関係者向け見学会を行った。小田急バスの貸し駐車場を転用した全13戸で、「なりわい」をテーマに、入居者は教室・習い事、趣味の物販などを通じて近隣住民とゆるやかにつながることができる「土間」「軒下」が設置されているのが特徴。〝地域価値の創造〟の視点から見どころの多い住宅・施設だ。
物件は、JR中央線武蔵境駅からバス12分徒歩1分、武蔵野市桜堤2丁目の第一種低層住居専用地域に位置する敷地面積1,525㎡、木造2階建(長屋建て)延べ床面積811㎡の賃貸住宅13戸。専用面積は52.9~58.99㎡。賃料は住宅専用(8戸)が146,000~167,000円、店舗併用(5戸)が166,788~176,610円。敷金、礼金は各1か月。定期建物賃貸借契約2年(店舗は2か月)。事業主は小田急バス。企画・設計監理はブルースタジオ。施工はジェクト。管理はブルースタジオ。
現地は、昭和34年に竣工したUR都市機構(当時日本住宅公団)の賃貸住宅「桜堤団地」(53棟1,829戸)に隣接。小田急バスが経営するハイヤーの営業所だったところ。昭和49年に営業所が閉鎖された後は貸し駐車場になっていた。
建物は、暮らしの「町あい所」をテーマに、自分の趣味や好きなことを街にひらき、「やってみたい」を実現できるなりわい賃貸住宅になっており、全ての住戸が中庭に開かれたモルタル仕上げの「土間」と「軒下」を持っている。
住宅はHEAT20G2相当、UA値0.41を実現。1階のサッシはドイツ製の金物を使った木製サッシで、ドアを閉めるとサッシ上部と下部の隙間が閉じられるよう工夫が凝らされている。その他の窓は樹脂・アルミ複合サッシを採用。構造柱は一辺18センチの燃え代設計。床はナラ材。外壁は耐久性を増すため、スギ材の表面を燃やして炭化させた「焼杉」を多用している。
隣接する武蔵野市立はなもも公園との一体化を図るため、武蔵野市と協議し、事業主が樹木の剪定などを行うことを条件に〝垣根〟(フェンス)を取り払った。地面は芝ではなく、雑草に強いダイカンドラを張っている。
敷地エントランスの折返場内には降車場を新設し、バス機能を拡充させるとともにシェアカーやシェアサイクルを用意。モビリティの拠点としての機能を設けている。
見学会に臨んだ小田急バス開発プロジェクト推進部長 不動産部長・下村友明氏は、「当社は昨年70周年を迎えた。利益を最優先するのではなく、地域に貢献できる、活性化できるものを造りたいという思いを込めて、これまで2度、協働したことがあるブルースタジオさんとともに施設を完成させた。上質な環境性能を備えた賃貸住宅となった。現在は土地を耕し、種をまき、芽が出た段階だが、今後大きな木に育てたい」と語った。
ブルースタジオを代表して大島芳彦氏は、「ここは路線バスの終着点ということからも分かるように、商店街のような多様多種な世代の生活者たちの暮らしのハブ。昔の『なりわい暮し』をテーマにしたのは、店舗・テナントでは無く生活者その者のチャレンジ精神や表現力、潜在力を引き出せば地域の活性化は可能と考えたから」と説明した。
賃料は近隣相場より10~30%高い設定だが、1か月前の募集開始時から70件の反響があり、5件の申し込みが入っているという。
中庭(中央の樹木はアオハダ)
土間
開閉して見せる大島氏
焼杉
◇ ◆ ◇
現地に着いてすぐ、記者の生まれ育った田舎の黒塗りの蔵の外壁が目に飛び込んできた。まさか本物の杉板ではなく安物のサイディングだろうと触ってみた。めり込むほどではないが、やわらかい感触が手に伝わってきた。その途端、指先に黒いしみがついた。建物が完成したばかりだからペンキの痕かと思ったらそうではなかった。本物のスギ材の表面を焼いて張った「焼杉」だと関係者から説明を受けた。もうこれだけで、この住宅のレベルの高さを確信した。
前段を読んでいただければ、その質の高さは分かっていただけるはずだ。ブルースタジオと小田急の共同作品を見学するのは3度目だが、いいコンビだ。
都市公園との一体化を実現した案件では、フージャースコーポレーションのマンション「デュオヒルズつくばセンチュリー」を今年見学した。この種の取り組みが増えることを期待したい。
公園に芝ではなく「ダイカンドラ」を張っていたのにも驚いた。5年前に見学した総合地所の戸建て「ルネテラス船橋」にはこれが敷き詰められていた。これはスグレモノだ。
もう一つ。見学会で白髪のお年寄り(失礼)から声を掛けられた。マスク越しだったこともありまったく記憶になかった(記者だって同じなのにどうしてわかるのか)。宇野健一氏(アトリエU都市・地域空間計画室)だった。
宇野氏と大島氏は交流があるようで、「双葉駅西側地区災害公営住宅等設計業務委託」公募で勝ち残り、最終選考の決勝戦の末、1票差でブルースタジオに敗れたと話した。今回の作品の出来栄えにも「負けた」と感嘆の声を漏らした。
宇野氏のホームページを検索した。「10/12/10 企画提案に協力していた横浜市脱温暖化モデル住宅推進事業コンペで我々のチームが最優秀賞を受賞」とあるではないか。
宇野さん、これって記者が2011年に見学し記事にした「横浜市の『脱温暖化モデル住宅』見学会に22組」のことでしょうか。宇野さん、大島さんと戦うからいけない。抱き込むか、抱き込まれるか。さもなくば逃げるかだ。また取材させてほしい。
まだある。隣接する「はなもも公園」は9年前、三井不動産レジデンシャルの戸建て「ファインコート武蔵野桜堤ブロッサムレジデンス」で見学しているではないか。すっかり忘れていた。大成有楽不動産の「桜堤庭園フェイシア」もいいマンションだ。
それにしても、みんなよくつながっているものだ。現場取材をずっと続けてきたおかげだ。
おっと、肝心なことを言い忘れた。「店舗併用」だ。バブルのとき、UR都市機構は多摩ニュータウンで多目的に利用できるスペース「αルーム」付きマンションを分譲した。その一つ、多摩センターの「プロムナード多摩中央」では、舗道に面した1階部分に「αルーム」を設け、分譲した。10戸くらいあっただろうか。全て即日完売した。当初は画廊や習い事、染め物工房などとして利用されていたが、いまは利用されている気配はほとんどないない。
何が足りなかったか。運営を指導する人が欠けていたからだ。今回はブルースタジオがそれを担当する。手腕が試される。
関連する記事を以下に添付した。
公園との境界線(かつてはフェンスがあったそうだ)
「ダイカンドラ」
現地近く(左の建物は「桜堤庭園フェイシア」か)
街のシンボルになる」来場者 公園との垣根なくしたフージャース「つくば」に感動(2021/4/28)
小田急電鉄・小田急不 小田急多摩線栗平と黒川駅前にコミュニティ拠点(2019/1/26)
素晴らしい! 代々木公園内に特区活用の民設民営「こども園」竣工 ブルースタジオ(2017/9/30)
地域価値再生プロジェクト第一弾「稜文舘」完成 ブルースタジオ・湘南ユーミー(2017/2/22)
ブルースタジオ 小田急電鉄の社宅再生リノベ「ホシノタニ団地」完成(2015/6/26)
ブルースタジオ 築32年の軽量鉄骨アパートを環境共生型へリノベ(2016/2/29)
ブルースタジオ 築85年のシェアハウス 国交省「寄宿舎」に該当せず(2014/5/23)
ブルースタジオ 木のぬくもりが伝わる「青豆ハウス」完成(2014/3/10)
敷地延長の難点を解消したプラン光る 総合地所「ルネテラス船橋」(2016/10/1)
環境・基本性能優れた有楽・平和不「桜堤庭園フェイシア」(2007/5/1)
桜並木に近接 三井の都市型戸建て「武蔵野桜堤」(2008/3/14)
市街化区域編入から44年 稲城・南山の区画整理で分譲開始(2014/9/25)
「ローカル」の大事さ浮き彫り SUUMO「住み続けたい街ランキング」
リクルートの住まい領域の調査研究機関のSUUMO リサーチセンターは10月5日、「2021 住み続けたい街(自治体/駅)ランキング」のオンライン記者発表会を行い、60ページにわたるレポートを公表した。
「住み続けたい街(自治体/駅)ランキング」は、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県の夜間人口上位800駅、もしくは乗降客数上位800駅のいずれかに該当する駅と2019年以降に新しく開業した駅の合計1,169駅を対象とし、回答のあった306,948人のデータをレポートにまとめている。
「今のお住まいの街に住み続けたいですか? 」という設問に「全くそう思わない」を0点、「とてもそう思う」を100点として5段階で評価、自治体や駅ごとに平均評価点と偏差値を算出。回答者のうち42,947人に街の魅力を35項目で聴取しレポートに反映させているのも特徴だ。
「住み続けたい自治体ランキング」は、武蔵野市が1位で、2位は中央区、3位が文京区。以下4位・目黒区、5位・逗子市、6位・港区、7位・横浜市西区、8位・渋谷区、9位・葉山町、10位・浦安市。
このほか、鎌倉市、藤沢市、茅ヶ崎市、大磯町などの湘南エリアや、横浜市都筑区、印西市、稲城市、多摩市などのニュータウンや東海村、横瀬町(埼玉県)などの町・村も50位以内にランクインしている。
住み続けたい駅ランキングでは、1位・東銀座、9位・馬喰町をはじめ東日本橋、人形町、三越前、水天宮前など中央区の駅が上位にランクインし、鵠沼・江ノ島エリアからは2位・石上、3位・鵠沼、6位・片瀬江ノ島、7位・鵠沼海岸、8位・湘南海岸公園の5駅がトップ10入りした。
調査の結果、①都心ローカル型=都心利便×ローカルな関係性②郊外中核型 =ワンストップ利便+街への関与③郊外ニュータウン型=緑・公園・安心の評価④郊外自然型=自然豊か×ローカルな関係性⑤遠郊外特異型=ここにしかない何か×可能性など、住み続けたい街の型が見えてきたとしている。
◇ ◆ ◇
オンライン記者発表会の取材を申し込んだ段階では、これまでのランキング調査と五十歩百歩だろうと思い、答えは返ってこないのを承知のうえで、皮肉を込めて次のような質問をした。
「この種のランキングは、御社の『住みたい街ランキング』をはじめ、メジャーセブン『住んでみたい街』、アルヒ『本当に住みやすい街大賞』、東洋経済『住みよさランキング』、大東建託『街の住みここち&住みたい街ランキング』、長谷工アーベスト『住みたい街(駅)ランキング』などたくさんあり、正直に言って食傷気味です。(略)
あの商・住混在の複合日影だらけの雑多な『川口』が『本当に住みやすい』街の1位となり、埼玉県でもっとも高齢化率の高い鳩山町が『幸福度』ナンバーワンです。(略)
どこがどのような調査を行おうと勝手でしょうが、根拠が希薄で、商売に結び付けたいという魂胆も見え隠れします。『住み続けたい街』も同じような気がしますが、いかがでしょうか。どのような人がモニターになっているのかも気になります」
これに対し、同社SUUMO リサーチセンター所長・池本洋一氏はモニターについて「30万人の回答をスクリーニングなどしていないし、恣意的にデータに手など加えていない」と語った。
レポートは、中央区や湘南の各駅が上位を占めるなど、これまでの調査のバイアスがかなりかかっているような気もしたが、中身は興味深いものだった。4万人を超える回答者から35項目について追加質問しているのがいいし、何よりも得心したのは、上位にランクされた自治体や街(駅)は「ローカル」がキーワードになっていることを導き出したことだ。街や駅特有の景観、自然条件、文化、祭りなどを通じて居住者の永住意欲を向上させることが大事であることをレポートは報告している。
永住志向については、各自治体は2~3年おきに住民意識調査などで公表しているが、なぜ永住を希望しているか、どうして永住を希望しないのかを聞いていないものもあるし、数値的に処理されるので、どのような人が永住を希望しているか分からないのも難点だ。
今回のレポートはそれを明らかにしている。個人情報の管理、公平性が担保されれば、すべての自治体は同社に調査を委託してもいいのではないか。そうなれば、住民は各自治体を比較検討することが容易になる。大幅な行政コストの削減も図れるし、自治体間の競争を促し、街の魅力度を向上させる取り組みを劇的に変えるかもしれない。
◇ ◆ ◇
いい機会だ。これまで何度も書いてきたことだが、アルヒの「本当に住みやすい街大賞」についてまた書く。
同社は、「住環境、交通の利便性、教育・文化環境、コストパフォーマンス、発展性の5つの基準を設定し、アルヒの膨大なデータをもとに住宅や不動産の専門家が参画する選定委員会による公平な審査のもと『本当に住みやすい街』を選定している」としている。
記者はアヒルと審査委員の方が「当社と選考委員が選んだ住みやすい街」とでもしたら異存は全くない。誰がどこを推奨しようと勝手だからだ。
問題なのは、膨大なデータとは何かを示さず、住民が必ずしも「住みやすい街」と考えているわけではなく、わずか2人の審査委員の判断で選出していることだ。客観的なデータも大事だが、決めるのは住民だ。住民の意向を無視して、お笑い芸人を起用し、面白おかしく発表するのはいかがなものか。ランキング上位に街が突如現れ、また忽然として消え、デベロッパーが分譲中や予定しているところが目立つのも気になる。恣意的なデータの匂いが芬々とするではないか。
2020年、2021年の2年連続でトップとなった川口市が典型的な例だ。市の令和3年市民意識調査結果からは「住みやすい街」であることは全く読み取れない。
例えば「定住志向」。他の自治体の設問は「ずっと住み続けたい」「できれば住み続けたい」「できれば市外へ転居したい」など選択肢の幅を広げているが、川口市は「住み続けたい」と「住み続けたくない」の設問があるのみだ。その結果、「住み続けたい」は85.0%と高い数値を示している。多摩市は選択肢を5つくらい用意している結果、定住志向は78%となっている。設問によって数値が異なってくることを示すいい例だ。
また、他の自治体は住み続けたい、あるいは転出したい理由をそれぞれ聞いているところが多いのに対し、川口市は「市の良いところ・好きなところ」「良くないところ・嫌いなところ」と並列的に並べているのみだ。核心をはぐらかす質問だ。
結果は、「市の良いところ・好きなところ」は都心へのアクセスのよさ、買い物の利便性が圧倒的多数で、「良くないところ・嫌いなところ」では「治安が悪い」(25.7%)「街並みがきたない」(12.0%)「公園などの憩いの場が乏しい」(13.0%)「医療サービスが不十分である」(13.1%)「自然環境が悪い」(6.0%)「子育ての環境が整っていない」(4.6%)など住環境に対する不満が多く寄せられている。
住環境がよくないのは数字で裏付けられている。市の緑被率は埼玉県でワースト3の0.15だし、一人当たり公園面積も県平均の7.2㎡を大幅に下回る3.22㎡だ(多摩市は11.3㎡)。
また、住環境を決定づける用途地域では、住居専用地域は16%しかなく、建ぺい率、容積率、日影規制が緩い商業系や工業系は全用途の3割に達している。特異なのは、駅周辺の商業系エリアを外れるとすく〝なんでも可〟の準工エリアになることだ。これはかつてキューポラの街だったことの名残だが、この特異性こそが高層マンションの林立を招き、マンション同士の〝お見合い〟や複合日影を招く結果になっている。都市計画など何もない。
川口市の特異性はほかにもある。「ローカル」の視点から見ると、市内には全国で3か所しかないオートレース場があり、隣の戸田市には競艇場、浦和には競馬場、大宮には競輪場がある。ギャンブル場が全て揃っている。こんな街は全国どこにもない。ギャンブル好きにはたまらない街ではある。
記者は、リクルートの「住み続けたい街(自治体/駅)ランキング」で川口と記者の好きな街「仙川」はそれぞれ何位か問い合わせてみた。公表しないということだが、上位ではないようだ。アヒルと審査委員の方は仰天するはずだ。とくに審査委員の方には自ら品性・品格を貶めるこの種のイベントには関わらない方がいいと老婆心ながら申し上げる。