「見事」「素晴らしい」監査員弁護士 女性陳述を絶賛 街路樹伐採 住民監査請求
伐採された神田警察通りのイチョウ(伐採1か月半でこれほどのひこばえが生えている。健全である証拠)
千代田区議会が「神田警察通り二期自転車通行環境整備工事」議案を議決し、工事業者と交わした請負契約は地方自治法違反であるから工事を中止し、公金支出を差し止めるよう求めた住民監査請求に関する意見陳述が6月10日行われ、整備エリアに住む請求人の女性(25)が約30分にわたって議決には瑕疵があり、議決は無効と訴えた。監査員の野本俊輔弁護士は「見事な意見陳述。これまで(意見陳述を)何件も担当してきたが素晴らしい」と絶賛した。
この問題については4月21日付で、「神田警察通りの街路樹を守る会」の住民ら20人が工事契約は違法として監査請求を行っている。今回の請求人は一人で、5月16日付で受理された。審査結果はそれぞれ受理された翌日から60日以内に出されることになっている。
以下、今回の意見陳述全文を紹介する。
整備済みのⅠ1期区間(左=建物は共立女子大)とⅡ期整備区間の歩道
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本監査請求の趣旨は、樋口高顕千代田区長が2021年10月14日、「神田警察通り二期自転車通行環境整備工事」のために大林道路株式会社との間で締結した工事請負契約が無効な議決に基づく違法な契約であるという点です。
街路樹を伐採しての道路整備工事に関し、千代田区は「千代田区議会で議決された」と主張しています。しかし、議会における議決の判断の基となる議案の説明は正確さを欠くのみならず、虚偽の内容もありました。そのもとに行われた議会の議決は住民の意思を反映したものとは言えず、後述します地方自治法96条1項5号の趣旨に反しており、無効であります。よって、その無効な議決に基づく工事契約は違法であり、樋口高顕千代田区長及び印出井一美環境まちづくり部長は本件の既払金を区に返還すべきです。また、違法な本契約に基づく工事は中止すべきであり、本件の残代金支払いに関する公金支出を差し止めるべきです。監査委員の皆様には、地方自治法242条4項に基づき、区に対し神田警察通りのイチョウ伐採行為の停止勧告を行って頂きたく、本日意見陳述させて頂きます。
(ガイドライン変更の件)
2011年、諸々の更新を経て最終的には2013年に策定された「神田警察通り沿道賑わいガイドライン」には、「豊かに育った既存のイチョウ並木の保全・活用」との記載があり、当初伐採の計画はありませんでした。しかし、2020年12月、区は計画を一転して伐採方針を決定しました。「附属機関等の設置及び運営並びに会議等の公開に関する基準」、「意見公募手続要綱」、「参画・協働のガイドライン」には、「区民にとって重要な政策決定等の際には、住民へのアンケート、意見交換会、懇談会、パブリックコメント(意見公募)、住民説明会を実施すること」とあります。しかし区はこの計画変更に関し、議会からの指摘で、後述するアンケートを実施したのみで、議事録の公開もパブリックコメントを実施することも一切しませんでした。伐採方針決定の9か月後である2021年9月になってようやく区はガイドラインを修正しました。しかし、その修正は「豊かに育った既存の街路樹を活用する(白山通りのプラタナス・共立女子前のイチョウなど)」との記載から「など」を削除するといった、一般には容易にわからないような微々たる修正でした。地方自治に詳しい神奈川大の幸田雅治教授の言葉をお借りすれば「子供だまし」のような手法です。その他、HP上に「既存の街路樹を伐採または移植し、ヨウコウザクラを植える」と1行記載したのみで、高齢者が多い町にも関わらず、区の広報誌への掲載や住民に対する説明会の開催等はまったくありませんでした。これについて区は「足らざるものがあった」と述べており、また「ガイドラインを変えるなら、方針を決める前に堂々と説明すべきだ」との区議会議員の指摘に対しても、「プロセスが適切でなかった」と非を認めています。
(沿道整備協議会の件)
多くの住民が街路樹の伐採について知ったのは2021年12月です。印出井部長は「検討にあたっては幅広く地域の実情に通じる方々にご参画いただきながら10年以上にわたって議論してきた」(事実証拠9号)と主張しています。しかし、協議会は町会長等特定少数の、それも男性のみから構成される会です。町会は区が期待するような機能は果たしておらず、町会長から住民に周知されることもありませんでした。さらに、その協議会の議事録も一切公開されることはありませんでした。つまり伐採は、区や町会長など一部の人のみで決定したものと言わざるを得ず、「幅広く地域の実情に通じる方々にご参画いただきながら」との主張に反しています。
(アンケートの件)
前述のとおり、区は伐採方針を決定するにあたり、2019年12月に「神田警察通りの整備に関するアンケート」を実施しています。しかし、このアンケートにも多くの瑕疵が見受けられます。まず、沿道住民でもアンケートを受け取っていない家庭が多数存在すること。現に私は、神田警察通り二期区間からわずか30秒程の所に住んでいます。家族は戦前からこの地に住み、店を営んでおりました。しかし、そのようなアンケートは見たこともありません。二点目に、アンケートの回答率がわずか14.5%であるという点です。この数字を民意とするには明らかに不十分です。わざわざ年末の忙しい時期にアンケートを実施したようですが、この回答率を見て、違う時期にやり直すなど回答率を上げる方法はいくらでもあったはずです。次に設問が伐採肯定へ誘導するような内容である点です。アンケートの問8を例に取ると、「神田警察通りの街路樹について、どのように考えますか」との設問に対し、用意された選択肢は①「今のままでいい」、②「植替えを含め課題解決してほしい」、③「どちらとも言えない」の3つでした。最も回答者が多いと予想される「課題解決してほしい」の選択肢にわざわざ「植替えを含め」というワードを絡めており、植替えが容認されているような印象を与えます。これは例えば「保存したまま課題解決してほしい」と「植替えて課題解決してほしい」といった選択肢に分けるべきです。さらにこのアンケートが実施されたのは2019年12月ですが、一年前の2018年12月に開催された第14回沿道協議会において、須貝基盤整備計画担当課長は「二期区間の計画案では、現状の街路樹を現在の位置に残すことはできない」と発言しています。つまり、この時点で区は伐採を決めており、その後実施された本アンケートは伐採ありきで実施されていたことを示しています。以上の理由から、本アンケートは極めて妥当性を欠くものであったと言えます。
(専門家の意見を聞いたという件)
さらに、区は区議会からの申し入れを受け、街路樹の専門家4名に聞き取りを行いました。その4名の意見をまとめた文書を作成し、2020年12月25日の企画総務委員会で配布しました。しかし、その資料において、4名の専門家の実名が伏せられた上、イチョウの保存を優先すべきとした藤井千葉大学名誉教授の意見が、本人の確認を経ないまま異なる要約をされて、伐採に賛成する意見のように記載されていました。これに関しては、藤井教授から「聞き取りを元に区が作成した書面を事前に確認できず、自分の意見が正確に伝わらなかった」との訴えが上がっています。この事実における問題点は主に3点、まずこのような聞き取りを区議会からの申し入れを受けて初めて行ったこと、次に区の考えにあった意見を恣意的に選択し、施策の根拠づけとして利用したこと、そして政策決定に関わるようなケースでは、どの専門家がどのような発言をしたのか行政は公表する責任があるにも関わらず、専門家の実名を伏せて記載したことです。
(96条の趣旨について)
地方自治法96条1項5号の趣旨は、契約の締結が住民の代表である議員の意思に基づき適正に行われることを担保することにあります。平成16年6月1日最高裁第3小法廷判決によれば、議会の議決を経ない契約は違法とされています。つまり、住民の意思に基づく議決が必要であるとしているのです。これまで述べてきたとおり、本件の工事契約の締結に関する議決にあたり、区は「参画・協働のガイドライン」や「道路整備方針」において自ら定めた住民合意の手続きをも無視し、虚偽ないし不正確な説明を繰り返し行ってきました。そして議会はこれらの事実に反する説明に基づき議決を行いました。議決を経ない契約も、議員が議案に賛成するか反対するかを判断する前提となる事実関係について虚偽ないし不正確な説明がなされた議決を経た契約も、議決の前提となる根拠を欠く点においては同様です。したがって、後者の議決は形式的には存在していたとしても、前述の地方自治法96条1項5号の趣旨を類推適用するならば、当該契約も無効となるべきです。
(判例について)
広島地裁の判例(昭和46年5月20日)ですが、ごみ・し尿処理場の建設工事の差し止めを求めた仮処分について、地方自治体として地元側の意見を十分聴取したかや、補償措置や公害監視体制についても話し合ったのかなどを考慮して、地裁は差し止めを肯定しました。その広島地裁判決に照らしても、イチョウの保存を求める地元住民の声を聞かず、伐採を求める側の声のみを取り上げる行為は自治体としてあるまじき姿です。
(設計変更のガイドラインについて)
区が制定した「工事請負契約における設計変更手続ガイドライン」および「工事請負契約における設計変更手続マニュアル」によれば、設計図書に定められた着手時期に請負者の責によらず施工できない場合、地元調整等請負者の責によらないトラブルが生じた場合には、区は約款第19条に基づき工事を一時中止とすることになっています。着工予定日であった4月25日以来、連夜多数の住民がイチョウに寄り添い、4月27日未明に伐採された2本を除いて請負者である大林道路が伐採に取り掛かれないという事態は、まさに前述ガイドラインおよびマニュアルに記載の「請負者の責によらない地元調整が必要なトラブル」にほかならず、この点に照らしても区は二期区間のイチョウ伐採を中止しなければなりません。
(話し合いについて)
一期区間はイチョウを残しての整備となりましたが、歩道は十分広く、根上がりも解消されて、素晴らしい仕上がりとなりました。私たちは当然二期も同様にイチョウを残しての整備が行われるものと信じて疑いませんでした。一期でできたことがなぜ二期ではできないのか、論理的な説明は一切ありません。伐採を知って以降、私たちは幾多もの要望書や陳情を出し続けていますが、すべて棄却されています。今年4月に伐採推進派と反対派住民数名での話し合いが一度だけ設けられましたが、このときも推進派が「これ以上の話し合いは平行線である」として一方的に話し合いを打ち切り、退席しました。そして、区はその後の話し合いを打ち切りました。それ以降、私たちが話し合いを求めても拒否され続けています。区長や区職員に説明を求めても、「議会で議決されたことであり今更変えられない」の一点張りで私たちが納得できる説明は一切頂けていません。区長に手紙を書いた住民もいますが、区長は一度も現場に足を運んではくださいません。現場を見に来てほしいとの声に対しては、区長もまた「行ったところで議決されたものは変わらない」と仰いました。「議会で議決された」と仰いますが、私たちが伐採について知らされたのは議決された後ですから、それまで伐採に反対することもできなかったのです。私たちにとっては「今更」でも何でもありません。
(イチョウの価値について)
「イチョウは落ち葉の問題がある、根上がりする、銀杏が落ちる」などと言われます。しかし、根上がりと落ち葉の問題はイチョウ同様に桜にもあります。また桜は毛虫の他、ブルーベリーのような黒い実を落とします。通行人がそれを踏み、実際に地面が非常に汚れているところもあります。私たちは決して桜を否定したいのではなく、イチョウの抱える問題は他の街路樹でも同様にあるということをご理解頂きたいのです。桜を植えることによって賑わいのあるまちづくりを行いたいとの趣旨は伺いました。しかし、イチョウは東京都のシンボルでもあります。靖国神社、神宮外苑などにもイチョウ並木があり、まちの賑わいの元になっています。これらの景観は一朝一夕に作られたものではなく、歴史を感じられるものです。そのようなイチョウは「歴史・学術ゾーンにある」神田警察通りにふさわしく、また一期区間との景観の連続性を保つこともできます。
(幅員2mの件)
区はイチョウの木を伐採する理由として、イチョウの木があると2mの幅員が取れないことを主張しています。しかし、2mの幅員が必要であるという主張の論拠は不十分です。道路構造令には確かに幅員2mとの記載があります。一方、「当該道路の歩行者の交通の状況を考慮して定めるものとする」ともあります。国土交通省に確認したところ、「自治体がその状況により柔軟に対応できる」との回答を得ました。実際に一期区間でも2mの幅員を確保できていない部分があります。このことこそが2mが必須ではないことを証明しています。昼間人口の多い千代田区とは言え、渋谷のスクランブル交差点のような交通量があるわけでもありません。特に神田警察通りの周辺は、人通りが少なく、落ち着いた場所です。ここまでの反対を押し切って、必須ではない2mを必ずしも確保する必要性はありません。また、須貝課長はテレビの取材に対し、パーキングメーターの設置を理由に、イチョウがあると幅員が取れないと仰いました。しかし図面を見ると、パーキングメーターが現在のイチョウの木と被る箇所はごくわずかです。さらに、二期区間はおよそ250mです。歩道の両側を合わせると500mで、その500mの歩道に今回議論になっているイチョウの木32本を並べたとします。区の作成した資料(第17回神田警察通り沿道整備推進協議会(資料2)神田警察通り沿道地域のまちづくり)によると、イチョウの直径は周りに設けるマスも含め1本あたり90cmですので、32本に90cmをかけると2,880cmです。つまり、イチョウの木があるために2mの幅員が確保できないのは、500mのうちのわずか5.8%に値する約29mです。その全体のわずか5.8%の区間のために、健康なイチョウが伐採されようとしているのです。伐採を正当化する理由が全て論拠不十分であり、私たちは納得できません。
(車椅子の方の件)
その他、区は幅員2mの根拠として「車椅子がすれ違うことができないから」と主張しています。しかし、車椅子利用者の方は「仮にすれ違うことがあっても暗黙の了解で譲り合う」と仰っています。また、「自分たちは他の人よりも地面に近いため、夏の暑さを感じやすく、街路樹はオアシスのような存在であり、日陰を求めて走っている」、「大きな街路樹は非常に安心感が持てるから残してほしい」とまで仰い、陳情も出されています。実際の車椅子利用者が「幅員よりも緑陰が必要だ」と仰っているのです。しかし区は、車椅子利用者やベビーカーのためのバリアフリーを謳っているにも関わらず、そういった生の声さえも無視してきました。
(緑陰と路面温度の件)
緑陰と路面温度の関係性については、前述の藤井教授の著書に「街路樹の木陰では路面温度が約20度も低くなる」とあります。実際に一期区間である共立前と二期区間において、太陽の当たる部分と、緑陰により日陰となっている部分の路面温度を比較したデータがありますので、追加資料2の最後のページをご参照頂ければと思います。気温が31度とまだそこまで高くない日でも、地面の材質によって最大で16.2度の差が観測されました。どの場所、どの材質の路面で計測するかで差は生じますが、最低でも10度温度を下げる効果が期待できます。またさらに暑くなる真夏には、緑陰の効果もより大きくなると予想され、ヒートアイランド現象の抑止にも効果があると言われています。一方のヨウコウザクラは小ぶりで、かつ上に向かって箒状に伸びることもあり、イチョウの木と比較すると緑陰の効果を期待できません。
毎晩木守りをしている中でUber Eatsの方に声をかけられた住民がいました。そのUber Eatsの方はいつも自転車で配送をしていて、「自分は遠回りをしてでも木陰を求めて走っている。是非ともイチョウの木を残すべく頑張って頂きたい」と応援してくださいました。私たちは、暑い日は木陰を探して歩くことが当たり前になっていて、日々緑陰の恩恵を受けていることなど意識していないと思います。実際、私もそうでした。しかし、車椅子の方々や配送業などの仕事をされている方々にとっては死活問題であり、大きな街路樹の存在が非常に重要なのだと痛感しました。ベビーカーに乗る赤ちゃんや、裸足で歩く動物たちはそういった声を上げることができません。だからこそ車椅子利用者の生の声は本件において重要な勘案要素であり、私たちがそういった声を無視してはいけないと思います。
(イチョウは区の大切な財産である件)
イチョウは区の貴重な財産です。区は、神田警察通りのイチョウの文化価値、保存の可否、保存する場合と伐採してヨウコウザクラ等別の樹種に植替える場合との経費の比較、景観や緑陰形成や防災に寄与する程度の比較等について十分調査せず、実現可能な保存案があるか否かも十分検討しないままイチョウを伐採しようとしています。このような状況は、区長として負っている区の財産の管理方法や効率的な運用方法として適切さを欠いていると言わざるを得ず、地方財政法8条に定める財産の管理及び運用の趣旨にも反しています。
(地方自治法242条4項について)
また、地方自治法242条4項には、「当該行為により当該普通地方公共団体に生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、当該行為を停止することによって人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害する恐れがないと認めるときは、監査委員は、当該普通地方公共団体の長、その他の執行機関又は職員に対し、理由を付して次項の手続きが終了するまでの間、当該行為を停止すべきことを勧告することができる」とあります。
(まとめ)
イチョウの伐採は区に生ずる回復困難な損害を避けるための緊急の必要はなく、また伐採の中止によって人の生命又は身体に対する重大な危害が発生、その他公共の福祉を著しく阻害する恐れがないことは明らかです。それどころか、高齢者を含む住民が、雨の日も寒い日も1日も欠かさず夜を徹して外で座り込みをするといった異常な状態が1ヶ月半続いており、「伐採を中止しないこと」が人の生命又は身体に対する重大な危害を発生させる恐れがあります。家の中で冷房をつけていても熱中症の危険性が訴えられる今日において、これからやってくる暑い日々に空調設備のない外で座り続けることの危険性は明白です。私たちが勝手にやっていることと言われればそれまでですが、そうせざるを得ない状況を作り出しているのは千代田区であることをご理解頂きたいと思います。
また、4月27日の深夜、大林道路の職員は私たちの目の前で無残にもイチョウを切り落としました。私たちはその間、区職員と警察に囲まれ、木に近づくことができませんでした。あの日の光景がトラウマとなり、一ヶ月以上が経った今でも工事車両を見ると手が震えます。伐採の瞬間の動画を見れば、胸が締め付けられ苦しくなります。工事をするはずのない日中でさえ、バイクの音がチェーンソーの音に聞こえ、現場に行って木の無事を確認せずにはいられません。もちろん仕事にも支障をきたしています。先ほど述べた、夏の暑さを感じやすい車椅子利用者の方の意見も然り、「イチョウを伐採しないことによる危険性」だけでなく、「イチョウを伐採することによる危険性」も考慮すべきです。
私は千代田区に生まれ育ち、これまで神田っ子として自分の故郷に誇りを持って生きてきました。神田祭は二年に一度の楽しみであり、生き甲斐でした。しかし、伐採に反対することは同時に、伐採を推進する町会長が治める町会を脱退しなくてはいけないことを意味していました。もちろん神田祭に出ることも許されません。神田っ子にとって神田祭は本当に大切な行事であり、それに出られない、自分の町会の神輿を担げないということを受け入れるには相当な覚悟が必要でした。そもそも町会云々、祭云々以前に、伐採推進派である町会長たちはご近所として私が生まれる何十年も前から家族ぐるみで付き合いのある方たちで、私のことはもちろん赤ん坊の時から知っているような方たちです。私も親のように慕っていたので、このような形で縁を切らざるを得なかったことを非常に残念に思います。これも千代田区が生んだ地域の分断です。千代田区環境まちづくり部は、環境とまちを壊しただけでなく、私たち住民の関係性も、心も全てを壊しました。これ以上大切な故郷を壊されるのは許せません。どうか私たちの声を聴いて頂けないでしょうか。私は一人になっても最後まで闘う覚悟です。
◇ ◆ ◇
みなさん、いかがか。陳述文は約8,200字、話したのは30分間だから、1分間で約270字。〝話すのは1分に300字〟という理想に近い長さだ。読んでいただければ、なぜ野本弁護士が絶賛されたか分かるはずだ。議決が地方自治法に違反するのか適法なのかはともかく、意見陳述は論旨にずれが全くなく、自らの言葉で語りかけたのが野本弁護士を感動させたのだろう。
記者も同じだ。今回の問題で意見陳述を傍聴するのは、1つ目の住民監査請求の陳述があった5月16日に続き2度目だ。前回では、代理人弁護士のほか6名の方が陳述された。今回は女性の方のみだった。この方には5月8日の夜にもお会いし、話を聞き、その後、メールでやり取りをしているのだが、25歳というのは初めて知った。
〝大丈夫か〟と正直思った。聴くのは百戦錬磨の奸智に長けた(失礼)弁護士や区議の3人だ。揚げ足を取ることなど朝飯前ではないかと心配しながら、女性を真横から見つめる位置に陣取った。彼女は背筋をまっすぐ伸ばし両足をきちんと揃え、用意した原稿を読みながら話し出した。緊張しているのか、言語は明瞭だが声は小さかった(記者はやや耳が遠くなってはいるが)。
ところが、どうだ。「議会の議決の判断となる議案は正確さを欠き、虚偽の内容もあり、地方自治法96条1項5号違反で、議決は違法。よって工事は中止し、公金支出を差し止めるべき」と真正面から切り込み、次々と十数項目の〝瑕疵〟をよどみなく指摘したではないか。
そして、「私は一人になっても最後まで戦う覚悟です」と締めくくったのには、グサリと肺腑をえぐられたような気がした。お前は〝街路樹の味方〟などと公言するのに、何かにつけ逃げているばかりではないかと。と同時に、ジョン・グリシャムの法廷小説を読んでいるような錯覚にとらわれ、大げさに言えば21世紀のジャンヌ・ダルクかローザ・ルクセンブルグではないかと。
後で聞いて、彼女はそんな闘士でないことも分かった。小さいころは「人前に出るのが嫌い」だったそうで、法律を勉強したことはなく、陳述中はずっと足が震えていたと話した(決してそうは見えなかったが)。陳述文は何度も予行演習を行い、その都度悔しくて泣いたという。傍で聞いた母親もまたもらい泣きしたそうだ。
緑陰と路面温度について語った場面にははっとさせられた。もちろん記者も、真夏の炎天下の土やコンクリの地表温度は50~60度に達し、日陰や芝生面は30度台にとどまっているのはよく知っている。しかし、ベビーカーの赤ちゃんや、裸足で歩く動物たちにまで思いを馳せることなどなかった。何と心優しい方か。樋口千代田区長はいかがか。胸を突かれるではないか。
女性はまた、上意下達の「行政下請け」機関と化している町内会組織の実態を「協議会は町会長等特定少数の、それも男性のみから構成される会です」とチクリ(痛烈か)と皮肉る。これだけでも「協議会」が役割・機能を果たしていないことを明らかにしている。
イチョウが口を聞けたら、きっと次のように話すはずだ。「道路の附属物としてぞんざいに扱われ、都合が悪いと『枯損木』として殺処分されようとしている神田警察通りの私たちだけでなく、千代田区の約5千本の街路樹、更には都内の約101万本、全国の約14,770万本の道路緑化樹木に希望の光と風を送り込むことになりました。感謝申し上げる」と。
樋口区長と区職員の方には論語の「過ちて改めざる、之を過ちと謂う」の意味を考えていただきたい。そして、街路樹担当の全ての関係者には、この意見陳述文をバイブルにしていただきたい。これを読めば街路樹を含む道路整備事業は一変するはずだ。だから全文を紹介した。
都道・本郷通りの見事なイチョウの街路樹(神田美土代町付近)
剪定・管理がひどいとこうなるイチョウ(足立区で)
住民監査請求の行方 街路樹の価値の可視化必要 千代田区の「街路樹が泣いている」(2022/5/18)
「苦汁」を飲まされたイチョウ 「苦渋の決定」には瑕疵 続「街路樹が泣いている」(2022/5/14)
民主主義は死滅した 千代田区のイチョウ伐採 続またまた「街路樹が泣いている」(2022/5/13)
千代田区の主張は根拠希薄 イチョウの倒木・枯死は少ない 「街路樹が泣いている」(2022/5/12)
ぶった斬らないで 神田警察通りのイチョウの独白 続またまた「街路樹が泣いている」(2022/5/11)
なぜだ 千代田区の街路樹伐採強行 またまたさらにまた「街路樹が泣いている」(2022/5/10)
マンション管理協 新理事長に高松茂氏(三井不レジサービス取締役会長)
高松氏
マンション管理業協会は6月7日、定時総会を開催し、前理事長の岡本潮氏(東急コミュニティー特別顧問)に代わって高松茂氏(三井不動産レジデンシャルサービス取締役会長)を新たな理事長に選任した。
このほか、副理事長の小佐野台氏(日本ハウズイング代表取締役社長)、鈴木清氏(阪急阪神ハウジングサポート取締役会長)、三田部芳信氏(長谷工コミュニティ代表取締役社長)、駒田久氏(三菱地所コミュニティ代表取締役社長執行役員)、福田明弘氏(野村不動産パートナーズ代表取締役社長)をそれぞれ再任し、新たな副理事長に落合英治氏(大京アステージ代表取締役会長)、竹林桂太朗氏(大和ライフネクスト代表取締役社長)、雜賀克英(東急コミュニティ―取締役会長)をそれぞれ選任した。
高松氏は昭和56年4月、三井不動産入社。平成25年4月、三井不動産レジデンシャル取締役常務執行役員、同27年4月、三井不動産レジデンシャルサービス代表取締役社長、同31年4月、同社取締役会長、現在に至る。マンション管理業協会へは平成28年6月、理事・副理事長に就任。技術委員会委員長、運営委員会委員長、管理適正評価運営委員会委員長を務める。
「加賀屋」と同じ36年連続全国No.1 21年度の売買仲介件数41,183件 三井リアルティ
三井不動産リアルティは6月7日、不動産仲介事業の2021年度全国売買仲介取扱件数は41,183件(2020年度38,507件、前年度比6.9%増)となり、36年連続全国No.1を達成したと発表した。
「三井のリハウス」は全国291か所に店舗を展開。年間32万組を超える顧客からの相談を受けている。累積売買仲介取扱件数は100万件超。
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凄い数字だ。第2位の住友不動産販売の2021年度の取引件数は35,122件で、2020年度の37,715件から減らしたため、三井不リアルティとの差は2020年度の792件から6,061件へ広がった。
三井不リアルティはかつて住友不動産販売が猛追したとき、同社幹部は〝追いつかれたらおしまい〟とマラソンに例え危機感を強め、ひき放しにかかったことがある。
この2社の争いはどこまで続くのか、平行線のままなのか、3位以下の追い上げはないのか。〝2位じゃダメなんですか〟という声もあるが、富士山に次ぐ山の名前など誰も知らないのと一緒か。
ネットで調べたら、石川県の旅館「加賀屋」は「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で36年連続「日本一」に選ばれたとある。チームスポーツでは、函館大学のハンドボールチームは男子北海道学生リーグで1986年から2015年の30年間に287勝2分の成績を残している。産業界では、ニトリホールディングスは2022年2月期決算で35期連続の増収増益を達成した。
国際的森林認証制度 加工・流通過程を認証するCoC認証取得 積水ハウス
積水ハウスは6月6日、国際的な森林認証制度であるPEFC認証とわが国独自の森林認証制度であるSGEC認証において、認証森林から産出される認証生産物の加工・流通過程を認証するCoC認証を5月15日付で取得し、木造住宅シャーウッドの主要構造材に採用していくと発表した。
「森林認証制度」には森林自体を認証する「FM認証」と、認証された森林から産出された木材製品等の流通・加工の過程を認証する「CoC認証」の2つがあり、このプロセスが連続していて始めて「認証材」と認められる。
CoC認証を取得したことにより、認証製品をシャーウッドの主要構造材に使用した木造住宅供給体制が整ったとしている。
“洗濯優等生”は1割!? 洗濯ブラザーズ監修のテスト リンナイ調査
皆さんは冒頭の洗濯ブラザーズ監修による「生乾き臭にもう悩まない!正しい洗濯チェックテスト」に何問正解できるか。「7問以上正解」が“洗濯優等生”、「3問~6問正解」が合格点、「0問~2問正解」の方は間違った知識のもと洗濯をしている可能性大だそうだ。
洗濯ブラザーズは、茂木貴史氏、茂木康之氏、今井良氏の3人で結成し、毎日の洗濯を楽しくハッピーにするための活動をするプロ集団。
チェックテストはリンナイが6月6日発表した全国20~60代の男女計1,000名を対象に、「洗濯」に関する意識調査結果をまとめ発表したリリースの一部。“洗濯優等生”は1割という結果で、「⑧晴れた日は日光に当てて乾かす(正解は×)」の正答率は22.3%だった。
調査の結果、梅雨時に負担を感じる家事のトップは「洗濯」で53.8%に達した。洗濯の悩みとしてもっとも多いのが5割の「乾きづらい・乾かしづらい」、続いて3割の「生乾き臭」で、その洗濯物は厚手のタオル、トレーナー・パーカーなどとなった。
洗濯物の乾燥方法については、雨の日は4割が自然乾燥による部屋干し、3割が除湿器やエアコンなどの家電を使用した部屋干しで、部屋干しする場所はリビング・ダイニング」が約6割、寝室が約3割、浴室乾燥機は約22%だった。
梅雨時の洗濯・乾燥3つのポイントは①たっぷりの水で洗う②「①湿度」「②温度」「③風」③5時間以内に乾燥だそうだ。臭いの原因になる菌やカビが潜んでいる洗濯槽の洗浄も梅雨時は1か月に一回がおすすめという。
洗濯ブラザーズ
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記者も約10年間〝主夫〟を経験したので、梅雨時や冬時の洗濯には苦労した。子どものズボンにティッシュが入っているのをそのまま洗ったときなどは泣けてきた。自分のバスタオルは2度3度、使いまわしをした。(湯上りのきれいになった体をふくのだからバスタオルは洗う必要がない)
デベロッパーから頂いた物干しポールは重宝した。マンションには必須アイテムだと思うが、標準装備している物件は少ない。商品企画担当はなにを考えているのか。
一つ提案。デベロッパーがコスト削減のため浴室のタオル掛けを1つにしたりなくしたりしている。ならば、バスタオルは薄く小型化を図り、夫婦・親子兼用にしてはどうか。心と体をきれいにする自動浴槽と洗濯・乾燥・洗浄機能付きの浴室にしたらスペースが節約でき、水の消費も大幅に削減できる。リンナイは開発しないか。
台湾由来の幼虫(ヤゴ)都心で初めて確認 三菱地所「濠プロジェクト」見学
「皇居外苑濠での泥と生きもの採取イベント(濠プロジェクト)」(ホームページから)
三菱地所など大丸有SDGs ACT5実行委員会が6月4日に実施した「皇居外苑濠での泥と生きもの採取イベント(濠プロジェクト)」を見学した。
イベントは5月28日と6月4日のそれぞれ午前と午後の4回にわたって実施されたもので、大手町、丸の内、有楽町で働く人限定の定員いっぱいの35人が参加。台湾由来のタイワンウチワヤンマの幼虫(ヤゴ)が初めて都心で確認され、大きな成果があったようで、参加した子どもたちも「ヤゴを見たのは初めて。とても面白かった」と話していた。
「濠プロジェクト」は、環境省、日本自然保護協会、エコッツェリア協会などの協力を得て同社を中心とする大丸有SDGs ACT5実行委員会が主催するもので、かつて皇居のお濠に生息していた水草など生物多様性の保全・再生と、泥の中に眠っている種子の発見・発芽を目指す取り組み。1017年にスタートして今回が5年目。2020年には、東京都区部では絶滅したとされる水草「ミゾハコベ」を復元させる成果もあげている。
イベント会場の皇居
泥の採取
中央の深緑色がヒシ
◇ ◆ ◇
記者はお濠の土手に腰かけ、たばこを吸いビールでも飲みながら観察しようと思っていたのだか、とんでもない。お濠を管理する環境省の規制は厳しく、参加者の数は制限され、名前は事前に登録され、番号付きの腕章を身に付けることが義務付けられていた。記者が変な行動をしないか監視するためか、それとも子守でもするつもりなのか、傍には同社の広報担当者がずっと付き添っていた。
作業は、田の草取りのようなのどかな風景に見えたが、危険が伴う重労働であることが分かった。お濠の深さは1mくらいだが、重さ数キロの胴長とライフジャケットの着用が義務付けられていた。それでも事故を起こす危険性があることから、子どもは濠の中に入るのは不可だった。独りで作業を行わないよう指示もされた。泥を採取する器具「採泥器」は3キロくらい、泥が入ったバケツの重さは10キロくらいあった。
そういえば、小生もそうだが、同社の吉田淳一社長は小さいころ、田んぼの肥溜めに落ちたことがあったと、ほくそ笑みながら1時間半の作業を観察した。とても勉強になった。誰一人転ぶ人もなく、無事故だったのが何よりだった。
泥を採取し、生き物を見つける参加者の様子を眺めた限りでは、水質はよくないと思った。悪臭というほどではなかったが、水田のそれとは異なる下水道のような匂いが漂ってきた。記者と同じように見学していた女性に声を掛けたら、「そうですね。匂いますね。わたしは近くに勤務していますが、ひところと比べるときつくなくなってきた」と話した。
なるほど。同社は2017年からお濠の水を取り込み、浄化して戻す「濠水浄化施設」を稼働させているが、その効果が表れてきたということかもしれない。
そして、心配するほど水質も悪くないことも実感できた。「皇居のお濠は多様性の宝庫」と言われるそうだが、名も知らぬ肴(わがパソコンは「魚」でなく真っ先に「肴」に変換する)や水生動植物がたくさん生息していることを目の当たりにした。
最大の収穫は、東京都では絶滅危惧種といわれるヒシの種を初めて見たことだった。ヒシは食用にされていたことは知ってはいたが、葉っぱや種がどのような形状をしているのか見たことは一度もなかった。ヒシの種は名前の通り菱形をしており、その四辺には逆トゲがびっしり生えている。水鳥などに付着したら外れないようにする知恵なのだそうだ。「三菱」の「菱」がヒシに由来するのかどうか…記者はしらない。
化石の中から発見された種子が発芽した例はたくさん報告されているが、皇居外苑濠の泥の中で数十年間も発芽の機会をうかがう水生植物はなんとけなげでたくましいのだろう。
もう一つは、冒頭に書いた台湾由来のトンボの幼虫(ヤゴ)だ。写真のように見た目は他の品種とほとんど変わらない。太っているか痩せているかの違いとしか見えないが、研究者とおぼしき方は「これはタイワンウチワヤンマだ。地球温暖化で北上しており、立川では成虫が確認されているが、都心で幼虫が確認できたのは初めて。(学会か)に報告しなくちゃ」とスマホに収め、興奮気味に話した。
そしてまた、新種のヤゴの発見に夢中になれる研究者が羨ましい。「誰一人取り残さない(leave no one behind)」-SDGsが目指すゴールはこのような小さな取り組みを通じて実現するのだろう。「昆虫記」を著したファーブルの生活は苦しかったようだが、未来の子どもたちはそんなことがあってはならない。この日参加した子どもたちの中から研究者が誕生するかもしれない。
ヒシの実
ヤゴ(中央が台湾由来のタイワンウチワヤンマのようだ)
10cmくらいのウキゴリ(左)と何という名前だったか2~3センチのエビの一種
「ホトリア」
泥の中に眠っている水草の発芽実験(ホトリアで)
三菱地所CSR「空と土プロジェクト」10周年 純米焼酎「大手町」販売など活動強化(2017/7/7)
〝ケロ、ケロ、ケロ〟カエルも歓迎 三菱地所・空土プロジェクト田植えツアー(2015/6/3)
三菱地所グループ「空と土プロジェクト」体験ツアーに同行取材(2012/10/19)
三井不「UN/BUILT(アンビルト)」展/示唆に富むWEB「未来特区プロジェクト」
UN/BUILT(アンビルト)GALLERY」
三井不動産が6月19日まで開催中のアーティスト13名の作品をリアル・デジタル・デジタルオンリアル(AR)の3つのギャラリーで展示するイベント「UN/BUILT(アンビルト)GALLERY」を見学した。
「リアル」展示は、中央区日本橋室町1-5-3の福島ビル1階((11時~18時、火曜日定休)で開催されており、未だ建てられていない実現以前の想像建築を広く指す“UN/BUILT”のコンセプトに基づき製作されたデジタルアートが展示されている。作品はリアル/オンライン双方からアクセス可能。
「デジタル」展示は、“UN/BUILT”ギャラリー空間を撮影したデータを基に、デジタルによって表現された空想の世界、“UN/BUILT”バーチャルギャラリーをオンライン上に開設する。アクセス方法はhttps://3d.discoverfeed.net/scene.php?sid=4fdYd
「デジタルオンリアル(AR)」展示は、日本橋の仲通りおよび福徳の森を舞台に、川田十夢氏が率いる開発ユニット、AR三兄弟が制作するARアート作品を展示するもので、「AR三兄弟の社会実験」アプリ(無料)をDLし、アプリ上でリアル空間上に浮かび上がるアートを鑑賞できる。
同社は、創立80周年事業の一環として既存の枠組みや既成概念を越えて、新しい未来を実装する「生存特区」「コミュニケーション特区」「クリエイター特区」の3つの「未来特区プロジェクト」を推進しており、今回のイベントは「クリエイター特区」の取り組みを発信するもの。
「UN/BUILT(アンビルト)GALLERY」内観
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記者は「アプリ」やらQRコードなるものをダウンロードしたことなどなく、リアル展示しか見学することができなかったが、自ら油絵を趣味にしてきたので多少の審美眼はあると思っている。国内外の画家の作品展などもよく見学してきた。
今回展示されているのはイラスト作品ばかりなのでよく分からないのだが、画家のコメントがそれぞれ面白い。全部紹介できないが、「ロバート・A・ハインラインのSF小説『宇宙の戦士』に提供したパワードスーツのイラストは、日本のアニメ史上に大きな影響を与えた」SFイラストレーター画家・加藤直之氏の作品「槍試合ウィトルウィウス的強化服」には次のようなコメントが紹介されている。
「ギャラリーに展示するための作品である。前もって決められたテーマは存在しない。決められた大きさもなく、決められた縦横比もない。いつも描いている書籍のカバーイラストと異なり、すべてが自由なのだ。コンピュータのハードディスクに、仕事の合間に好きに自由に描いている絵があった。それを今回の絵の中心に据え、上下左右、手前や地平線に向かって世界を広げていった」
記者はSF小説をほとんど読まない(筒井康隆氏は大好きだが)のだが、加藤氏ファンにはたまらないはずだ。写真撮影はOKだったが、さすがに著作権を考えると撮るのはためらわれた。興味のある方はぜひ見学を。
福徳神社
福徳神社の緑陰
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同社の「未来特区プロジェクト」や「Collaboration Magazine Bridgine(ブリジン)」ホームページには興味深い情報や記事がたくさん掲載されている。これもお勧めだ。
記者がファンの、4月1日付で東京ドーム会長CEOに就任した同社取締役・北原義一氏は、日本橋の街づくりについて、2年前の社内インタビューで「400年を超える歴史を持つ日本橋の矜持として、互助の精神、大人の色気というものは失ってほしくないですね」「江戸の下町で培われてきた粋の文化、互助の精神に未来へのヒントを見出せるような気がします」と語っている。
もう二つ、これからの街づくりや生き方に参考になる示唆に富んだ記事を紹介する。
一つは、東京工業大学・柳瀬博一教授が同社の光村圭一郎氏との対談で語った次の言葉だ。
「都市開発においては『1階の設計』がいちばん大切です。1階が街になっているかどうか。街は1階が全てです。あとはおまけに過ぎません。1階部分、ストリートに街がなかったら、どんなに立派なビルが並んでいようとも、そこは街としてはゴーストタウンです。ところが、多くのデベロッパーも、行政担当者も、この当たり前が常識になっていなかったりします。立派なビルが立ち並んでいて、平日はたくさんの人が出入りしているけれど、休日になるとだれもいない。そんな『平日は勤め人の街、休日はゴーストタウン』という街が、東京にもたくさんありますよね。あれ、1階部分という公共空間の設計としては、全部失格、大失敗だと思います。現在の『休日ゴーストタウン』の高層ビル群は、これからの時代、1階を街にしていかない限り、不動産価値の下がってしまうのではないでしょうか」
記者も同感だ。法規制などやむを得ない部分はあるが、公開空地や緑地を確保したビルは少なくはないが、そこにとどまり、飲食したり語り合ったりするような空間にはなっていない。日本橋のビルも日本橋川に背を向けて建っている。耳が痛いデベロッパーは多いはずだ。
もう一つは、デザイン・イノベーション・ファームのTakramの緒方壽人氏がやはり光村氏の対談で次のように語った言葉だ。ロシアのウクライナ侵攻も、こうした視点があれば起きなかったはずだ。
「人間は『わかり合えるWe』と『わかり合えないWe』の両方が必要なんですね」「どのように『足りない』と『行き過ぎ』を測る物差しを持てるかが大事だと思います。『イノベーションをいかに起こせるか』という物差しだけだと、起こすことだけがゴールになってしまう。あるいは『利益が出る』をゴールに設定しても、現代は最低限のルールだけを守れば何をしてもいい、といった環境ではなくなってきているでしょう」
これでいいのか 川に背を向ける日本橋の街(2008/5/19)
パラダイムシフト起こすか リアルとデジタルの融合企図 大和ハウスなど実証実験
「XR HOUSE(エックスアールハウス)北品川 長屋 1930」
大和ハウス工業、バンダイナムコ研究所、ノイズは6月2日、築90年以上の古民家を改装した「XR HOUSE(エックスアールハウス)北品川 長屋 1930」(東京都品川区)で6月3日から8月31日まで、「リアルとデジタルの融合」をテーマにした共同実証実験を行うと発表。同日、メディアに「長屋」を公開した。
建築を専門とする大和ハウス工業、エンターテインメントに強みがあるバンダイナムコ研究所、デジタル技術に詳しいnoizの3社がプロジェクトを立ち上げたのは2020年12月。コロナ禍で人々の価値観や生活習慣が大きく変化する中で、3社は「未来の暮らし」について検討を開始。家で過ごす時間が長くなる中、巣ごもりの閉塞感を軽減しながら、暮らしをより楽しくするために、一瞬で空間イメージを変えるデジタル技術「XR 技術」に着目し、「建物価値の拡張」と「建物サイクルの拡張」によるパラダイムシフトを企図したのがきっかけ。
1階のプロジェクトでは、AI技術のほかセンシング技術を組み込むことで、リアルとバーチャルの相互作用を生み出すことを可能にした。学習能力があり、「人」が古民家の中にあるLED電球に触れると、事前に決められた機械的な反応ではなく、その時々の「人」の位置などによって多種多様に変化する反応を示し、空間に置かれたタイルへの映像投影とサウンドで表現する。
2階の各10畳大の「障子+デジタル」と「襖+デジタル」には不定形の「ボロノイ畳」にLED 技術を組み込み、「障子+デジタル」では、バーチャル世界を「日常」から覗いているかのようなモノクロの屋外空間を演出。立体音響効果により、障子の奥に外とつながっているような空間を作っている。「襖+デジタル」では、「襖」を開けると囲炉裏、坪庭などの屋内空間が広がり、将棋を指す音、炭火のはぜる音、山鳩の鳴き声なども聞こえるようにしている。
実証期間中に有識者や業界関係者、学生などに「リアルとデジタルの融合」を体感してもらい、ワークショップを開催し、今後の住宅・建築業界の新しい価値の創出につなげる。
「XR HOUSE 北品川長屋 1930」は、JR品川駅から徒歩10分、品川区北品川 1丁目に位置する木造2階建て全5棟の古民家のうちの1棟改修したもので、延床面積は約97㎡。
「障子+デジタル」(左)と「襖+デジタル」(左の画像には、雨傘をさした〝永遠の処女〟原節子さんか、竹久夢二の美人画をカラーで写したら最高。右は意味不明のLEDの稲妻)
1階のプロジェクト
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この種のVRやらAR、AIをテーマにした見学会を数十回は経験している。その都度感じるのは、リアル(実物)には絶対にかなわないということだ。商品を購入することを決断させるための一つのツールに過ぎない。当事者だってそんなことは百も承知のはずで、いかにシズル(sizzle)感を演出するか四苦八苦しているに違いない。
今回も見学する前までは、これまで見たものと似たり寄ったりだろうと高を括っていた。ところが、「障子の間」「襖の間」を見学して驚愕した。五感のうち嗅覚、触覚、味覚は味わえないのはこれまで見学したものと同じだが、〝これはいい〟と第六感に訴えるものがあった。黒澤明や小津安二郎の映画シーンを見るようで、酒でも飲みたくなる気分にさせられた。
とにかく芸が細かい。部屋内は改修に用いられた黒松やイグサの香りがし、中央には卓袱台が備えられていた。障子には雨だれの文様が映し出され、開けると郷愁を誘う田舎の街並みが白黒で展開し、雨の音、風の音、小鳥の鳴き声が聞こえ、人の気配を感じさせる将棋を指す音、除夜の鐘、囲炉裏の炭火のはぜる音や火花が灰になって舞う仕掛けも施されていた。
この種の演出はゲーム大手のバンダイナムコにとってはもっとも得意とする技なのだろう。バンダイナムコ研究所イノベーション戦略本部プロデュース部・本山博文氏は「襖の開け閉めの所作はミリ単位で計算している」と話した。
肝心の価格について質問したが、「現段階では未定」とのことだ。価格によっては住宅だけでなくあらゆる施設にも導入できそうで、パラダイムシフトを起こす可能性が大とみた。
重箱の隅をつつくようで申しわけないのだが、一つだけ課題。本山氏も「没入・熱中しすぎない、目が疲れない工夫」と話したように、やりすぎると全てぶち壊すことにつながりかねない。
そんなシーンがあった。不定形の「ボロノイ畳」に稲妻のようにLEDの光が走り、床から灰が舞い上がった。薪も炭火も安物は爆ぜて火花を散らすことは確かにある。しかし、床を雷のように駆けずり回ることは絶対にないし、灰は空中をさまようが、床から蛍のように湧き上がることはない。本山さん、いかがか。過ぎたるはなお及ばざるがごとし。
昔懐かしい日常の風景を風情など全くない本山氏や記者の方が寝転んで鑑賞していた(これも一興か)
建物
「資材など高騰に苦慮。価格転嫁を検討する段階」プレ協・堀内会長 総会後に会見
プレハブ建築協会は5月31日、定時総会・理事会後に記者発表会を行い、会長に堀内容介氏(積水ハウス代表取締役副会長執行役員)、副会長に川畑文俊氏(旭化成ホームズ代表取締役社長)、芳井敬一氏(大和ハウス工業代表取締役社長)、井上二郎氏(パナソニック ホームズ代表取締役社長)がそれぞれ再任され、前副会長の竹中宣雄氏(今年6月のミサワホーム総会で取締役会長を退任する予定)に代わって、作尾徹也氏(ミサワホーム専務執行役員、6月の同社総会で代表取締役社長執行役員に就任予定)を選任したと発表した。
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堀内会長は冒頭、「2年前にコロナ拡大に見舞われ、かつてない大きな打撃を受けた。その後、住宅着工は回復したが、持家は昨年12月以降マイナスに転じ、ウクライナ問題、資材高騰など引き続き厳しい環境が継続すると思われる。その一方で、WEBスタイルの浸透やニーズの変化など環境が一変し、昨年11月に閣議決定されたこどもみらい住宅支援事業、改正住宅ローン控除制度などのインセンティブ、DXを活用して業界の活性化に取り組んでいく」などと語った。
また、2050年のカーボンニュートラルに向け、昨年10月策定した新たな5か年計画「住生活向上推進プラン2025」の推進、激甚化する災害対策として取り組んでいる応急仮設住宅では各自治体との連携を強化し、スピード感を持って対応していくと述べた。
PC建築部会長・加藤茂裕氏(トヨタT&S建設代表取締役社長)は、「品質と生産性の向上とともに働き方改革にも努力し、『場』と『人づくり』で優位性のあるPCの需要拡大に応えていく」と話した。
住宅部会長・後藤裕司氏(トヨタホーム代表取締役社)は、「『住生活向上推進プラン2025』では、それまでの『住生活向上推進プラン』と『エコアクション』を一本化し、カーボンニュートラルの先導的役割を担っていく。ZEH、省エネ改修、賃貸共同住宅の長期優良住宅の取り組みを強化する」と述べた。
規格建築部会長・森田俊作氏(大和リース社長)は、「今年半年間で震度5以上の地震は7回あり、昨年を上回っているなど予断を許さない状況にある。GPSやバーチャルトレーニングなどで災害に強い体制を強化する」と語った。
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メディアからは資材の高騰に関する質問が相次いだ。堀内会長は「コスト削減には限界もある。各社とも対応に苦慮している。価格への転嫁を検討している段階」と述べた。
製材-製造-加工-販売まで一気通貫可能 三菱地所など「鹿児島湧水工場」完成
「鹿児島湧水工場」
MEC Industryは5月30日、「木」の製材-製造-加工-販売まで一気通貫を可能にした鹿児島県姶良郡湧水町の「鹿児島湧水工場」が完成・本格稼働を6月から開始すると発表した。
「鹿児島湧水工場」は、2021年8月に完成した製造棟と、今回完成した「鹿児島湧水素材センター」からなり、敷地面積約90,845㎡、建築面積約26,864㎡、延床面積約26,981㎡。・製材棟は年間消費原木量55,000㎥/シフト(1シフトは360分、稼働日数250日/年)。製造棟は、2×4材(JAS 認定材)、CLT、幅はぎ板、MOKUWELL HOUSE、MI デッキなどを製造する。
工場では原木の調達を行い、製材してCLTや2×4パネルなど木質材料を製造、それらの建材を活用して木質建材やプレファブリケーション化した戸建住宅「MOKUWEL HOUSE」の製造までを一気通貫で行っていく。
おが粉やバーク(樹皮)などの廃棄物を自社ボイラーの燃料として再利用するほか、製材棟・オフィス棟・食堂棟の建屋の一部に国産材を使用。地元雇用も創出。食堂棟は地域に開放する。
MEC Industryは2020年1月、三菱地所、竹中工務店、大豊建設、松尾建設、南国殖産、ケンテック、山佐木材の7社の出資により、木材製品の生産から流通、施工、販売まで、川上から川下までを一社で担う「統合型最適化モデル」会社として設立された。
左からケンテック・矢口社長、松尾建設・松尾社長、竹中工務店・佐々木社長、池上湧水町長、MEC Industry・小野社長、須藤鹿児島県副知事、三菱地所・吉田社長、大豊建設・大隅社長、南国殖産・永山社長、山佐木材・有馬社長
オフィス棟
食堂
CLTプレスライン
MOKUWELL HOUSEユニット
◇ ◆ ◇
年間消費原木量55,000㎥/シフトと言われても素人の記者にはさっぱり分からないのだが、日本一の木材加工会社ポラスグループのポラテックは月産75,000㎥の木材加工能力を有するというから桁が異なる。
しかし、新会社設立の記者発表会同様、今回も7社のトップが参加して竣工を祝ったようだ。その意気込みが伝わってくる。わが国の森林・林業は危機に瀕しており、林業はもはや「業」と呼べないほどの売上高のようだ。7社が結集して森林・林業の再生・活性化の起爆剤になってほしい。機会があったら工場も見学したい。
製材棟
MI デッキ
MOKUWELL HOUSEモデルハウス
型枠を内装デザイン化30坪の平屋が1000万円 三菱地所 総合林業会社設立(2020/7/28)