「実践派」の千葉大名誉教授・小林秀樹氏 マンション長寿化フォーラムで講演へ
千葉大学名誉教授で、スケルトン・インフィル方式を編み出し、日本マンション学会会長などを歴任された小林秀樹氏が、6月22日に行われるマンションコミュニティ研究会(代表・廣田信子氏)主催の第25回フォーラム「マンションの長寿命化に向けた取り組み…二つの老いにどう備えるか…」で基調講演をされる。視聴申し込みは6月19日まで、以下のURLへ。https://www.mckhug.com/blog/25
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小林先生が基調講演をされることは、廣田氏からのメールで知った。テーマの「二つの老いにどう備えるか」はマンション管理業界、管理組合の大きなテーマの一つだが、肩書が「名誉教授」になっていたのに驚き、名誉職に退く年齢でもないと思い、小林秀樹研究室情報サイトで調べた。
絶句するほかなかった。先生が2020年3月末で定年退職されたのは仕方がないとしても、2022年3月12日付の【ご報告】には、「半年前に肝内胆管癌が発見され治療を進めています。幸い治療の効果で生活にそれほど支障はありません。詳しくは、癌ブログを公開しました」とあるではないか。恐る恐る読んだ。〝闘病記〟の第1回目には次のように綴られている。
「2021年6月に肝内胆管癌がみつかったとき、すでにステージⅣで肝臓に転移しており、手術はできない状態であった。
そのとき、最初に調べたのは、癌を克服する方法であった。手術の可能性はないのだろうか。抗がん剤治療はどんなものだろうか、新しい治療法はあるのだろうか、などを本やネットで調べた。
しかし、手術以外に完治の見込みはない難治性の癌であることを知った。もちろん、希望を捨てたわけではない。抗がん剤が効いて癌が小さくなれば、手術できる可能性は残されている。
妻は、私以上につらかったはずだ。食事療法の本を買い込み、ニンジンジュース、癌によい食事を調べて毎日つくってくれた。感謝しかない。
そして、次に知りたいと思ったことは、余命をどう生きるかであった。夫婦の趣味である登山の田部井淳子さんの闘病記を読んで勇気づけられた。また、同じ癌で亡くなった川島なお美さんは、亡くなる3週間前まで舞台に立っていたそうだ。その生き様に心を打たれた。そして、多くの方のブログが心に染みた。
そうだ…私も癌と過ごした記録を残しておこう。それは、余命を生きた証にもなるはずだ」と。
その後、本日(6月18日)現在、21回ブログを更新されている。文量は1回あたり400字原稿用紙3枚前後か。
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このような記事を書くのはつらい。小生の妻も28年前、乳がんで死亡しているからだ。しかし、先生の闘病記を読んで、これは伝えなければならないと思った。先生がわが国の住宅政策、街づくり、団地再生・活性化に大きな役割を果たされていることを知っていただきたいので書くことを決断した。先生にもご了解を頂いた。
先生との出会いは12年前だ。「感動的な催しを取材することができた」と記事に書いたように、「もう一つの住まい方推進協議会(Alternative Housing & Living Association)」が主催した「第6回もうひとつの住まい方推進フォーラム2010 〝複合〟でつなぐ地域の暮らしと福祉」を取材したときだ。
その時の記事と先生の講演要旨を添付する。座学ではなく、実践に基づく講演なのでとても参考になる。今回の記事も、この講演を参考にしていただくのが最大の目的だ。
その後、先生が参加された国土交通省などの会合を何度も取材させていただいた。とにかく先生の話は面白い。しかも、すらりとしてかっこいいのだ。いつも西城英樹さんとだぶらせて話を聞いた。年齢は小生より二回りは低いはずだとずっと思ってきた。
先生の記事のアクセス数も多く、旭化成ホームズが主催したフォーラムの記事は6,000件をはるかに突破した。主だった記事も添付する。
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先生が行った2020年10月10日の最終講義をビデオで視聴した。「40年の研究人生を振り返って」というテーマで、1時間半にわたって話された。
大学の先生の最終講義を受講・聴講するのはこれで2度目だ。最初は十数年前、明治大学・百瀬恵夫名誉教授だった。この時は特別に許可され、学生さんと一緒に長椅子に腰かけて受講した。
講義を通じて企業のあり方、人間としての生き方を学んだ。その後の取材にも生かされている。先生は「CATが大事」と話された。「C」とは「Compliance(コンプライアンス)」、「A」とは「Accountability(アカウンタビリティ)」、「T」とは「Traceability(トレーサビリティ)」だ。
これを守らない政治家がいかに多いことか。百瀬先生は「代議士は詐欺師か大馬鹿野郎のどちらか」と話されたこともあった。
そして今回の小林先生。先生は講義の締めくくりとして、①住民の暮らしの現場を大切にする。〝なぜ〟が研究のヒントになる②一人ひとりの要求を大切にする。顕在的要求から潜在的要求を引き出す企画者たれ③これからの建築・都市を考えるうえで、対立・矛盾の中にチャンスがある-この3つのメッセージを学生さんに贈った。
百瀬先生と小林先生に共通するのは「武闘派」「実践派」ということだ。百瀬先生は中小企業研究の第一人者として知られるが、経営者はもちろん従業員などと酒を飲み交わしながら大企業に負けない理論を打ち立てた。「百瀬教」を名乗る研究者や経営者がたくさんいる。記者は勝手ながら「武闘派」と呼んだ。
小林先生は、どちらかというと優男で、柔道5段(と聞いた覚えがある)でいくつもの武勇伝を持つ百瀬先生と対照的だが、座学を枕にするような先生ではないことを、12年前の取材で知った。前段で書いた通りだ。
最終講義でも「現場」「実践」を何度も話し、セキスイハイムの「オーサンス」や旭化成ホームズの「母力」などの家づくり研究に参画したのもとても勉強になったと語った。「研究室の外に出よう」とも呼び掛けられた。
6月22日の基調講演ではどのような話をされるのか。
〝羽ばたけないかごの鳥〟国交省 団地再生検討会 エアコンなし 議論白熱30度超に(2008/6/8)
マンションコミュニティ研究会 設立5周年フォーラム「豊かな未来へ」(2015/12/4)
平成の田園調布になるか1区画200坪の街づくり つくば市の「春風台」(2015/5/26)
厚くて高い法の壁 合意形成の難問も立ちはだかる 国交省「団地再生あり方検討会」(2015/3/18)
「理想の間取りは普通の間取り」 小林秀樹・千葉大大学院教授(2014/1/22)
〝複合〟でつなぐ地域の暮らしと福祉 「もう一つの住まい方推進協議会(AHLA)」フォーラム(2010/10/29)
「おーお明治」大学の誇り 百瀬恵夫名誉教授の「瑞宝中綬章」受章を祝う会に300名(2017/8/8)
退行する商品企画に一石 天井高2700ミリ&ワイドスパン 伊藤忠都市「新御徒町」
「クレヴィア新御徒町」
伊藤忠都市開発が近く分譲する「クレヴィア新御徒町」(52戸)と「クレヴィア西馬込」(44戸)のモデルルームを「ギャラリークレヴィア有楽町イトシア」で見学した。現地は見ていないが、商品企画は間違いなくいい。いかにも同社らしい物件だ。「新御徒町」から紹介する。
物件は、都営大江戸線新御徒町駅から徒歩5分、都営浅草線蔵前駅から徒歩9分、台東区鳥越一丁目の商業地域(建ぺい率56.71%、容積率499.56%)に位置する14階建て全52戸。専有面積は32.11~67.69㎡、価格は未定だが、坪単価は460万円の予定。竣工予定は2023年12月上旬。設計・監理は陣設計。施工は第一建設工業。分譲開始は7月上旬の予定。
最大の特徴は、全住戸の天井高が約2.7m以上で、約2.2mのハイサッシ、1LDKでも5000ミリ以上のワイドスパンという商品企画だ。効率的な設計により、限られた面積を最大限に活用するもので、「TEN-DAKA」「YOKO-HIRO」「TATE-BAKO」「AKA-RI」の4つの特徴を「Hi-SUMA」と総称している。
また、省エネ法の省エネ基準に比べ一次エネルギー消費量を10%以上削減し、その他低炭素化に資する措置が講じられている場合、「住宅ローン減税」などの優遇を受けることができる「低炭素建築物」認定を、同社としては初めて受けた物件でもある。
さらに、ドレッシングルームは「スタンダードミラー」「ストレージミラー」「イルミネーションミラー」の3つのミラーと「ユーティリティ・キャビネット」「デザイン・キャビネット」の2つの収納を組み合わせることでできる6通りのプランを、自分の好みで自由に選べる無償の「DRESSIMO」を採用する。
32㎡のプラン
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現地を見ていないので何とも言えないが、立地はおおよその見当がつく。隅田川花火を見るためにマンションを買うお金持ちがいるエリアの一角ではないか。坪単価は高いような気もするが、23区のコンパクトマンションは軒並み坪400万円を突破してきているので、こんなものかとも思う。
さて、約2.7mの天井高。このところ激しいマンションの価格上昇に反比例するように、天井高はどんどん低くなっている。2500ミリあれば高いほうとかで、2400~2450ミリが当たり前になっている。天井高を下げればその分だけ鉄やコンクリも少なくて済むのでコストは下がるし、天井高を下げることで階数(戸数)を増やすことも理論的には可能だ(実際は容積率の規制があるので難しいが)。
今回の物件で天井高を2.7mとしているのは、建ぺい率、容積率などの法的規制によるものだろうが、供給が増え競争も激化しているコンパクト市場に与えるインパクトは大きい。
間違いなく居住性は向上する。しかし、その居住性を定量的に計る物差しはない。デベロッパーは天井高を下げたのでその分価格を下げたとか、逆に高くしたので価格にオンしたなどとは絶対言わない。建基法では居室の天井高は2.1m以上と定めているのみだ。
その価値判断材料になると思うので、三井不動産レジデンシャル「パークコート六本木ヒルトップ」とモリモト「ディアナコート本郷弓町」、そして先日見学した三菱地所レジデンス「The Parkhabio(ザ・パークハビオ)SOHO 大手町」の記事を添付する。
「六本木」のリビング天井高は標準階でも3,400~3,450ミリ、最上階は4,150ミリだった。「本郷弓町」は、建基法ではあと2層積み上げられたのにそうしないで、天井高を2.7m確保した。これが圧倒的な人気を呼んだ要因だった。三菱地所レジの「MIデッキ」には感動した。
今回の物件もまた、どんどん退行する居住性能に一石投じるものだ。反響が注目される。
ハーフモデル(天井高2400ミリならエアコンの下部あたり)
「DRESSIMO」(デザイン性なら左、収納重視なら右とか)
感動的な天井高2730ミリの「MIデッキ」 職住一体型SOHO 三菱地所レジ「大手町」(2022/6/15)
あっぱれ!モリモト 階数を2層分減らし天井高2.7m確保「本郷弓町」(2014/5/23)
現段階で最高品質のマンション三井不レジ「パークコート六本木ヒルトップ」(2011/11/16)
凄い人気 優先72戸+一般分譲の第1期62戸は2.4倍即完 タカラレーベン「小田原」
「レーベン小田原 THE TOWER」
タカラレーベンが分譲中の「レーベン小田原 THE TOWER」を見学した。小田原駅前の商住複合再開発マンションで、昨年秋からの優先分譲、今春の第1期分譲を終え、分譲対象住戸のうち8割強が成約済みだ。購入者の約3割が都内居住者ということからも分かるように、利便性、資産性が圧倒的人気の要因だ。
物件は、JR・小田急小田原線小田原駅西口から徒歩1分、小田原市城山一丁目の地下1階地上17階建て全190戸(うち非分譲住戸38戸、優先分譲住戸72戸)。7月上旬分譲予定の第2期(戸数未定)の専有面積は35.90~80.21㎡、価格は未定。竣工予定は2024年5月下旬。設計・監理は三輪設計。施工は西武建設。売主は同社のほか万葉倶楽部。事業主は小田原駅前分譲共同ビルマンション建替組合。
昨年10月に優先分譲として72戸を成約。第1期一般分譲として今年5月21日に62戸を抽選分譲し、150組の申し込みがあり、平均2.4倍で即日完売。これまでの来場者は約370組。地元が約3割、県内が約4割、都内が約3割。
現地は、小田原駅西口を出て徒歩数十秒。屋根付きのバス、タクシー乗り場があるので雨でも傘はほとんど必要ない立地。通路を挟んで東側には鉄道高架線があり、線路を挟んだ対面には商業ビルなどが建っているが、高層階からは小田原城や相模湾が望める。敷地の西側は緑が豊富な小高い丘の住宅地。
建物は、1~3階が医療・商業施設などの店舗が予定されており、住戸は4階以上。プランはコンパクトから100㎡以上の住戸8戸まで多彩な23タイプ。
主な基本性能・設備仕様は、直床、リビング天井高2500ミリ、二重サッシ(線路側)で住戸側は樹脂サッシ、内廊下方式、たからの水など。
販売を担当する同社マンション事業本部営業推進事業部第1営業統括部第2営業部部長・平岡篤氏は「社内の再開発チームが取り組んでいるプロジェクトで、4月まではモデルルームをオープンしていなかったが、残りは18戸。購入者の方は今回の唯一無二の価値を理解されています。3年前、駅東口で坪単価220万円の物件が供給されていますが、それとは比較になりません」と語っている。
完成予想図
ライブラリーラウンジ
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添付した同社の「福岡天神」「東川口」の記事も合わせて読んでいただきたい。凄いというほかない。「福岡天神」「東川口」もそうだったのだが、〝坪単価については書かない〟という約束で、「R.E.port」の記者の方と一緒に見学が実現した。なので坪単価は想像してもらうほかないのだが、小生と「R.E.port」の記者の方も予想はどんぴしゃりだった。自慢するようだが、現地取材をたくさんこなすと単価は見えてくる。(「福岡天神」「東川口」は外れたが)
約90㎡のモデルルームもよくできている。オプション仕様ではあるが、「このままの仕様にしてほしい」という購入者もいるそうだから、同社の提案力がうかがえる。
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皆さんは二宮金次郎をご存じか。小生は学校の校庭に薪を背負いながら本を読んでいるコンクリ製の全身像を知ってはいたが、どこの生まれで、成人してどのような功績を残したのか、教わっているはずだが全く記憶にない。(戦争前はブロンズだったが、武器製造のため供出されたと聞いていた)
今回の取材で、その二宮金次郎が小田原市出身であることを知った。駅には、小生の小さいころとよく似たかわいい少年の銅像が建っており、今回のマンションの売主でもある万葉倶楽部が開発した「ミナカ小田原」の広場にもブロンズ製の夫婦像が建っている。金次郎の身長は160cm台で、奥さんは150cmくらいだ。驚いたのは、金次郎は帯刀していたことだ。どうして農民が帯刀を許されたのか。伝記などを読んでいただきたい。
帰りの電車の時間まで30分以上あったので、マンションの建設現場に立って通行する20人以上に「二宮金次郎を知っていますか」と声を掛けた。高校生が圧倒的に多かったのだが、ほとんどの人が知っていた。像は校庭に建っており、学校でも習うそうだ。
そういえば、小生は授業中いたずらばかりしていたので、廊下にいつも立たされた。嫌いな音楽の授業などは裏山でひとり遊んでいた。それでも末は博士か大臣かと言われた。今は昔だ。
「R.E.port」の記事について。小生の記事より半日早く(昨日18時)アップされている。単価に触れていないのは同じだが、うまくまとめている点では「R.E.port」に軍配を上げざるを得ない。しかし、二宮金次郎に触れている点では小生の記事が勝る。どちらが勝つか、皆さんに決めていただきたい。
駅東口の金次郎のブロンズ像(小生の小さいころにそっくり)
駅前の「ミナカ小田原」設置されている二宮金次郎夫婦像(金次郎は刀を差している)
「ミナカ小田原」
威力絶大 PPP×企画提案力 タカラレーベン「レーベン東川口GRANDEST」(2022/3/17)
福岡の最高峰 第1期100戸 圧倒的な人気 タカラレーベン50周年「福岡天神」(2022/3/15)
「新築そっくりさん」建替えよりCO2排出量47%削減 東大×武蔵野大×住友不
清家氏(左)と磯部氏
住友不動産は6月16日、東京大学、武蔵野大学と共に共同で進めてきた建物改修による脱炭素効果の定量化を目指す研究の「第一フェーズ」結果をまとめ発表。建物性能を向上させたうえで、同様の建物を建て替えた場合と比較してCO2排出量を47%削減できるとした。
研究は2021年12月にスタート。わが国は2050年カーボンニュートラル、家庭部門における2030年までのCO2排出量66%削減(2013年度比)が要請されているが、圧倒的に多い既存住宅(5,000万戸)の省エネ、脱炭素化の取り組みの遅れが指摘されている。
このため、既存住宅の脱炭素を推進する研究・制度の構築を主導している東京大学大学院新領域創成科学研究科・清家剛教授とその弟子の武蔵野大学工学部環境システム学科・磯部孝行講師から、「新築そっくりさん」として丸ごとリフォームの実績が約15万戸ある同社に研究依頼があったのがきっかけ。
研究では、BIM(Building Information Modelingの略称。資材データなどを入力し、3次元の建物デジタルモデルを構築する技術)などデジタル技術を活用して既存部材の再利用量、改修時資材投入量をそれぞれ把握し、建物LCA評価(Life Cycle Assessment の略称。製品等のライフサイクル全体における環境負荷を定量的に評価する手法)を実施。住友不動産の改修現場(築46年、延べ床面積149㎡)で調査を行った。
その結果、平成28年省エネ基準をクリアしたリフォーム住宅では、同基準の建物に建て替えた場合と比較し、解体などで生じる廃材の利活用により資材投入量が大幅に削減されるため、CO2排出量は47%削減できるという結果が得られた。
今回の調査結果を受け、第2フェーズでは既存戸建住宅の改修による長寿命化効果の検証を行い、2年後に発表する予定の第3フェーズでは既存戸建住宅の改修による省エネ・創エネ設備の導入効果を検証し、CO2排出量削減を可視化(定量化)できる評価システムの構築を目指す。
発表会に臨んだ清家教授は、「今回は資材、リフォーム現場にフォーカスして調査した。改修における環境評価手法は確立されていないが、47%のプラスマイナス10%のCO2排出量削減効果があることを示せた。今後は長寿命化やZEHレベルなど運用効果を検証していく」と語った。
住友不動産取締役 新築そつくりさん事業本部長・加藤宏史氏は、「わが国の戸建て住宅の寿命は約30年と考えられているが、当社はそのスクラップ&ビルドの常識を覆し、既存の残せるものは残しながら新築と同様の安心・安全の『新築そっくりさん』事業を25年超展開し、約15万棟の実績を積み上げてきた。今回の調査結果は、当社の事業は持続可能な社会的を目指す事業であることが証明できた。今後も引き続いて環境評価手法の見える化、定量化に貢献していく」とあいさつした。
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清家氏と磯部氏の説明を聞きながら、昨年、三井不動産と東大、青木茂建築工房が共同研究した結果、「リファイニング建築」のCO2排出量は建て替えるより約72%削減できると発表したのを思い出した。
コンクリと木造の違いだろうとは思ったが、「わたしは木造ファン。リファイニングは72%なのに、木造はどうして47%なのか。わが国の森林・林業は危機に瀕している。建築資材を外材ではなく国産材を使用することで、森林・林業の再生・活性化を図れば、その社会的経済的効果を金銭に置き換えることはできるのではないか。それをCO2排出量に反映できないのか」などとストレートに質問した。
記者の質問に対し、清家氏は、「リファイニング建築」のCO2排出量研究を行ったのは自分たちであることを話し、RC造はCO2排出量が大きい鉄やセメント、ガラスなどを大量に使用するのでリファイニング建築では削減効果が大きく出るが、木造はもともと排出するCO2が小さいので、削減数値も小さくなると語った。
また、わが国には外材と国産材を分けて環境評価を行う手法はなく、国産材を活用した場合も、天日で乾燥する場合はともかく、重油を使って乾燥させる場合はCO2排出量は大きくなり、その課題もあると指摘した。
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清家先生の仰ったことはよく分かった。おそらく国産材より外材のほうが植林、伐採、運搬、製材、加工コストは低く、結果としてCO2排出量も少なくなるのだろう。しかし、わが国の森林・林業は危機的状況にあり、地域の文化すら崩壊しつつある。コストは多少かかってもCO2排出量が多くなっても、国土を強靭化するのに投資する価値のほうを重視すべきだと記者は考える。わたしたちは経済合理性だけで生きていない。「安心・安全」をお金に換算し、多少値段が高くとも国産の食材を購入する消費者が多いのはその端的な例ではないか。
いま取材している千代田区の神田警察通りのイチョウの伐採の是非も同様だ。区はイチョウを伐採してヨウコウザクラに植え替える場合のコストはイチョウを残して道路整備するより初期コストはかかるが、その後の維持管理費を考慮すると、数年後には元が取れると主張している。この論法には樹木がもたらす緑陰効果、地表温度の抑制効果、癒し効果、街並みの景観美などは全く考慮されていない。
建築資材も同じではないか。磯部先生は日本建築学会の地球環境委員会 LCA小委員会主査を務めている。先生、外材と国産材の利用に関する経済波及効果の差異を研究する学者先生はいらっしゃらないのでしょうか。
目からうろこ キッズスペースに一変「変身ラウンジ」 ポラス「津田沼」竣工完売
「ルピアコート津田沼」
ポラスグループ中央住宅は6月15日、コロナ禍の真っ最中に分譲開始した〝さわらない・もちこまない〟ノンタッチをテーマにしたマンション「ルピアコート津田沼」が竣工完売したのに伴うメディア見学会を行った。モデルルーム見学会では分からなかった、同社の生活者視点にたった商品企画に目からうろこが出た。
物件は、JR津田沼駅から徒歩12分、船橋市前原西4丁目の第一種中高層住居専用地域に位置する7階建て全53戸。専有面積は68.02~71.75㎡、価格は3,998万~5,288万円(最多価格帯4,500万円台)、坪単価は215万円。竣工は2022年5月26日。施工はイチケン。販売代理は東京中央建物。
契約開始は昨年6月6日で、竣工した今年5月26日までに全戸完売。購入者の半数は船橋市、習志野市居住者で、約2割の都内など地元以外は何らかの地縁のある人が目立ったという。中心年齢はプレファミリー中心の30代の前半。総来場者数は319件。
竣工見学会で、同社マンションディビジョン部長・中島教介氏は、「アプローチはルートがいくつもありネックだったが、コンセプトをはじめ中身(商品企画)が評価された。当社のヒットメーカー西牟田が考案した『変身ラウンジ』などを見ていただきたい。ここまでやっている物件は他にないはず」と語った。
販売代理の東京中央建物プロジェクトマネージャー・髙橋雅史氏は、「ピアキッチンやノンタッチの設備仕様に高い評価を頂いた。競合にも競り勝った」と話した。
〝ヒットメーカー〟として紹介された同部の西牟田奈津子氏は、各所に採用されているノンタッチキーや実用新案取得済みの「車の出し入れ まもるんスペース」と「変身ラウンジ」など共用部の施設について説明した。
「変身ラウンジ」
変身前のラウンジ壁面
変身前の窓(左)と変身後の窓
「まもるんスペース」の床
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この物件については昨年5月、モデルルーム見学会を取材し記事にしている。その時見落とした、そして今回初めて紹介されたことを追加する。
前段の「変身ラウンジ」は唖然とするほかなかった。大規模物件ではキッズルームは当たり前になっているが、この程度の規模の物件ではまずない。西牟田氏が考案したのは、壁面や窓の扉をあけ放つと、写真のような子ども向けのイラストや遊具が飛び出すものだ。そんなにコストがかかるわけではないが、発想が面白いではないか。ラウンジには不燃処理を施した本物の木が一部に採用されていた。
前回の見学会で見落とした「まもるんスペース」には、いい年をした記者もはしゃいでしまうほど意表を突くものだった。機械式駐車場の車の出し入れの際の子どもの事件を防ぐための1.5畳大のスペースを設けたものだが、何とスプレーで床に水をかけるとイヌ、ワニ、ブタ、ライオン、ウマ、ペンギン、リス、ウサギ、オットセイ、ゾウなどのイラストが浮かび上がるではないか。
「まもるんスペース」は2019年に取材しており、キッズデザイン賞協議会会長賞を受賞したが、動物のイラストが浮かび上がる仕掛けは2020年から採用したという。(これは他の用途にも使える)
この他、ノンタッチをごみ置き場のドアに採用したのは多分同社が業界初だと思うし、ノンタッチで取り出せる宅配ロッカー、エントランスにTOTOの大人用と子ども用の「アクアオート(自動水栓 きれい除菌水タイプ)」を採用しているのも初めて見た。エントランス部分のQRコード付きのニラ、スミレ、アジサイ、アヤメ、キキョウは購入者が植えたそうだ。これもキッズデザイン賞を受賞した〝ルピア花クラブ〟の取り組みによるものだという。
同社のマンションや戸建てがよく売れる要因の一つに、これらきめ細かな商品企画がある-そのアイデアを世に送り出してきたのは、今年6月10日付で定年退社した前取締役・金児正治氏(62)の功績が大きい。代わって成瀬進氏が取締役に就任した。どこかで聞いたような名前だと思い検索したら、調整区域の開発物件「ハナミズキ春日部・藤塚」の見学会で話を聞いている。マンションも担当することになってどのような次の手を打つのか。楽しみだ。
購入者が植える草花を決めた植栽帯の一部
熱男! ポラス中央住宅取締役・金児正治氏(62)が退任(2022/6/10)
〝さわらない・もちこまない〟コロナ対策随所に ポラス「津田沼」好調スタート(2021/5/29)
ポラス 第14回キッズデザイン賞に「AKUNDANA」と「育実の丘 東大宮」2作品が受賞(2020/8/21)
調整区域の市民農園付き200㎡邸宅 ポラス「ハナミズキ春日部・藤塚」企画秀逸(2020/7/3)
ポラスのマンション好調 商品企画支えるのは2児のワーキングママ・西牟田奈津子氏(2019/9/15)
感動的な天井高2730ミリの「MIデッキ」 職住一体型SOHO 三菱地所レジ「大手町」
「The Parkhabio(ザ・パークハビオ)SOHO 大手町」
三菱地所レジデンスは6月14日、新たなライフスタイルを提案するコワーキングスペースを併設した職住一体型賃貸マンション「The Parkhabio(ザ・パークハビオ)SOHO 大手町」が完成したのに伴う記者見学会を行った。千代田区の駐車場地縁義務の緩和を受けて1階部分に約60㎡のコワーキングスペースを確保し、新建材の「MIデッキ」を天井部に採用することでリビング天井高を2730ミリとし、共用部の壁面に突板を採用しているなど見どころの多い賃貸マンションだ。
物件は、東京メトロ・都営三田線大手町駅から徒歩7分、JR神田駅から徒歩6分、千代田区内神田一丁目の商業地域に位置する敷地面積約260㎡、13階建て延べ床面積約2,287㎡の全49戸。専用面積は25.31~50.63㎡。現在募集中の賃料は137,000~286,000円(礼金なし、敷金1か月)。契約期間は2年。管理費は20,000~3,000円。竣工は2022年6月15日。設計・施工は大豊建設。敷地建物所有者は三菱地所レジデンス。貸主は三菱地所ハウスネット。
リーシングは順調で、第1期として12件に申し込みがあり、契約のめども立ったという。スタートアップ企業は約2割で、当初想定した通りという。
物件の特徴は、①1階にコワーキングスペースを設置し、通勤時間ゼロという蓋らしいライフスタイルを提案②内神田の立地を生かし、まちの賑わい創出に寄与③居室やコワーキングスペースの天井部に新建材の「MIデッキ」を採用し、木材の質感を実現したこと。
①のコワーキングスペースは、スギ材を天井と壁仕上げに多用した「Style Lounge」と名付けた天井高6m、約60㎡。作業効率を追求し、オフィスチェアやモニターを完備。壁面アートからは時間帯で変化するオリジナルのBGMが流れ、空調音や生活音の低減を図っている。仮眠が取れるコクヨ製のソロワーク用ブースdop(2基)や個室(2室)、一部外部にも開放する会議室を整備。法人登記も可能にし、スタートアップ企業の支援を行う。
②では、2020年4月に施行された「内神田一丁目周辺地区都市再生駐車施設配置計画」を活用し、付置義務駐車場(5m×3m×2台)の緩和を受け、コワーキングスペースの設置を可能にした。内神田エリアの街の賑わい創出に寄与する。
③のMIデッキは、三菱地所とケンテックが共同開発し、MEC Industryが製造するハイブリッド建材で、鉄筋と木(もく)が一体化された型枠にコンクリートを打設することで、天然木の現し空間を創出することができる。同社としては初めて採用するもので、天井高2,730ミリを実現した。
同社は、今回の「大手町」のほか「代々木公園」「祐天寺」を建設中で、今後、都内を中心に3年間で5棟の「The Parkhabio SOHO」シリーズの継続的な供給を目指す。
見学会で同社常務執行役員賃貸住宅計画部長・森山健一氏は、「賃貸事業は2004年に事業開始し、三菱地所レジデンスの分譲のノウハウを生かしながら展開してきており、今秋にはトータルで100棟が完成する。SOHOは2019年から企画を開始。コロナ禍で働き方改革が一気に進むなか、職住一体型の新しいライフスタイルを提案した。今後も多様なニーズに応えていく」と語った。
また、同社賃貸住宅計画部第四グループ主任・福井一哉氏は、今回のSOHOを社内ベンチャー新事業として応募・採用された経緯について説明。460件のアンケートや28件の直接アンケートなどで賃貸住宅の1階は使われていないこと、通勤時間が長いことなどに着目し、オフィスと住宅の中間領域としてのSOHOを提案したという。ハード面で差別化を図ったことで、二重賃料負担の課題がある既存のシェアハウスやシェアオフィスとの競合もないと話した。
1階コワーキングスペース
1階コワーキングスペース
1階賃貸エントランス
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見学受付の賃貸エントランスに着いたとたん、本物とすぐ見分けられる木が眼前に広がった(写真参照)。もうこれだけで見学した甲斐があったと思った。このところの三菱地所グループの木質化の取り組みは半端でないからだ。
コワーキングスペースは前段で書いた通り。2層吹き抜けの空間は60㎡よりはるかに広く感じられ、マスク越しではあったが木の香りが鼻腔に広がった。勧められるままにdopに座ってみた。瞑想(小生のパソコンは真っ先に「迷走」に変換した。馬鹿野郎)するのに最適だし、そのまま眠るのもいい。値段も聞いたが、コクヨに問い合わせていただきたい。
賃貸住宅がまたいい。広さはともかく、実装されたMIデッキを初めて見たが、実に美しい。感動的だ。型枠が現しになるのだからコンクリまみれかと思ったが、まったくそんなことはなかった。天井高2730ミリの分譲マンションなどこの数年間見たことがない。これだけでも大きな価値がある。森山氏らに「分譲にも採用できないか」と聞いたら、「購入者の了解が得られるかどうかの課題がある」とのことで、現段階での採用は考えていないようだ。(二重天井と比較して断熱性能はどうか分からないが、最近の分譲は2400ミリが当たり前になりつつあり、ケミカル製品だらけの内装を考えたら、節や多少の汚れがあっても購入者は納得するはずで、記者は可能だと思う)
設備仕様も、タオル掛けが1か所、スライドバーのフックは1つ(三菱地所レジデンスはそれぞれ2か所が標準)の浴室を除き、同社の分譲仕様とそれほど遜色ない。キッチン・洗面の天板はフィオレストーンで、トイレはタンクレス。ドア、クロスなども(どこと比較するかだが)郊外マンションに負けない。
細かいことだが、専用面積34㎡のプランでは、玄関を入ってすぐに奥行き約10cmのDreesing Wallがあり、その隙間に小物入れや衣服を掛けられるようにしており、天井部分には靴・ブーツなどが収納できるCorridor Closetがあった。これも分譲に採用できる。
2階に設けた全49戸分の駐輪場は平置き型で賃料は300円というから良心的だ。1階のゴミ置き場はエアコンが付いていた。そんな分譲マンションはあるのか。
家賃は相場より高いが、木をふんだんに用いた居住性能、コワーキングスペースなどを考慮すればむしろ安いか。容積対象に対するレンタブル比率(コワーキングスペース+住宅専用)は95.4%でしっかり事業性も確保している。
Cタイプ(34㎡)のDreesing Wall(左)とCorridor Closet
Eタイプ(50㎡)内観
Eタイプバルコニー(軒天は職人仕上げ)
木造木質化を推進するプラットフォーム「KIDZUKI(キヅキ)」始動 三菱地所ホーム
端材を活用したオリジナルプロダクト
三菱地所ホームは6月14日、木造木質化を推進していく「KIDZUKI(キヅキ)」構想を始動し、同日、WEBサイトhttps://www.kidzuki.jp/を開設したと発表した。
38年間にわたって展開してきた「木」に関する建築事業を通じて蓄えた知見を生かすのが同社のミッションであるという考えのもと、幅広い分野の事業者、行政や教育機関、クリエイター、生活者がそれぞれの持つ課題とソリューションをシェアし、「木」に関する新たな共創が生まれるネットワークの形成を推進していく。
ネットワークの場として「KIDZUKI」のプラットフォームを構築し、「木質製品や建築物などの(モノ)」「ワークショップや研究など(コト)」「木造木質化の活性化による社会貢献の(イミ)」を創出する。
WEBサイトでは、木に関する特集記事や連載コラム、取材記事、プロジェクトの進捗などを公開していく。
具体的な取り組みとして、同社とカリモク家具、石巻工房、三菱地所住宅加工センターがコラボし、第1弾としてトラフ建築設計事務所・鈴野浩一氏によるデザインの国産材(端材)を利用したオリジナルプロダクトを制作、同社の新オフィスに設置する。
このほか、玉川大学芸術学部との産学連携で木製プロダクトを活用した地域の賑わい創出に取り組み、駅前商店街の過疎化、空家問題など地域・社会課題を抱えている静岡県菊川市を舞台にしたプロジェクトを始動させる。
同社はまた、「CO2排出量削減戦略」を策定し、建設時、居住時、修繕/廃棄時における CO2排出量を2030年度までに2019年度比で60%削減し、2050年までにネットゼロを達成することを目指すと発表した。
発表会に臨んだ同社・加藤博文社長は、「ウクライナ問題、円安の進行により足元の事業環境は不透明感を増しており、リフォームは順調に推移しているが、注文住宅は足踏み状態が続いている。『KIDZUKI(キヅキ)』は、若手が中心となって検討を重ね、〝Discover Your Life〟〝すべての人生を建てよう〟をスローガンに当社の新たなミッションとして打ち出したもの。ネットワークを築いて木に関するリーディングカンパニーを目指していく。今日ほど木質にスポットライトが当たったことはなく、大きなうねりを感じる」などと語った。
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発表会場となった三菱地所が運営するサードプレイス「3×3 Lab Future(さんさんらぼ フューチャー)」には、鈴野氏がデザインしたプロダクトも公開された。
仲間との語らいに最適だと思ったのは、平均台に似た作品だ。大人二人なら持ち運びもできる。テレビ台やテーブルは重さが百数十キロあり、一般家庭に採用されるには運送コストも含め課題もあると思ったが、公共機関や企業向けなら採用できそうだ。
鈴野氏
コンセプトはウェルビーイング 積水ハウス&マリオット「ウェスティンホテル横浜」
「ウェスティンホテル横浜」
積水ハウスとマリオット・インターナショナルは6月13日、国内6軒目となる「ウェスティン」ブランドのホテル「ウェスティンホテル横浜」を開業した。同日、記者レクチャー・内覧会を実施、積水ハウス仲井嘉浩社長、日本・グァムエリアを統轄するマリオット・インターナショナルのカール・ハドソン氏が開業の経緯や今後の展望などについて語り、黒岩祐治神奈川県知事も祝辞を述べた。当日はメディア、関係者ら約130人が参加した。
「ウェスティンホテル横浜」は、心身ともに健康な状態であることを表す”ウェルビーイング”をコンセプトに「Sleep Well(よく眠る)、Eat Well(よく食べる)、Move Well(よく動く)、Feel Well(気分よく)、Work Well(よく働く)、Play Well(よく遊ぶ)」の6つのウェルネスを軸に据え、屋内温水プールやフィットネススタジオ、スパなどを兼ね備えた1千㎡超の広さを誇る「総合ウェルネスフロア」を併設。
また、「ペットボトルゼロ」を実現するために、最先端の浄水システムを導入した瓶詰め施設を設置するほか、レストラン、バーなどで使用する食材は極力神奈川県産材にするなどSDGsの課題解決に取り組んでいく。
内覧会に臨んだ積水ハウス・仲井社長は「弊社とマリオット様との取り組みは2010年開業のセントレジス大阪を皮切りに、ザ・リッツ・カールトン京都やW大阪などのラグジュアリーホテル、また、Trip Base 道の駅プロジェクトなど全国で23施設2,930室を展開、今回で24施設目となる。ウェルビーイングというラグジュアリーとは異なった、サービスアパートメントを併設したユニークな複合施設」などと語った。
マリオットのカール氏は、競合関係や今後の見通しについてのメディアの質問に対し、「マネージメントカンパニーとしてコロナ禍を一定程度乗り越えてきた。(コンセプトに)独自性があるし、国内外の多様なニーズに応えられる」と話した。
黒岩知事は、「コンセプトのウェルビーイングは県が推進する『未病対策』に近く、ペットボトルの削減や電力の使用を極力抑え、食材は地産地消を目指す取り組みはわが国のSDGsの全国最先端都市と自負する県や横浜市にふさわしいシンボル」などとエールを送った。
施設は、みなとみらい線みなとみらい駅から徒歩6分、横浜市西区みなとみらい4丁目に位置する23階建て、客室数373室(13〜22 階部)。客室面積は42~210㎡。付帯施設はレストラン、バンケット、ウェディング、チャペル、ミーティングルーム、スパ、 プール、フィットネスなど。設計は日本設計。施工は竹中工務店。
6階から12階に併設されている「The Apartment Bay YOKOHAMA」は、客室数201室。客室面積は41~152㎡。月額賃料は36~168万円。室内設備は家具、家電、リネン類、食器、調理器具など。ウェスティンホテルの朝食、ルームサービス、フィットネス&スパが利用できる。すでに100件の申し込みがあり、30件が入居済み。積水ハウスが所有し、ケン・コーポレーションが運営する。
テープカット
左から仲井氏、カール氏、黒岩氏
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〝ザ・リッツ・カールトン〟もそうだが、〝ウェスティン〟(東京)はもっとも好きなホテルの一つだ。どんな素晴らしいホテルが完成したのかわくわくしながら見学したのだが、正直に言って拍子抜けした。5階までの外観は「クルーズ船」をイメージしたもので美しいのだが、内観は同ブランドの「恵比寿」や「京都」でも「さくらタワー」でも「シェラトン」でもなかった。
気になったのは、床や壁、建具・家具類が本物の「木」ではなくシート張りが目立ったことだ。記者はコンクリも鉄もその他ケミカル製品も美しいとは思うが、「木」を現すならやはり本物の木を使ってほしかった。今回のテーマがウェルビーイングやSDGsなのだからなおさらだ。
本物の木の現しは経年劣化や維持管理コストがかさむのは分かるが、わが国は「風情」を重視する文化、美意識がある。積水ハウスも「経年美化」を掲げているではないか。
さらに残念なのは、内覧会で同じ組の10人くらいの記者の方は案内者の説明にメモを取ることなどなく、6,000円以上もするスイートセットにはくぎ付けになったのに、シート張りにはほとんど関心を示さなかったことだ。何を美しいと見るかは人それぞれだが、自然の木の年輪、文様、節が美しいと小生は思う。人間も同じだ。素顔、素肌を覆い隠す厚化粧の女性のどこが美しいのか。
エントランス
エスカレータホール
4階宴会・会議場
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とはいえ、コンセプトに掲げる”ウェルビーイング”は申し分なく発揮されていると思った。天井高約5mの23階のレセプション・ラウンジは最高に素晴らしいし、同じフロアのバー、宴会場のほか1.3×20mのプール、スパ(小生はその価値は分からないが)、ウェスティンガーデン、クラブラウンジなどもよかったし、フィットネススタジオに備えられている器具は高価なTECHNOGYM製だった。客室のHeayenly®Bedは初めて見た。
もう一つ、「The Apartment Bay YOKOHAMA」もなかなかいい。デザインは日本設計が監修したそうで、1階のロビー・ラウンジがとてもいい。宿泊料金は44㎡で42万円(坪単価約3.1万円)の宿泊料金はずいぶん高いと思ったが、すでに100件の申し込みがあり、うち30件は入居済みというのには驚いた。料金はオークウッド並みと聞いた。
バーのメニューが面白い。県内の市町村をモチーフにしたカクテルは、例えば小田原市は「アンパン食べ歩き」(2,000円)だ。グラスワインは安くない。最低で2,000円、高いものは2,700円だ(記者がはまっているあるホテルの白のグラスワインは380円)。
温水プール
スイート客室
ロビーラウンジ
フィットネススタジオ
チャペル
全分譲マンション・戸建てに「ROOV(ルーブ)」導入 野村不 DX化を強化
野村不動産は6月9日、全国の分譲マンション・戸建て「プラウド」シリーズに、スタイルポートが開発した3Dコミュニケーションプラットフォーム「ROOV(ルーブ)」を導入し、DX化を強化していくと発表した。
同社は2020年春から物件ごとのオンライン接客をスタートし、2021年9月には首都圏の「プラウド」全物件の情報をまとめて紹介する「プラウドオンラインサロン」を開始。これまで月間約1,000件の利用があるという。
「ROOV」は2019年4月、スタイルポートが開発・サービスを開始したもので、スマートフォンやパソコンのインターネットブラウザで「いつでも」「どこでも」「かんたんに」3DCGの空間を自由に動き回り、様々なシミュレーションで住み方のイメージを確認できるクラウドサービス。これまで約3年で80社、350プロジェクトを超える販売現場で利用されている。
スタイルポートによると、同種のサービスを提供している企業の採用件数は年間数件で、ウォークスルーの3DCG VR内覧を擁する住宅販売のオンライン型接客/商談システムを提供している企業は現状では同社のみという。
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「ROOV」の採用実績が3年間で80社、350プロジェクトというのに驚いた。80社というのは、主だった分譲マンション・戸建てデベロッパーをほぼカバーしているということだ。
記者はモデルルーム見学を基本としているので「ROOV」なるものをよく知らないのだが、自らの記事で検索したら2件ヒットした。検討する住戸からの眺望が確認できるのは素晴らしいと思うが、リアルにはかなわない。これが最大の課題だと思うし、各デベロッパーは基本性能・設備仕様レベルが高いのか低いのかも分かるような物件ホームページにするべきだ。(みんなが「ROOV」を採用したら、差別化はできないではないか)
DX化の取り組みには大賛成だ。2021年6月、JR西日本プロパティーズ(Jプロ)「プレディアあざみ野」を取材したとき、販売代理の野村不動産ソリューションズ プロジェクト営業本部住宅販売一部専任課長・石川広勝氏は「モデルルームでの顧客対応は一般的に3~4時間かかるが、コロナ禍でオンライン商談を導入した結果、1回目のプロジェクト説明会と、それ以降の個別相談会を実施し、価格情報も当初の段階で伝えていることなどから商談時間を大幅に短縮できている。それが歩留まり率(約3割)のアップにつながっている」と語っている。顧客もそうだが、販売スタッフの労働時間短縮、その他販売経費の削減にもつながる。
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野村不動産は、営業担当者の業務効率化に関して、記者の質問に次のように答えている。
①営業ツールの修正・削除・入替作業が軽減される⇒従前の紙資料やデスクトップ保存ツールの場合は接客卓1卓1卓での紙差替え、データ差替えが必要だったが、ROOVでは管理IDで一括修正・削除・入替が可能となり、これにより業務効率化のみではなく、古い情報をお届けするリスクも軽減される。
②営業時のツール取り出しが容易となる⇒同一プラットフォーム上での管理の為、ツールの取り出しが容易となる。
③新たな現場を担当する際の営業習熟を早期に図ることができる⇒こちらも同一の仕様とすることで現場ごとで異なる格納形式ではなくなり、どこにどのようなツールがあるのかが判別しやすく、操作性も同一の為早期キャッチアップが可能となる。
④完売後、キャンセル住戸発生時の再販売時の再稼働が効率化される⇒完売後、新たにツールを揃える必要がありましたが、プラットフォームを再立上げするのみとなり業務効率となる。
⑤お客様への資料送付(共有)が効率化される⇒シェア機能で共有したいファイルに☑をいれてURLを発行するのみとなるので、重いデータを分けて送ることなどの手間が省け、お客様もみやすい形での共有が可能となる。
AIアバターの能力は高いが宅建士との差は歴然 「東急リバブル・銀座サロン」見学(2022/6/2)
「見事」「素晴らしい」監査員弁護士 女性陳述を絶賛 街路樹伐採 住民監査請求
伐採された神田警察通りのイチョウ(伐採1か月半でこれほどのひこばえが生えている。健全である証拠)
千代田区議会が「神田警察通り二期自転車通行環境整備工事」議案を議決し、工事業者と交わした請負契約は地方自治法違反であるから工事を中止し、公金支出を差し止めるよう求めた住民監査請求に関する意見陳述が6月10日行われ、整備エリアに住む請求人の女性(25)が約30分にわたって議決には瑕疵があり、議決は無効と訴えた。監査員の野本俊輔弁護士は「見事な意見陳述。これまで(意見陳述を)何件も担当してきたが素晴らしい」と絶賛した。
この問題については4月21日付で、「神田警察通りの街路樹を守る会」の住民ら20人が工事契約は違法として監査請求を行っている。今回の請求人は一人で、5月16日付で受理された。審査結果はそれぞれ受理された翌日から60日以内に出されることになっている。
以下、今回の意見陳述全文を紹介する。
整備済みのⅠ1期区間(左=建物は共立女子大)とⅡ期整備区間の歩道
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本監査請求の趣旨は、樋口高顕千代田区長が2021年10月14日、「神田警察通り二期自転車通行環境整備工事」のために大林道路株式会社との間で締結した工事請負契約が無効な議決に基づく違法な契約であるという点です。
街路樹を伐採しての道路整備工事に関し、千代田区は「千代田区議会で議決された」と主張しています。しかし、議会における議決の判断の基となる議案の説明は正確さを欠くのみならず、虚偽の内容もありました。そのもとに行われた議会の議決は住民の意思を反映したものとは言えず、後述します地方自治法96条1項5号の趣旨に反しており、無効であります。よって、その無効な議決に基づく工事契約は違法であり、樋口高顕千代田区長及び印出井一美環境まちづくり部長は本件の既払金を区に返還すべきです。また、違法な本契約に基づく工事は中止すべきであり、本件の残代金支払いに関する公金支出を差し止めるべきです。監査委員の皆様には、地方自治法242条4項に基づき、区に対し神田警察通りのイチョウ伐採行為の停止勧告を行って頂きたく、本日意見陳述させて頂きます。
(ガイドライン変更の件)
2011年、諸々の更新を経て最終的には2013年に策定された「神田警察通り沿道賑わいガイドライン」には、「豊かに育った既存のイチョウ並木の保全・活用」との記載があり、当初伐採の計画はありませんでした。しかし、2020年12月、区は計画を一転して伐採方針を決定しました。「附属機関等の設置及び運営並びに会議等の公開に関する基準」、「意見公募手続要綱」、「参画・協働のガイドライン」には、「区民にとって重要な政策決定等の際には、住民へのアンケート、意見交換会、懇談会、パブリックコメント(意見公募)、住民説明会を実施すること」とあります。しかし区はこの計画変更に関し、議会からの指摘で、後述するアンケートを実施したのみで、議事録の公開もパブリックコメントを実施することも一切しませんでした。伐採方針決定の9か月後である2021年9月になってようやく区はガイドラインを修正しました。しかし、その修正は「豊かに育った既存の街路樹を活用する(白山通りのプラタナス・共立女子前のイチョウなど)」との記載から「など」を削除するといった、一般には容易にわからないような微々たる修正でした。地方自治に詳しい神奈川大の幸田雅治教授の言葉をお借りすれば「子供だまし」のような手法です。その他、HP上に「既存の街路樹を伐採または移植し、ヨウコウザクラを植える」と1行記載したのみで、高齢者が多い町にも関わらず、区の広報誌への掲載や住民に対する説明会の開催等はまったくありませんでした。これについて区は「足らざるものがあった」と述べており、また「ガイドラインを変えるなら、方針を決める前に堂々と説明すべきだ」との区議会議員の指摘に対しても、「プロセスが適切でなかった」と非を認めています。
(沿道整備協議会の件)
多くの住民が街路樹の伐採について知ったのは2021年12月です。印出井部長は「検討にあたっては幅広く地域の実情に通じる方々にご参画いただきながら10年以上にわたって議論してきた」(事実証拠9号)と主張しています。しかし、協議会は町会長等特定少数の、それも男性のみから構成される会です。町会は区が期待するような機能は果たしておらず、町会長から住民に周知されることもありませんでした。さらに、その協議会の議事録も一切公開されることはありませんでした。つまり伐採は、区や町会長など一部の人のみで決定したものと言わざるを得ず、「幅広く地域の実情に通じる方々にご参画いただきながら」との主張に反しています。
(アンケートの件)
前述のとおり、区は伐採方針を決定するにあたり、2019年12月に「神田警察通りの整備に関するアンケート」を実施しています。しかし、このアンケートにも多くの瑕疵が見受けられます。まず、沿道住民でもアンケートを受け取っていない家庭が多数存在すること。現に私は、神田警察通り二期区間からわずか30秒程の所に住んでいます。家族は戦前からこの地に住み、店を営んでおりました。しかし、そのようなアンケートは見たこともありません。二点目に、アンケートの回答率がわずか14.5%であるという点です。この数字を民意とするには明らかに不十分です。わざわざ年末の忙しい時期にアンケートを実施したようですが、この回答率を見て、違う時期にやり直すなど回答率を上げる方法はいくらでもあったはずです。次に設問が伐採肯定へ誘導するような内容である点です。アンケートの問8を例に取ると、「神田警察通りの街路樹について、どのように考えますか」との設問に対し、用意された選択肢は①「今のままでいい」、②「植替えを含め課題解決してほしい」、③「どちらとも言えない」の3つでした。最も回答者が多いと予想される「課題解決してほしい」の選択肢にわざわざ「植替えを含め」というワードを絡めており、植替えが容認されているような印象を与えます。これは例えば「保存したまま課題解決してほしい」と「植替えて課題解決してほしい」といった選択肢に分けるべきです。さらにこのアンケートが実施されたのは2019年12月ですが、一年前の2018年12月に開催された第14回沿道協議会において、須貝基盤整備計画担当課長は「二期区間の計画案では、現状の街路樹を現在の位置に残すことはできない」と発言しています。つまり、この時点で区は伐採を決めており、その後実施された本アンケートは伐採ありきで実施されていたことを示しています。以上の理由から、本アンケートは極めて妥当性を欠くものであったと言えます。
(専門家の意見を聞いたという件)
さらに、区は区議会からの申し入れを受け、街路樹の専門家4名に聞き取りを行いました。その4名の意見をまとめた文書を作成し、2020年12月25日の企画総務委員会で配布しました。しかし、その資料において、4名の専門家の実名が伏せられた上、イチョウの保存を優先すべきとした藤井千葉大学名誉教授の意見が、本人の確認を経ないまま異なる要約をされて、伐採に賛成する意見のように記載されていました。これに関しては、藤井教授から「聞き取りを元に区が作成した書面を事前に確認できず、自分の意見が正確に伝わらなかった」との訴えが上がっています。この事実における問題点は主に3点、まずこのような聞き取りを区議会からの申し入れを受けて初めて行ったこと、次に区の考えにあった意見を恣意的に選択し、施策の根拠づけとして利用したこと、そして政策決定に関わるようなケースでは、どの専門家がどのような発言をしたのか行政は公表する責任があるにも関わらず、専門家の実名を伏せて記載したことです。
(96条の趣旨について)
地方自治法96条1項5号の趣旨は、契約の締結が住民の代表である議員の意思に基づき適正に行われることを担保することにあります。平成16年6月1日最高裁第3小法廷判決によれば、議会の議決を経ない契約は違法とされています。つまり、住民の意思に基づく議決が必要であるとしているのです。これまで述べてきたとおり、本件の工事契約の締結に関する議決にあたり、区は「参画・協働のガイドライン」や「道路整備方針」において自ら定めた住民合意の手続きをも無視し、虚偽ないし不正確な説明を繰り返し行ってきました。そして議会はこれらの事実に反する説明に基づき議決を行いました。議決を経ない契約も、議員が議案に賛成するか反対するかを判断する前提となる事実関係について虚偽ないし不正確な説明がなされた議決を経た契約も、議決の前提となる根拠を欠く点においては同様です。したがって、後者の議決は形式的には存在していたとしても、前述の地方自治法96条1項5号の趣旨を類推適用するならば、当該契約も無効となるべきです。
(判例について)
広島地裁の判例(昭和46年5月20日)ですが、ごみ・し尿処理場の建設工事の差し止めを求めた仮処分について、地方自治体として地元側の意見を十分聴取したかや、補償措置や公害監視体制についても話し合ったのかなどを考慮して、地裁は差し止めを肯定しました。その広島地裁判決に照らしても、イチョウの保存を求める地元住民の声を聞かず、伐採を求める側の声のみを取り上げる行為は自治体としてあるまじき姿です。
(設計変更のガイドラインについて)
区が制定した「工事請負契約における設計変更手続ガイドライン」および「工事請負契約における設計変更手続マニュアル」によれば、設計図書に定められた着手時期に請負者の責によらず施工できない場合、地元調整等請負者の責によらないトラブルが生じた場合には、区は約款第19条に基づき工事を一時中止とすることになっています。着工予定日であった4月25日以来、連夜多数の住民がイチョウに寄り添い、4月27日未明に伐採された2本を除いて請負者である大林道路が伐採に取り掛かれないという事態は、まさに前述ガイドラインおよびマニュアルに記載の「請負者の責によらない地元調整が必要なトラブル」にほかならず、この点に照らしても区は二期区間のイチョウ伐採を中止しなければなりません。
(話し合いについて)
一期区間はイチョウを残しての整備となりましたが、歩道は十分広く、根上がりも解消されて、素晴らしい仕上がりとなりました。私たちは当然二期も同様にイチョウを残しての整備が行われるものと信じて疑いませんでした。一期でできたことがなぜ二期ではできないのか、論理的な説明は一切ありません。伐採を知って以降、私たちは幾多もの要望書や陳情を出し続けていますが、すべて棄却されています。今年4月に伐採推進派と反対派住民数名での話し合いが一度だけ設けられましたが、このときも推進派が「これ以上の話し合いは平行線である」として一方的に話し合いを打ち切り、退席しました。そして、区はその後の話し合いを打ち切りました。それ以降、私たちが話し合いを求めても拒否され続けています。区長や区職員に説明を求めても、「議会で議決されたことであり今更変えられない」の一点張りで私たちが納得できる説明は一切頂けていません。区長に手紙を書いた住民もいますが、区長は一度も現場に足を運んではくださいません。現場を見に来てほしいとの声に対しては、区長もまた「行ったところで議決されたものは変わらない」と仰いました。「議会で議決された」と仰いますが、私たちが伐採について知らされたのは議決された後ですから、それまで伐採に反対することもできなかったのです。私たちにとっては「今更」でも何でもありません。
(イチョウの価値について)
「イチョウは落ち葉の問題がある、根上がりする、銀杏が落ちる」などと言われます。しかし、根上がりと落ち葉の問題はイチョウ同様に桜にもあります。また桜は毛虫の他、ブルーベリーのような黒い実を落とします。通行人がそれを踏み、実際に地面が非常に汚れているところもあります。私たちは決して桜を否定したいのではなく、イチョウの抱える問題は他の街路樹でも同様にあるということをご理解頂きたいのです。桜を植えることによって賑わいのあるまちづくりを行いたいとの趣旨は伺いました。しかし、イチョウは東京都のシンボルでもあります。靖国神社、神宮外苑などにもイチョウ並木があり、まちの賑わいの元になっています。これらの景観は一朝一夕に作られたものではなく、歴史を感じられるものです。そのようなイチョウは「歴史・学術ゾーンにある」神田警察通りにふさわしく、また一期区間との景観の連続性を保つこともできます。
(幅員2mの件)
区はイチョウの木を伐採する理由として、イチョウの木があると2mの幅員が取れないことを主張しています。しかし、2mの幅員が必要であるという主張の論拠は不十分です。道路構造令には確かに幅員2mとの記載があります。一方、「当該道路の歩行者の交通の状況を考慮して定めるものとする」ともあります。国土交通省に確認したところ、「自治体がその状況により柔軟に対応できる」との回答を得ました。実際に一期区間でも2mの幅員を確保できていない部分があります。このことこそが2mが必須ではないことを証明しています。昼間人口の多い千代田区とは言え、渋谷のスクランブル交差点のような交通量があるわけでもありません。特に神田警察通りの周辺は、人通りが少なく、落ち着いた場所です。ここまでの反対を押し切って、必須ではない2mを必ずしも確保する必要性はありません。また、須貝課長はテレビの取材に対し、パーキングメーターの設置を理由に、イチョウがあると幅員が取れないと仰いました。しかし図面を見ると、パーキングメーターが現在のイチョウの木と被る箇所はごくわずかです。さらに、二期区間はおよそ250mです。歩道の両側を合わせると500mで、その500mの歩道に今回議論になっているイチョウの木32本を並べたとします。区の作成した資料(第17回神田警察通り沿道整備推進協議会(資料2)神田警察通り沿道地域のまちづくり)によると、イチョウの直径は周りに設けるマスも含め1本あたり90cmですので、32本に90cmをかけると2,880cmです。つまり、イチョウの木があるために2mの幅員が確保できないのは、500mのうちのわずか5.8%に値する約29mです。その全体のわずか5.8%の区間のために、健康なイチョウが伐採されようとしているのです。伐採を正当化する理由が全て論拠不十分であり、私たちは納得できません。
(車椅子の方の件)
その他、区は幅員2mの根拠として「車椅子がすれ違うことができないから」と主張しています。しかし、車椅子利用者の方は「仮にすれ違うことがあっても暗黙の了解で譲り合う」と仰っています。また、「自分たちは他の人よりも地面に近いため、夏の暑さを感じやすく、街路樹はオアシスのような存在であり、日陰を求めて走っている」、「大きな街路樹は非常に安心感が持てるから残してほしい」とまで仰い、陳情も出されています。実際の車椅子利用者が「幅員よりも緑陰が必要だ」と仰っているのです。しかし区は、車椅子利用者やベビーカーのためのバリアフリーを謳っているにも関わらず、そういった生の声さえも無視してきました。
(緑陰と路面温度の件)
緑陰と路面温度の関係性については、前述の藤井教授の著書に「街路樹の木陰では路面温度が約20度も低くなる」とあります。実際に一期区間である共立前と二期区間において、太陽の当たる部分と、緑陰により日陰となっている部分の路面温度を比較したデータがありますので、追加資料2の最後のページをご参照頂ければと思います。気温が31度とまだそこまで高くない日でも、地面の材質によって最大で16.2度の差が観測されました。どの場所、どの材質の路面で計測するかで差は生じますが、最低でも10度温度を下げる効果が期待できます。またさらに暑くなる真夏には、緑陰の効果もより大きくなると予想され、ヒートアイランド現象の抑止にも効果があると言われています。一方のヨウコウザクラは小ぶりで、かつ上に向かって箒状に伸びることもあり、イチョウの木と比較すると緑陰の効果を期待できません。
毎晩木守りをしている中でUber Eatsの方に声をかけられた住民がいました。そのUber Eatsの方はいつも自転車で配送をしていて、「自分は遠回りをしてでも木陰を求めて走っている。是非ともイチョウの木を残すべく頑張って頂きたい」と応援してくださいました。私たちは、暑い日は木陰を探して歩くことが当たり前になっていて、日々緑陰の恩恵を受けていることなど意識していないと思います。実際、私もそうでした。しかし、車椅子の方々や配送業などの仕事をされている方々にとっては死活問題であり、大きな街路樹の存在が非常に重要なのだと痛感しました。ベビーカーに乗る赤ちゃんや、裸足で歩く動物たちはそういった声を上げることができません。だからこそ車椅子利用者の生の声は本件において重要な勘案要素であり、私たちがそういった声を無視してはいけないと思います。
(イチョウは区の大切な財産である件)
イチョウは区の貴重な財産です。区は、神田警察通りのイチョウの文化価値、保存の可否、保存する場合と伐採してヨウコウザクラ等別の樹種に植替える場合との経費の比較、景観や緑陰形成や防災に寄与する程度の比較等について十分調査せず、実現可能な保存案があるか否かも十分検討しないままイチョウを伐採しようとしています。このような状況は、区長として負っている区の財産の管理方法や効率的な運用方法として適切さを欠いていると言わざるを得ず、地方財政法8条に定める財産の管理及び運用の趣旨にも反しています。
(地方自治法242条4項について)
また、地方自治法242条4項には、「当該行為により当該普通地方公共団体に生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、当該行為を停止することによって人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害する恐れがないと認めるときは、監査委員は、当該普通地方公共団体の長、その他の執行機関又は職員に対し、理由を付して次項の手続きが終了するまでの間、当該行為を停止すべきことを勧告することができる」とあります。
(まとめ)
イチョウの伐採は区に生ずる回復困難な損害を避けるための緊急の必要はなく、また伐採の中止によって人の生命又は身体に対する重大な危害が発生、その他公共の福祉を著しく阻害する恐れがないことは明らかです。それどころか、高齢者を含む住民が、雨の日も寒い日も1日も欠かさず夜を徹して外で座り込みをするといった異常な状態が1ヶ月半続いており、「伐採を中止しないこと」が人の生命又は身体に対する重大な危害を発生させる恐れがあります。家の中で冷房をつけていても熱中症の危険性が訴えられる今日において、これからやってくる暑い日々に空調設備のない外で座り続けることの危険性は明白です。私たちが勝手にやっていることと言われればそれまでですが、そうせざるを得ない状況を作り出しているのは千代田区であることをご理解頂きたいと思います。
また、4月27日の深夜、大林道路の職員は私たちの目の前で無残にもイチョウを切り落としました。私たちはその間、区職員と警察に囲まれ、木に近づくことができませんでした。あの日の光景がトラウマとなり、一ヶ月以上が経った今でも工事車両を見ると手が震えます。伐採の瞬間の動画を見れば、胸が締め付けられ苦しくなります。工事をするはずのない日中でさえ、バイクの音がチェーンソーの音に聞こえ、現場に行って木の無事を確認せずにはいられません。もちろん仕事にも支障をきたしています。先ほど述べた、夏の暑さを感じやすい車椅子利用者の方の意見も然り、「イチョウを伐採しないことによる危険性」だけでなく、「イチョウを伐採することによる危険性」も考慮すべきです。
私は千代田区に生まれ育ち、これまで神田っ子として自分の故郷に誇りを持って生きてきました。神田祭は二年に一度の楽しみであり、生き甲斐でした。しかし、伐採に反対することは同時に、伐採を推進する町会長が治める町会を脱退しなくてはいけないことを意味していました。もちろん神田祭に出ることも許されません。神田っ子にとって神田祭は本当に大切な行事であり、それに出られない、自分の町会の神輿を担げないということを受け入れるには相当な覚悟が必要でした。そもそも町会云々、祭云々以前に、伐採推進派である町会長たちはご近所として私が生まれる何十年も前から家族ぐるみで付き合いのある方たちで、私のことはもちろん赤ん坊の時から知っているような方たちです。私も親のように慕っていたので、このような形で縁を切らざるを得なかったことを非常に残念に思います。これも千代田区が生んだ地域の分断です。千代田区環境まちづくり部は、環境とまちを壊しただけでなく、私たち住民の関係性も、心も全てを壊しました。これ以上大切な故郷を壊されるのは許せません。どうか私たちの声を聴いて頂けないでしょうか。私は一人になっても最後まで闘う覚悟です。
◇ ◆ ◇
みなさん、いかがか。陳述文は約8,200字、話したのは30分間だから、1分間で約270字。〝話すのは1分に300字〟という理想に近い長さだ。読んでいただければ、なぜ野本弁護士が絶賛されたか分かるはずだ。議決が地方自治法に違反するのか適法なのかはともかく、意見陳述は論旨にずれが全くなく、自らの言葉で語りかけたのが野本弁護士を感動させたのだろう。
記者も同じだ。今回の問題で意見陳述を傍聴するのは、1つ目の住民監査請求の陳述があった5月16日に続き2度目だ。前回では、代理人弁護士のほか6名の方が陳述された。今回は女性の方のみだった。この方には5月8日の夜にもお会いし、話を聞き、その後、メールでやり取りをしているのだが、25歳というのは初めて知った。
〝大丈夫か〟と正直思った。聴くのは百戦錬磨の奸智に長けた(失礼)弁護士や区議の3人だ。揚げ足を取ることなど朝飯前ではないかと心配しながら、女性を真横から見つめる位置に陣取った。彼女は背筋をまっすぐ伸ばし両足をきちんと揃え、用意した原稿を読みながら話し出した。緊張しているのか、言語は明瞭だが声は小さかった(記者はやや耳が遠くなってはいるが)。
ところが、どうだ。「議会の議決の判断となる議案は正確さを欠き、虚偽の内容もあり、地方自治法96条1項5号違反で、議決は違法。よって工事は中止し、公金支出を差し止めるべき」と真正面から切り込み、次々と十数項目の〝瑕疵〟をよどみなく指摘したではないか。
そして、「私は一人になっても最後まで戦う覚悟です」と締めくくったのには、グサリと肺腑をえぐられたような気がした。お前は〝街路樹の味方〟などと公言するのに、何かにつけ逃げているばかりではないかと。と同時に、ジョン・グリシャムの法廷小説を読んでいるような錯覚にとらわれ、大げさに言えば21世紀のジャンヌ・ダルクかローザ・ルクセンブルグではないかと。
後で聞いて、彼女はそんな闘士でないことも分かった。小さいころは「人前に出るのが嫌い」だったそうで、法律を勉強したことはなく、陳述中はずっと足が震えていたと話した(決してそうは見えなかったが)。陳述文は何度も予行演習を行い、その都度悔しくて泣いたという。傍で聞いた母親もまたもらい泣きしたそうだ。
緑陰と路面温度について語った場面にははっとさせられた。もちろん記者も、真夏の炎天下の土やコンクリの地表温度は50~60度に達し、日陰や芝生面は30度台にとどまっているのはよく知っている。しかし、ベビーカーの赤ちゃんや、裸足で歩く動物たちにまで思いを馳せることなどなかった。何と心優しい方か。樋口千代田区長はいかがか。胸を突かれるではないか。
女性はまた、上意下達の「行政下請け」機関と化している町内会組織の実態を「協議会は町会長等特定少数の、それも男性のみから構成される会です」とチクリ(痛烈か)と皮肉る。これだけでも「協議会」が役割・機能を果たしていないことを明らかにしている。
イチョウが口を聞けたら、きっと次のように話すはずだ。「道路の附属物としてぞんざいに扱われ、都合が悪いと『枯損木』として殺処分されようとしている神田警察通りの私たちだけでなく、千代田区の約5千本の街路樹、更には都内の約101万本、全国の約14,770万本の道路緑化樹木に希望の光と風を送り込むことになりました。感謝申し上げる」と。
樋口区長と区職員の方には論語の「過ちて改めざる、之を過ちと謂う」の意味を考えていただきたい。そして、街路樹担当の全ての関係者には、この意見陳述文をバイブルにしていただきたい。これを読めば街路樹を含む道路整備事業は一変するはずだ。だから全文を紹介した。
都道・本郷通りの見事なイチョウの街路樹(神田美土代町付近)
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