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中島氏

2023年は、新型コロナウイルス感染症の5類引き下げや物価上昇に対応する高水準な賃上げなどにより、停滞していた経済活動が正常化に向かい、デフレ脱却への兆しが見える一年となった。中東情勢の混乱や中国の経済不調等、世界的な先行きの不透感は強まる一方ではあるが、人々の価値観や事業環境の変化を中長期的に捉えながら、社会全体で着実に成長し、経済の好循環を生んでいくことが必要となる。

訪日外国人客数は、昨年より堅調に回復し、今年はコロナ禍前の水準を超える見通しだ。当社は、20242月に「ザ ロイヤルパークホテル アイコニック 名古屋」、8 月に「ローズウッド宮古島」の開業を予定しており、インバウンド需要を積極的に取り込んでいきたい。

また、今年9月には大阪駅前で進める「グラングリーン大阪」のまちびらきを予定している。コロナを経て、街にどのように付加価値をつけていくかがさらに重要になった。大型都市公園を含む新たなエリアマネジメントを行い、多様なステークホルダーと共に、持続的にイノベーションが生まれる街づくりにチャレンジしていく。

長期経営計画2030では、株主価値向上と社会価値向上を戦略の両輪としているが、次世代以降に貢献できるサステナブルな街づくりという観点をこれまで以上に重視して取り組んでいく。脱炭素社会の実現に向けては、「三菱地所グループの Sustainable Development Goals 2030」の達成を目指し、エネルギー価格の高騰や物価上昇の中でも、グループ一丸となり達成へ向けて着実に歩みを進めてきた。2015年に国連で採択された SDGs2030の後半戦に突入しており、この歩みは止めない。また、人権、ダイバーシティ、ウェルネス等社会的な要請をより強く意識し、一つ一つの取り組みを面で繋げ、サステナブルな社会の構築に寄与したい。

昨年はラグビー日本代表が戦う姿に心を動かされた。役割の異なる選手達が一つの目標に向かって団結して取り組む姿は、不動産デベロッパーが目指す姿と同じだ。我々も、社員一人ひとりが組織の垣根を越え団結し、時代を先取りする新たな「価値創造」に挑戦し続ける一年としたい。

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宮島氏

 2023年はコロナ禍で停滞した経済活動の回復が見られたものの、国際情勢の混乱や世界的なインフレが続いた。その中において分譲マンション市場は引き続き堅調であり、当社においても都心エリアでは「ザ・パークハウス 代々木大山レジデンス」や「ザ・パークハウス 高輪プレイス」、郊外でも「ザ・パークハウス 松戸」などは特に大きな反響をいただいている。

 コロナ禍を経て住まいへの関心が高まったことで、この家に住んだらどのような暮らしができるかというベネフィットを提供することが重要になってきた。地球環境への配慮も購入動機になっている。

 当社の商品企画においては「エコロジーでエコノミ―」であることを意識し、環境にやさしく、水道光熱費やCO2の排出量を抑えた暮らしの提案ができる住まいづくりを目指している。生物多様性保全の観点からは、地域になじみのある樹種を採用する「ビオネット・イニシアチブ」という取り組みを2015年から進め、すでに200物件以上に導入している。今後も、住むことが地球環境への貢献になるような住まいづくりを進めていく。

 2024年の住宅市場においては、資産性や住み心地だけでなく、環境や防災など住まいにおける社会的意義がますます重要になる。防災については引き続き、当社の有志社員などが組成する「三菱地所グループの防災倶楽部」を中心に、居住者や地域の皆様と防災訓練を実施し災害に備えていく。

 また、防災訓練やアフターサービス対応など引渡後の顧客接点を通じて、居住者の方々からお住まいのマンションに関する気付きの声を直接頂き、商品企画へのフィードバックを行いたい。お客様の需要の変化をつかみ取り、お客様の目的や価値観にあわせた商品を作ることで、選ばれ続けるマンションを提供していく。

 

 昨年を振り返ってみると、5月から新型コロナウイルス感染症が5類に移行し、日本においても外国人観光客が戻り始め、10月にはその数がコロナ禍前の水準を超えるなど、観光業を中心に活況を呈してきた。一方、日銀の金利政策の変更やイスラエル紛争の勃発など、外部環境が大きく変化した一年だったかと思う。

 今年はいよいよ現中期経営計画ラストイヤーである。現中期経営計画の利益目標である事業利益750億円の達成に向けて、油断は禁物ではあるが、大きな不安要素はないと考えている。

 現中期経営計画中、コロナやウクライナ情勢など、現中期経営計画策定時には予期していなかった出来事が起こり、当社グループを取り巻く環境にも大きな変化があった。環境の変化に立ち向かいながら、しっかりと積み重ねてきた努力が大きく花開く一年とするため、皆で一丸となって目標達成に向けて取り組んでいきたいと思っている。

 事業環境の面では、建築費の高騰や円安、日銀の金利政策変化が与える不動産投資市場や分譲マンション市場への影響、不動産市況の不振が長期化する中国市場など、当社グループの事業を取り巻く足元の環境変化には一層注視しなければならない。

 オフィス市場は、リアルなコミュニケーションを行う場として、オフィスの必要性や重要性を再認識する動きが継続しており、市場の先行きを極端に不安視する必要はないと考えている。

 分譲マンションの販売状況は、全般的に高価格の水準で成約しているものの、建築費の上昇を販売価格の上昇で吸収できていた環境にも変化の兆しがみられる。金利動向や物価上昇による家計の負担増による影響等も踏まえ、マーケットの変化を的確に把握するとともに、引き続き厳選投資の姿勢を崩さず、着実に事業を進めていく必要がある。

 また、今年は次期中期経営計画の具体的な検討・策定作業を実施していくことになる。足元の事業環境だけでなく、将来起こりうる環境変化の兆しに対しても役職員一人ひとりが敏感になり、当社グループが、長期ビジョンである「次世代デベロッパーへ」の実現に向けて、更なる成長を遂げるためにどうあるべきか、何に取り組んでいくべきか、しっかりと皆さんと議論を重ねていきたい。

 今年の干支は甲辰(きのえたつ)である。「甲」には草木の成長や物事の始まりを表す意味があり、「辰」は力強さや成功を象徴している。「これまでの努力が報われる」「成功につながるための努力が種子の内側で育つ」年だとされている。当社グループにおいても、現中期経営計画目標の達成だけでなく、当社グループの更なる成長に向け種まきをしていく1年になるよう、コミュニケーションをしっかりと図りながら、全社一丸となって頑張ろう。

 最後になるが、当社グループの役職員の皆さんには、ご家族の健康にも気を配りつつ、自身の健康にくれぐれも注意していただき、日々の業務に励んでほしい。

 

【大京アステージ・穴吹コミュニティ】真島吉丸 写真.jpg
真島氏

 新年あけましておめでとうございます。

 昨年は新型コロナウイルス感染症が5類に移行され、社会経済活動の正常化も進み、ようやく以前の日常が戻ってきた一年となりました。コロナ禍を経て、私たちの事業は生活基盤を担う社会インフラの一つとして「なくてはならない存在」であることを改めて実感いたしました。

 当社では昨年3月に、管理組合の総会への出欠連絡、出席、議決権行使までを一つのアプリ上で完結し、一元的に集計できる業界初のサービス「POCKET HOME」の運用を開始いたしました。本年は、オンライン併用型の総会をはじめとする本アプリの本格展開に一層力を入れ、デジタル化をさらに促進してまいります。

 また、昨年は社内における価値観の共有を目的に、二社の羅針盤となる「Mission(ミッション)・vision(ビション)・value(バリュー)」を策定いたしました。今後もお客さまのご要望やお困りごとに真摯に向き合い、質の高いサービスを提供することで、お客さまにとって「今がいちばん」の暮らしがずっと続く、確かなマンション管理を目指してまいります。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

【オリックス・ホテルマネジメント】似内 隆晃 写真.jpg
似内氏

新年あけましておめでとうございます。

新型コロナウイルス感染症により落ち込んでいた観光需要がようやく回復し、昨年、宿泊業界の稼働はコロナ前に迫る水準となりました。国内需要もさることながら、都市部や観光地へはインバウンド需要が急回復し、2025年に控える大阪・関西万博にかけて、インバウンド旅行客数はさらなる増加が見込まれます。当社はこの増加する観光需要に丁寧に対応し、お客さまへソフト・ハードの両面から心地よい滞在を提供し、「また、行きたい」と思っていただける施設運営に努めてまいります。

また、当社の運営する旅館、ホテル、研修施設などでは、付加価値の高いサービス提供を目的に、「日本の新しい魅力、地域ならではの体験」を創出することに注力しています。これまで、別府の立命館アジア太平洋大学との連携によるホテルイベントの開催、函館の「低利用魚」を使用した料理の提供、福岡のアーティストの個展開催、大阪の歌舞伎と文学の発展とともに道頓堀の歴史を伝える展示企画や会津の果樹園でのフルーツ狩りが付いたアドベンチャーツーリズムプランなど、さまざまな企画で地域の魅力を伝えてまいりました。今年も、こうした地域を巻き込んだ取り組みを全国の施設で進めるとともに、地域の魅力を発信してまいります。「訪れるお客さま」「地域」「当社施設」にとっての好循環を作り、日本の観光をさらに盛り上げていきたいと考えています。

観光需要が回復する一方、業界全体では人手不足が深刻化しています。当社では海外人財の積極採用を進めつつ、省人化などの取り組みにより、効率的で高品質なサービスを提供できる運営体制の構築を進めています。スタッフのマルチタスク化による業務効率の向上や、自動チェックイン機の導入など、ソフトとハードの両面の改善により、快適な滞在をお客さまにご提供してまいります。

大規模リニューアル中の「別府温泉 杉乃井ホテル」では、昨年1月にフラッグシップ棟となる「宙館」が開業し、現在は、20251月の新客室棟「星館」のグランドオープンに向けて準備を進めています。また、昨年122日には、ORIX HOTELS & RESORTSのフラッグシップ旅館ブランド「佳ら久」の二軒目となる「熱海・伊豆山 佳ら久」が開業しました。相模湾を一望できる絶景と、「佳ら久」ならではの上質なくつろぎの空間と高品質なサービスをお届けします。

 オリックスグループは、今年60周年を迎えます。昨年11月には、オリックスグループの企業理念体系を見直し、新たに「ORIX Group Purpose & Culture」を策定しました。当社は、施設運営を通じて、社会にポジティブなインパクトを生み出せるよう、新たな価値創造に挑戦してまいります。

本年も皆さまの一層のご支援ご理解を賜りますようお願い申し上げるとともに、皆さまにとりましてご多幸な1年となりますよう心よりお祈り申し上げます。

 

【オリックス不動産・大京】深谷 敏成 写真.jpg
深谷氏

 新年あけましておめでとうございます。

 日本経済は、新型コロナウイルス感染症が5類に移行し、人流の活発化により活力を取り戻しつつあります。一方で、エネルギーや原材料価格の高騰による世界的なインフレ継続や深刻化する人手不足など不透明な環境が続いています。家族の形態やお客さまの価値観が刻々と多様化する中、今まで以上に立地と商品企画にこだわったものづくりができる組織力を強化することで、お客さまの人生に新たな価値を創造してまいります。

 昨年、分譲マンションブランドを「ライオンズマンション」から「THE LIONS」へリブランドしました。従来の安心・安全で高品質な“住まい”を踏襲しつつ、洗練・上質の要素を加え、一歩先の“暮らし”を実現するブランドへと変革してまいります。住まいのニーズ、価値観が多様化する時代において、「人生には価値がある」と心の底から思っていただけるようなマンションをつくり、その住まいに関連する新しいサービスを提供してまいりたいと思います。

 また、「サステナビリティ」と「DX」は事業の品質向上につながるチャンスとなります。昨年は、分譲マンションのZEH区分最高ランクである『ZEH-M』の認定を日本で初めて受けた「ザ・ライオンズ世田谷八幡山」の開発に着手しました。引き続き、原則「ZEH-M Oriented」以上の省エネ基準を満たす仕様で開発を推進するほか、それ以上のレベルへ積極的に挑戦し、環境性能の向上を追求してまいります。「DX」のテーマでは、業務プロセスの見直しと生産性向上に向けた取り組みを加速してまいります。

 皆さまの一層のご理解とご支援をお願い申し上げるとともに、本年が皆さまにとって実り多い一年となりますよう、心より祈念申し上げます。


 

 

【オリックス不動産・大京】深谷 敏成 写真.jpg
深谷氏

 新年あけましておめでとうございます。

 日本経済は、新型コロナウイルス感染症が5類に移行し、人流の活発化により活力を取り戻しつつあります。一方で、エネルギーや原材料価格の高騰による世界的なインフレ継続や深刻化する人手不足など不透明な環境が続いています。

 昨季、オリックス・バファローズは惜しくも日本一を逃しましたが、3年連続のリーグ優勝を成し遂げました。応援いただいたすべての皆さまに感謝申し上げます。我々の各事業におきましてもチャレンジを続け、飛躍の一年にしたいと思います。

 昨年は、静岡県熱海市で開発したラグジュアリー旅館リゾート「熱海・伊豆山 佳ら久」が開業したほか、全国で計5件の物流施設が竣工しました。物流施設は、屋根に太陽光発電システムを設置し、テナント企業に再生可能エネルギーをご利用いただけるなど、環境に配慮した開発をすすめています。不動産事業における幅広い専門性とオリックスグループのネットワークを活用し、複合開発、オフィス、物流、ホテル・旅館開発など多岐にわたる事業活動を着実に行うとともに、サステナビリティ推進を加速してまいります。

 また、オリックスグループの企業理念体系が見直され、新たに「ORIX Group Purpose & Culture」が策定されました。当社は、不動産事業を通じて社会にポジティブなインパクトを生み出せるよう、新たな価値創造に挑戦していきます。不動産事業部門の「サステナビリティ推進方針」では「脱炭素化」「環境配慮」「安全・安心・快適性」「地域共生」をテーマに掲げ、施設の再エネ化や建築の環境認証の取得をはじめ、持続可能な社会に向けた活動を継続し強化してまいります。

 皆さまの一層のご理解とご支援をお願い申し上げるとともに、本年が皆さまにとって実り多い一年となりますよう、心より祈念申し上げます。

 

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芳井氏

昨年は、新型コロナウイルス感染症が5類に移行したことに伴い、社会経済活動の正常化が進んだ年となりました。一方で長らく続く資材価格の高騰をはじめ、エネルギーの供給不安や世界的なインフレ圧力による円安の影響など、依然として先行き不透明な状況が続いています。

このような中、当社グループは、第7次中期経営計画の二年目となる2024 3月期の第2四半期決算において売上高が過去最高を更新し、いよいよ5兆円を臨むところとなりました。改めて、グループ社員全員の底力を実感するとともに、心から感謝しています。

さて、2024年の年頭にあたり、皆さんにお伝えしたいことが三点あります。

 一つ目は、「2024年問題への対応」です。本年4月より、建設業にも「残業の上限規制」が適用されます。昨年から、現場で起きている厳しい職場環境の状況や、効率的な働き方に対する意見・アイデアを、社員の皆さんから直接私に寄せていただく場所を設け、また、皆さん個々の時間外労働時間の見える化も実施しています。そして建設現場においては、DXを活用した新しい働き方にも挑戦しています。4月まで待ったなしです。業務実態の把握と抜本的な対策を最優先にお願いします。仕事は一人でしているわけではありません。自分自身の時間管理はもとより、同僚のリードタイムも意識して、業務に励んでください。

二つ目は、私の今年の一文字「伸」です。長く力強く発展していく一年にしたいと思います。また、この「伸」という字が名前に入っている石橋伸康元社長は、在任中の19961999年当時から、今に通ずる先進的な取り組みを実践しており、環境貢献においても、他社よりもいち早く着手していました。そのおかげもあり2023年度には当社グループ全体での購入電力の100%再生可能エネルギー化を達成する見込みです。さらに、木造・木質建築を重点成長領域に設定し、サーキュラーエコノミーを目指すプロジェクトも始動しています。皆さん一人ひとりが自分事として環境問題を捉え、2050年のカーボンニュートラル実現に向け進んでいきましょう。

三つ目は、「新たな挑戦」です。近年、世界情勢や国内の事業環境は大きく変化を続けており、年々そのスピードを増しています。その変化を捉え、新たなチャンスとするために、当社はコーポレート・ベンチャー・キャピタルとして「大和ハウスグループ“将来の夢”ファンド」を創設しました。スタートアップ企業とともに、将来の成長の源泉となる新たな事業創出に向け、本年から本格始動します。皆さんも広い視野・視点で世の中の変化を捉え次のビジネスを創造できるよう、積極的に新たな取り組みに挑戦してください。

最後に、当社において変わらないものは創業の原点である「社会の役に立つ事業の展開」です。この創業者精神を行動の規範とし、当社グループの〝将来の夢〟(パーパス)「生きる歓びを分かち合える世界の実現」を目指して、「伸」びのある一年にしていきましょう。

 国土交通省は12月27日、令和5 年11月の新設住宅着工戸数をまとめ発表。総数は66,238戸となり、前年同月比8.5%減、6か月連続の減少となった。内訳は持屋が17,789戸(前年同月比17.3%減、24か月連続の減少)、貸家が28,275戸(同5.3%減、4か月連続の減少)、分譲住宅が19,578戸(同5.2%減、6か月連続の減少)。分譲住宅のうちマンションは7,671戸(同5.2%減、先月の増加から再びの減少)、一戸建住宅は11,835戸(同4.3%減、13か月連続の減少)。

 構造別ではプレハブは7,880戸(同20.0%減、6か月連続の減少)、ツーバイフォーは8,072戸(同2.1%減、3か月ぶりの減少)。

 令和5年1月から11月の累計では総数は755,037戸(前年同期比4.7%減)、内訳は持家207,321戸(同11.2%減)、貸家318,025戸(同0.1%減)、分譲住宅224,979戸(同4.4%減)となっている。分譲住宅の内訳はマンションが98,157(同1.9%減)、一戸建てが125,816戸(同6.1%減)。

 首都圏マンションの累計は47,065戸(同1.1%減)で、都県別では東京都が23,854戸(同11.8減)、神奈川県が13,432戸(同29.9%増)、埼玉県が5,250戸(同0.4%減)、千葉県が4,529戸(同8.2%減)。

 

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玉川上水

 今年はわが西武ライオンズの山川選手に翻弄された1年でもあった。チームは5位に終わったが、過去のことは忘れよう。来季に期待しよう。悪夢を断ち切るためにも、単純にして明快な真理-それなしには生きられない山と川、とくに「川」について考えてみた。

◇        ◆     ◇

 国土交通省が特に重要と定め指定するわが国の一級水系は109水系、一級河川は14,079本、都道府県知事が指定する二級水系は2,713本、二級河川は7,029本、市町村が指定する準用河川は14,314本となっている。全国に一級水系がないのは沖縄県のみで、政令指定都市で一級河川がないのは福岡市のみであることから分かるように、ほとんどの都市は河川流域に存在する。

 川は、安全に水を海に運び(治水)、飲料水をはじめ農林水産、工業などあらゆる産業を支え(利水)、親水・公園・リクレーションなどわれわれの生活を潤し、生物多様性にも大きな役割を果たしている。小説や音楽などの舞台になり、絵画、写真などの題材にもなる。

 記者は、かつてはアユやハヤ、カニなどが面白いように獲れた、現在でももっともきれいな川の一つとして知られる三重県の宮川・一ノ瀬川流域で生まれ育った。まずまず人間らしい生き方をしてきたのも、その豊かな自然環境のお陰だと思っている。

 成人してからも、マンションや分譲戸建てなどの取材を通じてかなりの川を紹介してきた。「川」のワードで過去10年間の記事を検索すると、東京都だけで多摩川の40件を筆頭に、仙川24件、日本橋川24件、玉川上水23件、神田川18件、国分寺崖線18件、石神井川11件、隅田川10件、目黒川8件、荒川5件、渋谷川4件などがヒットする。川が分譲住宅などの販売促進の役割を果たしていることが分かる。

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六郷用水

◇      ◆     ◇

 皆さんは「渋谷駅南方から天現寺橋までの2.4kmを流れる二級河川。渋谷ストリーム北辺の『稲荷橋』地点を起点とし、広尾、麻布の台地下を流下して、芝公園の南側を通り、東京湾に注ぐ」(Wikipedia)渋谷川をご存じか。名前だけなら知っている人は多いだろうが、水源はどこか、どこに注ぐかを知っている人は少ないはずだ。記者は考えたこともなかった。

 知ったのはつい先日(12月17日)、千葉商科大学環境情報科学センター主催のシンポジウム「神宮外苑の歴史的文化的資産の価値を守る-イチョウ並木と100年の森-」だった。中央大学研究開発機構教授・石川幹子氏(イコモス日本国内委員会理事/東京大学名誉教授)は、渋谷川の水源は新宿御苑(高遠藩)・明治神宮内園(井伊家下屋敷)・明治神宮外苑(青山練兵場)の公園三部作と玉川上水の余水であると報告した。

 石川氏は共著「岩波講座 都市の再生を考える」(岩波書店、2005年刊)の第4章「公共空間としての公園・緑地」で、渋谷川について「消失した川、コンクリートで固められた貧弱な川からは、想像もつかないような巨大な緑地を水源林として有していることが分かる」(105ページ)とし、「水と緑の回廊」(渋谷川パークシステム)の再生シナリオを<新宿御苑地区><明治公園地区><原宿地区><代々木公園、宇田川地区><宮下公園地区><渋谷駅周辺><渋谷駅-恵比寿駅周辺><広尾病院、慶應幼稚舎、北里大学周辺><白金、麻布十番、三田小山町><麻布十番、赤羽橋、金杉橋、東京湾河口>の10の地区別に描き、「川は、失われたとはいえ、公共空間としての得がたい特質を保持している。この貴重な資産を軸に、断片的に存在する公共の緑地や、地区ごとのルールをつくることにより生み出されるささやかな緑地などを結び付けることにより、新しい公共空間を生み出していくことができる」(109ページ)と述べている。

 そして、「100年をかけて失ってきた都市の自然の回復には、100年のヴィジョンに裏打ちされた夢と、実現に向けての緻密な歩みが必要である。これからの公共空間は、公の空間という土地所有の呪縛から解放され、『多くの人びとの安全と生活の質の向上、さらには地球環境の持続的維持のため、複雑で零細な土地利用の中から、互いに分かち合いつつ生み出される集合体としての空間』という考え方に変容していかなければならない」(111~112ページ)と締めくくっている。

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渋谷川

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渋谷川

◇      ◆     ◇

 同著の第2章「都市再生の理念と公共性の概念の再構築にむけて」では、蓑原敬氏は「現代の日本社会の中で、都市、地域の再生を図るためには、日本の地域計画、都市計画を本来の姿に戻すことが不可欠である。また、住宅政策の根本的な見直し、住まい街づくり政策への転換が不可欠である。だが、都市計画を巡る日本社会の仕組みみの現状は、これを阻む構造になっている」(29ページ)と問題提起し、「口当たりのよい総論的な言説を繰り返し、各論への介入を不可避にする実態の変革を避けた表面的な表現だけを重ね、各論の段階では常に既往の制度の部分的な手直しでお茶を濁してしまい、総論で掲げた目標はいつの間にか消え失せているのが日本の行政構造の現実である。それが、この20年間、日本の都市が『非人間的、反社会的、そして自然破壊的な面が目立っている』ことに繋がっている」(33ページ)と指摘。「新たな、住まい街づくり政策の確立と国土計画法、都市計画法、建築基準法集団規定を一体化した、都市田園法と街並み計画法の策定が必要である」(56ページ)と説く。

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石神井川

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石神井川

◇      ◆     ◇

 石川氏が力説する「パークシステム」の復活はあるのか、蓑原氏がいう「本来の姿」を取り戻すことができるのか。

 記者などは、渋谷川や日本橋川を見るにつけ、建物は押しなべて川に背を向け、深い擁壁の底に沈み、流れているのかどうかも判別できない、黒い水面にブクブクと泡立つ不気味な光景に絶望するしかない。〝死の川〟そのものだと。

 「本来の姿」を取り戻す道のりも険しいと言わざるを得ない。千代田区の神田警察通りの道路整備計画、二番町地区地区計画、神宮外苑まちづくり計画に関する会合を傍聴したり審議会の議事録などを読んだりしたが、法的手続きに瑕疵がなければ、住民はもちろん議員や委員などの声はただ聞き置くだけの扱いを受けるのを嫌と言うほど知らされた。官僚主導は貫徹されている。

 「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし」(方丈記)

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小松川親水

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玉川上水

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玉川上水

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日本橋川

氷の微笑、根回し、考え方更新、都市公園とは…神宮外苑を考えるシンポ千葉商大(2023/12/19)

期待の大きさの分だけ深い失望 「渋谷川・古川の河川再生」現地を歩く(20222/10/5)

これでいいのか 川に背を向ける日本橋の街(2008/5/19)

 

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